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2017年7月5日 第3回遺伝子治療治療等臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会 議事録
厚生労働省 大臣官房厚生科学課
○日時
平成29年7月5日(水) 17:00~18:00
○場所
厚生労働省 省議室(9階)
○出席者
【委員】
位田委員、伊藤委員、今村委員、内田委員、小野寺委員 |
高橋委員、谷委員、中畑委員、那須委員、松原委員、 |
山口委員 |
○議題
1.ヒアリング
・濡木参考人
2.厚生労働特別研究事業「ゲノム編集技術を取り入れた遺伝子治療等臨床研究における品質、安全性確保等に関する研究」の実施について(報告)
3.指針の見直しに向けての意見交換
4.その他
○配布資料
資料1 | 第2回専門委員会における主なご意見 |
資料2 | 濡木参考人提出資料 |
資料3 | 厚生労働科学研究事業「ゲノム編集技術を取り入れた遺伝子治療等臨床研究における品質、安全性確保等に関する研究」の実施について |
○議事
○下川研究企画官 定刻となりましたので、遺伝子治療等臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会を始めたいと思います。本日はお忙しいところ、お集まりいただき、ありがとうございます。本日は南委員が御欠席となっております。また本日はヒアリングのために、参考人として東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授にお越しいただいております。
次に配布資料を確認いたします。議事次第、座席表のほかに、資料1、資料2、資料3を配布しております。資料に不足等がありましたら、事務局にお申し付けください。では、以後の進行につきましては、山口委員長にお願いしたいと思います。
○山口委員長 本日はお忙しい中、御参集いただきましてありがとうございます。では早速、議事に入りたいと思います。まず資料1ですけれども、第2回の専門委員会における主な御意見ということで、これについて事務局から、御説明をお願いしたいと思います。
○下川研究企画官 資料1を御覧ください。前回の主な御意見を読み上げます。1番目として、通常、増殖している細胞でしか相同組み換えは行えないため、遺伝子ノックインはできないが、HITI法では、非相同末端結合を利用した遺伝子ノックインにより、非増殖細胞で効率よく遺伝子編集を行うことが可能である。全身性のアデノ随伴ウイルス感染を伴わない体細胞への局所投与であれば、生殖細胞が編集されることはまずない。この手法により、幹細胞を取り出して遺伝子を入れて体内に戻すex vivoの手法ではなく、直接投与によるin vivoでの疾病の治療が可能となるものである。しかしながら、低頻度ながら、off-target効果は起こり得るので、今後いかにoff-target効果を減らせるかが課題である。
2番目として、ゲノム編集用酵素をタンパクやmRNAで導入する場合や、ガイドRNAにオリゴRNA、塩基の書換えにオリゴDNAを用いたゲノム編集は、現在のところ「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」の対象外となっており、指針に基づく審査が行われない。
3番目として、米国ではガイダンス上、遺伝子治療を、組換えDNA物質を用いた「生細胞の遺伝子物質の改変に基づく医療行為」としている。2017年1月のFDA Voiceにおいて、「ゲノム編集の適用に際しては、従来の規制的枠組みが適用される」とし、ゲノム編集技術による遺伝子治療についても、RACによる審査と、FDAによるIND審査が行われているものの、ガイダンス上は、ゲノム編集に対応していない状況である。
4番目、EUの状況としては、EMAのガイドラインで、遺伝子医療用製品は組換え核酸を含むものから構成されるとされ、遺伝子改変細胞製品は遺伝子導入を考慮しており、ゲノム編集には対応していない。現在、対応を検討中であるが、ヒト体細胞ゲノム編集臨床試験に関しては、既存の遺伝子治療に関する規制や法律を当てはめる方針である。
5番目として、3と4の御意見を踏まえ、米国やEUでも同時に検討されているのであれば、それらの議論も踏まえて検討すべきではないか。
6番目として、本委員会では検討すべき対象と、その大要について議論し、技術的かつ細目的な事項について、WGにおいて検討するべきではないか。以上の御意見を頂いております。説明は以上です。
○山口委員長 前回、出していただいた御意見について、事務局で以上のようにまとめていただきましたが、大体これでよろしいでしょうか。もし何か御意見等がありましたら、お願いします。よろしければ、これを前回の議事の概要ということで確定させていただければと思います。ありがとうございました。
それでは、早速、議題1のヒアリングにまいりたいと思います。先ほど御説明がありましたように、本日は東大の濡木先生においでいただいております。in vivo及びex vivoのゲノム編集の最新の動向につきまして、ゲノム編集について開発されている立場から、どういう特徴があるのかということを御説明いただければと思います。濡木先生、よろしくお願いいたします。
○濡木参考人 山口先生、どうもありがとうございました。東京大学の濡木と申します。よろしくお願いします。私は理学部の出身でありまして、現在も専門はX線結晶構造解析によって、タンパク質あるいはRNAの立体構造を決定して、その性質を原子レベルで変えるというようなことをしております。
片や、我々の作ったCRISPR/Cas9の改変ツールを、去年の1月に立ち上がったEdiGENEというベンチャーのほうで、医療応用、疾病の治療に、遺伝子治療としてやっておりますので、今日は社長の森田さんに来ていただいておりますので、併せてお話させていただきたいと思います。
「CRISPR技術の最前線」というタイトルで、お話をさせていただくのですが、内容としては、まず最初に、CRISPRの現在と課題、それからCRISPRの産業利用(特に創薬において)の現状、そして最後に、私の専門とする「構造解析から創薬へ」ということでお話いたします。そして、ここには入れていないのですが、少しだけ、先ほどHITI法がお話に出てきましたが、それを使って、血友病を共同研究で治したと。これはマウスですけれども、そのお話をちょっと付け加えさせていただきます。
