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研究「畜産食品中残留ホルモンのヒト健康に及ぼす影響に関する研究」

I 総括

担当:林 裕造

1.課題の背景

 エストラジオール等の天然型性ホルモン剤は、50年来、米国及びオーストラリアにおいて牛などの家畜に肥育促進の目的で使用されている。1981年にFAO/WHO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)は第25回会合において食肉生産でのホルモン剤使用について論議し、食肉生産の目的に沿って適切な使用が行われている限り、食肉の摂取を通じて体内に取り込まれるエストラジオール−17βによる健康への懸念はないと報告している。この結論は適切な規範に従ってエストラジオール−17βを投与した家畜の肉の摂取によって取り込まれるエストラジオール−17βの量が人体内において生産されるエストラジオール−17βの量にくらべてはるかに低いという知見に基づいている。
 次いでJECFAは1988年の第32回会合において肥育促進に用いられる3種のステロイド剤、エストラジオール−17β、プロゲステロン及びテストステロンについて安全性評価を実施し、これらのステロイド剤はいずれも家畜における適正使用規範(Good Animal Husbandary Practice)に従って用いられる限り、家畜に投与されたものが食肉を通じて人体に対する健康影響はないと判断された。
 この判断に加えて、肥育促進の目的で投与されたこれらホルモン剤の家畜体内における残留レベルを測定することが困難なことに配慮して、JECFA委員会ではエストラジオール−17β、プロゲステロン及びテストステロンにADIとMRLを設定する必要性はないとの結論を下した。
 第32回のJECFA会合では、更に、異種性成長促進物質(Xenobiotic growth promoters)としてトレンボロンアセテート(TBA)とゼラノールについての評価を実施し、TBAに 0−0.01μg/kg体重/dayの暫定ADI、ゼラノールに 0−0.5μg/kg体重/dayのADIを設定している。
 一方、ヨーロッパ各国では従来より家畜の肥育促進にホルモン剤は使用されていなかったが、1989年1月にECはホルモン活性をもつ薬剤を肥育促進の目的で家畜に投与することを禁止した。
 その結果、エストラジオール−17β、プロゲステロン、テストステロン、TBA、ゼラノール、メレンゲステロールは家畜に投与することも、更にはそれらの薬剤を投与された家畜の肉を第三国から輸入することも禁止された。
 禁止の理由は、ECが衛生上の規制措置として肥育促進の目的に使用したホルモン剤の食肉中あるいは食肉製品の残留による人の健康に及ぼすリスクの許容範囲を0もしくは0加算としたためである。
 1995年1月に衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)及び世界貿易機関(WTO)の関連協定が発効の段階になり、ECによる禁止措置はEU・米国間における深刻な貿易問題となった。
 国際的には、食品の国際規格を設定しているFAO/WHO合同食品企画委員会(CODEX委員会)は1996年にJECFA勧告に沿って家畜の肥育促進を目的としたホルモン剤の使用を認め、天然型ホルモン(エストラジオール−17β、プロゲステロン、テストステロン)についてはADI及びMRLを設定不要とした。
 JECFAは1999年2月の第52回会合において新しい科学的情報に基づいて、エストラジオール−17β、プロゲステロン及びテストステロンについて再評価を行ない、これらホルモンの畜産食品中に含まれる量が著しく低いことから、これらの食品の摂取による人の健康リスクはほとんどない事を再確認した。その際、ADIは人での臨床用量をもとに設定され(エストラジオール−17β:0.05μg/kg体重/day、プロゲステロン:30μg/kg体重/day、テストステロン:2μg/kg体重/day)、食肉中の残留は多い例でもADIの数%程度にとどまり、安全域が広いことから、家畜への投与が適切使用規範に準じて実施されるという条件でMRLは設定不要とされた。
 JECFAの再評価と並行してEUでは公衆衛生問題に関する獣医学対策科学委員会(SCVPH)が1999年4月に会議を開催し、エストラジオール−17β、プロゲステロン等6種のホルモン剤の安全性について発がん性、遺伝毒性、生殖発生毒性、神経毒性、免疫毒性等の観点から検討し、結論として、これらホルモン剤を使用した家畜の食肉には安全性に問題があり、ADIは設定できないと述べ、特にエストラジオール−17βについては発がんリスクが示唆されたとしている。
 SCVPHの報告書は国際的に大きな関心を招いたが、特にカナダでは農林水産大臣がSCVPHの見解とその報告に引用されているデータの解釈についての調査を家畜製品委員会(VPC)の分科会に依頼した。
 VPC分科会はSCVPHの報告書を慎重に調査し、この報告書が問題を広汎に扱ってはいるものの、すべての分野について十分な包括的議論を進めている訳ではなく、特定の選ばれた事項について結論を導びいている点を指摘している。VPC分科会は、更に、ホルモン剤を投与した家畜の食肉の摂取によるリスクが従来考えられていたよりも高いというSCVPHの結論を支持する科学的根拠はないと述べている。
 家畜の肥育促進を目的とするホルモン剤使用についての議論は、CODEX委員会等において更に続けられると予想されるが、一方、この問題が科学的立場での議論の対象ではないとする意見もある。
 我が国ではこの問題についてCODEX委員会に準じた対応がとられているが、同時に、牛肉中の天然ホルモンの残留実態調査が厚生科学研究により進められており、平成10年度の厚生科学研究の報告では国産牛肉60検体、輸入牛肉(米国産、オーストラリア産)40検体についての天然ホルモンの残留値はいずれも生理変動範囲におさまっているとされている。
 従って、我が国における国産及び輸入牛肉中の天然ホルモンによる健康影響については現実的な問題はないと思われるが、米国等からの畜産食品の輸入量が多い現状を考えると、我が国が独自に畜産食品を介するホルモン摂取によるヒト健康への影響を科学的に評価することは、畜産食品の安全性を確保し、且つ、消費者の不安を解消するための必要な対応とみなされる。

