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医療法人会計基準の必要性に関する研究

 
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X.医療法人会計基準の必要性に関する研究

1.医療法人会計基準の必要性
 医療法人は、病院・診療所の中心的開設主体であると共に、平成12年4月に施行された介護保険制度の下で介護老人保健施設や訪問看護ステーションの多くも開設・運営している。制度創設当初、病院又は診療所の開設主体としての役割を担っていた医療法人は、社会保障制度改革や医療需要の変化等によりその業務内容が大きく変わっている。
 昭和40年に制定された病院会計準則は昭和58年に改正されているが、当時までの医療法人の主たる業務は病院又は診療所の開設のみであったため、病院の会計に関する準則を定めておけば足り、あえて医療法人の会計の基準を設定する必要はなかったものと考えられる。しかしながら、医療法人の事業内容は時代の要請によって多様化しており、施設に着目した「病院会計準則」や「介護老人保健施設会計・経理準則」等のみでは、医療法人全体の経営内容を適切に表示することができなくなっている。
 現在、医療法人は、医療施設である病院・診療所、介護施設である介護老人保健施設の開設という本来業務のほか、医療法第42条において規定されている医療関係者の教育や医学・歯学研究並びに第2種社会福祉事業等の付帯業務、特別医療法人において認められている収益業務を行うことが認められている。
 このため、医療法人の財政状態及び運営状況を適正に把握するためには医療法人全体の経営実態を明らかにする会計基準として「病院会計準則」とは別に「医療法人会計基準」が必要となる。

2.医療法人会計基準の目的
 制定されるべき「医療法人会計基準」は、医療法人が運営を予定している様々な施設に適用される会計基準、すなわち「病院会計準則」、「介護老人保健施設会計・経理準則」、「指定老人訪問看護の事業及び指定訪問看護の事業の会計・経理準則」に整合したものであることが必要である。
 施設に関する会計基準に整合していることを前提としつつ、医療法人全体の財政状態及び運営状況を明らかにすることが「医療法人会計基準」の目的である。
 このことにより医療法人が作成する施設単位の財務諸表は、異なる開設主体との経営の比較可能性を確保できるとともに、法人全体の財務諸表は医療法人間の運営状況及び財政状態の比較を可能とすることになる。
 また、質の高い効率的な医療提供体制の整備が求められている現在、医療の中心的な担い手である医療法人においても医業経営の透明性を担保する観点から経営情報の開示を意識すべきである。情報開示の一環としての財務情報の公開と異なる開設主体間での経営内容の比較は同じ次元において議論すべきものではなく、そのような観点からも「医療法人会計基準」制定の必要性を認識することが必要である。
 このため、「医療法人会計基準」は経営情報の開示という問題も取り入れて制定すべきであるが、その適用にあたっては小規模医療法人に対する適用除外等に関して十分な検討を加えるべきである。

