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今後の医療保険制度のあり方と平成9年改正についてNO1

平成8年11月27日

 厚生大臣  小泉 純一郎 殿

医療保険審議会
会長 塩野谷 祐一


今後の医療保険制度のあり方と平成9年改正について(建議書)


 我が国の医療保険制度は、医学の進歩を踏まえた良質な医療を提供し、高額な医療に伴う費用負担から家計を守る制度として、国民生活に不可欠な機能を果たしてきた。しかし、近年、経済基調が変化する一方で、人口の高齢化等に伴う医療費の増大により、医療保険財政は赤字構造体質に変わり、このまま放置すれば国民皆保険体制が崩壊しかねないという危機的状況に至った。
 当審議会は、このような状況の下で、今後の医療保険制度のあり方について、昨年3月に審議を開始し、昨年8月に「検討項目III、IV、Vを中心としたこれまでの検討内容の中間取りまとめ」、本年6月に「今後の国民医療と医療保険制度改革のあり方について(第2次報告)」をそれぞれ取りまとめ、7月にはいわゆる複数改革メニューとその関連試算を公表し、10月には「今後の医療保険改革の基本的な方向についての議論の整理」という形で今後の医療保険改革の目標を取りまとめる等、検討の各段階で国民に議論の素材を提供し、国民の選択に資するよう配慮してきたところである。
 こうした審議を踏まえ、当審議会は下記のとおり建議書を取りまとめ、21世紀初頭に目指すべき医療保険制度の姿を提示し、これに向けて医療提供体制を含めた医療及び医療保険制度全般の総合的かつ段階的な一連の改革を実施するとともに、その第一段階として平成9年改正を行うよう提言する。
 この間の当審議会の議論を踏まえ、特に強調しておきたいことは、
 我が国社会経済のあらゆる分野において構造改革が求められている今日、医療保険改革は社会保障構造改革の重要な一環として位置付けられるものであること
 国民皆保険体制を安定的に維持していくとともに、国民に対して質が高く効率的な医療を提供していくためには、医療提供体制や診療報酬制度も含めて、医療及び医療保険制度全般の改革を確実に進めていかなければならないこと
の2点である。
 21世紀の医療保険制度を目指して改革を進めていくためには、直ちに医療及び医療保険制度全般の改革に着手するとともに、当面の財政危機を克服していくことが必要であり、このため、平成9年度から本建議書のとおり国民に医療保険制度を支えるための負担を求めなければならない。当審議会としては、このような苦渋の選択をせざるを得なかったことについて、何よりも国民の理解を求めたい。
 厚生省に対しては、当審議会における審議の経過を十分に踏まえ、医療保険改革に向けて国民の理解を得るよう最大限の努力を行うとともに、着実に医療保険改革を進めていくため、早急に具体案を取りまとめることを求めたい。


