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重要事例分析結果



  事例295:(末期がん患者の自殺未遂)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(環境調整)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【  】 発生曜日【  】曜日区分【  】発生時間帯【  】
発生場所【  】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【  】
発見者【   】
当事者の職種【  】
当事者の職種経験年数【  】
当事者の部署配属年数【  】
発生場面 【          】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【          】
発生要因-確認 【  】
発生要因-観察 【  】
発生要因-判断 【  】
発生要因-知識 【  】
発生要因-技術(手技) 【  】
発生要因-報告等 【  】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【  】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【       】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
胃癌末期にて予後告知されている患者であった。2〜3日前より便失禁、尿失禁あり全身状態が悪化してきていた。○日深夜にて「何かおかしい、どうしたらいいんだろう」等の意味不明な言動あり、日勤にて急変・身体損傷のリスクの看護計画を立てていた。20:00いつもより多弁にて、30分毎に訪室し観察していた。21:00やはり訪室時多弁なるも表情が硬く、予定より早く21:15訪室すると、窓よりベランダに出て柵から身を乗り出しかけていた。バルンは自己抜去し点滴は3方活栓から抜けていた。「自分の命ぐらい自分の自由にさせて欲しい、もう少しだったのに・・・」と言う。看護師2人で抱えるようにベットに臥床させる。血圧162/88、脈88、顔色不良。直ちに当直師長・医師・主治医に連絡し、指示にて22:30セルシン1/2A筋注する。その後は、端坐位や立位をとろうとする為、2:30アタラックスP1A筋注し、5:00頃よりうとうとする。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
1.2〜3日前より全身状態の悪化や、言動の異常が見られ急変や身体損傷のリスクについて看護計画を立てていたが、自傷については予期しておらず対策が取られていなかった。2.入院時は疼痛緩和以外の治療を拒否していたが、お盆の頃家族に今だけでもゆっくりして欲しいから、今死ぬと迷惑になるので点滴をして欲しいと自ら希望し実施していた。盆を終えた現時点で、患者の気持ちに変化があったことを観察できなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
1.患者の観察が行えるよう、部屋を観察室に移動。2.医師より家族に現在の状態について説明をし、精神的慰安の為に面会時間の延長や回数を増やすことを勧める。3.自傷のサインを見逃さないように、医療者間で情報交換に勤める。4.神経内科の医師にコンサルトする。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 事例の具体的内容には、患者の状態、事故発生までの経過、事故発生時の経時的記載、事故後の対処等が端的に記載されています。しかし、この事例の患者は末期がんで、窓からの投身自殺未遂を起こしたわけですから、この事例を分析するためには、もう少し詳細な記載が必要だと考えます。この事例では全身状態の悪化に対する患者の反応、多弁傾向になってきたときの会話内容などが省略されています。これでは患者の行動が計画的なものか、一過性のものか、せん妄状態によるものかなどがわかりません。また、普段の生活行動・言動、夜間不眠の状況等も記載されているとより明確になると思います。さらに、それらに対して看護師がどのように対応したかも記載しておく必要があります。
 自殺の意思決定は患者にあるわけですから、それ自体、看護師のミスと言うことではありません。しかし、それを誘発する要因(不用意な一言、移室の延期等)が看護師にあったり、自殺のサイン(身辺整理をする、明るく振る舞う等)を見過ごしたとなれば、看護師の注意義務(予測できたか、回避できたか等)が問われることになります。ですから観察によって得られたデータを詳細に記載する必要があります。

 ■改善策に関するコメント
自殺事故の発生状況
 自殺と聞くと精神病院でよく起こる事故と考えるかもしれませんが、実は一般病院でも自殺事故は発生しています。川村1)の調べでは、報告事例155例中、62例(40%)が一般病院からの報告であり、そのうち、がん患者による自殺は21例(14%)。方法としては縊首、投身、リストカットなどとなっています。がん患者は、予後への不安や絶望感・孤立感などから自殺のリスクが高いために、安全な療養環境の整備と、患者及び家族への精神的介入に重点を置くケアを考えなくてはなりません。
 末期がん患者を受け入れているターミナルケア病棟や緩和ケア病棟などでは、看護師だけでなく多くのスタッフが患者に関わり、上記のような精神的介入を実践しています。しかしながら一般病院においては患者が自殺をするということを予想しにくく、たとえ予想できたとしても、精神的介入までは期待できないかも知れません。それだけにこのような事例を振り返って分析することがとても大切なのです。

自殺事故防止のポイント
 この事例では、末期がん患者、予後を告知、全身状態が悪化、「お盆までは…」という発言など、自殺のリスクが十分あったと考えられます。また病室が高所、開閉制限されていない窓、患者情報が共有されていなかった等、環境面においても自殺予防の配慮がされていなかったとあります。これらから医療側全体が、患者の自殺についてさほど切迫しているとは予期しておらず、十分な予防対策も取られていなかったことが、自殺未遂を誘発させたとも考えられます。さらに患者は「自分の命ぐらい自分の自由にさせてほしい、もう少しだったのに…」という発言をしています。この発言から患者は自暴自棄になっており、早急な危機介入を必要としています。事例では以下の4つのポイントで改善策が出されています。

