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アガリクス(カワリハラタケ)を含む製品に関するQ&A

厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課新開発食品保健対策室

【語句説明】

1. 中期多臓器発がん性試験

生体に悪性腫瘍を発生させる能力である発がんを促進する作用(発がんプロモーション作用)などを確認する試験の1つ。げっ歯類(ネズミ等)を用いた二段階発がん試験の1つで、最大5種類のイニシエーターを投与して発がんの感受性を高め、次いで被験物質を数ヵ月間投与する試験です。

2. 多段階発がん

生体が発がんするまでには、正常細胞がいくつかの段階を経てがん細胞へ変化してゆく過程があると考えられており、この一連の過程を多段階発がんといいます。

1段階目は、発がん物質(イニシエーター)によって細胞の遺伝子が障害を受け変異を起こす段階(イニシエーション作用)とされ、

2段階目は、プロモーターと呼ばれる物質や他の発がん物質による作用で障害を受けた遺伝子を持つ細胞が増殖する段階(プロモーション作用)とされます。 ここまでの段階で、細胞はがん細胞に変化しておらず(前がん状態)、増殖要因となる物質を摂取しなければ、細胞が有している修復機構が働き、元の正常な状態に戻ったり、淘汰されたり(アポトーシス)、あるいは、そのままの状態(悪化しない)を維持すると考えられています。2段階目以降に、再度遺伝子に障害等を受けた場合、細胞は「がん化」します(プログレッション作用)。一旦がん化した細胞は、そのままでは正常細胞に戻ることはありません。

3. 発がんイニシエーション(作用)(Initiation Action)

発がんの最初のステップのことをイニシエーション(Initiation)といいます。通常、細胞の持つ修復機能や、細胞自体が消滅すること(アポトーシス)でほとんどの傷のついた遺伝子は問題になることはありません。しかし、まれに化学物質や放射線などによって引き起こされたDNA損傷が修復されず、突然変異として遺伝子に固定され、腫瘍発生に関与する遺伝子に機能異常をもたらす(遺伝毒性)過程を指します。イニシエーションを起こす物質をイニシエーターと呼びます。

4. 発がんプロモーション(作用)(Promotion Action)

それ自身が発がんを引き起こすものではなく、他の発がん物質による発がん作用を促進する作用をいいます。プロモーション作用がある物質をプロモーターといいます。一般的にプロモーターが消失した場合、イニシエーション作用を受けた細胞の増殖を促す作用も無くなると考えられています。

プロモーション作用を有するものとして、食塩等の食品も知られています。

5. 発がんプログレッション(作用)(Progression Action)

イニシエーションを受けた細胞がプロモーターの影響下に増殖しているとき、重要な遺伝子異常が生じると、細胞は腫瘍性変化を起こします。このステップをプログレッション(Progression)といいます。

6. 遺伝毒性試験

遺伝毒性とは、遺伝子又はDNAに変化を与え、細胞又は個体に悪影響をもたらす性質をいいます。この遺伝毒性を検索するための試験として、細菌を用いた復帰突然変異試験、ほ乳類培養細胞を用いた染色体異常試験及びマウスを用いた小核試験等があります。

【アガリクス(カワリハラタケ)を含む製品に関するQ&A】

問1  アガリクス(カワリハラタケ)とは何ですか。

アガリクスという名称が一般的に知られていますが、日本名をカワリハラタケ(学名:Agaricus blazei Murrill)といい、ハラタケ科に属するブラジル原産のキノコです。また、ヒメマツタケと呼ばれることもあります。昭和40年にブラジルより移入されて以来、人工栽培されるようになりました。このキノコを原料としたいわゆる「健康食品」が広く販売され、アガリクスの名称が使用されています。

詳細については、国立健康・栄養研究所の「「健康食品」の素材情報データベース」  https://www.nibiohn.go.jp/eiken/info/pdf/k052.pdf をご覧ください。