 医療保険改革は、社会保障制度全体の構造改革の一環として位置付け、整合性をとって進める。
I 医療保険制度を取り巻く状況
   経済基調が変化し、今後これまでのような高い経済成長が見込めない中で、我が国経済社会全体の構造改革が求められている。
   一方、世界でも例を見ないスピードで人口の高齢化と少子化が進行し、社会保障制度においても全体の構造改革が必要となっている。
   国民医療費は近年の経済基調の変化にもかかわらず、人口の高齢化等により増加し続けており、各医療保険制度の財政は深刻な赤字構造に陥っている。
   このような国民医療費の伸びと経済成長率とのギャップが続けば、医療費を賄うための国民負担が著しく増大し、医療保険制度自体が立ち行かなくなる事態も懸念される。現に、このままでは平成9年度には運営に支障を来す保険者が生ずることが見込まれている。
   国民の医療ニーズが高度化・多様化するとともに、少子高齢社会において生涯を健やかに過ごす上で、健康づくりや予防対策が重要となっている。これを踏まえ、新しい保健医療システムの確立が求められている。
   これまで、医学、医療の進歩を踏まえた保険診療を提供し、高額医療による費用負担から家計を守ってきた国民皆保険体制を今後とも維持していくためには、総合的な医療保険改革が必要である。
II 21世紀初頭に目指すべき医療保険制度の姿
1.基本的な考え方
〔医療の質の向上〕
   医療の高度化、技術革新を踏まえつつ、療養環境の改善、医療機関の機能分担と連携等を推進し、医療の質の一層の向上を図る。
   医療に関する十分な情報を提供し、国民の選択を尊重する。
〔少子高齢社会における国民皆保険体制〕
   生活水準の向上、高齢化の進行、疾病構造の変化、国民の医療に対するニーズの高度化・多様化等に対応した国民皆保険体制を堅持する。
   21世紀の少子高齢社会にあっても国民の負担を過重なものにしないという社会保障全体の構造改革の目標を達成していくため、保険料、公費負担及び患者負担のバランスを考慮しつつ、医療給付費の伸びの安定化を図る。
〔医療の効率化等〕
   限られた医療資源の公正な配分のため、医療の効率化を図るとともに、制度間の公平や、給付と負担のバランスを確保する。
   医療及びその周辺について、公民の役割分担を進めるほか、医療の質を確保しつつ、競争原理が働くシステムに変える。
   生涯を通じて健康であるためには、国民1人1人が自らの健康を自ら守るという意識の下に健康保持に努力するとともに、行政や医療保険者もこれを支援し、積極的に健康づくり、疾病予防対策等各般の措置を講ずる。
2.医療の質の向上と効率化
 〔医療機関の機能分担と連携の強化〕
   医療へのフリーアクセスが保障されている一方で、外来患者の大病院指向や重複受診、長い待ち時間・短い診療、病状や治療内容について十分な説明が受けられない等の問題がある。
   患者の症状にふさわしい医療を提供するため、地域医療支援病院の制度化とあわせて、かかりつけ医(かかりつけ歯科医)の機能を果たしている医療機関、専門病院、療養型病床群、特定機能病院等といった医療機関の機能を明確化し、体系化を図り、このような方向に患者の流れを誘導していく。
   このような医療機関の機能を明確化する方向に沿って、病院と診療所を別の診療報酬体系とするなど、医療機関の機能に応じた診療報酬体系を創設する。
〔急性期医療の充実等〕
  介護保険制度の創設により、従来医療保険でカバーされていた介護サービス部分が介護保険制度に移行することに伴い、医療保険においては、急性期を中心とする入院医療の質の向上を図る。
 このため、急性期医療に関し、人員配置基準や施設基準の見直し、個室化の推進等医療機関の療養環境の改善、入院期間の短縮を図る。
   いわゆる社会的入院を解消するため、総合的な対策を講ずる。
   急性期の医療が終了し、在宅で療養したいという患者のニーズに応えるため、在宅医療を更に推進する。
〔薬剤に係る総合的な対策の推進等〕
   薬剤使用の適正化、薬剤費の効率化を図る。
   薬価基準に代わる新たな方式への転換を含め、薬価制度を抜本的に見直し、薬価差問題の解消を図るとともに、薬価算定の透明化を図る。
   薬剤使用の適正化に向けて、患者や医療機関の薬剤使用に係るコスト意識を涵養するため、一般用医薬品類似医薬品の給付除外を含めて薬剤給付のあり方を見直すほか、適正な医薬分業の推進、診療報酬や審査支払における対策など、総合的な対策を進める。
   検査について不適切な重複等を是正する。
〔効率的な医療提供体制の確保〕
