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新歯科医師臨床研修評価基準検討会  中間とりまとめ

新歯科医師臨床研修評価基準検討会  中間とりまとめ

(平成18年3月)

はじめに

歯科医師の臨床研修については、平成12年の歯科医師法の一部改正により、平成18年4月より必修化されることとなった。すなわち、診療に従事しようとするすべての歯科医師は臨床研修を受けなければならないこととされ、これに併せて新たな臨床研修制度の内容の検討を進め、研修歯科医が適切な指導体制の下で研修を行い、歯科医師としての人格をかん養し、幅広く歯科医師として必要とされる基本的・総合的な診療能力を効果的に身に付けることができるものとすることとされた。新たな臨床研修制度の下、平成19年3月にも第一期の臨床研修修了者が生まれることとなるため、臨床研修の実施、指導及び評価に関する指標となるガイドライン等の整備が求められているところである。

歯科医師の臨床研修の修了に関しては、研修管理委員会が、研修期間の終了に際し、臨床研修に関する当該研修歯科医の評価を行い、単独型臨床研修施設又は管理型臨床研修施設の管理者( 以下「管理者」という。) に対し、当該研修歯科医の評価を報告しなければならないこととなっている。そして、管理者は研修管理委員会の評価に基づき、研修歯科医が臨床研修を修了したと認めるときは、速やかに、当該研修歯科医に対して、臨床研修修了証を交付しなければならないこととなっている。

また、研修の中断については、管理者が研修管理委員会の勧告または本人の申し出に基づき判断を行うこととなる。

本報告書は、研修管理委員会による研修歯科医の評価及び管理者による研修の修了、未修了あるいは中断の基準等を示すことにより、その判断が適切に行われ、全国で臨床研修修了者の水準の確保が図られることを目的とするものである。

あわせて、研修歯科医の指導の際の留意点についても検討を行い、指針となる指導ガイドラインの整備のために必要とされる項目を列挙するものである。

一方、臨床研修施設には研修歯科医手帳及び医療安全のための指針の整備が義務づけられているものの、いずれも記載内容についての指標となる統一的な項目は示されていない。そこで、研修歯科医手帳及び歯科診療所の医療安全指針に必要とされる記載項目につき例示を行うことにより、臨床研修施設の研修実施体制及び医療安全管理体制のより一層の充実を図るものである。

指導ガイドライン、研修歯科医手帳及び医療安全指針については、別途内容につきさらなる検討を要するものであるが、本報告書に基づき、新たな歯科医師臨床研修制度の実施に向け早急な整備が必要である。

なお、臨床研修を行う大学病院においては、臨床研修の機会を提供するに当たって厚生労働大臣の指定を受けることを要しないが、全国で一定以上の臨床研修の水準を確保するためには、大学病院においても、本提言に示す基準に則って評価、修了、未修了及び中断の判断を行うことが必要である。

I 修了認定のための評価基準について

1.修了の評価・認定についての基本的な考え方

各臨床研修施設の指定審査の際に、研修協力施設を含む研修プログラムや指導体制等が、歯科医師としての人格をかん養し、幅広く歯科医師として必要な診療能力を身につけることができる内容であり、指定基準を満たしているということが既に確認されている。

従って、研修修了の評価・認定に当たっては、各研修歯科医があらかじめ定められた臨床研修の期間、研修プログラムに則った研修を行い、臨床研修の到達目標が達成されていれば臨床研修を修了したと認定することが適当である。研修修了の判断に当たっては、実際の研修実施期間中の評価及び臨床研修の到達目標の達成度の評価に分けて評価を行う必要がある。

研修歯科医の評価を行う際には、各研修項目における評価については直接指導を担当した指導歯科医等が、研修期間を通じた評価についてはプログラム責任者が行い、最終的な評価を研修管理委員会が行う。そして、研修管理委員会の評価に基づいて、管理者が臨床研修の修了を認定することとなっている。臨床研修を実施している間、研修歯科医を指導する指導歯科医等は、適宜、各研修歯科医の研修の進捗状況を把握・評価し、修了基準に不足している部分を補い、あらかじめ定められた期間(原則1年)内に臨床研修を修了することができるよう配慮する必要がある。

2.評価・認定等における関係者の役割

2−1 指導歯科医等

指導歯科医は、自分の担当する研修歯科医ごとに臨床研修の到達目標の達成状況を把握し、各研修項目、各分野又は各研修施設の研修終了後及び必要に応じて随時、研修歯科医の評価をプログラム責任者に報告することとなっている。評価に当たって指導歯科医は、研修歯科医の指導を行った、あるいは研修歯科医と共に業務を行った歯科医師、歯科衛生士その他の職員と十分情報を共有し、それぞれの評価を把握した上で、責任を持って評価を行うべきである。