問2  アガリクスの何が問題となっていたのですか。

平成18年当時、広く国内に流通していた製法の異なる代表的なアガリクスを含む3製品について、ラット(ネズミの一種)を用いた発がんを促進する作用を確認する試験を行ったところ、「キリン細胞壁破砕アガリクス顆粒(販売者:キリンウェルフーズ(株))」について、 製品の摂取目安量の約5倍から10倍程度の量を与えたところ、多臓器イニシエーション処置を行った試験系において発がんを促進する作用が認められたものです。

ヒトへの健康被害を未然に防ぐため、製品名を公表して注意喚起していました。

問3  そもそもがんに効くのではなかったですか。人に対する影響はどうなのでしょうか。

アガリクスは、「抗がん効果がある」、「免疫力を高める」などといわれ、一般に食品として販売されており、医薬品等とは異なり効能効果を標榜することはできません。また、一般に販売される食品については、国が事前に審査を行う仕組みではないことから、厚生労働省では、ヒトに対する有効性について確認しておりません。

さらに、今回までに得られた結果は、実験動物を用いた試験に基づくものであり、直ちにヒトへの影響を懸念する結果ではありません。

問4  アガリクスを含む製品による健康被害は報告されているのですか。

厚生労働省にアガリクスを含む製品による健康被害が明らかとなった事例が報告されたことはありませんが、肝障害の疑い等の事例が報道されたことや、肺炎や肝障害等の複数の疑い事例が学術雑誌等に掲載されています。(この点については、食品安全委員会においてとりまとめられました食品健康影響評価の評価書にも記載されています。)

本件は、市場に流通していた代表的な3製品のうち1製品において、ラット(ネズミの一種)を用いた動物の試験において、製品の摂取目安量の約5倍から10倍程度の量を与えたところ、多臓器イニシエーション処置を行った試験系において発がんを促進する作用が認められたものであり、ヒトに対して直ちに健康被害を引き起こすという結果ではありません。

問5  アガリクスを含む製品にはどのようなものがありますか

アガリクスの乾燥物や水、エタノール等により抽出したものを粉末、顆粒、錠剤、液状等の形状にした製品や、菌糸の状態で培養したものを乾燥又は抽出し、粉末、顆粒、錠剤、液状等の形状にした製品が広く食品として販売されていますが、厚生労働省では個々の製品名は把握していません。

問6  どうして食品安全委員会に評価を依頼することになったのですか。

試験開始当時広く市場に流通していた製造方法が異なる代表的な3つのアガリクスを含む製品について、ラット(ネズミの一種)を用いた多臓器イニシエーション処置を行った試験系において発がんを促進する作用を確認する試験を行ったところ、そのうちの1製品について発がんを促進する作用が認められました。

このため、発がん促進作用が認められた製品について、食品衛生法等※に基づき、食品として販売することを暫定的に禁止するかどうか判断するため、食品安全委員会に食品健康影響評価を依頼することとしました。

また、その他の2製品については発がんを促進する作用を確認する試験では、発がんを促進する作用は、認められていませんが、問題となった1製品と併せて念のため食品安全委員会に食品健康影響評価を依頼しました。

食品衛生法第7条第2項

厚生労働大臣は、一般に食品として飲食に供されている物であって当該物の通常の方法と著しく異なる方法により飲食に供されているものについて、人の健康を損なうおそれがない旨の確証がなく、食品衛生上の危害の発生を防止するため必要があると認めるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、その物を食品として販売することを禁止することができる。

食品安全基本法第24条第1項(抜粋)

関係各大臣は、次に掲げる場合には、委員会の意見を聴かなければならない。

一  食品衛生法第六条第二号 ただし書(中略)に規定する人の健康を損なうおそれがない場合を定めようとするとき、同法第七条第一項 から第三項 までの規定による販売の禁止をしようとし、若しくは同条第四項 の規定による禁止の全部若しくは一部の解除をしようとするとき、(以下、略)

