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平成12年 6月29日

シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会
中間報告書−第1回〜第3回のまとめ について

 平成12年6月26日、第3回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会(座長:林 裕造 前北里大学客員教授)が開催され、別紙の通り、中間報告書−第1回〜第3回のまとめが、とりまとめられた。概要は以下の通りである。

中間報告書の概要

1. トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼンの室内濃度に関する指針値、及び室内空気中化学物質(平成9年に指針値を策定したホルムアルデヒドと、その他の揮発性有機化合物(VOC))の採取方法と測定方法をとりまとめたこと。

2. 指針値適用の範囲は、原則として全ての室内空間を対象とすること。

3. 指針値の策定に関して、新たに次の検討を行うこと。

1) 個別のVOC指針値策定の次の対象を、エチルベンゼン、スチレン、フタル酸エステル、クロルピリホスの4物質とする。
2) 個別のVOC指針値の補完的指標として、総揮発性有機化合物(TVOC)の指針値の策定方法を併せて検討する。
3) 指針値の適用範囲の在り方について検討する。

4. 測定方法に関して、次の検討を行うこと。

1) 目的に応じた測定方法の目録の作成と測定方法の検証を進めること。
2) 保健所、地方衛生研究所で使用する測定・相談マニュアルの作成を進めること。

5. その他


照 会 先
厚生省生活衛生局企画課
生活化学安全対策室
室 長 村上 貴久(内2421)
担 当 吉田 淳(内2423)
    剣持 和弘(内2423)
    平野 英之(内2424)
電 話 03-3595-2298 (直通)


シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会
中間報告書−第1回〜第3回のまとめ

平成12年6月26日

1.指針値及び採取方法・測定方法について

 今般、室内空気汚染に係わるガイドラインとして、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼンの室内濃度に関する指針値、及び室内空気中化学物質(ホルムアルデヒドとその他の揮発性有機化合物)の採取方法と測定方法をとりまとめたので、下記に概要を示す。なお平成9年に快適で健康な住宅に関する検討会で策定したホルムアルデヒドの室内濃度指針値についても併せて示した。

(1)室内濃度指針値の概要(リスク評価の詳細は別添1

 ここに示した指針値は、現状において入手可能な科学的知見に基づき、人がその化学物質の示された濃度以下の暴露を一生涯受けたとしても、健康への有害な影響を受けないであろうとの判断により設定された値である。これらは、今後集積される新たな知見や、それらに基づく国際的な評価作業の進捗に伴い、将来必要があれば変更され得るものである。
 今回指針値を策定した3物質(トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン)は、実態調査の結果、一部の家屋で非常に高い汚染が認められたことを受けて、本検討会の最初の指針値策定の対象として選定されたものである。
 ホルムアルデヒドの指針値は、30分平均値としての数値であり、短期間の暴露によって起こる毒性を指標として策定したのに対し、他の3物質の指針値は、長期間の暴露によって起こる毒性を指標として策定している。
 指針値の策定によって、室内空気汚染の低減化が促進され、快適で健康な居住空間が確保されることを期待する。

揮発性有機化合物 毒性指標 室内濃度指針値*
ホルムアルデヒド ヒト暴露における鼻咽頭粘膜への刺激 100μg/m3
(0.08ppm)
トルエン ヒト暴露における神経行動機能及び生殖発生への影響 260μg/m3
(0.07ppm)
キシレン 妊娠ラット暴露における出生児の中枢神経系発達への影響 870μg/m3
(0.20ppm)
パラジクロロベンゼン ビーグル犬暴露における肝臓及び腎臓等への影響 240μg/ m3
(0.04ppm)
*両単位の換算は、25゜の場合による

(2)採取方法と測定方法の概要(詳細は別添2

○対象となる室内空気化学物質
 ホルムアルデヒド、及びトルエン、o-,p-,m-キシレン、p-ジクロロベンゼン等のその他の揮発性有機化合物

○ 採取方法
 新築住宅における室内空気中化学物質の測定は、室内空気中の揮発性有機化合物の最大濃度を推定するためのもので、30分換気後に対象室内を5時間以上密閉し、その後概ね30分間採取して測定した濃度(μg/m3)で表す。採取の時刻は揮発性有機化合物濃度の日変動で最大となると予想される午後2時から3時頃に設定することが望ましい。
 居住住宅における室内空気中化学物質の測定は、居住、平常時における揮発性有機化合物の存在量や暴露量を推定するためのもので、24時間採取して測定した濃度(μg/m3)で表す。
 空気試料の採取場所は、居間、寝室の2ヶ所、及び室外1ヶ所の計3ヶ所とする。室内濃度の値は居間あるいは寝室における高い室内の値を記載し、評価の対象とする。

○測定方法
 ホルムアルデヒドは、DNPH誘導体化固相吸着/溶媒抽出−高速液体クロマトグラフ法によるものとする。
 その他の揮発性有機化合物は、固相吸着/溶媒抽出法、固相吸着/加熱脱着法又は容器採取法とガスクロマトグラフ/質量分析法の組合せによるものとする。

○ その他
 上記については、同等以上の信頼性が確保できる方法であれば、設定した標準的な方法に代えて用いても差し支えない。また、スクリーニングの目的で簡易な方法を用いる場合には、化学物質濃度の過小評価が行われないよう配慮するとともに、指針値に適合しているか否かの最終的な判定は、設定された標準的な方法により行うよう留意するべきであること。

2.指針値適用の範囲について

 原則として、全ての室内空間を対象とする。住宅以外の空間への適用の在り方については、本検討会にて引き続き検討していくこととするが、オフィスビル、病院・医療機関、福祉施設、学校・教育施設、役所、車両等、比較的長時間にわたって居する可能性のある空間への適用も考慮することが望まれる。なお工場その他の特殊な化学物質発生源のある室内空間は、別途検討されることが必要である。