また、指導歯科医は研修歯科医とよく意志疎通を図り、実際の状況と評価に乖離が生じないように努める必要がある。 一方、研修歯科医による指導歯科医の評価も、指導歯科医の資質の向上に資すると考えられることから、実施することが望ましい。なお、研修協力施設等における研修実施責任者や指導者についても、指導歯科医と同様の役割を担うべきである。

2−2 プログラム責任者

プログラム責任者は、研修歯科医ごとに、直接、あるいは指導歯科医等の報告を受けて、臨床研修の到達目標の達成状況を把握し、研修プログラムにあらかじめ定められた研修期間の終了時までに、担当する全ての研修歯科医が臨床研修の到達目標を達成できるよう、全研修期間を通じて研修歯科医の指導及び指導歯科医への助言を行うとともに、その研修期間の終了の際には、研修管理委員会に対して、研修歯科医ごとの臨床研修の到達目標の達成状況を報告することとなっている。

プログラム責任者は、直接、あるいは指導歯科医等の報告を受け、定期的に、さらに必要に応じて随時各研修歯科医の研修の進捗状況を把握・評価し、修了基準に不足している部分についての研修が行えるよう指導歯科医に情報提供する等、有効な研修が行えるよう配慮するべきである。

2−3 研修管理委員会

研修管理委員会は、プログラム責任者の報告を受け、研修歯科医の管理及び研修歯科医の採用・中断・修了の際の評価等臨床研修の実施の統括を行うこととされ、研修期間終了に際しては、研修歯科医の評価を行い、管理者に対し、当該研修歯科医の評価を報告しなければならないこととなっている。

また、同委員会は、研修歯科医が臨床研修を継続することが困難であると認める場合には、当該研修歯科医がそれまでに受けた臨床研修に係る当該研修歯科医の評価を行い、管理者に対し、臨床研修の中断を勧告することができることとなっている。

同委員会においても、必要に応じて指導歯科医やプログラム責任者から各研修歯科医の研修進捗状況について情報提供を受ける等により、各研修歯科医の研修進捗状況を把握、評価し、修了基準に不足している部分についての研修が行えるようプログラム責任者や指導歯科医に指導・助言する等、有効な研修が行えるよう配慮するべきである。

2−4 単独型・管理型臨床研修施設の管理者

管理者は、責任をもって、受け入れた研修歯科医があらかじめ定められた研修期間内に臨床研修を修了できるよう努めるべきである。

管理者は、研修管理委員会の評価に基づき、研修歯科医が臨床研修を修了したと認めるときは速やかに臨床研修修了証を交付し、修了していないと認めるときは、速やかに当該研修歯科医に対して、理由を付してその旨を文書で通知しなければならないこととされている。

また、管理者は研修管理委員会の勧告又は研修歯科医の申出を受けて、当該研修歯科医の臨床研修を中断することができるが、中断した場合には、当該研修歯科医の求めに応じて、速やかに当該研修歯科医に対して臨床研修中断証を交付しなければならないこととされている。なお、このような場合においても、管理者は当該研修歯科医に対し、適切な進路指導等の支援を行うべきである。

3.評価方法

3−1 研修期間中の評価

研修期間中の評価は形成的評価をもって行うことが重要であり、フィードバックによって各研修歯科医の知識・態度・技能に価値ある変容をもたらすことを主な目的とする。

各研修歯科医及び指導歯科医は、「臨床研修の到達目標」に記載された個々の項目について、研修歯科医が実際にどの程度履修したか随時記録を行う必要がある。

研修の進捗状況の記録については、研修歯科医手帳を利用するほか、インターネットを用いた評価システムなどの活用も考えられる。

指導歯科医等は定期的に、さらに必要に応じて随時研修の進捗状況の把握・評価を行い、各研修歯科医が修了基準に不足している部分を研修できるよう配慮すると共に、評価結果を研修歯科医にも知らせ、研修歯科医、指導スタッフ間で評価を共有し、より効果的な研修へとつなげるべきである。

3−2 研修期間終了時の評価

研修歯科医の研修期間の終了に際し、プログラム責任者は、研修管理委員会に対して、研修歯科医ごとの臨床研修の目標の達成状況を報告する。その報告に基づき、研修管理委員会は研修の修了認定の可否についての評価を行う。

