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第3節 家族・職場・地域社会等との関係の変化

1 家族の中における個人

(1) 家族形態の変化

○ 我が国の世帯規模は縮小しており、三世代世帯や核家族世帯の一般世帯数に占める割合が減少する一方、単独世帯は急増している。社会保障制度をはじめさまざまな社会の制度や仕組みについて、家族の変化への対応という視点から不断の見直しをしていくことが求められている。

図1-3-1 家族類型別一般世帯数および核家族世帯割合の推移の図


(2) 女性の職場進出と家事等の分担

○ 女性の年齢階級別労働力率のいわゆるM字型曲線は、10年前と比較して、M字の谷が徐々に浅くなってきているが、これは未婚者の労働力率の増加と晩婚化によるものであり、小さな子どもの子育てに当たる時期に就業を中断するという傾向がある。

○ 未婚女性が理想とするライフコースは、「再就職型」が最も多いが、結婚し子どもも持つが仕事も一生続けるという「両立型」が増加傾向にある。しかし、実際に「両立型」になりそうと考える者の割合はほとんど変化しておらず、理想と現実との間に乖離がある。

○ 「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業の考え方に対しては、特に若い世代ほど反対する人が多くなっており、従来の固定的な役割分業を支持する意識は薄れつつある。また、女性が仕事を持つことに対する理解が進み、男性にも家庭を重視する意識がみられるようになった。しかし、実際には、男性は仕事を優先せざるを得ない状況にあり、女性に対して仕事より育児の優先を求める意見が強く残っている。

図1-3-3 女性の年齢階級別労働力率の図

(3) 住まい方にみる親子間の意識

○ 我が国では、未婚の子どもは就業して一定の収入を得るようになった後も多くが親と同居しており、親との快適な同居生活が近年の晩婚化、非婚化の一因との指摘もあるが、必ずしも子どもの側が同居による恩恵を一方的に受けているわけでもない。

○ 現在の若い世代は、夫婦単位の生活を大切にするため、結婚を契機に親と別居して独立し、新たな世帯を構えるが、その場合であっても、支援を受けやすく、日常的な交流が可能な近距離別居が増加する傾向にある。

○ 高齢者の子どもとの同居率は年々低下してきている。これを高齢者の年齢階層ごとに見ると、男女ともに年齢の上昇とともに、子どもとの同居率が高くなっているが、同一世代ごとにみると、75歳以降の後期高齢期になって同居率が上昇するという傾向がある。

図1-3-14 妻の年齢別親との同別居・別居親との距離の図

(4) 家族に求められる役割

○ 女性の意識をみると、結婚し家族をもった時にも、自分らしい生活や個人的な目標を大切にしようという傾向が強まっている。しかし、生活水準が向上し、豊かになった現代においても、家族への期待が弱まっているわけではなく、国民の意識をみても、精神的なつながりや、子どもを生み育てることにより生きがいを得る場としての家族の役割に対する期待は大きい。

図1-3-18 家庭の役割の図

2 職場における個人

(1) いわゆる「日本型雇用慣行」と個人の自立

○ 我が国の典型的な雇用慣行は、「日本型雇用慣行」と呼ばれ、長期雇用、年功賃金等が特徴であると言われている。高度経済成長期において大企業の男性労働者を中心に適用を受ける労働者は増え、普及・定着していった。

○ これまで我が国においては、男性が会社に強い帰属意識、忠誠心を持つ一方、女性が家族機能を担い、男性の会社中心の生活を結果として補助することが多かったといえる。「日本型雇用慣行」は、個人の自立に影響を与えていたのではないか、と考えられる。

○ 長期雇用については、高齢層になるほど勤続年数が長期化しており、また、過半数の企業が終身雇用について「現状維持」としている実態にある。一方、年功賃金については、大卒男性の賃金カーブをみると、年齢の上昇に応じて賃金が上がる度合いは少なくなってきているなど変化がみられる。この背景には、会社における人員構成が高齢化し、貢献の度合いより賃金が低い若年者の割合が減少したこと等があるものと考えられ、昨今の経済成長の低迷がこうした年功賃金の見直しを加速させていると考えられる。

○ 年功賃金を従来と同様の形で維持し続けることが困難になるなら、労働者が一つの会社に在籍し続ける誘因は低下することから、長期雇用について何らかの変化があらわれてくる可能性も否定できない。経済基調が低成長となり、会社における人員構成が高齢化している今日、雇用慣行の変化を注視していくと同時に、各個人が会社と自分との関係について考えていく必要がある。

○ 年功賃金における年功の度合いが緩まるとともに、長期雇用のあり方が変化すれば、個人の会社への関わり方も変化することになる。一つの会社に対して強い帰属意識を持ち、他のことに割く時間を犠牲にしてでも長時間働く個人は少なくなっていくことも考えられる。

