ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療 > 医療安全対策 > 第10回 記述情報(ヒヤリ・ハット事例)の分析について > 記述情報分析事例 > 事例:602 (術前処置時時間切迫のため確認不足で生じた新人看護師による誤与薬)

事例:602 (術前処置時時間切迫のため確認不足で生じた新人看護師による誤与薬)



 
事例:602(術前処置時時間切迫のため確認不足で生じた新人看護師による誤与薬)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【11月】 発生曜日【金曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【10時〜11時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【53】
患者の心身状態【歩行障害】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【8ヶ月】
当事者の部署配属年数【8ヶ月】
発生場面 【末梢静脈点滴】
(薬剤・製剤の種類) 【その他の薬剤(エルシトニン)】
発生内容 【薬剤間違い】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【】
発生要因-知識 【】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【】
発生要因-心理的状況 【】
発生要因-システムの不備 【】
発生要因-連携不適切 【】
発生要因-勤務状態 【】
発生要因-医療用具 【】
発生要因-薬剤 【】
発生要因-諸物品 【】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【】
発生要因-患者・家族への説明 【】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
手術当日のため静脈留置針を挿入後、ヘパリン生食を注入した。次の患者のエルシトニンを筋注しようと注射器を見たらトレイ内にへパリン生食が残っていて、前の患者にエルシトニンを静注したことがわかった

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
手術搬送前に血管確保がまだとあせっていた。ヘパリン生食はいつも23Gの針を付けるのに、エルシトニンに23G、ヘパリン生食に18Gの針をつけてしまった。病棟で23Gをつける慣例だったが、マニュアルはなかった。二人の患者分をひとつのトレイに入れてしまった。あせった状況で処置したため、ヘパリン生食のイメージのある23Gの針のついた注射器を選びフラッシュした。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
患者ごとのトレイの使用の徹底。
ヘパリン生食は必ず薬剤名を注射器のボデイに記入するように、また使用する注射器、針を決めマニュアルにし院内で統一した。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
 注射伝票の取り扱いについての記載がありませんので、どのように患者確認をしているかがはっきりしません。その点の記載があるとどのように患者名・伝票・薬剤を照合したかが解り、エラーの原因が明確になります。

 ■改善策に関するコメント
 そもそも、この事例は筋肉注射のエルシトニンとヘパリン生食をなぜ間違えたか不思議なことです。これを間違えるほどの作業現場の状況だとすると、危険性の高い職場といえます。この様な環境で新人看護師が働くことは安全確保の上で大きな問題です。例えばヘパリン生食はあらかじめ注射器に希釈されて充填された製品を用いるなど、個々の業務における認知(確実に見分けること)付加を少なくするような環境を整える必要があります。

作業方法の院内統一と徹底
 「患者ごとのトレイの使用の徹底」は病棟のマニュアルにしたのでしょうか。準備から患者のベッドサイドに運び実施するまで「患者ごとのトレイ」を徹底し、エラーの発生し難い環境を作る必要があります。
 また、作業方法については、病棟内の慣習にせず、院内統一のマニュアルにする必要があります。

患者確認方法の院内統一と徹底
 ベッドサイドでの確認作業について院内統一のマニュアルが必要です。
 確認作業の内容は、例えば、
 「患者名(ネームバンド・ベッドネーム・患者自身から名前を言ってもらう等)・伝票・薬剤を照合し確認する。」等です。具体的な確認内容と方法を定めて、これを習慣化するような教育の徹底が必要です。

 新人看護師がいつでも安全な業務プロセスで注射行為をするよう教育の徹底と環境の整備
 ヒヤリ・ハットの全般コード化情報分析でも、経験1年未満の看護師のヒヤリ・ハットが多いことが明らかです。この事例も経験8ヶ月の看護師によるものであり、多くのことを覚えながら実践している時期にあります。この時期の看護師が「ヘパリン生食は必ず薬剤名を注射器のボデイに記入するように、また使用する注射器、針を決め」という方法で業務を覚えることは、ある一定の薬剤に使用する注射器・針の種類を覚えるだけのこととなり、注射業務一般に通じる、安全な業務プロセスの習得をになっていません。新人看護師がこのような形で業務の習得をしている背景には、院内統一した業務プロセスそのものの設計がされていないか(標準化された手順書がない)、もし手順書があった場合でも、これが現場で使えるものでない(設計が適切でない)か、これを使うような教育が徹底されておらず、各自が勝手な業務プロセスを習得しているか、のいずれかだと考えられます。標準化したどこでも使える,安全な注射業務プロセスを設計して教育を徹底し、時間切迫の中でも確実に安全な業務プロセスで注射を行うよう新人のうちから習慣づける必要があります。
 また新人看護師ができる範囲の業務分担を適切に行うこと、術前処置であっても、安全確保が最優先される課題であることも徹底して教育する必要があります。時間切迫した場合には、何を優先するかの判断を先輩に聞くことや、他の看護師に応援を依頼することなど、組織全体で安全を確保することが風土として定着するような環境の整備も必要と考えられます。

