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第6章 WHOの役割、協力機関、およびたばこ規制枠組条約の規則(FCTC)

第6章
  WHOの役割、協力機関、およびたばこ規制枠組条約の規則(FCTC)1)

 たばこ依存症治療を確実に受けられるようにするために、国際社会の果たす役割は非常に大きい(Wilson, 2002)。各国がたばこ依存症治療の国家政策ガイドラインを作成するにあたり、国際社会は、情報を共有・提供する場を確保し、ガイドラインを作成し、ベストプラクティスの見直しを行い、資金を募り、禁煙分野の研究・学術機関と協力関係を樹立するなどして、支援していくことができる。国内の協力機関にも同じことが言える。すでに第5章で述べたように、様々な組織、大学、社会団体が「喫煙しない」ことを社会規範にするべく周囲の環境を変化させ、喫煙への具体的な取り組みを行なうことによって、たばこ規制に貢献することができる。これは、特に資金繰りのきびしい発展途上国に言えることである。

 この点について、WHOたばこ規制枠組条約2)の最終草案本文では、「医療従事者団体、女性団体、青少年団体、環境団体、消費者団体、学術および医療機関など、たばこ業界と提携関係にない非政府組織やその他の市民社会メンバーの、国家レベルおよび国際レベルでのたばこ規制への特別な貢献、また国内および国際的なたばこ規制への取り組みに対する参加の重要性」を強調している3)

 たばこ業界と提携関係にないNGOやその他の市民社会メンバーの特別な貢献については、モスクワ会議で何人もの参加者が述べているとおりである(特にカナダ、カタール、ベネズエラ)。


NGOや民間部門と提携した禁煙支援プログラムの提供
各国の取り組み

カナダ−カナダ連邦政府の新しい包括的たばこ規制戦略(これに対してカナダ連邦政府は2001年4月に、むこう5年間で4億8,000万ドルを出すことを約束)は、政府省庁間、および政府とボランティア医療機関や非政府組織との連携を重視するものである。

カタール−カタールの禁煙クリニック(全国医療制度の重要な一部となっている)が行っているニコチン置換療法の費用は、主に民間からの寄付でまかなわれている。

ベネズエラ−全国たばこ規制委員会と民間部門および医薬品メーカーとの提携関係によって、治療に関する情報を入手しやすくなった。


 禁煙とたばこ依存症治療については、WHOたばこ規制枠組条約の最終草案本文の中で、「紙巻きたばこやその他たばこを含む一部の製品は、依存症を引き起こし、それを維持するよう作られていること、これらに含まれる多くの化合物や排出する煙は薬理活性、毒性、変異原性、発がん性を有していること、たばこ依存症は主な国際的疾病分類でひとつの疾病として他の疾病とは別に分類されていること」が認識されている。同草案では、WHOの計画を「各国の状況や優先事項を考慮に入れつつ、科学的証拠とベストプラクティスに基づく適切な包括的かつ統合的なガイドラインを作成し、それを広く周知させるとともに、……禁煙の推進とたばこ依存症の十分な治療のために効果的な対策をとる」4)ものとしている。

 また、「教育施設、医療施設、職場やスポーツ施設などで、禁煙の推進を目的とした効果的なプログラムを策定・実施する」ことが必要であるとも述べている5)

 さらに国際的にも、様々な方法で医療協力を行うことができる(Wilson, 2002)。

禁煙のための薬剤をより利用しやすくする
 これまで禁煙のための薬剤を購入することができなかった人が、手ごろな値段で薬剤を利用できるようにするというのは、非常に重要なことである。アフリカでエイズ治療のために行われたのと同様のキャンペーンを行うのも一案である。エイズの治療では、キャンペーンによって医薬品メーカーに強い国際的圧力をかけ、エイズが猛威をふるっている貧しいアフリカ諸国におけるエイズ治療薬の薬価設定方針を変更させた。これと同じように、喫煙による死亡率がきわめて高いことから、NRTやブプロピオンのような薬剤の安いジェネリック医薬品が入手できるようにし、禁煙のための薬剤の特許法を緩和してはどうかという議論が行われている。WHOのたばこ規制枠組条約の最終草案では、たばこ依存症治療をより利用しやすくするため、次のように述べている。この条約の関係者は、「22条に基づいて、医薬品を含むたばこ依存症治療の利用度をさらに高めるべく、他の関係者と協力する。かかる製剤とそれに付随するものとしては、医薬品、医薬品を投与するのに用いる製剤、および必要に応じて診断もその中に含まれる」6)

