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第II部 経済社会の変化と働き方の多様化

第1章 経済・雇用の動向と働き方の多様化

第1節 中長期的な経済、雇用等の動向の概観

 我が国の経済成長率は1990年代に大きく低下しており、デフレも進行している。労働市場においては、少子高齢化、女性の労働力人口に占める比率の上昇、高学歴化など労働供給面及び産業構造・職業構造の変化、情報化の進展など労働需要面の変化が生じている。また、雇用創出・喪失の動きをみると、新設及び既存事業所の増加寄与が低下する一方、廃止事業所による雇用の減少寄与が高まり、1996〜2001年では従業者数は減少している。
 我が国の実質労働生産性上昇率(年率)の動向をみると、資本ストックと技術進歩等の全要素生産性の上昇寄与の縮小から、1980年代の3.9%から1990年代は1.9%へと低下している。製造業では全産業よりその低下幅が小さいが、この要因として全要素生産性の上昇寄与が依然として高かったことが寄与している。
 経済の国際化が進展する中で、国際分業が進展し、海外生産比率が上昇しているが、これらは製造業の国内就業機会の喪失に結びついている可能性がある。

(経済全体の動向)
 我が国の実質経済成長率は、1990年代に入ってバブル崩壊後低下している(第11図(1))。また、名目成長率は、緩やかなデフレが進展する中で弱い動きとなっており、特に1998年以降は2000年を除きマイナス成長となっている。また、最近の特徴として、物価が持続的に下落し、緩やかなデフレ傾向にあることが挙げられる(第11図(2))。

(労働力需給の変化)
 労働力供給面についてみると、(1)労働力人口の減少(2002年の6,689万人から2025年には6,300万人に減少する見込み)と、労働力人口に占める60歳以上の割合の高まり(1970年の8.8%、2002年の13.9%から2025年には19.7%へと上昇する見込み)、(2)女性の労働力率の一層の上昇(及び労働力人口に占める比率の上昇)、(3)高学歴化の進展、などの変化が生じている。
 労働力需要面についてみると、(1)第3次産業の構成比の長期的上昇及びそれに伴うホワイトカラー化などによる産業別就業構造及び職業構造の変化の進展、(2)情報化によるホワイトカラーの仕事の質の変化、非正規雇用の増加及び多様な勤務形態の増加、などの変化が生じている。

(雇用創出・雇用喪失の状況)
 雇用需要に影響を及ぼす雇用創出・雇用喪失の状況についてみると、バブル崩壊後は新設事業所の従業者増加寄与が低下しており、1996〜2001年には既存事業所の増加寄与が縮小し、廃止事業所の減少寄与が拡大しており、新設事業所の増加寄与が低水準であったことから、従業者数は初めての減少となった(第12図)。
 さらに、2001年と1991年の既存事業所における産業別の雇用増減率の動向を比較すると、全体では雇用創出率が低下する一方で雇用喪失率が大幅に高まったことから雇用増減率はマイナスに転じたが、サービス業のうち、社会福祉関連サービス、医療・保健サービスでは、1991年よりも雇用創出率及び雇用増加率が高くなっている。

(労働生産性の動向)
 我が国における時間当たり実質労働生産性上昇率(年率)は、資本ストック及び技術進歩等の上昇寄与が縮小したため、1980年代の3.9%から1990年代の1.9%へと低下した。製造業では全要素生産性の上昇寄与が依然として高かったため、全産業と比べて実質労働生産性上昇率の縮小幅は小さいものとなっている(1980年代の4.2%から1990年代は3.2%)(第13図)。
 1999年の製造業の時間当たり実質労働生産性及び単位労働コストの水準をみると、ともに先進国で中位水準にある。また、1990年代のこれらの上昇率をみると、実質労働生産性上昇率は中位水準、単位労働コスト上昇率は90年代前半の大幅な円高の影響もあり、他国より高くなっている(第14表)。

(貿易構造の変化、海外生産の増加の雇用への影響)
 我が国の貿易構造をみると、輸出は機械等加工業種が上位を占め、輸入は製品輸出比率が6割を超える水準に高まり、地域別には東アジアのウェイトが高まっている。この背景には、1985年のプラザ合意以降の円高の進展等を背景に労働集約財や低付加価値製品の海外生産や輸入増大を図り、国内製品や輸出製品をより高付加価値製品にシフトするという国際分業が進展していると考えられる。自動車や資本財部品は競争力を維持しているが、家電、繊維製品は競争力を失っており、1990年代前半以降は製造コスト削減を目的とした海外投資の比重が高まっている。海外現地生産比率が上昇する中で、我が国への逆輸入も増加している。
 こうした国際分業の進展や海外現地生産比率の上昇は、我が国製造業の就業者数の減少に結びついている可能性がある。その影響を試算すると、(1)輸入比率が大半の業種で高まり、輸出比率が輸入比率ほど高まりがみられなかった貿易構造の変化(1990年と2000年の比較)による就業機会喪失効果は約75万人減少(1990年の就業者数の5.4%減)(第15表)、(2)2000年度1年間における製造業の海外現地生産による就業機会喪失効果は約60万人(第16表)となっている。


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