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平成9年6月13日
照会先 厚生省生活衛生局企画課
    生活化学安全対策室
担当:古澤、田辺(内2423,2426)
電話代表   [現在ご利用いただけません]
  直通   03-3595-2298

快適で健康的な住宅に関する検討会議

健康住宅関連基準策定専門部会化学物質小委員会報告書(要旨)

1.経緯
 快適で健康的な住宅に関する検討会議では、国民が安全で快適な生活を送るために必要な居住衛生について、平成7年3月より検討を行っているところである。このうち、住まいにおける健康関連の指針の策定については、健康住宅関連基準策定専門部会において検討を行ってきたが、室内空気中の化学物質による健康影響の問題については、同部会の中に化学物質小委員会を設けて検討を行うこととされた。
 これを受けて、同小委員会が平成8年6月に設置され、室内空気中の化学物質による健康被害の防止に必要な指針値とその策定に当たっての基本的な考え方について、以下のような報告をとりまとめた。

2.概要

(1)ホルムアルデヒドの室内濃度指針値について
 空気中のホルムアルデヒドについては、WHO欧州地域専門家委員会において健康影響評価が行われている。当委員会においても、独自に文献を収集して評価を行った結果、WHOの評価結果は妥当なものと考え、「30分平均値で0.1mg/ヌ以下」という値を指針値として提案する。

(2)総揮発性有機化合物(TVOC)の指標について
 TVOCは、健康への影響の異なる複数の化学物質の混合物に対する濃度レベルの指標であり、室内空気の汚れの指標としてTVOCの概念を導入することは望ましく、今後の実態調査結果や国際的な動向を参考として、指針値の設定を検討していくことが適当と考えられる。

(3)化学物質の室内濃度指針値等の検討の必要性について
 個々の物質ごとの室内濃度指針値を検討していくことの必要性と、対象物質の選定について、基本的な考え方を整理した。

(4)化学物質過敏症について
 化学物質過敏症と室内空気中の化学物質の関係については現時点における定量的な評価は困難であるが、その存在を否定することはできないので、当面は、化学物質を可能な限り低減化するための措置を検討しつつ、今後の研究の進展を待つことが適当と考えられる。



快適で健康的な住宅に関する検討会議

健康住宅関連基準策定専門部会化学物質小委員会報告書

平成9年6月

 快適で健康的な住宅に関する検討会議では、国民が安全で快適な生活を送るために必要な住居衛生の知識の普及等を行うため、平成7年3月から、住居衛生を巡る課題の検討を行っているところである。このうち、住まいにおける健康関連の指針の策定については、健康住宅関連基準策定専門部会において検討を行ってきたが、室内空気中の化学物質による健康影響の問題については、専門分野が細分化されており、これに特化した検討を行う必要があることから、同部会の中に化学物質小委員会を設けて検討を行うこととされた。
 これを受けて、同小委員会が平成8年6月に設置され、室内空気中の化学物質による健康被害の防止に必要な指針とその策定に当たっての基本的な考え方について、別紙のような検討経過を経て、以下のような報告をとりまとめた。

(1)ホルムアルデヒドの室内濃度指針値について(別添1

 空気中のホルムアルデヒドについては、WHO欧州地域専門家委員会において健康影響評価が行われている。当委員会のワーキンググループにおいても独自に文献を収集して評価を行った結果、WHOの評価結果は妥当なものと考えられるため、「30分平均値で0.1mg/m3以下」という値を指針値として提案する。

(2)総揮発性有機化合物(TVOC)の指標について(別添2

 TVOCは、健康への影響の異なる複数の化学物質の混合物に対する濃度レベルの指標であり、健康への影響を直接的に評価する指標ではないが、室内空気の汚れの指標としてTVOCの概念を導入することは望ましいことであり、今後の実態調査結果や国際的な動向を参考としてガイドライン値の設定を検討していくことが適当と考えられる。

(3)化学物質の室内濃度指針値等の検討の必要性について(別添3

 室内空気中の化学物質による健康リスクを低減するための方策として、個々の物質ごとの室内濃度指針値を検討していくことの必要性と、対象物質の選定について、基本的な考え方を整理した。