  環境を変える(観察室に移動)→他の部屋はそのままなのでリスクは残っている。
精神的慰安(面会を増やす)→面会だけで、精神的ケアの視点が明らかになっていない。
医療者間の情報交換→自殺のサインが明らかになっていない。
神経科医へのコンサルタント→がん患者への対応としてフィードバックできるのか。

 これらのポイントですが、矢印で示したように若干改善が必要と思われます。同じような事故の再発を予防する為に、また看護師らが前向きにケアに取り組めるようになるために、以下のポイントを参考に改善策を考えてみてください。

 安全な療養環境の調整
がん末期患者及び告知をした患者は、観察室もしくは勤務室に近い部屋に移す
看護師は30分おきに巡回を行うが、気になる感じがあれば、その都度巡回する
巡回時、患者が起きていれば、必ず声かけを行う
病室の窓に開閉制限を行なう(15cm程度)
危険物とされるものは取り除く(刃物、長い紐のナースコール等)
照明や部屋の色等が明るい環境を提供する
病室には患者が好むもの(家族の写真、音楽、将棋等)の持ち込みを勧める

 患者のこころの安定を図る
精神科医による診察と抗不安薬の投与を開始する
夜間十分な睡眠が取れるように援助する
患者と過ごす時間を増やしていく
患者から何かを聞きだすのではなく、時間を共有してこころの交流を図る
看護師から何かを話すのではなく、患者が何を求めているかを探り出す
家族や知人等の面会をすすめる
面会後、患者の状態や家族の心境などを知るために、家族との面接を行う
牧師、カウンセラー、リエゾンナース等の協力を得る

 スタッフが自殺予防に取り組めるように対応を標準化する
表1のような患者の反応をスタッフ間で共有する
患者の反応を青色・黄色・赤色のシールで表し、カルテ・温度板等に貼っておく
表2のような自殺のサインをスタッフ間で共有する
自殺のサインをとらえたときには、対応の統一を図る
受け持ち看護師にマイナス感情が生じないように、毎日カンファレンスを行い、スタッフ全体で取り組むようにする
カンファレンスには、主治医だけでなく、精神科医やケースワーカーも入れる
定期的にがん患者の心理に焦点を当てた研修(サイコオンコロジー、スピリチュアル・ケア等)を行う

 表1 がんという診断に対する通常反応(Holland JCら、1989)2)
  症状 期間
第1相
(初期反応)
ショック“頭が真っ白になった”
否認“がんになるはずがない”
絶望“治療しても無駄だ”
2〜3日
第2相
(不快)
不安・抑うつ
食欲不振・不眠
集中力の低下・日常生活への支障
1〜2週間
第3相
(適応)
新しい情報への適応
現実的問題への直面
楽観的見方ができるようになる
活動の再開・開始
2週間で開始

 表2 自殺のサインと考えられるもの1)
 ・ 悲観的言動(生きていてもしかたがない、死んでしまいたい、等)
 ・ 別れの挨拶(ありがとう、さようなら、等)
 ・ 看護師のいつもと違う感じという印象(なんか気になる感じ、等)
 ・ 不安を増強する状況の存在(退院前、離婚、家庭問題、転移、病名告知、等)
 ・ 不安定な病状や病態(興奮、不眠、拒食、多弁、等)
 ・ 入院及び診療拒否(帰宅要求、退院要求、等)
(川村治子:ヒヤリ・ハット11,000事例によるエラーマップ完全本より引用)

【参考資料】
1) 「ヒヤリ・ハット11,000事例によるエラーマップ完全本 II章8自殺・自傷p100-103」,川村治子,医学書院,2003
2) Handbook of Psychooncology.1st edition,Oxford University Press,New York(1989)., Holland JC,et al (eds) 河野博臣他監訳,サイコオンコロジー,メディサイエンス社,東京,1993
「精神障害者のクリニカルケア」川野雅資編,メジカルフレンド社,1998
「コンサルテーション・リエゾン精神医療」風祭元編,中山書店,1998
「自殺・自傷行為のある患者のケアプラン」神谷直由,精神科看護64:54-59,精神看護出版,1997
「身体疾患における自殺の危険性」ダグラス・バーガー,心の科学63:31-35,日本評論社,1995
「ナースのためのサイコオンコロジー」保坂隆,南山堂,2001
「スピリチュアル・ケアについて」www.jmcnet.co.jp/sprit/
参考ビデオ「死の臨床とコミュニケーションVol1傾聴、Vol2共感、Vol3
自己イメージ連想法によるカウンセリングのロールプレイ」柿川房子監修,株式会社トロワモンジュ



  事例323:(車椅子移送中の経腸チューブ切断)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(移送、チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【9月】 発生曜日【木曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【14時〜15時台】
発生場所【廊下】
患者の性別【男性】 患者の年齢【72歳】
患者の心身状態【構音障害床上安静せん妄状態】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【0年6ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年6ヶ月】
発生場面 【栄養チューブ(NG・ED)】
(薬剤・製剤の種類) 【】
発生内容 【破損・切断】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【確認が不十分であった】
発生要因-判断 【その他】
発生要因-知識 【】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【慌てていた】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【その他】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
気切で経腸栄養中の患者を、検査のため、酸素ボンベで吸入し経腸ポンプで経腸しながら、車椅子で移送中、車椅子の車輪に経腸チューブが絡まり、経腸チューブが切断された。レントゲンにより、経腸チューブの位置を確認したが、異常がなかったので、切断された経腸チューブを修復した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
経腸チューブに注意を払いながら、移送はしていたが、注意が足らなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
ルート類がある場合は、ルートを整理し、ルートから目を離さず移送を行う。可能ならば、ルートを手に持って、ずれないようにする。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 この事例では何の検査に行ったのでしょうか。車椅子に酸素ボンベを乗せ、経腸ポンプは車椅子といっしょに押していったのでしょうか。車椅子移送は何人で行ったのでしょうか。また、移送時に車椅子に絡まったとありますが、チューブの長さに問題はなかったのでしょうか。
 もう少し場面が詳細にかかれていると対策につなげられます。

