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事業評価書(
事前
・事後)
平成14年9月

評価対象(事務事業名) 食品の細菌学的試験方法の標準化に関する研究
担当部局・課 主管課 大臣官房厚生科学課(国立医薬品食品衛生研究所)
関係課 医薬局食品保健部


1.事務事業の内容

(1) 関連する政策体系の施策目標
  番号  
基本目標 安心・快適な生活環境づくりを衛生的観点から推進すること
施策目標 食品の安全性を確保すること
I 食中毒等食品による衛生上の被害の発生を減らし、食品の安全性の確保を図ること

(2) 事務事業の概要
事業内容(
新規
・一部新規)
 国民生活の大きな不安要因である食品の安全性の確保のため、食中毒起因菌の分離・検出の手法を、煩雑で長時間を要した従来の培養法から、迅速・簡便な試験法へ移行し、要所での食品汚染菌の検出を容易にすることにより、汚染菌の制御を徹底する。本事業では多くの市販や研究段階の培養に依らない試験法を従来の標準法である培養法と比較、科学的にその性能を評価し、標準化を行う。高い精度や信頼性のある培養に依らない新しい細菌検査法を評価し標準化することにより積極的に取り入れ、食品中の食中毒菌制御と大規模食中毒の発生予防に貢献する。
予算額 (単位:百万円)
H11 H12 H13 H14 H15
151

(3) 問題分析
(1)現状分析
 食品衛生の現場においては従来、食中毒起因菌の検出・分離は主に培養法に依ってきた。従って菌の検出同定に長時間を要し、病原体を扱うことから特殊な設備を必要とし、作業者は熟練を必要とした。また、食品中では食中毒起因菌は損傷を受けていることが多く、選択培地上に増殖しないこともあるため、食品の汚染実態の把握は容易ではなく、日常的に食品の汚染状況を掌握するために従来の培養を主体とする試験法を適用することは難しく、食品の製造・流通工程から食中毒起因菌の排除は困難であった。培養による試験検査法は、主に食中毒事例発生後に汚染経路の特定に用いられ、食品の流通から食中毒起因菌を排除する目的で常時利用されることは、ほとんどない。
(2)原因分析
 迅速な試験法は、培養法の補助に使われることが多く、単独で用いられることが少なかった。公定法と呼ばれる方法が全て菌の分離に根ざしており、その検査法自体も長期に渡り大きな変更を加えられていないことの影響は強い。食中毒事例では行政処分を受けることから、公定法でない培養に依らない試験法は、なかなか正当な評価を受けることが出来ず、あくまでも補助的に利用されるに止まっていた。一方、食中毒起因菌の食品汚染は、食中毒発生に直結することから、食品からそれらの汚染菌を排除する必要性は認められていたが、菌の検出を培養による検査法に頼っていたため、日常的に行われることは無かった。
(3)問題点
 食品から食中毒起因菌を排除するには、食品から汚染菌を検出するのに適する迅速な試験法が必要である。近年、たんぱく質や遺伝子をマーカーとしたキットが市販されているが、あくまでも培養法の補助に用いられることが多い。従って、それぞれのキットは、その性能やコンセプトが様々で、単独に用いて信頼性がどの程度得られるのかは、不明である。一方、これらの中には、適当なマーカーを用いて迅速性や感度の面で、培養法とほぼ同等な実用性を持つと思われる物も見られる。食品中には培養法での検出が難しい損傷菌も多く、食品での汚染菌の検査法には、その迅速性や適用性からたんぱく質や遺伝子をマーカーとする試験法が適すると思われる。
(4)事務事業の必要性
 HACCPが普及しつつあるにも拘らず、食中毒事例数や死者数の減少が見られない現状では、試験法の抜本的な見直しが必要である。その迅速性や実用性から食品での汚染調査には、それに適した試験法を用いる必要があり、公的な機関が適した試験法を評価し、標準化を行う必要がある。本事業により迅速・高感度な試験法の標準化が進めば、まず検疫所における輸入食品の検査に適用し、海外からの食中毒菌の持ち込みを効果的に排除出来る。さらに地方衛生研究所が定期的に食品について汚染調査に適用すれば、徐々に民間にも標準化された精度の高い方法が普及し、食品の製造・流通過程における汚染食品の排除が徹底し、食品衛生の向上に大変有用であると考える。

(4) 事務事業の目標
目標達成年度(又は政策効果発現時期)  
アウトプット指標 H15 H16 H17 H18 H19 目標値/基準値
食中毒統計を基礎に施策に対応した健康危害発生数            
(説明) (モニタリングの方法)


