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効果的な分煙対策を行うための留意事項

第3章 効果的な分煙対策を行うための留意事項



第3章  効果的な分煙対策を行うための留意事項
 新ガイドラインに沿った喫煙場所の設置
 「職場における喫煙対策のためのガイドライン」(平成15年5月)では、喫煙場所を設置する場合には、煙が漏れず、かつ、喫煙場所であっても良好な空気環境を維持することが求められている。
 新ガイドラインのポイントは以下の3点である。
  (1)  喫煙を行う場所としては、喫煙コーナーより喫煙室を設置することを推奨。
  (2)  たばこの煙を直接屋外に排出する方式の喫煙対策機器を推奨(空気清浄機ではガス状成分を除去できない)。
  (3)  喫煙室から非喫煙場所へたばこの煙やにおいの流入を防止するため、その境界において、喫煙室に向かう0.2m/s以上の空気の流れの確保。

 (1)  喫煙室を設置する場合の注意事項
  ア  排気装置の選定
   一般の事務室や居室の排気装置には、換気扇、天井扇、ラインファン、遠心ファンなどの排気装置が用いられる。
 換気扇には、家庭の台所などで使用される標準換気扇、圧力損失に強く羽根径が同じであれば大きな排気風量が得られる有圧換気扇、さらに強力で工場等の排気に使用される産業用有圧換気扇がある。メーカーにより排気風量は若干異なるが、大手家電メーカーのカタログ値を目安として以下に示す。なお、換気扇は設置が簡単であるが、得られる静圧が低いため、排気と反対方向の屋外の風が強い場合には排気風量が低下する。屋外側にはウェザーカバーが必要である。羽根径が35cm以上になると騒音が大きいため、喫煙室での使用には不向きである。

軸流式換気扇(羽根径20cm、25cm)の図
軸流式換気扇(羽根径20cm、25cm)
ウェザーカバーの図
ウェザーカバー

羽根の直径(cm)  標準換気扇  有圧換気扇  産業用有圧換気扇  
20 400〜600 500〜700 650〜750  
25 700〜900 1100〜1200 1150〜1300  
30 1000〜1200 1300〜1700 1600〜1900  (m3/h)

   天井扇は、通常の建築物に使用される場合、ダクト径が150〜200mmのものが選択される場合が多い。その場合の1台あたりの排気風量は300〜600m3/hとなる。ただし、ダクトによる圧力損失で排気風量が低下するので、静圧・風量曲線図により施工後に確保される排気風量を計算した上で、排気装置の大きさと台数を決めねばならない。 図

   下の写真は喫煙室の出入口から漏れないための排気風量を確保するために、天井扇を4台設置した事例である。

図

   ラインファン、遠心ファンは、小風量のものから大風量のものまで建物で使用される全ての風量に対応できる。換気扇や天井扇と異なり、高静圧のものまで製品があるため、風の影響やダクトが長い場合にも必要風量を確保することができる。
 排気装置を設置する際には必要最小限の排気風量よりも余裕を持たせて設置することを推奨する。特に、高層建築などのように密閉性が高い場合には、メークアップ・エアの供給を計画的に確保しなければならない。喫煙室のドアを閉めて密閉した場合、メークアップ・エアが得られないため、たばこの煙の排気効率は極端に低下する。
 喫煙室へのメークアップ・エアの供給を確保するためには、メークアップ・エアのルートを確保し、必要最小限の風量が得られるように排気装置を選定する必要がある。
 【注:メークアップ・エア、排気される空気と同じ体積の空気】

  イ  排気風量の決定
   有効な喫煙室を設置する場合に必要な排気風量は以下のように算出する。
(1) 喫煙室の出入口で0.2m/s以上の空気の流れが発生する排気風量Q1:
 通常の出入口の大きさを幅0.85m、高さ2.0mで開口面積を1.7m2とした場合、
   Q1=60(s)×0.85(m)×2.0 (m)×0.2(m/s)=20.4(m3/min)=1,224(m3/h)

