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第2部 アジア諸国の労使関係と労使紛争処理

1 テーマ(第2部)のねらい

 (1) 東アジアの経済発展とグローバル化による国際競争の激化
 東アジア経済は、97年の通貨・金融危機によって深刻な状況に陥ったものの、その後は世界的なIT関連機器の需要増と東アジアの国際分業の形成によって急速なテンポで景気回復を果たした。2001年は、世界的なIT不況や同時多発テロ等による米国経済の低迷の影響で輸出依存度の高い地域を中心に経済の減速・後退がみられたが、2002年は堅調な個人消費と輸出に支えられ全般に明るさが増すものとみられている。また、中国の世界貿易機関(WTO)加盟、アセアン自由貿易地域(AFTA)構想の進展により、東アジア地域経済のグローバル化や国際競争は一層加速されるものとみられる。

 (2) 東アジア地域での民主化・労働運動の高まり
 経済発展の一方で、東アジア地域においては民主化・労働運動の高まりもみられる。例えば韓国では、ノテウ政権からキムヨムサン政権への移行期間に当たる80年代後半以降民主化が進み、これに伴い、80年代末に、労働組合数が急速に増加するとともに、労働争議の件数も急増した。またインドネシアでは、98年に30年以上に及んだスハルト政権が崩壊し、その後新しい選挙制度の下に民主化政策が進められ、労働運動も活発化している。中国では、市場経済化に対応するため新たに労働契約法制が導入され、労使関係は大きく変容するとともに労使紛争も急増している。一方、国際機関の取り組みとしても、ILOが採択した「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」(98年)や、OECDが策定した「多国籍企業の行動規範ガイドライン」(2000年)において、労働者の基本的権利の保障を各国政府や多国籍企業の責務として求めるようになっている。

 (3) 経済発展と社会的対話
 東アジア地域経済の経済発展と労使関係は密接な関係にある。労使関係の安定は、同地域の海外投資の受入れ促進、生産性の向上等持続的な経済発展の重要な要素であるとともに、同地域へ進出する日系企業にとっても、経営基盤の安定と現地国政府・国民の信頼確保の観点から経営上のプライオリティを一層高める必要があると考えられる。すなわち、今後の経済発展の基礎として、労使を軸とした政労使が対等の立場で意思疎通を図り、ひいては相互の利害調整を図っていくことは、今後非常に重要となる。


表1 東アジア諸国への日系進出企業数及び活動企業総数

進出数 韓国 中国 シンガポール インドネシア タイ マレイシア フィリピン ヴィエトナム
93年 12 256 27 24 37 42 14 9
97年 25 179 61 57 102 44 35 30
01年 30 159 21 13 45 11 9 8
総数 518 2,647 1,099 675 1,328 864 442 174
資料出所 東洋経済新報社「週刊東洋経済臨時増刊−DATA BOOK 海外進出企業総覧2002」


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