 ■改善策に関するコメント
 対策として、「ルート類がある場合は、ルートを整理し、ルートから目を離さず移送を行う」、「可能ならば、ルートを手に持って、ずれないようにする」とあります。これらは、基本ですが、本当に可能だったのでしょうか。
 今回の事例では患者は構音障害で、尚かつ、せん妄状態ベッド上安静の患者です。コミュニケーションでの注意や患者自身への注意がとても必要と予測されます。そのほかにも気切、酸素吸入(酸素ボンベ)、経腸(経腸ポンプ付き)、と注意を必要とする事が多いため、要点を押さえた移送準備が必要です。ゆとりを持った移送手段としてベッドによる複数での移送もあります。
 一方で、経腸ポンプで経腸する必要性、あるいは検査の時間とのバッティングについても検討し、一時的に経腸を止めることなど優先順位を検討することが必要です。

移送についてのマニュアルの検討
 院内には移送に関する取り決めやマニュアルはありますでしょうか。
 患者移送の安全確保のためまず基本的なことは、
 1) 移送は本当に今必要なのか
 2) 患者の状態と移動手段が適切か
 3) 移送に必要な人員は確保されているか
 4) 安全移送のための患者環境整備はできているか
 5) 移送中の安全確保は保たれているか
これらを踏まえた具体的な事例検討を院内での移送マニュアルの整備も検討が必要です。

新人教育等への移送教育のシステム化
 当事者は入職6ヶ月目であり、病棟では特に日勤業務は独り立ちし、自分で判断をしている時期だと考えられます。そのような時期に、「一人でやらなければ」ということが先走り、応援を頼むということが抜けているのではないでしょうか。また、一方では人員にゆとりがないところで、新人教育では「何を優先に考え、どのように業務を進めるか」、「患者移送時の応援依頼」に関する教育の充実も急務です。見直してみてください。



  事例405:(化学療法における混注もれ)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【7月】 発生曜日【水曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【16時〜17時台】
発生場所【ナースステーション】
患者の性別【女性】 患者の年齢【54歳】
患者の心身状態【床上安静】
発見者【同職種者】
当事者の職種【准看護師】
当事者の職種経験年数【22年4ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年8ヶ月】
発生場面 【静脈注射】
(薬剤・製剤の種類) 【その他の薬剤、プリンペラン、ウロミテキサン】
発生内容 【無投薬】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【】
発生要因-知識 【】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
化学療法の持続点滴中で、注射指示箋と点滴用氏名シールにミキシングの医師のサインを確認した。点滴用氏名シールには抗癌剤名とその他の薬剤名が書かれていたので、混入されていると思い点滴を更新した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
医師により、混入してくれたりしていなかったりしていた。医師のサインを確認したが、薬剤名すべて注入したかの確認しなかった。またその時点で、残りの薬剤の確認をしなかった。三回目の更新時、薬剤がいくつか残っていたが後で確認しようと思いその場を離れ忘れていた。医師のより全ての薬剤を混入してくれる場合としてくれない場合があるということを知らなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
ミキシングのサイン時、一本の点滴に複数のミキシング者がいるときのチェック方法や確認方法検討する。医師サイド統一を申し出る。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 “事例の概要”中のウロミテキサンや“発生した要因”の記載から、何らかの薬剤が混注されずにイホスファミドの化学療法が施行された事例と推測できますが、“具体的内容”の記載からは事例の内容を明確に読み取ることができません。また“発生した要因”の中で突然、三回目の更新時という時間的表現があったり「薬剤がいくつかのこっていた」という曖昧な記述があります。混注されなかった薬剤が、抗がん剤自体であれば治療効果は期待できませんし、併用薬剤の場合は毒性や副作用が強く現れる可能性があります。何が、どのようにして起こり、何故気づいたかを経過に沿い正確に記載することでヒヤリ・ハットの要因が明らかとなり有効な改善策へと繋げることができます。また注射薬混合の場合“混入”という表現は適切ではないでしょう。