評価は、研修実施期間中の評価及び臨床研修終了時の到達目標の達成度の評価(行動目標等の達成度の評価、臨床歯科医としての適性の評価)に分けて行い、両者の基準が満たされた時に修了と認めるべきである。

4.臨床研修の修了基準

4−1 研修実施期間中の評価

研修歯科医は、1年間の研修期間について、以下に定める休止期間の上限を減じた日数以上の研修を実施しなければ修了と認められるべきではない。

(1)休止の理由

研修休止の理由として認めるものは、傷病、妊娠、出産、育児、その他正当な理由(研修プログラムで定められた年次休暇を含む)とするべきである。

(2)必要履修期間等についての基準

研修期間(1年間)を通じた休止期間の上限は45日(研修機関(施設) において定める休日は含めない)とするべきである。

(3)休止期間の上限を超える場合の取扱い

研修期間終了時に当該研修歯科医の研修の休止期間が45日を超える場合には未修了とするべきである。この場合、原則として引き続き同一の研修プログラムで研修を行い、45日を超えた日数分以上の日数の研修を行うことが必要である。

(4)その他

プログラム責任者は、研修休止の理由の正当性を判定し、履修期間の把握を行うべきである。研修歯科医が修了基準を満たさなくなるおそれがある場合には、事前に研修管理委員会に報告・相談するなどして対策を講じ、当該研修歯科医があらかじめ定められた臨床研修期間内に研修を修了できるように努めるべきである。

4−2 臨床研修の到達目標(臨床歯科医としての適性を除く)の達成度の評価

研修の達成度の評価においては、あらかじめ定められた研修期間を通じ、各到達目標について達成したか否かの評価を行い、少なくとも到達目標に示されたすべての項目について目標を達成しなければ、修了として認めるべきではない。

基本習熟コースの到達目標については、研修歯科医が医療の安全を確保し、かつ、患者に不安を与えずに行うことができる場合に当該項目を達成したと考えるべきである。

基本習得コースの到達目標については、臨床研修修了後、早期に習熟すべき項目であり、臨床研修中に頻度高く臨床経験した場合に当該項目を達成したと考えるべきである。

4−3 臨床歯科医としての適性の評価

管理者は、研修歯科医が以下に定める各項目のいずれかに該当する場合は、修了と認めるべきではない。

なお、臨床歯科医としての適性の評価は非常に困難であり、極めて慎重な検討が必要である。原則として、単一の臨床研修施設、特に一人の指導歯科医のみでは、その程度が著しい場合を除き臨床歯科医としての適性の判断を行うことは困難である。少なくとも複数の指導歯科医の評価、あるいは複数の臨床研修施設における臨床研修を経た後に評価を行うことが望ましい。

(1)安心、安全な医療の提供ができない場合

医療安全の確保が危ぶまれる、あるいは患者との意志疎通に欠け不安感を与える場合等には、まず、指導歯科医が中心となって、当該研修歯科医が患者に被害を及ぼさないよう十分注意しながら、指導・教育すべきである。十分な指導にも関わらず、改善せず、患者に被害を及ぼす恐れがある場合には、研修管理委員会において未修了、中断と判断することもやむを得ないものとする。

一般常識を逸脱する、就業規則を遵守できない、チーム医療を乱す等の問題に関しては、まず当該臨床研修施設において十分指導・教育すべきである。原則として、あらかじめ定められた臨床研修期間を通して指導・教育し、それでもなお、医療の適切な遂行に支障を来す場合には、未修了もしくは中断とすることもやむを得ないものとする。

また、研修歯科医本人の重大な傷病によって適切な診療行為が行えず、医療安全の確保が危ぶまれる、あるいは患者に不安感を与える等の場合にも未修了、中断の判断を行うことはやむを得ない。なお、傷病又はそれに起因する障害等によっては、当該臨床研修施設では研修不可能であるが、それを補完・支援する環境が整っている他の臨床研修施設で研修可能な場合には、管理者は、当該研修歯科医が現に受けている研修プログラムを中断し、引き続き、当該研修歯科医が研修可能な別の臨床研修施設の研修プログラムを受けることを可能とすべきである。

(2)法令・規則が遵守できない者

医道審議会の処分対象となる者の場合には、「行政処分を受けた医師に対する再教育に関する検討会」の議論に基づく再教育を行うことが見込まれる。再教育にも関わらず改善せず、患者に被害を及ぼすおそれがある場合には、未修了、中断の判断もやむを得ないものとする。

5.臨床研修の中断・未修了について

5−1 基本的な考え方

臨床研修の中断とは、現に臨床研修を受けている研修歯科医について研修プログラムに定められた研修期間の途中で臨床研修を中止することをいうものであり、臨床研修を再開する際には、原則として別の臨床研修施設の研修プログラムを改めて受けることを前提としたものである。

