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第7節 情報通信技術革新が進む中での労働市場のあり方

 情報通信技術革新が進む中で、我が国の雇用システムを見直すべきであるとの意見があるが、雇用システムは各国独特なものであり、また、我が国の雇用システムは過去の産業構造変化に円滑に対応してきた。企業もできる限り雇用を維持しようという考えを持っている。
 従って、情報通信技術革新に対しても日本の強みをいかし、柔軟な内部労働市場を確保していく必要がある。同時に、外部労働市場における円滑な労働移動も必要であり、ミスマッチの解消を図っていくことが重要である。
 また、情報通信技術革新の成果を地域の発展に結びつけるためには、人材の確保・育成が必要である。

 (多様な各国の雇用システム)

○ 日本型雇用慣行の特徴として、年功序列賃金、長期雇用慣行等があげられる。雇用システムは、各国とも独特なものであり、これは経済合理性だけでなく、歴史的、社会的背景や国民性などが影響してくるからであると考えられる。今後、情報通信技術革新の進展する状況下で、雇用システムのあり方について見直しが必要となった場合にも、単純に外国のシステムを持ってくるのではなく、我が国の実状にあった雇用システムを模索することが必要である(第35図第36図)。

 (日本型雇用システムの特徴と技術革新)

○ 我が国はこれまでも、高度成長期を始め、大きな技術革新を経験してきたが、技術革新に円滑に対応する上で、日本型雇用システムの特徴が強みになっている。具体的には、(1)雇用の安定を保障するため、労働者は新技術や配置転換への抵抗が少ない、(2)長期にわたる職場内の人間関係を通して情報の共有・蓄積が可能である、(3)コスト回収が可能なため企業が教育訓練に積極的になれる、ことなどがあげられる。

○ 産業構造の変化は、むしろ高度成長期の方が現在よりも大きく、それに対し日本型雇用システムは柔軟な内部労働市場と外部労働市場における円滑な労働移動によって対応してきた(第37図)。企業内では、能力開発や配置転換によって対応する一方、外部労働市場では、新卒採用や農村労働者のほか、需要側が労働者を引っ張るプル型の転職により円滑な労働移動が行われていた(第38図)。

○ 技術革新の内容や経済・社会状況は異なるものの、かつての技術革新にいかされた我が国の雇用システムの特徴は、今回の情報通信技術革新にもいかすことができると考えられる。

 (柔軟な内部労働市場の確保)

○ 企業も、情報通信技術革新の中、従業員の雇用を重視する方針である。しかし、かつての生産部門における技術革新も生産様式やライン構成を変えたように、事務・管理業務における情報通信技術革新は、これらの業務のやり方を変え、企業組織の変更を求めることになる。雇用の安定と柔軟な内部労働市場を確保しながら、インセンティブを高める仕組みを、労使納得のいく形で作っていくことが重要である。また、柔軟な内部労働市場を確保する上では、能力開発も重要である。企業が人に求める能力は、情報機器に代替不可能な能力であり、企業はそうした人材の教育訓練をOJTで行うと予定している。

 (ミスマッチの原因と対応策)

○ 情報通信技術革新やそれに伴う産業構造の変化に対応するためには、外部労働市場における円滑な労働移動も不可欠である。しかし、外部労働市場においてはミスマッチの問題が大きく、ミスマッチの要因としては、求人の年齢要件、賃金などの労働条件、職業能力・経験があげられる(第39図第40図)。特に年齢については、雇用対策法の改正により、事業主は一定の場合に年齢にかかわりなく均等な機会を与えるよう努めることとされた。また、求職者に対する賃金などについての正確な情報提供、適切な職業能力開発が必要である。

 (民間の労働力需給調整システムの強化)

○ 外部労働市場における円滑な労働移動を行うためには、民間の労働力需給調整システムを十分に機能させることが必要である。このため、「しごと情報ネット」の構築など、官民連携した労働力需給調整機能の強化を図ることとしている。

 (公共職業安定所における情報通信技術の活用)

○ 公共職業安定所ではかねてより積極的に情報通信技術を活用してきたが、さらに、現在、首都圏及び近畿圏他主要都市の公共職業安定所で受理した求人情報のウェッブ上での提供を試行的に実施している。また、インターネットを活用して職業・労働市場情報の検索を行う総合的な職業情報提供システムに関する研究を進めている。

 (情報通信技術を活用した地域の発展)

○ 地域的制約をより小さなものとする情報通信技術は、地域の発展にとって重要な手段である。我が国でも各地で地域のネット関係ベンチャーなどの交流の場ができている。魅力的な交流機会が提供できれば、地方であることは不利とはならないが、人材の集積が重要であり、そのための環境づくりを行うことが重要である。


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