 ■改善策に関するコメント
 ミキシングの医師のサインがあるにも関わらず混注されなかったのではサインの意味がありません。また、ミキシングをしている/していないが判断できない事も問題です。さらに「医師により全ての薬剤を混入してくれる場合としてくれない場合があるということを知らなかった。」という役割分担と責任の不明確さがあります。
 抗がん剤の調製は体表面積から適切な投与量を算出するため患者個々に異なります。バイアルは陰圧になっている場合が多く、薬剤によっては単に混合するだけでなく濃度の調整が必要な場合もあり取り扱いには専門的な知識や経験が要求されます。改善策として挙げている「複数のミキシング者がいるときのチェック方法や確認方法。医師サイド統一。」に加えリスクの高い薬剤は専門家が適切に管理するという役割分担を念頭に入れた「がん化学療法における抗がん剤の取り扱い手順」の作成と鑑査体制の確立が重要です。
 細胞毒性をもつ抗がん剤の曝露と拡散を避けるためにもバイオプロテクションと安全キャビネット内での調製が必要なため、抗がん剤等のハイリスク薬剤の混合は設備の整った薬剤部が行うことも考慮してください。具体的な改善策の一例として調製時にミキシング者が押印の他、注射ラベルに記載した薬剤名にレ点や丸印を付け混合済みの確認を行う事や鑑査時に空のアンプルやバイアル、シリンジに残った残薬を確認することも有効でしょう。



  事例406:(隔壁のある点滴薬剤の未開通使用)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【8月】 発生曜日【木曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【22時〜23時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【83歳】
患者の心身状態【床上安静】
発見者【同職種者】
当事者の職種【准看護師】
当事者の職種経験年数【32年2ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年10ヶ月】
発生場面 【中心静脈ライン】
(薬剤・製剤の種類) 【】
発生内容 【未実施・忘れ】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【】
発生要因-知識 【】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
点滴の隔壁、開通をせず点滴交換を実施した。22時更新分の点滴を日勤看護師が2人で相互確認をして作成したが、パックの開通はしなかった。準夜勤の22時、点滴更新の際、点滴を指示箋と合わせ、加薬が入っているのを確認し手で触れたが開通しているかは正確に確認しなかった。深夜勤では輸液の流量は確認したが、開通確認はしなかった。日勤の看護師が10時更新の際、開通していないのに気がついた。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
更新時に手順にそって確認しなかった。開通されているという思いこみで充分な確認ができていなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
マニュアルにそって実施する。交換時、開通されているか確認し実施する。思いこみで行動しない。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 このような製剤はいくつか種類があり、エラーの生じやすいものが決まっています。薬剤名や、点滴の確認方法など、具体的な手順の情報があれば対策の検討が容易になります。
 また、要因として「手順にそってしなかった」と書いてありますが、手順が明文化してあるか、明文化した手順があったとして、「これに沿って行なわなかった」理由などの情報があると良いと思います。
 22時使用の点滴を日勤帯で準備していますが、通常からそのような手順で行なわれている場合はその理由やこの事例に特別の理由があったとすれば、その説明が有れば、問題が明確になり、改善策が見い出しやすいと思います。

 ■改善策に関するコメント
 あらかじめ混合しておくことに問題のある二種以上の輸液を同時に必要とする場合、旧来は、単槽輸液ボトル等を連結して施用していました。これには、連結時の細菌汚染や実施手順の煩雑さがあり、これを軽減するために二槽輸液バッグが開発・市販され、多くの医療機関で使用されています。
 本件は、二槽輸液バッグの利便性ゆえに発生する「隔壁未開通施用」の事例であります。二槽バッグ式透析液の隔壁未開通のままの使用による死亡事故が発生していることから、二槽輸液バッグ製品の隔壁開通実施を確実にするため重要事例としてお示ししました。
 このような開通忘れを防止するための根本的な対策は、開通しなければ点滴滴下ができないか、点滴セットを装着した時点で自動的に開通するよう、モノを改善することです。今後のメーカーの努力に期待したいと思います。
 しかしモノの改善には時間がかかるようですから、新しいモノができるまでの間、隔壁開通忘れをできるだけ少なくする対策が必要と考えられます。

隔壁開通の失念(し忘れ)を防止する方法。
 2層になった製剤が、ピーエヌツインだとすると、文献1)では『投与直前にI層及びII層の両液を混合し速やかに使用』と書かれていますが、混合後の薬剤の安定性については“冷所(5℃)で14日間、室温で7日間安定”と記載されています。他の薬剤でも多少の安定期間の差はありますが、当日使用する分については問題ないようですから、下記のようにまず隔壁開通を行なう手順を決め、これを習慣化することによって、隔壁開通忘れを少なくすることが必要と考えられます。又、下記の手順をチェックリスト形式にして、薬のバッグに貼り付けておき、実施時の最終確認に用いるというような工夫も考えられます。
□(1) 外袋から二槽輸液バッグを取り出す(混合後の安定性によって準備開始可能時間を明確にする。準備開始まで外袋は開けない)
□(2) 取り出した輸液バッグに記載された薬品名と注射指示せんに記載された薬品名を照合する
□(3) 隔壁を開通する
□(4) その他の必要な注射薬を当該施設の手順にしたがって順次注入する
□(5) ……………………
□(6) …………
 各医療機関内で関係職種が集まって二槽輸液バッグ未開通使用防止について、多角的に検討し、現実にできる方法で実行してください。

薬剤メーカーの努力と開通忘れ防止するための手順の徹底と習慣化
 平成15年5月から厚生労働省で設置した医薬品・医療用具等安全対策部会の実務グループとして「輸液ワーキンググループ」が設置され、約一年間にわたり輸液バッグを安全に使用するための表示・形態等の改良・改善点について検討されました。そこで、二槽輸液バッグ使用直前隔壁開通啓発ポスターの提示と提案がありました、このポスターは、厚生労働省と輸液製剤協議会が承認した後、各医療機関に配布される予定です。この「ポスター」を使用して院内研修会・勉強会を実施し、「二槽輸液バッグ使用直前の開通確認」を医療安全文化として定着させることが期待されています。しかし、先にも述べたように、根本的にはモノの改善が必要ですのでメーカーの努力を期待したいと思います。

