1.厚生省では、昨年6月の埼玉県越生町における水道水を介してのクリプトスポリジウムによる集団感染症の発生を踏まえ、同10月に「水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針」を策定し、予防対策を都道府県を通じ水道事業者等へ周知したところである。
2.これまで、我が国の水道水源におけるクリプトスポリジウムの存在状況が不明であったことから、全国的な状況を把握するため、全国94水源水域、282地点(各水域毎に3地点程度採水)の水道水源におけるクリプトスポリジウム等の存在状況に関して、調査研究を行っている。
この調査研究については、7月18日、その中間的な調査結果として、42水源水域121地点における検出状況を公表したところである。
3.この調査研究は、今秋に結果が取りまとめられる予定となっているが、今回、調査研究を実施している(財)水道技術研究センターから、残る52水源水域156地点における検出状況について報告があり、予定している全ての水源水域の地点における検出状況が明らかとなった。
その検出状況は、別紙のとおりである。
4.前回公表した検出状況と合わせた全国94水源水域282地点におけるクリプトスポリジウム等の検出状況の概要は次のとおりである。
(1)クリプトスポリジウムは、秋田県、山形県、群馬県、栃木県、熊本県、沖縄県の6水源水域8地点で検出されている。
(2)ジアルジアは、長崎県、島根県、広島県他12都県の16水源水域24地点で検出されている。
5.なお、クリプトスポリジウム及びジアルジアの検出されている水源水域から取水している浄水場については、
(1)浄水場ろ過池出口の濁度管理が十分行われていること、
(2)当該浄水場から給水している地域で集団下痢等が発生していないこと、
を都県を通じて確認している。
6.この検出結果を踏まえ、他の関連項目との関係や評価について9月中を目処にとりまとめる予定であるが、その調査研究結果については、クリプトスポリジウム等の対策の充実に反映させることとしている。
(別紙1ー1)
都道府県名 | 水 源 水 域 | (1) | (2) | (3) | |
1 | 北海道 | 常呂川 | |||
2 | 北海道 | 漁川 | |||
3 | 北海道 | 千歳川 | |||
4 | *青森県 | 岩木川 | |||
5 | 青森県 | 馬渕川 | ジアル2 | ジアル4 | |
6 | 青森県 | 浅瀬石川 | |||
7 | 岩手県 | 北上川 | ジアル2 | ||
8 | 宮城県 | 釜房ダム | |||
9 | 宮城県 | 鳴瀬川 | |||
10 | 秋田県 | 雄物川 | ジアル2 | クリプト2 ジアル 2 |
|
11 | 秋田県 | 黒森川貯水池 | |||
12 | 山形県 | 最上川水系馬見ヶ崎川 | |||
13 | 山形県 | 最上川 | クリプト4 | ||
14 | 山形県 | 最上川水系寒河江川 | |||
15 | 福島県 | 猪苗代湖 | |||
16 | 福島県 | 夏井川 | |||
17 | 福島県 | 阿賀野川水系阿賀川 | ジアル2 | ||
18 | *茨城県 | 那珂川 | |||
19 | *茨城県 | 思川 | |||
20 | 茨城県 | 霞ヶ浦 | |||
21 | *栃木県 | 鬼怒川 | クリプト2 | ||
22 | *栃木県 | 大谷川 | |||
23 | *群馬県 | 烏川 | クリプト2 ジアル4 |
クリプト4 ジアル6 |
|
24 | *群馬県 | 渡良瀬川 | |||
25 | *埼玉県 | 荒川 | |||
26 | *埼玉県 | 江戸川 | |||
27 | *埼玉県 | 利根川 | |||
28 | *埼玉県 | 越辺川 | |||
29 | 千葉県 | 印旛沼 | |||
30 | *千葉県 | 黒部川 | |||
31 | *東京都 | 多摩川 | ジアル2 | ジアル4 | |
32 | *神奈川県 | 相模川 | |||
33 | *神奈川県 | 酒匂川 |
凡例 | 注)数字は検出個数(個/10L) | |
*: | 今回報告のあった52水源水域156地点 | (1)浄水場取水地点 |
クリプト: | クリプトスポリジウム | (2)上流地点(取水地点より0.3〜24km) |
