平成9年3月25日
1. | 懇談会設置の趣旨 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
本格的な高齢社会の到来を控え、介護問題への対応と並んで、高齢者が生きがいをもって、できるだけ元気に暮らし続けていけるようにする対策も重要である。それはとりもなおさず、要介護状態になることの予防につながると同時に、高齢社会を心豊かで活力あるものにする対策でもある。特に、「高齢者の世紀」たる21世紀を目前に控えた今日、「第2の現役世代」として社会を支えるという発想に立った新しい高齢者像を模索すべき時期を迎えている。 このような状況に対応し、高齢者の生きがいと健康づくり活動の新たなあり方等を検討するため、老人保健福祉局長の私的検討組織として標記懇談会を昨年4月に設置し検討を重ねてきたが、今般その検討結果が取りまとめられた。 |
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2. | 検討経過 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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3. | 「心豊かで活力ある長寿社会づくりに関する懇談会」最終報告(要旨) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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平成9年3月24日
厚生省老人保健福祉局長
羽 毛 田 信 吾
「心豊かで活力ある長寿社会づくりに関する懇談会」の最終報告書(別添)につきましては、3月25日(火)14:00に記者クラブ 投げ込みを予定しております。
平成9年3月25日
目 次
21世紀は、高齢者の世紀である。わが国は、本格的な少子・高齢社会を迎えており、近い将来、高齢者は人口の四分の一をも占めることになる。このように社会のかなりの部分を占める高齢者がどのような生き方をするかは、21世紀における社会のあり方に大きな影響を与えることになる。
高齢化の問題を考えるとき、介護の問題に注目が集まりがちである。確かに、この
問題は、非常に切実で大きな課題であり、要介護高齢者やその家族に対しては最大限の支援が必要である。しかし同時に、8割〜9割の高齢者は、通常は介護や援護を必要とせず暮らしている。このような比較的元気な高齢者が、できるだけ健康を保持し、その意欲と能力に応じて普通に社会とのかかわりを持ち続けることは、要介護高齢者の問題と同じように重要である。中でも、これからの高齢社会を明るく活力に満ちたものとしていくためには、高齢者のパワーを集約し、社会の中にうまく組み込んでいくことが、不可欠である。
新ゴールドプランにおいては、要介護高齢者施策の基盤整備という意味合いで「高齢者の社会参加・生きがい対策の推進」がうたわれ、様々な取り組みがなされてきている。公的介護保険制度が具体化されつつあり、また、関係団体においては21世紀を展望した新たな動きを示している今日、高齢者が社会の重要な一員として、他の世代とともに社会を支えていくという発想に立って、生きがいと健康づくり活動についても、より前向きなあり方を模索すべき新たな段階を迎えつつある。また、活動を支援する行政施策についても、地方分権という大きな流れの中にあって、そのあり方の抜本的な見直しを迫られている。
当懇談会では、昨年4月に発足以来8回にわたり、高齢者の生きがいと健康づくり活動について、その意義を再確認しながら今日的視点で見つめ直し、多くの元気な高齢者が、いわば「第2の現役世代」として高齢期を過ごせるようにするための新たな社会システムづくりを目指して、その活動のあり方や事業展開の方向性、さらには行政施策のあり方などを検討した。
途中、昨年9月にはそれまでの総論的な議論を集約し、「中間報告」という形で一応のまとめを行ったが、その後の懇談会における具体的活動事例に即した議論や、地方分権推進委員会等の行財政改革の最近の議論の動向などを踏まえ、この度、最終報告を取りまとめたところである。
本報告においては、全般的にできるだけ例示を多く挿入し活動事例に即した報告にす るとともに、高齢者観の見直し、高齢者の新しい「働き方」、新しい高齢者教育、地方 自治体(特に市町村)の役割の重視、高齢者・関係団体の主体性の強調、高齢者の結婚 問題への言及など、幾つかの問題提起を行った。
高齢者のみならず若い人も含めた国民全体、生きがいと健康づくり活動にかかわる関係団体、サラリーマンのOB対策を考える企業、そして行政が、それぞれの今後の生活・活動・事業・施策を進める上で本報告を活用していただければ幸いである。
1.新しい高齢者像を考える