(4)化学物質過敏症について(別添4

 室内空気環境と関連する問題として最近注目を集めている化学物質過敏症の取り扱いについて検討し、化学物質過敏症と室内空気中の化学物質の関係については現時点における定量的な評価は困難であるが、その存在を否定することはできないので、当面は、室内空気環境中の化学物質を可能な限り低減化するための措置を検討しつつ、今後の研究の進展を待つことが適当と考えられる。

検討経過

平成8年6月19日第1回化学物質小委員会
平成8年7月16日第2回化学物質小委員会
平成8年8月19日ホルムアルデヒドの健康影響評価に関するワーキンググループ第1回会合
平成8年9月4日第3回化学物質小委員会
平成8年10月8日TVOCに関するワーキンググループ第1回会合
平成8年10月14日ホルムアルデヒドの健康影響評価に関するワーキンググループ第2回会合
平成8年11月11日TVOCに関するワーキンググループ第2回会合
平成8年11月18日ホルムアルデヒドの健康影響評価に関するワーキンググループ第3回会合
平成8年12月3日第4回化学物質小委員会
平成9年2月26日健康住宅関連基準策定専門部会
平成9年4月30日快適で健康的な住宅に関する検討会議



健康住宅関連基準策定専門部会化学物質小委員会名簿
氏 名所         属
安藤 正典国立衛生試験所環境衛生化学部長
池田 耕一国立公衆衛生院 建築衛生学部長
石川 哲北里大学 医学部長
小野 宏(財)食品薬品安全センター
   秦野研究所長
香川 順東京女子医科大学教授
高橋 道人国立衛生試験所
安全性生物試験研究センター
病理部長
西間 三馨国立療養所南福岡病院長
松村 年郎国立衛生試験所
環境衛生化学部第1室長
吉澤 晋東京理科大学工学部教授

毒性評価ワーキング・グループ委員名簿
氏 名所         属
安藤 正典国立衛生試験所環境衛生化学部長
小野 宏(財)食品薬品安全センター
   秦野研究所長
高橋 道人国立衛生試験所
安全性生物試験研究センター
病理部長
TVOCに関するワーキング・グループ委員名簿
氏 名所         属
相澤 好治北里大学 医学部公衆衛生学教授
安藤 正典国立衛生試験所環境衛生化学部長
池田 耕一国立公衆衛生院 建築衛生学部長
石川 哲北里大学 医学部長
小野 宏(財)食品薬品安全センター
   秦野研究所長
柳澤 幸雄ハーバード大学 公衆衛生大学院 准教授



別添1

ホルムアルデヒドの室内濃度指針値について

1.ホルムアルデヒドの健康影響評価の考え方
 ホルムアルデヒドの健康影響評価については、WHOの欧州地域専門家委員会が既に膨大な毒性データを基に各分野の専門家を集めて検討し、その見解がほぼまとまりつつある。このため、我が国の居住環境におけるホルムアルデヒドの室内濃度指針値の検討に当たっては、WHOの欧州地域専門家委員会におけるこれまでの評価結果の妥当性について考察することとし、独自に文献を収集してその評価を行った。

2.WHO欧州地域専門家委員会の健康影響評価

 WHO欧州地域専門家委員会が行っているホルムアルデヒドの健康影響評価の概要は、以下のとおりである。

1)WHO欧州地域専門家委員会におけるガイドライン値の設定

 短期間の暴露でヒトが鼻やのどに刺激を感じる最低の濃度は0.1mg/mである。ただし、さらに低い濃度でホルムアルデヒドの臭気を感じる人達もいる。
 一般的な人達における明らかな感覚刺激を防ぐために、30分平均値で0.1mg/mの空気ガイドライン値を勧告する。
 このガイドライン値は鼻腔粘膜の細胞毒性の推定閾値より1桁以上低い値であるので、ヒトにおける上部気道がんのリスクを無視しうる暴露レベルである。

2)WHO欧州地域専門家委員会におけるガイドライン値の設定根拠

 ヒトがホルムアルデヒドに暴露された時の主な症状は目、鼻及び咽喉の刺激であり、濃度依存性の不快感、流涙、くしゃみ、せき、はきけ、呼吸困難で、高度の場合には死に至る。

