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「喫煙と健康問題に関する検討会」報告書(要約版)

「喫煙と健康問題に関する検討会」報告書(要約版)

[平成13年12月]

第1章「たばこ製品の現状」要約

 第1章ではわが国におけるたばこの生産、流通、たばこの消費による健康面及び経済面等の経済分析、たばこに対する世論について述べている。
 わが国におけるたばこの製造は日本専売公社の廃止に伴い、財務省所管のたばこ事業法の下、昭和60年4月1日より日本たばこ産業株式会社が一手に行っており、原料である葉たばこについては、国内で生産されたものは製造たばこの原料の用に適さないものを除き、全てを同社が買い入れている。また、製造されたたばこの販売についてはたばこ事業法により財務省の許可が必要となっている。この小売販売に関する許可については、規制緩和の方向にあって、許可を取得する者は増加傾向にあり、年間約3000店ずつ増加し、1999年には30万店を超えた。外国たばこの国内販売量は、年々増加し、1999年では、国内総販売量数量の24.7%となった。一方、日本たばこ産業株式会社の1998年の海外販売数量はこの年の同社の国内販売数量の8%に相当する。
 たばこの経済分析については、超過死亡及び超過罹患に起因する医療費や所得・労働力・税収の損失など健康面の損失と火災に伴う財産の損失、清掃に要する費用など環境面の損失、さらに喫煙時間分の労働力の損失など様々な社会的損失という側面とたばこによる税収、たばこ産業の他産業への資金投入、付加価値創造など正の側面の両面からの検討が行われている。前田、中原、後藤、医療経済研究機構は、たばこによる社会的損失額をそれぞれ11,406億円(1993年)、31,824億円(1990年)、56,000億円(1990年)、37,935億円(1993年)と試算している。
 たばこに関する国民の喫煙対策への関心については、1983年以来12回にわたり(1999年現在)、政党支持率調査などの世論調査に付随した形で時事評論社により実施された調査や1999年に厚生労働省により行われた喫煙と健康問題に関する実態調査などがあり、これら調査結果から国民の喫煙対策に関する関心は高いことが明らかにされており、公共の場所や職場における喫煙規制、喫煙者のマナーの徹底、未成年者の喫煙防止対策などの対策を要望する者が多い。

第2章「たばこの健康影響と依存性の証拠」要約

 第2章ではたばこ煙の成分、たばこ煙への暴露の生体指標、疫学研究の方法論と因果関係の推定、たばこによる健康影響の大きさ、喫煙者本人への影響、周囲の非喫煙者への影響、次世代への影響、依存性について述べている。
 たばこ煙の構成物質は約4000種類とも言われ、その中にはnitrosoamine類に代表される発がん物質を含む多くの有害物質が含まれていることが知られている。そのため、たばこの消費が健康に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、これまで多くの疫学研究がなされてきた。疫学研究については、対照とする集団を抽出する際に偏りを生じる因子を慎重に排除する必要がある等、結果に影響する技術的問題点を指摘されることもあるが、我が国において行われた平山による「六府県コホート研究」や「米国公衆衛生総監報告書」など評価の高い疫学研究が、喫煙による発がんリスクの上昇等の健康に対する悪影響を指摘してきた。喫煙による全死亡リスクに基づいた試算では、1995年に我が国では約9.5万人が喫煙と関連した疾患により死亡したと推定されており、これは同年の自動車交通事故による死亡者数(約1.5万人)を大きく上回っている。
 実験に基づく報告によると、喫煙は、認識能力・情報処理能力・短期記憶を促進することが知られており、喫煙の主たる理由として活力増加等が挙げられることを裏付ける結果である。一方で、中毒現象や脳循環の障害等、生体に及ぼす悪影響も知られており、また更に、長期の喫煙は様々な疾患の相対危険度を上昇させることが報告されている。またニコチンが依存を引き起こすとされる事実についても、そのメカニズムにつき解明が進んでいるところである。
 喫煙の発がんリスクに関しては長年の疫学研究の結果を見ると、肺がん、食道がん、口腔がん・中咽頭・喉頭がん等多くのがんにおいて、喫煙によるがん罹患の相対危険度が2以上となるなどの結果が得られている。喫煙による発がんの原因として、nitrosoamine、benzo(a)pyrene等のたばこ煙に含まれる発がん物質について、その発がんメカニズムの研究が進んでおり、これらの発がん物質が種々のがん関連遺伝子に対し、変異を起こすメカニズムが提唱されている。また、我が国に多い大腸がんや乳がんについては、喫煙と発がん性の関連について依然として議論が分かれており、今後も疫学的な知見の集積が必要である。さらに最近のゲノム科学的手法を用いて得られた知見によると、喫煙による発がん感受性の個人差について、たばこ煙中の発がん物質を活性化及び解毒する酵素の遺伝的多型が酵素活性に影響し、個人差を生じる一因となっている可能性が示唆されている。禁煙による発がん予防効果について、肺・口腔・食道・胃等のがんにおいては、前喫煙者の方が現喫煙者よりも発がんリスクが低くなる疫学的知見が得られている。
 喫煙と脳卒中との関係についても約2倍の相対危険度があるとするデータが国内外の疫学研究の結果として報告されている。また、近年動脈硬化の画像診断技術が進歩し、超音波等による動脈硬化度の評価が可能となった結果、喫煙と頸動脈硬化進展との関連が報告されている。
 たばこ煙に直接暴露される呼吸器系に対する影響としては、肺機能の低下やガス交換機能の低下による動脈酸素分圧の低下等が認められるとともに、様々な呼吸器疾患との関連が報告されている。特に慢性気管支炎、肺気腫等の慢性閉塞性肺疾患(COPD)との関連は多数報告されている。肺機能に対する禁煙の効果については、最近の我が国の研究により、肺機能の改善または低下の抑制が見られることが報告されており、慢性閉塞性肺疾患等に対する禁煙の重要性が示唆されている。
 インスリン非依存性糖尿病の相対危険度についても、喫煙により有意にリスクが高まることが近年報告されている。合併症として透析に至る可能性もある糖尿病性腎症の発症リスクとも関連があると言われている。
 自分の意志とは無関係に環境中のたばこの煙にさらされ、それを吸わされることを受動喫煙という。近年受動喫煙の健康影響についての研究が進み、肺がん、虚血性心疾患等の疾患のリスクを上昇させることが報告されているとともに、胎児や乳幼児に対しても、乳幼児突然死症候群の危険因子となりうることが報告されている。