図1-3-20 年齢階級別勤続年数の推移の図

図1-3-23 年齢階級別年間賃金格差の推移(男性・大学卒・産業計)の図

(2) 働き方の多様化

○ 就業形態の多様化は、特に高年層、女性中年層および若年層において進んでいる。高年層では、雇用者以外の就業形態の割合が高くなっており、その一つとして、シルバー人材センターにおける就労がある。また、雇用者のうち短時間勤務を志向する者は、高い年齢階級に多くみられ、職業生活からなだらかに引退することを望む高齢者の存在が示唆される。高齢者の就労を通じた自立のあり方は高齢者の置かれた状況に応じて多様であり、今後、さらに高齢化が進展する中、多様性に即した形で高齢者の就労を通じた自立を支援していくことが、社会に求められているといえる。

○ 女性中年層における就業形態の多様化の最も大きな要因は、パートタイム労働者の増加である。短時間のパートについては、家庭等との調和を図れる働き方として女性を中心に積極的に選択しているものも多いが、パート等を選んだ理由として「正社員として働ける会社がないから」をあげる者がいることに留意する必要がある。

○ 派遣は比較的若年層に集中している就業形態である。派遣という就業形態を選択した理由をみると、積極的に派遣を選択して就業している者がいる一方、やむを得ず派遣で働いている者もいる。派遣労働者については就業条件が確保されにくいとの指摘もあり、派遣労働者の就業に関する条件について、今後とも的確に整備していく必要がある。

○ 「フリーター」については、その目的はさまざまであるが、将来の見通しを持たないまま「フリーター」となった者の存在は若年層の中に就業意識が希薄な者がいることをうかがわせる。また、近年、特に大学卒業後無業者となる者が増加しているが、彼らが社会の中で能力を十分発揮できない状況は、社会にとっても損失であるといえる。

○ 若年層の中には、自立についてあまり考えない者もいれば、不本意ながら「正社員」以外の就業形態を選ぶ者や、必ずしも希望しない就業先に就職する者など現状に満足できない者もいる。社会として、若年者の自立が円滑に進むような環境を整えていく努力が必要である。

○ 労働時間の面で、効率的かつ自律的な働き方に応じる代表的な仕組みが、フレックスタイム制及び裁量労働制である。今後、制度の導入が促進され、自律的で自由度の高い働き方が実現されれば、創造性豊かな人材がその能力を十分発揮することが可能となる。

○ テレワークは、自由時間の充実など個人の自立にとって多くの利点を有している。情報技術の進展に伴い、テレワークの導入に弾みがつくことも考えられ、テレワークを円滑に遂行するための条件整備について検討する重要性は増している。

○ 個人の働き方について、会社に埋もれるような働き方から移行する動きがみられる。個人が主体的に働き方を考える中、自覚と責任を持って主体的に働こうとする者を社会的に応援していく必要がある。

図1-3-29 年齢階級別にみた勤務形態別高年齢雇用者の割合の図


図1-3-32 女性パートタイム労働者のパートを選んだ理由の図


図1-3-35 フリーターの類型の図


3 地域社会の中における個人

(1) 地域社会の変化

○ 伝統的な地域社会の関係に対する閉塞感が高まるとともに、都市への人口移動や都市型の生活スタイルの広がりによって、個人と地域の関わりは希薄化している。


(2) 新たな社会参加志向の高まり

○ 個人と地域との関わりの希薄化が進んだ一方で、自由時間の増加と余暇志向の高まりを背景に、個人がそれぞれの関心に応じた新たな社会参加を志向している傾向がみてとれる。今日の個人は、自分の好み、関心に応じて主体的に参加できるような活動・団体に参加したいという志向を高めている。


(3) ボランティア活動の広がり

○ 個人と地域社会との関わりは希薄になってきている一方で、「社会の一員として何か社会のために役立ちたい」という個人の社会貢献に対する意識は、依然として高い水準にあり、個人の自発的参加によって生まれた地域の枠を超えた新しいタイプの社会貢献活動も広がりを見せ始めている。

○ ボランティア活動は、社会に有用なさまざまなサービスを生み出すものであることに加え、参加する人にとっては、関心を同じくする人どうしの新しい人間関係を生み出し、そうした人との交流や自己実現によって生きがいを与えるものとなっている。ボランティア活動に潜在的な意欲を持っている者は多数存在しており、今後、情報面や労働時間面を含め参加しやすい環境が整備されれば、さらにボランティア活動が活発になるものと考えられる。

○ NPOについては、2000年度末までに約3800団体が法人格を取得しており、その活動分野は多岐にわたっている。NPO法人については、民間ボランティア活動の主要な担い手のみならず、公的な福祉サービスの提供主体の一つとして、その役割を果たしていくことが期待される。

図1-3-44 全国のボランティア活動者数等の推移の図

(4) 高齢者の地域活動への参加

○ 高齢化の進展によって生じた自由時間を有意義に活用することは、高齢者が生きがいを持って暮らしていく上で重要である。また、若い世代との交流は、高齢者の持つ知識、技能や伝統文化の伝承のみならず、高齢者の生きがいを高める上でも有益であり、今後とも交流を一層促進していくことが望まれる。


(5) ITによる社会参加の推進

○ 近年、情報通信技術(IT)の急速な進展により、インターネットやモバイル通信(携帯電話等)といった新しい人と人との交流手段が広がりを見せている。また、情報通信技術の進歩は健常者のみならず、これまで社会参加の機会が比較的少なかった障害者や高齢者などの自立や社会参加の幅を広げる手段として期待される。



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