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自然毒のリスクプロファイル:魚類:シガテラ毒

魚類:シガテラ毒

1 有毒種

400種以上の魚が毒化する可能性があるとの報告もある[1,2]。日本で中毒原因となる有毒種は、主にフエダイ科フエダイ属のバラフエダイLutjanus bohar(図1)、イッテンフエダイLutjanus monostigma(図2)、イトヒキフエダイ属のイトヒキフエダイSymphorus nematophorus、ハタ科バラハタ属のバラハタVariola louti(図3)、マハタ属のアカマダラハタEpinephelus fuscoguttatus、スジアラ属のオオアオノメアラPlectropomus areolatus、アズキハタ属のアズキハタAnyperodon leucogrammicus、イシダイ科イシダイ属のイシガキダイOplegnathus punctatus(図4)、アジ科ブリ属のヒラマサSeriola lalandiなどである[3]。

バラフエダイ イッテンフエダイ
図1 バラフエダイ 図2 イッテンフエダイ
バラハタ イシガキダイ
図3 バラハタ 図4 イシガキダイ
2 中毒発生状況

日本では沖縄県で他の地域と比較して多く発生している。沖縄県での1997年〜2006年の発生件数は33件、患者総数は103名と報告されているが[3]、この他にも多くの事例が潜在すると思われる。最近では、九州や本州でイシガキダイを原因とする事例が相次いで発生し、問題となっている[4]。2008-2023年の中毒発生状況を表1に示す。

表1 シガテラを原因とする食中毒件数(推定を含む。)

年次 患者数(人) 死亡者数(人)
2008年 20 0
2009年 30 0
2010年 16 0
2011年 7 0
2012年 18 0
2013年 8 0
2014年 11 0
2015年 15 0
2016年 13 0
2017年 15 0
2018年 4 0
2019年 10 0
2020年 9 0
2021年 6 0
2022年 7 0
2023年 1 0
3 中毒症状 発病時間は比較的早く、1〜8時間程で発症し、ときに2日以上のこともある。回復は一般に非常に遅く、完全回復には数ヶ月以上を要することもある[5,6]。
症状は、以下のように消化器系、循環器系、神経系に大別される[3]。死亡例は稀である。

消化器系症状: 下痢、吐気、嘔吐、腹痛など。これらの症状は概ね食後数時間で発症し、通常数日間で治まるが、1ヶ月以上不調が続くこともある。

循環器系症状: 徐脈(<60回/分)、血圧低下(<80 mmHg)など。これらの症状の発症率は高くないが、救急受診する患者の主要な受診動機であり、ショック状態に陥ることもあるため、注意が必要である。

神経症状: 温度感覚異常、関節痛、筋肉痛、掻痒、しびれなど。最も特徴的で最も長く継続する症状である。温度感覚異常は、ドライアイスセンセーションと呼ばれ、冷たいものに触れた時に電気刺激のような痛みを感じたり、冷水を口に含んだ時にサイダーを飲んだような「ピリピリ感」を感じたりする。また、冷気が直接あたる部位や、汗により体温が下がった部位に痛みを感じたりする。掻痒や四肢の痛みは移動しながら断続的に発生し、痒みは特に就寝時にひどくなるため、不眠の原因ともなる。これらの症状は、軽症例では1週間程度で治まるが、重症例では数ヶ月から1年以上継続することもある。

4 毒成分
(1)名称および化学構造 毒成分は、シガトキシン(ciguatoxin: CTX)および類縁化合物で、現在までに20種以上のCTXsが確認されている(図5〜7)[3, 7]。
名称 R1 R2
CTX OH
54-deoxyCTX H
CTX4B H
CTX4A 52-epi-CTX4B

図5 シガトキシン(CTX)と類縁化合物[3]

名称 R 名称   R
CTX3C H 2,3-dihydroxyGTX3C H
51-hydroxyCTX3C OH

図6 シガトキシン3C(CTX3C)と類縁化合物[3]

図3 カリビアンシガトキシン-1(C-CTX-1)とC-CTX-2(56-epi-C-CTX-1)[3]

(2)化学的性状 シガトキシン(ciguatoxin: CTX)および類縁化合物のほとんどは脂溶性で、加熱調理しても毒性は失われない。加熱調理により毒成分は煮汁等に移行する。
(3)毒性 シガトキシン(ciguatoxin: CTX)および類縁化合物のマウスの腹腔内投与による致死活性は以下のとおりである。

CTX: 0.35 μg/kg[8]
54-deoxyCTX: 0.9 μg/kg[9]
CTX4B: 4 μg/kg[8]
CTX4A: 2 μg/kg[10]
CTX3C: 1.3 μg/kg[11]
51-hydroxyCTX3C: 0.27 μg/kg[12]
2,3-dihydroxyGTX3C: 1.8 μg/kg[12]

