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今後の医療安全対策について(報告書)

平成17年6月8日

厚生労働省医政局長
岩尾 總一郎 殿

今後の医療安全対策について


医療安全対策検討会議
座長 高久 史麿

 本検討会議は、医療安全対策ワーキンググループが取りまとめた報告書(別添資料)の内容について検討した結果、今後の医療安全対策については当該報告書のとおり進めるべきであるが、これに加え、

 医療の質の向上と医療安全のさらなる推進を図る上で、専門医育成のあり方等について検討が必要であること

 患者の取り違えの防止等の観点からも、複数のバイオメトリックス(生体情報)を使用した精度の高い個人認証システムを導入するなど、医療におけるIT化の推進を図ること

 医療安全支援センターの機能の充実に当たっては、医療安全に関する情報の医療機関への提供や患者、国民に対する医療安全教育等に関する機能についても検討が必要であること

 国及び都道府県は、安全、安心で良質な医療の確保に必要な基盤整備と人材の確保、それに必要な財源確保について配慮すること

についても十分に考慮すべきであるとの結論を得たので報告いたします。

 つきましては、この報告書の内容及びこれらの意見を今後の医療安全対策に反映いただくよう要望いたします。



平成17年6月8日

厚生労働省医薬食品局長
阿曽沼 慎司 殿

今後の医療安全対策について


医療安全対策検討会議
座長 高久 史麿

 本検討会議は、医療安全対策ワーキンググループが取りまとめた報告書(別添資料)の内容について検討した結果、今後の医療安全対策については当該報告書のとおり進めるべきであるが、これに加え、

 医療の質の向上と医療安全のさらなる推進を図る上で、専門医育成のあり方等について検討が必要であること

 患者の取り違えの防止等の観点からも、複数のバイオメトリックス(生体情報)を使用した精度の高い個人認証システムを導入するなど、医療におけるIT化の推進を図ること

 医療安全支援センターの機能の充実に当たっては、医療安全に関する情報の医療機関への提供や患者、国民に対する医療安全教育等に関する機能についても検討が必要であること

 国及び都道府県は、安全、安心で良質な医療の確保に必要な基盤整備と人材の確保、それに必要な財源確保について配慮すること

についても十分に考慮すべきであるとの結論を得たので報告いたします。

 つきましては、この報告書の内容及びこれらの意見を今後の医療安全対策に反映いただくよう要望いたします。



(参考)

医療安全対策検討会議委員名簿(五十音順)

飯塚 悦功 東京大学大学院工学系研究科教授
井上 章治 日本薬剤師会常務理事
北村 惣一郎 国立循環器病センター総長
楠本 万里子 日本看護協会常任理事
黒田 勲 日本ヒューマンファクター研究所所長
桜井 靖久 東京女子医科大学名誉教授
高久 史麿 日本医学会会長
津 茂樹 日本歯科医師会常務理事
武田 純三 慶應義塾大学医学部教授
辻本 好子 ささえあい医療人権センターCOML理事長
寺岡 暉 日本医師会副会長
中村 定敏 全日本病院協会常任理事
野本 亀久雄 財団法人日本医療機能評価機構理事
長谷川 敏彦 国立保健医療科学院政策科学部長
細田 瑳一 財団法人日本心臓血圧研究振興会常務理事
堀内 龍也 日本病院薬剤師会常務理事
前田 雅英 首都大学東京都市教養学部長
望月 眞弓 北里大学薬学部教授
矢崎 義雄 独立行政法人国立病院機構理事長
山崎 幹夫 新潟薬科大学学長

○座長



今後の医療安全対策について

報告書




平成17年5月

医療安全対策検討ワーキンググループ



今後の医療安全対策について


はじめに

 医療安全の確保は医療政策における最も重要な課題の一つであるが、医療機関における医療の事故が相次いで発生し、適切な対応を求める国民の声がかつてない高まりを見せた。このため厚生労働省は、平成13年5月に「医療安全対策検討会議」を設置し、同検討会議は、平成14年4月に「医療安全推進総合対策」を取りまとめた。
 医療は患者と医療従事者の信頼関係、ひいては医療に対する信頼の下で、患者の救命や健康回復が最優先で行われるべきものである。「医療安全推進総合対策」においては、この基本理念に基づき、医療の安全と信頼を高めるため、以下の考え方を基本として、医療事故を未然に防止するために必要な対策等について提言を行っている。