まず、CRISPRの現状です。時代は今、CRISPRということであり、非常に注目を浴びているわけですけれども、これはいろいろな技術、RNAiであるとか、iPS、あるいはCRISPRのGoogleの検索数を年度ごとにカウントしたものです。2004年ぐらいからRNAiは非常に流行っておりましたが、だんだん下火になっています。
iPSは、それほど多く外国で検索されているわけではないのですが、2012年に山中先生がノーベル賞を授賞されました。ただ、山中先生も、「このゲノム編集という技術は私たちのiPSも足下にも及ばないような可能性のある技術である」というようなことをおっしゃってくださいました。CRISPRに関しては、2012年に遺伝子治療に、それが非常に使えるということが示唆されてから、急速にその検索が伸びております。海外の検索の度合いに関しては、RNAiが比較的、世界的に特に中国で検索されているのに対して、iPSは日本に非常に限定的です。それに対してCRISPRは欧米からオーストラリアや日本も含めて、全世界的に非常に注目されている技術であります。
CRISPRがどのようにゲノム編集に使われるようになってきたかということですが、これはもともとは、皆さん御存じのように、日本の九大の石野先生が、外来の遺伝子がバクテリアのゲノム中に何度も繰り返し現れるというCRISPR Arrayという配列を見つけたことがきっかけになっております。
ただ、このときは、なぜそんなものがバクテリアのゲノムの中に入っているのか分からなかったのですが、それが後の2012年に、Jennifer Doudnaが、実はそうして作られたCRISPR Arrayから検出された非翻訳RNAを使って、CRISPRというバクテリアの免疫タンパク質が、これを使って外来のDNAを切断してしまうという獲得免疫機能であることを、Jennifer DoudnaとEmmanuelle Charpentierが明らかにしました。
そして2013年に入ると、半年遅れでBroad InstituteのFeng Zhangが、我々の共同研究者なのですが、これを真核細胞の中でゲノム編集に使うことに成功しました。この辺りから非常に加速度的に、このCRISPR/Cas9がゲノム編集に使われるようになってきたことになります。
これはちょっと模式的に、広島大学の宮本先生が作られた動画をお借りしてきたのですが、人工ヌクレアーゼ、ZFN、TALEN、それから次世代人工ヌクレアーゼのCRISPR/Cas9、こういったものも含めて、これはTALENの模式図なのですが、動画になっておりますので、御覧ください。
これは塩基配列を認識し、結合する部分とハサミがあります。認識する部分で、このようにA、C、G、Tと、それぞれ特異的なモチーフを持っており、このモチーフを組み換えることで特定のDNAに結合します。そして、この遺伝子の部分に両側から結合して切ってしまいます。ゲノムを切ると大変なことになりますので、修復酵素がすぐに修復します。ところがまた切ってしまう。切っては修復、切っては修復、これを繰り返していきますが、最終的には切った後で、insertion delusion、欠失あるいは負荷が起こって、遺伝子が別のものに変わってしまう、あるいはノックアウトされてしまう。こういった現象が起こります。こういうことを使って、遺伝子をノックアウトする。こういうことが最初に使われたわけです。
ZFN/TALというものは、タンパク質がDNA、ゲノムの配列として認識するものであり、ハサミは別にくっ付けるわけですが、これに対してCRISPR/Cas9は、先ほどもちょっと申し上げたように、非翻訳RNA、ガイドRNAというものが、ゲノム配列を約20塩基にわたって認識し、ゲノムの二重螺旋をほどきます。ほどいた後で、このCRISPRという免疫タンパク質が、それぞれ1本鎖のDNAを別々のドメインを使って、別々のDNaseという酵素を使って切ってしまいます。それらによって2本鎖が切断される。ですから、ハサミは共通なわけです。ハサミといわれる免疫タンパク質のCas9は1個だけであり、ガイドRNAを取っ替え引っ替えすれば、どんなゲノム配列も切断し、ノックアウトあるいはノックインができるということで非常に簡便なシステムです。
これをどのように遺伝子治療に使うかというと、先ほどからお話があったように、ex vivoでは、体外から自己の幹細胞を取り出して、これにゲノム編集を施して、これをまた元に戻してやる。あるいはVirus Vector、AAV Vectorなどを用いて、CRISPR/Cas9を静脈注射してやります。そうするとAAV8などでは、肝臓を特異的にターゲティングされて運ばれて、肝臓にハサミを運び、そこでゲノム編集を行うことができる。あるいは、なかなか臓器を特異的に運ぶことができなければ、これは局所投与、例えばカテーテルなどを使って、特異的な臓器に、先ほどのハサミのCRISPR/Cas9を送り込み、そこでゲノム編集を行わせる。
こういった遺伝子治療が行えるわけですけれども、利点としては、短時間かつ効率のよい設計と導入が可能です。それから、もともとあった遺伝子の位置に新しい遺伝子を入れるとか、遺伝子をなくすということもありますので、痕跡の残らないクリーンな方法によって遺伝子を修復できます。それから、自己の細胞を編集するので、他人の細胞を移植するわけではないので、移植ドナーが不要で、免疫の問題も起きてこないという非常にクリーンな方法です。
この臨床試験は既に始まっております。例えば中国の四川大学においての肺がん治療です。これは自家T細胞のPD-1をCRISPRでノックアウトして、がん免疫を高めて、肺がん治療をしようという治験が始まっております。
アメリカではペンシルバニア大学で、CAR-TといわれるT-cell receptor(TCR)を改変して、がん免疫を高めるという方法です。それを使ったメラノーマなどの18人のがん患者を対象に、2年間の治験が既に始まっております。ですので、もう既に海外では治験が始まっているという状況になっております。
