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第1章 労働経済の現況

第1節 雇用・失業情勢

 2000年(平成12年)の雇用・失業情勢は、完全失業率が、過去最高となった前年と同水準の4.7%となるなど依然として厳しい状況が続いた。しかし、景気の緩やかな改善を背景に、求人数、雇用者数などで改善の動きがみられた。

(1) 新規求人は1999年夏頃より前年比で増加を続け、新規求人倍率、有効求人倍率とも改善した。雇用過剰感や雇用調整実施事業所割合も改善に向かった。

(2) 雇用者数が5月以降前年差で増加を続け、就業者数も10月より増加に転じた。ただ、雇用増の大部分がパートタイマー等の臨時雇であり、改善の程度は弱いものであった。

(3) このような中、完全失業率は高水準で推移し、12月、2001年1月と連続して過去最高水準の4.9%を記録した。この背景としては、自営業主、家族従業者が大きく減少したこと、ミスマッチがみられたこと、年後半からは、雇用情勢の改善により新たに仕事を探し始めた者が失業者としてカウントされたことなどがあげられる。

(4) 2000年末から2001年初にかけて、景気の動きに足踏みがみられる中で、雇用の改善の動きに足踏みがみられた。

 今後、緊急経済対策に基づき、不良債権の直接償却を行うことで、雇用面への影響も考えられることから、同対策には、その影響を最小限にするための雇用対策も盛り込まれた。

 (増加を続ける雇用者)

○ 雇用者数は、景気の緩やかな改善を背景に5月以降増加を続け、年平均で5,356万人、前年差25万人と3年ぶりの増加となった(第1表)。その特徴をあげると、

(1) 女性の増加が著しかった。

(2) 企業規模別では規模の大きな企業で寄与が大きかった。

(3) 従業上の地位別では、パートタイマー等の臨時雇の寄与が大きく、常雇の回復は遅れた(第2図)。

(4) サービス業の増加が著しく、特に情報サービス業や労働者派遣業等の対事業所サービス業、社会保険,社会福祉関連等を含むその他のサービス業で大きく増加した。

○ 自営業主は前年差23万人減、家族従業者は前年差16万人減とともに減少した。これは景気の低迷や自営業主の高齢化、後継者不足等から廃業する自営業主が多かったためと考えられる。

○ 就業者数は、年平均で6,446万人、前年差16万人減と3年連続の減少となった。しかし、雇用者数の増加に伴い、10〜12月期には前年同期差で11四半期ぶりに増加した。

 (減少が続いたものの10月以降増加に転じた労働力人口)

○ 労働力人口は年平均では6,766万人、前年差13万人減と2年連続で減少したものの、10月には11か月ぶりに増加に転じた。このような労働力人口の動きは、夏頃までは、労働市場からの退出者の増加により失業の増加を抑制し、秋以降は、労働市場への参入者の増加により失業が減少しない要因となったと考えられる(第3表)。非労働力人口は、主として引退を決意した高齢者の増加により増加した。

○ 労働力率は、男性では年平均で76.4%と低下幅が拡大し、女性では49.3%と低下幅が縮小した。男女とも高齢層の低下が著しく、これは高齢者を中心とした自営業の廃業、引退の現れと考えられる。

 (高水準で推移する完全失業率)

○ 完全失業率は高水準で推移し、年平均では、過去最高を記録した前年と同水準の4.7%となった。月別では、12月、2001年1月に4.9%と過去最高水準を記録した。失業者数も、年平均で前年差3万人増の320万人と、年間を通じて高水準で推移した(第4図)。その特徴をあげると、

(1) 男性が4.9%、女性が4.5%と、女性の方が低かった。これは雇用者の増加が女性を中心としたものであったことを反映している。

(2) 非自発的離職者、自発的離職者、学卒未就職者はほぼ前年と同水準となった。一方、その他の者が特に年後半に増勢が顕著となり、前年差3万人の増加となった。非自発的離職者は、一般に雇用情勢に比較的敏感に反応する傾向があり、今回の動きは、雇用情勢の緩やかな改善を反映していると考えられる。

(3) 構造的・摩擦的失業率が高水準で推移し、10〜12月期には3.8%を記録した。一方、需要不足失業率は低下傾向にあり、需要不足以外の要因で完全失業率が高水準で推移したことが分かる(第5図)。

 (求人・求職の状況)

○ 2000年の新規求人倍率は1.05倍と前年と比べ0.18ポイント上昇し、有効求人倍率も0.59倍と0.11ポイント上昇し、求人倍率は改善の動きをみせた(第6図)。

○ 新規求人は前年比19.9%増と3年ぶりに増加し、大幅に改善した。その特徴をあげると、

(1) サービス業、卸売・小売業,飲食店、製造業で特に増加が著しかった。

(2) パートタイム新規求人が一般新規求人を上回る伸びをみせた。

○ 新規求職は前年比0.2%減と、ほぼ横ばいで推移した。その特徴をあげると、

(1) ここ数年高い伸びを示していた男性が、4〜6月期より減少に転じ前年比0.5%減となり、一方、女性は7〜9月期より増加に転じ前年比0.1%増となった。

(2) 離職求職者のうち、非自発的離職求職者が減少し、離職以外の求職者は増加幅が縮小した。

○ 就職率は27.8%と前年と比べ2.0%ポイント上昇したが、求人の充足率は26.5%と前年に比べ低下した。特に、求人増の著しいサービス業などで充足率が低く、求人増が雇用増に結びつきにくい要因となった。

○ 有効求人倍率は、45歳以上になると低くなり、特に55歳以上では極めて低水準となっている。一方、完全失業率は、若年層と高齢層の両方で高いが、これは若年層では比較的再就職が容易な環境にあるが、高齢層では再就職が極めて困難なことを示している。

 (改善に向かった雇用過剰感・雇用調整)

○ 雇用過剰感は、依然認められるものの、1999年に入ってから低下している。ただ、大企業では依然高い水準にある(第7図)。2001年3月には先行き悪化を懸念する企業が増えており、先行きが懸念される。

○ 雇用調整実施事業所割合は、1999年前半より減少に転じ、2000年も改善を続けた。しかし、10〜12月期にやや増加に転じた。企業規模別では、規模の大きい事業所ほど実施割合が高い(第8図)。雇用調整の手法は、残業規制や配置転換等比較的ソフトな雇用調整の割合が高く、希望退職の募集、解雇といった厳しい雇用調整は非常に低い水準に落ち着いた。

 (地域別の動向)

○ 地域別の雇用・失業情勢をみると、有効求人倍率の良好な地域は、完全失業率が低水準であり、有効求人倍率の低い地域は、完全失業率も高水準となっている。良好な地域は、北関東・甲信、北陸、東海、中国で、厳しい地域は、北海道、近畿、九州である。

 (改善の兆しがみえる新規学卒労働市場)

○ 新規学卒労働市場は、2000年3月卒の就職状況は極めて厳しかったものの、2001年3月卒については、就職率、求人数に改善の動きがみられた。


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