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事例:382(点滴輸注速度管理エラー)



  事例:382(点滴輸注速度管理エラー)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(点滴、アルブミン、速度管理)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【10月】 発生曜日【土曜日】 曜日区分【休日】 発生時間帯【10時〜11時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【37歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【13年4ヶ月】
当事者の部署配属年数【 5年6ヶ月】
発生場面 【末梢静脈点滴】
(薬剤・製剤の種類) 【その他の薬剤 アルブミン】
発生内容 【投与速度速すぎ】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【  】
発生要因-判断 【  】
発生要因-知識 【  】
発生要因-技術(手技) 【  】
発生要因-報告等 【  】
発生要因-身体的状況 【  】
発生要因-心理的状況 【慌てていた】
発生要因-システムの不備 【  】
発生要因-連携不適切 【  】
発生要因-勤務状態 【勤務の管理に不備】
発生要因-医療用具 【  】
発生要因-薬剤 【  】
発生要因-諸物品 【  】
発生要因-施設・設備 【  】
発生要因-教育・訓練 【  】
発生要因-患者・家族への説明 【  】
発生要因-その他 【  】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
アルブミンの輸液速度を間違えた。50ml/2hで点滴するところを30分で点滴してしまった。他の患者の処置と重なり、実施後に確認にするのが遅くなった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
点滴を実施する手順に沿って行えていなかった
他の患者の処置と重なった

 ■実施したもしくは考えられる改善策
点滴実施時の手順に沿って行う
業務調整がつくように時間配分をする



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
点滴を実施する手順に沿って行えていなかったということですが、アルブミン輸液の指示、確認まではルールどおりに行っていたのでしょうか。実施の段階で滴下数のセットができなかったということでしょうか。
他の患者の処置と重なったということですがその処置は緊急性が高かったのでしょうか。
エラー発生後の患者さんに障害はなしということですが、患者さんの状態がわかると、この指示がなぜこうであったか判断がしやすいと思います。
速度の調整は器械なのか、手動だったのでしょうか
勤務の管理に不備とありますが具体的にどういうことかわかるとあるいは「慌てていた」ということと関連するのかもしれませんね。

 ■改善策に関するコメント
 患者さんの状態の把握
 アルブミンを50ml/2hという指示から推測すると、この点滴によって心臓への負荷を最小限に実施する必要がある患者さんであったと思われます。25%アルブミン(アルブミン 12.5g)の輸注は約250mlの循環血漿量の増加に相当する1)といわれており、注入速度によって肺水腫や心不全等を発生する危険も考えられ生命への危険も危惧されます。まず受け持ち患者の状態をよく把握した上で点滴を実施する必要があります。
 準備と確認
 注射実施にあたっては、当然のことながら、指示書と薬品をトレイに入れて患者のベッドサイドまで運び、そこで指示と薬品の確認、注射方法の確認をして実施し、実施後最終確認を行うことを習慣化することが必要です。
 滴下数の確認
 末梢静脈点滴という記載からみると、手動で滴下を調整したと思われますが、アルブミンは粘調度も高く単独で注入するにしても指示どおりに滴下させるためには頻回に確認し、滴下を調整することが必要です。可能な限り輸液ポンプを使うことをお勧めします。
 業務中断時の対応
 輸液の滴下をセットしている際に、急に声をかけられたり、他の患者さんに手を貸さなければならかったりするような事態は往々にして起こります。一般に看護師は常に追い立てられているような心理状態で業務をしていることが多く、先へ先へと気持ちが動き、中断を契機に前の業務を忘れることもあります。業務の優先度を判断して業務に集中できる体制を整えることや、業務実施後の確認を習慣づけることが必要だと思います。
 また、状況によっては他の看護師に応援を求めることも必要です。



1)赤十字アルブミン25
  http://www.cbc.or.jp/mr/bunkakutempuhtml/alb25sim.htm



  事例:439 (医師の不明確な指示により生じた薬剤の濃度の間違い)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【11月】 発生曜日【火曜日】曜日区分【休日】発生時間帯【16時〜17時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【86歳】
患者の心身状態【症状安静,せん妄状態】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【11年7ヶ月】
当事者の部署配属年数【2年7ヶ月】
発生場面 【末梢静脈点滴】
(薬剤・製剤の種類) 【その他の薬剤(利尿剤)】
発生内容 【過剰投与】
発生要因-確認 【確認が不十分だった】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【判断に誤りがあった】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【医師と看護職の連携不適切】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
ラシックスの持続点滴の指示があり指示欄には「ラシックス100mg/20ml」となっていた。これを見てラシックスは原液で使用するものと思い込み、ラシックス1アンプル100mg(10ml)の物を2アンプル準備し、原液で準備した。スタート直後他の看護師がカルテを持って来たのでもう一度準備した注射筒のラベルと照合したところラシックス100mgを倍に希釈して総量を20mlにするのではないかと指摘を受けた。指示した医師に確認して間違いがわかった。スタート後すぐにとめたので体内には注入されていない。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
原液で使用する経験が多く原液と思い込んでしまったこと。
指示欄の書き方が原液なのか希釈なのかわからなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
組成を確認した上で作成する。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
事例の具体的内容では、過誤が発生した状況とそれにより引き起こされた結果が明解に記されています。