第3章「たばこ対策への介入事例とその効果」要約

 第3章では、警告表示、反たばこ広告キャンペーン、価格と消費、禁煙指導・禁煙支援、健康教育、国際機関等の取り組みについて述べている。
 現在、諸外国においては様々なかたちで喫煙が健康におよぼす影響についての教育や法律による規制がなされており、その効果についても様々な研究がなされている。警告表示を導入した直後はその内容を覚えているが、導入後1ヶ月を過ぎるとその割合は、低下するというオーストラリアの報告、警告表示の形式を変えなければ、内容だけを変えても効果がないという米国の報告などがある。また、近年、カナダやオーストラリアにおいてたばこ製品の警告表示ついては、写真などを利用した視覚に訴えかける方法などが行われるようになったほか、警告表示の面積や異なる複数のメッセージを順番に表示させることを義務付けるなど様々な方法が取られている。
 一方、価格引き上げのたばこ消費に対する影響については、物価上昇率や収入の増加率を超えてたばこの価格が上昇するとたばこの消費が減少し、これは特に未成年者や収入の低い層のたばこ消費の抑制につながると報告されている。
 また、喫煙者の喫煙習慣への介入方法として諸外国では禁煙指導が盛んに行われており、多くの研究や報告がなされている。医療従事者などによる禁煙指導が禁煙指導を行わない場合に比べて禁煙率を有意に増加させ、さらに、複数の指導者による禁煙指導を行った場合にはその指導効果が更に高まるとの報告がなされている。
 わが国においても喫煙防止教育の取り組みが進められており、ただ単に喫煙の健康影響に関する知識を提供するだけでなく、青少年の喫煙開始に関わる社会的要因の存在に気づかせ、それらの影響に対処するために必要なスキルの形成に焦点を当てたプログラムなどが1990年代になって登場してきている。また、平成14年度から完全実施される新学習指導要領では喫煙防止教育を第6学年で指導することが明記されるようになった。
 このように各国において、様々なかたちでのたばこ対策が行われてきたところであるが、多国籍企業の国境を越えた経済活動の広がりや対策に必要な資源の国家間の不均衡などを踏まえて、世界保健機関(WHO)は1996年の世界保健総会で「たばこ対策のための枠組条約」の策定準備が決議され、2003年の5月を目途に採択する準備が進められており、現在、政府間交渉が行われている。


喫煙と健康問題に関する検討会 名簿(五十音順)

青山 旬 国立保健医療科学院 口腔保健部主任研究官
秋葉 澄伯 鹿児島大学医学部 公衆衛生学講座教授
淺野 牧茂 元・国立公衆衛生院 生理衛生学部長
上島 弘嗣 滋賀医科大学 福祉保健医学講座教授
大島 明 大阪府立成人病センター 調査部部部長
大野 裕 慶應義塾大学医学部 精神神経科学教室講師
小川 浩 愛知みずほ大学 人間科学部教授
尾崎 米厚 鳥取大学医学部 衛生学教室助教授
川上 憲人 岡山大学大学院 医歯学総合研究科社会環境生命科学専攻
長寿社会医学講座衛生学・予防医学分野教授
川根 博司 日本赤十字広島看護大学 看護学部看護学科教授
川畑 徹朗 神戸大学発達科学部 健康発達論講座助教授
窪山 泉 横浜市都筑区福祉保健センター長
佐竹 元吉 元・国立医薬品食品衛生研究所 生薬部長
曽根 智史 国立保健医療科学院 公衆衛生政策部地域保健システム室長
祖父江 友孝 国立がんセンター研究所 がん情報研究部室長
土井 由利子 国立保健医療科学院 疫学部社会疫学室長
徳留 修身 鹿児島県名瀬保健所 所長
中原 俊隆 京都大学医学部 健康政策管理学教授
中村 正和 大阪府立健康科学センター 健康生活推進部部長
富永 祐民 愛知県がんセンター総長
橋本 勉 和歌山県立医科大学 公衆衛生学教室教授
埴岡 隆 大阪大学歯学部 分子病態口腔科学専攻口腔分子免疫制御学講座助教授
久繁 哲徳 徳島大学 衛生学講座教授
松崎 道幸 深川市立病院 内科医長
簑輪 眞澄 国立保健医療科学院 疫学部長
望月 友美子 国立保健医療科学院 研究情報センター情報デザイン室長
山口 直人 国立がんセンター研究所 がん情報研究部長
 座長:○

 本検討会は、厚生労働省健康局長の要請により喫煙と健康問題に関する報告書の取りまとめを行ったものである。

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