医療安全の確保については、
医療は個々の医師のみによって提供されるものではなく、様々な職種からなる「人」、医薬品・医療機器をはじめとする「物」、医療機関という「組織」といった各要素と、組織を運用するシステムにより提供されており、このいずれが不適切であっても医療サービスは適切に提供されないことから、個々の要素の質を高めつつ、いかにしてシステム全体を安全性の高いものにしていくかが課題であること。
事故の予防に重点を置いて考える場合には、「誤り」に対する個人の責任追及よりも、むしろ、起こった「誤り」に対して原因を究明し、その防止のための対策を立てていくことが極めて重要であること。
患者の安全を最優先に考え、その実現を目指す「安全文化」を醸成し、これを医療現場に定着させていくことが求められていること。
医療における信頼の確保については、
医療安全の確保に全力で取り組むとともに、改めて医療への信頼を確保することが必要であること。
「医療を受ける主体は患者本人であり、患者が求める医療を提供していく」という患者の視点に立った医療の実現が課題となっていることを認識すべきであること。
患者との情報共有が医療安全対策の一つの鍵であり、医師等と患者の信頼関係の醸成につながることなどからも、患者の要望を真摯に受け止め、必要な情報を十分提供することや、患者が納得して医療を受けられるように患者が自ら相談できる体制を整え、患者が医療に参加できる環境を作り上げていくことが必要であること。
 わが国におけるこれまでの医療安全対策は、この「医療安全推進総合対策」に基づいて、関係者、関係機関、関係団体、関係企業、地方自治体、国により、それぞれの役割に応じた取組が進められ、
医療機関における安全管理体制の整備
各都道府県に患者相談窓口としての医療安全支援センターの設置
事故事例やヒヤリ・ハット事例の収集・分析事業の実施等
様々な施策の推進が図られてきた。
 こうした関係者の努力にもかかわらず、わが国においては未だ十分な医療安全体制が確立されておらず、医療の安全と信頼を高めるために一層の取組が求められている。今後、さらに医療安全対策の推進を図るためには、この「医療安全推進総合対策」の考え方を尊重しつつも、それに加え、医療の安全と両輪をなすべき「医療の質の向上」という観点を一層重視し、施策を充実していくことが求められる。医療の質の向上を実現していくためには、これまでの医療機関、医療従事者による取組だけでなく、患者、国民の主体的参加を促進することが重要である。このような認識のもと、この報告書においては、医療に関する情報を国民、患者と共有し、国民、患者が医療に積極的に参加することを通して、医療の質の向上を図り、医療安全を一層推進するという考え方を重視している。
 今後、わが国において、患者の安全を最優先に考え、その実現を目指す「安全文化」が醸成されることを通じて、安全な医療の提供と、患者、国民から信頼される医療の実現を目指していくためには、「医療安全推進総合対策」に基づく対策を強化するとともに、新たな課題への対応を図る必要がある。これらの基本的考え方に基づき、この報告書においては、次の3本の柱を重点項目として、それぞれの項目ごとに将来像のイメージを示し、その実現に向けて、早急に対応するべき課題と施策を掲げることとした。

 I. 医療の質と安全性の向上
 II. 医療事故等事例の原因究明・分析に基づく再発防止対策の徹底
 III. 患者、国民との情報共有と患者、国民の主体的参加の促進

 なお、医療安全対策の推進に当たって、医療の質と安全を高めるために必要な諸施策について、広く周知されるとともに、これらの施策の実施に当たり、限られた資源の効率的活用が不可欠であることについて、行政、医療機関等、医療従事者だけでなく、患者、国民により広く理解と協力が得られることが重要である。
 また、医療安全対策上の重要な課題の一つである院内感染対策については、平成14年7月に設置された院内感染対策有識者会議において別途専門的に検討され、平成15年9月に取りまとめられた「今後の院内感染対策のあり方について」の報告書に基づいて実施することとされている。院内感染対策についても、医療安全対策と同様に医療機関等の取組と同時に、国、自治体、関連団体等が相互に連携し、組織的、体系的な取組が重要であることから、今後は、医療安全対策の一環として総合的に取り組んでいくこととする。


1. 医療の質と安全性の向上

【将来像のイメージ】

(1)  医療機関等における医療の質と安全に関する管理体制の充実
(1) 医療を提供する全ての施設、薬局等において、必要な管理体制が整備され有効に機能している。
(2) 安全管理体制の確保はもとより、質の高い医療を実現するために必要な人材が確保され、必要な制度が整備されている。
(3) 各医療機関において、クリニカルインディケーター(Clinical Indicator:医療の質に関する評価指標)等を用いて、医療の質の評価が適切に行われている。