問7  中期多臓器発がん性試験の結果はどのようなものですか。

平成18年2月に発表した中期多臓器発がん性試験は、5週齢の雄ラットに、5種類の発がんイニシエーターを投与した後、被験物質(「キリン細胞壁破砕アガリクス顆粒」、「仙生露顆粒ゴールド」及び「アガリクスK2 ABPC細粒」)を0、0.5、1.5及び5.0%濃度で24週間餌に混ぜて投与した群と、イニシエーターを投与せず、当該製品を0及び5%濃度で餌に混ぜて投与した群を用いて発がんプロモーション作用の有無を確認しました。

その結果、「キリン細胞壁破砕アガリクス顆粒」では、腎臓、甲状腺などに腫瘍性の病変の増加が認められ、当該製品にラット(ネズミの一種)に発がんプロモーション作用が認められました。

なお、「仙生露顆粒ゴールド」及び「アガリクスK2 ABPC細粒」では、発がんプロモーション作用は認められていません。

問8  食品安全委員会から求められて追加で実施した遺伝毒性試験とはどのようなものですか。

「キリン細胞壁破砕アガリクス顆粒」における遺伝毒性の試験の結果、細菌を用いた復帰突然変異試験及び哺乳類培養細胞を用いた染色体異常試験が陽性、マウスを用いた小核試験が陰性であったこと、また、多臓器イニシエーション処置を行った中期多臓器発がん性試験において発がんを促進する作用が認められたことから、食品安全委員会ワーキンググループから、突然変異検出用の遺伝子改変ラットを用いて、標的となった臓器について、突然変異試験を実施すること等と共に中期多臓器発がん性試験を再検証するための二段階発がん試験、本製品の発がんプロモーション作用の原因究明が求められ、厚生労働省では、遺伝毒性試験を優先して実施することとしました。

今回、遺伝毒性試験に用いられたラットは、遺伝子への影響を見るためにマーカーとなる遺伝子があらかじめ導入されています。このラットにアガリクスを摂取させた後に、標的となる臓器からその遺伝子を取り出し、突然変異の頻度を求めます。
また、標的臓器にアガリチンの代謝物から生成されるDNA付加体の形成の有無について解析します。

問9  追加で実施した遺伝毒性試験ではどのようなことが明らかになったのでしょうか。

食品安全委員会ワーキンググループに報告した追加試験の結果を受け、食品安全委員会において審議が行われました。今回の追加試験実施の結果、今回の試験系においては、問題となった製品は、生体内において問題となるようない遺伝毒性は有さないという結果が確認されましたが、発がんプロモーション作用の原因については、全ての試験を実施しなかったことから確認することができませんでした。

問10 評価してきた3製品はどのようなものですか。

以前評価した3製品のうちの1製品(1)については、食品としての販売を暫定的に禁止することについて、他の2製品(2)、(3)については、念のため製品の安全性について食品安全委員会に食品健康影響評価を依頼していました。

(1) キリン細胞壁破砕アガリクス顆粒(販売者:キリンウェルフーズ(株))

キノコ全体を乾燥させて粉末化し、顆粒状にしたもの

(2) 仙生露顆粒ゴールド(販売者:(株)サンドリー(注))

キノコの凍結乾燥粉末にデキストリン、セルロース等の栄養補助成分を添加した形態

(3) アガリクスK2 ABPC顆粒(販売者:(株)サンヘルス)

菌糸体培養物に栄養成分を添加し顆粒にしたもの

問11  特定の3製品を試験の対象に選定した理由は何ですか。

アガリクスを含む各種製品の中で

(1)広域流通しているもの

(2)一定期間継続的に市場に流通しているもののうち、製造方法が異なるもの

から選択したものです。したがって、健康被害報告等を基準としてこれらの製品を選択したものではありません。

問12  ラット(ネズミの一種)で発がんを促進する作用が認められた製品は今後も販売されるのですか。

厚生労働省は、平成18年2月13日に、この製品(キリン細胞壁破砕アガリクス顆粒)を販売しているキリンウェルフーズ(株)に対し、製品の自主的な販売停止と回収を要請しました。