このCRISPR/Cas9の特許ですが、非常に特許紛争が今でも有名です。もともとは、リトアニア大で一番最初に特許が出願されているのですが、その次はBerkeleyのJennifer Doudnaが2012年に出願しております。その半年遅れぐらいでMIT、これはハーバードのBroad InstituteのFeng Zhangが特許を出願しております。ところが最終的に、この特許が今のところ、一応、認められております。これに対してBerkeleyのJennifer Doudnaは、インターフェアランスを掛けて、先に発見したのは我々だということを主張してインターフェアランスを掛けたのですが、一応、今年の2月15日にBroad Instituteのほうに軍配が上がり、しかしながらBerkeleyのほうは、すぐに控訴して、また特許紛争が始まっています。これは長期化するのではないかと考えられており、基本特許に関しては、誰にその特許が帰属するのか、まだ明らかになっていない状況になっております。
ところがBroad研の陣営は、基本特許のほかにも周辺技術、周辺特許を充実させております。例えば、CRISPR/Cas9のコンポーネント、ガイドRNA、PAMというものを作り変えるとか、CRISPR/Cas9のアクティビティに関して、あるいはそのデリバリーをするVectorとか、あるいはリポソームでデリバリーするとかの技術、あるいはVectors、それから疾病の治療に対するアプリケーション、こういった面において、MIT/Harvard/Broad Zhangは、非常に多くの特許を出願しており、基本特許以外の用途特許のほうも充実させているという状況です。
CRISPRの産業医療、特に創薬においてのお話をさせていただきたいと思います。先ほどから申し上げていますように、Broadの特許と、それからこちらのFeng Zhangが出願したものですが、Emmanuelle CharpentierとJennifer Doudnaが出願したものと、この2つの特許がインターフェアランスで戦っています。
Broad研のほうは、editas MEDICINEというベンチャー企業のほうにライセンスをしております。それからBerkeleyのほうは、一旦CARIBOUというベンチャーにライセンスしましたが、今、Intellia THERAPEUTICSというベンチャーのほうに集約されて、こちらで医療応用をしています。Emmanuelle Charpentierのほうは、主にCRISPR THERAPEUTICSというベンチャーのほうでライセンスして、ここで医療応用しています。ですから、世界的に見ると、editas MEDICINEとCRISPR THERAPEUTICSと、Intellia THERAPEUTICSの3つが、3大ベンチャーということになります。
この3つの会社は、株式公開などを通じて、既にそれぞれ200億円以上を調達しており、日本とは比べものにならない規模で、疾病の治療に、ガンガンこれを進めております。3社とも巨額の契約を製薬会社と成立させており、製薬会社から出資をしてもらったり、あるいは新たなベンチャーを作っています。例えばこれでいうと、CRISPR THERAPEUTICSは、バイエルと共同出資して、この間、会社を作りました。血液疾患とか心疾患といったものの治療を既に始めております。
しかしながら、万能と思われるゲノム編集も、非常においしいLow Hanging Fruitsというのは限定的であり、例えば、眼の疾患や癌、筋肉、肝臓、そういったものに限定されております。方法論的にはeditas MEDICINEはAAV Vectorを使う、あるいはリポソームを使ってデリバリーをする。Intellia THERAPEUTICSは主にリポソームを使う。方法は別々なのですが、その目的となる疾患は、眼、癌、肝臓、こういったものに主に限定されているという状況になっております。
CRISPR発見後の実用化に向けた次のフロントラインというものは、酵素エンジニアリングと、デリバリーなどに集中しております。酵素を作り変えて、本当に医療応用できるツールを作ったものが、最後の勝者になります。その後は、どうやって、その疾患の起きている臓器に特異的にデリバリーをするかという、その技術の開発、あるいは時空間的にそれを制御する技術、それから先ほどもありましたように、non-homologous end joiningであるとか、相同組み換えであるとか、こういったものをコントロールするといった技術が革新することによって初めて、このCRISPR/Cas9というものはゲノム編集に応用することができるというわけで、まだまだ競争は始まったばかりだということになります。
ところが、これは4月7日の日経新聞の朝刊で、「ゲノム編集 日本出遅れ」というタイトルで、非常に大きく書かれてしまいました。最大の課題というのは、基本特許を欧米が握っているということです。すなわち基本特許は、カリフォルニア大の特許とBroad研の特許が有力である。しかしながら特許紛争は数年は継続する見通しである。それでも欧米企業は続々と参入して、新しいベンチャーを作って、どんどん疾患の治療の治験を始めております。ところが日本の大手企業は特許を危惧して参入を躊躇しています。そういう意味で、日本はゲノム編集において出遅れているということになります。
そのコア技術、その基本特許は確かにBroadやBerkeleyに握られておりますが、この基本特許だけでは、医療応用は何もできないわけです。その次にある周辺技術、CRISPR/Cas9をちゃんと作り変えて非常に有用なツールにしないと、これは医療応用できないわけです。そこのところを我々は立体構造に基づいて、CRISPR/Cas9を作り変えて、有用なSpCas9というものを作って、医療応用しようと。医療応用の場は、我々はベンチャーのEdiGENEで行おうと。それで、このEdiGENEが、今のところ、editas MEDICINEやIntellia THERAPEUTICSと並び立って応用開発を行っているわけです。その先は製薬会社がそれを買って、製品開発や販売を行うことになると思います。
我々はそういった意味で、このEdiGENEという日本で最初、かつ唯一のCRISPR創薬ベンチャーを去年の1月に、森田社長の下に立ち上げました。本拠地としてゲノム編集のメッカといわれるボストンに研究室を持っております。そこで6人ほどの研究員が日夜、応用研究を続けております。
最後に、私の「構造解析から創薬へ」のところを、お話したいと思います。先ほどから申し上げているように、CRISPR/Cas9がゲノム編集において問題になるのは、大きく3つあります。このCas9というタンパク質は、最もよく使われているStreptococcus pyogenesという、化膿レンサ球菌のSpCas9、これは1,368残基あり、DNA数4kbもあります そうすると、AAV Vectorでは、大体4.5kbが挿入するのに最大限の大きさですので、なかなかウイルスベクターに載せることができないのです。こういう意味で、動物細胞を導入するのが非常に難しいという問題があります。