足固めとして、国際的な医療従事者団体の参加を得る
 世界中の医療従事者が、診療に禁煙カウンセリングの一部を取り入れる必要がある。世界中で、医師や看護師のトレーニングカリキュラムに禁煙カウンセリングを組み込むことが理想的である。そのためにはまず、世界医師会、世界家庭医師会、国際看護師協会などの国際機関との協力のもとに、たばこ規制カリキュラムと禁煙治療の基本トレーニング講座の概要モデルを策定することである。たばこ規制枠組条約の規定も、関係者は「適宜、ヘルスワーカー、コミュニティワーカー、ソーシャルワーカーの参加を得て、全国的な保健や教育のプログラム、計画、戦略に、たばこ依存症の診断と治療および禁煙のカウンセリングを取り入れ」、「たばこ依存症の診断、カウンセリング、予防、および治療のための医療施設やリハビリテーションセンターのプログラムを確立する」7)よう求めて、この提言を後押ししている。

広告禁止も禁煙に一役買うことができる
 世界中で喫煙者の禁煙のために、広告を全面禁止とすることは理想的な手段である。マーケティング研究で実証されているように、広告は喫煙を始めたばかりの人が依存に陥るよう強力に後押ししているとともに、現在の喫煙者の禁煙を阻止している重要な要素のひとつである。従って、たばこ製品の広告禁止に世界的に取り組めば、世界の喫煙率に大きな影響を与えることができる。(Canadian Cancer Society, 2001)。WHOたばこ規制枠組条約の最終草案は、「広告、販売促進活動、スポンサー活動の包括的な禁止によって、たばこ製品の消費を減らすことができる」ことを認め、各関係者が「憲法または憲法原則に則って、あらゆるたばこの広告、販売促進、スポンサー活動を包括的に禁止する」必要があると指摘している8)

たばこのパッケージの警告体制の中に禁煙メッセージを入れる
 たばこ規制枠組条約の最終草案では、「たばこ製品の包装やラベル表示が、直接的・間接的に特定のたばこ製品が他のたばこ製品より害が少ないという誤った印象を与えるような言葉、説明、商標、形象またはその他の標示によって、その製品の特徴や健康に対する影響、危険性、排出物について、虚偽であったり、誤解を与えたり、不正であったり、または誤った印象を与えたりするような方法でたばこ製品の販売を促進することのないように」、効果的な対策をとること、またその対策を実施することを提言している。これには「低タール」、「ライト」、「ウルトラ・ライト」、「マイルド」といった言葉も含まれる9)。また、「たばこ製品の各パケットやパッケージ、およびこれらの製品の外側包装やラベル表示にも、喫煙のもたらす健康への影響に関する警告表示をすること、またその他(製品の特徴について具体的に説明するため)の適切なメッセージを入れること」を推奨している10)。これについて国際機関は、たとえば有効な事例を紹介し合うなど、技術的な支援をすることができる。カナダでは、たばこのパッケージの中に禁煙情報を掲載したチラシが入れられている(Wilson, 2002)。

貿易協定は禁煙製剤の取引を不当に妨げてはならない
 公衆衛生推進者は、たばこに関する貿易協定より公衆衛生を優先するよう求めている。これはつまり、商業利益より人命に重きを置くということである。この方針に従い、禁煙製剤に関係のある貿易規則の自由化についても検討されてしかるべきである。WHOたばこ規制枠組条約の最終草案では、本条約の関係者は「公衆衛生を守る権利を最優先することを決意する」と述べられている11)

禁煙介入の費用対効果分析を改善する
 禁煙治療は費用対効果の高い治療法であると考えられている(Tengs et al., 1995)。しかし、世界の禁煙介入については、さらに詳しい費用対効果分析を行う必要がある。特に、世界銀行をはじめとする国際機関が提携し、世界規模の研究を行って、様々な禁煙介入の費用対効果を実証する必要がある。
サウジアラビアの反喫煙慈善団体が配布しているカード。喫煙者に禁煙支援プログラムを利用するよう勧める内容が記されているの図
「サウジアラビアの反喫煙慈善団体が配布しているカード。喫煙者に禁煙支援プログラムを利用するよう勧める内容が記されている」

公衆教育、資金、および報告義務
 WHOたばこ規制枠組条約の最終草案では、「利用可能なあらゆるコミュニケーションツールを適宜用いて、たばこ規制問題についての公衆の認識を高め、強化する」必要があると述べられている12)。たばこの消費とたばこ煙による受動喫煙が健康に与えるリスクについて、また、たばこのない生活習慣と禁煙のメリットについて、公衆の認識を高めなければならないとも述べられている。通常、このようなキャンペーンの費用は非常に高くつくため、最終草案の26条に規定されているように、そのための資金確保が不可欠となる。

研究、サーベイランス、情報交換
 WHOたばこ規制枠組条約の最終草案では、各国が「たばこ規制の分野で全国レベルの研究を開発促進するとともに、地域や国際レベルで研究プログラムを調整する」13)一方、「国際機関や地域の政府間組織や、その他の団体による資金的・技術的支援の重要性」を認識する必要があると述べている14)
 また、たばこ規制の推進者は、たばこの売買や業界に関する統計報告など、たばこ規制のための基準指標を定めておく必要があると強調している。指標は、広範囲を網羅し、喫煙や企業の行動が健康と社会経済にもたらす影響を明瞭に表すものでなければならない。このような指標によって禁煙率などの禁煙関連データを把握することがきわめて重要であり、喫煙率のデータだけでは十分とはいえない。これらのデータを収集するには、クリアリングハウス(情報センター)のような情報サービスを利用するのが便利である(Wilson, 2002)。