ジアル: | ジアルジア | (3)上流地点(取水地点より1.1〜49km) |
−: | 採水なし |
(別紙1ー2)
都道府県名 | 水 源 水 域 | (1) | (2) | (3) | |
34 | 新潟県 | 信濃川 | |||
35 | 新潟県 | 矢作川 | |||
36 | 新潟県 | 阿賀野川 | ジアル1 | ||
37 | 富山県 | 常願寺川 | |||
38 | 富山県 | 庄川 | − | ||
39 | 富山県 | 和田川ダム | |||
40 | 石川県 | 犀川 | |||
41 | 石川県 | 河原田川 | |||
42 | 福井県 | 九頭竜川 | |||
43 | 福井県 | 竹田川 | |||
44 | 山梨県 | 荒川水系 | |||
45 | 長野県 | 箕輪ダム | |||
46 | 長野県 | 神川 | |||
47 | 岐阜県 | 長良川 | |||
48 | *岐阜県 | 小八賀川 | |||
49 | *静岡県 | 興津川 | |||
50 | 静岡県 | 天竜川 | |||
51 | *静岡県 | 大井川 | |||
52 | *愛知県 | 木曽川 | |||
53 | *愛知県 | 矢作川 | |||
54 | *三重県 | 櫛田川 | |||
55 | *三重県 | 雲出川 | |||
56 | 滋賀県 | 琵琶湖 | − | − | |
57 | 滋賀県 | 琵琶湖 | |||
58 | *京都府 | 土師川 | |||
59 | *京都府 | 由良川 | |||
60 | *大阪府 | 淀川 | |||
61 | *大阪府 | 石川 | |||
62 | *兵庫県 | 市川水系船場川 | |||
63 | *兵庫県 | 加古川水系加古川 | |||
64 | *奈良県 | 紀ノ川 | |||
65 | *奈良県 | 木津川 | |||
66 | *和歌山県 | 紀ノ川 | |||
67 | *島根県 | 飯梨川 | ジアル2 | ||
68 | 島根県 | 忌部川 | ジアル3 | ||
69 | *鳥取県 | 千代川 |
凡例 | 注)数字は検出個数(個/10L) | |
*: | 今回報告のあった52水源水域156地点 | (1)浄水場取水地点 |
クリプト: | クリプトスポリジウム | (2)上流地点(取水地点より0.3〜24km) |
ジアル: | ジアルジア | (3)上流地点(取水地点より1.1〜49km) |
−: | 採水なし |
(別紙1ー3)
都道府県名 | 水 源 水 域 | (1) | (2) | (3) | |
70 | *岡山県 | 旭川 | |||
71 | *岡山県 | 高梁川 | ジアル2 | ||
72 | *岡山県 | 吉井川 | |||
73 | *広島県 | 太田川・土師ダム | |||
74 | 広島県 | 黒瀬川水系二級貯水池 | ジアル1 | ジアル1 | ジアル1 |
75 | *山口県 | 厚東川 | |||
76 | *山口県 | 錦川 | |||
77 | *徳島県 | 吉野川水系 | |||
78 | 香川県 | 御殿貯水池・香東川 | − | − | |
79 | *香川県 | 綾川 | |||
80 | *愛媛県 | 蒼社川 | |||
81 | *愛媛県 | 石手川 | |||
82 | *高知県 | 鏡川 | |||
83 | *福岡県 | 筑後川水系 | |||
84 | 福岡県 | 遠賀川水系・畑貯水池 | |||
85 | 福岡県 | 釣川 | |||
86 | *佐賀県 | 玉島川 | ジアル2 | ||
87 | 長崎県 | 大井手川 | ジアル2 | ジアル23 | |
88 | 長崎県 | 相当・軽石貯水池及び相浦川の混合水 | |||
89 | *熊本県 | 水俣川 | クリプト2 | ||
90 | *大分県 | 大分川 | ジアル2 | ||
91 | *宮崎県 | 大淀川 | |||
92 | *宮崎県 | 大瀬川 | |||
93 | *鹿児島県 | 万之瀬川 | ジアル2 | ||
94 | *沖縄県 | 天願川 | クリプト1 ジアル8 |
クリプト2 ジアル1 |
凡例 | 注)数字は検出個数(個/10L) | |
