2.年金改正をめぐる論点について
- 1.基礎年金のあり方
- (1)税方式への転換
- 基礎年金の財源について税により賄うべきとの考え方があるが、
- (1) 給付と負担の関係が明確である社会保険方式の長所が失われる、
- (2) 年金の性格が生活保護と類似のものに変化し、所得や資産によって給付が制限されるおそれがある、
- (3) 年金目的消費税などの巨額の負担が可能な税財源を具体的に確保できるのか、などの問題点があり慎重な検討が必要。
(2)国庫負担率の1/2への引上げ
基礎年金の国庫負担率を1/2へ引き上げることについては、
(1) 給付費の増大に併せて巨額の税負担をすることについて国民の理解が得られるのか、
(2) 税財源をどのように確保するのか、などの問題があり、現在の我が国の財政・経済の状況を踏まえると今回の制度改正においての引上げは困難。今後の財政状況等を踏まえつつ、財源確保の方法等と一体として引き続き検討することとする。
(参考)
基礎年金国庫負担額の見通し(平成11年度価格)(第1案の場合)
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平成10年度 |
平成22年度 |
平成37年度 |
国庫負担率1/3の場合 |
4.7兆円 |
6.7兆円 |
7.7兆円 |
国庫負担率1/2の場合 |
6.9兆円 |
9.9兆円 |
11.3兆円 |
全額国庫負担の場合 |
13.3兆円 |
19.4兆円 |
22.3兆円 |
- (注)平成10年度は予算に基づいており、平成22年度、平成37年度は平成11年度価格での表示としている。
- 2.積立金の取崩し、保険料(率)の据置き
- (1)積立金の役割
- 1) 少子高齢化の進行に伴い、年金受給世代が急増し現役世代が減少することから今後、保険料(率)を引き上げなければならない、
- 2) 積立金の保有は積立金の運用を行うことで得られる利子収入により将来の保険料(率)を引き下げる重要な役割を担っている、
- 3) 積立金がなければ、将来給付総額を2割程度適正化したとしても、厚生年金の
最終保険料率はピーク時で月収の32%程度に達し、負担の限界をはるかに超える
ただし、保険料率を5年に2%ずつ引き上げて積立金を保有することにより、最
終保険料率を 月収の26%程度(年収の20%程度)に抑えることができる。
- (2)積立金の取崩し・保険料(率)据置きの問題点
- 1) 積立金の取崩しや保険料(率)の据置きを行うと将来の積立金が減り、利子収入が減少することになる。積立金の取崩しや保険料の据置きは、負担を将来世代
(現在の若年世代や今後生まれてくる子供たち)に先送りすることになり、将来世代の負担が過重となったり、給付総額を更に適正化しなければならなくなる。
- 2) 給付と負担に関する世代間の不公平を更に拡大することとなり、年金制度に対する信頼を失わせることになりかねない。
- (3)現下の経済状況に対する配慮
- 保険料率を引き上げる際には、現下の経済状況等に配慮し、当面5年間は厚生年金保険料率の引上げを2段階に分けるなどの方策を講ずる。
- 3.民営化論
- 厚生年金を民営化(公的年金は基礎年金を基本に1階建ての年金とするとともに、厚生年金は廃止し、積立方式の企業年金や個人年金にゆだねる。)する考え方があるが、
- 1) 中小企業のサラリーマンの高齢期の所得保障が基礎年金のみになりかねない、
- 2) 将来、大きなインフレが発生した場合には対応が困難となる、
- 3) 移行期に巨額の二重の負担が発生する、などの問題があることから、引き続き現行の2階建ての公的年金制度を維持することとする。