 ■改善策に関するコメント
本事例は、実施者が指示を読み取る際、指示者の意図と異なった解釈で理解した事案です。この事案では、機器・材料の予想困難な不具合はふくまれておらず、人的な過誤が原因となって危険が生じたと考えられます。

過誤に関わる医薬品・医療器材
ラシックスはアベンティス ファーマ株式会社が製造・販売する、利尿薬であるフロセミド製剤であり、1アンプル2mlでフロセミド20mgを含む製剤と1アンプル10mlでフロセミド100mgを含む製剤の2種類が存在します。

過誤の原因
 [主たる過誤:意図と矛盾した指示の発生]
 本事例の主たる過誤は、指示者がフロセミド100mgを総量20mlに希釈して投与する意図を持ち「ラシックス100mg/20ml」と記したにもかかわらず、実施者はこの記載をラシックス100mg製剤で20ml分(薬剤量としてフロセミド200mg相当)を投与すると解釈した点です。
 過誤が生じた作業は、一定の規則にしたがって指示の意図を表現し(指示を記載し)、同じ規則にしたがって指示の意図を読み取り、指示の意図を理解する作業です。
 この過誤の発生原因は3つ想定されます。
 (1)ラシックス100mg/20mlと記された場合、「使用するのはラシックスのいずれの規格かは問わず」「フロセミド100mgを」「何らかの溶解用薬液で20mlにして」投与するという意味であることを、実施者が知らなかった。(知識の不足)
 (2)ラシックス100mg/20mlと記された場合、「使用するのはラシックスのラシックス100mg製品を使用し」、「フロセミド100mgを薬液総量として20ml」投与するという意味であると、実施者が誤解していた。(知識の誤り)
 (3)ラシックス100mg/20mlと記された場合、どのようにこれを解釈するかの規則が定められていなかった。(規則の不存在)

過誤の防止対策
 医療事故の防止を実際に実現するためには、過誤の発生原因が、以上のどれにあたるのかをさらに追求し特定した上で、
 知識の不足・誤りに対しては、(初期・継続)教育の提供、知識の評価、力量の評価、力量評価に応じた権限付与
 規則の不存在に対しては、規則を作成し、教育し、知識を評価する必要があります。

 本事例では、報告者が「事例が発生した背景・要因」として、「指示欄の書き方が原液なのか希釈なのかわからなかった」と指摘しています。この記述からは原因が、上記の(1)(知識の不足)であるか、(3)(規則の不存在)であるかは不明確が、いずれかであると考えられます。

 したがって、
a)ラシックス100mg/20mlと記された場合、どのようにこれを解釈するかの規則が病院内で定められているかを確認し、定められていない場合は、これを病院内で統一して定めること
b)定められた規則を、この指示を出し・あるいは読み取る可能性のある全職員に教育し、知識の定着を確認すること
 が対策となります。

 なお、JCAHO( Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations) の2004 National Patient Safety Goalsでは、
 2)医療従事者間での意思疎通の有効性を改善する
 b)医療機関内全体で略語、同義語、記号を標準化すること。これには、使用してはならない略語、同義語、記号のリストを含む。 [Scored at Standard IM.3.10, EP #2]
 と基準をさだめ、認証を受けている病院に遵守を求めています。



 
事例:444(薬剤性の発疹が生じた事例の薬剤変更時に、医師へのコールの指示を忘れ看護師が単独で実施した事例)