 安全な注射業務プロセスの設計
 記憶に頼らず、どの注射業務プロセスにも共通して、安全で確実に実行できる業務プロセスを設計して、これを院内統一のマニュアルとして決めることが先決です。例えば、川村治子氏が作成した注射・点滴エラーマップの業務プロセスそって設計することが考えられます。



  事例:660(看護師間の口頭引き継ぎによる化学療法の中断と遅れ)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【11月】 発生曜日【火曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【0時〜1時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【65】
患者の心身状態【嚥下障害】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【医師】
当事者の職種経験年数【16年7ヶ月】
当事者の部署配属年数【 9年8ヶ月】
発生場面 【末梢静脈点滴】
(薬剤・製剤の種類) 【抗腫瘍剤】
発生内容 【過少投与】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【その他(アセスメント不足だった)】
発生要因-知識 【その他(情報が不十分だった)】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【】
発生要因-心理的状況 【】
発生要因-システムの不備 【連絡・報告システムの不備,指示伝達システムの不備】
発生要因-連携不適切 【医師と看護職の連携不適切,看護職間の連携不適切】
発生要因-記録の記載 【その他(記録の管理に不備)】
発生要因-勤務状態 【】
発生要因-医療用具 【】
発生要因-薬剤 【】
発生要因-諸物品 【】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【】
発生要因-患者・家族への説明 【】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
5日間持続点滴で抗癌剤投与の患者に対し、1日予定量が確実に与薬されず、3時間遅れで点滴更新していた。5日目点滴終了日に口頭で「現ボトル終了後、抜針」と申し送られ、カルテとの照合をせず、抜針した。4時間後、他患者の点滴準備の段階で抗癌剤が1日分残っているのを発見する。朝、主治医に報告し、患者に対し残り1日分の点滴治療を行なう事を説明され、治療継続となった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
口頭の申し送りを他看護師2名に確認したが、カルテ経過一覧表での確認を怠った。溶解後の点滴が残っていないかは確認したが、溶解していない点滴の残数の確認を行なわなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
口頭の申し送りではなく、カルテ記載の指示で常に確認を行なう。与薬時間をカルテ記載し、確実に指示量が与薬されているか確認を行なう。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
以下の項目について記載があればより背景要因が明らかとなり、実効性のある改善策を立てることができると考える。
(1)その施設における看護師間および医師・看護師間の患者情報伝達・確認方法
(2)医師から看護師への抗癌剤施用に対する情報提供の有無および看護師の当該抗癌剤のプロトコールに対する実施経験の有無
(3)注射薬の請求・払い出し方法
(4)中止指示受け時の医療スタッフ間のチェックシステム

 ■改善策に関するコメント
 改善策として「口頭の申し送りではなくカルテ記載の指示で常に確認を行う」と記載されているように、この事例での問題点は、正確な情報伝達とチェック体制です。

(1) その施設における看護師間および医師・看護師間の患者情報伝達・確認方法における問題点
 点滴が3時間遅れで更新されていたことを医師が知っていたとすれば、「交換前に現ボトルで終了」と口答指示した医師に注意義務を怠ったミスがあります。医師が3時間遅れで更新されていることを知らずに、すでに5日目が開始されていると考え「交換前に現ボトルで終了」と口答指示したとすれば、現在の状況を確認しないまま指示した医師の行動にも問題がありまが、一方看護師が医師に4日間も注射薬の実施状況を知らせていなかったこととなり、この医療機関の情報の共有の仕方に大きな問題があると考えられます。