*: | 今回報告のあった52水源水域156地点 | (1)浄水場取水地点 |
クリプト: | クリプトスポリジウム | (2)上流地点(取水地点より0.3〜24km) |
ジアル: | ジアルジア | (3)上流地点(取水地点より1.1〜49km) |
−: | 採水なし |
(参考1)
1.調査名称
「病原性微生物等の水道水源における動態に関する研究」
2.調査研究機関
(財)水道技術研究センター (代表者 山村 勝美)
3.調査研究の方法
調査研究機関に委員会を設け、研究を実施。
委員長 | 金子 光美 摂南大学工学部教授 |
委 員 | 荒木 國興 国立公衆衛生院衛生微生物学部長 |
井関 基弘 大阪市立大学医学部助教授 | |
遠藤 卓郎 国立感染症研究所寄生動物部原生動物室長 | |
国包 章一 国立公衆衛生院水道工学部長 | |
黒木 俊郎 神奈川県衛生研究所細菌病理部臨床血清科主任研究員 | |
坂本 照正 神奈川県企業庁水道局水質センター微生物課長 | |
平田 強 麻布大学環境保健学部長 | |
眞柄 泰基 北海道大学工学研究科教授 | |
山崎 省二 国立公衆衛生院獣医学部長 |
ジアルジアの生態等について
1. | 生態 |
(1) 形態及び性状 | |
ジアルジア ランブリア(Giardia
lamblia)、別名ランブル鞭毛虫とも呼ばれる。鞭毛虫網に属する原生動物で、その生活史は栄養型(trophozoite)と嚢子(Cyst)より成る。栄養型虫体は左右対称の洋ナシ型をしており、長径10-15μm、短径6-10μmである。虫体腹部の前半部は腸の粘膜などへ吸着するための器官として発達し、吸着盤と呼ばれる構造を形成している。その他、常時2核であること、あるいは4対の鞭毛を持つなど、栄養型は特徴的な形態を有している。嚢子は長径8-12μm、短径5-8μmの長楕円形で、成熟義子は4核となり、他に軸索、鞭毛、楯板(あるいは曲刺)などが観察される。多くの場合、嚢子は糞便中に排世された時点で成熟型となっており、すでに感染性を有している。 |
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(2) シストの抵抗性 | |
嚢子はクリブトスポリジウムなどと同様に環境の変化や薬剤に対して抵抗性を有している。通常、ジアルジアの嚢子は湿環境下で少なくとも2ヶ月は不活化しないとされている。また、99.9%不活化のために必要な遊離塩素濃度(mg/l)と処理時間(分)の積であるCt値は、概ね150-300程度とされている。たとえば、遊離塩素1.0mg/lであれば150分から300分注)で99.9%の嚢子を死滅させることができる。Ct値は水温やpHに依存するが、クリプトスポリジウムのそれに比べて極めて低い値となっている。(クリブトスポリジウムの90%不活化に必要なCt値は7、000以上という報告がある。) |
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2. | (1) 感染経路と症状 |
ジアルジア症は嚢子によって汚染された水や食物の経口摂取による。嚢子は胃を通過後に速やかに脱嚢して栄養型となり、速やかに十二指腸から小腸上部付近に寄生・定着する。時に寄生は胆道から胆嚢に及ぶことがある。本原虫の寄生による主な症状は下痢、腹痛で、下痢は脂肪便(ジアルジア性下痢)であることが多い。その他に食欲不振や腹部膨満感などを訴える。原因は不明であるが、これを放置すると時に吸収障害に至ることがあり、流行地の子供の栄養不良の原因とも考えられている。また、胆嚢炎や胆管炎の原因と成ることも知られている。一方、一般健常者では不顕性感染で終わる事例も少なくないものと推測される | |
(2) 感染源と治療薬 | |
ヒトに寄生するジアルジアが他の哺乳動物に感染し得るかどうか、あるいは逆に動物に寄生するものがヒトに感染し得るか否かについては議論があるところであるが、少なくとも宿主特異性を示さない株が知られていることから、人獣共通感染症として扱うべきと考えられる。本症の治療薬は知られており、わが国では第1選択的にニトロイミダゾール誘導体(メトロニタゾール、チニダゾールなど)が用いられている。 | |
(3) 国内外の感染率等 | |