  発生部署 (集中治療室)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【11月】 発生曜日【土曜日】 曜日区分【休日】 発生時間帯【16時〜17時台】
発生場所【その他の集中治療室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【不明】
患者の心身状態【意識障害,構音障害,上肢障害,下肢障害】
発見者【他職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【1年7ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年7ヶ月】
発生場面 【末梢静脈点滴】
(薬剤・製剤の種類) 【循環器用薬】
発生内容 【投与方法間違い】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【 】
発生要因-判断 【判断に誤りがあった】
発生要因-知識 【 】
発生要因-技術(手技) 【 】
発生要因-報告等 【 】
発生要因-身体的状況 【 】
発生要因-心理的状況 【慌てていた】
発生要因-システムの不備 【 】
発生要因-連携不適切 【 】
発生要因-勤務状態 【 】
発生要因-医療用具 【 】
発生要因-薬剤 【 】
発生要因-諸物品 【 】
発生要因-施設・設備 【 】
発生要因-教育・訓練 【 】
発生要因-患者・家族への説明 【 】
発生要因-その他 【 】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
脳内出血の患者。ヘルベッサーの持続点滴で降圧を図っていたが薬剤性の発疹が認められたため、ペルジピンへの変更の指示が出された。指示には「ペルジピン開始。開始時DrCall。」と記載されていたが、実際には、Dr不在のまま、ヘルベッサーを中断し、ペルジピンを開始した。訪室した医師に発見された。指示はペルジピン開始後に暫時的にヘルベッサーを減量していく予定であった。医師の指示に従い再度ヘルベッサーを開始し、患者の血行動態に変化はなかった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
指示の不十分な理解。指示の不履行。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
指示を確実に理解する。不明瞭な内容については、確認する。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
以下のような情報が記述されていると、より具体的な改善策を講じられます。
 指示に、ヘルベッサーを漸次減量しながらペルジピンを開始する旨も記載されていたか。
 指示受けから薬剤変更の実施までに関与したのは誰か。
 その当時の病棟の状況(忙しさ等)。

 ■改善策に関するコメント
 指示内容に「DrCall」と記載がある場合、指示の実施時に医師を呼ぶことが大前提です。ペルジピンを減量しながらヘルベッサーを開始する旨があらかじめ指示書に記載されていたのか、あるいは、口頭の指示であったのかが不明ですが、記載されていたのであれば、なぜ「ペルジピンを開始する」部分しか指示受けしなかったかについて明確になれば(見落としたか、忘れたのかなど)対応策の検討が容易になります。また、記載されていなかったとすれば、医師の指示の出し方に問題があります。いずれにしても、薬剤変更時の指示の書き方、受け方について病院内、病棟内でルール化する必要があります。改善策に「不明瞭な内容については、確認する」とあるので、やはり、記載が十分でなかったことが考えられますが、その都度確認するだけでなく、日頃からルールについて医師と看護師が話し合い、不明瞭な部分を改善することが必要です。
 また、当事者が、降圧剤の作用・副作用に関する知識や薬疹が出ている患者の全身状態について理解があれば、なぜ、DrCallが必要なのかを理解できたと考えられます。DrCallを実施しなかった理由は、事例内容から伺うことができませんが、薬剤性の発疹が認められ、ペルジピン開始の指示が出されていますから、患者の急激な変化に業務経験1年7ヶ月の看護師が慌てて、早くペルジピンを止めなくてはいけないと思い込んでしまったことも考えられます。
 発生時間も16〜17時台ですから、三交代制であれば勤務交代時で十分に対応できなかったことも考えられます。こう仮定した場合、勤務交代時であっても緊急を要し、また重要な指示変更であるので、看護師と医師の間において、指示内容の確認を指示書を見ながら行うことが必要と思われます。
 患者の反応を確かめながら、新しい薬剤を実施するという、医師の考えを理解して指示を受けるのは、1年7ヶ月の看護師には難しい課題ではないかと考えられます。可能であれば、このような指示を受ける看護師の経験のレベルなども標準化しておくことも考える必要があるかもしれません。もし夜間帯で経験の少ない看護師しかいないような現場の場合、医師が十分注意をして詳細な指示を出す必要があるため、看護管理部門と医師部門との調整が必要と考えられます。
この事例では、誤りが医師の訪室によって発見されましたが、患者は、降圧剤のアレルギーがあった患者であることを理解していれば、新しい薬剤で同様のことが起きないかを注意深く観察すると同時に、医師にその結果を報告する必要があり、それによって、さらに早期に発見できる可能性があったと考えられます。



