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遺伝子組換え食品の安全性審査の法的義務化:報告書

遺伝子組換え食品の安全性審査の
  法的義務化について報告書

平成12年1月21日

 厚生省食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会


1 背景

○ 近年、新技術としてのいわゆる生物工学(バイオテクノロジー)の実用化が進んでおり、食品分野においてもバイオテクノロジーの応用により食品の高品質化、生産性の向上等が期待され、既に国際的に実用化が進んできている。

○ バイオテクノロジーのうち組換えDNA技術は、従来、食品、食品添加物の製造に応用された経験が少ないものであり、この技術を用いて製造される食品、食品添加物については、その安全性について十分配慮がされなければならない。

○ このため、我が国では、組換えDNA技術応用食品・食品添加物(以下「遺伝子組換え食品」という。)については、平成3年に「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「安全性評価指針」という。平成8年に一部改訂。)及び「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の製造指針」(以下「製造指針」という。)が策定された。

○ これまでに、29品種の食品と6品目の食品添加物について、食品衛生調査会における審議を経て厚生大臣が個別に安全性評価指針への適合確認を行っている。

  なお、製造指針への適合確認については、これまで、国内の製造所で遺伝子組換えの微生物を利用して食品又は食品添加物を製造する事例はなく、適用事例はない。

○ 食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会は、食品衛生調査会が平成11年11月12日付けで厚生大臣から遺伝子組換え食品の安全性確認の法的義務化について諮問されたことを受け、これまで本件について審議してきたところであるが、今般本部会における審議の結果をここに報告し、併せて、別添の規格基準改正、安全性審査手続及び製造基準の案並びに安全性審査基準案について示すものである。


2 法的義務化の必要性について

○ 従来の「安全性評価指針」等に基づく審査は、法律に基づかない任意の仕組みとなっており、これまで、厚生省は「安全性評価指針」等に基づく安全性審査の申請を行うことを関係事業者等に強く要請し、義務づけに準じた扱いとし、これにより十分安全性の評価が行われていることから、当面、これで足りると考えられていたところである。

○ しかしながら、

・遺伝子組換え食品の開発・実用化は、近年、国際的にも広がってきており、今後さらに新しい食品の開発が進むことも予想されるため、安全性未審査のものが国内で流通しないよう、安全性審査を行う制度を法的に確立しておく必要があること
・農林水産省の品質表示基準に基づく表示の法的義務化は、厚生省の安全性審査を前提としているため、安全性審査についても法定化を図る必要があること
 から、遺伝子組換え食品の安全性審査を法的に義務化することが必要である。

  これにより、安全性未審査のものが国内に流通した場合には、法的に対応することが可能となり、安全性の確保が一層確実となり、安全性に関する消費者の信頼が得られるものと考えられる。

  

3 義務化の具体的手段について

○ 現行の食品衛生法第7条に基づき、厚生大臣は、公衆衛生の見地から食品等の成分規格及び製造基準を定めることができることとされており、この規定に基づき、「食品、添加物等の規格基準」(厚生省告示)が定められている。

  遺伝子組換え食品についても、この規格基準において「食品が組換えDNA技術によって得られた生物の全部若しくは一部である場合又は当該生物の全部若しくは一部を含む場合には、当該生物は、厚生大臣による食品としての安全性審査を経たものでなければならない。」等と規定することにより、現行法で安全性審査の法的義務化が可能であり、次の理由から、新たな法律の制定や食品衛生法の一部改正等ではなく、規格基準の改正等により対応することが適当である。

・規格基準では、抗生物質の含有禁止、放射線照射の禁止など、食品に関する様々な成分規格、製造基準等が定められており、安全性審査を受けていない遺伝子組換え食品の販売、輸入、製造等を禁止することは、規格基準になじみやすい内容であること。
・食品分野で利用されるバイオテクノロジー技術については、組換えDNA技術のほかにも、体細胞クローン技術など、多種多様な技術が今後実用化されることが予想され、こうした際に機敏に対応していくためにも、逐一法律改正を行うのではなく、規格基準(告示)の改正により対応することが妥当。
・あまたの食品の中で遺伝子組換え食品のみ法律上特別の条文を設ける   ことはバランスを欠くこと。
 

