1. | 分析対象の全般コード化情報
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2. | 分析方針 |
1) | 収集した事例について,頻度を単純集計した.なお,発生場面,発生内容については,患者の性別ごとの集計も行なった. |
2) | 収集した事例について,項目間の相互関係を把握するため,それらのクロス集計を行なった. |
3) | 報告事例の多い「処方・与薬」「ドレーン・チューブ類の使用・管理」「療養上の世話,療養生活の場面」および影響度の大きい事例の割合が高い「医療機器の使用・管理」「輸血」については,該当するデータを抽出のうえ,項目間のクロス集計を行なった. |
3. | 分析項目 |
<単純集計>
以下の項目について単純集計を行なった.
・ | 発生月 |
・ | 発生曜日 |
・ | 発生時間帯 |
・ | 発生場所 |
・ | 患者の性別 |
・ | 患者の年齢 |
・ | 患者の心身状態(多重回答) |
・ | 発見者 |
・ | 当事者の職種(多重回答) |
・ | 当事者の職種経験年数 |
・ | 当事者の部署配属年数 |
・ | ヒヤリ・ハット事例が発生した場面 |
・ | ヒヤリ・ハット事例が発生した要因(多重回答) |
・ | 間違いの実施の有無および事例の影響度 |
<クロス集計>

4. | 分析結果 |
1) | 全事例【51,119事例】 |
○発生時間帯【図1−3】
6〜7時台になると増加し、8〜11時台にほぼピークとなり、12〜19時までなだらかな減少をたどり、20時以降さらに減少するという日内変動を示している。
○患者の性別【図1−5】
男性患者に発生したヒヤリハットの件数が女性患者よりも多く、約1.3倍となっている。患者調査によると、入院患者数、外来患者数ともに女性のほうが多いので、男性患者には何らかのリスク要因があることが示唆される。
○患者年齢【図1−6】
71〜80歳、61〜70歳、51〜60歳の順に多く、この3区分で約半数を占めており、中高齢患者のリスク要因が高い可能性がある。また、0〜10歳も7%程度発生しており、小児も何らかのリスク要因を有する可能性がある。
○発見者【図1−8】
当事者本人が発見する事例が最も多く(23497例、46%)、次いで同職種者(16614例、33%)、他職種者(5133例、10%)となっている。
○職種経験年数、部署配属年数【図1−10、1−11】
職種経験年数、部署配属年数ともに年数0年によるヒヤリハットが最も多く、年数がたつにつれて件数も減少している。新入職員および部署異動後の教育・指導体制の充実が求められる。
○発生場面【図1−12】
高頻度群として処方・与薬(13716例、26%)、ドレーン・チューブ類の使用・管理(7155例、14%)、その他の療養生活の場面(4010例、7.8%)となっており、これらで全体の半数を占めている。
○発生要因【図1−13】
これまでと同様、「確認」「観察」「勤務状況」「心理的状況」「判断」が発生要因として多く挙げられている。具体的には「確認が不十分であった」「観察が不十分であった」「判断に誤りがあった」「多忙であった」などが上位に挙げられている。
○影響度【図1−14】
間違いが実施された事例の割合が70%に達していた。
2) | 処方・与薬 |
8〜9時台および18〜19時台に発生頻度が二峰性となっている。
○患者の性別【図2−5】
男性6808例(50%)、女性5344例(39%)と、男性が女性より1.27倍多い。
○発見者【図2−8】
当事者本人による発見よりも同職種者が発見するケースの方が多い。全事例では当事者本人による発見が多いので、処方・与薬の発見者における特徴といえる。
○発生場面・詳細【図2−12】
内服薬、末梢静脈注射の順で多い。また無投薬が3842件と全体の28%を占める。
○影響度【図2−15】
間違いが実施された事例が11011例、80%となっており、未然に防止しにくい。
3) | ドレーン・チューブ類の使用管理 |
22〜1時台にピークがあるが、全体として時間帯による差はすくない。
○患者の性別【図3−5】
男性3976例、女性2514例と、男性のほうが約1.57倍の発生頻度となっている。