  事例:511(類似アンプルの取り違えによる与薬エラー)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴) 薬剤誤認)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【10月】 発生曜日【金曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【10時〜11時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】患者の年齢【55】
患者の心身状態【不明】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師 】
当事者の職種経験年数【6ヶ月】
当事者の部署配属年数【6ヶ月】
発生場面 【静脈注射】
(薬剤・製剤の種類) 【その他の薬剤 ステロイド剤】
発生内容 【薬剤間違い】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【】
発生要因-知識 【】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【】
発生要因-心理的状況 【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備 【】
発生要因-連携不適切 【】
発生要因-勤務状態 【】
発生要因-医療用具 【】
発生要因-薬剤 【薬剤の色や形態が似ていた】
発生要因-諸物品 【】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【】
発生要因-患者・家族への説明 【】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
10時・20時に水溶性プレドニンのIV指示があった。10時半に予定時間より遅れて水溶性プレドニンを生食20mlに溶解してIVした。12時からの点滴内にガスター1Aを混注しようと準備をしていてガスターがなくプレドニンが2本残っているのに気付いた。医療廃棄物入れを確認してもガスターの空アンプルはあるがプレドニンの空アンプルはなかった。10時半にIVした時、プレドニンのアンプルを準備したつもりだったが、間違ってガスターをIVしたことが判明した。患者に間違ったことを謝罪し、改めてプレドニンのIVを実施した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
ガスターとプレドニンは良く見るとアンプルの大きさ・表示が違うが、白い粉末のアンプルであるため思い込んでしまった。
点滴に混注する薬品もIVの薬品も小さなプラスチックのトレイの中に一緒に入っているためプレドニンをとったつもりがガスターを取っていた。
看護師は、注射箋と薬品名を確認して準備したつもりだったが、アンプルから吸い上げる時,アンプルを廃棄する時に薬品名の確認をしていなかった。3度の確認をしなかった。
病棟の看護体制は固定チームナーシングで、看護師はチームを変わって日が浅くこれまでに経験したことのない処置がたくさんあり、時間に追われて焦っていた。
注射カートを使用して、薬剤科より患者個人個人に分かれた引き出しで払いだされて間違いを少なくしていたが、各病棟2台のカートで運用のため、休日前は、1台に2日分入って払い出される。遅出看護師が、空いたカートに1日分引き出しを入れ替える作業をしているので、注射の準備・実施を行った看護師は、遅出が仕事をしやすいように10時から注射薬をすべてワゴン車に移し替えて間違いの起きやすい環境で準備していた。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
3度の確認(薬液を準備する時・薬液を注射器に吸う時・薬液の容器を廃棄する時)を注射箋と薬品のラベルで声を出して実施する。
患者に実施するまでIV時には空アンプルと注射器を側に置いておき患者の側で再度注射箋と確認をして実施する。
遅出の作業を優先させるのではなく、患者の安全を考慮し、できるだけ間違いのおきにくい環境で作業をする。ワゴン車に一緒に乗せない。
注射カートは増やして入れ替え作業をしなくていいように検討依頼中。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
発生した内容については情報が網羅されています。ヒヤリ・ハットの発生した要因と併せると背景要因も推定できます。抜本的な改善策を考えるためには、固定チームナーシングにおける与薬・その他の業務分担はどのようになっていたのか、準備すべき注射薬はどのくらいあったのか、作業環境はどのようになっていたのかなどについても情報を整理しておくことが必要になります。

 ■改善策に関するコメント
この事例で取り違えられたプレドニンとガスターは、全体の印象は似ていますが大きさ、外見共に異なっており、他の状況下でも取り違いが発生するほど類似しているわけではありません。この事例の場合、新人看護師が時間切迫の中で不慣れな作業を行っていた、という状況が誤りを誘発したと考えられます。

取り違えを誘発した要因
 この事例では上記のような実施者の条件のほかに、
 ○ 注射カートに2日分の注射薬が積まれていた(通常の2倍量の薬剤)
 ○ カートからワゴンへの注射薬積み替えが行われていた(業務量の増加と混雑した作業環境)
 という状況が発生していました。注射カートを使用している施設は少なくありませんが、カートを置くスペースの問題、カート購入の費用の問題などから、実際に必要な台数を揃えられない場合は、この事例のような状況が発生しがちです。これでは、せっかく患者一人ひとりの個別払い出しになっている意味が半減してしまいます。まず、カートを運用する方法を検討し、必要台数の確保を行うか、休日分の薬剤払い出しの方法を見直す必要があります。また、移動するにしても薬剤がばらばらになったり他患の薬剤と混じらない方法で行われる必要があります。これは一部署だけの問題ではないので、施設全体の見直しが必要になるでしょう。

薬剤準備に関する業務分担
 次に、薬剤準備の業務分担に無理はなかったのでしょうか。業務別に割り当てを行うのであれば与薬業務だけに専念することも可能ですが、不慣れな処置というところを見ると、担っていた業務は与薬だけではなかったようです。注射の準備や実施は、途中中断や時間切迫があると手順のスキップや誤認が起こりやすく、それだけに集中して作業できる環境・業務分担が望まれます。与薬業務が少なく、他の業務の合間に無理なく行えるのであれば別ですが、そうでないのならチーム全体の業務分担を見直す必要があります。
 また、使用までの時間に制約のある薬剤や臨時薬は困難でも、その他の薬剤については薬剤部門で準備するという対策も有効です。この方法は作業環境が整えやすく、衛生面でもメリットがあります。準備を薬剤部門が全面的に担うことが困難でも、特に与薬業務の多い部署や誤ると危険の高い薬剤についてなど、リスクが高い部分から対応する方法もあります。与薬業務に関する役割分担は、安全管理に関する委員会などで医療機関全体で検討する必要があるでしょう。