(1)「高齢者」観を変えよう ― 例えば、高齢者は70歳から ―
○ | 「高齢者」といった場合、老人福祉法では65歳以上をその施策の対象としているのに対し、老人保健法では原則として70歳以上を老人医療の対象としている。また、年金制度においては、これまでは60歳が年金支給開始年齢として位置付けられてきた。 このように、「高齢者」について法律上一般的な定義がある訳ではなく、個々の法律目的との関連において「高齢者」の範囲がそれぞれ決定されてきている。 |
○ | ところで、1956年(昭和31年)の国連経済社会理事会の定義によると、65歳以上人口比率が7%以上の場合に「高齢化した社会」と分類され、「高齢化率」は65歳以上の人口比で表示することとされている。 しかし、その後、世界的規模で人口が高齢化していること、とりわけ男女とも平均寿命が世界で最高水準のわが国においては、元気で長生きする高齢者が増加し、高齢者自身の意識も大きく変化していることなどを考えると、「65歳以上」を高齢者とする考え方自体が現状に合ったものとは言い難くなってきている。 ちなみに、平成7年の70歳の者の平均余命(男12.97年、女16.75年)は、明治以降昭和20年代までの間の65歳の者の平均余命(男10〜12年、女11〜13年)よりも長くなっている。従って、一般的な意味での「高齢者」の範囲としては、例えば「70歳以上」としてとらえ、70歳になるまでは社会で活躍できるような社会システムづくりを目指していくという考え方も必要である。70歳以上を高齢者とした場合、平成9年1月の新人口推計によると、2025年(平成37年)の高齢化率は21.7%、2050年(平成62年)は25.7%となる。このようなことから、高齢社会に対する国民のイメージを変えることができるのではないだろうか。 |
○ | また、現行のように65歳以上の人を「高齢者」とした場合でも、60歳代から90歳代までには30年以上の年齢的な開きがあり、個々の高齢者の身体的・精神 的・経済的・社会的状況が多様であるのみならず、その知恵と経験も様々である。 また、世代別にみても価値観に幅のある世代が含まれることになる。さらには、地域によって住民意識や人間関係のあり方にも差異があるほか、特に最近では、高齢者の価値観が多様化し、生き方の選択もバラエティーに富んできている。 このように考えると、特に生きがいと健康づくりに関して言えば、「高齢者」について一定の年齢による画一的なとらえ方は現実的ではなく、また、年齢のみで一律に区別する取扱いも適当ではない。今後は、個人個人が多様な生き方や考え方をもち、身体的・精神的状況や経済的状況にも非常に幅のある集団として高齢者をとらえ直していく必要がある。 |
○ | さらに、サラリーマンOBの多い都市型高齢者像と生涯現役的な農村型高齢者像とでは、明らかに違いがあることに注意する必要がある。誤解を恐れずごく大雑把に言えば、農村部では元気な高齢者は第一線で活躍し続けている一方、都市部では定年制によって、元気な高齢者の多くが否応なしに第一線から引退しており、社会参加など何らかの活躍の場を提供することが大きな課題となっている。ことにわが国の全就業者に占める雇用者層の割合が8割となった今日、サラリーマンOBを中心とするこれら都市型高齢者像を念頭に置いて高齢者のあり方を議論していくことが重要となっている。 |
○ | また、21世紀には、現在の40歳代、50歳代の人が高齢者になる訳であるから、例えば、高学歴のホワイトカラー層が増大していること、仕事だけでなく趣味・家庭・社会的活動も大切にする人が増えていること、男女平等意識の中で育っていること、ワープロ・パソコン等に慣れていること、車の運転免許が常識になってきていることなど、現在のいわゆる中年層の状況を踏まえて今後の高齢者像を考えていく必要がある。 |
○ | 従来は、身体面・経済面での状況から社会的弱者というイメージで見られがちであった高齢者も、平均寿命の伸びや年金制度の充実などもあり、社会の中でかなりの割合を占めるようになるにつれ、その姿を変えつつある。これまでは福祉サービスを受ける立場にあるととらえられていた高齢者も、のんびり余生を送るというイメ−ジだけではとらえられなくなる。社会の第一線としての責任や緊張感から解放された元気な高齢者が、いわば「第2の現役世代」として、より自由な立場を生かして、働き、楽しみ、地域社会に貢献するなど、様々な形で社会的に活躍していくこと ――― そして、それが特別のことではなく、高齢者のごく普通の姿であること ――― が求められるようになる。 |
○ | また、今後高齢者は、地域社会の主要な構成員として地域社会形成の責任と義務 がある。高齢者自身が主体的・積極的に自己主張し、若い世代とともに地域社会との関わりを求め、これを支えるという意欲的な取り組み姿勢をもつことが期待される。 そのためには、社会の側でも、画一的な高齢者観や既存の高齢者の固定的なイメージを改め、高齢者パワーを活かし地域社会の中にうまく組み込んでいけるような仕組みやきっかけづくりが必要となる。 |