3.医療法人における会計情報開示のあり方
(1)開示の目的
  医療法第52条において、医療法人は、毎会計年度ごとに貸借対照表及び損益計算書を作成しなければならないとされており、また、この財務諸表については債権者保護の観点から、債権者はいつでも閲覧することができるとされている。
  しかし、病院及び診療所又は介護老人保健施設の開設・運営を目的として設立される医療法人においては、医療・介護事業における公益性の側面を考慮した場合、債権者保護という観点よりさらに広い観点から会計情報に関する開示要請についても検討が必要と思われる。
  医療法人に対する一般利害関係者の関心は、単に当該医療法人の運営状況や財政状態にあるわけではなく、医療施設を利用するという立場等からその事業の継続性、医療水準の維持・向上に関する情報、複数の事業を営む場合の各事業の状況、利用者の利便性に関する情報等と幅広い要求となっている。
  また、病院開設主体に対しては、公的保険制度を通じて間接的には税金が投入されていることから、事業の効率性のみならず不採算の場合には事業自体の必要性にまで利害関係者の関心が寄せられるものと考えられる。
  このような幅広い利害関係者を対象とした場合、会計情報の開示水準が問題となるが、本研究においては概括性、明瞭性に重点をおき、分かりやすい会計情報であることが重要であるとの結論に至った。
(2)開示水準について
  一般の利害関係者を会計情報の開示対象と想定したとしても、医療法で掲げられている債権者保護の趣旨を逸脱することは現行法の下では適切ではない。
  営利企業において債権者保護を目的とした会計情報開示に関する基準として「商法施行規則」(以下施行規則という)が挙げられるが、施行規則において取り上げられている開示項目は、医療法人においても原則として開示の対象とすべきである。
  また、財務書類の表示水準については、施行規則を基にして作成される営利企業の財務書類よりも低い水準とすることはできないと考える。社会保障制度の一環として運営されている公的医療保険や介護保険を主な収入源としている医療法人には、広く国民の視点に立った見地から、営利企業よりも高い開示水準を求めるべきであるとの考え方もあり、営利企業の財務書類よりも低い水準とすることは適当でない。
  さらに、医療法人が主として行う医療・介護事業では、サービスの提供が施設ごとに行われている点に鑑み、サービス利用者及び監督官庁の関心も施設情報に向けられる傾向にあることから、会計情報の開示においても何らかの形で施設情報を含むことが必要である。

4.医療法人の財務諸表体系
(1)医療法人が作成すべき財務諸表
  医療法人の財務諸表は、病院会計準則に規定している貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書及び附属明細表と、施設としてではなく、法人単位で作成すべき剰余金計算書とする。
(2)剰余金計算書の役割及び必要性
  そもそも医療法人は剰余金の配当が禁止されている非営利組織体であるため剰余金処分という概念自体がなじまない。したがって、剰余金計算書の存在意義は乏しいと考えられるが、医療法人は法人税の課税主体であり、その適用を受けるため医療法人独自の必要性から剰余金計算書が検討されるべきである。
  会計上のフロー計算と法人税法との調整を図る上で必要となる剰余金関連の会計処理としては圧縮記帳と特別償却が想定される。パブリックセクターとの比較可能性を確保するためには、法人税の課税主体とならない病院開設主体との会計処理上の整合性を保つことが重要となるが、その際、法人税法における課税主体特有の会計処理については別途考慮が必要となる。
  比較可能性を確保するためには、法人税法における特有の取扱いを損益計算書において排除することが望ましいといえるが、これを優先するからといって税法上の優遇措置を放棄することを強制することはできない。そのため、圧縮記帳並びに特別償却については会計処理の問題として採り上げ、準備金方式による対応に統一化することが最善の策といえる。したがって、医療法人においては、この準備金方式による会計処理の受け皿として剰余金の増減を表すフロー計算書が必要となり、その意味において剰余金計算書を基本財務諸表として位置付けることが必要と考える。
  また、出資持分の定めのある社団医療法人では、当該出資持分の払戻しに関連する会計処理において出資払戻差額が発生する場合もあり、これを剰余金計算書の中で取扱うべきものと考える。
以上の理由により医療法人においては法人単位において剰余金計算書を作成すべきであるとの結論に達した。
(3)セグメント情報について
医療法人におけるセグメントについては様々な考え方があるが、医療法人は複数種類の事業を行うことができることから、事業種類を最も基本的なセグメントと捉え、これに関する概括的な経営情報を事業報告書で、事業別、施設別の運営情報を附属明細表で取扱うことが適切な情報提供であると考えた。
また、医療機関に対するセグメント情報に関しては、社会保険診療事業と政策医療事業とを何らかの方法により区分し、その計数的な概要を表示すべきとの議論が各方面からなされているが、その具体的定義や対応する費用配分方法等の前提となる部分が現段階では不明確であり、会計情報としてはその妥当性を評価することはできないため、本研究報告においては開示情報としての採用は見送った。
(4)連結財務諸表について
 企業会計においては、実質的に親会社であると判定される会社は、その支配する会社を連結して財務諸表を作成することとされており、連結範囲について実質基準を採用している。特に近年、証券取引法適用会社においては連結財務諸表が中心となり、親会社単体の財務諸表は従たる会計情報として位置付けられている。また、近く改正が予定されている商法施行規則においても連結情報が中心的な役割を担うことになると予想される。
 一方、医療法人では、実質的に有価証券に対する保有規制がなされており、形式的には支配を目的として他の医療法人に対する出資ないしは他の会社等の株式等を保有することはないといえる。しかし、人事、取引等を通じて実質的に支配関係にある非営利組織体ないしは会社等を有していると判断される場合も見受けられるようである。このような場合には連結財務諸表があらわすグループ全体の会計情報に有用性が期待できると考えられる。
 このため、今後、医療法人と明確な支配従属関係が存在する組織の有無及びその実態に関して調査を重ね、連結財務諸表を作成する必要性、情報作成のコスト・ベネフィット等を十分に検討し、適切に対応すべきであるとの結論に達した。

