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平成15年度の高齢者保健福祉施策の展開について

1.介護保険制度の施行状況について

 介護保険制度は平成12年4月に施行されて以降、2年半で要介護認定者数は218万人(H12.4末)から329万人(H14.10末)に、介護サービス利用者数は149万人(H12.4)から254万人(H14.8)と高齢化の速度を上回り増加している。特に、要支援・要介護1の認定者数の増加が大きく、全認定者数に占める割合も増加している。制度として普及定着が進んでいると言うことができる一方、介護保険の総費用は3.6兆円(H12年度:11か月分)から5.1兆円(H14年度)と増加している。平成15年予算案では5.4兆円を見込んでおり、国としても所要の予算を確保しているところである。

 サービスごとの推移では、在宅サービスの伸びが大きく、利用者数はこの2年半で90%増加し、介護給付費も対前年同月比で約26%増加している(H14.8)。また、事業者数についてもこの1年間で訪問介護が約16%の伸び(H14.12末:対前年同月比)というように全般的に増加傾向にあり、特に痴呆対応型共同生活介護(グループホーム)については70%増である。サービス提供体制は順調に推移していると言うことができるが、一方で、不適正なサービス提供を行う事業者があるなど様々な問題があり、増加する事業者のサービスの質と適正な事業運営の確保が大きな課題である。

 また、介護サービスの利用については、在宅サービスの利用者が増加する一方で、施設入所を希望する者が依然として多い傾向が見られる。介護が必要となった場合の在宅生活の継続への不安という要因も考えられ、各自治体・地域において在宅重視の取り組みを積極的かつ効果的に推進していくことが求められている。


2.平成15年度の位置付け

(1)第2期介護保険事業運営期間の初年度として

 平成12〜14年度の第1期介護保険事業運営期間は、介護保険制度の導入・普及が国・地方共通の大きな課題であったが、都道府県・市町村の努力により概ね順調に推移してきた。平成15年度は、第2期介護保険事業運営期間の初年度として、個々の自治体において、これまでの介護保険事業の運営を検証し、介護保険制度をはじめとする高齢者保健福祉施策について真に高齢者の自立した生活を支援するものとするための施策を構築する重要な年である。

 都道府県・市町村において、現在、高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画の見直し作業が行われているが、平成15年以降の施策展開の方向を含め十分な検討と実施に向けた準備が必要である。また、制度の安定運営のため広域化の推進も重要である。

(2)施行後初めての介護報酬の見直し

 介護報酬の見直しについては、今回が初めての見直しである。一昨年10月から社会保障審議会介護給付費分科会において議論を重ね、昨年12月に「介護報酬見直しの基本的考え方」について報告をいただいた。

 この報告で示された考え方に沿って見直し作業を進めてきたが、今回の見直しにおいては、限られた財源を有効に活用するため、当初の設定が実態に即して合理的であったかどうかの検討を踏まえながら、介護の質の向上と効率化を図り、在宅重視・自立支援という制度創設の理念と今後の介護のあるべき姿の実現に向けて、必要な部分を適切に評価し重点的に財源配分を行うこととした。

 改定幅は、保険料の上昇幅を抑制する見地から、賃金・物価の下落傾向、介護事業者の経営状況等も踏まえ、在宅重視と自立支援の考え方にもとづき、全体としてマイナス2.3%としつつも、在宅分は平均でプラス0.1%の改定とした。

 個別のサービスについては、介護保険制度の中核的位置付けである居宅介護支援(ケアマネジメント)の評価を充実し、また、自立支援を指向する在宅サービスを推進する観点から、訪問介護の体系的な見直しと評価、訪問リハビリテーションの評価、自己評価結果を公開している痴呆対応型共同生活介護(グループホーム)の夜間体制の評価を行うこととした。施設サービスにおいては、個室・ユニットケアの評価、老人保健施設の個別リハビリテーションの評価、介護療養型医療施設における重度の療養管理が必要な者へのケアの評価を行うこととした。

 以上のような介護報酬の見直しの趣旨が適切に発揮されるよう、都道府県、市町村ともに、利用者に対する自立支援に資する適切な介護サービスの利用の周知、事業者の指導等を行っていただきたい。