臨床研修の未修了とは、研修歯科医の研修期間の終了に際する評価において、研修歯科医が臨床研修の修了基準を満たしていない等の理由により、管理者が当該研修歯科医の臨床研修を修了したと認めないことをいうものであり、原則として、引き続き同一の研修プログラムで研修を行うことを前提としたものである。

研修プログラムを提供している管理者及び研修管理委員会には、あらかじめ定められた研修期間内に研修歯科医に臨床研修を修了させる責任があり、安易に未修了や中断の扱いを行うべきではない。

やむを得ず研修の中断や未修了の検討を行う際には、管理者及び研修管理委員会は当該研修歯科医及び研修指導関係者と十分話し合い、当該研修歯科医の研修に関する正確な情報を十分に把握する必要がある。さらに、研修歯科医が臨床研修を継続できる方法がないか検討し、研修歯科医に対し必要な支援を行う必要がある。

これらを通じて、中断・未修了という判断に至る場合にも、管理者及び研修管理委員会は当該研修歯科医が納得するよう努めるべきである。なお、この様な場合においては、経緯や状況等の記録を残しておくべきである。また、必要に応じて事前に地方厚生局に相談をするべきである。

5−2 中断

(1)基準

中断については、「研修歯科医が臨床研修を継続することが困難であると研修管理委員会が評価、勧告した場合」と「研修歯科医から管理者に申し出た場合」がある。

管理者が臨床研修の中断を認めるのは、以下(1)から(4)に示すようなやむを得ない場合に限るべきであり、例えば、臨床研修施設の研修歯科医に対する不満や研修歯科医の臨床研修施設に対する不満のように、改善の余地があるものは認めるべきではない。

  • (1) 当該臨床研修施設の廃院、指定取り消しその他の理由により、当該研修施設が認定を受けた研修プログラムの実施が不可能な場合。
  • (2) 研修歯科医が臨床歯科医としての適性を欠き、当該臨床研修施設の指導・教育によっても改善が不可能な場合。
  • (3) 妊娠、出産、育児、傷病等の理由により研修を長期にわたり休止し、そのため修了に必要な研修実施期間を満たすことができない場合であって、研修を再開するときに、当該研修歯科医の履修する研修プログラムの変更、廃止等により同様の研修プログラムに復帰することが不可能であると見込まれる場合。
  • (4) その他正当な理由がある場合。
(2)中断した場合

管理者は、当該研修歯科医の求めに応じて、速やかに、当該研修歯科医に対して臨床研修中断証を交付しなければならない。この時、管理者は、研修歯科医の求めに応じて、他の臨床研修施設を紹介する等臨床研修の再開のための支援を行う必要がある。また、管理者は中断した旨を所管の地方厚生局に報告する必要がある。

(3)臨床研修の再開

臨床研修を中断した者は、自己の希望する臨床研修施設に、臨床研修中断証を添えて、臨床研修の再開を申し込むことができる。研修再開の申し込みを受けた臨床研修施設の管理者は、当該研修歯科医の臨床研修中断証の内容を考慮した臨床研修を行わなければならないことから、研修の修了基準を満たすための研修スケジュール等を地方厚生局に提出する必要がある。

5−3 未修了

未修了とした場合、当該研修歯科医は原則として引き続き同一の研修プログラムで研修を継続することとなるが、その場合には、研修プログラムの定員を超えてしまう事もあり得ることから、指導歯科医1人当たりの研修歯科医数や研修歯科医1人当たりの症例数等について、研修プログラムに支障をきたさないよう、十分な配慮が必要である。