ジアルジアの分布は広く、世界中のほとんどの国で有病地を抱えている。特に熱帯・亜熱帯に多く見られ、有病率が20%を越える国が少なくない。一方、先進諸国での感染率に関する詳しい報告は限られている。わが国では熱帯地方への旅行者が輸入感染症として持ち込む例が多く、旅行者下痢症としての重要度が高い。ちなみに、わが国の都市部を中心とした健常者の検便では0.4-0.5%程度の率で感染者が見つかっているという報告もある。水系感染による集団発生は欧米を中心に多数の事例が報告されているが、その多くは表流水を塩素で簡易に処理したのみで飲料水に供していた。その他に託児所での集団発生や、性的接触による感染症としても知られている。 | |
注) | 現行の水道施設設計指針では、浄水池の有効容量は計画浄水量(一日最大給水量に作業水量等を見込んだ水量)の1時間分以上とするとされており、また配水池の有効容量は一日最大給水量の12時間分(旧基準では8から12時間)を標準とするとされている。なお、配水池有効容量の実際の水準は平成6年度現在、全国平均で9.4時間分となっている。 |
クリプトスポリジウムの生態等について
1. | 分類 |
胞子虫類のコクシジウム目に属する寄生性原虫。動物に感染するものに、胃に寄生する大型種(Cryptosporidium muris/オーシストの大きさ;6.6〜7.9×5.3〜6.5μm)と腸管に寄生する小型種(Cryptosporidium parvum/オーシストの大きさ;4.5〜5.4×4.2〜5.0μm)とがある。いずれも楕円形。このうちヒトが感染するのはC.parvumであるが、免疫不全患者はC.murisにも感染することが報告されている。 | |
2. | 動物等の体内での増殖 |
クリプトスボリジウムの発育環を図に示す。 宿主(人間や牛など)の外、つまり環境中では、クリプトスポリジウムはオーシスト(嚢包体)の形で存在しており、増殖することはない。 オーシストが哺乳動物に経口的に摂取されると、消化管内でスポロゾイトが遊離して粘膜上皮細胞の微繊毛に侵入し、微繊毛内に形成された寄生胞内で無性生殖を行って、8個のバナナ状をしたメロゾイトを形成する。寄生胞から遊離したメロゾイトは再び他の微繊毛に侵入して発育を繰り返す。メロゾイトの一部は有性生殖に移行し、雌性生殖細胞と雄性生殖細胞になり、受精してオーシストになる。オーシストは寄生胞内で成熟して、内部に4個のスポロゾイトが形成される。 成熟したオーシストが糞便とともに体外に排出されて、新たな個体への感染源となるが、一部は消化管内でスポロゾイトを放出して自家感染を起こす。 |
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3. | 感染症 |
(1) | 感染源 牛、馬、豚などの家畜、イヌ、ネコ、ネズミなど(哺乳動物)が保虫宿主であるほか、オーシストを排出する患者が感染源となる。 |
(2) | 伝播様式 飲食物や手指を介した経口摂取により感染する。 米国でのボランティアによる経口投与実験では、オーシスト数10個で発症した例がある。 |
(3) | 潜伏期 4〜5日ないし10日程度と考えられている。 |
(4) | 症状 感染すると、腹痛を伴う水様性下痢が3日〜1週間程度持続し、嘔吐や発熱を伴うこともある。感染しても症状が出ない場合もあるが、いずれの場合も、感染者の糞便からは、数週間オーシストの排出が続く。 患者の免疫機構が正常に働くと(体内の血清抗体価が上昇すると)、原虫が増殖できなくなるため自然治癒するが、免疫不全患者では重篤になる。 |
(5) | 伝染期間 感染した人間や動物の糞便とともにオーシストが排出される期間、すなわち、発症から症状消失後数週間に及ぶ。さらに、自然界に放出されたオーシストは湿環境下では2〜6か月間は不活化せず感染性を保持するといわれている。 ただし冷凍や乾燥には弱く、-20度以下で30分、常温・乾燥状態で1〜4日で感染力を失う。 |
(6) | 国外での感染率 アフリカ、中南米では、クリプトスポリジウムの感染率が10%を超える国もあり、相互の渡航者が増加する場合、日本での感染症発生が増加するおそれがある。 |
問い合わせ先 厚生省生活衛生局水道環境部水道整備課 担 当 由田(内4031)、田野(内4034) 電 話 (代)[現在ご利用いただけません]