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資料3

高齢者介護研究会報告書「2015年の高齢者介護〜高齢者の尊厳を
支えるケアの確立に向けて〜」(自治体に関係する記述の抜粋)


III.尊厳を支えるケアの確立への方策

1.介護予防・リハビリテーションの充実

(介護予防を進める視点)
 ○  元気な高齢者が増加していくことにより、高齢者自身が、地域社会での助け合いの仕組みの主体となることが可能となる。介護に要する費用が過度に増大することを防ぎ、負担を少しでも適正なものとするためにも、介護保険制度のみに頼るのではなく、高齢者自らが介護予防に取り組むとともに、高齢者相互の助け合いの仕組みを充実させていく必要がある。
 ○  その際、これまで地域社会における高齢者相互の助け合いの担い手は女性が主であったが、今後は地域社会での助け合いの仕組みに、性別を問わず地域に住む高齢者が積極的に参画することが望まれる。
 ○  社会参加、社会貢献、就労、生きがいづくり、健康づくりなどの活動は、介護予防につながるものである。介護予防の推進という観点からは、介護予防を広い概念として捉え、こうした様々な活動を社会全体の取組として進めていくことが必要である。

2.生活の継続性を維持するための、新しい介護サービス体系

(1)在宅で365日・24時間の安心を提供する:切れ目のない在宅サービスの提供

 (小規模・多機能サービス拠点)
 ○  在宅に365日・24時間の安心を届けることのできる新しい在宅介護の仕組みが必要である。本人(や家族)の状態の変化に応じて、様々な介護サービスが、切れ目なく、適時適切に在宅に届けられることが必要である。
 日中の通い、一時的な宿泊、緊急時や夜間の訪問サービス、さらには居住するといったサービスが、要介護高齢者(や家族)の必要に応じて提供されることが必要であり、さらに、これらのサービスの提供については本人の継続的な心身の状態の変化をよく把握している同じスタッフにより行われることが望ましい。
 このためには、切れ目のないサービスを一体的・複合的に提供できる拠点(小規模・多機能サービス拠点)が必要となる。
 ○  こうした一連のサービスは、安心をいつも身近に感じられ、また、即時対応が可能となるよう、利用者の生活圏域(例えば中学校区あるいは小学校区ごと)の中で完結する形で提供されることが必要である。そのためには、小規模・多機能サービス拠点は、利用者の生活圏域ごとに整備されていることが必要になる。
 高齢者の生活圏域で必要なサービスを完結させるという観点は非常に重要であり、地域の様々なサービス資源を高齢者の生活圏域を単位に整備し、結び付け、必要なサービスが切れ目なく提供できる体制を実現していくという視点が必要である。
 市町村の策定する介護保険事業計画においても、単にサービスの数量的整備目標を掲げるだけでなく、「サービス圏域」という概念を導入し、それぞれの圏域単位で必要なサービスの提供が完結するようなきめの細かい取組を進めることが望ましい。

(2)新しい「住まい」:自宅、施設以外の多様な「住まい方」の実現

 (住み替えという選択肢)
 ○  バリアフリー、緊急通報装置などハードウエアの機能を備え、同時に生活支援や入居者の状態に応じた介護ニーズへの対応などのソフトウエアの機能もを備えた、高齢者が安心して住める「住まい」を用意し、自宅で介護を受けることが困難な高齢者に対して、住み替えという選択肢を用意することは、重要な課題である。
 ○  このような新しい「住まい」への住み替えの形としては、(1)要介護状態になる前の段階で、将来要介護状態になっても必要な介護サービスが提供される「住まい」に早めに住み替えを行うという場合と、(2)要介護状態になってから「自宅」同様の生活を送ることのできる介護サービス付きの「住まい」に移り住む場合、が考えられる。

 (社会資本としての住まい)
 ○  このような新しい「住まい」のあり方を検討する際には、ケアの受け皿として、また、人間の尊厳が保持できる生活空間として、最低限求められる水準が確保されていることが必要である。
 「介護を受けながら住み続ける住まい」という観点では、新たな住まいを整備するだけでなく、既存の住宅資源を活用するということも重要である。
 現在でも、民家改造型のデイサービスセンターやグループホームがあり、高齢者にとってなじみのある過ごしやすい住空間として、特に痴呆性高齢者のケアの面では非常に効果的であるとされている。施設が行うサテライトケアについては後述するが、その場所としても古い民家を改造して利用するケースは多くあり、「生活の継続性を確保しつつケアを受けながら住み続ける場所」としての既存の民家の持つ力は大きい。
 また、空き家を活用して地域の高齢者の集いの場とすることは、地域を活性化し、空洞化の防止につながるという利点もある。
 さらに、新たな住宅や施設の整備には多額の費用が必要であることを考えれば、財政的な観点から見ても、既存資源である民家の活用は非常に重要である。

