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自然毒のリスクプロファイル:魚類:胆のう毒

魚類:胆のう毒

1 有毒種 コイ科魚類(コイ、ソウギョ、アオウオ、ハクレン、コクレンなど)。有毒部位は胆のうであるが、「6 参考事項」で述べるように、コイの筋肉を摂取したことによる中毒もある。
2 中毒発生状況 厚生労働省の食中毒統計にはあがっていないが、わが国ではコイ胆のうによる中毒事例がかなり多い[1-3]。一方、東南アジアや中国では、ソウギョの胆のうによる中毒例がある。中国の統計によれば,1970〜75年の間にコイ科魚類胆のうによる食中毒が82件発生し,死者21人を出している[4]。中毒件数でも死亡率でもフグ中毒に次ぐという。
3 中毒症状 胃腸障害(嘔吐、下痢、腹痛)の他に、肝機能障害(黄疸など)や急性腎不全(乏尿,浮腫など)、唇および舌のしびれ、手足の麻痺・けいれん、意識不明などの症状がみられ、死亡することもある。

症例[1, 4]:1986年10月、宮城県亘理郡在住の男性(19歳)がコイの胆のうを5個呑んで発症した。摂食およそ4時間後に、腹痛、激しい下痢、嘔吐が現れた。その後、黄疸、乏尿および浮腫が見られたので近くの病院に入院し、血液透析などの治療を受けた。肝機能検査ではグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)値が1629 Uと著しく高く、総ビリルビン値も3.2 mg/dlと高かった。血液尿素窒素(BUN)値は64.6 mg/dl、血清クレアチニン(Cr)は5.28 mg/dlと高窒素血症が認められた。しかし、5日後には尿量は正常となり、BUNおよびCrともに下降し、浮腫は消滅した。肝機能も回復し、ビリルビン値も2週間後に正常となり、黄疸も消え、約2カ月後に退院した。

4 毒成分
(1)名称および化学構造

5a-シプリノール硫酸エステル(5 a -cholestane-3 a, 7 a, 12 a, 26, 27-pentol 26-sulfate、図1)[5-7]。コイ科魚類の胆汁中の胆汁酸の90%以上を占める[8]。

図1 5a-シプリノール硫酸エステル

(2)化学的性状 水、メタノールに可溶。UV吸収なし(200-300 nm)。
(3)毒性 LD50(マウス腹腔内、96 hr):2.5 mg/20 g [8]
最小致死量(マウス腹腔内、96 hr):2.6 mg/20 g [5]
(4)中毒量 推定:体重10 kg程度のコイ科魚類では胆のう2個以上、体重20 kg以上のコイ科魚類では胆のう1個[4]。
(5)作用機構 肝臓では細胞の変性や壊死を、腎臓では腎小球管や集合管を損傷し、さらに腎小球の濾過機能の減退による乏尿を引き起こす。その後、脳細胞の損傷、脳水滞留、脳の腫れ、心筋損傷など、神経系統や心臓血管系の異常を招き死亡する[4]。
(6)分析方法 通常の胆汁酸分析法(GC、GC/MS、LC/MSなど)にしたがう。
5 中毒対策 コイ科魚類の胆のうは、たとえ薬効があったとしても食べないこと。
6 参考事項 わが国では、コイの筋肉(こいこく、あらい又はみそ煮)の摂取による食中毒例がある。1976年5月〜1978年10月に、嘔吐、めまい、歩行困難、言語障害、けいれん、麻痺などを伴う中毒が九州で多発(発生件数は宮崎県12件、佐賀県4件、鹿児島県1件の合計17件で、摂食者は169人、患者数は108人であった)[9-11]。
コイ科魚類の胆のうは、滋養強壮、眼精疲労の回復、咳止め、難聴者の聴力向上などの効果があると信じられ、東南アジア、中国、日本などのアジア地域で民間薬として古くから服用されている。
7 文献
  1. 松本 純, 菅野 拡, 丹治伸夫: 鯉の胆(きも)による急性腎不全の1例. 日内会誌, 77, 102-105 (1988).
  2. 大和田 章, 篠原紳介, 福留裕一郎, 西村正信, 松井則明, 藤原秀臣: 鯉の胆のう摂取による急性腎不全の2例. 最新医学, 45, 605-609 (1990).
  3. 大矢 晃, 山口 哲, 小倉泰伸, 染野 敬, 高橋徳男, 網野洋一郎: 鯉の胆のう生食による急性腎不全の1例. 透析会誌, 23, 261-265 (1990).
  4. 浅川 学: 魚類の毒 (3):コイ毒およびその他の毒. 食品衛生研究, 59 (9), 35-40 (2009).
  5. Asakawa M, Noguchi T, Hashimoto K: Isolation of a toxin from carp (Cyprius carpio) bile. Shokuhin Eiseigaku Zasshi, 31, 222-226 (1990).
  6. Asakawa M, Noguchi T, Seto H, Furihata K, Fujikura K, Hashimoto K: Structure of the toxin isolated from carp (Cyprinus carpio) bile. Toxicon, 28, 1063-1069 (1990).
  7. Hwang D-F, Yeh Y-H, L Y-S, Deng J-F: Identification of cyprinol and cyprinol sulfate from grass carp bile and their toxic effects in rats. Toxicon, 39, 411-414 (2001).
  8. 毛利隆美, 田中義人, 深町和美, 堀川和美, 高橋克巳, 稲田義和, 安元 健: コイの水溶性中毒成分としてのシプリノールについて. 食衛誌, 33, 133-141 (1992).
  9. 厚生省生活衛生局食品保健課編: 昭和58年全国食中毒事件録 VI 鯉の麻痺性毒による食中毒事件. 日本食品衛生協会, 1987, pp. 71-82.
  10. 武田由比子, 天野立爾, 内山 充, 松本清司, 降矢 強, 戸部満寿夫, 本田喜善, 中村幸男: 鯉による食中毒の原因究明に関する研究. 食衛誌, 21, 50-57 (1980).
  11. 須山洋之, 伊藤直美, 緒方弘文, 今村俊之, 斉藤 厚, 原 耕平: 鯉による食中毒. 臨床と研究, 62, 145-148 (1985).

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