もう1つは、SpCas9でいうと、これはPAM配列といって、先ほどは免疫タンパク質と申し上げましたが、自己と非自己を見分ける、その目印となるPAM配列というものがゲノム配列上にあると、そこでDNAの二重螺旋をほどきかけて、くさびを打ち込んで、ほどき始めて、そしてガイドRNAが完全にほどいて、Cas9が切るわけですけれども、PAM配列がないと切れないわけです。これは自己にはなくて非自己にはあると。そういうような配列ですが、SpCas9では、切れる所から数えて、NGGという2つのGを非常に厳密に認識できる。余りに厳密に認識し過ぎるために標的配列が制限されてしまう、どこでも切れるわけではないという問題が起きます。もう1つは、off-targetです。間違って別のところを切ってしまうという問題があります。この3つの問題を解決しないと、数字ラインとしても、どうしても医療応用はできないということになります。我々は、このCas9とガイドRNAのターゲットDNAの複合体の構造解析をして、これらの問題を1つ1つ解決していこうというわけです。
これは2014年に、我々がFeng Zhangと共同研究をして、世界で初めてCRISPR/Cas9、SpCas9ですが、黄色いのがDNAですが、水色、青、赤がガイドRNAですけれども、DNA、RNAとの3者複合体の構造をCell(特許出願)に発表公開しました。その特徴は、Cas9は非常に大きいタンパク質ですけれども、上側と下側の塊があり、上側の塊は、recognition lobe(認識ローブ)と呼んでおり、DNAとRNAを認識する役割を持っております。下側は、この半分をヌクレアーゼ ローブといって、DNAを切るという触媒する部位であります。先ほど1本鎖を、それぞれ別々のヌクレアーゼが酵素を切ると申し上げましたが、このHNHドメインという部位には、こちらのRNAとくっ付くほうのターゲット鎖のDNAを切るほうの酵素があり、この水色がRuvCドメインといいまして、これが非ターゲット鎖のほうを切るドメインになります。
このREC lobeと、こちらのNUC lobeがパカッと開いて、このセントラーチャネルというところを作って、そこにDNA、R:ARduplex、あるいはガイドRNAを収納して、最終的にはガイドRNAが裏側に回って、タンパク質を貫通して認識されているという、非常に奥深く認識しているということであります。
これは動画でありますが、こんな形で上側のREC lobeとNUC lobeの合間に核酸DNA、RNAを認識して切ります。これは裏側で分かりにくいのですが、こちらの紫色のHNHドメインがこの辺を切り、このRuvCドメインは、ここから分かれたほうを切るということになります。
では、Vectorにウイルスベクターを載せるには、もっと小さいCas9が必要であるということで、我々は、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)のSaCas9に着目しました。このSaCas9は1,053残基あり、先ほどのSpCas9よりも300残基短い。これは遺伝子にしますと4kbが3kbになり、1kb短くなるので、これは比較的容易にウイルスベクターを載せることができます。
我々、SaCas9のガイドRNA、それからターゲットのDNA、この場合は2本鎖、PAM配列は紫色で示していますが、そのPAM配列が載っている非ターゲット鎖を含む4者複合体の構造を決定します。先ほどのSpCas9のほうですけれども、これを加えると、この青い部分はSpCas9が余計にくっ付いています。これによって、例えばガイドRNAの認識が変わっていったりするわけですが、それにしてもこの辺がすっきりして、小さくなることが分かると思います。
更に我々は4種類のCas9と、RNA、DNA、コンプレックスの構造を既に発表しております。一番大きいのは、この1,629残基のFnCas9、その次が一番よく使われているSpCas9、それよりも300残基少ないSaCas9。それよりも更に70残基ほど短いCjCas9(Campylobacter jejuni Cas9)というのも発表しています。
どこが違うかというと、SpCas9を基準にすると、これは非常にREC lobeもNUC lobeも大きいのですが、このウェッジドメイン(WED)というドメインが小さいのです。これが大きくなるとFnCas9になります。ところが、今度はSpCas9のREC lobeは小さくなって、1個欠けるとSaCas9になります。ただ、SaCas9はウェッジドメインがまだ大きいのですが、これが更に小さくなると、最小のCjCas9になります。というわけで、今のところは、CjCas9というものは最小単位になります。
これが最近、発表したCjCas9の複合体の構造であり、赤いのがRNA、黒いのがDNAです。ここにPAM配列があり、このPAM配列は非ターゲット鎖のほうに載っているのですが、それだけではなくて、ターゲット鎖のRNAと総合的なベストペアを作るために、ターゲット鎖のほうにもPAM配列があり、そこは認識されているという特徴があります。というわけで、小さいCas9に関しては、ある程度、小さなものが見つかってきたということです。
次は、厳密なPAM認識をどうするかという問題です。これに関しては、例えばSpCas9ですと、先ほど申し上げたように、GGというPAMを認識しているのですが、どのように認識しているのかというと、この2つのアルギニン(Arg)という非常に長いアミノ酸残基で、末端にアミノ基を2つ持っているのですが、これがグアニンの表側から、メジャーグループというのですが、表側から2本ずつの水素結合を作って、4本の水素結合で非常に厳密に認識しています。これのためにGGがないと切れないということになります。
それではPAM認識を単純化できないかということで、我々はまずFnCas9でこれをやりました。FnCas9の場合は、PAMがAかGというPAMであります。それでは、そのAかGを認識するアルギニンをアラニン(Ala)に変えてしまったのです。そうするとPAMはGの1文字になります。その代わり、そのspecificな、特異的な認識が弱まった代わりに、ヒスチジンとアルギニン(Arg)を導入し、これがリン酸骨格を認識します。