○ なお、規格基準に規定すると、次の効果がある。

・規格基準に適合しない遺伝子組換え食品については、製造、販売、輸入等が禁止される。
・規格基準に適合しない遺伝子組換え食品が市場に出回った場合には、廃棄命令、回収命令、輸入食品の本国への積戻し命令等の行政処分が可能となる。
・規格基準違反には、懲役1年以下又は10万円以下の罰金という罰則がある。

○ また、規格基準の改正により安全性審査を法的に義務化する際には、改正の施行と同時に、規格基準に適合しない食品は、直ちに製造、輸入、販売等が禁止されることとなるため、事前に規格基準に適合するものか否かを明確にしておかなければ、作付け、仕入れ、輸入等の関係上、関係事業者に混乱を生じ、円滑な施行に支障を生じるおそれがあることから、施行日前から所定の手続による安全性審査を行うことができるようにしておくことが必要である。

○ 遺伝子組換え食品の安全性の確保は、あまたの食品と同様、基本的にはそれを取り扱う者が責任をもって行う必要があり、厚生大臣による安全性審査は、基本的には、当該業者等が行った安全性評価の詳細な資料を提出させて、その信頼性も含め、これが科学的に妥当なものであるか否かについて、専門家からなる検討の場において適切な審査を経て、厚生大臣が個別に判断して安全性審査を行う仕組みとすることが適当である。

  具体的には、安全性評価は高度な専門的知識に基づいて行われるべきであることから、食品衛生調査会における審査を経る必要があり、また、その審査のために提出すべき資料の範囲、手続についても明確にする必要がある。

  このような対応は、安全性確保に関する消費者の要請に応えることになると考えられる。

○ なお、安全性審査を法的に義務化するに当たっては、現行の安全性評価指針及び製造指針の考え方には、現時点では変更を加えるべき点はないことから、これを基本的に変えることなく法的義務化することが適当である。

○ 以上の考え方に基づき、別添の規格基準の改正、安全性審査手続及び製造基準に関する告示案が作成されているが、本部会では、これを妥当と考える。

  

4 安全性審査の考え方

○ 遺伝子組換え食品の安全性確保の観点から、適正な安全性評価が行われなければならないことから、遺伝子組換え食品の安全性審査に当たっては、組換えDNA技術により生産物に付加されたすべての因子について評価を行うべきである。そのためには、組換えDNA技術によって生産物に付加されることが期待されている性質だけでなく、組換えDNA技術に起因し発生するその他の影響等についても、そのような事態の発生の可能性も含めて安全性の評価を行うことが必要である。また、その際には、当該食品の利用・加工方法についても配慮する必要がある。

○ 上述の考え方は、現在運用されている安全性評価指針策定の基礎となったものであり、遺伝子組換え食品の安全性審査を法的に義務化するに当たっても、この考え方は引き継がれるべきである。

○ そこで、本部会では、これまでに安全性評価の審議をしてきた過程で得られた蓄積を基に、安全性評価の具体的な基準を別添の「組換えDNA技術応用食品及び食品添加物の安全性審査基準案」としてとりまとめた。この基準に基づき、最新の科学的知見に基づいた安全性評価が行われる必要がある。これにより、遺伝子組換え食品の安全性が確保されるとともに、消費者の安全性に関する信頼が得られるものと考えられる。

○ なお、この審査基準に基づき安全性審査をできるものは、組換えDNA技術を応用して得られた種子植物の場合及び同技術を応用して得られた微生物(以下「組換え微生物」という。)により製造された食品・食品添加物であって当該微生物自体は食さない場合に限られている。その理由は、これまで運用されてきた安全性評価指針の対象範囲が、この範囲に限られており、既に商品化が進み、安全性評価の手法が確立されているからである。遺伝子組換え食品は、これら以外のものであっても、安全性審査を法的に義務付けることは変わらないことから、当面、これら以外は仮に申請があったとしても、承認できないこととなる。このため、今後、種子植物以外の植物又は組換え微生物自体を食する場合について、組換えDNA技術を応用したものが出現する場合には、科学的な検討を経て、当該食品に対応した審査基準を個別に策定し、安全性審査をできるようにする必要がある。