2.研究の目的と方法

 以上の背景を踏まえ、本研究は家畜の肥育促進を目的としたホルモン剤の使用に関するCODEX委員会とEU科学委員会による議論についてその論点を整理し、議論の根拠となっている科学的知見を再検討して畜産食品中に残留するホルモン剤の摂取によるヒト健康への影響を評価する目的で実施された。研究方法は以下の通りである。

1) 家畜の肥育促進を目的とするホルモン剤として、現在、エストラジオール−17β、プロゲステロン、テストステロン、TBA、ゼラノール及びメレンゲステロールが使用されているが、本研究ではそれらの中で既存の知見が最も多く、且つヒトへの健康影響について特に重視されているエストラジオール−17βを調査対象とした。

2) エストラジオール−17βによるヒト健康への影響については、発がん性、生殖・発生毒性及び遺伝毒性が重視されているため、本研究ではこれら三事項及び毒性発現の背景となっている作用メカニズムならびに体内動態に関する科学的知見を中心に調査を進めた。

3) CODEX委員会とEU科学委員会の間で議論の対象となっているエストラジオール−17βの暴露評価に関連して、エストラジオール−17βの家畜食品中の残留量及びその測定法について調査した。

4) 上記事項についての研究・調査は分担研究者ならびに協力研究者がそれぞれの専門性に沿って個別的に実施し、その後、各成果を基礎に全員で本研究の主題である"畜産食品中残留ホルモンのヒト健康に及ぼす影響"について総括的討議を行った。
 なお、本研究の全体討論の中で、主題とは多少離れるが、リスクアセスメントの最終段階において考慮すべき問題点として、日本人の食生活あるいは食習慣の特徴ならびに発がんの多要因影響が話題となり、その論点を本報告書の参考資料に添付した。

3.研究成果の概要

1) エストラジオール−17βの発がん性

 エストラジオール−17βの発がん性については、医療目的の使用に伴う乳がん、子宮内膜がん、卵巣がんのリスクの上昇等、ヒトの疫学的データから十分な証拠があり、動物実験においても長期間投与による発がん性陽性の十分な証拠があるとみなされており、この点については国際的な合意が得られている。
 一方、エストラジオール−17βの発がんメカニズムについては、代謝物であるカテコールに遺伝子障害性があるとの報告から、EU科学委員会はエストラジオール−17βにはヒトに対して遺伝子障害性を介する発がん性の懸念があるとの見解を述べ、CODEX委員会の結論と対立している。
 JECFA(1999)では、1987年以降の文献及びヒトでの疫学的知見に基づいて、エストラジオール−17βは遺伝子毒性の可能性はあるが、ヒト及び実験動物でみられている内分泌関連器官での発がん性はホルモンレセプターを介した非遺伝子障害性のメカニズムによるものであるとの結論が提出されている。なお、食肉残留ホルモン濃度の条件でヒトに発がんがみられたとする報告はない。