(2) 煙室内の空気環境を良好に保つために必要な排気風量Q2:
 まず、喫煙室全体にたばこの煙が拡散することを前提とした場合について述べる。
 エアコンやビルの空調の給気により撹拌されている場合や、メンテナンス状態が悪い空気清浄機が設置してある場合には、喫煙室のたばこの煙が一旦室内に拡散した後に、希釈されることとなる。
 1本の喫煙からは10mgの粉じんが発生することが知られている。まず、灰皿に残された吸い殻を数えるなどの方法により、時間あたりに何本の喫煙が行われるのかを求める。1時間にn本の喫煙が行われた場合に喫煙室内の平均濃度をガイドラインに示されている0.15mg/m3以下に維持する排気風量は以下の式から求められる。
   Q2(m3/h)=10×n(mg/h)÷0.15(mg/m3)
 1時間あたりに12本が喫煙される場合には800m3/h、24本で1,600m3/h、36本で2,400m3/h・・・の割合で排気を強化する必要がある。
 最終的にはQ1とQ2を比較し、大きい方の排気風量を設置する。低層建築であれば壁に換気扇を設置する、もしくは、窓枠を利用することで必要な排気風量を確保する。

図 図 図
   しかし、1時間あたりの喫煙が36本を超えるような場合には、低層建築であっても全体換気を前提として排気風量を強化することは現実的ではない。そのような場合には、たばこの煙が拡散する前に局所排気を行う。具体的には、喫煙する場所を換気扇の真下に限定する、喫煙室内に喫煙コーナーを作成する、などの工夫が必要となる。具体的な改善事例については第3章の5で述べる。

  ウ  喫煙室の出入口の開口面における風速の測定について
   (ア) 風速測定の方法
 ガイドラインでは出入口の開口部分において非喫煙場所から喫煙場所へ向かう0.2m/s以上の一定の空気の流れを作ることが求められている。出入口にドアが設置されている場合は、ドアを開けた状態で風速を測定しなければならない。
 喫煙室にドアがある場合、通常はメークアップ・エア(排気する空気と同じ容積の空気)を取り入れるためにガラリとよばれるスリットが設置されている。排気風量が不足している場合であっても、ドアを閉めてガラリの風速測定をすれば、開口面積が小さいために容易に0.2m/s以上の空気の流れが得られる(写真左)が、これは誤った測定方法である。

誤った風速測定方法の図 誤った風速測定方法
(ガラリ部分の気流を測定)
正しい風速測定方法の図
正しい風速測定方法
(開口部分の一定方向の気流を測定。
排気風量が990m3/hしかないため、漏れ防止対策として出入口に床上60cmのスクリーンをかけ、開口部分の気流を0.2m/s以上に強化した事例)

   (イ) 風向の確認
 風速計を用いて風速を測定する場合、周囲のエアコンや窓が開いている場合には外気の影響を受けるため、スモークテスターや線香の煙などを用いて空気の流れの方向も同時に観察すると良い。

写真:風速測定と同時にスモークテスターにより風向も確認
写真: 風速測定と同時にスモークテスターにより風向も確認

  エ  喫煙室の出入口について
   喫煙室の出入口のドアを閉めてしまうとメークアップ・エアが供給されなくなるために排気効率が低下することは既に述べた。そのため、実際の喫煙室では空気取入口(ガラリ)つきのドアがつけてある事例が多く見かけられる。仮に、出入口から漏れない排気風量(20m3/min=1,200m3/h)を設置してドアを閉めてガラリ(0.3m×0.6m)からメークアップ・エアを取り入れた場合、その気流は約2m/sとなる。喫煙室内のたばこの煙がメークアップ・エアで撹拌されるために、排気の効率が低下する場合がある。
 たばこの煙を漏らさず、かつ、排気効率を落とさないための工夫について述べる。
   (ア)  ドア(蝶番式、スライドドア)を設置した場合
・蝶番のある開閉式のドア
 喫煙者が出入りするときにドアが全面開放となってしまうため、排気風量が不足する場合に漏れの原因となる。また、ドアを開け閉めする動きがフイゴのような作用となり、たばこの煙の漏れの原因となりやすい。
・スライド式のドア
 喫煙者が出入りする際には、最小限の幅のみを開けて出入りすること、フイゴ様の作用がないこと、手を離すと自動的に閉まる方式にすることによりたばこの煙が漏れにくい。しかし、通常のドアよりも数倍高価である。