(3)介護保険制度の見直しの検討

 介護保険制度は施行後5年を目途に制度全般に関して検討を加え、必要な見直しを行うこととされている。制度見直しについては、制度立案時に掲げられた検討項目とともに、制度施行後の新しい課題に対応し、また、介護保険制度の持続可能で安定した運営を確保するために必要な検討を行う必要がある。

 見直しの日程については、制度見直しの議論の展開を踏まえ、見極める必要があるが、早ければ平成16年の見直しを念頭に作業を進めたいと考えている。

 制度見直しの検討に当たっては、保険者である市町村の意見、市町村を支援し事業者指定を行う都道府県の意見を十分に踏まえた見直しを行っていきたいので、ご協力をお願いする。


3.高齢者保健福祉をめぐる諸課題と基本的な方向について

(1)高齢者保健福祉施策の課題

 介護保険制度は、高齢者が介護の必要な状態になっても住み慣れた地域に暮らすことを実現するため、在宅重視と自立支援の理念に基づくものである。また、制度導入と同時に、地域の高齢者保健福祉を支える車の両輪として「介護予防・生活支援事業」を開始している。高齢者の自立した地域での生活を支える観点から、これらの事業が総合的に提供されることが必要である。第2期事業運営期間の開始に当たり、各都道府県・市町村においても、これまでの各種高齢者施策の実施状況を検証し、それぞれの施策が所期の効果を挙げているか再度点検をお願いしたい。

 特に、介護予防の取り組みが進んでいるか、介護サービスの提供と利用の現状が高齢者の自立支援に効果があるか、高齢者の生活の質向上につながるものであるのか、高齢者自身がサービスを選び決定できる状況にあるか、各種施策が在宅重視の観点から行われているか、介護サービスの質が確保されているか、介護の社会化・家族の負担軽減に効果があるか、といったことを課題として念頭に置く必要がある。

 また、第2期事業運営期間においては、介護サービスの利用の進展に伴い大部分の市町村が介護保険料の引き上げを行うこととなるが、将来的に高齢者が安心して介護サービスを利用できるよう、介護サービスの効率化・適正化を進めるなど制度の安定的運営が課題である。

(2)具体的な施策の基本的な方向性について

 具体的な施策の方向性としては、まず、高齢者を要介護状態にしない介護予防の取り組み、要介護となっても重度化を防ぎ改善を図るための施策、要介護状態となってもできるかぎり地域・在宅で暮らし続けることができる施策を重点的に構築していくことが必要である。また、制度運営、事業実施に当たっては、公平・公正に行われることが必要である。

 利用する介護サービスについては、質の向上が図られるよう管理者・従事者に対する研修、自己評価、第3者評価の推進等を通じた総合的な施策の展開、利用者本人が適切に事業者を選択できるための情報提供と支援の仕組みづくり、不適正なサービス提供等を行う事業者に対する指導強化など介護サービスの適正化の推進を図る必要がある。

 また、住民に最も身近な存在として、地域における保健福祉サービスを担う市町村(保険者)の役割の強化が必要である。さらに、介護給付の適正化を強力に進め、適切なサービス提供の確保と利用が図られるようにすることが必要である。


4.平成15年の施策の展開について

 以上のような基本的考え方に立ち、平成15年(度)において、次のような各種施策を展開することとしている。

(1)介護予防・地域支え合いの推進

 高齢者が要介護状態となること、状態が悪化することがないようにする介護予防の取り組み、ひとり暮らし高齢者等の地域社会と関わりを持ち続けて生活することを支援する地域での支え合いは、高齢者の地域での生活とその質の確保を図るため重要な施策である。また、このような施策は地域の実状に応じた創意工夫が望まれる。

 従来から、介護予防・地域支え合い事業(旧「介護予防・生活支援事業」)において、自治体の施策の展開を支援してきたところであるが、来年度は、市町村事業に、高齢者の介護予防、生活の質の向上に効果的なメニューとして、高齢者筋力向上トレーニング事業、足指・爪のケアに関する事業を新たに追加した。今後、介護予防と地域における支え合いをより一層強化するため引き続き事業内容の見直し等を行っていく予定である。