2) エストラジオール−17βの生殖・発生毒性

 エストラジオール−17βの生殖毒性はラットを用いた大規模な一世代生殖試験によって検討されている。この試験では、エストラジオール−17βを0、0.05、2.5、10及び50ppmの濃度で飼料に混入しP世代の雌雄ラットに7週齢から開始して10週間投与した後に交配し、その後にF1児を離乳するまでの間妊娠及び哺乳期間を通じてエストラジオール−17βを投与し、F1世代のラットにも親動物と同じ濃度のエストラジオール−17βが離乳後11週間投与されている。
 その結果、10ppm(0.527〜0.691mg/kg/日)以上の用量でP世代の雌雄の動物に摂餌量と食餌効率の低下に伴う体重増加抑制、貧血などの一般毒性的影響と共に明らかな生殖毒性が認められている。一方、最低用量の
0. 05ppm(0.003mg/kg/日、300ng/kg/日)では、P世代雌のプロゲステロン濃度と雄のテストステロン濃度に対照群と比較して低値がみられているが、下垂体ホルモンには変化がなく、F1世代については、測定したすべてのホルモン濃度が対照群と同じレベルの値を示している。従って、この用量が血中ホルモン濃度の変化を指標した際の無影響量と考えられる。なお、この用量ではP世代の雌雄動物に一般毒性的影響はみられず、生殖能力にも異常はみられていない。
エストラジオール−17βの催奇形性に関する知見として、ラットの一世代生殖試験の2.5ppm投与群において、出生時低体重が認められているが、子宮内胚死亡はみられず、奇形の発現や雄の生殖器系の異常(尿道下裂、停滞精巣)もなく、雄の肛門生殖突起間距離も対照群とほぼ同じ値を示している。
以上のデータから、エストラジオール−17βはラットにおいて、性ホルモンと下垂体ホルモンの血中濃度を明らかに変化させる用量で一般毒性影響と共に生殖毒性影響を引き起こすが、血中ホルモン濃度をほとんど変化させない用量では一般毒性的影響はみられず、明らかな生殖毒性を示さないと結論される。

3) エストラジオール−17βの遺伝毒性

 多くの試験がなされているが、現状の知見では明確な結論が得られていない面が残されている。In vitro試験系では、微生物を用いる復帰変異試験及び培養細胞を用いるSCE試験はすべて陰性である。ほ乳類培養細胞を用いる遺伝子突然変
異試験についても、ほとんどの結果は陰性で、一部の陽性結果を示す報告に関しても判定に疑問が残されている。染色体の数的異常誘発性及び細胞形質転換作用については陽性の結果が得られている。一方、in vivo試験系では、細胞遺伝学的指標に関して判定に疑問を残しつつも陽性とする報告もあるが、げっ歯類を用いる小核試験のように方法的に確立した試験では陰性であった。これらの結果を総合的に判断すると、エストラジオール−17βについては、遺伝毒性を疑わせられるような結果も報告されているが、現時点において遺伝毒性の評価系として確立している試験では、ほとんどが陰性結果であり、仮に遺伝毒性があるとしても強いものではない。エストラジオール−17βの遺伝毒性に関し、今後優先して検討されるべき課題として、極めて低い濃度でのin vitro遺伝子突然変異誘発性及び in vivoにおける染色体の数的異常誘発性がある。

4) エストラジオール−17βによるDNA障害

 ほ乳類培養細胞を用いた不定期DNA合成試験において、代謝活性化系の非存在下で弱陽性結果の報告があるが、陰性の報告もあるので総合的にみてエストラジオール−17βには強いDNA障害性はないと考えられる。
 一方、エストラジオール−17β(E2)は代謝活性を受けてE2−2,3−キノン及びE2−3,4−キノンに転換され、これから生ずるカテコールキノンがDNAと反応して付加体を形成するとの知見がある。
 その他、エストラジオール−17βを大量に投与した雄ハムスターの腎組織において、8−ヒドロキシ−デオキシグアノシン(8−OH−dG)の生成量が増加したとの報告がある。