薬剤部との役割分担
 同様の事例が多く報告されています。感染対策、安全対策の視点から、高カロリー輸液の調整は薬剤師が実施する施設も増えています。病棟での混合作業は、作業環境も悪く、中断業務などによって一連の手順を遵守しにくい環境があります。施設の条件もありますが、薬剤部との役割分担の検討も必要と考えられます。

【参考資料】
「注射薬調剤 監査マニュアル」山口県病院薬剤師会 注射調剤特別委員会〔改訂版〕
「ツインバッグ型TPN製剤の外包装開封後及び開通後の安定性」山岡桂子他,JJSHP Vol.31 No6 P45,1995



  事例478:(シリンジポンプによる10倍量投与)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【8月】 発生曜日【金曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【8時〜9時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【51歳】
患者の心身状態【その他貧血】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【0年5ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年5ヶ月】
発生場面 【末梢静脈点滴】
(薬剤・製剤の種類) 【循環器用薬】
発生内容 【処方量間違い】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【確認が不十分であった】
発生要因-判断 【その他】
発生要因-知識 【知識が不足していた】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【慌てていた、思いこんでいた】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【   】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【その他】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
情報収集時、シリンジポンプでアピスタンディンを投与していることを知ったが、薬効を調べていなかった。患者が車椅子でトイレに行っているがシリンジポンプが故障しており充電がされていなかったので電源が入っていないので注意するよう別の看護師に注意されたので、患者の帰室時にシリンジポンプを交換した。この時まだ点滴申し送りを受けていなかった。情報交換が始まりそうだったので慌ててカルテを見たため、指示量2ml/Hを20ml/Hと見誤り設定した。40分後、シリンジ内の薬剤が無くなったことで他の看護師が間違いに気付いた。その間約6mlの薬剤が注入された。主治医に報告し経過観察との指示を受け、30分おきに血圧測定行なった。収縮期血圧120台、拡張期血圧70〜80台で経過した為、13:30に測定終了した。またサーフロー刺入部より肘窩にかけ静脈に沿って15cmほど発赤したため(疼痛は押さえてやや感じる程度)、主治医に診察依頼し、指示によりアクリノール湿布し、経過観察する。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
1)前勤務者の申し送りがないままに点滴操作をした。2)薬効を把握していなかった。3)シリンジポンプで注入している→微量投与が必要な薬であるということに対し認識不足であった。4)シリンジポンプのシリンジに薬剤名・指示量の記載がなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
1)薬効を理解した上で看護にあたる。わからなければ前勤務者に聞く。2)時間設定のある薬剤を投与している時は勤務交代時看護師2人でベッドサイドで確認する。3)単位の計算方法を理解しておく。4)カルテの指示量は、数字はマジックペン等で太く大きく、単位はボールペンで細く記載し、数字と単位を併せて赤丸で囲む。また数字に小数点が不必要である場合は小数点以下を記載しない(例>2.0mlと書かず2mlと記載する)。5)院内統一の薬剤別カラーテープの使用を徹底し、シリンジに薬剤名・指示量を必ず記載する。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
状況について、客観的かつ簡潔に記載されています。

 ■改善策に関するコメント
注射の特性
 注射は、多くの職種が関わり、また様々な物や情報(指示・処方箋、患者ID、薬品、器材)が相互に影響する複雑なプロセスです。図に、注射の業務フローとそれに伴う物と情報の動きのあらましを並べて示してみました。図に示した物と情報の動きでは、実線で物の併合や変化を示し、破線で物が業務の中で渡されていくことを示し、点線で相互の関係が照合され、作業上結び付けられることを示しています。例えば「混合」のプロセスでは、取揃えられた「薬剤」(バイアル、アンプルなど)から、必要量を「取分け」られ、一つの「製剤」(ボトルなど)に混合される(実線)と同時に、この混合の過程で「注射指示」と照合されている(点線)ことが表現されています。

注意すべきポイントは作業ごとに異なる
 それぞれの作業を担当する医療従事者は、当然その責任の範囲の作業を正確に行うように努力しなければなりませんが、患者に本来の目的に合致した意図の通りに注射が実施されるため、注意すべきポイントというものは、作業ごとにことなります。
 この事例では、「投与開始」の作業の段階で誤りが起きています。「投与開始」の段階では、「製剤」「機材・ライン」「患者」「注射指示」の4者が照合されなければなりません。このいずれが誤っても、適切に注射が実施されないという、注射作業の中でもっとも照合が複雑な作業です。
 この段階では、すでに「製剤」は完成されており、その中身が正しいかどうかを評価することは困難な段階になっています。したがって、この段階で集中しなければならないのは、完成された「製剤」(ボトルなど)「機材・ライン」「患者」が「注射指示」の中の投与速度・開始時刻・投与方法・患者IDと照らして正しいかを照合する必要があります。(注)
 作業が複雑な場合には、作業の集中すべき項目を明確にリストとして、示すことが役立ちます。(チェックリスト)
 ご報告を頂いた方は、このほかに、指示の誤読を防止する表記方法について考察をしています。このような指示の誤読を防止するための作業は、「指示受け(確認)」です。「指示受け(確認)」の目的は、記載された指示が意図したとおりに伝達可能であるかを確認することにあります。この過程で、内容の誤りも見出されることがあるかもしれませんが、看護師が医師と同程度の医学知識を持っていることは期待するべくもありませんので、「指示受け(確認)」の重点は意図したとおり伝達可能な記載であるかということを見ることにあります。誤読の可能性がある指示を見出すのは、「指示受け(確認)」を担当する医療従事者の責務です。