また、この時、管理者は、当該研修歯科医が臨床研修の修了基準を満たすための研修スケジュールを地方厚生局に提出する必要がある。

II 新歯科医師臨床研修の到達目標

1 歯科医師臨床研修「基本習熟コース」

【一般目標】

個々の歯科医師が患者の立場に立った歯科医療を実践できるようになるために、基本的な歯科診療に必要な臨床能力を身に付ける。

(1)医療面接
【一般目標】

患者中心の歯科診療を実施するために、医療面接についての知識、態度及び技能を身に付け、実践する。

【行動目標】
  • (1) コミュニケーションスキルを実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (2) 病歴(主訴、現病歴、既往歴及び家族歴)聴取を的確に行う。
    • (2)−1 患者の訴えを傾聴する。[態度・習慣(情意領域)]
    • (2)−2 患者の訴えを順序立てて誘導する。[技能(精神運動領域)]
  • (3) 病歴を正確に記録する。[知識(認知領域)−解釈]
  • (4) 患者の心理・社会的背景に配慮する。[態度・習慣(情意領域)]
  • (5) 患者・家族に必要な情報を十分に提供する。[態度・習慣(情意領域)]
  • (6) 患者の自己決定を尊重する。[態度・習慣(情意領域)]
  • (7) 患者のプライバシーを守る。[態度・習慣(情意領域)]
  • (8) 患者の心身におけるQOL(Quality Of Life )に配慮する。[態度・習慣(情意領域)]
  • (9) 患者教育と治療への動機付けを行う。[技能(精神運動領域)]
(2)総合診療計画
【一般目標】

効果的で効率の良い歯科診療を行うために、総合治療計画の立案に必要な能力を身に付ける。

【行動目標】
  • (1) 適切で十分な医療情報を収集する。
    • (1)−1 必要な医療情報を列挙する。[知識(認知領域)−問題解決]
    • (1)−2 医療情報を十分に収集する。[態度・習慣(情意領域)]
  • (2) 基本的な診察・検査を実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (3) 基本的な診察・検査の所見を判断する。[知識(認知領域)−解釈]
  • (4) 得られた情報から診断する。[知識(認知領域)−解釈]
  • (5) 適切と思われる治療法及び別の選択肢を提示する。
    • (5)−1 適切な治療法を選択する。[知識(認知領域)−問題解決]
    • (5)−2 妥当な治療法をすべて患者に提示する。[態度・習慣(情意領域)]
  • (6) 十分な説明による患者の自己決定を確認する。[態度・習慣(情意領域)]
  • (7) 一口腔単位の治療計画を作成する。[知識(認知領域)−問題解決]
(3)予防・治療基本技術
【一般目標】

歯科疾患と機能障害を予防・治療・管理するために、必要な基本的技術を身に付ける。

【行動目標】
  • (1) 基本的な予防法の手技を実施する。[技能(精神運動領域)]
  • (2) 基本的な治療法の手技を実施する。[技能(精神運動領域)]
  • (3) 医療記録を適切に作成する。[知識(認知領域)−解釈]
  • (4) 医療記録を適切に管理する。
    • (4)−1 個人情報の取扱に配慮する。[態度・習慣(情意領域)]
    • (4)−2 医療記録を管理する。[技能(精神運動領域)]
(4)応急処置
【一般目標】

一般的な歯科疾患に対処するために応急処置を要する症例に対して、必要な臨床能力を身に付ける。

【行動目標】
  • (1) 疼痛に対する基本的な治療を実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (2) 歯、口腔及び顎顔面の外傷に対する基本的な治療を実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (3) 修復物、補綴装置等の脱離と破損及び不適合に対する適切な処置を実践する。[技能(精神運動領域)]
(5)高頻度治療
【一般目標】

一般的な歯科疾患に対処するために,高頻度に遭遇する症例に対して,必要な臨床能力を身に付ける。

【行動目標】
  • (1) 齲蝕の基本的な治療を実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (2) 歯髄疾患の基本的な治療を実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (3) 歯周疾患の基本的な治療を実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (4) 抜歯の基本的な処置を実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (5) 咬合・咀嚼障害の基本的な治療を実践する。[技能(精神運動領域)]
(6)医療管理・地域医療
【一般目標】

歯科医師の社会的役割を果たすため、必要となる医療管理・地域医療に関する能力を身に付ける。

【行動目標】
  • (1) 保険診療を実践する。
    • (1)−1 保険診療について説明する。[知識(認知領域)−想起]
    • (1)−2 適切な保険診療を実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (2) チーム医療を実践する。
    • (2)−1 他の歯科医師・歯科衛生士等と常に情報交換する。[態度・習慣(情意領域)]
    • (2)−2 歯科衛生士等に適切に指示する。[態度・習慣(情意領域)]
  • (3) 地域医療に参画する。[態度・習慣(情意領域)]

2 歯科医師臨床研修「基本習得コース」

【一般目標】

生涯にわたる研修を行うために、より広範囲の歯科医療について知識、態度及び技能を習得する態度を養う。

(1)救急処置
【一般目標】

歯科診療を安全に行うために、必要な救急処置に関する臨床能力を習得する。

【行動目標】
  • (1) バイタルサインを観察し、異常を評価する。[知識(認知領域)−解釈]
  • (2) 服用薬剤の歯科診療に関連する副作用を説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (3) 全身疾患の歯科診療上のリスクを説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (4) 歯科診療時の全身的合併症への対処法を説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (5) 一次救命処置を実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (6) 二次救命処置の対処法を説明する。[知識(認知領域)−想起]
(2)医療安全・感染予防
【一般目標】