2.評価

(1) 必要性
公益性の有無(主に官民の役割分担の観点から)
その他
(理由)その迅速性や実用性から食品での汚染調査には、それに適した試験法を用いる必要があり、公的な機関が適した試験法を評価し、標準化を行う必要がある。まず検疫所における輸入食品の検査に適用し、さらに地方衛生研究所が定期的に食品について汚染調査に適用すれば、民間にも標準化された精度の高い方法が普及し、食品の製造・流通過程における汚染食品の排除が徹底する。
国で行う必要性の有無(主に国と地方の役割分担の観点から)
その他
(理由)食品の50%を輸入に頼るわが国において、食品の安全性の確保には検疫所での業務の効率化が必要不可欠であり、本事業により絶大な貢献をなしうる。
民営化や外部委託の可否
(理由)上記の理由と、特定のメーカーに偏らず科学的・客観的な評価を行うため、不可能であると考える。
緊要性の有無
(理由)過去数年の状況により、食品の安全性は国民生活に於ける最大の不安要因のひとつであり、その確保・向上は緊急性の高い問題となっている。本年も腸管出血性大腸菌による死者が多数出ており、早急に本事業を開始して迅速な検査法により食品検査を強化し、これまで防ぎ得なかった食中毒の防止に役立てることが急務である。さらに、輸入食品を介する国内での食中毒の発生と、海外から持ち込まれる食中毒起因菌の国内への定着が問題となっており、上記の検査法の導入により、検疫所での食品検査業務の効率化を図り、こういった汚染食品の国内への流入を防止する事も急務である。

(2) 有効性
政策効果が発現する経路
 本事業で標準化された迅速な試験法を用いると、食品中の食中毒起因菌の検出が簡素化し、菌の培養を必要としないことから自動化機械化も容易である。これによりまず輸入食品の検疫が徹底され、海外からの汚染食品の水際での排除が可能となる。国内に流通する食品の検査も容易となり、地方衛生研究所を始めとする行政機関での定期的な食品汚染実態調査が容易に行われ、汚染実態の把握が容易になる。一方、民間はこれに対応する形で、食品製造業者や食品流通業者が食品の原料検査や製造・調理工程のふき取り検査、食品のモニター等に利用することになり、食品の流通から食中毒起因菌が相乗的に排除されることが期待される。
これまで達成された効果、今後見込まれる効果
 本事業により培養に依らない試験法が標準化されると、食中毒菌による食品汚染が迅速に検出されることにより、食中毒起因菌を食品から効率的に排除することが可能となり、食中毒の発生を未然に防止する事ができる。
政策の有効性の評価に特に留意が必要な事項
 本事業の目指す培養に依らない迅速な試験法は、あくまでも食中毒汚染食品を流通から効率的に排除する事を目標としているため、食中毒発生時の行政検査のような従.来の標準法(培養により菌を分離同定する手法)の精度と全く同等の議論をすることは出来ない。マーカーによっては、食中毒菌として考えられている菌種より広く菌を検出したり、あるいは菌種より下のレベルで特定の病原性の強い菌群のみを検出することも想定される。従って、食中毒の原因菌の特定のような行政処分の伴う検査などに今回標準化した方法を適用できるかについては、培養法との比較による長期に渡る検討が必要であると思われる。
 食中毒の原因施設は家庭から製造所、飲食店、事業所等多岐に渡っており、大手事業所をのぞき、本事業により標準化された試験方法やその応用が民間に広く普及するにはある程度の時間がかかると思われる。

(3) 効率性
手段の適正性
 市販されている培養に依らない細菌検査キットの評価を、その使用マーカーの妥当性を含めて本所で保有している多数の患者由来および食品由来株を用いて行うため、適正であるといえる。培養に依らない試験法は、用いているマーカーの妥当性が最も重要であり、マーカーの評価は特に厳密でなければ試験法の信頼性を担保出来ない。マーカーの科学的な評価は、現在広く普及しているプロテオーム解析の手法を応用することがもっとも信頼性が高く、それに代わる適当な評価法は無い。マーカーの妥当性が確認された試験法は、従来の培養による標準的な試験法との比較により、標準化を行う。標準化された試験法を用いることにより食品の汚染検査が徹底し、食中毒菌の効果的な制御が行われるようになる。
効果と費用との関係に関する分析
 国民生活の大きな不安要因である食品の安全性の確保、特に食品からの食中毒起因菌の排除は、緊急性が高い問題である。食中毒が発生すれば莫大な経済損失に加え貴重な人命の損失や身体的苦痛を受けることになる。本事業にはプロテオーム解析と最新の分析機器が必須のため、その設備にある程度の費用が必要であるが、それに見合う十分な対費用効果が得られると考える。
他の類似施策(他省庁分を含む)がある場合の重複の有無
(有の場合の整理の考え方)

(4) その他
 食品の安全性に関する研究は、「科学技術」における重点分野の1つである「ライフサイエンス」のうちの主要な項目として例示されている。本件は、食中毒起因菌を食品から効率的に排除して食中毒により健康被害を未然に防止するための試験法に関する研究を行うものであり、「安心で安全に暮らせる社会」を目指す施政方針演説の内容と、その実現を図るための新重点4分野の趣旨に合致するものである。


3.特記事項

(1)学識経験を有する者の知見の活用に関する事項
 なし

(2)各種政府決定との関係及び遵守状況
 なし

(3)総務省による行政評価・監視等の状況
 なし

(4)国会による決議等の状況(警告決議、付帯決議等)
 なし

(5)会計検査院による指摘
 なし


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