(2)  医薬品の安全確保
(1) 医薬品が明確な責任体制のもとに使用され、医師、歯科医師、薬剤師、看護師等の間、これらの医療従事者と患者の間、及び、医療機関と薬局との間に十分な連携が図られている。
(2) 夜間、休日における安全管理体制が確立している。
(3) 特に安全管理が必要な医薬品についての業務手順が確立し、全ての医療機関において実施されている。
(4) 新薬をはじめ医薬品に係る副作用・事故等の有害事象の早期発見、重篤化防止のための体制が確保されている。
(5) 医薬品メーカー等の積極的な対応により、安全管理上問題を有する医薬品について改善が図られ、新たに開発されるものについても安全管理上、十分に配慮されたものが供給されるとともに、医療機関においてもこのような安全面に配慮された医薬品が積極的に採用されている。

(3)  医療機器の安全確保
(1) 全ての医療機関等において、医療機器が適切な管理者のもとで集中管理され、定期的な保守管理が行われている。
(2) 医療機器を使用する前に、機器の使い方を習得した職員により、必ず機器の点検が行われており、また、医療機器の使用に関する研修が行われている。
(3) 医療機器の管理及び使用に関し、必要な研修や情報提供が行われている。
(4) 医療機器の不具合や医療機器による事故等の有害事象の早期発見と重篤化防止のための体制が確保されている。
(5) 医療機器メーカー等の積極的な対応により、安全管理上問題を有する医療機器について改善が図られ、新たに開発される医療機器についても安全管理上、十分に配慮されたものが供給されるとともに、医療機関においてもこのような安全面に配慮された医療機器が積極的に採用されている。

(4)  医療における情報技術(IT)の活用
(1) 医療におけるIT化を促進するため、標準化された用語・コード等が広くシステム上で利活用されるなど、必要な基盤整備が図られている。
(2) ヒューマンエラー等が発生しやすい部門や手技にヒューマンセンタードデザイン (Human Centered Design:使う人の使いやすさを考慮したデザイン)の視点で開発されたIT機器が導入され、事故の未然防止が図られている。その際、IT化に伴って生じるリスクがあることや、ITに頼りすぎることの危険性等も考慮されている。
(3) IT機器の活用により、患者との情報共有が推進されている。
(4) 職員教育に有用な方法と媒体が開発されている。
(5) データマイニング(data mining:蓄積された情報の相関を自動的に発見し、役立たせるための手法)が実用化され、医療安全対策の開発が推進されている。
(6) 部門ごとの利用に留まらず、医療機関全体で統合されている。

(5)  医療従事者の資質向上
(1) 安全文化の醸成が図られるとともに、全ての医療従事者が、医療安全に関する知識や技能のみでなく、患者やその家族及び医療従事者相互と効果的なコミュニケーションがとれること、医療人としての職業倫理を実現できること、科学的根拠と情報を十分に活用し良質な医療を提供すること等が可能な資質を身につけている。
(2) 医療従事者に対する技術、技能に関する教育が徹底され、医療従事者の資質向上により、医療の質と安全の向上が図られており、それらを客観的にモニターするための手法が開発され整備されている。

(6)  行政処分を受けた医療従事者に対する再教育
(1) 行政処分を受けた医療従事者が、自らの職業倫理を高め、医療技術を再確認し、能力と適性に応じた医療を提供するための再教育を受け、医業再開後、適正に医業を行っている。

【当面取り組むべき課題】

(1)  医療機関等における医療の質と安全に関する管理体制の充実・強化
 現在、病院及び有床診療所に対し、一定の安全管理体制の確保が義務づけられているが、これに加え、その他の医療施設(無床診療所、歯科診療所、助産所)及び薬局においても管理者の責任の下で、次のような安全管理体制を整備することにより、医療を提供するすべての施設における安全、安心で質の高い医療を確保する。
(1) 安全管理のための指針とマニュアルを整備する。
(2) 医療従事者に対し、医療安全に関する研修を実施する。
(3) ヒヤリ・ハット、事故等事案について、院内報告等により情報を共有し、それに基づき必要な対策を講じる。
(4) 効果的なクリニカルインディケーターについては、国を中心として研究を進め、その実用化について検討する。
 なお、介護老人保健施設等や訪問看護ステーションにおいても、上記に準じた体制整備について検討が行われるべきである。