円滑な歯科診療を実施するために、必要な医療安全・感染予防に関する能力を習得する。

【行動目標】
  • (1) 医療安全対策を説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (2) アクシデント及びインシデントを説明する。
    • (2)−1 医療事故について説明する。[知識(認知領域)−想起]
    • (2)−2 ヒヤリ・ハットについて説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (3) 医療過誤について説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (4) 院内感染対策(Standard Precautions を含む)を説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (5) 院内感染対策を実践する。
    • (5)−1 常に感染防止に配慮する。[態度・習慣(情意領域)]
    • (5)−2 感染防止対策を実践する。[技能(精神運動領域)]
(3)経過評価管理
【一般目標】

自ら行った治療の経過を観察評価するために、診断及び治療に対するフィードバックに必要な能力を習得する。

【行動目標】
  • (1) リコールシステムの重要性を説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (2) 治療の結果を評価する。[知識(認知領域)−解釈]
  • (3) 予後を推測する。[知識(認知領域)−問題解決]
(4)予防・治療技術
【一般目標】

生涯研修のために必要な専門的知識や高度先進的技術を習得する能力を身につける。

【行動目標】
  • (1) 専門的な分野の情報を収集する。
    • (1)−1 積極的に情報を求める。[態度・習慣(情意領域)]
    • (1)−2 求める情報を検索する。[技能(精神運動領域)]
  • (2) 専門的な分野を体験する。[態度・習慣(情意領域)]
  • (3) POS(Problem Oriented System )を説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (4) EBM(Evidence Based Medicine )を説明する。[知識(認知領域)−想起]
(5)医療管理
【一般目標】

適切な歯科診療を行うために、必要となるより広範囲な歯科医師の社会的役割を理解する。

【行動目標】
  • (1) 歯科医療機関の経営管理を説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (2) 常に、必要に応じた医療情報の収集を行う。[態度・習慣(情意領域)]
  • (3) 適切な放射線管理を実践する。
    • (3)−1 患者、医療従事者等の被爆に配慮する。[態度・習慣(情意領域)
    • (3)−2 放射線防護を実践する。[技能(精神運動領域)]
  • (4) 廃棄物を適切に処理する。
    • (4)−1 廃棄物を分別する。[知識(認知領域)−解釈]
    • (4)−2 感染性廃棄物を安全に取り扱う。[技能(精神運動領域)]
(6)地域医療
【一般目標】

歯科診療を適切に行うために、地域医療に必要な能力を習得する。

【行動目標】
  • (1) 地域歯科保健活動を説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (2) 歯科訪問診療を説明する。[知識(認知領域)−想起]
  • (3) 歯科訪問診療を体験する。[態度・習慣(情意領域)]
  • (4) 医療連携を説明する。[知識(認知領域)−想起]

III 新歯科医師臨床研修制度における指導ガイドラインの記載項目について

平成18年4月から施行される新歯科医師臨床研修制度の趣旨をふまえ、指導歯科医等が研修歯科医を指導するにあたっての指針となるような、一般目標及び行動目標の達成に向けた指導ガイドラインの作成が求められている。

そこで、新歯科医師臨床研修における指導ガイドラインの作成に向け、新医師臨床研修制度における指導ガイドラインを参考に、新歯科医師臨床研修制度に則った研修をすすめる上で、各臨床研修施設の指導歯科医等の研修歯科医の指導に当たる方々を支援するために必要とされる項目をとりまとめた。それぞれの項目につき、早急に内容の整備が必要と考える。なお、多くの項目において、新医師臨床研修制度における指導ガイドラインと内容が重複するものの、その内容については、歯科固有に求められる能力を習得できる内容とすべきである。

第1章 指導体制・指導環境

  • I 指導体制
    • 1. 管理者
    • 2. 研修管理委員会
    • 3. プログラム責任者
    • 4. 研修実施責任者
    • 5. 臨床研修指導歯科医
    • 6. 研修歯科医の指導におけるその他のスタッフの役割
  • II 各種研修スケジュールの例
    • 1. 研修期間全体
    • 2. 研修施設単位(月間・週間単位でのスケジュールを含む)
  • III オリエンテーション
    • 1. 意義
    • 2. スケジュールの例示
  • IV 指導歯科医
    • 1. 指導歯科医の選任と契約
    • 2. 指導歯科医の研修
    • 3. 指導歯科医間の連係
    • 4. 指導歯科医に関する処遇と臨床研修補助金
  • V 指導調整
    • 1. 研修内容の確認と調整
      • 1) 研修内容の確認の方法
      • 2) 行動目標の確認
      • 3) 入院症例の経験
      • 4) 研修全体の把握
      • 5) 症例の選択
    • 2. 各科・施設間での指導の調整
    • 3. 研修の中断および再開
    • 4. 修了および未修了
  • VI 学習環境整備
    • 1. 労働・研修時間
    • 2. 研修に係る各種手続き
    • 3. トラブルへの対応
    • 4. 研修歯科医の福利厚生
    • 5. 研修の充実