(4)中毒量 シガトキシンのヒトに対する発症量は経口摂取で70 ng程度[3]。
(5)作用機構 シガトキシンは、電位依存性のナトリウムチャンネルに特異的に結合して、チャンネルを活性化することで、神経伝達に異常をきたす[3]。
(6)分析方法
  • マウス毒性試験: マウスに腹腔内投与して24時間後の生死から毒性を判定する方法[13]が、一般的で日本では公定法に準じたもの(参考法)となっている。しかしながら、多量の検体と長時間を要することなどの難点もある。
  • LC/MS法: 最近多くの報告例があるが、シガトキシン(CTX)および類縁化合物の標準品の普及、検出感度、定量性などの点から、普及するには至っていない。
  • 細胞毒性試験法: マウスの神経芽細胞腫の培養株を用い、ナトリウムチャンネルの活性化による細胞死を指標とする方法である[14]。
  • レセプターバインディング法: ラベル化したCTXsと試料中に含まれるCTXsを競合させ、マウスのシナプトソームに結合したラベル化CTXsを測定することによって、試料中の濃度を判定する方法である[14]。
5 中毒対策 厚生省(現 厚生労働省)通知(昭和28年6月22日, 衛環発第20号)により、オニカマスはヒトに健康被害をもたらす有毒魚として食用は禁止されている。その他の魚種については、都道府県ごとに中毒事例のある有毒種を中心に食用としないよう指導し、中毒の未然防止を図っている。
6 参考事項

太平洋域ではウツボ科ウツボ属のドクウツボGymnothorax javanicus(図4)、カマス科カマス属のオニカマスSphyraena barracuda(図5)、ハタ科マハタ属のマダラハタEpinephelus polyphekadion(図6)とアカマダラハタEpinephelus fuscoguttatus(図7)、ハタ科ユカタハタ属のアオノメハタCephalopholis argus(図8)、フエフキダイ科フエフキダイ属のキツネフエフキLethrinus olivaceus(図8)なども毒魚といわれている[5]。

ドクウツボ オニカマス
図4 ドクウツボ
(「有毒魚介類携帯図鑑(緑書房)」より転載)
図5 オニカマス
(「有毒魚介類携帯図鑑(緑書房)」より転載)
マダラハタ アカマダラハタ
図6 マダラハタ
(「藤本佳道・谷山茂人:CD-R輸入魚類の資料Ver. IV 特別限定版(非売品)」より転載)
図7 アカマダラハタ
(「藤本佳道・谷山茂人:CD-R輸入魚類の資料Ver. IV 特別限定版(非売品)」より転載)
アオノメハタ キツネフエフキ
図8 アオノメハタ
(「藤本佳道・谷山茂人:CD-R輸入魚類の資料Ver. IV 特別限定版(非売品)」より転載)
図9 キツネフエフキ
(「藤本佳道・谷山茂人:CD-R輸入魚類の資料Ver. IV 特別限定版(非売品)」より転載)
7 文献
  1. Halsted BW: "Poisonous and Venomus Marine Animals of the World", vol. 2. U. S. Government Printing Office, Washington, D. C. (1976).
  2. 安元 健: 5. シガテラ. 医学のあゆみ 112, 866-892 (1980).
  3. 大城直雅: 魚類の毒 (4): シガテラ毒. 食品衛生研究, 60 (1), 37-45 (2010).
  4. 谷山茂人: 本州で発生したパリトキシン様中毒とシガテラ. 日水誌, 74, 917-918 (2008).
  5. 野口玉雄, 阿部宗明, 橋本周久: I 脊椎動物 (魚類) の毒. 有毒魚介類携帯図鑑, 緑書房, 東京 (1997), p. 74-97.
  6. 荒川 修, 野口玉雄: 第3章自然毒食中毒I動物性食中毒. 食品安全性セミナー1食中毒(細貝祐太郎, 松本昌雄監修), 中央法規, 東京 (2001), p. 139-178.
  7. 大城直雅, 稲福恭雄: マリントキシンによる食中毒 (シガテラ). 公衆衛生, 73, 333-336 (2009).
  8. Murata M, Legrand A M, Ishibashi Y, Fukui M, Tasumoto T: Structure of configurations of ciguatoxin from the moray ell Gymnothorax javanicus and its likely precursor from the dinoflagellate Gambierdiscus toxicus. J Am Chem Soc, 112, 4380-4386 (1990).
  9. Lewis R J: Ciguatera: Australian perspectives on a global problem. Toxicon, 48, 799-809 (2006).
  10. Satake M, Ishibashi Y, Legrand A M, Yasumoto T: Isolation and structure of ciguatoxin-4A, a new ciguatoxin precursor, from cultures of dinoflagellate Gambierdiscus toxicus and parrotfish Scarus gibbus. Biosci Biotech Biochem, 60, 2103-2105 (1996).
  11. Satake M, Murata M, Yasumoto T; The structure of CTX3C, a ciguatoxin congener isolated from cultured Gambierdiscus toxicus. Tetrahedron Lett, 34, 1975-1978 (1993).
  12. Satake M, Fukui M, Legrand A M, Cruchet P, Yasumoto T: Isolation and structures of new ciguatoxin analogs, 2,3-dihydroxyCTX3 and 51-hydroxyCTX3, accumulated in tropical reef fish. Tetrahedron Lett, 39, 1197-1198 (1998).
  13. 佐竹真幸: 第7章自然毒・A動物毒・6. シガテラ. 食品衛生検査指針理化学編 (厚生労働省監修), 日本食品衛生協会 (2005), p. 691-695.
  14. Yasumoto T, Fukui M, Sasaki K, Sugiyama K: Determinations of marine toxin in foods. J AOAC Int, 78, 574-582 (1995).

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