(2)  医療機関における院内感染対策の充実
 院内感染の防止に関する医療機関の義務としては、現在、特定機能病院に対し専任の院内感染対策を行う者の配置が義務づけられているのみであるが、これに加え、病院その他の医療施設(有床診療所、無床診療所、歯科診療所、助産所)等において、次のような院内感染制御体制を整備することにより、医療を提供するすべての施設における安全、安心で質の高い医療を確保する。
(全ての病院、診療所及び助産所について)
(1) 院内感染防止のための指針とマニュアルを整備する。
(2) 医療従事者に対し、院内感染対策に関する研修を実施する。
(3) 医療機関内における感染症の発生動向等の院内報告等により情報を共有し、それに基づき必要な対策を講じる。
 なお、介護老人保健施設等や訪問看護ステーションにおいても、上記に準じた体制を整備することについて検討が行われるべきである。
(4) 病院又は有床診療所においては院内感染対策のための委員会を開催する。
(特定機能病院等高度な医療を提供する医療機関について)
(5) 院内感染対策のための委員会で決定された方針に基づき、組織横断的に院内感染対策を行う部門を設置する。
(6) 医療機関の規模や機能に応じて、院内感染対策を行う担当者の配置を順次進める。

(3)  医薬品の安全確保
 医薬品関連の事案については、生命に重篤な影響を及ぼす事例もあることから、「医療安全推進総合対策」においても、医薬品の安全管理として、医薬品採用時の注意、病棟で保管する医薬品の見直し、疑義照会の在り方、注射薬剤に関する注意等が指摘されてきた。しかし依然として医薬品関連の事案がヒヤリ・ハット事例に占める割合は35〜40%、事故等事案の数%と大きな割合を占めていることから、医療機関等において管理体制の再点検を行うとともに、さらに以下のとおり具体的な取組を行う必要がある。
(1) 医薬品の安全使用体制に係る責任者の明確化など責任体制の整備を図る。
(2) 上記の安全管理のための指針に加え、医薬品の安全使用のための業務手順書の整備を行い、特に安全管理が必要な医薬品の業務手順を見直す。また、これらの実施に当たっては、医療機関における取組に加え、医薬品メーカー等との連携を図る。
(3) 特に抗がん剤については、レジメン(投与薬剤の種類・投与量・投与日時などの指示がまとめられた計画書)に基づく調剤及び無菌調製の推進を含め重点的に対策を講じる。
(4) 注射薬を含むすべての薬剤について、薬剤部門から、患者ごとに薬剤を払い出すことを推進する。
(5) 有害事象の早期発見、重篤化防止のため、有害事象の情報収集、医療従事者及び患者、国民への情報提供及び医薬品管理の推進を図る。
(6) 入院時に患者が持参してきた薬剤及び退院時に患者に処方された薬剤に係る情報を共有するため、院内の関係者及び医療機関と薬局との間で連携強化を図る。
(7) 医薬品メーカー等は、安全情報を医療機関に積極的に提供するとともに、安全管理上問題を有する医薬品については十分に改善を図り、今後開発される医薬品についても、安全管理に十分配慮した医薬品の供給を行う。医療機関でもこのような安全面に配慮された医薬品を積極的に採用する。

(4)  医療機器の安全確保
 医療機器の安全管理については、「医療安全推進総合対策」においても使用時の注意事項、保守管理の重要性、採用時の注意事項等が指摘されてきたが、医療機関における基本的な管理体制等として次の事項について取り組む必要がある。
(1) 医療機器の管理については、できるだけ中央で集中的に管理し、管理者を明確化する体制を整備する。
(2) 管理者の責任の下で、医療機器の定期的な保守・点検を実施するとともに、医療機器の使用に関する研修を行う。
(3) 医療機器に起因した健康被害や医療機器の不具合等の情報について医療機関における収集・提供体制を強化し、改善方策等に関する情報について関係者全員への周知徹底を図る。
(4) 医療機関においては、医薬品に対する薬剤部門の対応と同様に、医療機器メーカーからの安全情報を一元的に管理する体制を整備する。
(5) 医療機器メーカー等は、安全情報を医療機関に積極的に提供するとともに、安全管理上問題を有する医療機器については十分に改善を図り、今後、開発されるものについても、安全管理に十分配慮した医療機器の供給を行う。医療機関においてもこのような、安全面に配慮された医療機器を積極的に採用する。