 気道上皮の扁平上皮化生や軽度の異形成がヒトで報告されているが、これらの所見にはホルムアルデヒド以外の物質に同時に暴露された影響が含まれている可能性がある。

 高濃度のホルムアルデヒド暴露によりラットに鼻腔がんが発生することは明瞭な知見であり、マウスにも同様の影響のあることが予想されるホルムアルデヒドはいくつかの in-vitro及びin-vivoの試験系で遺伝子毒性が示されている。また、高濃度のホルムアルデヒドによる職業的暴露と鼻咽頭腔及び副鼻洞がんとの間に関連性を示す疫学的知見がある。

 ホルムアルデヒドに対するヒトでの反応には大きな個体差がある。健康な被験者では 0.1mg/mを超える濃度で刺激の兆候が明らかに増加する。 1.2mg/m以上で症状の増大が引き起こされる。健康な非喫煙者及び喘息患者の肺機能では、 3.7mg/mまでのレベルのホルムアルデヒドに暴露された場合でも変化がなかった。WHOのワーキンググループでは、これらの研究で観察された作用は、平均値よりもピーク値の濃度に関係すると推測した。

 ヒトの鼻腔粘膜においてホルムアルデヒドが細胞増殖的な変化を引き起こすとする知見がある。報告されている平均暴露レベルは、0.02から2.4mg/mにあり、短時間でのピーク値は、5から18mg/mの間にある。 ホルムアルデヒド暴露と鼻咽頭腔のがんとの関連については、観察症例数や期待症例数が少ないため結論には至っていないが、疫学的研究からは因果関係のあることが示唆されている。また、ホルムアルデヒドによる比較的高濃度の職業的暴露と副鼻洞がんとの関連については疫学的な観察がある。最近のIARCワーキンググループは、現在入手できる発がん性のデータではホルムアルデヒドのヒトでの発がん性に関する知見は限定的であると解釈し、ホルムアルデヒドは、"ヒトに対し恐らく発がん性がある(2A)"と分類された。

 ホルムアルデヒドはラットの鼻腔発がん物質である。16.7mg/mレベルで暴露されたラットでは鼻腔がんが明らかに発生したが、用量反応曲線は非直線的であり、低濃度では、リスクは比例的ではなく極めて低いものであった。また、鼻腔気道上皮における非腫瘍性及び腫瘍性病変を分析したところ、用量反応曲線は、腫瘍性病変、細胞回転、DNA-蛋白質の交叉結合、および過剰増殖のいずれもほとんど同じであった。このように一致の度合いが近いことは、観察された細胞毒性、遺伝子毒性および発がん効果が密接に関係することを示している。結論として、細胞毒性によって引き起こされた過剰増殖が、ホルムアルデヒドによる鼻腔腫瘍の形成に重要な役割を果たしていることが推察される。

 ラットとヒトでは呼吸経路の解剖学的、生理学的な違いが認められるが、呼吸経路の防御機構は類似している。したがって、ホルムアルデヒドに対するヒトでの呼吸経路の粘膜の反応がラットのそれと同様であると考えても間違いではないであろう。即ち、呼吸経路の組織が繰り返し障害を受けなければ、ヒトが低濃度かつ細胞毒性の起こらない濃度のホルムアルデヒドに暴露されたとしても、発がんリスクは無視しうると考えることができる。これは約 1mg/mを超える濃度で鼻咽頭腔及び副鼻洞がんのリスクが大きくなるという疫学的な結果と一致している。

3.ホルムアルデヒドの毒性評価
 ホルムアルデヒド毒性評価ワーキンググループにおいて調査したホルムアルデヒドの毒性の概要は次の通りである。

(1)遺伝毒性
  • DNA損傷、DNA鎖切断、不定期 DNA合成試験では、陽性との報告例が多い。1)
  • in vitro遺伝子突然変異試験および染色体異常試験では、陽性とする報告が多い。2),3)
  • DNA-protein cross-linksを形成する。2)
  • 変異原性は、細胞毒性が生じる比較的高濃度で発現する。1)
  • in vivo 動物試験による変異原性は陰性である。(IARC 1987)