(2) 医師から看護師への抗癌剤施用に対する情報提供の有無および看護師の当該抗癌剤のプロトコールに対する実施経験の有無
 医師が、看護師に5日間連続点滴の必要性を看護師に説明していたか、また、当該抗癌剤のプロトコールに対する実施経験が看護師にあったか否かは不明ですが、看護師は経験年数が16年以上有り、確実に説明され看護師が理解していたならば4日間で終了することに疑問が生じミスは防げたと考えられます。指示受けをした看護師と中止指示受けした看護師が異なり必要性が十分に認識されていなかったとすれば、(1)と同様に看護師間の情報の共有化に問題があったと考えられます。

(3) 施用中止指示受け時の看護師間の確認体制が適切であったのか。
 口頭の申し送りを他の看護師2名に確認したとあり、担当看護師1名以外に2名が確認しても全員がカルテでの確認を怠ったことは、指示受け時の確認体制が不十分であると思われます。残薬の有無を確認しなかったことは、残薬が他の医療スタッフにより誤って投与される可能性に対して考慮されていないことになり、投与中止指示受け時の体制が整っていないと考えられます。

【医師に対する改善策】
 医師は、抗がん剤治療に関するプロトコールを作成するとともに、看護師と施用記録を照合しながら「○月○日予定分の○○の施用が終了後に抜針」などと日時を明確に指示し、カルテにその旨を記載する必要があります。
また、抗がん剤治療に関する口頭指示は行わないようにすべきです。

【看護師に対して改善策】
 口頭申し送りを廃止し、与薬時間をカルテに記載し、与薬量と指示量の確認を行うことは最低限必要であると考えます。さらに医師の指示の目的を理解していない状態で患者の看護を担当することは避けるべきであり、看護師の指示受けおよび看護師間の申し送り時の情報の共有化と施用目的の理解度をチェックする体制の構築が必要と考えます。

【病院管理に対して改善策】
 本件では情報(5日間連続投与の必要性)の共有化がされていないためカルテ確認していても見逃された可能性があり、また、併用する薬剤にも影響していた可能性もあり治療上の重大な過誤となる危険性を潜めた事例です。注射薬の実施にあたっては看護師間のダブルチェックなどの体制が確立されているものと考えますが、本件は同一職種内におけるチェックの限界を示唆していると考えられます。エラーを防ぐためには、プロトコールを作成し、医師、看護師に加え薬剤師がさらに積極的に注射薬施用に関与し、薬剤師による注射薬調製を含めたチェック体制を構築することが必要でしょう。



  事例:665(速度計算ミスによる化学療法実施日程の延長と退院日の遅れ)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【10月】 発生曜日【金曜日】 曜日区分【月曜日】 発生時間帯【18時〜19時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【68】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【患者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【当事者複数】
当事者の部署配属年数【当事者複数】  
発生場面 【静脈注射】
(薬剤・製剤の種類) 【抗腫瘍剤】
発生内容 【投与速度遅すぎ】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【確認が不十分であった】
発生要因-判断 【判断に誤りがあった】
発生要因-知識 【知識が不足していた】
発生要因-技術(手技) 【その他】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【】
発生要因-心理的状況 【】
発生要因-システムの不備 【】
発生要因-連携不適切 【】
発生要因-勤務状態 【】
発生要因-医療用具 【】
発生要因-薬剤 【】
発生要因-諸物品 【】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【】
発生要因-患者・家族への説明 【】
発生要因-その他 【手順を誤っていた】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
短期ケモ治療をしている患者であった。5-FUを3.3A、ブドウ糖5%50ml×2本を22時間で滴下する指示であった。B日勤看護師が計算間違いをし22.7ml/時間と記入した。A看護師が19時30分に更新時同じく500mlで計算を行いC夜勤看護師に申し送った。C夜勤看護師も間違いに気づかず、一時間ごとの巡視時も22.7/時ずつ滴下しているのを確認する。その後D日勤看護師に申し送りし、夕方17時30分点滴が終了していないと患者より指摘を受け発見する。主治医に報告し残りを三時間で滴下する指示もらう。また患者に点滴が遅れていることを伝え謝罪し、退院を11/2から11/3に延期となる。
*報告に忠実に記述しておりますが、1行目「ブドウ糖」5%50ml」は「500ml」と考えられることから、「500ml」としてコメントしております。


