1 概況
(1) 一般経済の概況
景気は、持ち直しに向けた動きが弱まっており、おおむね横ばいで推移している。
先行きについては、世界経済が緩やかに回復すれば、景気は引き続き持ち直しに向かうことが期待される。一方、アメリカ経済等への先行き懸念や我が国の株価の低迷など、厳しい環境が続いており、我が国の最終需要が引き続き下押しされる懸念が存在している。
(2) 労働経済の概況
労働経済面をみると、雇用情勢は、依然として厳しい。求人が増加傾向にあるものの、完全失業率がこれまでの最高水準となり(第1図)、賃金も弱い動きが続いている。
2 一般経済
(1) 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、生産は、横ばいとなっている。
10月の鉱工業生産(季節調整済前月比、確報、以下同じ)は、0.2%減と2か月連続の減少となるなど、基調として横ばいになっている(第2図)。
業種別にみると一般機械、輸送機械、化学が減少した。出荷は0.9%増と2か月ぶりに増加し、在庫は0.6%増と2か月連続で増加した。
今後の動向については、製造工業生産予測調査によると、製造工業生産は11月0.1%減の後、12月は同0.6%増となっている。
(2) 最終需要の動向をみると、
(1) 個人消費は、横ばいで推移するなかで、一部に底固さもみられる。
全世帯の実質消費支出(速報)は9月季節調整済前月比5.1%増の後、10月は同2.3%減となり、勤労者世帯では9月同5.6%増の後、10月は同2.7%減となった(前年同月比0.7%減)。勤労者世帯の消費支出を財(商品)・サービス別にみると、10月の財(商品)は実質で前年同月比0.1%減、サービスは同2.0%増となった。勤労者世帯の平均消費性向は9月季節調整値75.0%の後、10月同72.7%となった(第3図)。
10月の小売業販売額(速報)は季節調整済前月比2.0%減、大型小売店販売額(速報)は同4.7%減となった。
乗用車(軽を含む)の新車登録台数(速報)は、10月前年同月比6.7%増の後、11月同5.7%増となった。
(2) 設備投資は、下げ止まりつつある。
財務省「法人企業統計季報」によると、全産業の設備投資は、季節調整値で平成14年4〜6月期前期比2.5%減の後、7〜9月期同2.0%減(うち製造業同4.8%減、非製造業同0.8%減)と減少幅が縮小しており、下げ止まりつつある(第4表)。
今後の動向については、先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)が、季節調整済前月比で9月12.7%増の後、10月は同4.1%減と2か月ぶりに減少した。機械受注は9月に大幅に増加したことによる反動減少と考えられることから、基調として底入れから反転に向かいつつあるものと考えられる。建設工事受注額(主要建設会社50社民間発注分、非住宅)は、10月は季節調整済前月比で24.3%増と2か月連続で増加している。
なお、日本銀行「企業短期経済観測調査」(12月調査)によると、全規模の14年度の設備投資計画(前年比)は、製造業で10.4%減、非製造業3.2%減、全産業で5.1%減となっていることから、底入れした後も低調に推移することが見込まれる。
(3) 住宅建設は、緩やかに減少している。
新設住宅着工戸数(季節調整済前月比)は、9月0.9%減の後、10月は6.8%増の9万9千戸(年率119万戸)と増加した。(第5図)
10月の新設住宅着工戸数は、都心部における大型マンションの着工が多数あったという特殊要因により増加したものと考えられる。先行きについては、雇用・所得環境が厳しいことなどから、消費者の住宅取得マインドが低下しており、引き続き減少が続くものと考えられる。
(4) 公共投資は、総じて低調に推移している。
公共機関からの建設工事受注額は、前年同月比で9月6.2%減の後、10月は同11.4%減と減少している。また、公共工事請負金額(保証事業会社協会「公共工事前払金保証統計」)をみると、10月前年同月比6.4%減、11月同8.6%減と前年を下回っており、国・地方の予算状況を踏まえると、今後も低調に推移するものと考えられる。
(5) 輸出は、弱含んでいる。
通関輸出(数量ベース、季節調整済前期比)は、月別で9月5.0%減の後、稼働日の関係もあり、10月は同5.0%増となった。四半期別では、4−6月期7.3%増の後、7−9月期1.5%減となっており、IT関連等の最終需要の伸びが世界的に鈍化するなかで、年来の在庫積み増しの動きに一服感がみられており、電気機器を中心にこのところ弱含んでている。
輸入は、増加している。