同日、同社は、製品の自主的な販売停止と回収を行うことを決定し、現在ほぼ回収は終了しており、今後本製品については販売を行わないとの回答を受けています。

問13  中期多臓器発がん性試験を行った3製品のうち、ラットで発がん促進作用が認められた製品以外の製品の試験結果はどうだったのですか。

試験を行った2製品(「仙生露顆粒ゴールド」(販売者:(株)サンドリー(注))及び「アガリクスK2 ABPC細粒」(販売者:(株)サンヘルス))については、厚生労働省が実施した試験のうち遺伝毒性試験は陰性で、多臓器イニシエーション処置を行った中期多臓器発がん性試験においても、発がんを促進する作用は認められていません。

(注):試験対象となった「仙生露顆粒ゴールド」は(株)サンドリーが販売したものですが、現在、(株)S・S・Iに営業譲渡されています。

問14  試験を行った3製品以外のアガリクス製品は大丈夫ですか。

3製品のうち、問題とされた1製品以外の2製品については、遺伝毒性試験は陰性であり、中期多臓器発がん性試験においても発がんを促進する作用は認められていません。(問題とされた製品に認められた作用は、発がんの過程の一部であるプロモーション作用であり、発がんの最初の引き金になるイニシエーション作用は認められていません。)

このように、今回報告された試験結果は、ただちにアガリクスを含む製品全体に発がんを促進する作用が疑われるというものではありません。

(*)安全性の確認状況をその製品の製造者・販売者に問い合わせるなどしていただき、慎重に判断してください。また、医療機関を受診されている方は、主治医にご相談ください。

問15 食品安全委員会における評価結果はどのようなものだったのですか。

厚生労働省は、(1)製品については、食品の販売を暫定的に禁止することについて、(2),(3)製品については、製品の安全性について食品安全委員会に委食品健康影響評価を依頼していましたが、データが不足していることから食品健康影響評価を困難であるとの結論に至りました。厚生労働省においては、評価結果を受け、引き続き食品衛生上の危害の発生を未然に防止するため、必要な情報収集等を行っていくこととしているところです。

問16  もし、アガリクスを含む製品を摂取し、健康被害があった場合にはどうしたら良いですか。

厚生労働省は、(1)製品については、食品の販売を暫定的に禁止することについて、(2),(3)製品については、製品の安全性について食品安全委員会に委食品健康影響評価を依頼していましたが、データが不足していることから食品健康影響評価を困難であるとの結論に至りました。厚生労働省においては、評価結果を受け、引き続き食品衛生上の危害の発生を未然に防止するため、必要な情報収集等を行っていくこととしているところです。

(全国保健所一覧:http://idsc.nih.go.jp/hcl/index.html

問17  今後、アガリクスを含むすべての製品について、同様の試験を行う予定はありますか。

食品安全基本法第8条や食品衛生法第3条により、食品関係事業者(製造業者、販売業者等)は、自ら販売する食品の安全性を確保する必要があることが規定されており、各事業者においては、自らの責任において、製品の安全性について確認していただく必要があります。

そのため、例えば錠剤、カプセル状等の成分が濃縮された形状の食品について一定の安全性を確保するため、厚生労働省では、「錠剤、カプセル状等食品の適正な製造に係る基本的考え方について」及び「錠剤、カプセル状等食品の原材料の安全性に関する自主点検ガイドライン」(平成17年2月1日)(PDF)を通知し、安全確保について事業者の自主的な取組みを促しているところです。

厚生労働省としては、アガリクスを含む製品の安全性等について、国民に対し適切な情報を広く提供していくこととしており、食品安全委員会から提示された今回の評価書においても指摘されているとおり、引き続き必要な調査等を実施していくこととしております。消費者におかれましても、多種多様な食品の中から自らのライフスタイルや健康状態に合わせて製品を慎重に選んでいただくことが重要です。


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