 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
1、時間量を計算時B看護師は他看護師とダブルチェックをせず、一人で計算した。2、A看護師は更新時計算間違いに気づかなかった。
3、C,D看護師は巡視時に残量確認ができていなかった。又、申し送り時互いに指示確認・残量確認をしていなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
1. 計算は二人で確認する。
2、 申し送り時、互いに指示確認・残量確認を徹底する。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 以下のことを記載すると背景要因が明らかになり、具体的で実効性のある改善策を立てることができると思います。
化学療法についての教育・指導体制
看護師Bが準備を行ったときの状況、行った業務手順
点滴準備と実施についてのルール
手順の存在・指示表の記載基準

 ■改善策に関するコメント
 化学療法という重要な治療が計算間違い、速度確認ミス、により予定通りに行われず退院延期になったということは、生命に直結するものではなかったとはいえ、患者に及ぼした影響を、考慮すると重大な事例といえます。
1.化学療法に関する教育、指導
 点滴の準備、管理は「作業」ではなく「診療の補助」であり「重要な看護」です。速度計算間違いや残量チェックの問題にとどまらず、化学療法の知識とプロトコールの共有と理解が必要になってきます。また準備・実施に関わるときにはその重要性に特に注意を促すような環境づくりも必要と考えます。(指示表の工夫、集中できる作業環境、基準の作成 等)
2.計算間違いを生じた背景
 化学療法の点滴を行う場合の手順はどう定められていたのでしょうか、個人が間違えをしないような工夫(安全確認動作)をしていたのでしょうか。
 ダブルチェックはオールマイティーではありません。ダブルチェックは依頼を受けるほうも業務中断というリスクを負って行うものですから、最小回数で最大の効果を期待できるようにします。たとえば、ダブルチェックの時期、照合物(指示表、アンプル、ボトル、等)、照合項目、照合方法、二人の位置関係、等-を明確にしておかないと「安全」のためではなく「安心」のためで終わってしまいます。また疑義を指摘できる関係があることも大切です。
2.点滴管理に関する取り決め
 A〜Dと4人の看護師が引き継いで関わっていながら、患者の指摘があるまで間違いを発見できなかったのは、各人が行うべき確認の取り決めがあいまいだったか、取り決めはあってもそれが確実に行われていなかったからでしょう。準備する人が行うべき安全確認、続く勤務者が行うべき安全確認の内容と方法を具体的にする必要があります。



 
事例:672(血糖コントロール段階での治療方針への理解不足と指示の不徹底によるインスリンの過剰投与)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【12月】 発生曜日【火曜日】 曜日区分【休日】 発生時間帯【12時〜13時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【不明】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【9ヶ月】
当事者の部署配属年数【9ヶ月】
発生場面 【皮下・筋肉注射】
(薬剤・製剤の種類) 【抗糖尿病薬】
発生内容 【過剰投与】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【判断に誤りがあった】
発生要因-知識 【知識が不足していた,その他(情報が不十分であった)】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【】
発生要因-心理的状況 【他のことに気をとられていた,その他(大丈夫だと思った)】
発生要因-システムの不備 【指示伝達システムの不備】
発生要因-連携不適切 【医師と看護職の連携不適切】
発生要因-記録の記載 【記載漏れ】
発生要因-勤務状態 【多忙であった】
発生要因-医療用具 【】
発生要因-薬剤 【】
発生要因-諸物品 【】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【】
発生要因-患者・家族への説明 【】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【その他】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
11時半頃患者がBS50であり冷汗あった為、訪室中の同疾患患者が砂糖8g与薬したとフリーナースより報告あった。患者にブドウ糖10g2袋渡し今後低血糖時はブドウ糖内服するよう伝え、症状消失するまでは床上で安静にするよう促した。12時頃より当事者はメンバーナースの休憩によりチームを1人で看ていた。ナースコール対応と排泄援助の合間に患者よりBS125となった為インスリンを指示量注射したと報告受けたが、多忙であったこととそれでよいと思い込んでいたことからカルテを確認しなかった。13時、患者が外出する際にも低血糖時対応とブドウ糖の携帯を確認するのみであった。19:40頃、夜勤ナースより低血糖後にインスリンの全体の指示量変更するよう指示欄に記載ある旨指摘された。19:50頃患者が帰院したため、夕方の血糖とインスリン量を確認するとBS121であり指示量注射したと。主治医にその旨報告すると、1.眠前にBS再測定し報告すること 2.明朝より指示欄記載通りのインスリン量に変更すること口頭にて指示受ける。患者にその旨伝え、新しいインスリン指示表を手渡し、古いものを破棄した。与薬指示欄にインスリン与薬の記載がなくインスリン指示表も規定の位置にはさまれていなかった為、鉛筆で与薬指示欄に記載し、インスリン指示表も規定の位置にはさみ直した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
患者がインスリンを打っているという認識が甘く、低血糖時指示の有無を情報収集の時点で確認できていなかった。低血糖出現時、カルテを確認しなかった。知識不足。多忙であり他のことに気を取られていた。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
知識の補充。カルテ指示確認の徹底。処方記載漏れの確認。カルテ内で挟む場所が決まっているものは規定位置へ挟む。続いている指示は指示欄の記載の場所を赤で囲みインデックスを貼るか熱表に指示ある旨記載しアピールする。血糖によりインスリン量や対処法に変更ある場合はインスリン指示表にその旨記載し、患者本人にも説明する。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 時間の経過とともに事例が詳しく記載されています。ヒヤリ・ハットの直接的な要因は医師の指示に対する確認不足・見落としですが、注射薬投与に対する指示受け・申し送り方法の記載があると業務システムの何処に問題があるか詳しく分析できます。さらに低血糖発作を起こした患者に長時間の外出を許可した状況や、インスリンを何時、何単位注射するか患者の治療計画がわかると具体的内容がより理解しやすくなります。