通関輸入(数量ベース、季節調整済前期比)は、月別で9月3.6%増、10月は同2.0%減となった。四半期別では4−6月期2.1%増の後、7−9月期5.4%増となっている。生産が横ばいとなっていることを背景にIT関連等の機械機器輸入が鈍化しているものの、鉱物性燃料等の輸入が増加していることから、全体として増加している(第6図)。
(3) 国内卸売物価は、横ばいとなっている。消費者物価は、弱含んでいる。
11月の国内卸売物価は、前月比0.1%上昇(前年同月比0.3%下落)となり、輸出物価は同1.5%下落(同横ばい)、輸入物価は同1.2%下落(同5.7%上昇)となった。
10月の消費者物価は、総合が前年同月比0.9%下落(前月比0.2%下落)、生鮮食品を除く総合が同0.9%下落(同0.1%下落)となった(第7図)。
(4) 企業収益は、改善している。また、企業の業況判断は、緩やかながら、引き続き改善がみられる。倒産件数は、減少している。
財務省「法人企業統計季報」によると、全産業の経常利益は、季節調整値で平成14年4〜6月5.5%増の後、7〜9月4.8%増(製造業14.2%増、非製造業0.3%減)と増加が続くなど、企業収益は改善している(第8表)。
なお、前出の「企業短期経済観測調査」によれば、企業の14年度下期の経常利益計画(前年同期比)は、製造業42.9%の増益、非製造業3.9%の増益と大幅な増益が見込まれている。
企業の業況判断D.I.(「良い」−「悪い」)をみると、製造業は全ての規模で「悪い」超幅は縮小した。一方、非製造業は規模別にみると、大企業で「悪い」超幅が拡大している。(第9表)。倒産件数(東京商工リサーチ調べ)は、11月1,435件(前年同期比20.8%減)となるなど減少している。
(5) 平成14年7〜9月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、季節調整済前期比0.8%増(年率3.2%増)となった。内外需別にみると、国内需要の寄与度は1.0%、財貨・サービスの純輸出の寄与度は-0.2%となった。なお、平成13年度の実質GDP成長率は、-1.4%減となった(第10図)。
3 雇用・失業
(1)
(1) 就業者数は、3か月連続で前月比減少となり、弱含んでいる。就業者数(季節調整値)は、9月前月差3万人減の後、10月は前月差6万人減と減少し、6319万人(原数値は6355万人、前年同月差50万人減)となった。男女別には、10月は、男性が3721万人(前月差4万人減)、女性が2598万人(同2万人減)となった。
雇用者数は、3か月連続で前月比減少となり、弱含んでいる。雇用者(季節調整値)は、9月前月差28万人減の後、10月は前月差29万人減と減少し、5301万人(原数値は5336万人、前年同月差25万人減)となった。男女別には、男性が3142万人(前月差15万人減)、女性が2159万人(同16万人減)となった。雇用形態別(原数値)には、10月は、常雇が4587万人(前年同月差66万人減)、臨時雇が626万人(同46万人増)、日雇が123万人(同5万人減)となっている(第11表)。
「毎月勤労統計調査」(確報)により、10月の常用雇用指数(事業所規模5人以上、季節調整済指数)をみると、前月比同水準となった。また、一般、パート別にみると、一般労働者は前月比0.2%増、パートタイム労働者は同0.2%減となった。
(2) 10月の完全失業率(季節調整値)は前月より0.1%ポイント上昇して5.5%となり、過去最高となった2001年12月に並んだ。男女別には、男性が5.9%(前月差0.1%ポイント上昇)と過去最高となり、女性が5.1%(同0.2%ポイント上昇)となった。
10月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差7万人増の370万人(原数値は362万人、前年同月差10万人増)となり、引き続き高水準で推移している。男女別には、男性が232万人(前月差1万人増)、女性が139万人(同5万人増)となった。
求職理由別(原数値)にみると、10月は、非自発的理由による離職者は153万人(前年同月差39万人増)、自発的理由による離職者は123万人(同1万人増)、その他の理由による失業者は69万人(同19万人減)となった(第11表)。また、失業者のうち失業期間1年以上の完全失業者数は、4〜6月平均108万人(完全失業者全体の30.7%)の後、7〜9月平均105万人(同29.5%)となった。