○患者の心身状態【図3−7】
床上安静、意識障害の患者で多く発生しており、自己抜去などの原因となっている可能性がある。
○発生場面・詳細【図3−12、図3−13】
末梢静脈ライン、栄養チューブ、中心静脈ラインで全体の60%以上を占めていた。
その原因は自己抜去が3430件で全体の48%を占めていた。
○影響度【図3−15】
「間違いが実施」が5708例、80%を占める。実施前に発見したが実施されていれば患者への影響は大きい(生命に影響)と思われる事例が70例(1%)あった。
○発生場面×患者の性別【表3−2】
自己抜去は栄養チューブ、末梢静脈ライン、中心静脈ラインの順で多かった。
4) | 医療機器の使用・管理 |
水曜日、金曜日にやや発生頻度が多いが、理由は不明である。
○発生時間帯【図4−3】
日勤帯に多いが、8〜9時台と12〜14時台に発生頻度が多い。
○患者の性別【図4−5】
男性777例(48%)、女性562例(35%)と、男性が女性より1.38倍発生が多い。
○発見者【図4−8】
当事者本人よりやや同職種者による発見が多い。
○職種経験年数【図4−10】
0年の発生が多い。1年目以降は発生頻度は少ないものの、年数による減少傾向はゆるやかで、経験蓄積によるヒヤリハット予防効果があまり見られない。
○発生場面・詳細【図4−12、表4−1】
人工呼吸器、輸液・輸注ポンプ、酸素療法器で全体の65%を占める。
条件設定間違い、設定忘れ・電源入れ忘れ、医療用具の点検管理ミス、医療用具の不適切使用の順で多い。
○影響度【図4−15】
実施されていれば患者への影響は大きい(生命に影響)と思われる事例が48件(3 %)発生している。
5) | 輸血 |
週日中とくに金曜日に多いが、その理由は不明。
○発生時間帯【図5−3】
日勤帯に多く発生しているが、その中でも14-15時台と10-11時台にピークがある。
○発生場所【図5−4】
病室、ナースステーション、薬局・輸血部の順に多い。
○患者の性別【図5−5】
男性が女性の1.4倍多い。
○患者の年齢【図5−6】
61歳〜70歳,0歳〜10歳にピークが見られた。
○発見者【図5−8】
同職種者、当事者本人、他職種の順で多い。
○職種経験年数【図5−10】
職種経験0年の発生頻度が多い。
○影響度【図5−15】
「間違いが実施」が229件(56%)となっており、実施前に発見したが実施されていれば患者への影響は大きい(生命に影響)と思われた事例が33件(8%)もあった。
これらには結果記入・入力間違い、輸血検査のその他のエラーの順に多かった。
6) | 療養上の世話等 |
曜日の差は認められないが、時間帯による発生頻度は8〜9時台の起床時と16〜17時台にピークが認められるが日中と夜間の差はすくない。
○発生場所【図6−4】
発生場所は病室、その他病棟内、廊下,トイレの潤である。
○患者の性別【図6−5】
男性5040件、女性3791件で、男性は女性の1.3倍の頻度である。
○患者の心身状態【図6−7】
「歩行障害」「下肢障害」を有する患者による発生が多く、転倒・転落のアセスメントなど十分な対策が求められる。
○発見者【図6−8】
5664件(55%)は「当事者本人」が発見している。また、「患者本人」、「家族・付き添い」、「他患者」が発見するケースは合計1801件(18%)発生している。
○発生場面・詳細【図6−12、表6−2】
発生場面としてはその他の場面をのぞけば移動中が多い。発生内容としては転倒5830件、転落1634件で、全体の73%を占める。
○影響度【図6−14】
間違いが実施されたケースが7499例(73%)あり、また実施前に発見されたが、生命への影響度が大と考えられた例が105件(1%)あった。
7) | その他(発生場面×発生内容・クロス集計) |
『オーダー・指示出し、情報伝達過程』では、「誤指示・情報伝達間違い」の頻度が最も高く(36.8%)、なかでも「オーダー・指示出し」359件(15.6%)、「文書による指示受け」234件(10.1%)の頻度が高かった。
○発生場面×発生内容(与薬準備、処方・与薬)(再掲)【表7−2】