○ | その場合、就労を通じた社会参加ということの意味合いも大きい。元気なうちは本人の意欲と能力、適性などに応じて、何らかの形で就労できるようにしていくことが、高齢者のパワーを生かし社会の中にうまく組み込んでいく上で、極めて有効であると思われる。現在、シルバー人材センターや公共職業安定所(高齢者相談コーナー)における高齢者の就労確保施策のほか、公共職業能力開発施設への高齢者向け訓練科の設置など、高齢化の進展に対応した職業能力開発施策が積極的に展開されているが、高齢者ニーズに合った就労の場の確保と高齢者向けの職業訓練については、今後の高齢化の一層の進展に向けて、さらに整備・充実していくことが求められる。 |
○ | さらに、第2の現役世代として知識・教養を高めるために、大学等高等教育機関の開放も課題となる。これまで全国各地で高齢者大学、長寿大学等が開設されてきたが、社会の高学歴化志向などに伴う本格的な大学(院)教育、あるいは、それに準じたものへのニーズには必ずしも応えていないとの指摘もある。他方、大学も少子化時代を迎え、新たに“学生”を確保する必要に迫られてきている。そのような意味では、佐賀短大のエルダーカレッジ(高齢者を対象とした4年にわたる本格的な課程の設置)や、兵庫県のいなみ野学園(高齢者向けの4年制の大学講座、2年制の地域活動指導者養成講座、ラジオ放送大学)などは、極めて先進的なものである。 |
2.高齢者の生きがいと健康づくり活動とは何か
(1)自己実現と共生をめざして
○ | 「生きがい」の意味については色々な考え方があるが、強いて表現するとすれば、それは「自己実現」ということであろう。自己実現を図ること、つまり生きがいづくりの表れ方としては、一人称の生きがい(専ら自分自身のために何かをする)、二人称の生きがい(家族、友人等のために何かをする)、三人称の生きがい(他人や地域のために何かをする)があるといわれているが、いずれにしても「生きがい」は個人の価値観に根ざし、個人の生き方にかかわる極めて主観的なものである。何をもって「生きがい」とするかは個人の人生観や価値観に基づくものであり、生きがいを実現するために何をするかは、個人の自由に委ねられるべきものである。 |
○ | 「生きがい」が主観的なものだとしても、生きる糧としての「生きがい」が人生において大切なものの一つであることは否定できないところであり、どのような形であれ、個人個人がその意欲と能力、あるいは、障害の有無や程度も含めた様々な状況に応じて、自分自身の目標とする生き方の実現が図られるようにすることは必要なことである。 |
○ | 専ら自分自身のために一人だけで何かすることも生きがいづくりではあるが、それだけでは個人の問題にすぎない。人間は、常に家族や友人、地域社会を構成する様々な人々とともに生き、それらの人々とのかかわりの中で暮らしている。個人の生きがいづくりの活動も、仲間や理解者がいることによって張合いができ、長続きし、地域社会とのかかわりをもつことによって社会的意義を有することになる。
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○ | 世界保健機関(WHO)によれば、「健康」とは「身体的にも、精神的にも、社会的にも調和のとれた状態にあること」と定義づけられている。このように、「健康」ということを単に身体面だけではなく、精神的、社会的な側面も含めたより幅広いものとしてとらえると、健康づくりと生きがいづくりとでかなり重なり合う部分が生じてくる。両者は相互に影響し合い、分離し難い表裏の関係にあるものとして、できるだけ一体的にとらえていくことが必要であろう。 |
○ | 高齢期においては、若い時に比べて、慢性疾患や加齢による心身の機能低下が全くない人は稀であることから、「健康」ということがそれだけ重要性を増し、また、現役時代のように職場や家庭といった社会的役割に基づいた自己実現のための目標も見い出しにくくなることから、生きる意欲や意思につながる「生きがい」ということが、若い時以上に大切なものとなってくる。このように、生きがいと健康づくりに努めていくことが、個々の高齢者にとって、自立し、精神的・社会的に充実した生活を送り、満足感の得られる「心豊かな」高齢期を過ごすことにつながっていくといえよう。 |
○ | 地域によっては人口の四分の一以上を占めるであろう高齢者が、健康で生きがいをもっていきいきと活動しながら暮らし、若い世代とともに地域社会を支えていくという生き方や活動のあり方は、地域全体を活性化する上でも極めて大きな影響を与える。 ことに、生きがいと健康づくり活動を、高齢者が単に余生を送るための活動ではなく、「第2の現役世代」として高齢者がその意欲と能力に応じて「普通に」社会とのつながりを持ち続けるための活動としてとらえ、しかも、それが地域の中にしっかりと定着したとき、地域社会を支える活動として不可欠のものとなるであろう。 |