 ■改善策に関するコメント
 同疾患の患者による訪室や、インスリンを自己注射していることから糖尿病の教育入院か極度の血糖コントロール不良による入院と推測できます。血糖値の変動も大きく、インスリンの種類や適切な投与量を検討している段階なのでしょう。「低血糖後にインスリンの全体の指示量を変更する」という医師の指示から、注意深く血糖値の推移を観察しケアする必要がある患者でした。
 川村によると変更・中止指示の伝達に関するヒヤリ・ハット事例は非常に多く、看護師の勤務帯の変わり目や準夜帯などの看護師が病室回りで不在な時など時間帯によってはカルテに変更の指示のみを記載していくやり方は、看護師のチェックが漏れる可能性があると指摘しています。医師の変更・中止指示は、病態変化に応じてなされたきわめて重要な情報であり指示する側、指示受け側の両者のルールとチェックシステムを考えたほうが良いと解説しています。口頭指示は緊急時に限定し、改善策であるカルテ指示や記載もれの確認が確実に行われるために記憶に依存せず記録に基づく業務手順を設計する必要があります。またインスリンの他、高濃度カリウム注射薬や抗腫瘍薬など誤った時に影響の大きい薬剤に対して注意喚起する工夫も重要です。
 低血糖時に同疾患の患者から砂糖を与薬された状況も好ましくありません。糖尿病は患者自身による疾病の理解と自己管理が特に重要な疾患です。低血糖発作は血糖が改善されてきた頃に起こりやすく、事前に低血糖時に対する対処方法についても説明し、より吸収の早いブドウ糖を患者に用意する必要がありました。

