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平成9年6月30日

原爆死没者追悼平和祈念館開設準備検討会中間報告

― 広島に設置する祈念館について ―

 厚生省においては、原爆死没者の尊い犠牲を銘記し、恒久の平和を祈念するため、被爆地である広島、長崎に原爆死没者追悼平和祈念館を設置することとしている。設置において検討が必要な事項についての検討を行うため、平成7年11月に原爆死没者平和祈念館開設準備検討会を設置して、施設の開設準備を進めるにあたり具体的に検討が必要となる事項について、同検討会に意見を求めた。
 同検討会においては、平成7年11月以降11回の会合を開き、検討を行ってきたが、本日「原爆死没者追悼平和祈念館開設準備検討会中間報告 ― 広島に設置する祈念館について ―」として別紙のとおりとりまとめられた。
 なお、同検討会では、本中間報告に対する意見を踏まえ、引き続き審議を行い、最終的な報告をとりまとめることとしている。

検討会委員(50音順)

  秋 信 利 彦((株)中国放送取締役テレビ局長)
  伊 東 壮(日本原水爆被害者団体協議会代表委員)
  岡 田 愼 二(長崎市原爆被爆対策部長)
  重 松 逸 造((財)放射線影響研究所理事長)
  橋 爪 章(広島市社会局長)
  原 敏 隆(長崎原爆資料館長)
  原 田 浩(広島市市民局理事)
  船 山 忠 弘(長崎放送(株)役員室業務役)
(座長) 森 亘(科学技術会議議員)


原爆死没者追悼平和祈念館開設準備検討会中間報告

― 広島に設置する祈念館について ― 」

1.はじめに

 原爆死没者追悼平和祈念館は、原爆被爆地である広島・長崎に国が建設するものであり、その準備として今日まで、以下のように様々な検討が重ねられてきた。
まず、平成2年に公表された昭和60年度「原子爆弾被爆者実態調査」の結果を踏まえ、平成3年、厚生省に「原爆死没者慰霊等施設基本構想懇談会」が設置された。そこでは、原爆死没者の慰霊と平和祈念、資料・情報の継承及び国際貢献の三つを施設設置の基本的機能とすることが示され、また、慰霊施設の機能についても具体的な提言が行われた。
 次いで、平成5年には、更に一歩を進めて「原爆死没者慰霊等施設基本計画検討会」が設置され、平成7年2月に取りまとめられた報告の中で、施設の性格、機能、具体的構成、管理運営方式についての提言がなされ、また、施設名を「原爆死没者追悼平和祈念館」とすることが最もふさわしいとする考え方が示された。
 その間、平成6年12月には、「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」が成立し、原爆死没者慰霊等施設については、同法第41条(平和を祈念するための事業)に基づくものとして位置づけられている。
 こうした経緯を経て、平成7年11月に設置された「原爆死没者追悼平和祈念館開設準備検討会」では、これまでの議論等を踏まえた上で、以来11回の会合を開き、広島・長崎の地元や被爆者団体からの意見も聴取しながら施設設計、平和祈念・死没者追悼のあり方及び資料・情報の収集・利用等の事項について検討を進めてきた。平成8年2月には、施設設置の理念、広島・長崎施設の機能分化、平和祈念・追悼の表し方等を骨子とする「原爆死没者追悼平和祈念館(広島)の基本設計に際して留意すべき事項」を取りまとめ、また同年12月には広島に設置すべき祈念館の施設設計に関する基本的な考え方を了承したところである。
 原爆死没者追悼平和祈念館は、後代にわたって広く国民の共感の得られる施設であることが必要であり、そのために本検討会では、今までの検討結果のうち、まず広島に設置する当該施設の検討状況及び方向性をここに中間報告として広く示し、意見を問うこととする。これを踏まえ、最終的な報告を取りまとめることとしたい。

2.設置の理念について

 「原爆死没者追悼平和祈念館」(以下、「祈念館」という。)は、「日本国憲法」の前文並びに「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」の前文及び第41条の精神に則り設置する。
 この点を明らかに示す目的で、“原爆死没者を心から追悼するとともに、その惨禍を語り継ぎ、広く内外に伝え、歴史に学んで、核兵器のない平和な世界を築く”といった内容の、簡潔な銘文を設置することとし、具体的な文案を更に検討する。

