二枚貝:下痢性貝毒
1 | 有毒種 | 下痢性貝毒による自然毒食中毒としては二枚貝類の毒化が問題になる。下痢性貝毒の原因生物としては渦鞭毛藻の ジノフィシスDinophysis属とプロロセントラムProrocentrum属が知られ、わが国沿岸ではDinophysis fortiiやDinophysis acuminataなどが発生している。 これまでわが国で毒化が報告されている二枚貝類は、ムラサキイガイ(図1)、ホタテガイ(図2)、 アカザラガイ、アサリ(図3)、イガイ、イタヤガイ、コタマガイ、チョウセンハマグリ、 マガキ(図4)、などで、中でもムラサキイガイの毒化例が多く毒性値も高い。毒素は主に中腸腺に濃縮される。 ノルウェーではカニによる下痢性貝毒中毒が発生した。
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2 | 中毒発生状況 | 下痢性貝毒は1976年に宮城県で初めて確認された貝毒[1]で、わが国では1980年代前半まで中毒事件が多数発生したが、その後は後述するモニタリングの 結果、市販品による下痢性貝毒食中毒は起こっていない。下痢性貝毒は自然毒食中毒には珍しく集団食中毒を起こすことがあり、ヨーロッパや北海沿岸で 大規模な食中毒が発生した。 | |||||||||||||||||||
3 | 中毒症状 | 下痢性貝毒によるおもな中毒症状は消化器系の障害で、下痢、吐気、嘔吐、腹痛が顕著である。症状は食後30分から4時間以内の短時間で起こる。回復は早く通常は3日以内に回復する。後遺症はなく、死亡例もない。 | |||||||||||||||||||
4 | 毒成分 | ||||||||||||||||||||
(1)名称および化学構造 | 狭義の下痢性貝毒はオカダ酸とその同族体のジノフィシストキシン群である。図5にそれらの構造を示す。
図5 オカダ酸とジノフィシストキシンの構造式 |
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(2)化学的性状 | オカダ酸をはじめとする下痢性貝毒は脂溶性のポリエーテル化合物である。 | ||||||||||||||||||||
(3)毒性 | ジノフィシストキシン1のマウスに対する最少致死量は、腹腔内投与で160 μg/kgである[2]。 | ||||||||||||||||||||
(4)中毒量 | ヒトの最小発症量は12マウスユニット[3]で、ジノフィシストキシン1に換算すると約30 μgに相当する。 | ||||||||||||||||||||
(5)作用機構 | 下痢症状は、オカダ酸群による小腸上皮細胞のナトリウム塩の分泌調節に関するタンパク質の過リン酸化、または溶質の透過性に関わる 細胞骨格、細胞接合部分のリン酸化の亢進によるものと推定される。オカダ酸群タンパク質脱リン酸化酵素のプロテインフォスファターゼの サブタイプを強く阻害するため、発がんプロモーターとして作用する。 | ||||||||||||||||||||
(6)分析方法 | 下痢性貝毒の検査は、国際的に機器分析法の導入が進められており、我が国においても液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を用いてオカダ酸群を定量する方法が示されている。また、オカダ酸とジノフィシストキシン群を検出するELISA法[4]や タンパク質脱リン酸化酵素阻害活性を利用したキットも開発され、市販されている[5]。 | ||||||||||||||||||||
5 | 中毒対策 | 毒化した貝類の見極めは外見からはできず、一般的な調理加熱では毒素は分解しない。わが国では貝類による食中毒防止のため、定期的に 有毒プランクトンの出現を監視し重要貝類の毒性値を測定し、規制値(可食部1kg 当たり0.16mgオカダ酸当量)を超えたものは出荷規制されている。このため近年、市販の貝類による食中毒は発生していない。 | |||||||||||||||||||
6 | 文献 |
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7 | 参考図書 |
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