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1.はじめに

 (1)  概要と目的

 本報告は、「平成12年度人口動態職業・産業別統計」と「21世紀出生児縦断調査」(第1回・第2回)の共通の調査客体について、両調査のデータリンケージを行うことにより個人ベースで追跡し、「出生時点を中心としたその前後での母の就業状況の変化」という観点から分析したものである。
 人口動態統計では、5年に1度公表している「人口動態職業・産業別統計」の中で、子どもが生まれたとき(出生時)の父母の職業を全数調査で把握しているが、平成12年度の調査客体のうち、平成13年1月10日〜17日の出生票については、別途実施している「21世紀出生児縦断調査」の1月出生児の調査客体と重なっており、第1回調査で出生1年前と半年後、第2回調査で1年半後の父母の就業状況が把握できる。(表1-1)
 したがって、両調査のデータをリンケージすることで、同一客体について、「出生前→出生時→出生後」の母の就業状況を追跡して捉えることができるとともに、出生時の父母の職業や出生後の育児をとりまく環境等、両調査の調査事項を組み合わせた分析が可能である。
 出生という事象は、母の就業状況に多大な影響を与えており、出生に起因する就業状況の変化やそれに伴う様々な面での変化は、出産意欲にも少なからず影響しているものと考えられる。本報告は、出生前後の母の就業状況の変化を把握・分析するとともに、就業状況の変化をもたらす背景を明らかにし、仕事と子育ての両立支援をはじめとする少子化対策等、厚生労働行政施策の基礎資料を得ることを目的として、取りまとめたものである。

表1-1 人口動態職業・産業別統計と21世紀出生児縦断調査の概要

表1-1 人口動態職業・産業別統計と21世紀出生児縦断調査の概要



 (2)  分析の対象データ

 本報告では、出生前後の母の就業状況の変化を分析するという趣旨に鑑み、「平成12年度人口動態職業・産業別統計」(以下、「職産」という)と「21世紀出生児縦断調査」(以下、「出生児縦断」という)の共通の調査客体(平成13年1月10日から17日の間に出生した子)のうち、「出生児縦断第1回調査及び第2回調査の両方の時点で子が母と同居している者」を集計客体とし、職産、出生児縦断第1回及び第2回のデータをリンケージして分析の対象データを作成した。(集計客体数は21,879件)なお、両調査の調査対象が出生した子であり、同居していない母については情報が得られていないため、分析対象としていない。
 参考として、対象データと職産の比較(表1-2)、対象データと出生児縦断の比較(表1-3)をしてみたところ、両者の構造はほぼ同様とみられることから、本報告の分析に用いる対象データは、就業状況の変化の分析に十分耐え得るものであると考えられる。

表1-2 対象データと人口動態職業・産業別統計の比較
表1-2 対象データと人口動態職業・産業別統計の比較

表1-3 対象データと21世紀出生児縦断調査の比較
表1-3 対象データと21世紀出生児縦断調査の比較



 (3)  母の就業状況を観察する時点
 今回、出生時点を中心としたその前後での母の就業状況の変化を捉えるにあたっては、同一客体について、(1)出生1年前(出生児縦断第1回)→(2)出生時(職産)→(3)出生半年後(出生児縦断第1回)→(4)出生1年半後(出生児縦断第2回)の4時点の動きを観察している。この動きは、職産と出生児縦断を組み合わせてはじめて捉えられるものである。
 就業状況の変化をみる起点とした「(1)出生1年前」は、当該子を妊娠する直前のタイミングであり、まだ出生に起因する就業状況の変化が起こる前の時点と考えられ、出生前の定常的な状態を捉えるのに適した時期である。
 「(2)出生時」は、出生という事象が発生した時点であり、出生前後の就業状況の変化を捉える際の基点である。出生時の就業状況を観察することで、出生に起因する離職等の変化が、出生前と出生後のいずれの時点で起きているのかを明らかにすることができる。
 「(3)出生半年後」は、出生後比較的早い段階における就業状況が捉えられる時点である。出生前に有職の場合、産後休暇は終わっているもののまだ育児休業中の者も多く、就業に関しては流動的な時期にあたる。
 就業状況の変化をみる終点とした「(4)出生1年半後」は、現段階で就業状況が判明している最新の時点であるが、育児休業の取得できる期間や、保育所に入園しやすいと言われる4月を過ぎていることを勘案すると、育児休業をとっていた者も概ね職場復帰し、出生後の就業状況や育児をとりまく環境(仕事と育児を両立するための家族の協力体制など)が落ち着いてきた時点と考えられる。この時期には、出生に起因する就業状況の劇的な変化は、概ね終息をむかえているものと想定される。
 このように、出生1年前から1年半後にかけての母の就業状況を客体ごとに追跡観察することにより、就業状況が出生に起因して短期的スパンで劇的に変化する状況について、的確に把握できるものと考える。


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