(3) 10月の労働力人口(季節調整値)は、前月同水準の6687万人(原数値は6717万人、前年同月差40万人減)となった。非労働力人口(季節調整値)は、10月は、前月差3万人増の4253万人(原数値は4224万人、前年同月差80万人増)となった。男女別には、男性が1350万人(前月差5万人増)、女性が2904万人(同1万人減)となった。
労働力率は、10月は、61.3%(前年同月差0.7%ポイント低下)となった。男女別には、男性が74.8%(同0.7%ポイント低下)、女性が48.7%(同0.5%ポイント低下)となった(第11表)。
(2) 有効求人(季節調整値)は、10月は前月比1.2%増と2か月連続で増加し、有効求職者数(季節調整値)は同0.2%減と2か月ぶりに減少した。有効求人倍率(季節調整値)は、引き続き緩やかに上昇しており、10月は0.56倍と前月を0.01ポイント上回った。
新規求人(季節調整値)は引き続き増加傾向にあり、9月前月比3.7%増の後、10月は同4.2%増と2か月連続で増加した。新規求職者数(季節調整値)は9月前月比9.7%増の後、10月は1.5%減と2か月ぶりに減少した。新規求人倍率(季節調整値)は0.98倍と前月より0.05ポイント上昇した(第12表)。
新規求人(季節調整値)を一般(除パート)、パートの別でみると、10月は、一般は前月比5.4%増と2か月連続で増加、パートは同1.5%増と2か月連続で増加した。新規求職(季節調整値)は、10月は、一般は前月比1.8%減と2か月ぶりに減少、パートは同0.8%増と2か月連続で増加している。
常用新規求職者数(除パート、原数値)のうち事業主都合離職者は前年同月比0.9%減と20か月ぶりに減少した。
(3) 産業別にみると、10月の就業者数(原数値)は、建設業は前年同月差13万人減、製造業は同58万人減と減少したのに対し、運輸・通信業は同1万人増、卸売・小売業,飲食店は同12万人増、サービス業は同13万人増となっている。
10月の新規求人(原数値)は、建設業は前年同月比3.4%減と減少したのに対し、製造業が同21.6%増、運輸・通信業は同10.0%増、卸売・小売業,飲食店は同4.8%増、サービス業は同16.3%増となっている。
(4) 雇用の先行きに関する指標については先行きに弱い動きもみられる。雇用の先行指標と考えられる製造業の所定外労働時間(季節調整値)は、生産の動きを反映し2か月連続で前月比で減少し、増加傾向が弱まっている。所定外労働時間(事業所規模5人以上、季節調整済指数)は、製造業では、9月(確報値)前月比0.1%減の後、10月(確報値)同0.6%減となり、調査産業計では、9月前月比0.3%増の後、10月同0.8%減となった。
日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(12月調査)によると、雇用人員判断DI (「過剰」-「不足」)は前期より若干低下したものの、依然として高い水準にある(第13図)。
厚生労働省「労働経済動向調査」によると、7〜9月期に雇用調整を実施した事業所割合は25%、10〜12月期に実施予定の事業所割合は24%、2003年1〜3月期に実施予定の事業所割合は22%と引き続き低下が見込まれている。(第14図)
内閣府「景気ウォッチャー調査」による11月の2〜3か月先の景気の先行き判断DI・雇用関連は40.1で前月を1.7ポイント下回り、3か月連続の低下となった。
4 賃金・労働時間
(1) 10月の現金給与総額(産業計、確報、以下同じ)は284,708円で、前年同月比0.5%減となった。就業形態別にみると、一般労働者は前年同月比0.2%増、パートタイム労働者は同2.2%減となった。
内訳をみると、所定内給与は前年同月比0.9%減(一般労働者同横ばい、パートタイム労働者同2.8%減)となったほか、所定外給与は同2.8%増、特別給与は同6.1%増となり、実質賃金は同0.5%増となった(第15図)。
(2) 10月の総実労働時間(産業計、確報、以下同じ)は154.7時間で、前年同月比0.8%減となった。就業形態別にみると、一般労働者は前年同月比0.1%減、パートタイム労働者は同2.1%減となった。
内訳をみると、所定内労働時間は144.9時間で前年同月比1.2%減(一般労働者同0.6%減、パートタイム労働者同2.3%減)、所定外労働時間は9.8時間で同4.7%増となった。なお、月間出勤日数は20.1日と前年同月差0.1日減となった。
10月の製造業の所定外労働時間(確報)は14.4時間で、前年同月比14.2%増となった。規模別にみると、500人以上規模で前年同月比17.8%増、100〜499人規模で14.2%増、30〜99人規模で同14.6%増、5〜29人規模で同12.2%増となった (第16図)。
月例労働経済報告参考表
エクセルでダウンロードできます。