   (イ)  ドア以外の工夫(アコーディオンカーテン、カーテン、のれん)
・アコーディオンカーテン
 完全に閉めた場合、開口部分が小さくなるためにメークアップ・エアが確保できない。また、開けっ放しとなることが多く、漏れの原因となりやすい。
・カーテン
 下部が開口部分となっているため、メークアップ・エアの確保が出来る。ただし、開けっ放しになった場合には漏れを生じやすい。

・のれん
 下部の開口部分からメークアップ・エアの確保が出来る上に、上部は出入口の幅で固定されているために漏れも発生しにくい。また、安価である。

 以上の対策で費用と効果を比較すると、喫煙室の出入口にはドアを設置せず、たばこの煙が漏れない0.2m/s以上の気流が確保できる長さの「のれん」を設置すると良い。

出入口にのれんを設置して、開口部分の気流を0.20m/sから0.27m/s
に強化した事例(排気風量1,160m3/h)の図
出入口にのれんを設置して、開口部分の気流を0.20m/sから0.27m/s に強化した事例(排気風量1,160m3/h)

  オ  出入口を開放した状態で漏れない排気風量が確保できない場合
   今回の調査により、排気風量が確保できない場合には、出入口の開口面積をスクリーンにより小さくするだけで気流が強化し、たばこの煙が漏れない喫煙室に改善されることが実証された(第2章、現状を改善した事例14、入り口をガラリ付きドアとスクリーンの比較を参照)。

 (2)  喫煙室を設置するスペースがない場合(喫煙コーナーの設置)
 喫煙室を設置するスペースがない場合には、喫煙コーナーを設けることが考えられる。
 しかし、喫煙コーナーは喫煙室に比べて開口部分が大きくなるため、煙の漏れも発生しやすい。
 ガイドラインでは喫煙コーナーを設ける場合の具体的な方法が詳細には記載されていなかったが、たばこの煙は熱による上昇気流で上方向に拡散するため、喫煙コーナーを設置する場合には、天井部分を垂れ壁、カーテン、スクリーンなどにより区画することが必須である。今回、実際に設置されている喫煙コーナーの事例から、たばこの煙が漏れない条件について検討を行った。
 調査結果から、排気風量を喫煙コーナーの床面積で割った値、つまり、喫煙コーナー内で発生する上方向への気流が0.1m/s程度以上確保されていればたばこの煙は喫煙コーナー内で滞留せずに天井の排気装置まで上昇し、屋外へ排気されることがわかった。通常のオフィスビルで設置されている排気装置を利用して、喫煙コーナー内で0.1m/s以上の上昇気流を発生させることが出来る喫煙コーナーの大きさは次のようになる。

  標準換気扇(羽根径25cm:900m3/h)であれば1辺1.5m以下、
  天井埋込型換気扇(羽根径23cm:600m3/h)であれば1辺1.3m以下、

 同時に3〜5名程度しか入ることができない大きさであるため、喫煙者が入りきれない場合には、譲り合って使用するしかない。逆に、喫煙者が多いために喫煙コーナーを大きくする必要がある場合には、喫煙コーナー内で0.1m/s以上の上昇気流が発生する排気風量を設置することが必要である。

  喫煙コーナーの1辺が1.7m(=2.9m2)であれば1,040m3/h以上
  喫煙コーナーの1辺が2.0m(=4.0m2)であれば1,440m3/h以上

 排気風量と喫煙コーナーの大きさを調整し、最低でも0.1m/s以上の上昇気流が得られる場合について、さらに注意するべきポイントは以下のとおりである。

  ア  天井部分の区画(垂れ壁など)について
   部屋の隅を利用して開口面積を小さくする(喫煙コーナーの事例2,4、6,7)、出入りに使用する部分以外のスクリーンはなるべく長くして開口面積を小さくする(事例6)などの工夫が必要である。
 ただし、垂れ壁やスクリーンを天井に設置する場合には、今回の調査事例のように消防法、建築基準法の規定に従わねばならない。