(5)  医療従事者の資質向上
 これまでも、医療従事者に対する卒業前・卒業後の教育研修の役割分担と連携、医療機関の管理者及び医療安全管理者に対する研修等、医療安全に関する教育研修に関しては、具体的な提言が行われ、医療従事者の国家試験の出題基準や医師・歯科医師の卒後臨床研修の項目にも医療安全が位置付けられた。さらに、薬剤師についても、平成18年度より薬剤師養成を目的とした薬学教育の修業年限が6年に延長され、この課程においては、新たに長期実務実習が導入され、この長期実務実習のモデル・コアカリキュラムにおいて、リスクマネージメントについて履修することとされた。また、看護職員については、平成16年3月に新人看護職員研修到達目標・指導指針が示され、医療安全に関する内容が盛り込まれた。
 今回の見直しでは、質の向上という視点を重視していることから、医療従事者に対する教育、研修は、単にリスクを管理することに留まらず、効果的なコミュニケーション(患者の人権を十分に配慮していることを常に言葉と態度で表現する)能力を身につけること、エビデンスと情報を活用すること、医療人としての職業倫理に基づいて行動することなどを含め、医療人としての資質(コンピテンシー:Competency:ここでは、医療安全に直接結びつく個人の行動特性(能力))の向上を図ることが目的となる。これらを具体化するためには、医療現場において現実的に導入しやすい評価方法が構築されている必要があることから、次のような対応を検討するべきである。
(1) 臨床研修を受ける医療従事者が、医療人としての資質向上を図ることを目的とした臨床研修の指導者向けのガイドライン、現場で使用しやすい研修スケジュール案、カリキュラム等、医療の質と安全の向上に資する研修資料や教材等が広く提供され、その内容についても、逐次、更新されるようにする。
(2) 医療機関等における研修においては、当該医療機関等の具体的な事例等を取り上げ、職種横断的な研修や意見交換が実施されるようにする。
(3) 臨床研修の指導者を対象とした医療安全に関する研修を充実する。

(6)  行政処分を受けた医療従事者に対する再教育
 現状においては、医業停止を受けた医師(被処分者)は、医業停止期間を過ぎれば、特段の条件なく医業に復帰することができるが、被処分者は職業倫理の欠如や医療技術の未熟さ等があって、行政処分のみでは反省や適正な医業の実施が期待できないことが指摘されている。このため、「行政処分を受けた医師に対する再教育に関する検討会」が開催され、本年4月に被処分者に対する再教育の具体的内容等について報告書が取りまとめられた。報告書の主な内容は以下のとおりであり、報告書や試行的対応における知見を踏まえ、再教育制度の構築に向けて取り組む必要がある。
(1) 再教育の目的は、国民に対し安心・安全な医療、質の高い医療を確保する観点か ら、被処分者の職業倫理を高め、併せて、医療技術を再確認し、能力と適性に応じた医療を提供するように促すことであること。
(2) 被処分者の状況に応じて適切な指導、助言を行う者(助言指導者)を選任すること。
(3) 職業倫理に関する再教育(倫理研修)においては、事故事例を用いた教材等を活用した講義等の教育的講座の受講、社会奉仕活動等の中から各被処分者が組み合わせて実施すること(月1回程度、助言指導者が面接)。
(4) 医療事故を理由とした行政処分を受けた医師については、当該技術について評価を行い、被処分者の能力と適性に応じた、医業再開の環境と条件を検討する機会とした再教育(技術研修)を実施すること。
(5) 医師法を改正して、被処分者に対して再教育を義務付けることが必要であること。
(6) 当面は、現行制度の下で試行的に対応し、その取組における知見を踏まえて実効性のある再教育制度を構築すべきであること。
(7) 行政処分を受けた歯科医師に対しても、医師と同様の取組が講じられるべきであること。
 以上のように、行政処分を受けた医師や歯科医師に対しては、検討会報告書や試行的対応における知見を踏まえ、再教育制度の構築に向けて取り組まれることとされているが、看護師等他の医療従事者についても、行政処分を受けた後の再教育等について検討する必要がある。

2. 医療事故等事例の原因究明・分析に基づく再発防止対策の徹底

【将来像のイメージ】

(1)  医療事故の発生予防・再発防止策の徹底と医療事故の減少
(1) 医療安全管理者を含む医療従事者の資質向上が図られ、組織における役割や位置付けが明確化されており、ヒヤリ・ハットや事故等の事例について、背景要因や根本原因が分析され、それに基づく効果的な再発防止策が提案され実行されている。
(2) 登録分析機関(事故等分析事業を行うものであって、厚生労働大臣の登録を受けたもの。現在、医療機能評価機構が当該機関として登録を受けている。)に集積されたヒヤリ・ハットや事故等の事例の分析に基づく発生予防・再発防止対策が、医療機関・薬局はもとより、患者、国民、関係企業等に対して迅速に周知され、医療機関、関係企業等において効果的な対策が講じられている。
(3) 上記(1)、(2)により、ヒヤリ・ハットや事故等の発生率が年々減少し、国民に信頼される安全、安心で質の高い医療が確保されている。