薬剤の確認方法
 この事例で、看護師は準備段階で確認したつもりで、それ以降薬剤名を確認せずに準備を進めています。薬剤の取り間違えという「スリップ」によって発生したエラーは、引き続き起こった確認忘れという「ラプス」によって訂正の機会がなく実施されたということになります。改善策では3度の確認が上げられていますが、これまでの報告事例でも、これが現実にはなかなか実施されていません。単に「3度声を出して確認しましょう」と注意喚起するのではなく、声を出す、指で指すなど「外化」による注意集中の意味、自己モニタリングの効果などについて、教育プログラムに組み込むことで、行動化の動機付けを行っていく必要があるでしょう。
 しかし、この方法だけでは対策として限界があることは明らかです。やはり、物理的に取り違えが起きにくい条件を整備することが、この事例では何より有効であると考えられます。
スリップとラプスについては、J・リーソン:ヒューマンエラー―認知科学的アプローチ―,海文堂,1994.などをご参照ください。



  事例:529 (不完全な確認で生じた患者誤認による誤与薬)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【11月】 発生曜日【土曜日】 曜日区分【休日】 発生時間帯【8時〜9時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【70】
患者の心身状態【不明】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【13年】
当事者の部署配属年数【 5年】
発生場面 【静脈注射】
(薬剤・製剤の種類) 【その他の薬剤】
発生内容 【薬剤間違い】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【判断に誤りがあった】
発生要因-知識 【】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【】
発生要因-心理的状況 【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備 【】
発生要因-連携不適切 【】
発生要因-勤務状態 【】
発生要因-医療用具 【】
発生要因-薬剤 【】
発生要因-諸物品 【】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【】
発生要因-患者・家族への説明 【】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
痰が多い患者で自己での痰喀出困難であった。前勤務時にビソルボン1A静脈注射の指示があり、今朝も注射器にA様と記入された紙が貼ってあったラシックスをビソルボンと思いこみ実施してしまった。すぐに気付きルート交換した。患者様はB様であり、名前はフルネームで記入されておらず、名前の一文字しか確認していなかつた。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
ビソルボンの指示の思いこみ(指示内容の確認)
患者氏名の確認不足

 ■実施したもしくは考えられる改善策
指示は指示簿と処方箋で薬剤と照合
氏名はフルネームで記入する。
準備と実施者は同一の者が行う。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
痰喀出困難の患者であったと記載されていますが、病名、病状など患者像が具体的に記されていると良いでしょう。また注射の実施にあたっての指示確認から実施にいたるまでの通常のマニュアルはどのようになっているかの記載もあると問題点が一層明確になると思います。

 ■改善策に関するコメント
 この事例では、薬剤が指示票も空アンプルもなく単独で置かれていたと推測されます。今回のように前日の指示の記憶だけを頼りにして業務を行ったことは論外ですが、万一やむ得ずそのような事態になった場合や、準備と施行で人が違った場合でも、指示票と薬剤及び空アンプルを実施終了まで一緒に置いておくことをルール化することで、間違いを防ぐことができたと考えられます。
 また、患者確認行為においては、表示も含めてすべてフルネームとし、実施直前においてもフルネームで確認することをルール化し実践することが必要です。

 事例の背景には情報伝達のエラー(コミュニケーションエラー)が存在していると考えられます。事故防止のためには的確な情報の伝達が重要です、。現場での業務の進め方の改善点として提言されていることが以下の4点です。

1.必要最少限のコミュニケーションを的確に行う(途中の業務を引き継がないようにするか、引き継ぐ場合は、確実に理解した上で引き継ぐ)
2.曖昧な業務を引き受けない(自分の業務範囲以外の仕事を、明確な依頼や許可がないまま行わない(気をきかしてやってあげる習慣を止める、明確に自分に向けられた情報ではない曖昧な情報で動かない)
3.ルールを明確にする(暗黙のルールは、明確なルールとして基準化する)
4.思い込みが生じにくい環境を整備する(「曖昧をよし」とする組織・風土を是正する、暗黙のルールを明確なルールにする)


【参考資料】
 ○ 医療従事者間のコミュニケーションの実情とコミュニケーションエラーによる事故防止対策
 看護管理 2004 Feb Vol.14 No.2



  事例:538(口頭指示の間違いに気づかずそのまま実施して生じたインシュリンの過剰与薬)

  発生部署 (手術部門)  キーワード(与薬(注射・点滴))