   (ア)  上方吸引式(キャノピー型)フードを利用した喫煙コーナー
 台所のレンジフードのように熱を持った煙や臭いを発生源の上方で捕捉するタイプの局所排気装置をキャノピー型フードと呼ぶ。局所排気装置はフードの中で一定方向の空気の流れが発生させるため、排気風量が小さい場合でも煙や臭いを漏らさない対策が可能である(喫煙コーナーの事例1〜3)。
 喫煙コーナー事例1、2、3のように天井にフードを固定し、その周囲にスクリーンを吊す対策は、天井を直接区画していないことから消防法上の問題が小さい。ただし、スプリンクラーの散水範囲を妨げない場所に設置する配慮が必要である。

上方吸引式(キャノピー型)フードを利用した喫煙コーナーの図
上方吸引式(キャノピー型)フードを利用した喫煙コーナー

   (イ)  吊り天井による上方吸引式の喫煙コーナー
   喫煙コーナー事例5のように天井が高い建物の場合、天井に幅50センチの垂れ壁を直接設置しても、喫煙者との距離が離れすぎているために煙の漏れを防止する役目を果たさない。そのような場合には、天井裏のコンクリートにボルトでワイヤ・金属の棒を固定し、高さ2.3〜2.5mの位置に不燃材の板を吊す。その周囲にスクリーンを垂らしてフードを作成し、排気装置と接続する(喫煙コーナーの事例5)。 図

 (3) 喫煙室を設置するスペースがない場合(床置き型喫煙ボックスの設置)
 喫煙室を設置するスペースがない場合のもう一つの対策として、小型の喫煙室ともいえる喫煙ボックスを設置することが考えられる。
図 喫煙コーナー事例9のように不燃材の枠とフィルムを用いて喫煙ボックスを作成し、排気装置と接続すれば天井を区画していないために消防法上の問題が小さい。機能としては喫煙室と同じであるため、出入口となる開口部分で0.2m/s以上の一定方向の空気の流れを発生させる必要がある。接続できる排気装置が小さい場合には、写真のように出入口にスクリーンを垂らして開口面積を小さくすることで煙の漏れ防止が可能である。写真の事例では、排気風量は比較的小さい(670m3/h)が、ボックスは一辺が1.5m(=2.25m2)と面積が小さいため、上昇気流は計算上0.08m/sであったが、容積(5.2m3)も小さいために換気回数は約130回/hとなり、たばこの煙はボックス内に煙が滞留することなく速やかに排気された。特に、立って喫煙する場合には、喫煙者の顔と排気装置との距離は60cm程度しかない。発生したたばこの煙がボックス内に拡散する前に排気されることが観察により認められた。
 以上のように、前述したキャノピー型喫煙コーナーや上方吸引式の喫煙ボックス型(小型喫煙室)の検討から、喫煙室を設置するスペースがない場合でもある程度のスペースがとれれば、煙が漏れず、かつ、消防法上の問題も小さい喫煙対策機器の設置は可能であった。また、今回調査した事例では、排気風量を喫煙コーナーの床面積で割った値、つまり、上方向への空気の流れの速度が計算上0.1m/s以上得られている場合には、局所排気の効果により煙が滞留しないことが認められた。


 喫煙室を設置した場合の法規上の対応
 喫煙室を設置することは、新しく壁等により囲まれた空間が生じ、そのため法規上必要な防災設備の増設が必要となる場合があり、排煙設備、スプリンクラー消火設備、自動火災報知設備などが該当する。以上の設備は、法規により建物の用途・規模等により設置が決められているため、防災設備が必要な建物に喫煙室を設置する場合は、法規との整合を図る必要がある。法規として、国の定める建築基準法、消防法に加え、地方自治体の条例も上記について規定していることがあるので注意しなければならない。
 (1)  排煙設備
 火災時煙は温度が高いため上部に滞留し、その煙が天井面を伝わって拡散し冷えて降下すると避難時の障害となる。その煙の拡散を防ぐ目的で設置されるのが防煙垂れ壁であり、建築基準法で50cm以上と規定されている。従って、喫煙室からたばこの煙の流出を防止する目的として50cm以上天井面から垂れ壁があれば防煙区画とみなされ、喫煙室が1つの防煙区画と見なされるため、排煙口を喫煙室に設置しなければならない。
     関連法規: 建築基準法施行令 第百二十六条の二、第百二十六条の三
消防法施行令 第二十八条、消防法施行規則 第三十条