○ | また、生きがいと健康づくり活動は、高齢者にとっては身近な居住地周辺で行われる場合が多いと考えられる。しかも、それら地域社会は、隣近所とのつき合いを中心とする「地縁社会」たる農村部と、隣近所と無関係に友人関係中心の「知縁社会」たる都市部とではかなりの違いがあることに象徴されるように、所によって異なっており、生きがいと健康づくり活動の推進は、それぞれの地域特性に対応した、多世代共同による「まちづくり」活動の一部であるともいえよう。 このように、世代間交流を通じた高齢者の生き方、暮らし方がこれからの地域社会を形成し、高齢者の生きがいと健康づくり活動そのものが、地域社会をつくり、変え、さらに、これを活性化していくという極めて大きな意義をもつものである。 |
○ | 高齢者を世代の「集団」としてとらえた場合に、現在の高齢者の生き方は、今後 高齢者となる次の世代のモデルともなるものである。現在の高齢者がどんな生き方や活動を次世代に伝え残すかということが問われることであり、生きがいと健康づくり活動のもつ歴史的意義も考える必要がある。 特に、「高齢者の世紀」といわれる21世紀において、高齢者一人一人ができるだけ元気で長く、しかも、主体的に生きていくという生き方が社会全体に広まれば、高齢社会をより明るいものに変えていくことができる。 |
○ | また、高齢者が増えると社会的な費用負担が増えて社会が沈滞化するという考え方があるが、高齢者は「生活者」「消費者」としての側面をも有している。例えば、年金が消費という形で今より一層多く社会に還元されれば、消費が活性化するという側面もある。 また、少子化が進む中で、高齢者パワーを今以上に発揮できるようにし、今後の若年労働力不足を補う役割を果たすことも期待される。この場合、地域社会の支え合いのシステムの中において、自分の生活のためだけに働くのではなく、居住する地域社会のために働き、それに対して地域が何がしかの謝金を出すといった「仕事」や「働き方」に関する新しい考え方に基づいた高齢者向けの「職域」の形成も考えられる。このような意味で、高齢者自らが仕事の機会を確保していくというシルバー人材センターの事業の拡大が期待される。さらに、全国各地域で設立され始めている「高齢者協同組合」は、高齢者の「協助(互助)」と言う理念を前面に掲げ、高齢者自らが仕事の機会を確保していくということを中心に活動をしていこうとするものであり、まだ試行錯誤の過程ではあるが、高齢者の働き方の一つとして注目される。 このように、高齢者の存在が消費構造や仕事というものに対する考え方を変革する可能性も秘めており、その効果も軽視できない。 |
○ | 生きがいと健康づくり活動は、目に見える形での効果がただちに現れるという性格のものではないが、長期的に見た場合、その活動による医療費の低減や寝たきりの予防等、社会経済的な効果も期待され、長寿社会の「活力」のための基盤的、予防的意味合いでの意義も大きい。 このように、社会全体でみた場合にも、高齢者の生きがいと健康づくり活動が、高齢社会のイメージや社会構造の変革などを通じて、その「活力」を維持増進する上での効用には大きなものがあるといえる。 |
3.高齢者の生きがいと健康づくり活動を考える
(1)活動の方法を考える
○ | 生きがいと健康づくり活動は、まず自主的なグループなどの身近な仲間づくりから始まる。街なかの気軽に立ち寄れる「たまり場」的な場所(仲間同士の肩ひじ張らない緊密なコミュニケーションの場)が数多く確保され、仲間づくりが盛んに行われることが、生きがいと健康づくり活動の第一歩である。仲間づくりそれ自体が目的であっても、それはそれでいい。気軽に人との交流ができる場や機会があるということが、家に閉じこもりがちな高齢者や何をしたらよいかわからない高齢者、何らかの活動の場を求めている高齢者にとっては、何よりも大切である。 |
○ | 総務庁の「高齢者の地域社会への参加に関する調査」(平成5年)によると、1年間の活動の実態として、回答者の約4割が「無職で、かつ、何らかの社会参加活動にも不参加」となっている。この4割のうち、「一人でいることを好む人」は別として、家に閉じこもりがちな高齢者やちょっとしたきっかけさえあれば活動に取り組みたいと思っている高齢者が、活動のための環境整備や情報の提供などを最も必要とする人達である。そのような人達に参加を呼びかけ、少しでも地域社会とのかかわりをもってもらうことに、まず支援の重点を置くべきではないかと思われる。 |