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【12月】発生曜日【金曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【12時〜13時台】
発生場所【手術室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【34歳】
患者の心身状態【麻酔中・麻酔前後】
発見者【同職種者】
当事者の職種【医師】
当事者の職種経験年数【3年8ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年8ヶ月】
発生場面 【静脈注射】
(薬剤・製剤の種類) 【抗糖尿病薬】
発生内容 【過剰投与】
発生要因-確認 【確認が不十分だった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【】
発生要因-知識 【】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備 【作業マニュアルの不備】
発生要因-連携不適切 【医師間の連携不適切】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【          】
発生要因-教育・訓練 【教育・訓練が不十分だった】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
 術後、回復室で血糖が400mg/dlであったため、手術室の責任者が担当者にヒューマリンR4単位を静脈注射するよう指示した。その際、0,04mlであるところを0,4mlと指示し、担当者はそれが40単位であることを確認せず、そのまま側管から静脈注射をした。40分後にミスに気づき、病棟に行って血糖チェック、バイタルチェックを行った。血糖は幸い300台で意識レベルも正常で低血糖症状はなかった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
口頭指示の際、復唱確認するということが守られなかった。
インスリンの使用に慣れていなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
口頭指示時、指示受け者の復唱確認ルールを徹底する.
微量のインスリン静脈注射の際、正確な量をワンショットで静脈注射をする方法を徹底する。たとえば、インスリン0,1mlを生食に入れて10mlにし、1ml1単位で使用する。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
事例の具体的内容では、過誤が発生した状況とそれにより引き起こされた結果が明解に記されています。

 ■改善策に関するコメント
本事例は、指示者が誤った指示を行ったという事案です。この事案では、機器・材料の予想困難な不具合はふくまれておらず、人的な過誤が原因となって危険が生じたと考えられます。

過誤に関わる医薬品・医療器材
ヒューマリンRは日本イーライリリー株式会社が販売する抗糖尿病薬で、1バイアルに10mlの薬液が入り、薬液1mlにヒト・レギュラーインスリン(遺伝子組換え)製剤で100単位を含むMulti Dose Vial製剤です。

過誤の原因
 [主たる過誤:意図と矛盾した指示の発生]
 本事例の主たる過誤は、指示者がこの薬剤を4単位投与する意図を持ったにもかかわらず、指示では(40単位に)相当する「0.4ml」の投与を指示したことです。
 過誤が生じた作業は、この製剤の性質(1mlあたりの薬剤含有量)を想起し、自分の意図(ヒト・レギュラーインシュリン4単位を投与する)と組み合わせて、投与量を製剤量で指示する作業ですので、Knowledge Baseの行動であると考えられます。
 この過誤の(指示者側での)発生原因は2つ想定されます。
 (1)ヒューマリンRが、ヒト・レギュラーインシュリンを1ml当たり100単位含有することを知らず、1ml当たり10単位含有すると理解していた。(知識の誤り)
 (2)ヒューマリンRが、ヒト・レギュラーインシュリンを1ml当たり100単位含有することを知っていたが、4単位が何mlに相当するかを暗算するさいに、1ml当たり10単位と誤った想起をして、計算した。(記憶の誤り)

 [付随する過誤:意図と矛盾した指示の見落とし]
 本事例の付随する過誤の第一は、この指示を受けた側が、ヒト・レギュラーインシュリン4単位投与という意図を知っていながら、ヒューマリンR 0.4ml投与指示(40単位相当)との矛盾を発見できなかったことです。
 この原因は3つ考えられます。
 (1)上記(1)に同じ
 (2)上記(2)に同じ
 (3)指示受けした内容の妥当性を考えなかった。(妥当性を考える義務が課せられていなかったか、あるいは妥当性を考えることを失念したかのいずれか)

 [付随する過誤:手順の不遵守]
 付随する過誤の第二は、誤りを発見するための手順として定められた「口頭指示の際、復唱・確認するということが守られていなかった」点が挙げられます。例え、この手順が遵守されていたとしても、誰が指示の「意図」と指示の「言葉(表現)」の違いを確認する責任を負うのかが明確でなければ、「意図」と「言葉」の食い違いを発見することはできません。この責任の所在が明確であったとするならば、このような復唱・確認が行われなかった原因は
 (1)復唱・確認手順が定められていることを知らなかった。(教育されていなかった)(知識の誤り)
 (2)復唱・確認することを失念した。(記憶の誤り)
 (3)復唱・確認手順を実施しなくてもよいという理解が、その職員のうちにあった。(不遵守)
 の3つが考えられます。
 復唱確認手順の不遵守は、過誤の発見を困難にしたという効果はありますが、過誤の発生には寄与していませので、過誤の予防という視点から考えたときも、副次的な重みとなります。