3.指針値策定の今後の方針について

 個別のVOCについては、引き続き指針値の策定を進めることとする。また補完的指標としてのTVOCの指針値策定の方法についても併せて検討していくこととする。
 策定の対象を選択する際には、以下の事項を考慮することとする。

(1) WHO空気質ガイドライン等で指針値が提示されている化学物質
(2) 居住環境内における揮発性有機化合物の全国実態調査(厚生省)等の結果、室内濃度及び室内濃度/室外濃度(I/O)比が高く、個人暴露濃度/室内濃度(P/I)比が1を大幅に上回っていないもの。

例)厚生省平成10年度調査結果(濃度単位:μg/m3

物質名 室内濃度
平均値
室内濃度
最大値
I/O比 P/I比
トルエン 98.3 3389.8 4.6 1.1
パラジクロロベンゼン 123.3 2246.9 25.1 1.4
m,p-キシレン 24.3 424.8 5.6 0.9
o-キシレン 10.0 144.4 4.5 1.0
エチルベンゼン 22.5 501.9 4.6 0.9
ベンゼン 7.2 433.6 2.2 1.0
スチレン 4.9 132.6 25.1 1.1
トリクロロエチレン 2.4 104.7 2.1 0.8
テトラクロロエチレン 1.9 43.4 2.9 1.0
四塩化炭素 1.5 18.5 1.5 0.9
クロロホルム 1.0 12.8 2.6 1.6

(3) パブリックコメントから特に要望のあった事項
例)TVOC、指針値を策定した物質の類縁物質(キシレンに含有されるエチルベンゼンなど)

(4) 外国で新たな規制がかけられたこと等の理由により、早急に指針値策定を考慮する必要がある物質
例)クロルピリホス

 なお、TVOCの指針値策定を検討する上で、以下の事項も考慮することとする。

(5) これまで指針値を策定した4物質の用途(溶剤、接着剤、防虫剤)に加え、他の主要な用途に使用されている物質
例)可塑剤(フタル酸エステルなど)、防蟻剤(有機リン系のクロルピリホスなど)

(6) これまで指針値を策定した4物質の構造分類(アルデヒド・ケトン類、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素類)に加え、他の主要な構造分類に分類される物質
例)脂肪族炭化水素、テルペン類、エステル類、アルコール類

 以上を総合的に検討した結果、指針値の策定に関しては、新たに次の検討を行うものとする。

○ 個別の指針値策定の次の対象は、エチルベンゼン、スチレン、フタル酸エステル、クロルピリホスの4物質とする
○ 個別のVOC指針値の補完的指標として、TVOCの指針値の策定方法を検討する
○ 指針値の適用範囲の在り方について検討する

4.測定方法等に係る今後の方針について

 以下について検討をすることが必要である。

○ 今回策定した指針値適合性の判定を目的とした方法や、あるいはスクリーニングを目的にした簡易測定法を含め、目的に応じた測定方法の目録の作成を進め、ユーザーの目的に沿ったニーズに応えるように努めること。またこれら測定方法の検証を進めること。
○ ユーザー等からの相談や測定依頼に対応するため、保健所、地方衛生研究所における測定・相談体制の確立に必要な、測定・相談マニュアルの作成を進めること。

5.その他

 策定された指針値や測定方法の基準の普及のためには、以下について検討していくことが重要である。

○ 関係省庁や研究機関における関連する活動との連携を強化して、互いの成果を有効利用できるようにすることに努めること
○ 測定結果の信頼性確保のための方策について検討すること
○ 測定結果の評価方法、すなわち、背景因子の異なる個々の測定値と指針値との関係について更なる検討を進めること
○ その他


(参考)

シックハウス(室内空気汚染)問題に関連する用語の理解について

 室内空気汚染問題に関して頻繁に使用される言葉のなかで、特に重要と思われるものを以下に示す。これについては、室内空気汚染に関する問題が正しく理解されるように、今後も必要に応じて追加・修正していくこととする。

○ シックハウス/シックハウス症候群/シックビルディング症候群
 住宅の高気密化や化学物質を放散する建材・内装材の使用等により、新築・改築後の住宅やビルにおいて、化学物質による室内空気汚染等により、居住者の様々な体調不良が生じている状態が、数多く報告されている。症状が多様で、症状発生の仕組みをはじめ、未解明な部分が多く、また様々な複合要因が考えられることから、シックハウス症候群と呼ばれる。

○化学物質過敏症
 「快適で健康的な住宅に関する検討会議」報告書(平成11年1月)、厚生科学研究「化学物質過敏症に関する研究(主任研究者 石川 哲)」(平成8年度)によれば、下記のとおり。
 最初にある程度の量の化学物質に暴露されるか、あるいは低濃度の化学物質に長期間反復暴露されて、一旦過敏状態になると、その後極めて微量の同系統の化学物質に対しても過敏症状を来す者があり、化学物質過敏症と呼ばれている。化学物質との因果関係や発生機序については未解明な部分が多く、今後の研究の進展が期待される。

○総揮発性有機化合物(TVOC:Total Volatile Organic Compounds)
 「快適で健康的な住宅に関する検討会議」報告書(平成11年1月)によれば下記のとおり。
 複数の揮発性有機化合物の混合物の濃度レベル。健康への影響を直接的に評価するためには、個々の揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compound)についてガイドライン値を設定していく必要があるが、100種以上に及ぶ微量の揮発性有機化合物の全てについて短期間で健康影響評価を行うのは困難であり、またガイドライン値が設定されていない物質に代替された結果新たな健康被害を引き起こすおそれもあることから、VOC汚染を全体として低減させ、快適な室内環境を実現するための補完的指標のひとつとしての導入が望まれる。


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