 (2)  スプリンクラー
 天井面から定められた長さ以上の垂れ壁が生じると、火災時スプリンクラーからの水が垂れ壁にあたり有効に散水されなくなるため、喫煙室内にスプリンクラーヘッドを増設する必要が生じる。散水障害に対する基準は下記のとおりになっており、垂れ壁が30cm以上ある場合はスプリンクラーヘッドを増設する必要が生じる。

図
D(m) H(m)
0.75未満 0
0.75以上1.0未満 0.1未満
1.0以上1.5未満 0.15
1.5以上 0.3未満

     関連法規: 消防法施行令 第十二条、消防法施行規則 第十三条の二

 (3)  自動火災報知設備
 自動火災報知設備は、速やかに火災を感知するための設備であり、煙・熱(温度)を検知することで火災を感知する。そのため、喫煙室内外が垂れ壁で天井面が仕切られていると、それだけ熱・煙を検知するまでの時間に遅れが生じる。従って、天井面から40cm(差動式分布型感知器又は煙感知器を設ける場合にあつては60cm)以上の突出物(垂れ壁、梁等)がある場合は、その区画されたエリア毎に感知器を取り付ける必要がある。
     関連法規: 消防法施行令 第二十一条、消防法施行規則 第二十三条

 (4)  垂れ壁の高さと防災設備の増設の関係
  差動式スポット型、定温式スポット型又は補償式スポット型その他の熱複合式スポット型の感知器 差動式分布型感知器又は煙感知器
40cm未満 排煙口:増設不要
感知器:増設不要
排煙口:増設不要
感知器:増設不要
40cm以上50cm未満 排煙口:増設不要
感知器:増設必要
排煙口:増設不要
感知器:増設不要
50cm以上60cm未満 排煙口:増設必要
感知器:増設必要
排煙口:増設必要
感知器:増設不要
60cm以上 排煙口:増設必要
感知器:増設必要
排煙口:増設必要
感知器:増設必要

図

喫煙室にスプリンクラーヘッド及び感知器を増設した事例の図
喫煙室にスプリンクラーヘッド及び感知器を増設した事例


 新築時より喫煙室を計画的に設計する場合
 新築ビルを建設する場合、竣工後の分煙対策=喫煙室を設けるために対応を考慮しておく必要がある。対応の方法としては、以下の2つのケースが想定される。
 (1)  新築工事において当初より喫煙室を設置するビル
 (2)  将来喫煙室が設置できるように、換気対策等が施されたビル

 (1)  喫煙室に必要なビル側の対応
 平成15年の新しい「職場における喫煙対策のためのガイドライン」による
(1)たばこの煙が拡散する前に吸引して屋外に排出する方式を推奨
(2)浮遊粉じんの濃度を0.15mg/m3以下とする
(3)非喫煙場所と喫煙室等との境界において喫煙室等へ向かう気流の風速を0.2m/s以上とする
 などの要件を満足する喫煙室を作るには多量の排気風量が要求されるため、必要な風量の給気・排気ができるようにすることが必要とされ、特に屋外から喫煙室への給気、喫煙室から屋外へ排気するために、外壁部分に十分な面積のガラリを設けることが重要となってくる。
 次に、たばこの煙を屋外に排出するための屋外までのダクトルートを取る必要がある。

