今後の医療安全対策について(概要)
厚生労働省は、「医療安全対策検討会議」が平成14年4月に取りまとめた「医療安全推進総合対策」に基づき、医療機関における安全管理体制の整備、各都道府県に患者相談窓口としての医療安全支援センターの設置、事故事例やヒヤリ・ハット事例の収集・分析事業の実施等、医療安全に関する様々な施策を進めてきた。
今般、医療安全対策の推進を図るため、医療安全対策検討会議のもとに設置した医療安全対策検討ワーキンググループにおいて「今後の医療安全対策について」(報告書)が取りまとめられ、同報告書は、本年6月8日に開催した「医療安全対策検討会議」の検討を経て厚生労働省に報告された。本報告書は、「医療安全推進総合対策」の考え方を尊重しつつも「医療の質の向上」という観点を一層重視し、「医療安全推進総合対策」に基づく対策の強化と新たな課題への対応について提言している。
本報告書は、次の3本の柱を重点項目として、それぞれの項目ごとに将来像のイメージと、その実現に向けて、早急に対応するべき課題と施策を掲げている。
1 |
医療の質と安全性の向上 |
2 |
医療事故等事例の原因究明・分析に基づく再発防止策の徹底 |
3 |
患者、国民との情報共有と患者、国民の主体的参加の促進 |
3 |
主な提言内容(将来像のイメージ・当面取り組むべき課題) |
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対策分野 |
主な内容 |
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【将来像のイメージ】
○ |
医療機関等における医療の質と安全に関する管理体制 |
(1) |
医療を提供する全ての施設、薬局等において、管理体制が整備され有効に機能している。 |
(2) |
質の高い医療を実現するために必要な人材が確保され、クリニカルインディケーター(医療の質に関する評価指標)等を用いて、医療の質の評価が適切に行われている。 |
(1) |
医薬品の安全使用と医療機器の管理に関する責任体制が整備されている。 |
(2) |
医薬品に関し、医療従事者と患者の間、医療機関と薬局との間に十分な連携が図られており、夜間、休日における安全管理体制が整備されている。 |
(3) |
特に安全管理が必要な医薬品についての業務手順が確立し、実施されている。 |
(4) |
医療機器の保守・点検と使用に関する研修が実施されている。 |
(5) |
医療機関及び医薬品・医療機器メーカー等による有害事象の情報収集・共有・提供体制が整備され、安全面に十分配慮された医薬品・医療機器が供給・採用されている。 |
(1) |
医療におけるIT化を促進するため、必要な基盤整備が図られ、IT機器の活用により患者との情報共有が推進されている。 |
(2) |
ヒューマンセンタードデザイン(使う人の使いやすさを考慮したデザイン)の視点で開発されたIT機器が導入され、事故の未然防止が図られている。 |
○ |
医療従事者の資質向上
医療従事者の資質向上により、医療の質と安全の向上が図られ、客観的にモニターするための手法が開発されている。
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○ |
行政処分を受けた医療従事者に対する再教育
行政処分を受けた医療従事者が、医療を提供するための再教育を受け、医業再開後、適正に医業を行っている。 |
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【当面取り組むべき課題】
○ |
医療機関等における医療の質と安全に関する管理体制・院内感染対策の充実・強化
医療を提供する全ての施設、薬局に対する規模や機能に応じた安全管理体制、院内感染制御体制の充実・強化。
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○ |
医薬品・医療機器の安全確保 |
(1) |
医薬品の安全使用と医療機器の管理に関する責任体制の整備 |
(2) |
医薬品の安全使用のための業務手順書の整備 |
(3) |
医療機器の保守・点検と使用に関する研修の実施 |
(4) |
医療機関及び医薬品・医療機器メーカー等による有害事象の情報収集・共有・提供体制の整備 |
(5) |
持参薬の情報等について医療機関と薬局との連携強化 |
(1) |
臨床研修を受ける医療従事者のための医療の質と安全のための研修資料や教材の提供等と指導者の研修 |
(2) |
職種横断的な研修、意見交換の実施 |
○ |
行政処分を受けた医療従事者に対する再教育
平成17年4月に取りまとめられた「行政処分を受けた医師に対する再教育に関する検討会」報告書を踏まえた再教育制度の構築及び行政処分を受けた看護師等他の医療従事者に対する再教育の検討の必要性。 |
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2 |
医療事故等事例の原因究明・分析に基づく再発防止対策の徹底 |
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【将来像のイメージ】
○ |
医療事故の発生予防・再発防止策の徹底と医療事故の減少