第2章 指導方法

  • I 理論編
    学習の目標と方略
    1. 望ましい学習活動の特徴
    2. 教育目標の分類
    3. 学習方略
    4. SPICES model
    臨床教育の特徴
    5. 臨床教育の7つのポイント
    6. 臨床教育の6つの技法
    7. コーチングの技法
    8. 指導歯科医の役割
    9. 医療における過誤可能性
    フィードバック
    10. 望ましいフィードバック技法
    11. 「事実」と「意味づけ」と「一般論」
    医療面接
    12. 面接技法を学習する必要性
    13. 患者に対する医療者の態度類型
    14. 共感の伝え方
    15. 人的資源としての標準模擬患者
  • II 実践編
    • 1. 指導方法の実際
    • 2. 研修歯科医向けカンファレンスの実際
    • 3. シミュレーションを利用した教育
    • 4. 臨床現場での教育方法
    • 5. 指導の実例

第3章 評価方法

  • I 評価の理論と方法
    • 1. 教育評価
    • 2. 教育評価の原則
    • 3. 教育評価の方法
    • 4. 評価が持つ属性(5条件)
    • 5. 測定しようとする行動と評価方法
    • 6. 形成的評価と総括的評価
    • 7. 客観的臨床能力試験(OSCE)
    • 8. 態度・習慣・技能の評価
    • 9. 臨床研修における情意領域(態度)の評価
    • 10. 360度評価
    • 11. ポートフォリオ評価
  • II コンピテンシーモデルを用いた「行動目標」の評価
    • 1. コンピテンシーについて
    • 2. 医療人として必要な基本姿勢・態度
    • 3. 評価項目作成の実際

第4章 到達目標の解説

  • I 基本習熟コースの解説
    • 1. 医療面接
    • 2. 総合診療計画
    • 3. 予防・治療基本技術
    • 4. 応急処置
    • 5. 高頻度治療
    • 6. 医療管理・地域医療
  • II 基本習得コースの解説
    • 1. 救急処置
    • 2. 医療安全・感染予防
    • 3. 経過評価管理
    • 4. 予防・治療技術
    • 5. 医療管理
    • 6. 地域医療

参考文献:

新医師臨床研修制度における指導ガイドライン
(平成17年度厚生労働科学研究費補助金医療技術評価総合研究事業新医師臨床研修制度における研修医指導に関する研究班(主任研究者:水嶋春朔、国立保健医療科学院人材育成部長))

ホームページアドレス:http://www.niph.go.jp/soshiki/jinzai/kenshu-gl/index.html 20

IV 研修歯科医手帳の記載項目について

研修歯科医手帳は、研修歯科医がどのように研修を進めて達成したのかの記録である。研修歯科医自身が、研修過程で行う達成度の確認と自己評価のために活用するものであるとともに、プログラム責任者や指導歯科医が研修歯科医に対して行う研修期間中の指導及び研修終了時の評価のための重要な資料となる。また、研修プログラムが個々の研修歯科医にどのように運用されているかを示すものでもあり、プログラム責任者が研修プログラムやカリキュラムに対する評価を行う際にも活用できる。

歯科医師臨床研修施設には、「歯科医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について」(平成17年6月28日付け医政発第0628012号)により、研修歯科医手帳の作成と記入を指導することが定められていることから、研修歯科医手帳の記載項目につき、以下に例示する。

I 原則として研修歯科医手帳は研修歯科医が診療中を含め常時携帯し、本人及び指導歯科医、プログラム責任者等により随時記入、確認等が可能な体裁とすべきである。

II 研修歯科医手帳に記載すべき項目の例示

  • (1) 研修プログラム名称
  • (2) 担当プログラム責任者又は副プログラム責任者の氏名
  • (3) 当該研修歯科医が研修を行う研修施設名称と研修期間割り
  • (4) 行動目標とその達成状況
    • 自己評価の記録(研修ユニット終了ごと)
  • (5) 研修記録
    • 担当患者の病歴や治療の要約
    • 自ら実施した手技・検査等の記録
    • 歯科医療行為以外の研修に関する記録
  • (6) 前項(4)、(5)についての指導歯科医又はプログラム責任者の評価
  • (7) その他、臨床研修の実施並びに研修歯科医の評価に必要な事項