すなわち塩基特異的な認識を弱めてしまった代わりに、それを補うように塩基非特異的な認識を強めて、何とかDNAの二重螺旋をほどき始める。ヘリケース活性というのですが、それを保ってやろうという意味で、このトリプルのMutantを作りました。これは群馬大学の畑田先生との共同研究で、受精卵にワイルドタイプ、あるいはMutantのFnCas9をガイドRNAと一緒に、マイクロインジェクションで打ち込んでもらったものです。ワイルドタイプは確かに、GA、GGという本来のPAMでしか切断が起きない、ノックアウトが起きないのに対し、このトリプルMutantはGA、GT、ちょっと効率が低いですが、GG、GC、どれでもノックアウトが起きるので、単純化がうまくいったということになります。
更に、もっと広範に使われているSpCas9で、PAMが1文字でできないかということで、我々はチャレンジして、ちょっと複雑なのですが、この7つの変異を入れると、ワイルドタイプはGGでしか切れないのですが、この7つのmutationsを入れると、GA、GT、GG、GC、どれでも切れるようになります。ということで、PAMが1文字のGのPAM配列だけを認識するCas9ができたということになります。これのどこに変異を入れたかというので、赤い所に7か所、変異を入れております。
その結果、これはHEK細胞(ヒトの細胞)でノックアウト活性を見たものですけれども、左側はワイルドタイプ、右側が7つの変異を入れた変異体です。GG本来のPAMでは、ワイルドタイプと変異体とは、どっこいどっこいで切れます。ノックアウトも切れます。GAでは、ワイルドタイプはGA、GC、GTのどれでも全然切断が起きません。ノックアウトは起きませんが、Mutantはそこそこ切れるというわけで、これはゲノム編集に非常に有用なツールができたということになります。
最後に、off-targetの問題です。高精度のCas9の改変体、これは我々の構造を基にして、もう既にできております。これは論文も発表されており、どういう原理に基づくかというと、先ほどのヌクレアーゼドメインに、DNAを固定するためのアルギニンとかリジンというプラスの電荷を持ったアミノ酸がたくさんあるので、そういったものをむしろアラニンに変えて弱めてしまう。そうするとDNAに対する固定が弱まるのです。するとDNAが二重螺旋になったり、ほどけたりするわけです。DNAとRNAのミスマッチが多くなるとDNAの二重螺旋に戻る確率が高くなって外れてしまいます。ですから、高いspecificityを持つCas9変異体はできるようになったということになります。
したがって、off-targetの問題もかなり改善できるようになったというわけで、我々はまず小型化、そしてこの高認識化、それからPAM配列を単純化して、自由度をアップしたスーパーCas9というものを現在、作っており、半分ぐらいはできたというような状態になっております。これを使って、実際にEdiGENEで医療応用していこうということになっております。
なぜ小さいのか。これはもう一回お話しますと、AAV Vector(アデノ随伴ウイルス)というウイルスにパッケージングするときに、どうしてもDNAサイズに限界があります。全部で7.5kbぐらいしか格納することができない。したがって挿入配列は4.5kbぐらいです。ですから、どうしても小さいCas9は必要になるわけです。
いろいろなウイルスベクターがあります。レンチウイルスベクター、あるいはアデノウイルスベクターのAAVとありますが、このうちAAVというものが一番安全で、免疫原性も少ないですし、長期間働くことができます。しかしながら、組み込めるDNAの長さが一番短いということで、したがって、SpCas9では駄目、SaCas9もちょっと厳しい。今、我々が開発しているminiCas9であれば、これは可能になるということで、これは非常に世界で競争になっているのですが、我々は、いち早くこれを出願して、用途特許、応用特許を取ってしまおうということを考えております。
これは例えるならば、録音機でいうと最初の録音機は巨大でありますが、これをSpCas9とすると、SaCas9、そして我々が今、作っているminiCas9がウォークマンに相当するようなものになります。こういったようなものを我々は作ろうということで、これが医療応用に実用的なものになると考えております。
時間がかなり押しましたが、最後に、実際に我々の共同研究を通じて、遺伝子治療を行った例について、お話したいと思います。これは今日、入れてしまったので、これは資料に載っていないのですが、血友病であります。血友病は血が止まらなくなる病気ですが、これはAタイプとBタイプがあります。男性の、特に子供ですが、5,000人に1時が罹患する遺伝病です。Aタイプというのは血液凝固因子の8番、Bタイプは9番が欠損しており、これが欠損しているために血が止まらなくなるという病気です。
これを治すためには今までどうしたかというと、その血液凝固因子を注射するのです。ところが血液凝固因子は非常に寿命が短いので、週に2~3回の静脈注射をしなければいけません。赤ちゃんに静脈注射をすると、非常に泣き叫んで大変です。ところが、これをゲノム編集で治療してしまえば、1回の治療で完全に治ってしまいますので、赤ちゃんも非常にハッピーということになります。
これは自治医大の大森先生との共同研究で行い、大森先生も、まずこのFⅨを欠損したマウスで、受精卵を使って、CRISPR/Cas9を使ってFⅨの遺伝子をノックアウトして、血友病マウスというものを作りました。ところがこの受精卵にゲノム編集するという方法は、人ではまだ全く認められていません。これは倫理面でも安全面でも全く認められていないというわけで、では、人の治療に近い方法でできないかということで、ゲノム編集を使いました。ところが、受精卵になると1細胞ですが、血液凝固因子が作られる肝臓は1兆個の細胞でできておりますので、1兆個の細胞に全てCRISPR/Cas9というハサミを導入しなければいけないことになります。
この場合には、AAVの8番というVector、このウイルスは非常に特異的に肝臓に配達してくれるというわけで、小さいSaCas9をAAV Vectorに組み込み、ネズミの尾っぽに静脈注射しますと、このように血液凝固因子が16週間でほぼゼロになります。FⅨがほぼゼロになります。ですから、血友病マウスが1回の静脈注射でできてしまいました。