   急性期病床と慢性期病床の区分を含めた必要病床数の見直し、医師数及び歯科医師数についての需給の見直しを行い、効率的な医療提供体制を構築する。
   医師の資質の向上を図るため、臨床研修を充実するとともに、チ−ム医療を推進するために必要な医療従事者の資質の向上を図る。
〔医療における情報の提供と患者の選択〕
   患者の選択を重視していく考え方に立ち、病院機能評価を充実するなど、患者に対し医療に関する正しい情報を積極的に提供する措置を講ずる。
3.安定した運営ができる医療保険制度の確立
   今後人口の高齢化が進行し、このままでは医療費の増大が続く一方で、保険料、公費負担、患者負担のいずれにせよ負担には自ずと限界がある。医療費の効率化を図りつつ、保険料、公費負担や患者負担のバランスを図る必要がある。
〔人口高齢化への適切な対応〕
   今後の人口の高齢化が医療費に極めて大きな影響を及ぼすことから、高齢者の医療制度の抜本的な見直しが必要である。
 このため、高齢者の置かれた経済状況の変化等を踏まえ、医療保険制度における高齢者の位置付けを再検討し、介護保険制度の創設も念頭に置き、同制度の施行を目途に、老人保健制度に代わる新たな仕組みの創設を含め、老人医療の費用負担の仕組みを見直す。
   高齢者の一部負担については、世代間の公平の観点から、高齢者の心身の特性にも配慮しつつ、現役世代の負担と均衡を図る方向で見直す。その際、低所得の高齢者については適切な配慮が必要である。
〔医療費の伸びの安定化〕
   医療費の総額の伸びを財源の規模に応じて安定化させるため、現行の出来高払制の見直しを含め、包括払制、総額請負制なども視野に入れて、病院と診療所を別の診療報酬体系とするなど、医療機関の機能に応じた診療報酬体系を創設するとともに、審査支払方式を再検討する。
   医療費の伸びと密接な関係にある病床数、医師数及び歯科医師数のうち、医療保険制度で過剰と認められる部分については、必要な対応を図ることができる仕組みを設ける。
〔給付率の水準〕
   医療保険制度における給付については、昭和48年に高額療養費制度が導入され、今日では実質的な給付率が最も低い国民健康保険でもほぼ8割となっている。こうした給付のあり方は信頼できる医療保険制度として国民に定着している。今後、各制度を通じ適切な実効給付率とすることとし、法定給付率についても将来的に統一を目指す。その際、低所得者については必要な配慮を行う。
〔患者ニーズの高度化・多様化への対応〕
   高度化・多様化する国民の医療ニーズを踏まえ、医療サービスの基本的な部分は医療保険で賄い、患者の選択による部分については特定療養費制度により保険給付と保険給付外のサービスとの組合せを拡充する。
   技術料、薬剤、室料、食事を始めとする医療に係る様々なコストについて、モノと技術の関係を整理しつつ、それぞれの項目ごとに、医療保険における評価を再検討する。
   傷病手当金等現金給付のあり方については、その果たしている機能、年金等他制度との役割分担も含め、社会保障制度全体の再編成の動向を見極めつつ見直す。
〔保険料負担の公平化〕
   保険料の賦課方法については、賞与の支給が十分に定着し、その総収入に占める比重が増大していることなど報酬支払形態の多様化を踏まえ、公平の観点から見直す。
   高齢者の保険料負担については、年金の成熟化等を踏まえ、そのあり方を見直す。
〔保険者の機能の強化等〕
  医療保険制度における当事者の選択と責任の比重を高めるという観点から、保険者の機能を強化していく必要がある。
   保険者は被保険者に対して医療機関に関する積極的な情報提供等を行うほか、保険者が医療機関の質について評価する方法を導入することなどにより、保険者の自律性を高める。また、自律性を高めるため、保険者規模を適正なものとするなど保険集団のあり方を見直す。
   保険者の事業及び事務の効率化・合理化を進める。
〔総合的な医療情報システムの構築〕
   情報通信やデータ処理の技術革新を、プライバシー保護にも配慮しつつ、医療の分野に積極的に導入し、医療の質の向上と医療機関や審査支払機関・保険者の事務処理コストの軽減を図る。
4.今後の医療保険改革の進め方
〔社会保障構造改革との関係〕
 
〔改革の早期完了〕
   21世紀初頭には、いわゆる団塊の世代が65歳に達し、高齢化率が2割を超えて人口の高齢化が本格化することを視野に入れ、医療保険改革は総合的かつ段階的に進め、できるだけ早く改革を完了させる。


NO2に続く
 問い合わせ先 厚生省保険局企画課
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