○ | 特に、長い間仕事中心で生活してきたサラリーマンは、日頃地域社会との関係が疎遠な人が多く、退職後間もない60歳代の前期高齢者サラリーマンOBにとっては、いくら社会的制約から解放され、時間的ゆとりが得られたとしても、ただちに地域社会に馴染むことは容易ではない。それらの世代は、まだまだ若く健康であり、長年の仕事で蓄積した知識や経験を生かし、一定の役割を果たして地域社会に貢献したい、あるいは、仲間づくりを通して地域社会と何らかのつながりをもちたいという意欲をもっている人も多い。そのような意欲的な人達に活躍の場を提供することがきわめて重要である。こういった活動の場の提供と地域間交流という趣旨を兼ね、例えば、都市部サラリーマンOBのマンパワーを地方で活かす(ロングスティして援農活動やボランティアをする)というような仕組みも考えてみるべきではないだろうか。 |
○ | また、特に、高齢転居者は転居先で家に閉じこもることが多いといわれている。 このような転居高齢者に活動参加を呼びかける老人クラブの「転居者をあたたかく迎える運動」は、新しい地域での友人・隣人とのつながりをもたせるという効果をあげており、その一層積極的な取り組みが期待される。 |
○ | 本人が、地域の人々との交流や地域の活動について全く意欲を示さない、あるいは頑なに拒否する場合もあるが、これを放置したり切り捨てるのではなく、誤解を解いたり、心を開くためのきっかけをつかむなど、何らかの柔らかい形での継続的な働きかけも必要である。ただし、例えば、内向的な人と外向的な人とでは他人との関わり方も異なってくるであろうから、あくまでも本人の主体的な意思や選択を尊重し、あまりお仕着せにならないように注意することが肝心である。 |
○ | 従来は高齢者を一括りにとらえる傾向が強かったが、その年齢層の拡大などに伴い、例えば、既存の大きな団体に所属せずに(あるいは団体内部においてさらに)気の合った人と好きな時に好きなことを気軽にできる「小サークル活動」が増える傾向にあるなど、多種多様なニーズが生じている。従って、画一的、惰性的な活動メニューではなく、できるだけ各年齢層ごとにきめ細かく、また個々の身体的・精神的な状況にも十分配慮し、さらに世代間交流も柔軟に折り込んだ、多種多様で斬新な活動メニューと機会を用意する必要がある。 |
○ | 寝たきりや病弱な人、障害を持った人にも、生きがいを持ち、地域や友人・隣人とのつながりを保てるような生きがいと健康づくり活動にも取り組む必要がある。 |
○ | 地域社会において一定の役割をもち、人に役立っているという実感をもつことによって、本当の喜びがうまれ、活動の満足感や感動が高まるといわれている。 総務庁の前述の調査においても、健康・スポ−ツ、趣味、地域の行事の世話、生活環境改善などの社会参加活動に参加したい理由として、「地域社会に貢献したい」という動機をあげる人が比較的多くなっている。また、地域社会の側も、高齢化の著しい進展に伴って、後期高齢者や障害をもつ高齢者への支援など元気な高齢者の活動に期待する度合いが高まってきている。 このようなことから、意欲的な高齢者の活動の場として最もふさわしい領域は、地域における社会参加活動であり、今後、ボランティア活動をはじめとする高齢者による社会参加活動の一層幅広い展開が期待される。 |
○ | ただし、地域での社会参加活動といっても大上段にかまえる必要はなく、できるだけ若い頃から日常的に地域の様々な問題に様々な形でかかわり、地域への親しみを持ちつつ、自分の趣味や仕事上の知識・経験などを自然な形で活かしながら、無理をせず活動していくことが大切である。そうすることによって、活動の幅も広がり、多くの高齢者が気軽に取り組みやすくなるであろう。 |
○ | 総理府の「高齢期の生活イメージに関する世論調査」(平成5年)によると、高齢期における様々な活動に参加しやすくするために必要なこととして、「身近に活動の場があること」があげられており、また、地域活動に目を向けさせるための手立てとして、「地域活動がしやすい機会をつくること」が比較的多くなっている。 |
○ | このように、活動しやすい機会(きっかけ)づくりと身近な「活動の場」の確保についてニーズが高まってきている。高齢者にとっては体力的な要因等もあり、できるだけ住まいの近くで気軽に立ち寄れる活動場所が是非とも必要である。そのためには、農村部の人口の少ない地域や都市部の土地の確保が困難な地域でも場の確保が可能になるよう、小規模施設及び他の事業や他世代間でも使用可能な多目的施設の整備促進を図る必要がある。 |