では、これを治すわけですけれども、今度は血液凝固因子の9番(FⅨ)は、Exon1とExon2の間に、AAV8 VectorでSaCas9を使って切れ目を入れて、ここにhomologous recombination(相同組み換え)によって2から8までのExonを組み換えると完全に遺伝子が復活します。これは普通の相同組み換えなのですが、これがなかなか確率が低いというわけで、先ほどの、non-homologous end joining、すぐつながってしまうところに、早速、このExon2から8までを挿入してしまいます。
この後、本来のExon2から8はあるのですが、それはもうここに終止コドンもあり、ここで終わってしまいますので、Exon1から8までが発現して、正常なFⅨができます。こういうstrategyで遺伝子治療を行い、1回の静脈注射によって、このように血液凝固因子のFⅨが6~8週間で15%ぐらい復活し、血液の凝固時間も非常に短縮されました。血友病が1回の静脈注射で治ってしまったことになります。
このように、実例を1つ申し上げましたが、まだまだCRISPR/Cas9というものは、改変の余地があるべきもので、基本特許を幾ら欧米に取られていても、このままでは使えない。それをツールを改変することにより、ちゃんと医療ができるようなツールを改変して、そちらを取ってしまえば、そちらを使わなければ医療はできませんから、最終的にはクロスライセンス、あるいはお互いにライセシングし合うということで、日本もまだまだ勝ち目があるのではないかと考えております。以上になります。どうもありがとうございました。
○山口委員長 濡木先生、ありがとうございました。いろいろ御質問があるかと思うのですが、今の濡木先生の御説明に対して質問等ありましたら、よろしくお願いいたします。
○小野寺委員 サイエンティフィックスのところは非常に面白いのですが、ちょっと特許のところを教えてください。先生がおっしゃるには最終的にはクロスライセンシングで持っていけるということなのですが、基本的、先生たちが今回、開発されたものは非常に効率が良ければ、基本特許の部分とうまく合わせることで、日本でも独自に開発できるという考えでよろしいのですか。多分、そこが一番問題点になると思うのです。先生の見込みというか、その辺りを教えてほしいと思います。
○濡木参考人 基本特許というのは、実際はバクテリアの免疫システムを革命技術で解明しましたというだけの話で、それだけでは何もできないわけですので、用途特許を取ることによって、相手もそれがなければ何もできませんから、どうしてもクロスライセンスなどという形をせざるを得ないわけです。ですので、お掘を作ってしまうというか、お掘を埋めてしまうというか、そちらをしてしまえば、幾ら基本特許がなくても、相手も困るしこちらも困るのだったら、ウィン・ウィンの関係でそういうことは絶対成り立つと考えております。
○那須委員 岡山大の那須です。臨床家の立場から、先生のヘモフィリアの効果は非常に素晴らしいと思うのですが、効果とともに、マウスの実験で安全性というものはかなり、このペーパーは読んでみたいと思いますが、検討されておられますか。
○濡木参考人 そうですね。安全性は今のところ大森先生が検証した実験では何も問題は全く起きていなかったということです。したがって、off-targetの問題なども全く起こっていなかったということになります。案外、off-targetは問題になると言われているのですが、比較的、vivoではそれほどoff-targetの問題は起きていないようで、しかも、先ほどの高認識のCas9を使えば、恐らくoff-targetはまず起きないだろうと考えています。
○内田委員 国立医薬品・食品衛生研究所の内田と申します。先ほどのPAM認識を3塩基から2塩基にするということだと思うのですが。
○濡木参考人 2塩基から1塩基です。
○内田委員 2塩基から1塩基ですか。その場合にoff-targetがより高くなるということはないのでしょうか。
○濡木参考人 それは原理的にそうなります。アタックする標的配列が多くなりますから、その倍数分だけ2倍、off-targetの確率が高くなるのですが、それでして、先ほどのSPCas9の改変体においては高認識の変異を既に入れており、それを入れると、確かにoff-targetはワイルドタイプと変わらなくなっておりまして、問題はなくなるということです。その2つの変異を同時に使うことによって、PAMを単純化して、どこでもアタックできるけれども間違いも起こらないというものはできるということになります。
○谷委員 大変素晴らしいお話をありがとうございました。Cas9を小型化することで、より導入効率が上がり、ゲノム編集が更に効率化できるとの予想のもと、種々の細菌を用いられていらっしゃいますね。
○濡木参考人 はい。Campylobacterという。
○谷委員 Campylobacterを使っていかれる場合、更に遺伝子改変を加えることで、次世代化されていくのでしょうか。それとも細菌種を次第に拡げていく戦略をとっていかれるのでしょうか。
○濡木参考人 このminiCas9というのは、今のところその正体は余りお話できないのですが、CjCas9のような小さいCas9というものを使いますと、小型で、先ほどの、どこでもアタックできて、高認識というSPCas9というのは、ほぼ出来つつある状態です。
○谷委員 それでは、さらに進化したCas9を現在作製中であるということですね。
○濡木参考人 そうですね。各種の特徴を持つ変異を併せ持ったSPCas9を今、作っている状態です。今、比較的注目されているのは、結構、高熱性の小細菌で見つかっているもので、Cas9ではないのですがCasXやCasY、これはJennifer Doudnaが見つけたものなのですが、これもやはり小さいのですが、PAM配列も少し違っているのです。今、我々はそれの解析をしておりまして、そちらからもまた良いツールが出来るのではないかと考えております。案外、高熱性の菌から取ったものが、ある程度使えるのではないかと考えております。
○位田委員 サイエンティストではないので変な質問をするかもしれませんが、滋賀大学の位田と申します。17ページで、万能と思われるゲノム編集も、実際に効くのは眼と癌と肝臓だというようなことをおっしゃったのですが、これはなぜそうなのかということと、小さいCas9を使えばもっと範囲が広がるという御趣旨でしょうか。
○濡木参考人 その件で実際に応用研究をされている森田社長のほうから少しお話いただいたほうがいいかなと。癌と何でしたか。