 「ヒヤリ・ハット11,000事例によるエラーマップ完全本」、川村治子、医学書院、2003年7月



 
事例:821(医師の指示から与薬までにルール違反が重なって生じた与薬中断)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【11月】 発生曜日【月曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【8時〜9時台】
発生場所【ナースステーション】
患者の性別【男性】 患者の年齢【79】
患者の心身状態【意識障害】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【当事者複数】
当事者の部署配属年数【当事者複数】
発生場面 【内服】
(薬剤・製剤の種類) 【その他の薬剤 ユニフィル】
発生内容 【無投薬】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【】
発生要因-知識 【知識が不足していた,その他(情報が不十分)】
発生要因-技術(手技) 【その他(マニュアルを遵守しなかった)】
発生要因-報告等 【不十分であった】
発生要因-身体的状況 【】
発生要因-心理的状況 【無意識だった】
発生要因-システムの不備 【連絡・報告システムの不備,指示・伝達システムの不備】
発生要因-記録の記載 【その他(記録の管理に不備があった)】
発生要因-連携不適切 【医師と看護職の連携不適切,看護職間の連携不適切】
発生要因-勤務状態 【】
発生要因-医療用具 【】
発生要因-薬剤 【】
発生要因-諸物品 【】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【教育・訓練が不十分であった】
発生要因-患者・家族への説明 【】
発生要因-その他 【指示が不足】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
11/2でネオフィリンの点滴が中止となり、ユニフィルの内服に変更になった。同一処方箋に記載された他の処方が二重になっていたため受領したユニフィルと共に整理棚にしまわれ11/6まで与薬されなかった。その間5名の看護師が関わっていたが気づかなかった。与薬実施のサインは行われていた。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
受け持ち看護師が前回2週間処方されていたにもかかわらず、1週間分しかカルテの線を引いていない。後でカルテ整理をしようと思っていたがそのままになっていた。
医師は注射薬から内服薬への変更を処方実施欄のみで一般指示欄に記載しなかった。与薬に関わった看護師は無意識に実施欄へのサインをしている。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
処方指示受け、与薬の手順を遵守する。医師には薬剤の変更時は処方実施欄だけでなく、一般指示欄での記入を行うように促す。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 具体的内容、発生要因の表現が理解しにくいですね。「同一処方箋に記載された他の処方が二重になっていたため、」とありますが、具体的にいうと同一の処方箋にユニフィルと他の薬剤が記載され、またその薬剤が前回の処方と重複していたので一緒に片づけられた。ということでしょうか。また、通常の内服薬などの開始・変更に関する手順や投薬の手順(処方箋記載のルール、指示媒体のルール、与薬のルールなど)が記載されていないので詳細がわかりません。「カルテに線を引く」という目的は何なのでしょうか。いつまで処方されているのか、或いはいつまでの指示なのか、また、「変更を処方実施欄のみで一般指示欄にきさいしていなかった」等、貴院独自のルールなので状況を想定しにくいものがあります。

 ■改善策に関するコメント
状況を推察すると以下のような業務フローが考えられます。
1. 指示に関するもの (医師)
(1)治療計画に沿って処方・指示
処方箋記入
処方実施欄記入
 (実質的な与薬指示実施簿)
一般指示書への記載
 (開始・変更など看護師への伝達)
(2)患者への説明

2. 薬剤供給に関するもの(薬剤師)
・処方箋の適正監査、調剤、供給

3. 薬剤の管理・投与に関するもの(看護師)


(1)正しい保管
(2)指示の確認
(3)患者の状態と指示内容の整合性
(4)患者への説明
(5)正しい投与
(6)実施の証明

供給された薬剤と処方箋との照合
薬剤の保管
一般指示による、開始・変更などの伝達
(指示受け)
処方実施欄(与薬指示実施簿)を下に、薬剤と指示内容を確認し投与する。
実施サイン

このようにフローを整理すると、それぞれの手順を関連づけて明文化する必要があります。まずは、手順の項目の目的や具体的な方法等を明文化しましょう。
 (対策)
 (1) 「処方実施欄」と「一般指示簿」の両方に医師が記入しなければならないシステムが、記載忘れを生じさせるのであれば、一元化するのも一案です
 (2) 重複の薬剤は病棟に取り置きせず、薬剤科に返却し混乱を防ぐことも必要です。
 (3) 薬剤与薬の原則として、指示内容と薬剤の照合をし、確実に投与する、実施した行為の責任を明確にするためにサインをする等の基本を遵守しましょう。この過程をせずに実施サインだけするのはもってのほかです。
 (4) 点滴注射が中止になり、内服がされていないことの疑問を持つことができれば、5人の勤務者が気付くチャンスもあったはずです。病態の知識、治療計画などの情報の共有も重要です。
 (5) 患者さんへの治療の説明がなされていれば、患者さん自身が気付くこともあるでしょう。