○ | 都市部など施設整備の場所確保が容易でない地域においては、住民の比較的身近なところにある、小・中学校の教室や集会所、保育所、児童館、老人福祉センター、グランドなど既存の公共施設を有効活用することも必要である。例えば、平成8年10月から青森県弘前市の「みのり保育園」で毎週1時間、高齢者のグループが自分たちでカリキュラム(紙芝居、ちぎり絵、昔遊び、社会見学等)を企画し、全員参加で実施しており、世代間交流という面からも好評を得ている。ことに、学校については、少子化の進展とともに全国各地で相当数の空き教室が存在している。学校区ごとに設置されている小・中学校は住民に最も身近な存在であり、生きがいと健康づくり活動の場のための有望な社会資源である。教育委員会との緊密な連携のもと、これらを眠らせることなく有効に活用していくことが必要である。 ただし、地域の各種公共施設については、構造上そのままでは利用しにくい場合があるほか、施設管理上の規制が多く使用条件も厳しすぎるので、地域において高齢者(新しく参加するグループや小サークルも含め)が本当に気軽に使える施設として、適正かつ有効に活用されるよう施設改修や運用上の配慮を行う必要がある。 |
○ | また、公共施設のほか、企業の会議室や運動施設、さらには、学習塾や民家などについても、空いている時には開放してもらうなど協力を求めるほか、自宅の一部を地域に自主的に開放するなど、街なかの気軽なたまり場的な場所を数多く確保していくことが、特に都市部では有効である。 |
○ | 場の確保については、建物だけではなく、地域特性を生かして農地や農園を活用することも考える必要がある。例えば、若年層の流出によって過疎化や高齢者の孤立化が進んでいる農村では、農地を一部開放して、高齢者農民の指導を受けながら、市街地の若い住民やサラリーマンOBが農作業したり、あるいは農家に「援農」に行くという事業がなされているところもある。このように農地の活用により、都市部と農村部との交流、世代間の交流を図りながら、高齢者の活動の場づくり、健康づくりに生かしていくことも大切である。 |
○ | 高齢者のニーズや活動内容が多様化している中で、今後、活動を推進していく上で中心となる人材は、従来型の「指導者」的な人よりも、様々な活動の内容や役割をきちんと交通整理し、色々な活動関係者をつなげ、全体が現実にうまく動くように調整する「コーディネーター的、仕掛け人的な役割を果たす人」の存在が極めて重要になってくる。(例えば、生きがい相談に始まり、より具体的に、各種サークル情報の提供、サークル加入の助言、講座開催支援、サークル活動に必要なインストラクターの紹介など) |
○ | このようなコーディネーター的な人材については、これまで既に養成されている各種の指導者や活動推進員、あるいは地域の各種活動実践者などの中から、関係団体の協力のもとに、意欲のある適格な人材を選出することが必要である。この場合、例えば「ボランティア・コーディネーター」というような形で人材を確保しておき、実費弁償や有償など何らかの報酬を支払って地域の拠点に配置することも有効である。 将来的には、高齢者の自主的活動を促進するための創造力、調整力をもったプロのコーディネーター制度の確立についても検討の余地がある。 |
○ | 今後の人材養成にあたっては、コーディネーター的な役割をはじめ、養成される人材の担うべき具体的な役割を明確にする必要があるとともに、そのような人材の地域における具体的な受け皿づくりも併せて行うことが重要である。 |
○ | 活動を始めるきっかけとしては、口コミや友人からのすすめ、市町村広報など、何らかの情報提供がなければならない。特に高齢者の場合、きめ細かく有用な活動情報が身近なところにおいて容易に取得できるような仕組みが必要である。 そのためには、スーパーなど人の多く集まる企業の掲示板の活用のように、企業や企業OB会の協力を求めるなど、情報提供先の輪を一層広げる方策を検討していく必要がある。 また特に、本格的な高度情報化社会の到来がうたわれる21世紀を目前に控えた今日、新しい情報通信機器やネットワークの活用は避けて通れないところである。国も自治体も明るい長寿社会づくり推進機構(以下、「推進機構」という。)等の関係団体も、さらには高齢者自身も、生きがいと健康づくり分野における情報化についての積極的な取り組みを図っていく必要がある。 |
○ | これについては、例えば、県の推進機構に、人材や各種活動の場、サークル・団体の情報、各種イベントの情報や市町村の関連情報など、様々な広域レベルの情報を蓄積し、それを地域のすべての関係者に提供できるような、県内の生きがいと健康づくりに関する情報ネットワークを構築することが考えられる。 |
○ | 生きがいと健康づくり活動に関する情報のうち、地域に密着した情報については、市町村が中心となって関係団体と協力して情報を集積・精査し、高齢者が選択しやすいように提供されることが望ましい。そのためには、行政区画や団体相互のタテワリの壁を乗り越え、関係者間の連携による「情報の共有」のしくみ等が工夫される必要がある。 |
○ | 他方、高齢者自身にあっても、単に情報の受け手になるだけではなく、自ら情報の発信源となるよう、ワープロ・パソコンの操作など情報通信機器を活用したコミュニケーション能力を高めるための意欲的、積極的な取り組みも求められる。 そのためには、身近なところで情報通信機器に接することのできる体制整備と 機器操作の簡便化など、高齢者向けの仕組みの工夫が当面必要である。 |