3.平和祈念・死没者追悼のあり方について

 祈念館は、「平和祈念・死没者追悼」、「資料・情報の収集・利用」及び「国際協力及び交流」の三つの機能をもつ施設として設置するが、広島においては特に前二者に力点をおく。
 広島に設置する施設については、広島平和記念公園の全体的な雰囲気に調和するよう配慮する。施設の設置構造は「地中化(地下2階建)」とし、地上から地下に降りる間に来館者が、原爆が投下された昭和20年8月6日に向って時間を遡りながら、平和祈念・追悼空間に導入され、そこで様々な思いとともに死没者を追悼し、平和を祈念する構想をもって設計思想とする。
 導入路を含めた平和祈念・追悼空間は、このような設計思想を十分に反映できるよう厳かな雰囲気の空間とし、そこには何らかの原爆被害の実相を表すものを置くことが適当である。
 一例として、特に、原爆死没者の氏名表示に関しては、その刻銘を望む強い声がある一方、種々の難点を指摘する意見もあり、現段階では未だ結論を得ていない。今後、更に慎重な検討を続けていくため、今日までに出された具体例の大要をここに示す。
 どのような方法で原爆被害の実相を表すにしても、宗教色を排し、また、修学旅行生等一時的に多数の者が入館した場合にも厳かな雰囲気が維持できるよう、防災上の観点も含めて、平和祈念・追悼空間の具体的仕様を更に検討しなければならない。

(A) 原爆死没者の氏名を刻銘する。その場合、以下の方法が考えられる。

(a) 全原爆死没者を対象とする。ただしこの案については、次のような問題点が指摘されている。
・ 原爆死没者の正確な把握は極めて困難であり、いわゆる氏名不詳者もおびただしい数に上っている。
原爆死没者をどのように定義するかといった点につき多くの議論がある。
遺族の個人情報保護問題、あるいは被爆者であることを隠して亡くなった死没者の思いに対する配慮が必要である。
(b) 上記の問題点を踏まえ、何らかの基準を設け、刻銘する被爆者氏名を限定する。例えば、「原爆死没者名簿」等を参考にし、現在、確認することができる氏名のみを刻銘する。異議のある遺族からは申し出を求め、その名前は除いて刻銘する。
既に、他の慰霊碑等で公になっている氏名のみ刻銘する。
・一般の目には触れないように刻銘する。
死没年月を区切って刻銘する。
・ 明確に原爆に起因して死没したことが確実な方に限って刻銘する。
ただし、これらの案にもそれぞれ以下のような問題点が残る。
・ 広島市の「原爆死没者名簿」は、非公開を前提として死没者氏名を登載していることから、この名簿等を用いて氏名の刻銘を行うことの可否が問題となる。

・ 氏名不詳者、氏名秘匿者、あるいは遺族からの申し出による辞退者に対してはどのように追悼するのか。一部の限られた人々の名前のみを刻銘することが、果たして国の事業として妥当といえるか。
・ 遺族の意思を死没者本人の意思とみなしてよいのか。遺族の意向を確認するとした場合、その範囲をどのようにするのか。
・ 死没年月を区切ることで多くの国民の納得が得られるか。
・ 死因が、原爆被爆によるものなのかどうか確認できるのか。

(B) 原爆死没者の氏名を刻銘する以外の方法により、被害を数量的に示 す。その場合、以下の方法が考えられる。

・例えば、手形や人型等の象徴的なものを用いて、原爆死没者の数(概数)を表す。

・ 平和祈念・追悼空間の壁面に、原爆が投下され、破壊された当時の町名、学校等の公的機関名、職場名等を復元表示する。
しかしながら、これらにもそれぞれ若干の問題点がある。

・ 原爆死没者をどのように定義し、さらに、その数をいくらとするのか。また、何をもって表すことが適当か。

・ 個々人の死を、町名等の表示に置き換えることが妥当か。

(C) 以上のように、(A)、(B)ともに対象者数の特定等を中心として、 問題が少なくないことから、被害の実相を象徴的かつ視覚的に示す別 の方法につき、更に検討することも考えられる。

4.資料・情報について

 広島と長崎に設置する二つの祈念館の機能については、「平和祈念・死没者追悼」の機能の整備、充実を図るとともに、有機的・効率的に推進する観点から、それぞれ「資料・情報の収集・利用」と「国際協力及び交流」といった機能分化を図ることとする。したがって、広島の施設については、特に、包括的な「資料・情報の収集・利用」の機能の充実を図ることとする。
 機能充実を図るためには、国が原爆被爆関係資料の収集・整理及び保管・提供システムの検討を目的として、平成3年度から実施している原爆死没者慰霊等調査研究啓発事業のほか、地域の被爆者団体が行う慰霊式典、死没者を悼む出版物の刊行事業等に対する助成(原爆死没者慰霊等事業)の成果を活用していく必要がある。
 こうした機能の充実に当たっては、原爆被爆関係資料等を保有する関係諸機関との機能の重複調整及び有機的な機能連携を念頭に置きながらその充実を図る必要がある。このようなことから、国内外に散在する全ての資料情報そのものを祈念館に収集することを目指すのではなく、むしろインターネット等を活用して、国内外の研究機関、資料館、被爆者団体、報道機関その他が保有する資料情報(データベース、ホームページ、手記等)を世界的規模で「情報」として包括的に把握する。このようにして、被爆者、研究機関等の幅広い要望に応じた情報の提供を図ることが適切と考える。
収集した資料・情報を、整理するとともに各種の要望に応じて利用提供(来館者及びインターネットの活用)するためには、例えば以下のようなデータベース等の整備を図ることが必要である。