過誤の防止対策
 医療事故の防止を実際に実現するためには、過誤の発生原因が、以上のどれにあたるのかをさらに追求し特定した上で、
 知識の誤りに対しては、(初期・継続)教育の提供、知識の評価、力量の評価、力量評価に応じた権限付与
 記憶の誤りに対しては、記憶に依存しない業務設計とその業務設計の遵守
 不遵守に対しては、不遵守の原因の洗い出しを行った上で、教育・業務設計・考課を用いて遵守を確保する必要があります。
 本事例では、報告者が「事例が発生した背景・要因」として、復唱確認の手順の不遵守とならび、(指示者あるいは指示を受けた人が)「インシュリンの使用に慣れていなかった」ことを指摘しています。これが過誤を引き起こした主たる原因であると報告者は判断しています。
 したがって、インシュリン使用を含む医薬品に関する知識・経験の付与(初期・継続教育の提供、知識の評価、力量の評価、力量に応じた権限付与を、状況に応じて組み合わせて対策とすることになります。
 なお、医薬品といっても、過誤が生じた場合に生じる影響の大きい医薬品と小さい医薬品があります。過誤が生じた場合に生じる影響が大きい医薬品は、現在の薬事制度上も劇薬・毒薬・麻薬などという区分が存在しますが、医療現場では要注意医薬品(High Alert Medications)という形で何がそのような影響の大きい医薬品であるかを予め特定しておくことが望ましいと思われます。
 JCAHO(Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations)のSentinel Event Alert Issue 11 - November 19, 1999 “High-Alert Medications and Patient Safety”では、インシュリン、麻薬および鎮静剤、高濃度カリウム注射薬、静脈注射用抗凝固剤(ヘパリン)、0.9%を超える濃度の塩化ナトリウム溶液が挙げられています。
 このほかに、High Alert Medicationのリストとしては、ISMP(Institute for Safe Medication Practices)が作成しているリスト(ISMP's list of high-alert medications)が存在します。(http://www.ismp.org/MSAarticles/highalert.htm)これを参照すると、カテコールアミン類、静脈注射用抗不整脈薬、抗腫瘍薬などもHigh Alert Medicationsにふくまれています。
 これらのリストを参考に、他の医薬品とは異なった注意を払うべき薬剤を病院内で制度化することは有効と期待されます。
 なお、High Alert Medicationsについては、JCAHOは2004年National Patient Safety Goalという基準で、
 a)高濃度電解質(塩化カリウム、燐酸カリウム、0.9%を超える濃度の塩化ナトリウム溶液を含むが、これのみに限定はしない)を病棟(patient care units)におかないこと。[Scored at Standard MM.2.20, EP #9]
 b)医療機関におかれる高濃度医薬品の数を標準化して制限すること。[Scored at Standard MM.2.20, EP #8]
 を、病院に求めています。
 また、使用器材についても、インシュリン専用シリンジを使用すれば4単位をmlに換算する必要がありません。



 
事例:550(教育・管理体制の不備のために生じた初心者による化学療法の中断と遅れ)

  発生部署 (病棟)  キーワード(注射・点滴、化学療法)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【12月】 発生曜日【水曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【20時〜21時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【63】
患者の心身状態【歩行障害】
発見者【他職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【当事者複数】
当事者の部署配属年数【当事者複数】
発生場面 【末梢静脈点滴】
(薬剤・製剤の種類) 【その他の薬剤 制吐剤 副腎皮質ホルモン】
発生内容 【無投薬】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【】
発生要因-判断 【判断に誤りがあった】
発生要因-知識 【知識が不足していた】
発生要因-技術(手技) 【】
発生要因-報告等 【】
発生要因-身体的状況 【】
発生要因-心理的状況 【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備 【】
発生要因-連携不適切 【医師と看護職の連携不適切、看護職間の連携不適切】
発生要因-記録等の記載 【記載漏れ】
発生要因-勤務状態 【】
発生要因-医療用具 【】
発生要因-薬剤 【】
発生要因-諸物品 【】
発生要因-施設・設備 【】
発生要因-教育・訓練 【】
発生要因-患者・家族への説明 【】
発生要因-その他 【】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
化学療法のプロトコールに沿って点滴が開始された。看護師は初めての経験であったが主治医とスケジュール調整や点滴内容の確認は行わず、指示表も正確に理解しまいまま1枚目に書かれていた点滴が終了した時点で「終わり」と思いこんでルートをロックしてしまった。次勤務者は看護師の実施サインがないことと17時で終了してしまっていることに疑問を持ち実施看護師に尋ねたが「これで終了」と看護師が答えたためそのままにしてしまった。20時に主治医が患者が点滴を持続していないことに気がつきNO2に書かれていた点滴も接続することが解り、3時間遅れで再開始した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
化学療法に対する認識の欠如
化学療法に対する取り決め事項の不徹底

 ■実施したもしくは考えられる改善策
化学療法に対する認識を改める教育の実施
化学療法実施要領を病棟全体に周知徹底させる。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
事例の背景、すなわち、医療プロセスや医療体制などの環境要因を分析するために、以下のような情報が必要です。
当事者に関するもの:実施者、発見者の化学療法に関する経験や院内での教育経歴
業務分担に関するもの:点滴のミキシング、実施、交換など、医師、薬剤師、看護師の業務分担のルールと実際
注射、化学療法に関する教育の実態:院内全体の教育体制、部署での教育体制
プロトコールに関するもの:内容、内容の周知のされ方
指示表に関するもの:フレーム、記入されている内容、使用上の約束事など