『与薬準備、処方・与薬』のなかで「内服」の「無投薬」の頻度が最も高く、2,181件(全体の14.5%)であった。次いで、「内服」の「与薬時間・日付間違い」が751件(4.9%)、「末梢静脈点滴」の「投与速度速すぎ」が737件(4.8%)、であった。
○発生場面×発生内容(調剤・製剤管理等)【表7−3】
頻度の高い項目は、「内服薬調剤・管理」の「薬剤取り違え調剤」が355件(15.8%)、「数量・間違い」が201件(8.9%)、「注射薬調剤・管理」の「薬剤取り違え調剤」が187件(8.3%)であった。
○発生場面×発生内容(手術等)【表7−4】
平成14年集計では「診療・治療等のその他エラー」の頻度が最も高く全体の50%を占めていたが、平成15年集計では「診療・治療等のその他エラー」の頻度が最も高いものの、全体の41.2%であった。そのうち発生場面としては「診察」、「術後処置」、「術前処置」、「リハビリテーション」の順で頻度が高かった。
○発生場面×発生内容(処置)【表7−5】
「末梢静脈ライン」の「方法(手技)の誤り」、「不必要行為の実施」がそれぞれ24件、23件、「その他処置に関する場面」の「未実施・忘れ」、「方法(手技)の誤り」それぞれ44件、41件であった。
○発生場面×発生内容(ドレーン・チューブ類の使用・管理)(再掲)【表7−6】
「自己抜去」が「栄養チューブ」1,098件、「末梢静脈ライン」804件、「中心静脈ライン」460件など合計3,430件で、全体の48.3%であった。次に「自然抜去」で、「栄養チューブ」、「中心静脈ライン」の順で多く合計819件(11.5%)であった。
○発生場面×発生内容(医療機器等の使用・管理)(再掲)【表7−7】
「人工呼吸器」、「輸液・輸注ポンプ」に関するものの頻度が高かった。「人工呼吸器」は「機器の点検管理ミス」75件(4.7%)、「条件設定間違い」55件(3.4%)であった。「輸液・輸注ポンプ」は「条件設定間違い」が106件(6.7%)で、これは『医療機器の使用・管理』で最も頻度の高い項目であり、以下、「設定忘れ・電源入れ忘れ」72件(4.5%)、「機器の不適切使用」53件(3.3%)であった。
○発生場面×発生内容(輸血)(再掲)【表7−8】
「輸血のその他のエラー」288件を除けば、「輸血検査のエラー」39件,「輸血検査」の「結果入力・入力間違い」が24件であった。
○発生場面×発生内容(検査)【表7−9】
「採血」が1,187件(34%)で、内訳は「検体採取時のミス」279件、「患者取り違え」が190件、「その他の検体管理・取り扱い」178件、他であった。次いで検体検査が多く、406件(11.6%)を占めていた。
○発生場面×発生内容(療養上の世話)(再掲)【表7−10】
「転倒」が5,831件(49.2%)で、その内訳は「移動中」1,617件、「患者観察」468件、「排泄介助」426件であった。次に、「転落」が1,634件(13.7%)であった。
○発生場面×発生内容(物品搬送等)【表7−11】
「検査データ管理」、「患者・家族への説明」が285件(20.4%)と同数であり、「検査データ管理」では「管理ミス」(260件)が最も多く、「患者・家族への説明」では「説明不十分」(159件)が最も多かった。次いで「検査・処置・与薬指示表」が215件(15.4%)であった。
以上
図表目次
1) | 全事例 |
2) | 処方・与薬 |
3) | ドレーン・チューブ類の使用・管理 |
4) | 医療機器の使用・管理 |
5) | 輸血 |
6) | 療養上の世話等 |
7) | その他(発生場面×発生内容・クロス集計) |
(平成15年報告事例 51119件)
金井 昌子 | 国立病院機構長野病院 地域医療連携室 主任 | |
戸塚 智子 | (財)国際医学情報センター 研究員 | |
橋本 廸生 | 横浜市立大学医学部医療安全管理学講座 教授 | |
長谷川 友紀 | 東邦大学医学部公衆衛生学講座 助教授 | |
◎ | 武藤 正樹 | 国立病院機構長野病院 副院長 |
山内 豊明 | 名古屋大学医学部基礎看護学講座 教授 | |
山本 実佳 | 東海大学医学部付属病院 診療情報管理課 副主事 | |
(敬称略・五十音順)
◎は班長 |
(照会先) 医政局総務課医療安全推進室指導係長 電話 03-5253-1111 (内線2579) |