 これらの結果より、in vitro遺伝子毒性は明らかであるが、in vivo遺伝子毒性は明らかではない。

(2)発がん性
  • Monticelloらの長期発がん性試験では、ラットに扁平上皮がんを主とする鼻腔腫瘍が 18mg/m(15ppm)群で147例中69例に、12mg/m(10ppm)群で90例中20例に、 7.2mg/m(6ppm)群で90例中 1例にみられている。しかしながら、これらの濃度で認められた鼻腔における扁平上皮がんの発生部位は、いずれも鼻腔粘膜で最も傷害性が高く現れる部位である。一方、2.4mg/m(2ppm)ではなんら変化も認めない。4)
  • 発がんメカニズムの研究報告によると、 7.2mg/m以上では鼻腔上皮細胞の細胞増殖活性が認められるが、 2.4mg/mでは変化を認めず、明らかな閾値を認めている。5)
  • Kernsらによれば、 7.2mg/m以上ではDNA合成の有意な増加を認めるが、2.4mg/mでは増加が認められない。6)
  • (細胞傷害)修復性の細胞増殖および過形成は、 7.2mg/mでは認められるが、 2.4mg/m以下では認められない。7)
  • 多数の用量−反応関係の研究から、腫瘍の出現する濃度は明確で発生部位が定まっており、その局所における分布・代謝及び細胞増殖活性から、閾値が明確に示されていると判断される。4),5),8)
  • また、細胞増殖において非線形的反応を示す。4),5),8)

 以上のように、ホルムアルデヒドは、いくつかの実験において遺伝子毒性が見られ、長期吸入暴露試験において鼻腔上皮細胞に増殖〜腫瘍発生(がん)がみられることから、発がん性のあることは否定できない。しかしながら、このがん発生は鼻腔上皮の粘膜において傷害性(細胞毒性)を引き起こす高濃度での発がんであること、変異原性試験においても細胞毒性を起こすレベルで陽性結果が認められること、ヒトでの疫学調査で暴露グループに必ずしも発がんリスクが明らかでないこと9),10),11),12),13),14)、in vivo 動物試験では変異原性は陰性であることなどから、閾値の存在が明確に示唆されているものと考えられる。

(3)刺激性、その他の毒性
  • ヒトにおいて刺激感覚が生じる 1.2mg/mで、動物での刺激性による回避行動がみられる。15)
  • ホルムアルデヒド喘息(疑)患者の試験では 3.6mg/mの暴露では喘息症状の誘発はみられず、呼吸機能にも変化は認められていない。3)
4.我が国の居住環境におけるホルムアルデヒドの室内濃度指針値の検討
 これらの考察により、WHO欧州地域専門家委員会の評価は、我が国においても妥当なものと考えられる。したがって、一般的な人達における明らかな刺激感覚を防ぐことを指標として、「30分平均値で 0.1mg/m3以下」を指針値とすることが適当である。
 しかしながら、さらに低い濃度暴露レベルでもホルムアルデヒド臭を感じる人もいることに留意する必要がある。