5 輸入時等の検証方法について

○ 安全性審査の法的義務化に伴い、我が国において流通する遺伝子組換え食品は、厚生大臣による安全性審査がなされたもののみとする仕組みとなることから、それが確実に遵守されていることを確かめる手段を講じる必要がある。

○ その方法の一つは、食品衛生法第16条に基づく「食品等輸入届け」による対応である。現在、我が国においては、同条の規定により、加工食品であるときは全ての原材料名及び製造加工の方法、添加物を含む食品の場合は添加物の品名を届け出ることとされているが、遺伝子組換え食品の安全性審査義務化後は、安全性未審査のものが輸入されないよう適切な届出をさせる必要がある。

○ 次に、輸入又は国内流通する遺伝子組換え食品のモニタリング検査(抜き取り検査)を実施することが必要である。現在、我が国では、輸入時にあっては、検疫所において、輸入食品の安全性を確保するため、食品添加物や細菌等について、輸入時のモニタリング検査を行っており、遺伝子組換え食品についても、安全性未審査のものが国内で流通していないことを確認するため、モニタリング検査を行うことが適当であり、そのための体制整備を図る必要がある。
  また、国内においても、都道府県等の食品衛生監視の一環として、モニタリング検査を実施することが適当である。
  この検査方法については、国内外の情報を入手し、常に最新の科学技術に基づき見直しを行い、より精度の高い検査を実施する必要がある。

○ なお、今般、審査基準案においては、遺伝子組換え食品の流通を把握するためのモニタリングに必要な情報として、新たに開発企業に対して、品種を特定するために必要な遺伝子情報の提出と、開発種子を保管することを求めている。これらの情報は、国による安全性審査が行われたものだけが国内に流通していることを確認するために、今後、国や地方の行政機関や民間企業等の関係者が実施するモニタリング検査に有用な情報として活用され得るものである。

 

6 調査研究の推進

○ 遺伝子組換え食品の安全性を確保するため、今後とも、最新の科学的知見の収集に努める必要がある。昨今、遺伝子組換え食品の安全性を懸念する指摘があるが、現在流通しているものについて直ちに対応すべき科学的根拠のある懸念を示しているものはない。今後とも、こうした指摘に対しては、必要に応じて、専門家により科学的に検討するとともに、最新の科学的知見をもって安全性評価を行うことが必要である。

○ また、安全性審査の義務化に伴い、安全性未審査のものが流通していないことを確認する手段の一つとして、技術的には一定の限界があるものの、PCR法(遺伝子増幅法)による簡便かつ高精度の検査方法の開発や、PCR法以外の方法による適切な検査方法の開発が一層進められることが望まれる。


7 おわりに

○ 遺伝子組換え食品の安全性評価に関する科学的な情報については、Q&A等により国民にわかりやすい形で情報提供されるよう、国や関係者は今後一層努力する必要がある。また、遺伝子組換え食品の安全性について、諸外国の状況や科学論文についての情報提供も遅滞なく行われる必要がある。

○ また、遺伝子組換え食品の安全性評価においては、食品中の毒性物質やアレルギーに関する情報をデータベース化し、国内外の関係者が共有できる仕組みを整備すること、また、挿入遺伝子に関する情報が、関係事業者の利益にも配慮を行いながら、関係者に提供されるような仕組みを整えることが望まれる。

○ さらに、我が国の安全性審査の制度の適切な運用を図るため、諸外国に対し、本制度の趣旨、内容が適切に伝わるよう努めるとともに、諸外国における開発状況や、安全性審査の状況に関する情報を迅速に入手できる体制の整備に努め、外国で安全性審査がなされているものについて、遅滞なくその情報を入手できる体制の整備に努めるべきである。

○ こうした一連の対応が、遺伝子組換え食品の安全性確保を一層確実なものとし、消費者の信頼を得ることにつながるものと考えられる。

○ 遺伝子組換え食品の安全性審査については、本報告書に基づき、適切な制度の整備、運用が行われるよう希望する。

○ なお、遺伝子組換え食品の表示の問題については、消費者の選択の観点から、農林水産省において、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)の品質表示として義務づけることとしているが、食品衛生法の公衆衛生の見地からする表示については、安全性審査の義務化に伴い、今後、別途検討が行われる必要がある。 

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