 ■改善策に関するコメント
 1.化学療法と静脈注射に関する教育・管理体制の整備
 事例のエラー自体は、思い込みによる指示表の見落としという単純なものです。しかし、初心者の看護師が単独で化学療法を実施している点は、看過できない重要な問題です。点滴という医療行為は、単なる作業ではありません。高度な判断のできる専門職によってのみ実施が許される、責任を伴う医療行為です。ましてや、重要薬剤である抗がん剤の点滴管理は、化学療法に対する理解と経験のない初心者の看護師に任せるべき診療補助行為ではありません。病院組織全体で、早急に、化学療法を含めた注射・点滴に関する業務分担や教育体制作りに取り組む必要があると考えます。
 平成14年、厚生労働省により「看護師による静脈注射は診療の補助行為の範疇である」という法解釈の変更がなされ、平成15年4月には、日本看護協会から「静脈注射の実施に関する指針」が出されました。この指針では、化学療法の点滴静脈注射の管理は、レベル3、すなわち、“医師の指示に基づき、一定以上の臨床経験を有し、かつ、専門の教育を受けた看護師のみが実施することができる”と位置付けられています。
 したがって、病院の管理者は、点滴管理をはじめとする静脈注射の業務に関する施設内基準や手順の整備、人材育成、卒後教育を含めた安全確保のための環境整備を、早急に行なわなければなりません。
 一方、化学療法に直接携わる医師、看護師、薬剤師等は、静脈注射や化学療法に関して、医療チームの中で各職種が負うべき役割と責任について十分理解した上で、実施に必要な知識や技術の習得に努めなければなりません。特に化学療法においては多量投与による事故の発生が見られることや、薬剤調整時の抗がん剤の吸入や皮膚への付着など医療従事者への危険性の問題などを考えると、薬剤師の関与が不可欠だと考えられます。組織として患者にとっても医療者にとっても安全に化学療法が実施できるよう体制整備をする必要があります。
 また、医療職の養成機関においては、この点に関する基礎教育の充実を図る必要があります。

 2.プロトコールを反映した指示表の工夫
(1)  化学療法1クールの点滴内容全体を一目できるフレーム
(2)  化学療法に対して注意を喚起するようなデザイン
 この事例では、指示表が2枚以上に及んでいたため、2枚目以降が見落とされてしまっています。膨大な化学療法の点滴メニューを一まとまりにするのには工夫が必要ですが、大判の指示表を用いたり、2枚目以降の指示表があることを示す工夫を凝らしたりして、化学療法の流れの全体像が一目瞭然に掴めるようにすることが、思い込みを防止する上で重要となります。
 また、化学療法の指示表用紙の規格や色を変えることにより、化学療法に対する注意を喚起することができます。そうすれば、チームとして必要な観察や対応を行いやすくなるので、実践をとおして化学療法における教育効果を高め、看護の質を高めるのではないかと期待されます。

 3.確認の意図を伝えるコミュニケーション
 この事例では、次勤務者が未実施の可能性に気付いて確認行動を起こしたにも関わらず、間違い発見のチャンスを逸している点に注目する必要があります。実際にどのような言葉で「尋ねた」のかについて記載はありませんが、「これで終了」という前勤務者の返答から、“点滴はこれで終了ですか?”に近い尋ね方だったのではないかと推測されます。これでは意図が伝わりません。“実施サインがないこと”や“17時で点滴が終了してしまっていること”の事実から、“後続の化学療法が実施されていないのではないか”という疑問を持ったのですから、何故確認をしているのか、尋ねる理由が伝わるような聞き方が重要になります。例えば、「次の点滴がプロトコール通りに実施されていませんが、何か理由があるのですか。」とか、もっと率直に「次の点滴を忘れていませんか」でも良いでしょう。
 また、このやり取りの祭に、指示表を見ながら確認し合うことも重要です。口頭でのやり取りでは、お互いがイメージする内容にギャップが生じやすいので、書面を用いて確認や共通理解を確実なものにすることを習慣化させましょう。

 4.フィードバックを業務上の役割・責任として位置付ける。
 医療は分業と仕事の受け渡しによって行われています。スイスチーズモデルやスノーボールモデルで説明されているように、医療プロセスのどこかで発生したエラーが阻止されないまま実施された場合に「事故」に至ります。個々人がエラーの発生を防ぐ努力や業務上の工夫を行うことは勿論重要ですが、“人は誰でも間違える”という前提に立って、“ここに至る医療プロセスに問題はないかをチェックし、間違いを発見し、間違いを訂正するのも仕事のうち”と位置付けることが大切です。
 このようなフィードバックを個人の努力や善意として潜在化させてしまうのではなく、正当な業務として位置付けるには、確認行動の証拠をサインで残すなどの、実際的な工夫が必要でしょう。


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