○ | 高齢者の「生きがい」と「健康づくり」とは密接に関係しており、表裏一体とも言えるものである。「生きがい」は人の生き方にもかかわる問題で、扱いが難しい面もあるが、「健康づくり」は誰にとっても必要なもので受け入れやすいものでもある。このため「健康づくり」を切り口として検討し、それを生きがいづくりにつなげていく工夫も必要である。 |
○ | 「健康」については、医学や医療の世界では、一般的に身体から出発し、心理面、そして社会生活へという流れで考えることが多いようである。しかし、高齢者の場合には、予防的見地から、逆にまず社会生活面からのアプローチが大切である。このような意味において、例えば、家に閉じこもりがちな高齢者については、老人クラブの「転居者をあたたかく迎える運動」のように何らかの暖かい接触が必要である。また、同じく老人クラブの「健康をすすめる運動」においては、地域の保健婦や体育指導委員の支援を受け、シニア・スポーツリーダーや女性リーダーが中心となって寝たきりゼロを目指した体操の普及に努めているが、老人クラブの仲間づくりを通じた健康づくりとして注目される。 |
○ | 高齢者の健康づくりは、各自の健康状態や体力に応じて、自立して日常生活ができることを目標になされるべきである。このような観点からは、高齢者の健康度の新しい評価基準が必要であり、例えば、「疾病」の有無よりも日常生活自立機能面を重視し、生活動作については、「どの程度できるのか」をみようとする考え方も出てきている。 今後は、このような新しい健康評価指標や考え方に基づく新しい高齢者の健康管理手法の確立が必要である。また、高齢者の身体機能の理解・心理面での配慮ができる質の高い指導者や共に支えあう仲間も必要である。 なお、新しい高齢者の健康管理手法については、特にサラリーマンOBが増大しつつある今日、従来の職域における健康管理から退職後の地域における健康管理に移行するにあたって、例えば、現役時代のデータの継続的管理(引き継ぎ)など、サラリーマンOBを念頭においた、地域における健康管理のあり方を検討する必要がある。 |
○ | スウェーデンでは、高齢者(年金受給者)向け体操の指導をする民間組織が自治体の大きなバックアップによって質の高い指導者を養成し、高齢者の身近な施設に派遣している。また、ホームヘルパーの仕事に高齢者の健康レベルにあわせた体操指導や散歩が含まれている。 わが国においても、個人差が非常に大きいという高齢者の機能特性やその安全性を踏まえた高齢者のための運動プログラムづくりと同時に、健康運動指導士などの指導のもと、民間の健康増進施設や市町村保健センター等を活用して地域で高齢者のグループを指導するような事業を検討すべきである。 |
○ | 高齢者の積極的な健康づくりのためには、中高年からではなく生涯を通じた若い時からの、栄養面・運動面・休養面での健康的な生活習慣の形成ということが特に重要であり、しかも身体面だけではなく、ストレス対策も含めて考えていく必要がある。 |
○ | 高齢者の健康については、一般的に「低下する一方である」と考えられがちであるが、高齢者でも、(20歳代に戻ることはできないが)単に現状を維持したり、低下を防ぐだけではなく、現時点よりも能力を高め向上させることが可能であるということが、最近の研究成果で明らかになってきている。 このように、高齢になっても能力回復・向上のための努力の効果が現れるということから、「高齢」についても暗く考える必要はなく、健康づくりについての積極的な取り組みの必要性を改めて認識すべきであろう。 特に、高齢者の身体面での健康づくりを考える上で最も重要な問題点は、筋力の低下と言われている。例えば、高齢者の健康や自立の大きな障害要因となっている転倒や骨折、それによる寝たきりを予防するための筋力(わけても脚力)を積極的に向上させるような取り組みが必要であろう。 |
○ | 健康・体力づくり事業財団が「健康情報ネットワークシステム」の整備に着手しているところであるが、高齢者の健康の問題については、高齢者の健康観、健康評価指標、健康管理手法のいずれも十分確立しておらず、その面での研究開発とその成果の蓄積がまず必要である。 |
○ | 生きがいや健康づくりは、各地域の特色や人々の創意工夫を生かしながら、高齢者ニ−ズにきめ細かく対応していく必要があるとともに、地域づくりとも密接な関係をもつものである。従って、国が全国津々浦々まで画一的に推進するよりも、住民に最も身近な公共団体たる市町村が主体的に推進すべきものであり、その創意工夫が最大限生かされることが望まれる分野である。 |