WHOたばこのない世界構想(TFI)

 WHO加盟国によってWHOたばこ規制枠組条約が採択されると、いよいよ同条約の最も重要な作業段階に入る。つまり、加盟国はこの条約を批准し、実行に移せるよう支援していかなければならない。この支援には、技術的支援も含まれる。たばこ規制枠組条約の採択後、法的、科学的、政策的および実践的な側面での各段階における技術的な支援に応えるため、現在、WHOたばこのない世界構想(TFI)は、各国の様々なガイドラインの策定に取り組んでいる。これらのガイドラインの目的は、たばこ規制対策を打ち出そうとしている国々に、それぞれの固有のニーズに応じた実証的な基盤となる材料を与えることである。「禁煙とたばこ依存症治療のための政策提言」はこの活動の一環として作成されたものである。

 さらにWHOたばこのない世界構想(TFI)は、禁煙とたばこ依存症治療についての政策や戦略を策定・強化するよう各国に促すため、この他にも多くの活動を行っている。たとえば、様々な医療従事者団体と会合を開き、「禁煙とたばこ依存症治療のための政策提言」をどう推し進めていけばよいかを話し合っている。また、「禁煙とたばこ依存症治療のための政策提言」を探索的に試行し、各国の能力を高めるために策定した地域トレーニング・ワークショップにこれらの「政策提言」を組み込み、「有効な事例」の情報収集と周知に努めている。さらに、医療従事者のための実用マニュアルと基本資料を用意し、WHOの他の技術プログラムで行われている禁煙やたばこ依存症治療戦略など、様々なたばこ規制活動の統合をはかっている。


References

Al-Mullah AAK. Smoking cessation experience in Qatar. Presentation at the occasion of the WHO meeting on Global Policy for Smoking Cessation hosted by the Ministry of Health of the Russian Federation, Moscow, 14-15 June 2002.

Canadian Cancer Society and International Union against Cancer (2001). Controlling the Tobacco Epidemic: Selected Evidence in Support of Banning all Tobacco Advertising and Promotion and Requiring Large, Picture-based Health Warnings on Tobacco packages. Accessed on August 2001, at: http://www.globalink.org/tobacco/docs/advertising/

Herrera N. Smoking cessation experience in Venezuela. Presentation at the occasion of the WHO meeting on Global Policy for Smoking Cessation hosted by the Ministry of Health of the Russian Federation, Moscow, 14-15 June 2002.

Intergovernmental Negotiating Body on the WHO Framework Convention on Tobacco Control (Sixth session). Draft WHO Framework Convention on Tobacco Control. Geneva, WHO, A/FCTC/INB6/5, 3 March 2003.

Tengs TO, Adams ME, Pliskin JS, Safran DG, Siegal JE, Weinstein MC, Graham JD (1995). Five hundred life-saving interventions and their cost-effectiveness, Volume 15, issue 3:369-390.

Wilson E (2002). Smoking Cessation in Canada and International Opportunities. Presentation at the WHO meeting on Global Policy for Smoking Cessation hosted by the Ministry of Health of the Russian Federation, Moscow, 14-15 June 2002.

脚注
1) たばこ規制枠組条約交渉機関の最終交渉は2003年2月17日から3月1日まで開かれ、ここで最終草案が承認された。交渉機関はまた、WHO規約第19条に則り、2003年5月に開かれる第56回世界保健総会でこの法案を採択することに同意した。よって上記の採択日より以前に、本出版物でたばこ規制枠組条約の特定の規則に言及されているものは、WHOたばこ規制枠組条約の最終草案の規則に言及したものと解釈する。
2) WHOたばこ規制枠組条約の最終草案は、文書A56/8の付録に記載されている。本章でこの草案に言及した箇所はすべて、同文書に記載されているとおりである。
3) 文書A56/8(付録)序文、17項。
4) 文書A56/8(付録)、14条(1)。
5) 文書A56/8(付録)、14条(2)(a)。
6) 文書A56/8(付録)、14条(2)(d)。
7) 文書A56/8(付録)、14条(2)(b)および(c)。
8) 文書A56/8(付録)、13条(1)および(2)。
9) 文書A56/8(付録)、11条(1)(a)。
10) 文書A56/8(付録)、11条(1)(b)。
11) 文書A56/8(付録)序文、1項。
12) 文書A56/8(付録)、12条、柱書き[訳注:13]。
13) 文書A56/8(付録)、20条(1)。
14) 文書A56/8(付録)、20条(3)。

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