確認すべきポイントを明確化することが、正しい作業に役立つ

 このように、作業ごとに確認の容易さ、後に及ぼす影響の大きさが異なります。したがって、各作業ごとに誰が、何を確認するのかを、よく考察して設計することが、正しい作業を効率よく実施するために役立ちます。

(注)「製剤」の内容の妥当性は、「混合」の作業で十分に確保しなければなりません。

【図】注射の業務フローとそれに伴う物と情報の動きのあらまし

【図】注射の業務フローとそれに伴う物と情報の動きのあらまし



  事例481:(双子の予防接種にあたって薬液の準備間違い)

  発生部署 (外来部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【  】 発生曜日【  】曜日区分【  】発生時間帯【   】
発生場所【  】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【   】
発見者【  】
当事者の職種【   】
当事者の職種経験年数【   】
当事者の部署配属年数【   】
発生場面 【          】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【          】
発生要因-確認 【   】
発生要因-観察 【   】
発生要因-判断 【   】
発生要因-知識 【   】
発生要因-技術(手技) 【   】
発生要因-報告等 【   】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【   】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【             】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
双子で風疹の予防接種のため来院する。先に第1子から入室してもらい、本人であることを母氏へ確認しADrが接種内容を確認、母氏へも確認し施行する。その後第2子が入室する。その間にBDrが注射液を準備していたため、児が第2子であることを母氏へ確認する。注射液が準備でき施行するため児の抑制を介助する。退室し、母氏が母子手帳に貼ってある製造番号シールを見て麻疹のシールが貼ってある事に気付く。第2子に接種されたのが風疹ではなく麻疹であった事に気付く。前回に麻疹の予防接種をした時に副作用も出現しているため様子観察となる。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
Dr2人とNs1人の3人で行っていたが、カルテを見て薬内容を確認する人、薬液の準備をする人、施行する人の役割分担ができていなかった。予約券・カルテとの確認がしっかり行えておらず、カルテと薬液、DrとNsでのダブルチェックができていなかった。双子という事で、児の取り違えをしないようにという認識は強かったが施行前に母氏へも薬内容を確認できていなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
役割分担を行い、声に出してカルテ・予約券に記載されている薬内容をDrとともに確認する。入室は1人ずつ行い、施行前に児本人の名前と薬内容を母氏へも確認する。1つのテーブルに複数のカルテや薬液を置かず、置く位置や場所を決めておく。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
 記入されたコメントは、何を媒体に何を確認すれば良かったのかということが分析され簡潔に書かれていると思います。以下の点についてさらに記述すると具体的な改善策をたてることが容易になるでしょう。
風疹と麻疹の薬液を間違えていますが、薬液の準備においてどのような保管や準備がされていたのでしょうか。改善策に「1つのテーブルに複数のカルテや薬液を置かず、置く位置や場所を決めておく」とありますので、薬液の準備や保管状況にも何らかの発生要因があったことが考えられます。
発生要因に「Dr2人とNs1人の3人で行っていた」「カルテを見て薬内容を確認する人、薬液の準備をする人、施行する人の役割分担ができていなかった」とありますが、通常の役割分担がどの職種がどのような流れで業務にあたるルールになっていたのでしょうか。具体的にどのような内容を指し示しているのでしょうか。

 ■改善策に関するコメント
 この事例は、双子(小児)という確認に注意が集中し、基本的な注射の指示確認がされず薬剤を取り違えてしまった事例だと思われます。システム的な改善を講じないとこういった誤注射は起こりやすい状況にあるでしょう。

エラーが生じない状況の設定
 まず、薬剤を取り違えない状況を設定するように努力しましょう。例えば、予防接種の種別に接種日を分ける、あるいは医師を分けるという方法が挙げられます。 
 医師を予防接種薬別にするのが無理であれば、札やカードなどを作成し視覚的にも注意喚起を実施し、さらに与薬実施直前にも母親とともに児と薬液のダブルチェックを行う必要があると思います。特に、予防接種は小児対象のことが多いため被接種者本人に口頭確認することは難しい状況にあります。よって、それ以外の方法も取り入れた名前確認、予防注射種別確認などのマニュアルを作成する必要があります。同時に、作業テーブルの整理整頓を行い平行業務などによる取り違いが生じない準備スペースの確保あるいは、一接種者一トレイなど保管状況の工夫が必要でしょう。
 さらに、予防接種以外にもこのような状況におちいる状況がないか確認することが重要でしょう。

双子の診察について
 双子のケースは、姓名が同じでかつ母親も実施される処置に関して混乱している状況が多くあります。よって、一度に2人を入室させるのは、診察環境としても問題があるかもしれません。この事例では、1人ずつ入室させる方法をとっており、披接種者間違いには効果的な予防策となっているようです。
 また配置転換があった際には、このようなルールをマニュアルに沿ってオリエンテーションを実施し安全文化が醸成されるように、定期的・継続的な教育を実施してすることが重要でしょう。