5.医療法人における事業報告書の必要性
(1)事業報告書の役割と必要性
  医療法人会計基準の制定において想定される会計情報の利用者・利害関係者は、金融機関、出資者、債権者、寄付者にとどまらず、国・地方自治体、納税者としての国民、従業員、経営者、納入業者、さらには患者等医療サービス利用者(潜在的患者を含む)などかなり広範囲になると考えられる。
  会計情報の利用者をこのように広く捉えると、会計情報の作成目的・利用目的も同様に様々なものが想定される。法人全体の運営状況、支払能力、透明性、経営資源の状況、将来性、安定性、安全性、設備の状況、経営の近代化・効率化、ガバナンスの状況、さらには提供できる医療サービスの内容の理解にまで及ぶことになると思われる。
ここに事業報告書とは、財務諸表からは得られない医療法人の状況及び医療法人の事業の経過等に関する情報を提供する書類であり、財務諸表とともに提供されることによりの情報の利用者がその目的を合理的に達成できるものと考えられる。
  利害関係者と利用目的が広範囲になればなるほどその重要性は増大し、医療法人の理解のためには不可欠の書類といえる。
(2)事業報告書の規範性について
  事業報告書は、前述のとおり財務諸表の背後にある医療法人の事業の経過及び医療法人の状況に関する情報を提供する書類であり、利用者の利用目的を合理的に達成するために不可欠なものといえる。そして、利害関係者と利用目的が広範囲になればなるほど、その重要性は増すことになる。
  しかし、その一方で、作成者にとっては広範囲の利用者が望む全ての情報を記載することは不可能であり、また、利用者にとっても簡潔明瞭に理解できるものでなければならない。
広範囲の利用目的をより合理的に達成するには、記載方法、記載内容等をある程度統一し、利用者に分かりやすく、実務においても採用可能なものでなくてはならない。この点で、商法は商法施行規則において営業報告書の記載内容に規範性を持たし、情報の有用性・明瞭性・比較可能性を確保している。
  しかし、医療法人においては、現在、企業会計の商法及び商法施行規則に相当する営業報告書による経営情報開示の規範は存在しない。事業報告書に規範性を持たせるためには医療法人の情報開示に係る開示省令(規則)等を設け、その中で、財務書類と共に事業報告書を開示書類として規定することが必要と考える。また、それぞれの作成指針(基準)等をその細則として位置づける等規則関係を整備し、事業報告書の記載内容、記載方法を統一化することも必要と考える。
(3)事業報告書の記載事項の検討
  「公益法人における事業報告書の記載例について」(平成13年4月16日日本公認会計士協会)及び「経団連・経済法規委員会の営業報告書のひな型」を参考に医療法人における事業報告書の記載事項を検討した。その結果、医療法人の事業報告書に記載すべき事項として下記の内容が想定されるとの結論に至った。
T 法人の概況
  1.設立年月日
  2.医療法人の種類
  3.社員及び持分の状況(社団の場合)
   (1)総社員数及び出資総額
   (2)主な社員
   (3)当年度における社員の異動
  4.役員等に関する事項
   (1)理事及び監事
   (2)評議員
  5.職員の状況
  6.施設の状況
  7.付帯業務の状況
  8.主要な借入先
  9.決算日後に生じた法人の状況に関する重要な事実
U 事業の状況
  1.事業の経過及び成果
  2.設備投資の状況
  3.資金調達の状況
  4.法人の対処すべき課題
  5.運営状況及び財産状況の推移

