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1 教育制度・職業能力開発制度の概要及び政策体系


(1) 政策の背景
 国際競争の激化、ITの普及等急速に経済環境が変化する中で、産業界の需要に対応した高度の知識・技能を有する人材を養成し、国としての競争力を確保することは、どの国においても喫緊の課題となっている。このため、各国においては、有為な人材養成のため、ITへの対応等種々の政策を展開しているところであるが、その内容にはいくつかのあり方がある。即ち、(1)職業能力の開発は個人の責任との考え方が強く、大学等と民間企業が密接に連携して行う職業訓練の比重の方が公的訓練の比重よりも高いものの、その内容は、個別の民間企業の需要を反映し、最先端のものとなっていることも少なくない国(アメリカ)、(2)経済の低迷及びそれに伴う高い失業率の打開のために思い切った改革を行い、国民1人1人が技能を身につけることにより失業しても新たな職を得ることが容易になるための人材養成という観点が重要となっている国(オーストラリア及びニュージーランド)、(3)IT関係の人材育成を迫られる一方で、国営企業の経営不振と大量の余剰人員の再就職を促進するための職業能力開発という観点も重要となっている国(中国)、(4)経済発展著しく、産業界の需要に応える高度な能力を持った人材の養成が重要となっている国(韓国)、(5)外資の積極的な導入により急速に工業化、IT化を進め、こうした産業構造高度化に対応した人材の育成とともに、低技能者の能力向上の観点が重要となっている国(マレーシア及びシンガポール)である。

(2) 政策目標
 各国とも、法律(韓国)、報告書(アメリカ及び中国)、国家計画(オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア及びシンガポール)といった形で政策目標及び政策体系が設定しているところ、いずれの国も、IT技能の習得、産業界の需要に対応する高度な職業能力を有する人材の育成、失業者や不利な立場にある人々に対する職業能力開発機会の提供等を政策目標として掲げている。

(3) 教育制度
 教育制度は、どの国においても比較的類似の仕組みがとられている。すなわち、(1)教育全般を、初等教育、中等教育及び高等教育に分け、(2)初等教育及び前期中等教育は義務教育とされる国が多い。
 また、職業能力開発との連携については、どの国も重視しており、連携のあり方として、(1)中等教育において勤労体験の実施を奨励する国(アメリカ)、(2)資格の一元化等を通じて職業教育と学校教育の統合が進んでいる国(オーストラリア、ニュージーランド及び中国)、(3)教科教育より職業教育に適する者に対して早期から職業教育を受けさせる国(シンガポール)等がある。

(4) 職業能力開発制度
 職業能力開発は、どの国においても民間(企業及び民間職業能力開発機関)と公的機関が連携・補完しつつして行われているが、その協力のあり方は各国において異なり、(1)民間又は企業主体で多様な職業訓練が行われている国(アメリカ及び中国)、(2)産業別訓練機関を組織し、各業界がその産業に必要な職業訓練を行う仕組を有する国(ニュージーランド)、(3)国の職業訓練機関が重要な役割を演じている国(シンガポール)等の類型がある。
 教育と職業訓練との連携については、(3)で述べたように、どの国も学校教育との連携には力を入れている。
 職業能力に関する国家資格については、全ての国がこれを整備する方向にある。国家資格の整備のあり方は、(1)幅広い分野において全国統一的な職業資格制度が導入されている国(オーストラリア、ニュージーランド)、(2)既に一部に職種において全国統一的な職業資格制度が存していたが、近年これを更に拡充した国(シンガポール)、(3)一部の職種において全国統一的な職業資格制度が存する国、(4)従来存していなかった資格制度を整備中の国(アメリカ)等がある。なお、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール及びマレイシアにおいては、伝統的な学校教育における資格(学士等)と統一的に資格認定を行おうとする傾向が強い。
 職業能力開発については、どの国においても政府から補助金が支給されるが、その財源として、一般財源以外に、(1)雇用保険の保険料収入の一部を職業能力開発のための助成金の財源とする国(韓国)、(2)事業主に課した課微金を財源として、労働者に対して職業能力開発を行う事業主に対して助成金を支給する国(マレーシア及びシンガポール)等がある。


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