参照文献

1)Feron V.J.,Til H.P.,de Vrijer F.,et al.: Aldehydes: occurrence,carcinogenic potencial, mechanism of action and risk assessment.
Mutation Res, 259: 363-385 (1991)
2)Ma T-H.,Harris M.: Review of the genotoxicity of formaldehyde.
Mutation Res, 196: 37-59 (1988)
3)Ellenhorn M.J.,Barcelloux D.G.: Formaldehyde, in "Medical Toxicology", Elsevier, New York (1988),1001-1004, Chapter 36
4)Monticello T.M.,Swenberg J.A.,Gross E.A.,Leininger J.R.,Kimbell J.S., Seikop S., Starr T.B.,Gibson J.E.,and Morgan K.T.: Correlation of regional and nonlinear form aldehyde-induced nasal cancer with proliferating population of cells.: Cancer Res.56:1012-1022 (1996)
5)Monticello T.M.,Miller F.J.,and Morgan K.T.: Regional increase in rat nasal respiratory epitherial cell proliferation following acute and subacute inhalation of formaldehyde.: Toxicol.Appl.Pharmacol.111, 409-421 (1991)
6)Kerns W.D.,Pavcov K.L.,Donofrio D.J.,Gralla E.J.,and Swenberg J.A.: Carcinogenecity of formaldehyde in rats and mice after long-term inhalation exposure.: Cancer Res.,43;4382-4398 (1983)
7)Starr T.B.,Gibson J.E.,and Swenberg J.A.:Chapter 9.: An integrated approach to the study of formaldehyde carcinogenecity in rats and mice.In: D.B.Clayson, D.Krewski,and I.Munro(eds)Toxicological Risk Assessment Vol.U,General Criteria and Case Studies.,200-209,CRC Press,Inc. Boca Raton, Florida (1986)
8)Woutersen R.A.,and Feron V.J.: Localization of nasal tumors in rats exposed to acetaldehyde or formaldehyde.In: V.J.Fern and M.C.Bosland (eds), Nasal Carcinogenesis in Rodents. Relevance to Human Health Risk,70-75,Wageningen,the Netherlands:Pudoc Press (1989)
9)Ellenhorn M.J.,and Barcelloux D.G.(eds) Medical Toxicology.-Diagnosis and Treatment of Human Poisoning.,1003, Elsevier,New York/Amsterdam/London (1988)
10)Halperin W.L.,Goodman M.S.L.,et al.: Nasal cancer in a worker exposed to formaldehyde. JAMA 249:510-512 (1983)
11)Wald N.,and Richie C.: Formaldehyde process workers and lung cancer. Lancet 1: 1066-1067 (1984)
12)Acheson E.D.,Barnes H.R.,Gardner M.J.,et al.: Formaldehyde in the British chemical industry. Lancet 1:611-616 (1984)
13)Stayner L.,Smith A.B.,Reeve G.,et al.: Proportionate mortality study of workers in the garment industry exposed to formaldehyde. Am.J.Ind. Med.,7: 229-240 (1985)
14)Olsen J.H.,and Asnaes S.: Formaldehyde and the risk of squamous cell carcinoma of sinonasal cavities. Br.J.Ind.Med. 43:769-774 (1986)
15)Wood R.W.,Coleman J.B.: Behavioral evaluation of the irritant properties of formaldehyde. Toxicol.Appl.Pharmacol. 130: 67-72 (1995)



別添2

総揮発性有機化合物(TVOC)の指標について

1 健康影響とTVOC
 室内空気中の化学物質の複合的暴露による健康影響については、鼻(鼻水、鼻づまり)、目(目の渇き、刺激性)、口腔咽頭(のどの渇き)、皮膚(乾燥、刺激性、発疹)等の症状の他、一般症状として焦燥感、脱力感、不快感、頭痛、鈍痛がみられるとする報告がある。1),2)
 しかしながら、室内空気を通した複合的な揮発性有機化合物の吸入を健康影響と関連づけるには研究報告が少なく、これまでのところ十分論議が行われているとはいえない状況にある。また、健康影響の程度は、室内空気中の化学物質の組成によっても左右されると考えられるが、組成は、測定場所、測定時期等によって大きな変動があるので、混合物としてのTVOCの濃度をそのまま健康影響評価に関連づけることは困難である。

2 室内空気における汚れの指標としてのTVOC

 室内空気中には、100種以上に及ぶ微量の揮発性有機化合物が存在する。健康影響の観点からは、これらの揮発性有機化合物について個別に健康影響評価を行い、その結果に基づいて必要なガイドライン値を設けていくことが望ましい。しかしながら、これらすべての化学物質について健康影響評価を行うには膨大なデータが必要であり、これを短期間に実施することは困難である。また、特定の物質についてガイドライン値が設定されることによって、まだガイドラインの設定されていない物質が代替物質として使用され、新たな健康被害を引き起こすおそれもある。
 そこで、VOCによる汚染を全体として低減させ、快適な室内環境を実現するための補完的措置の一つとしてTVOCは有効に利用できる可能性がある。すなわち、揮発性有機化合物による室内空気の汚れの指標としてTVOCの概念を導入することは、快適で健康的な室内環境の実現のため望ましいと考えられる。

 すでに述べたように、TVOCは、健康への影響の異なる複数の化学物質の混合物に対する濃度レベルの指標であり、健康への影響を直接的に評価する指標ではない。

 TVOCの定義及び測定法には種々の提案があり、現時点で国際的に統一されたものはない。その設定に当たっては、国際的な調和にも配慮しつつ、簡便な方法を検討していく必要がある。そのうえで、わが国におけるTVOCの室内濃度の実態を把握するための実態調査を実施し、その調査結果及び国際的な動向を参考としてガイドライン値の設定を検討していくことが適当である。