事務所ビルにおける空調と喫煙室排気システム例の図

事務所ビルにおける空調と喫煙室排気システム例

  ア  新築ビルにおけるガラリ、ダクトルート
   以下は、新築ビルにおけるガラリ、ダクトルートの例であるが、実際に使用した各階2箇所の排気用ガラリの他、予備として各階2箇所の予備排気用ガラリ、各階2箇所の給排気兼用ガラリが設置されている。
 このように、ビル外壁部分の予備のガラリや喫煙室に至るダクトルートが建設時より設けてあれば、将来喫煙室を設置したい場合の排気やメークアップ・エアの確保が容易にできる。

図

 (2)  たばこの煙が拡散する前に吸引して屋外に排出する方式のエネルギー消費と経済性
 たばこの煙が拡散する前に吸引して屋外に排出する方式=排気方式は、空気清浄機併用方式と比べ、外気導入量が増えることから外気処理に要するエネルギーコストが増加する可能性があるが、以下のとおり適切に換気計画を行えば省エネルギーに反しない喫煙室を作ることは可能である。
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」等を満足するには、通常1人あたり30m3/時間程度の外気を導入する必要がある。仮に、事務室面積1,000m2に100人がいる場合、1人あたり30m3/時間の新鮮空気を導入するとすれば、3,000m3/時間の換気が必要となる。事例のように6人用約7.5m2の喫煙室(天井高さ2.7m)で3,000m3/時間の排気を行えば、約 150回/時間(3,000/(7.5×2.7))の排気が可能である。ビル内には便所等換気が必要な室があるため、全量喫煙室で排気することはできないが、本来必要な換気の一環として喫煙室で排気を行えば、余分なエネルギーを消費することにはならない。
 また、喫煙コーナーの排気風量が必要外気量からの増加とし、その外気分を処理するエネルギーコストを見込んだ場合での試算による下記の比較表では、年間冷房運転となる大規模ビルでは、夏期及び冬期の一時期を除いて外気冷房運転となるため、外気処理に要する熱源エネルギーはさほど要しない結果となり、トータルで空気清浄機併用方式よりも排気方式の方が経済的であるという結果が出ている。
 人感センサーを設置し、喫煙者が不在の時に換気風量を低減するなどの対応を施せば、さらに省エネルギー及び経済性を高めることができる。

経済性の比較(コストは比率)
比較項目 排気方式 空気清浄機併用方式
方式 排気ファンにてたばこからの発塵物質を屋外へ排出し、空気清浄度を保つ。 たばこからの発塵物質をフィルターにより除去し、空気清浄度を保つ。
機器仕様 排気ファン:1,500m3/h 空気清浄機:1,800m3/h
排気ファン:400m3/h
設備コスト 100 170
メンテコスト 25
(フィルター交換)
85
(フィルター・部品交換)
エネルギーコスト 20(電気コスト)
55(熱源コスト)
15(電気コスト)
15(熱源コスト)
合計 100 115
熱源コストは、外気導入に伴う外気負荷増加に対する冷熱・温熱のコストである。


 既存のビルに喫煙室を設置する場合
 1980年代までに建設された建物には喫煙対策を施した事例は少なく、そのような建物で分煙対策を施す場合煙の排出装置の設置が難しく、喫煙室を設置することが困難な場合が多い。

 (1)  喫煙室の設置場所の選定
 建物内に喫煙室を設置する上での最優先事項は、たばこの煙を屋外に排出するための排気装置が設置でき、屋外までのダクトルートが取れるかにかかっている。さらに、屋外に排出した空気の量だけ屋外から空気を導入する方法も必要となる。
  ア  建物の換気を行うための排気装置を喫煙室の排出装置に利用することが可能な場所
   冷暖房を行う建物には必ず部屋の換気を行うための排気装置があり、その排気装置を利用できれば新しく排気装置を設置する必要がなく、また建物からの排気量が増加しないため空気導入量を増やすことも生じないため設置コスト、運転費が最も安く済む。しかし、換気システム上の制約や排気を流すためのダクトが通せないことにより、利用することができないこともある。