◎被爆体験記、手記等のデータベース

 平成5年6月の原爆死没者慰霊等施設基本構想懇談会の報告書において、「原爆死没者一人ひとりのライフヒストリーを明らかにし保存するため、死没者情報検索システムを構築する」必要があるとの提言がなされている。
 この提言の趣旨を踏まえ、個々人が体験した被爆による惨禍と平和への希求の思いを後代に継承していくため、国が平成9年度から実施している被爆体験記等に関する調査・収集等の成果を活用し、被爆者や死没者及び遺族等が自ら記した被爆体験記、手記等のデータベース化を行う。

◎原爆被爆関連遺跡、記念碑等のデータベース

 広島・長崎その他の地域にある原爆死没者の慰霊碑や平和記念碑及び原爆被災建造物に関する情報(写真、所在情報)、簡単な解説等のデータベース化を行う。

◎原爆死没者データベース

 原爆死没者慰霊等施設基本構想懇談会の上記提言に関連する資料としては、被爆体験記、手記等以外にも広島市・長崎市の原爆被爆者動態調査、広島市・長崎市の原爆死没者名簿、昭和20年代の医療診療記録等、国の原子爆弾被爆者実態調査等が考えられる。
 しかしながら、これらの資料は、使用目的が限定されている場合もあり、本来の目的を越えて、一般に公開したりすることはできない。また、仮に一定の手続きをしたうえで、提供を受けることができたとしても、個人の情報である以上、公開を適切とする情報の範囲が問題となる。
 このような状況を踏まえ、死没者等の個人情報に関する資料・情報の収集及び利用方法については、将来的な課題とする。

◎総合案内情報データベース

 上記のデータベースの他、包括的な資料・情報の利用を図るため、広島平和記念資料館等の関係諸機関、あるいは個人が保有する資料・情報、データベース、ホームページ等と祈念館が保有する資料・情報との連繋を念頭に置いたデータベース化を行う。
 以上のほか、国内外の原爆被爆関係研究者の研究の一助とするため、資料・情報を提供するとともに、施設内に研究・分析するための場を設けることも必要である。
さらに、一般の人々を対象として原爆に関する基礎的な事項についての解説を用意することも必要である。
 また、実際の資料・情報空間における情報提供については、来館者の利便性等を考慮の上、情報検索機器等の適切な選定及び配置等について検討する
必要がある。

5.管理運営方法について

 祈念館は国が設置するものであるが、完成後もなお国が直接運営することは、柔軟な運営を確保する上で問題があり、適切ではない。
また、祈念館の運営のための新たな法人の設立は、昨今の状況からすると困難である。
 祈念館の設置趣旨に沿った事業を円滑かつ持続的に行っていくためには、原爆被爆に関する知識に精通した職員を抱え、日常的に地元、関連施設との密接な機能連携の下で平和関連事業を行っている地元の公益法人に運営を委託することが適当と思われる。その際、運営の組織、人員、職種構成等については、祈念館の事業内容等とともに今後更に検討を進める必要がある。
 運営を委託する場合であっても、国は事業運営に要する経費の財政負担など、設置主体としてその果たすべき役割を将来にわたって担うものとする。

6.設置場所について

 祈念館は、原子爆弾被爆地である広島市の広島平和記念公園内(広島市中
区中島町1番)に設置する。その構造等については、広島平和記念公園の持つ全体的な雰囲気と調和するよう配慮し、「地中化(地下2階建)」とする。 原爆ドームがユネスコの世界遺産とされたことも念頭に置き、広島平和記念公園全体としての人の流れを十分に考慮する必要がある。

7.その他

 祈念館が時代を超えて、幅広い共感を得られる施設となるよう配慮する必要がある。施設の名称については、平成7年2月の原爆死没者慰霊等施設基本計画検討会の報告を踏まえると、「原爆死没者追悼平和祈念館」とすることが適当と考えられるが、なお「死没者」の定義をどうするのかなども考慮しつつ今後更に検討を行うこととする。
 修学旅行生等の団体による利用も考慮に入れ、広さ、構造等に配慮する。一般利用者にも、祈念館にふさわしい各種研修会、講演会・会議等の多様な目的に利用できるよう、施設設計やその運営方法について十分検討する。


 問い合わせ先 厚生省保健医療局企画課
    担 当 宮田(内2313)、岡田(内2315)
    電 話 (代)[現在ご利用いただけません]
        (直)03-3595-2207

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