(2)  医療事故の届出、原因分析、裁判外紛争処理及び患者救済等の制度の確立
(1) 医療事故の届出に基づき、中立的専門機関において原因分析が行われ、患者等への速やかな説明の実施などにより医療の透明性の確保、情報共有が図られるとともに、事故の発生予防や再発防止に結びついている。
(2) 医療における苦情や紛争については、裁判による解決のみではなく、医療機関等、患者の身近なところで解決されるための仕組と、それが解決しない場合でも、裁判外の中立的な機関で解決を求めることができるという、連続した裁判外紛争処理制度が確立し、短期間で紛争が解決され、患者及び医療従事者双方の負担が軽減されている。
(3) 事故等の際の補償制度が確立し、必要な場合には患者等に対する補償が迅速に行われ、救済が図られている。
(4) これらの制度が一体として適切に運用され、医療従事者が過度の負担を負うことなく、高度先進医療や救急医療等、リスクの高い医療についても、萎縮せずに必要な医療を提供することができる。
(5) これらの制度が、事故の発生予防や再発防止対策と連動し、効果的な医療安全対策に結びついている。

【当面取り組むべき課題】

(1)  医療事故等事例の原因究明・分析に基づく再発防止対策の徹底
(1)  登録分析機関におけるヒヤリ・ハットや事故等の事例収集については、対策を講じるために有効な報告様式を作成するとともに、医療機関から質の高い情報が提供されるための方策について検討する。
(2) 医療機関の管理者及び医療安全管理者の役割を明確化するとともに、事故等の事例に関する背景要因や根本原因分析の方法を含めた研修内容等に関するガイドラインを作成する。これにより、登録分析機関に報告されるヒヤリ・ハットや事故報告の情報の質が向上し、また、医療機関においては、これらの情報に基づく適切な対策を講じる。
(3) 診療録の調査などにより、わが国における有害事象の発生頻度とその動向等を把握し、安全対策の評価、分析を推進する。
(4) 薬局においても、ヒヤリ・ハット事例等を収集するとともに、上記(1)、(2)を踏まえて対応する。
(5) 登録分析機関に集積されたヒヤリ・ハットや事故等の事例の分析結果、及び、それに基づく発生予防・再発防止対策については、「医療安全緊急情報(仮称)」として、医療機関はもとより、国民に対して迅速に周知させるためのルールの明確化、システム化を図る。
(6) 登録分析機関においては、定点観測体制の充実を図ることにより、医療安全緊急情報等がヒヤリ・ハットや事故等の事例を減少させ得たかどうかを検証し、その検証結果を医療機関、国民に対し広く情報提供する。

(2)  医療関連死の届出制度・中立的専門機関における医療関連死の原因究明制度及び医療分野における裁判外紛争処理制度
 事故事例等に基づく対策として、これまでヒヤリ・ハットや事故等の事例を匿名で収集することにより、発生予防・再発防止対策を講じてきたが、事故等について第三者が原因究明を行うこと等については、これまで具体的な検討が進んでこなかった。しかし、平成16年9月に日本医学会の基本領域19学会により、医療関連死の届出と行政機関の関与も含めた中立的専門機関における原因究明の制度の実現を求める共同声明が出されたことを受け、国が平成17年度から「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を実施することとしたことに端を発し、こうした制度に関する検討が急速に進んできた。
 医療事故の届出、原因分析、裁判外紛争処理制度及び患者に対する補償制度等については、一体として検討することが望ましいが、異状死の定義、中立性・公平性の確保方策、死亡以外の事例への対応の必要性等をはじめとして様々な課題の整理等が求められる上、人的や財政的な検討も必要となる。
 このため、これらの検討に当たっては、まず、次の事項について着手する必要がある。
(1) 「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を実施する中で課題の整理を行うとともに、事業実績等に基づき制度化等の具体的な議論の際に必要となる基礎資料を得る。
(2) 医療機関、医療従事者や患者遺族等との調整、調停を担う人材の養成方法等について検討する。