○位田委員 先生が今おっしゃった「眼と癌と肝臓に今のところは限定的だ」という理由と、小さいCas9を使えばもっと、眼と癌と肝臓以外にも疾患を治療するというところは広がるのでしょうか。
○森田参考人 それは大きさとは余り関係のない問題でして、どちらかというとデリバリーのところが問題になっている。これはCRISPR/CasだけではなくてRNAなどでもデリバリーのところが大きな障害になって結構、開発が進まないケースが多々見られるのです。デリバリーの出来やすい臓器というのがありまして、例えば血液がんでは、ex vivoで、体の外に出しますので、非常に効率を高めて編集をして体内に戻すことができる。あと、肝臓はデリバリーの非常に容易な臓器として知られており、例えばナノカプセルなどでデリバリーをするとほとんど肝臓にトラップされますので、結果的には肝臓の編集は非常に効率良く起こる。あともう1つ、眼のような疾患は、考え方はiPSと一緒でして、直接局所に注射ができるので、編集が高効率で起こせる。そういうことで、高効率にデリバリーができて、結果的に高効率に編集ができる臓器というところが一番入口の疾患になっているということです。
○位田委員 そうすると、ほかの疾患にそのゲノム編集を応用する場合には、また違う方法が必要だということなのでしょうか。もちろん受精卵をゲノム編集でやってしまえば、あらゆる疾患に使えるかなという気はするのですが、その辺りはどうでしょうか。
○森田参考人 そこは正に、本当にデリバリーのところにかかっています。ただ、例えばAAV vectorなどのシステムは今は遺伝子治療のところでも非常に使われているのは皆さん御存じのとおりだと思いますが、これは、例えば肝臓以外でも、筋肉や眼などといった臓器に対してもデリバリーできるようないろいろなAAVのserotypeというものがありまして、そういうものを使うことによって、そういうデリバリーができ、かつ、長期間にわたって発現し続けるようなことが、もうほかの遺伝子治療でAAVに関しては確認をされています。
例えば眼のような疾患や、筋肉、肝臓などで数年にわたって導入したAAVからその遺伝子が出続けるということは、既に、例えば先ほどのFⅨなどを導入したようなケースが臨床で経験がありまして、そういうものでは数年間、発現し続けるということは確認済みです。なので、そういったデリバリーの技術が発展をするということが並立して起こっていますので、そういうものと、このCRISPRを組み合わせることによって、もっと広い臓器に、やがては対応可能になると考えております。
○山口委員長 ありがとうございます。
私のほうから2点お願いしたいのですが、1点目は、今の肝臓の話もそうなのですが、編集が出来てしまって、第Ⅸ因子を作るようになれば、ターゲットした細胞ではそれでOKなわけですね。
○濡木参考人 はい。
○山口委員長 ただ、AAVの場合は分裂しない細胞ではAAVは結構持続性がある。要するにCRISPR/Casが持続して発現してしまう可能性があると思うのです。要するに、off-targetもそれだけ多く出てくる可能性があるという点について、もしその辺りのことを制御する技術があるのか、制御は難しいのかという話。
もう1点が、先生が今使われているターゲッティングの中で、この委員会の目的にも直接少しあるのですが、タンパクそのもので入れるというようなケース、あるいはメッセンジャーRNAで入れるようなケースがあり得るのか。in vivoでもex vivoでもそうなのですが、そういうときにはどうでしょうかという。要するに、今までの遺伝子治療のデフィニッションだと、タンパクを入れた場合には遺伝子治療にならない可能性がありまして、その辺りを、今の先生のところではどうでしょうかというところです。
○濡木参考人 タンパクRNA複合体、RNPと言いますが、それをナノカプセルというかリポソームのようなもので覆ってターゲッティングすることによって、それを細胞内に導入することは可能です。そうすると、遺伝子を導入したのとは違って、タンパク質RNAは寿命がありますから、ある程度働いた後は老化して分解されて跡形もなくなってしまうということはもちろん可能です。したがって、今、アデノ随伴ウイルスを使う方法と一緒に、リポソームのナノカプセルを使う方法というのは非常に発達してきています。そちらの方法も我々は開発しておりまして、そちらのほうを使うと、より安全というか、そういうことは解決できるのではないかと思います。
○山口委員長 持続性の問題、AAVが割と持続する場合には。
○濡木参考人 AAVも、もちろんナノカプセルを使えば、先ほどのように寿命があって、タンパクRNAは分解されてしまいますので、いつまでも切り続けることはないのですが、AAV自体の安全性に関しては、森田さん、何か言及していただけますか。
○森田参考人 このAAVが出続ける、そうするとCRISPRが働き続けるというのは、本当にみんな認識している問題です。ただ、それを回避するところで、先ほど18ページで濡木先生が御説明されたように、Time and Space controlと言って、例えばCas9を分裂させておいて、光で結合させる、あるいは低分子で誘導して結合させることによって、ある時間だけCas9を働かせるなどといったことが試行されています。ただ、まだCRISPR/Cas自体の動物細胞における効率というものが十分に高くないので、そういう意味では、それはまだ未来の仕事というふうに認識されており、直近では、とにかく効率良くCas9が働くようにするというところにフォーカスはあるということです。
あと、ほかのデリバリーに関しても、メッセンジャーRNAなどといった方法も非常に検討されています。これもまた、本当にCRISPRと並行して、例えばメッセンジャーRNAが体内で安定的にずっと維持し続けるという方法も、安定的なメッセンジャーRNAや、それをナノカプセルに包んでという方法も今、非常に発達しており、そういうものと相まって、その辺りもだんだん解決されていくのではないかと考えられています。
○山口委員長 ありがとうございます。ほかに御質問はありますか。
○中畑委員 京都大学のiPS細胞研究の中畑です。今まで、基本的なところが出てきたと思うのですが、最終的に遺伝子治療で、例えば細胞ex vivoの遺伝子治療などだと、最終的な安全性を確保するために、自殺遺伝子をそこに導入したりして、その細胞が何か少しでも問題があれば、それはもう殺してしまうという安全弁を付けるということが一般的に行われるのです。先生のこの系だと、その辺りの、もし安全弁を付けるとすると、どういった手法が考えられるのか。その辺りはいかがでしょうか。