  事例:1027(異なる機種の輸液ポンプ交換後の流量設定間違い)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【10月】 発生曜日【金曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【14時〜15時】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【37】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【同職種者】
当事者の職種【助産師】
当事者の職種経験年数【1年6ヶ月】
当事者の部署配属年数【0ヶ月】
発生場面 【輸液・輸注ポンプ】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【条件設定間違い】
発生要因-確認 【確認が不十分だった】
発生要因-観察 【確認が不十分だった】
発生要因-判断 【判断に誤りがあった】
発生要因-知識 【知識が不足していた】
発生要因-技術(手技) 【技術(手技)が未熟だった】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【】
発生要因-心理的状況 【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備 【】
発生要因-連携不適切 【】
発生要因-勤務状態 【多忙であった】
発生要因-医療用具 【】
発生要因-薬剤 【】
発生要因-諸物品 【】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【】
発生要因-患者・家族への説明 【】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【その他】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
看護師が輸液ポンプの充電アラームが鳴ったため、ポンプを変更した。その際、コンクライトマグネシウム10A入りの点滴スピードを10ml/Hのところ100ml/Hに設定、実施した。設定した人は、ポンプ流量表示に小数点が付いているものと思い込み、
「10.0」と設定したつもりが、「100」と設定していた。5分後、患者さんより頭痛の訴えがあり、同職種者が発見した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
他部署(小児分野)から当部署配属された直後

 ■実施したもしくは考えられる改善策
ポンプ設定確認は複数で行う。また、現在使用しているポンプは多様な使用・操作法が混在することから、各メーカーのポンプ使用時の注意を機種毎に添付することとされた。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
簡潔にわかりやすくかかれていると思います。発生要因に「他部署(小児分野)から当部署配属された直後」とありますが、当事者の看護師は違う種類のポンプがあることを知らなかったのでしょうか。当事者の知識の有無や異動時のポンプに関するオリエンテーション内容やポンプ使用時のチェックシステムのルール化の有無等を記載されていれば、異動者に対する教育等についてもより具体的な改善策の検討が可能となります。

 ■改善策に関するコメント
医療機器管理の中央化・定期的なメンテナンス
「現在使用しているポンプは多様な使用・操作法が混在することから、各メーカーのポンプ使用時の注意を機種毎に添付することとされた」ことは基本的な安全管理として重要なことだと思います。さらに、「看護師が輸液ポンプの充電アラームが鳴ったため、ポンプを変更した」とありますが、充電に関する医療機器等の整備状況はどうだったのでしょうか。常に使用前後にポンプの整備を行い、輸液ポンプを交換するような状況を生じないようにすることも重要です。また、医療機器の責任者を配置し定期的なメンテナンスを行う医療機器管理の中央化が望まれます。
同一機種の使用
病院内に多様な機種のポンプが混在することは、インシデント発生のリスクを高めます。できるだけ同一機種のものを導入することを勧めます。難しい場合には、部署毎に機種をそろえることも一案ではあります。しかし、他部署のポンプと交換するような事態にいたった場合は、新たなリスクとなりますから、個々の機種について、適切に使えるようなチェックリストを作成して、確実にチェックを行いながらセットする習慣を身につける必要があります。院内で専門家を配置できない場合には、医療機器をリース化して業者による定期的なメンテナンスや更新を委託することも有効です。しかし、この場合も日常的な整備点検については、組織としてこれを担当する係りを決めて定期的に整備点検を行ことが必要と考えられます。
輸液ポンプ使用時の重要チェック事項の徹底
 改善策に「ポンプ設定確認は複数で行う」とありますが、夜間の勤務者が少ない場合にも確実に複数での確認が可能でしょうか。不可能と考えられる場合は、ポンプ使用時に1人でも確実にチェックできる、「輸液ポンプチェックリスト」等の媒体を作成したり、必ず2人でセット確認をしなければならない薬剤の種類を決めるなど、業務の忙しい場合や夜間の勤務者の少ない場合にも実施可能な対策を立てる必要があります。再発防止に向けて、複数確認が必要な時と場合、誰が、何を確認するのかについてルール化すること、それが実行可能かどうか確認すること、ルールが守られているかの定期的なチェックなども行う必要があります。
 また、この事例の記述からは、ACアダプターを使用しなかった理由がわかりませんが、長時間使用する輸液ポンプを充電バッテリーのみで対応することは通常困難ですので、ポンプそのものを交換するのではなく、ACアダプターを利用して同一のポンプを使用するようルール化することが重要だと考えられます。


ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療 > 医療安全対策 > 第10回 記述情報(ヒヤリ・ハット事例)の分析について > 記述情報分析事例 > 事例:602 (術前処置時時間切迫のため確認不足で生じた新人看護師による誤与薬)

ページの先頭へ戻る