図

  イ  外壁または窓等に排気装置(有圧換気扇等)が設置できる場所
   非常に簡便に排気装置を設置することができるが、有圧換気扇は外観上また大雨の際の吹き込みが問題となることがあり、コンクリート壁に開口をあける必要がある場合には構造上の問題が起きることがある。また、新たに空気を導入する装置が必要となることもある。
 以下に上記のような問題を解決する方法として、ガラス窓をガラリに改造し簡易的な喫煙室を設置する案を示す。

図

排気ファン風量 ・開口面積より 1.8m×0.6m×0.2m/sec×3,600×1.1=850m3/h
(換気回数 850m3/h×1/(1.8m×1.8m×2.0mH)=131回/h)
 排気口 HS 1000×150(フィルター付き)
 コスト(空調機メーカー概算金額) 600千円程度
  ウ  建物の排気用外壁ガラリにダクトが接続できる場所
   通常外壁ガラリは共用エリアの外壁に面して設置されていることが多く、そこまでのダクトルートが取れないことが多い。また、天井を落としてダクトを設置する必要があるなど工事費が非常に高くなる。ただし、最近のビルには、事務室に面した外壁部に喫煙室の排気を出すための予備ガラリを設置している事例が多数見られるようになってきており、予備ガラリの設置の有無を確認する必要がある。

図 図

 (2)  喫煙室の排気風量を低減する
 前記のとおり、既存ビルにおいては大風量のたばこの煙を屋外に排出するための排出装置の設置や屋外までのルートが取れないことが多いため、喫煙室の排気風量を低減し効果的に換気することが重要になってくる。
 浮遊粉じんの濃度を0.15mg/m3以下とするための排気量は、煙が完全拡散することを前提すれば多量の風量となるが、例えば家庭のレンジフードのように煙が拡散する前に排出できれば少ない風量で済む。また、喫煙室内の喫煙エリアを限定することで煙の拡散を小さくできる。

図


5. 現実的な喫煙室等の計画について
 今回の調査結果、及び、建築物の給排気の構造、及び法令遵守の観点から喫煙室等を設ける場合の現実的な対策について考察を行った。

 (1)  喫煙室の出入口から煙が漏れない排気風量(1,200m3/h)が確保できる場合
 通常の大きさの出入口(幅0.85m、高さ2.0m、面積を1.7m2)において、喫煙室へむかう一定方向の気流0.2m/sが得られる 20m3/min(1,200m3/h)程度の排気風量が確保できる場合のポイントを以下に述べる。
  ア  喫煙室のレイアウト
   同じ床面積であれば長方形とし、排気装置は出入口と反対の短辺に設ける。細長い構造にする方がよい。左は幅2.5m、奥行き5m、高さ2.6mの喫煙室に900m3/hの排気装置を2台設置した場合の空気の流れをシミュレーション(アドバンスドナレッジ研究所、Flow Designer. Ver 2.2)した結果である。出入口から入ってくるメークアップ・エアにより効率よく排気される様子が描かれている。

同じ床面積で形の異なる喫煙室内の空気の流れ(平面図) 同じ床面積で形の異なる喫煙室内の空気の流れ(平面図)
同じ床面積で形の異なる喫煙室内の空気の流れ(平面図)

同じ床面積で形の異なる喫煙室内のたばこの煙の排気の様子(平面図) 同じ床面積で形の異なる喫煙室内のたばこの煙の排気の様子(平面図)
同じ床面積で形の異なる喫煙室内のたばこの煙の排気の様子(平面図)

   右図のような正方形の喫煙室にした場合、部屋の四隅の空気の流れが悪くたばこの煙が滞留することになる(それぞれ4名が喫煙した場合の汚染物質の拡散)。

  イ  喫煙場所の限定(排気効率を上げるための工夫)
   たばこの煙が喫煙室全体に拡散する前に排気されるような配慮をすると効率が良くなる。つまり、灰皿を排気装置の真下に置き、熱による上昇気流で立ち上る煙が排気装置から直接排気されるようなレイアウトにすると良い。

  ウ  メークアップ・エア、エアコンによる空気(煙)の撹拌の有無
   給気口(吹出口)は速い気流を発生させるため、喫煙室には空調のための給気口やエアコンを設置しない方がよい。喫煙室の壁やドアに設ける給気用の開口面積が小さいと、速い気流を生じ煙が拡散する原因となることもありえる。そのため、気流は給気口から排気口へ向かって一定方向にゆっくり流れるようにすることが望ましい。