○ | 特に今後は、都市部を中心に急速に増大し多様化するサラリ−マンOBのニ−ズに対応した生きがいと健康づくりが大きな課題となる。このため、都市部ないしその周辺の市町村にあっては、都市型高齢者像というものを念頭に置いて、その社会参加のきっかけづくりとしての研修や情報提供、活動の中心となるコーディネーター的な人材の確保といった都市型高齢者に対応した基盤整備や環境づくりを行うことが求められる。 |
○ | また、日常生活に密着した地域社会において社会参加を促進するためには、既存団体への支援強化はもちろんであるが、より身近な所で気軽に参加できる小グループなどの自主的な受け皿づくりを積極的に支援する必要がある。 とりわけ、概ね小学校区単位での空き教室・余裕教室の活用、空いた民間施設(学習塾も含む)や民家の活用など、「街なかのたまり場」としての身近な活動の場の確保を重点的に行う必要がある。 |
○ | ただし、情報や交通網の発達した大都市における高齢者(特に前期高齢者)の活動は、市町村の行政区画を越えた広域的活動が自然な形となる。このような都市型高齢者ニ−ズを満足させるためには、市町村の行政区画を越えた広域的なプログラムづくりや施設づくりにも併せて取り組まなければならない。 |
○ | 行政改革という大きな流れの中で、地方分権(国と地方の役割分担の見直し)が論議となっている。地方分権推進委員会は平成8年3月の中間報告と12月の第1次勧告において、国と地方の役割分担の見直しについて提言しているが、高齢者の生きがいと健康づくり活動分野における国の役割や関与のあり方を考えるにあたっても、これらの動向を十分踏まえていく必要がある。 |
○ | 国はこれまで、明るい長寿社会づくりをめざして、推進機構や老人クラブなどへの支援を通じて「生きがいと健康づくり推進事業」などを国民運動として全国各地域ですすめてきたが、生きがいと健康づくり活動は、本質的に地域ときわめて密接な関係をもつものであることから、地方自治体段階における自主的な取り組みに委ねるのに適した分野である。 |
○ | 従って、国はゴ−ルドプランのように、基本的な施策方針の決定やそれを具体化するためのプログラム策定・仕組みづくりなど、「大枠の設定」が中心的な役割となる。特に今後は、例えば、全国的な団体への支援、ねんりんピックなど全国規模の普及啓発イベントの推進、将来を見通した先進的な調査研究、全国的な情報通信 ネットワークの構築、全国的な波及効果の期待されるモデルケ−ス的事業への先導的な試みなど、限られた財源の中で、真に全国的な視点で取り組むべき事業に重点を置いていくことになろう。 |
○ | また、各地方自治体が柔軟に施策を展開しやすいように、各種の行財政制度を改善していく必要もある。基本的には、地方自治体段階における行政需要の増大に対応した自主的財源の確保を図ることが必要であるが、当面は、例えば、既存国庫補助対象資産を地域の実情に応じて地方自治体や住民の望む幅広い用途に柔軟に転用(有効活用)できるようにしたり、あるいは、各種情報システムの構築にみられるように、個々の目的ごとの縦割りによる類似事業を見直すことなどの検討を行う必要がある。 |
荒 尾 孝 | [(財)明治生命厚生事業団体力医学研究所長] |
石 原 美智子 | [(福)新生会理事長、叶V生メディカル代表取締役] |
伊 藤 憲 喜 | [(社)日本セカンドライフ協会(JASS)常務理事] |
伊 原 正 躬 | [(財)長寿社会開発センター専務理事] <注> |
荻 原 隆 二 | [(財)健康・体力づくり事業財団常務理事] |
小 野 進 一 | [前(社)全国シルバー人材センター事業協会専務理事] |
香 川 正 弘 | [上智大学文学部教授] |
金 子 勇 | [北海道大学文学部教授] |
見 坊 和 雄 | [(財)全国老人クラブ連合会常務理事] |
*坂 巻 煕 | [淑徳大学教授、日本福祉大学客員教授] |
柴 田 齊 | [(財)青森県長寿社会振興財団常務理事] |
鈴 木 勲 | [栃木県保健福祉部高齢対策課長] |
高 橋 紘 士 | [法政大学社会学部教授] |
高 橋 弘 | [埼玉県春日部市福祉部長] |
武 井 正 子 | [順天堂大学スポーツ健康科学部教授] |
竹 内 孝 仁 | [日本医科大学教授] |
武 内 安 治 | [(財)大阪府老人クラブ連合会会長] |
土 井 康 晴 | [(社)生活福祉研究機構専務理事] |
松 本 吉 平 | [(財)健康・生きがい開発財団常務理事] |
牟 田 悌 三 | [俳優((福)世田谷ボランティア協会理事長)] |
村 田 幸 子 | [NHK解説委員] |
森 戸 哲 | [地域総合研究所所長] |
山 田 美和子 | [(福)全国社会福祉協議会高年福祉部長] |
問い合わせ先 厚生省老人保健福祉局老人福祉振興課 担 当 遠藤(内3933) 電 話 (代)[現在ご利用いただけません] (直)03−3597−1869