第1節 日本型雇用慣行の変化と働き方の多様化
1 年功賃金、長期雇用の動向
○ | 標準労働者の賃金プロファイルを過去と比較すると年齢上昇に伴う賃金上昇率は小さくなっており、また、世代別に実質賃金の年齢プロファイルを比較すると、最近の世代では年齢上昇に伴う実質賃金の上昇率は低い。 |
○ | 平均勤続年数の推移をみると、年齢計の平均勤続年数は長期化しているが、年齢階級別にみると、定年年齢の引上げ等を背景に50歳代以降は勤続年数が長期化する一方、30歳代以下では、転職割合の増加等により勤続年数は短期化している。 |
2 世代ごとの人口規模や入職時の経済状況が年功賃金等に与える影響
○ | 世代ごとに入職後一定期間における賃金上昇率をみると、新規就職者数が多い世代や不況時に就職した世代の賃金上昇率はおおむね低い傾向にある。 |
○ | 入職後の経済状況の違いを取り除いた世代別の賃金の年齢プロファイルをみると、世代間の変化は小さく、年功賃金の変化には経済成長の鈍化も大きく影響していると考えられる。 |
3 年功賃金・長期雇用の変化要因
○ | 賃金上昇率が低下する中で従業員の高齢化・高学歴化による賃金上昇効果の占める割合が高くなっており、人件費負担に大きな影響を与えるようになってきている。 |
○ | 労働者の年齢構成が高齢化するとともに、高度経済成長期のような成長も期待できない中で、賃金の年齢プロファイルを再び急な傾きとすることは困難であると考えられる。 |
○ | 企業の意向としては、長期雇用については、年功賃金ほど大きくは見直そうという動きはないが、賃金制度の能力主義、成果主義の方向への見直し等に伴い、労働者にとっては勤続長期化に伴うメリットが少なくなり、一社に長期間勤続する状況に変化が生じる可能性がある。 |
4 変化の背景にある就労者の意識
○ | 年功賃金、終身雇用に関する労働者の意識をみると、いずれも肯定的にとらえる者は過半を占めるが、年功賃金の方が低い値を示しており、いずれについても若年層ほど肯定的にとらえていない。また、同じ会社に勤続することにこだわらない意識や、会社との距離を置きつつ生活を重視する傾向も若年層を中心に高まっている。 |
5 多様化する働き方
○ | 企業の求める人材ニーズや労働者の意識の変化、昇進機会の減少等を背景に、複線型人事管理制度、限定勤務地制度等新たな人事制度の導入が進み、働き方の選択肢が広がりつつある。 |
○ | 就業形態の多様化が進み、若年層を中心に非正社員比率が急増している。就業形態の多様化の背景には、会社に強く依存しない働き方を求める労働者の意識変化が影響していると考えられるが、最近の景気低迷による若年層を中心とした非自発的なものもみられる。 |
○ | 年々増加するいわゆるフリーターについても、その選択理由はさまざまであるが、職業意識が希薄なため、将来の見通しを持たないままフリーターとなった者が相当数存在することは、本人の技能形成、能力開発の面から問題であるだけでなく、経済や社会全体への影響が懸念され、自己責任原則の下で働き方を選択することを基本に据えた上で、主体的に適切な職業選択ができるよう支援を行うことが重要である。 |
○ | 少子高齢化が進展し、職業生活が長期化する中で、ライフステージに応じて育児や介護のみならず自己啓発、ボランティアなどさまざまな活動に取り組むための休暇、休職制度は、個人が自己実現を図るとともに企業経営においても柔軟な発想、多様な価値観を取り入れていく上で効果的と考えられ、一層普及することが望まれる。 |
6 雇用慣行の変化と働き方の多様化
○ | 経済成長が鈍化するとともに、企業をとりまく環境は多様化、複雑化していることから、企業経営においてもより多様な価値観、発想を取り入れていく柔軟性の高いシステムが求められており、これは、働く側の自律性重視の流れ、価値観や就業意識の多様化とも方向性が合致している。 |
○ | 高度経済成長期のような成長が見込まれず、労働者の年齢構成もかつてのような若い状況には戻らない中で、企業をとりまく環境や労働者の意識等を踏まえると、年功賃金や長期雇用慣行の下にあるかつての典型的なタイプの労働者の割合は減少し、仕事や労働者のタイプに応じた働き方が広がってくるものと考えられる。 |
○ | 今後、多様な働き方の選択肢を整備するとともに、働きに応じた公正な評価・処遇の仕組みを確立し、個々の労働者が主体的にキャリア形成を図りつつ働き方を選択できるような環境の整備を社会全体として進めていくことが必要である。 |