  事例709:(モニター装着後の確認忘れ)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(機器一般)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【7月】 発生曜日【金曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【12時〜13時台】
発生場所【ナースステーション】
患者の性別【男性】 患者の年齢【2歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【その他】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【4年3ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年3ヶ月】
発生場面 【心電図・血圧モニター】
(薬剤・製剤の種類) 【】
発生内容 【機器の不適切使用】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【】
発生要因-知識 【】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【仮に実施されていた場合、患者への影響は中等度(処置が必要)と考えられる】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
γーグロブリン投与のため、モニター装着するが、ナースセンターまで電波届かないモニターと言うことを知らず実施していた。終了1時間前に気付く。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
装着後電波確認を怠った。モニター観察に関しての責任、必要性を理解していない。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
モニター装着後電波受信確認を呼称確認する。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
 具体的な内容の中で「終了1時間前に気付く」と書かれていますが、何に気付いたのでしょうか?そこで大きく変わります、電源が入っていなかったのか、受信が出来ていなかったのか、受信はしていたが違う患者なのか、また、ナースセンターまで距離、薬剤開始後バイタルは測定したのか?などを記載すると良いでしょう。

 ■改善策に関するコメント
 改善策はこれも1つの方法だと思いますので実施すると良いでしょう。それとは別に院内の電波管理、機器の保守点検をきちんと行う必要があります。また、テレメータの運用を取り決める必要も出てきます。

電波管理者を決める
 院内でテレメータを正しく運用する為に、適切な管理者を置くこと提案します。無線チャンネル管理者の資格に関しては、現在の法律上、特別な資格はありませんが、病院内の医療機器の保守管理する立場の方、臨床工学技士が最適任と言えます。電波管理者は少なくとも下記の事項などを励行すべきと思われます。
  ・ ゾーンの設定とチャンネル管理運用
  ・ 機器購入時の使用チャンネルのチェック
  ・ 機器借用時の使用チャンネルのチェック
  ・ 設置環境の調査
  ・ 送受信テストによる受信状況調査と分析
  ・ アンテナ敷設工事が必要なときの計画と指示
  ・ 電波障害が発生したときの原因調査と対策
 事例は設備環境面からの改善策とし「ナースセンターまで電波届かないモニターと言うこと」と具体的な内容に書かれていますから、電波管理者を決め、各病棟のテレメータチャンネルのチェックを行い、電波障害が無いか確かめ、アンテナ敷設工事を業者に依頼する必要があります。テレメータは離れたところに患者情報を伝送しすることを目的としていますから、必要な場所に電波が届かないということはご法度です。

モニター使用方法の研修会
 モニターを購入したときは必ず研修会をしましょう。その上で、毎年、再学習の意味を含めて定期的に研修会を開くことを進めます。研修会の中では使用方法は勿論のこと、病棟での運用方法についても話し合い取り決めを作りましょう。使用方法では取り扱い説明書に沿って行うことを推奨しますが、最近のモニターは奥が深いのでとても無理です。簡易取り扱い説明書に従って行い最低限の使い方をマスターしましょう。

モニターの運用方法
 生体情報モニターは重要なデータを送信してくれます。この事例では小児にγーグロブリン投与を投与しているのですから、副作用(ショック)に注意する為にバイタルサインの定期チェックが必要となります。同時にモニターによる持続観察が必要になります。モニターはただデータを流すのではなく、アラーム機能をしっかり利かせ、急変時に備えましょう。バイタルサインの記録についても、実測で測ることも大事ですが最近のモニターは多現象(心拍数、呼吸回数、SPO2等)を伝送してくれますので活用すると良いでしょう。
 ただし、チャンネル管理を行い周波数干渉、受信障害には充分に注意をして、正しいデータ管理をしましょう。

【参考資料】
「小電力医用テレメータの管理と実際」クリニカルエンジニアリング,Vol.12 No.10,秀潤社,2001



  事例713:(加温加湿器電源忘れ)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(人工呼吸器)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【  】 発生曜日【   】曜日区分【  】発生時間帯【    】
発生場所【    】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【   】
発見者【   】
当事者の職種【  】
当事者の職種経験年数【    】
当事者の部署配属年数【    】
発生場面 【          】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【          】
発生要因-確認 【   】
発生要因-観察 【   】
発生要因-判断 【   】
発生要因-知識 【   】
発生要因-技術(手技) 【   】
発生要因-報告等 【   】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【   】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【   】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【                】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
入浴で呼吸器を11:00に外した。入浴終了後呼吸器は装着したが、加温加湿器の電源を入れ忘れた。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
マニュアルでは加温加湿器のスィッチは切らないことになっているが、切ってしまった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
人工呼吸器設定表に加温加湿器の電源点検を加えた。(○月○日から実施)



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
 人工呼吸器の種類や機器の配置、患者の状況などの記載があると要因の分析や改善策の立案が行いやすくなります。
 要因にあるマニュアル記載では、本例のような一時、人工呼吸器から取り外す際の対応方法についてどのように記載されているか記述があるとよいでしょう。