登録分析機関に集積されたヒヤリ・ハットや事故等の事例の分析に基づく発生予防・再発防止対策が、医療機関・薬局・患者・国民・関係企業等に周知され、効果的な対策が講じられることにより、国民に信頼される安全、安心で質の高い医療が確保されている。
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○ |
医療事故の届出、原因分析、裁判外紛争処理及び患者救済等の制度の確立 |
(1) |
医療事故の届出に基づき、中立的専門機関において原因分析が行われ、患者等への速やかな説明と事故の発生予防や再発防止に結びついている。 |
(2) |
医療における苦情や紛争について、裁判による解決のほか、裁判外紛争処理制度が確立している。 |
(3) |
事故等への補償制度が確立し、必要な場合には患者等に対する補償が行われている。 |
(4) |
これらの制度が適切に運用され効率的な医療安全対策に結びつくとともに、医療従事者がリスクの高い医療についても、萎縮せずに提供することができる。 |
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【当面取り組むべき課題】
○ |
医療事故等事例の原因究明・分析に基づく再発防止の徹底 |
(1) |
対策を講じるために有効なヒヤリ・ハット、事故事例報告様式の作成 |
(2) |
医療機関の管理者及び医療安全管理者の役割を明確化と研修ガイドラインの作成 |
(3) |
薬局におけるヒヤリ・ハット事例の収集 |
(4) |
医療機関、国民に対し、ヒヤリ・ハットや事故事例の分析結果と発生予防・再発防止策を迅速に周知させるためのルールの明確化 |
○ |
医療関連死の届出制度・中立的専門機関における医療関連死の原因究明制度及び医療分野における裁判外紛争処理制度 |
(1) |
「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を通じた課題の整理と基礎資料の整理 |
(2) |
医療機関、医療従事者や患者遺族等との調整・調停を担う人材の養成方法等の検討 |
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3 |
患者、国民との情報共有と患者、国民の主体的参加の促進 |
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【将来像のイメージ】
○ |
患者、国民との情報共有と患者、国民の主体的参加の促進 |
(1) |
患者、国民が医療に主体的に参加することの意義について理解している。 |
(2) |
医療従事者と患者との間に情報共有が進み、医療のリスク軽減と質の向上が図られている。 |
(3) |
医療を提供する全ての施設等において、施設の規模、機能に応じて、患者との情報交換や相談等を行う窓口が設置されている。 |
(4) |
患者からの相談等が医療に反映され、リスク軽減と質の向上に役立てられている。 |
(1) |
医療安全支援センターは、患者からの相談等を受けるほか、患者の医療への参加を総合的に支援するための機能や医療機関等の相談窓口における担当者の支援機能を有する機関となっている。 |
(2) |
医療安全支援センターは保健医療の課題を地域単位で確立するための連携の要となっている。 |
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【当面取り組むべき課題】
○ |
患者、国民との情報共有と患者、国民の主体的参加の促進 |
(1) |
患者、国民の医療への主体的な参加を促すための国、自治体、医療機関等による情報提供、啓発、普及活動の推進等 |
(2) |
医療機関の規模や機能に応じ、患者からの相談等を受け付ける機能や窓口の設置に関する検討 |
(3) |
医療従事者、相談担当者への研修、情報提供の実施 |
(1) |
医療安全支援センターの機能の充実と評価、制度的な位置付けの検討、整備促進 |
(2) |
医療安全支援センターの職員等に対する必要な研修とカウンセリング等による心身面での健康保持への留意 |
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【将来像のイメージ】
(1) |
医療安全対策に関する国、都道府県、医療従事者の責務及び医療安全の確保における患者、国民の役割等が明確化されている。 |
(2) |
医療安全については、医療行政を所管する都道府県が具体的な取組を進め、国は法令の整備、情報提供、IT化の促進、研究の推進及び財政的支援等、医療安全推進のインセンティブを高めるための役割を果たしている。 |
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【当面取り組むべき課題】
(1) |
国による医療安全対策に関する国、都道府県、医療従事者の責務及び医療安全の確保における患者、国民の役割等の明確化 |
(2) |
国、都道府県によるハイリスクの部署や診療科に特化した対策と個別具体的な取組を推進、その財政的側面への配慮 |
(3) |
国、都道府県による医療機関における機能分化と連携、効率的、効果的な医療提供体制の構築、医療における必要な人材の確保とその適切な配置促進 |
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