5) 食肉中の残留ホルモン濃度に関する知見

 牛から生産される食肉中の天然型ホルモン濃度は牛の品種、年齢、部位、性及び性周期等の要因により変動する。測定法/分析法も人為的な変動要因に数えられる。

(1) 牛組織中のエストラジオール−17β及びエストロン濃度

 32回(1988)及び52回(1999)JECFAでの報告を中心にホルモン剤を使用しない牛についての組織内ホルモン濃度を調査した結果、エストラジオール−17β及びエストロンの濃度はいずれも雌雄、去勢、未去勢、妊娠、未妊娠等の条件により著しく変動する事実が確認された。(宮崎・鈴木分担報告書II−7参照)

(2) 国内産及び輸入牛肉中のエストラジオール−17βの濃度

 国内産牛肉と外国産牛肉(米国及びオーストラリア)についてエストラジオール−17βの濃度を測定した所、濃度範囲については両者間に差はみられなかったが(国内産:1>〜12.8pg/g、外国産:1>〜10.0pg/g)、平均値についてみると外国産(米国:3.33±2.83pg/g)は国内産(1.15±1.87pg/g)に比べて3倍の値を示した。米国及びオーストラリアでは、肥育目的にホルモン剤が使用されており、我が国では、ホルモン剤の使用実態はないが、一方、測定試料の採取に当たり、国内産については種、性等が考慮されているが、外国産については試料の情報が得られていない。従って測定値についての両者間の差異をホルモン剤使用の有無に帰するには無理がある。なお、今回の測定値とJECFA及びFDAの報告での値との間には特に大きな相違はないと判断される。

(3) ホルモン分析法の現状

 牛組織中のエストラジオール−17βの測定法として、従来よりラジオイムノアッセイ(RIA)が用いられてきた。RIAは年々改良が加えられ、感度も向上し、現時点ではRIAによる測定例が最も多い。一方、近年、内分泌かく乱化学物質の抽出法の研究に伴って、酵母を用いた血漿中のエストラジオール−17β測定法(RCBA、Recombinant Yeast Cell Bioassay)が開発された。RCBAはRIAに比べて100倍高い感度をもつと報告されている。RIAとRCBAによるエストラジオール−17βの測定結果を比較すると、15pg/ml以上の濃度の場合には両者間の相関性は高いが、低濃度領域ではRCBAはRIAにくらべて低い値を示す。このような相違の理由として、1)RIAは低濃度で交差反応があるため、2)血清中の低濃度の場合、RCBAの反応を妨害する物質が働くため、などの議論が交わされているが、未だ結論は出されていない。この問題の解決には今後の検討を待つ必要がある。

6) CODEX委員会とEU科学委員会との論点

 家畜の肥育促進を目的とするホルモン剤の使用に関するCODEX委員会とEU科学委員会との議論は激化しているが、論点は以下の4事項にまとめられる。

(1)食肉の摂取を介して体内に取り込まれるエストラジオール−17βの量と 人体内で生成される当該ホルモン量との比較:

 第32回のJECFA(1988)における評価は、家畜に対するエストラジオール−17β剤の使用が適正規範に従って行われている限り、食肉の摂取を介して体内に取り込まれるホルモン量は人体内で生成される量にくらべて著しく低いからホルモン剤使用による安全性に関する懸念はないという考え方に基づいている。一方、EU科学委員会は思春期前の小児におけるエストラジオール−17βの体内生成量は、JECFAが示している値よりはるかに(1/100程度)低いと見積もられると反論している。

(2) エストラジオール−17βのヒトに対する無影響量:

 更年期後の女性についてコルチコステロイド結合グロブリンの血清中濃度の増加を指標として無影響量が検討され、0.3mg/dayの値が得られている。第52回のJECFAでは、この値をエストラジオール−17βのNOELとし、これに10の安全係数(不確実係数)を適用してADIを0−50mg/kg bw/day としている。JECFAによる上記の見解に対して、EU科学委員会はこの考え方には小児に対する極めて微量のエストラジオール−17βの影響が全く無視されていると主張している。特に外因性内分泌かく乱化学物質についての研究で問題となりつつあるホルモ・インプリンティングによる影響、即ち、個体の発生・成熟の臨界期におけるホルモン受容体に対する作用がその後の成長や反応性に決定的な役割を果たすであろうという説の可能性を考慮すべきであるとしている。

(3) エストラジオール−17βのヒトにおける発がん性:

 避妊や治療に用いられるエストラジオール−17βによる乳がん、子宮内膜がん、卵巣がん等のホルモン依存性器官における発がんの増加が疫学的に報告されている。
 EU科学委員会では、従来は高脂肪摂取によるとみなされている食肉の多量摂取に伴う大腸がんの発生増加をホルモンの影響に結びつけており、この現象は食肉中のエストラジオール−17βによる遺伝子障害のためであるとしている。、
 JECFAでは1987年以降のデータを総括した結果、エストラジオール−17βは遺伝毒性の可能性を持っているが、ヒト及び実験動物にみられる内分泌関連器官における発がんはホルモン受容体を介した非遺伝毒性のメカニズムによるとの結論を提出している。なお、食肉に残留するホルモン濃度でヒトに発がんが起きるとする報告はない。

(4) ホルモン分析法についての問題点:前項の5)、(3)参照。

4.考察と結論

1) 考察

 ホルモンの生体影響については未解決の面があり、新しい科学技術の導入による最近の研究成果の中には適切な検証を経ていないものも含まれている。このような状況を背景に1999年の52回JECFAでは、エストラジオール−17βのヒトにおける健康リスクの評価について、1988年の32回会合での結論を見直すと共に、1987年以降に得られた所見を根拠の重みづけ(weight of evidence)を考慮してADI(0.05μg/kg体重/日)を設定し、最終的に家畜に対する使用が適正規範に従って実施されている限り、食肉中に残留したホルモンの摂取がヒトの健康に対して悪影響を及ぼすことはないと判断している。
 一方、JECFAでの評価及びそれを受けたCODEX委員会の結論に対するEU科学委員会の反論には、検証が不十分な仮説に基づいてつくられた理論がかなり含まれている。このため、カナダ及び英国の家畜製品安全分科会は、1999年10月の報告書において、結論的に「ホルモン剤を投与した家畜由来の食肉の摂取による健康リスクが従来考えられていたよりも高い」とするEU科学委員会の主張を支持する科学的根拠はないと述べている。
 ECの関連委員会(Health A Consumer Protection Directorategeneral Management of Scientific Committee)は、英国の家畜製品委員会分科会の報告書と関連データを調査し、同報告書にはEU科学委員会が1999年4月に公表した見解の修正を必要とするような知見は含まれていないと述べている。更に、同委員会は意見が相違する最大の理由が科学的知見の解釈に由来し、EC側の主張は新しい科学的知見に基づいたものである事を強調しているが、見方を変えると、検証が不十分な論理に基づいてEC側の見解を正当化しているように受け取れる。

2) 結論と将来課題

 研究班では、上記の科学的知見と議論を基礎に家畜の肥育促進を目的とするエストラジオール−17βの使用を慎重に検討し、結論的に、この問題についての日本側の対応としては、CODEX委員会の結論に準じて、家畜における適正使用規範に従って使用するという原則が厳守されるという条件で、家畜へのエストラジオール−17βの使用はヒトに対する健康リスクを増加する要因にはならないという立場を取る方策が妥当であろうとの合意に達した。
 なお、研究班会議において、この問題への対応に関連する研究課題として、下記事項の検討を可及的速やかに実施すべきであるとの意見が交わされた事を付記する。

(1)エストラジオール−17βの高感度分析法の実用化
(2)思春期前及び胎児期における低濃度のエストラジオール−17βの影響
(3)思春期前の小児におけるエストラジオール−17βの産生
(4)合成女性ホルモン剤のヒト健康に及ぼす影響<


文献

(1) Evaluation of certain food additives. Twenty-fifth Report of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives, WHO, genava, 1981.

(2) Evaluation of certain veterinary drμgs residues in foods. Twenty-second Report of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives, WHO, genava, 1981.

(3) Fifty-second Report of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives, WHO, genava, 1981.

(4) Opinion of the Scientific Committee on Veterinary Measures Relating to Public Health:Assessment of potential risks to human health from hormone residues in bovine meat and meat Products, April 30, 1999.

(5) Anua-Maria Anderson ana Skakkebek N. E. :Exposure to exogenous estrogens in food: possible impact on human development and health. Europe. J. Endocrinal. 140: 499-485. 1999

(6) Canada's Veterinary Products Committee sub-group on the SCVPH opinion of 30/04/99.October 1999.

(7) The UK's Veterinary Products Committee subgroup on the SCVPH opinion of 30/04/99 October 1999.

(8) EC Health A Consumer Protection Directorate general, Unit B3-Management of scientific documents relating to the SCVPH opinion of 30 April 99 on the potential risks to human health from hormone residues in bovine meat and meat products. May 3, 2000.


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