 ■改善策に関するコメント
 加温加湿器の電源入れ忘れは臨床の場では比較的多くみられ、また呼吸器の動作に異常が見られないことから比較的発見しにくいミスの一つです。これは、人工呼吸器の製造業者と加温加湿器の製造業者が異なり双方の連動が無く単独で動作するために安全機構を作成しにくい背景があります。
 加温加湿器の電源入れ忘れは加温加湿がされていないことから長時間に及ぶと患者に影響がでてきます。このため装着時にチェックリスト等を用いて十分に確認すると同時にミスを早期発見することが重要になります。このため設定の確認表等のチェックリストを用いて一定時間ごとにチェックを行うことが必要になります。

機器のメカニズムを考慮したマニュアル作り
 要因に『マニュアルには加温加湿器の電源は切らない』とありますが、このマニュアルは手作りのマニュアルと思われます。マニュアルの詳細は不明ですが、加温加湿器の電源が入ったままで人工呼吸器の電源を切り呼吸器回路内のガスの流れが止まると条件によっては加温加湿器が高温となりモジュールの変形等が発生したことが報告されており、そのまま取り付けると高温のガスが患者に流入する危険性があります。
 また、テスト肺を取り付け人工呼吸器を稼働させておき加温加湿器電源を切らない方法もあります。しかしこの場合には、酸素濃度の変更等を行うこともあり新たなミスの要因となり注意が必要です。
 手作りのマニュアルは、業者から提供されるマニュアルと異なり施設や部署の状況に合わせたマニュアルのため簡便で使用しやすくこれを常備することは取扱ミスを防止する有効な手段です。しかし一方では重要事項の欠損や文章の表現によっては解釈が本来のマニュアルと異なる危険性があり注意を要します。マニュアルを作成した際には、臨床工学技士や専門業者の確認を受けマニュアルの妥当性を確認する必要があります。



  事例716:(三方活栓の開放忘れ)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(機器一般、チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【8月】 発生曜日【日曜日】曜日区分【休日(祝祭日を含む)】発生時間帯【2時〜3時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【78歳】
患者の心身状態【床上安静】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【0年4ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年4ヶ月】
発生場面 【三方活栓】
(薬剤・製剤の種類) 【】
発生内容 【ルートクランプエラー】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【】
発生要因-知識 【】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【仮に実施されていた場合、患者への影響は中等度(処置が必要)と考えられる】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
深夜0時半にイノバンがなくなったため、次のイノバンを開始した。午前二時頃に他の看護師が訪室した時シリンジとルートの接続部が外れており、薬液が漏れていた。三方活栓がOFFになった状態でシリンジポンプの開始ボタンを押していた。患者は血圧が下がっており、流量を1ml上げることにより血圧は上昇した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
エア抜きするためにシリンジとルートの接続部の三方活栓をOFFにしていた。その後ルート内に空気がないか確認しIVHと側管の接続部の三方活栓を確認し開始ボタンを押した。普段はシリンジとルートの接続部の三方活栓をONにしてから他のルートを確認するため、シリンジとルートの接続部の三方活栓はすでにONにしていると思い込んでいた。そのため、開始されたのを確認した後、三方活栓の確認をしなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
実施時に薬液から挿入部までルートに異常がないか上から順番に1つ1つ指でたどりながら確認する。開始ボタンを押す前にシリンジとルートの接続部の三方活栓がONになっていることを確認する。実施後も最終確認を行ない間違いないことを確認する。三方活栓を動かしたら必ず元の位置に戻すのを忘れないようにする。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 要因にエア抜きをするためとありますがどの部分のエア抜きを行うためか記載があると状況の判断や対策を立案しやすくなります。また、IVHとシリンジポンプ、三方活栓等の位置関係がわかりにくい部分がありますのでこれらがわかかるように説明されているとわかりやすくなります。

 ■改善策に関するコメント
 シリンジの交換時にはこのようなミスが多いものです。本件の内容にある二時間後に接続部がはずれていた事が発見されていることから接続部がロック方式ではないことが想像されます。シリンジおよび三方活栓の接続部がロック式であった場合には接続部がはずれずに内部圧の上昇によりシリンジポンプの過負荷あるいは閉塞警報が鳴り早期発見につながったと思われます。
 当事者の経験が4ヶ月ということから教育システムの検証、深夜の時間帯であることからシリンジ交換時間の見直し等システムとしての検討も必要と思われます。

三方活栓の種類と流路
 三方活栓は、コックの羽根が一本のものと羽根が三本のものがあります(図1)。羽根が一本のものは羽根の向く方向が閉塞ラインで羽根のない方向が開放ライン、羽根が三本のものは羽根の向く方向が開放ラインで羽根のないところが閉塞ラインであり羽根の向きと流路の性質が逆になります。これを院内で混在させると勘違いによるミスが発生しやすくなるため統一することがミス防止につながります。
 また、三方活栓は形状が同一であってもL型とR型があります。L型は羽根が180度回転し、R型は羽根が360度回転するものです。360度回転するR型では接続口三方すべてを開放とすることが可能ですがL型では接続口は二方向の開放しかできません。このような混在も勘違いによるミスが発生しやすくなりますので注意が必要です。
 また最近では、感染予防の観点からクローズドシステムのTコネクタやYコネクタを用い三方活栓を使用しないシステムが増えてきています。
図 2 三方活栓
図 2 三方活栓


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