参照文献

1)Berglund B.,Brunekreff B.,Knoppel H.,et al.:Effects of Indoor Air Pollution on Human Health, Indoor Air,vol.2, 2-25 (1992)
2)Hodgson M.,Levin H.,and Wolkoff P.:Volatile organic compounds in indoor air, J.Allergy and Clin.Immunol.,vol.94, 296-303 (1994)



別添3

化学物質の室内濃度指針値等の検討の必要性について

 健康に影響を及ぼす可能性のあるVOCで、室内空気中に存在しているものは多数ある。また、VOCの人の健康に及ぼす影響は、それぞれ大きく異なっている。健康リスクの低減化のためには、VOCそれぞれについて、健康影響評価に基づく室内濃度の指針値を検討していくことが望ましい。しかしながら、多数のVOC全てにわたって、健康影響評価を行えるだけの研究成果が蓄積されているわけではない。したがって、VOC全体に対して指針値を与えることを検討するとともに、特に注意を要する物質については、個別に指針値を設定することが、健康リスクの低減化という要請に応える方法であろう。
 VOC全体に対して指針値を与えるときには、指針値の対象となる物質をどのように定めるかが重要な問題である。どの物質を対象物質に含め、どれを含めないかの問題である。健康への影響の近似性及び測定・評価の運用面での利便性からみて、測定方法によって対象とする物質を定義するのが合理的であると考える。例えば、FID検出法による炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、有機りん系物質、及びアルデヒド類の4グループに対して、指針値を与える方法である。
 個別に指針値を設定することが望ましい物質の選択に関して、WHO(欧州地域事務局)の検討結果は参照する価値がある。WHOは、大気も含めた空気中の化学物質の濃度に関して指針を設けているが、その対象物質のうち、室内における発生源の有無、我が国の住宅内における暴露の可能性及び健康影響の程度を勘案すると、すでに検討を行っているホルムアルデヒドの他、トルエン、ベンゾピレン等について、室内濃度の指針値等を順次検討していく必要があると考えられる。
 また、それ以外の物質についても、今後わが国における室内空気環境等の実態調査の結果を踏まえ、個別VOCとして室内濃度指針値等を検討していく必要がある。すなわち多数のVOC全てにわたって、健康影響評価を行えるだけの研究成果が蓄積されているわけではないという現状を踏まえて、指針値及び対象物質リストを将来にわたって逐次見直すことが、合理的に健康リスクを低減化させる上で重要である。


別添4

化学物質過敏症について

 最近,室内空気環境と関連して注目を集めている問題に「化学物質過敏症」がある。化学物質過敏症の定義については、現在まで日本では研究も少なく、学会等で余り知られていないが、この問題の研究を進めている米国の研究者の間では、「一般的には多量の化学物質に暴露されて一旦過敏症を獲得すると、その後きわめて微量の同系統の化学物質で種々の臨床症状が出現してくる状態」と考えられている。その症状は、自律神経障害、精神障害、感覚器(嗅覚・視覚)、末梢神経障害など多岐にわたるが、これらの症状や程度は患者の素因や社会的、心理的要因によって異なる場合もあるとされている。

 一方、毒性学等の専門家の中には,二重盲験試験などの客観的証拠が少ないことなどを理由に、このような症状と化学物質との因果関係を疑問視する意見もあり、化学物質過敏症なる症候群の存在自体をめぐって米国の一部の学会においては意見が分かれているところである。また、日本の学会においては、これまでのところ十分な議論が行われているとは言えない状況にある。

 以上のことから、化学物質過敏症と室内空気中の化学物質濃度の関係については、現時点における定量的な評価は困難であると考えられる。しかしながら、化学物質過敏症の存在を否定することはできないので、当面は、室内空気環境中の化学物質を可能な限り低減化するための措置を検討しつつ、今後の研究の進展を待つことが適当である。また、我が国の関係学会においても関心が広がりつつあるので、この問題に対する客観的かつ広範な議論が展開されることを期待したい。


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