(3)高齢者の在宅生活を支える施設の新たな役割(略)

(4)地域包括ケアシステムの確立

 (様々なサービスのコーディネート)
 ○  介護保険の介護サービスやケアマネジメントが適切に行われたとしても、それのみでは、高齢者の生活を支えきれるものではない。
 ○  ケアマネジャーだけで問題を解決しようとしても難しいことがある。かかりつけ医から情報を得たり、民生委員に依頼し、家族と接触して悩みや苦労を聞いてもらい、家族の精神的負担を軽減したり、身体障害者福祉センターの相談員と共に訪問して日常生活上のニーズを把握したり、保健所の保健師の協力で精神面でのケアを行ったり、といったように、専門機関や近隣住民と連携して、介護の周辺にある問題を解決することが必要になる。
 ○  介護以外の問題にも対処しながら、介護サービスを提供するには、介護保険のサービスを中核としつつ、保健・福祉・医療の専門職相互の連携、さらにはボランティアなどの住民活動も含めた連携によって、地域の様々な資源を統合した包括的なケア(地域包括ケア)を提供することが必要である。
 ○  地域包括ケアが有効に機能するためには、各種のサービスや住民が連携してケアを提供するよう、関係者の連絡調整を行い、サービスのコーディネートを行う、在宅介護支援センター等の機関が必要となる。
 ○  また、重度の慢性疾患があって同時に要介護度も高いといった重医療・重介護の高齢者の場合であっても、医療を含めた多職種連携による地域包括ケアが提供され、365日・24時間の安心が提供できているような地域であれば、かかりつけ医による訪問診療、訪問看護、訪問介護、ショートステイなどの医療保険・介護保険によるサービスを組み合わせることによって、ターミナルケアが必要な状態に至るまで在宅での生活を支えることが可能になる。

3.新しいケアモデルの確立:痴呆性高齢者ケア

 (地域での早期発見、支援の仕組み)
 ○  痴呆を早期に発見し、適切な診断とサービスの利用により早期に対応することができれば、徘徊等の行動障害の緩和が可能な場合が多く、在宅での生活をより長く続けることが可能である。
 ○  痴呆性高齢者が自分から進んで医療機関を受診したり、サービス利用を申請したりすることは極めてまれであり、周囲がその症状を発見することにより、初めてサービス利用につながる。特に独居高齢者を考えた場合には、地域での早期発見と専門家に気軽に相談しやすい体制が重要となる。そのためには、かかりつけ医等専門職が痴呆に関する知識を有していることはもちろん、地域の住民全体に痴呆に関する正しい知識と理解が浸透し、住民が「痴呆は何も特別なことではない」という意識で痴呆性高齢者と家族を支える存在となることができることが必要である。
 ○  さらに、痴呆性高齢者に対するケアが必要となった場合の地域の関係者のネットワークによる支援と連携の仕組みを整備することで、本人や家族の地域生活における安心を高めていくことが必要である。

4.サービスの質の確保と向上

 (劣悪なサービスを排除する仕組みの必要性)
 ○  市場における競争が適正に行われ、利用者による選択が十全に機能していれば、利用者が良い事業者を選択し、劣悪な事業者はおのずから淘汰されていく。しかしながら、利用者側にサービスに関する適切な情報がないこと(情報の非対称性)やサービスの提供量の不足などにより、現状では競争による淘汰が十分に行われているとは言い難く、事実、最近の取消事例の増加に見られるように劣悪な事業者による問題事例は跡を絶たない。
 ○  利用者保護の観点から、このような事業者については、市場の競争による淘汰を待つまでもなく、迅速に市場から排除することが必要である。
 ○  現在は、都道府県による指定取消処分があるが、指定取消は介護保険事業に関する処分であって事業の実施それ自体を規制するものではなく、法人そのものや法人の経営者に対する処分ではない。また、保険者である市町村には不正請求の返還命令権限があるが、事業者指定の権限が都道府県にあることから、事業者に対してサービス面に関する関与(規制)を行うことは予定されていない。
 ○  良い事業者を適切に評価しつつ、劣悪なサービス提供を改善させ、問題のある事業者を迅速に市場から排除できるよう、効果的な査察の仕組みを開発するなど、制度的な対応を用意する必要がある。


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