3. 患者、国民との情報共有と患者、国民の主体的参加の促進

【将来像のイメージ】

(1)  患者、国民との情報共有と患者、国民の主体的参加の促進
(1) 患者、国民と、今後の医療安全と医療の質の向上にかかる諸課題とその対策について情報を共有し、患者、国民とともに、わが国の医療を改善する仕組が構築されている。
(2) 患者、国民の医療への参加を促すため、必要な知識と情報が提供され、患者、国 民が医療に主体的に参加することの意義について理解している。
(3) 医療従事者と患者との間にリスク情報を含めた情報の共有が進み、患者の参加も含めたチーム医療が推進され、医療のリスク軽減と質の向上が図られている。
(4) 高齢者、障害者などの患者及びその家族に対し、十分な情報共有が図られるよう配慮されている。
(5) 医療を提供する全ての施設等において、施設の規模や機能に応じ、患者との情報交換や相談等(苦情を含む。)を行う窓口があり、専門の知識や技能を身につけた職員により患者の人権に十分配慮した対応が図られ、患者との情報交換、情報共有等が行われている。
(6) 患者からの相談等が医療に反映され、医療のリスク軽減と質の向上にも役立てられている。

(2)  医療安全支援センターの充実
(1) 医療安全支援センターは、患者からの相談等に対し、専門の知識や技能を身につけた職員により、患者の立場に立ち患者が安心して医療を受けることができるよう対応している。また、必要な場合については、医療機関、関係団体、関係機関等との連携を図り、具体的な解決策を講じている。
(2) 医療安全支援センターは、患者からの相談等を受けるのみでなく、患者の医療への参加を総合的に支援するための機能を有する機関となっている。
(3) 医療安全支援センターは、医療機関等の相談窓口における担当者が患者からの相談に適切に対応できるための支援機能を有する機関となっている。
(4) 医療安全支援センターは、保健医療の課題を分析・評価し、解決に向けての方策を地域単位で確立するための連携の要となっている。

【当面取り組むべき課題】

(1)  患者、国民との情報共有と患者、国民の主体的参加の促進
 これまでも、患者と医療従事者の情報共有、相互信頼と協力関係の下で医療が実施される中で、患者にも医療の安全確保と質の向上に貢献することが期待されることや、患者相談窓口の設置促進といった方向性が示されてきた。今後については、医療に関して、患者はもとより国民との情報共有や患者、国民が主体的に参加することについて、有効な事例等をもとに具体策について検討する必要がある。
(1) 国及び自治体は、あらゆる機会を捉えて、患者、国民の医療への主体的な参加を促すため、必要な知識と情報を提供するとともに、患者、国民が医療に参加することの意義等についての理解を求めるための啓発、普及活動を行う。
(2) 医療機関等は、患者自身が主体的に医療への参加や協力を行うことができるよう、患者と医療従事者がともに医療を担う必要があること等についてわかりやすい説明や広報を行うとともに、そのために必要な体制の整備を図る。
(3) 特定機能病院、臨床研修病院のみでなく、医療機関等の規模や機能に応じて患者からの相談等を受け付ける機能や窓口の設置について検討する。歯科診療所、薬局など、小規模の施設においては、施設の機能等に応じて、患者の相談等を受け止める仕組みについて検討する。
(4) 医療機関等における患者相談機能の充実を支援するため、患者相談等の担当者に対し必要な研修や情報提供を行うとともに、地域における関係者の連携強化を図る。
(5) 医療従事者に対し、患者にリスク情報を含む医療安全情報を適切に伝えるための方法や、患者と情報を共有し患者参加を促すための具体的な研修カリキュラムを作成する。
(6) 医療従事者に対する医療安全の研修等に、医療事故の当事者や被害者を講師として招き医療従事者と患者、国民がともに医療事故の再発防止や安全対策を考える機会を設けるよう考慮する。

(2)  医療安全支援センターの充実
 「医療安全推進総合対策」においては、医療安全支援センターの設置促進が新たな施策として唱われていた。平成16年5月には全ての都道府県に設置されたことから、現在は保健所設置市・特別区または二次医療圏ごとの設置促進を図っているところである。今後については、同センターの機能について必要な評価を実施し、機能強化についての検討を進める必要がある。
(1) 医療安全支援センターの機能の充実については、医療に関する情報を提供する等、患者の医療への参加を総合的に支援するための機能を付与すること等、ソフト面での検討に加え、法令に明記するなど、制度的な位置付けについても検討する。
(2) 医療安全支援センターについては、原則、二次医療圏ごとの整備促進と合わせて、各センターの機能が広く患者、国民に周知され、かつ有効に機能しているかどうか等の評価を行い、必要に応じて改善を図る。
(3) 医療安全支援センターの職員等に対し、カウンセリングに関する技能や、医事法制、医療訴訟に関する知識等、紛争解決に必要な研修を定期的に実施するとともに、職員に対するカウンセリングなどを通じて、職員の心身面での健康保持に留意する。