(2)要介護認定

 介護保険を住民の信頼できる制度としていくためには、公平・公正な要介護認定の実施が不可欠である。このため、客観的で公正な認定調査事務、介護認定審査会の運営を確保していく必要がある。

 また、国においては、より信頼される要介護認定を行うため、要介護認定等基準時間の推計精度の向上を図り、痴呆の正確な判定を行うため、要介護認定方法の改訂(改訂版ソフトの導入)を行い、来年度から各市町村において実施していただくこととしている。

(3)ケアプラン・介護サービスの質の向上

 高齢者が安心して介護サービスを利用するためには、要介護状態に応じた適切なケアプランの下、質の高いサービスが提供されることを確保する必要がある。特に介護保険制度の中核となるケアマネジメントについては、地域における適切なケアプランの作成等を推進するため本年度よりケアマネジメントリーダー活動等支援事業を開始しているが、来年度はさらに拡充を図ることとしている。地域におけるケアマネジメントの水準の向上に積極的に取り組んでいただきたい。

 介護サービスの従事者等の資質向上については、個室・ユニットケアに関する研修の新規実施、痴呆性高齢者の介護技術に関する研究と指導者の養成など新しいケアに対応した事業等を重点的に行うこととしている。また、利用者の状態に適合した適切な福祉用具の選択・利用のための情報化の推進などにも取り組むこととしている。

 平成12年度から開始している介護相談員事業の積極的な活用、事業者の自己評価の推進など様々な取り組みを講じることにより、介護サービスの質の向上を図っていくことが重要である。

 痴呆性高齢者グループホームについては、昨年10月より外部評価を義務づけているが、その適正な運営のため各都道府県の協力をいただくとともに、今後さらに、その他のサービスについても検討を進めていきたいと考えている。

(4)適正化等の取り組み

 介護サービスについては利用者、事業者ともに増加しており、介護サービスの適切な提供と利用は、制度の安定的な運営の確保のためにも不可欠の課題である。各保険者等における介護費用や介護サービスの適正化に向けた取り組み、都道府県における適正な事業者指導等が必要となっている。

 適正化については、単に費用の適正化のみならず介護サービスが真に所期の効果を上げているかの検証など幅広い観点からの取り組みが必要と考える。その際、地域における様々な団体との連携も重要である。

 このため、本年度補正予算案及び来年度予算案において、介護適正化等の取り組みを強力に推進するため所要の予算を確保し、老健局内に「介護給付適正化対策本部」を設置し、全局的な取組体制を整備し、地方自治体とも協力しつつ適正化を図っていきたいと考えている。

 また、従来からの事業者指導、市町村指導等の監査指導については、その強化を図るとともに、特に不正請求による指定取消処分該当事業者などに対しては、告訴・告発を検討するなど厳正な対応を図っていただきたい。

(5)介護サービス基盤の整備と地域の介護力の強化

 施設整備に当たっては、住民が生活している場所から孤立したものとならないよう適切な立地条件であることなど地域との関わりを持った整備が必要である。また、特別養護老人ホームについて、できる限り在宅に近い生活を営むためユニットケアを行う「小規模生活単位型(旧:居住福祉型)」の整備を基本とするとともに、在宅復帰を推進するため介護老人保健施設については、受け皿整備も念頭に置いた総合的な整備が必要である。

 また、本年度補正予算案において介護予防等拠点整備事業を計上し、この中で、痴呆性高齢者が在宅での生活をできる限り継続していくことができるよう、地域での小規模な在宅サービスの拠点整備として、痴呆専用単独型デイサービスセンター等の整備への支援を行うこととしている。

 単に施設整備等のみならず、高齢者の生活を支えるためには、地域における様々な施策が連携して行われることが不可欠である。在宅介護支援センター、ケアマネジャー等様々な社会資源を活用することによる、サービスへの高齢者のアクセスの確保、介護相談員派遣事業の活用、権利擁護の取り組みをはじめ、地域全体が高齢者の生活に目を向け、孤老死や虐待、介護家族の破綻などの問題を未然に防ぐことのできる地域の介護力の向上の視点が必要である。


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