なお、これらの情報の記載の際には、患者の氏名をイニシャルで記入するなど、個人情報の取扱いについて十分な配慮が必要である。

III ポートフォリオを使用する場合には、研修歯科医手帳を補完するものと考え、記載項目に反映すること。

IV DEBUT(オンライン歯科臨床研修評価システム)等のネットワーク等を利用した研修評価システムを併用する場合には、当該システムの記載項目と重複する項目については研修歯科医手帳から省略してもよい。また、情報の取扱いについては「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(平成17年3月)に準じて行われるべきである。

V 歯科医師臨床研修施設である歯科診療所における医療安全指針の記載項目について

歯科医師臨床研修施設の指定を受けようとする診療所については、以下の医療に関する安全管理のための体制が確保されていなければならないこととされている。(「歯科医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令」(平成17年厚生労働省令第103号)及び「歯科医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について」(平成17年6月28日付け医政発第0628012 号))

  • (A) 医療に係る安全管理のための指針を整備すること。
  • (B) 医療に係る安全管理のための委員会を開催すること。
  • (C) 医療に係る安全管理のための職員研修を実施すること。
  • (D) 医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること。
  • (E) 医療に係る安全管理を行う者を配置すること。
  • (F) 患者からの相談に適切に応じる体制を確保すること。

これらの項目のうち、(A)から(D)の4項目については、現行の医療法によりすべての病院及び病床を有する診療所にも義務づけられている。

一方、平成17年6月に医療安全対策検討会議から示された報告書「今後の医療安全対策について」には、すべての病院、診療所及び助産所に対し、上記4項目に加え、

  • (G) 院内感染制御体制の整備
  • (H) 医薬品、医療機器の安全使用、管理体制の整備

についても新規に義務づけることとされており、平成18年の医療法改正に向け準備が進められているところである。したがって、新医療法施行後には、すべての歯科診療所において(A)から(D)、(G)及び(H)が、歯科医師臨床研修施設においては(A)から(H)が義務となる。

臨床研修施設は、研修歯科医に医療安全管理についても指導を行う教育的側面を有することをかんがみ、(G)及び(H)についても新医療法施行に先駆け、積極的に導入するべきである。このことを踏まえ、以下に歯科医師臨床研修施設である歯科診療所における医療安全指針の記載項目の例を示す。

  • 第1 理念・趣旨
  • 第2 医療安全管理のための基本的考え方
  • 第3 本指針の閲覧に関する基本方針
  • 第4 用語の定義
    • 1 医療安全管理規程
    • 2 医療安全管理マニュアル
    • 3 医療事故
    • 4 医療過誤
    • 5 ヒヤリ・ハット事例
    • 6 医療安全管理者
    • 7 院内感染
    • 8 院内感染防止マニュアル
    • 9 医薬品の安全使用に係る責任者
    • 10 医薬品の安全使用のための業務手順書
    • 11 医療機器管理者等
  • 第5 医療安全管理体制の整備
    • 1 医療安全管理規程について
    • 2 医療安全に係る職員会議の実施
    • 3 医療安全管理者の配置
    • 4 患者からの相談受付体制
  • 第6 医療安全管理のための具体的方策の推進
    • 1 医療安全管理マニュアルの作成
    • 2 ヒヤリ・ハット事例の報告及び評価分析
    • 3 職員へのフィードバック
    • 4 医療安全対策ネットワーク整備事業への協力
    • 5 医療安全管理のための職員研修
  • 第7 医療事故発生時の具体的な対応
    • 1 医療事故の報告
    • 2 患者・家族への対応
    • 3 事実経過の記録
  • 第8 医療事故の評価と医療安全対策への反映
  • 第9 院内感染対策の充実
    • 1 院内感染防止マニュアルの作成
    • 2 院内感染対策に係る職員会議の実施
    • 3 院内感染対策に関する研修
  • 第10 医薬品の安全確保
    • 1 医薬品の安全使用に係る責任者の配置
    • 2 医薬品の安全使用のための業務手順書の整備
    • 3 患者の常用薬・服用中の薬に係る情報の共有
  • 第11 医療機器の安全確保
    • 1 医療機器管理者の配置
    • 2 医療機器の定期的な保守・点検
    • 3 医療機器の使用に関する職員研修

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