4. 医療安全に関する国と地方の役割と支援

【将来像のイメージ】

  (1) 医療安全対策に関する国、都道府県、医療従事者の責務及び医療安全の確保における患者、国民の役割等が明確化され、院内感染対策等、医療安全に関連する施策についても法令上整理され、体系的な施策が推進されている。
  (2) 患者、国民との情報共有と患者、国民の主体的な参加が促進され、安全、安心で良質な医療が効率的に提供されるよう、医療行政を所管する都道府県が、医療安全の直接の所管として具体的な取組を進め、国は法令の整備や、情報提供、IT化の促進、研究の推進等の技術的な支援及び財政的支援等、医療安全推進へのインセンティブを高めるための役割を十分に果たしている。

【当面取り組むべき課題】

 「医療安全推進総合対策」では、国として取り組むべき課題として、ア)医療機関における安全管理体制の整備、イ)ヒヤリ・ハット事例の収集等による情報提供、ウ)医薬品の販売名・外観の類似性に関する客観的評価のための基盤整備や医薬品情報の提供など医薬品・医療用具等に関する安全確保、エ)国家試験の出題基準上の位置付け、臨床研修等で修得すべき事項の明確化、医療機関の管理者や医療安全管理者等の研修の充実など医療安全に関する教育研修の充実、オ)医療機関における患者相談窓口や医療安全支援センターの設置、カ)医療安全推進週間の設置、キ)必要な研究の推進、等をあげている。
 この提言に基づき、医療機関、関係団体、都道府県及び国が、それぞれの役割に応じて、これらの施策を順次実施してきたところであるが、平成16年10月から事故事例の情報収集等事業が開始されたことにより、わが国の医療安全対策の大きな枠組みが整ってきたところである。このような状況を踏まえ、今後については、こうした制度的な枠組みを充実強化していくとともに、次のような対応が必要である。
  (1) 国は、医療安全が医療政策上の最重要課題であり、また、これらの医療安全施策 を着実に実施していくためにも、医療安全対策に関する国、都道府県、医療従事者の責務及び医療安全の確保における患者、国民の役割等の明確化を図る。
  (2) 国及び都道府県は、関係機関、関係団体、医療機関等との連携を図り、これまでに構築された医療安全対策の枠組みを十分活用するとともに、ハイリスクの部署や診療科に特化した対策と個別具体的な取組を推進する。
  (3) 国は、(2)の取組を推進するため、必要な研究の推進を図るとともに、対策が実効あるものとなるよう財政的な側面についても十分配慮する。
  (4) 国及び都道府県は、安全、安心で良質な医療が提供されるよう、医療機関におけ る一層の機能分化と連携等を図り、効率的、効果的な医療提供体制を構築するとともに、医療における必要な人材の確保とその適切な配置を進める。


おわりに

 本ワーキンググループにおいては、今後の医療安全対策について、「医療安全推進総合対策」の考え方を尊重しつつも、それに加え、医療の質の向上という観点を一層重視し、I.医療の質と安全性の向上、II.医療事故等事例の原因究明・分析に基づく再発防止対策の徹底、III.患者、国民との情報共有と患者、国民の主体的参加の促進を重点項目として施策を充実する必要があることについて指摘した。これらの早期実現に向けて、行政、医療機関等、関係者の一層の努力を期待したい。



「医療安全対策検討ワーキンググループ」委員名簿


稲垣 智一 前東京都福祉保健局医療政策部医療安全課長(第1回〜2回)
稲葉 一人 科学技術文明研究所特別研究員
井上 章治 日本薬剤師会常務理事
大井 洋 東京都福祉保健局医療政策部医療安全課長(第3回〜)
川端 和治 霞ヶ関総合法律事務所弁護士
勝村 久司 一般有識者
木村 眞子 日本医療機能評価機構課長
楠本 万里子 日本看護協会常任理事
堺 秀人 神奈川県病院事業管理者病院事業庁長
嶋森 好子 京都大学医学部附属病院看護部長
高津 茂樹 日本歯科医師会常務理事
土屋 文人 日本病院薬剤師会常務理事
寺井 美峰子 聖路加国際病院リスクマネージャー
野中 博 日本医師会常任理事
長谷川 敏彦 国立保健医療科学院政策科学部長
長谷川 友紀 東邦大学医学部教授
廣江 道昭 国立国際医療センター第一専門外来部長
三宅 祥三 武蔵野赤十字病院院長
宮本 敦史 大阪大学大学院医学系研究科助手

(五十音順・敬称略)
◎ 座長

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