6.小規模医療法人に係る特例措置
 医療法人は、診療所の開設を目的とする小規模な一人医師医療法人から病床規模の大きな病院を開設する医療法人や複数の医療施設を開設する医療法人、医療施設以外に介護老人保健施設等の介護サービスを提供する医療法人まで様々である。このように同じ医療法人といっても社会的な影響や位置づけは異なり、これらに対して一律に病院会計準則並びに医療法人会計基準を適用することは望ましい姿ではない。
 企業会計における商法施行規則においても、会社を小会社、中会社、大会社に区分し、それぞれについて作成すべき計算書類の範囲、監査役の監査の範囲等を定め、その適用に差を設けている。医療法人においても同様の考え方により小規模医療法人への適用に際し、一定の適用除外等の宥恕規定が盛り込まれるべきである。
 また、このことは事業報告書の作成に関しても考慮されるべきである。事業報告書は、医療法人の概況、事業の状況に関する情報を提供する重要な書類であるが、小規模医療法人への適用には、記載内容の省略、簡略化等の宥恕規定を設けるべきであろう。
 小規模医療法人の範囲に関しては、様々な議論があるが以下の事項を十分に考慮しながら今後検討を進める必要がある。
@単一施設の診療所や小規模な病院のみを開設する医療法人以外に、施設を複数開設している医療法人や医療事業と介護事業を併せて行っている医療法人などもあり、どのように基準を設定するかは難しい。一般的に、医療法人が開設している病院の総病床数、従業員数、事業収益(売上高)、負債金額等が判断の基準として挙げられるが、今後実証的研究を行うことにより客観的・合理的に決定すべきである。
A小規模医療法人の範囲を定める際には、医療法人以外の病院開設主体において病院会計準則がどのように適用されるのかという観点からの整合性を図ることが必要である。

7.出資・寄附や資金調達を巡る会計処理について
(1)医療法人制度見直しと出資・寄附等を巡る会計処理
 現在、厚生労働省は医療法人制度の再点検に着手しており、医療法人制度そのもののあり方に関して様々な視点から検討が加えられている。医療法人の非営利性や公益性を高めるための方策や医療法人経営の安定性を確保するための資金調達手段の多様化に対する対応策の実施は、医療法人の出資・寄附や資金調達を巡る会計処理に大きな影響を与えることになる。
 このため、「医療法人会計基準」制定に際して不可欠な医療法人の出資・寄附を巡る会計処理に関しては医療法人制度見直しの方向性が明確にされたところで最終結論をだすことが適切であるとともに、その際、新たな資金調達手段に関する会計処理に関しても検討を行うことになるものと考える。
(2)現時点における検討項目に関する説明
 現在までのところ、医療法人の出資・寄附を巡る会計処理問題として@出資持分の有無に対応した出資金の表示、A特定医療法人、特別医療法人における出資金の表示、B出資額限度法人における出資金の表示、C出資持分払戻しに関する会計処理方法、D追加出資に関する会計処理、E「出資持分の定めのある社団」から「出資持分の定めのない社団」への移行における資本金の表示に関する会計処理(医療法施行規則第30条の36第2項)のあり方等を検討した。
 それぞれの項目に関して検討を加え、一応の議論は尽くしているが医療法人制度の見直し議論の終結まで最終結論をだすことができず、今後検討を重ねることが望ましいとの結論に至った。



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