  エ  空調のための還気口
   空調のための還気口(空気の戻り口)が設置されていると、空調機を介して非喫煙場所に煙が流出するため注意を要する。

図

 (2)  喫煙室の出入口から煙が漏れない排気風量(1,200m3/h)が確保できない場合
 通常の大きさの出入口において、喫煙室に向かう一定方向の気流0.2m/sが得られる排気風量(1,200m3/h)が確保できない場合の対策として、まず考えられることは、出入口の開口面積を小さくして必要排気風量が少なくてすむようにすることである。このためには、第3章の2で述べたように、出入口にのれんを設置すること等が有効な対策である。それでもなお排気風量が足りない場合は、喫煙室内に喫煙コーナーを設けることや小型の喫煙室(喫煙ボックス)を設けることが考えられる。以下、これらの方法について説明する。
  ア  喫煙室内の喫煙コーナー
   喫煙室内の排気装置を利用した喫煙コーナーを設けることが考えられる。今回の調査結果より、排気風量を断面積で割った値、つまり、上方向への気流が計算上0.1m/s程度あれば、たばこの煙は喫煙コーナー内を上方向に拡散して排気装置から排気されることが認められた。このことから、
  標準換気扇(羽根径25cm:900m3/h)であれば1辺1.5m、
  天井埋込型換気扇(羽根径23cm:600m3/h)であれば1辺1.3m、
 程度の大きさの喫煙コーナーの作成が可能である。
 下の写真は、14階建てホテルのレストランに設置された上方吸引式(キャノピー型)フードである。このようなフードの下で喫煙すれば、周囲へのたばこの煙の漏れは防止できる。高層ビルなど排気風量が限られた喫煙室に応用が可能である(ただし、スプリンクラーの散水を妨げない場所を選ぶ配慮が必要)。

某ホテル、レストランの上方吸引式(キャノピー型)フードの図
某ホテル、レストランの上方吸引式(キャノピー型)フード

   既存の建築物の喫煙室を改善する場合でも、喫煙室にはある程度の排気風量が設置されているはずである。その排気風量を利用して0.1m/s以上の上向きの気流が得られる大きさの喫煙コーナー(上方吸引式フード)を喫煙室内に設置することで改善が可能である。喫煙室と非喫煙場所との出入口でのれんの設置等により0.2m/s以上の気流が発生する工夫をした上で、喫煙室内の喫煙コーナー以外の部分を禁煙としておけば、喫煙コーナーから多少の漏れが発生したとしても、非喫煙場所にまで漏れが発生することはない。

  イ  小型喫煙室(喫煙ボックス)による対策1
   写真左は対策前の事務室である。デスクは禁煙であったが、同じ室内に喫煙コーナーがあったために事務室全体にたばこの煙が拡散していた。対策として喫煙ボックスを作成し、壁面の標準換気扇(羽根径25cm、900m3/h)に接続した(写真右)。喫煙者は出入口のスクリーンを通して喫煙ボックスに出入りする。開口面積が小さいために開口部分で2m/s程度の気流が発生するために煙の漏れは全く認められず、この喫煙ボックスを置いた日から受動喫煙が解消された。

対策前の図 対策後の図
小型喫煙室(喫煙ボックス)、左:対策前、右:対策後

  ウ  小型喫煙室(喫煙ボックス)による対策2
   小型喫煙室(喫煙ボックス)を天井埋込型換気扇(羽根径23cm:670m3/h)に接続して用いた事例である。出入口の上半分にはスクリーンをつけて開口面積を小さくしているために、喫煙ボックスからの漏れはない。

図
 小型喫煙室(喫煙ボックス)による対策事例(同時に3〜4名まで喫煙可能)
 排気風量が不足している喫煙室であっても、喫煙室内に上方吸引式(キャノピー型)フードを利用した喫煙コーナーや喫煙ボックスを利用することで対策は可能であると考えられる。

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