○濡木参考人 誘導プロモーターなどを使って、その辺りの発現を調節してしまうということが可能になるかなとは思うのです。そういう意味で、プロモーターの所にそういう工夫を加えるとすると、比較的長い配列のプロモーターが必要になるわけですが、その意味でも、なるべくCas9に関しては小さいサイズにして、そのプロモーターの部分を有用に残しておくことが必要になるかと思います。
○中畑委員 運び屋としてのvectorはたくさんの種類があると思うのですが、ソルベルスvectorを含めて、あるいはビニバックなどいろいろありますが、そういった中で、先生のこのminiCas9などを使うとすると、何か相性というか、このvectorだったら、より安全にこれから進むだろうなとか、その辺りの何か見通しはありますか。
○濡木参考人 ウイルスベクターを使うとすれば、AAV vector、いわゆる随伴ウイルスのvectorが今のところ一番有用かなとは思っています。
○伊藤委員 日本難病疾病団体協議会の伊藤です。非常に恥ずかしい質問というか、既にお話された内容かもしれませんが、最近のヘモフィリアの治療のことで、一度やったら1回で治ってしまうとおっしゃっていましたが、例えば、第2世代や第3世代への影響はどういうものがあるのでしょうか。
○濡木参考人 これは遺伝子がそのまま復製されていきますので、結局、挿入された遺伝子も復製されて子孫にも残っていきます。結局、子孫も血友病の表現型は出ないということになります。子孫に至るまで、ずっと治療効果というか、それは持続することになると思います。
○松原委員 国立成育医療研究センターの松原です。手短に。会社としては将来的には、やはり臨床研究、臨床試験という方向性を考えていらっしゃると思うのですが、どのぐらいのロードマップを、スピード感として何年後にこのぐらいという。指針が日本ではない現状がありますが、それが全部あったとして、どのぐらいの時間的なものを考えておられますか。
○濡木参考人 森田社長のほうから。いいですか。
○森田参考人 今、一応2019年に治験申請をするということを目標にしておりますので、今から2年後に申請をして、2019年内か2020年に臨床入りをできるようにしたいと考えております。
○山口委員長 ありがとうございます。事務局のほうから1時間を少し超えてもいいと聞いておりますが、できるだけ早く終わらせるようにいたします。濡木先生、貴重なお話と、質問にいろいろ答えていただきましてありがとうございました。
○濡木参考人 ありがとうございました。
○山口委員長 時間が押していますので、次の課題に行きたいと思います。
議題2です。厚生労働特別研究として、「ゲノム編集技術を取り入れた遺伝子治療臨床研究における品質安全性確保等に関する研究」ということで、これは前回の見直しの委員会で、こういうことを提案するということでお認めいただいたのですが、前回、本委員会で検討すべき体制について大体の議論は済んでおります。技術的な細目に関して、大枠としてのゲノム編集をどういうふうに取り込むか、あるいは定義などということに関しては、この委員会できちんと議論させていただく。ただし、それを受けた技術的な話については研究班のほうで議論をして、こちらのほうに上げさせていただくということでお認めいただきました。
資料3を御覧ください。資料3が、厚生労働特別研究としての、本日この前に開かれました再生医療等評価部会に、一応、この提案をさせていただきまして、再生医療等評価部会でも、この研究班の中でそういった技術的な面や安全性の面でどのような記載をしていくかというところについては、この研究班でさせていただきたいということでお認めいただきました。資料を見ていただきますと、上のほうの水色のカラムの中では、これまでのこの委員会での議論を書いたつもりです。
大体、今日のお話も頂きましたが、ゲノム編集に関しては、ex vivoのみならずin vivoでも、もちろん行われてきていると。ゲノム編集技術の中で、例えば今日のAAVの話などは遺伝子治療に適応するのですが、それ以外の、例えばタンパクとメッセンジャーRNAを使った場合には従来の定義の中から外れてしまう。それはそれで正しい一方で、今日の話にもありましたようにoff-target効果というものもやはり懸念されるわけで、そういうことを含めて遺伝子治療の見直しの中でちゃんと取り入れていくべきではないかというのが、これまでの議論であったと思いまして、これを書いております。
その上で、研究班としては、研究計画書にどのように書くとか、あるいは、ゲノム編集の今までの定義に当てはまらないものを入れた場合に、どのような記載をすべき、あるいは、どのように書くべきかというところをこの研究班の中でやらせていただきたいと思っております。
もう1つは、ex vivoに関しては、再生医療等法で遺伝子治療の枠から外れてはいるのですが、指針の中でも、参考にすることという記載があります。ということは、ex vivoに関しても特定認定の中でこういうゲノム編集が行われたとすると審査をしないといけないわけで、そのときの参考になるというか、その情報というものがこの研究班の中から出てくればいいと思っております。
見直し委員会については一番最後に書きましたが、本指針の用語や定義や評価すべき事項については、この委員会でさせていただいてということで、この資料3についての説明となります。研究班については次のページの中に研究班のメンバーがあります。私が研究代表者をさせていただき、このような中から技術的なことについて議論をさせていただくということをお認めいただければと思っております。何か御質問等ありましたらよろしくお願いします。よろしいでしょうか。
○位田委員 今まで遺伝子治療臨床研究という名前でやってきましたが、メッセンジャーRNAやタンパク質も今後は含む方向で議論をするのでしょうか。それとも別口でやるのでしょうか。
○山口委員長 そこのところの議論は、むしろこの委員会で議論すべきことかなと思っています。それは次の議題4のところで、要するに、どういうふうに指針に入れるべきかとか、どう定義するべきかなどというのは、やはりこの本委員会で議論させていただければと思います。それで、入れますという話になった上での作業委員会ですので、その辺りは、順序は一応こちらのほうが上でということです。よろしいでしょうか。
では、資料3に提案させていただいた、こういうワーキンググループについてのこういう取組を研究班としてやらせていただくということで、よろしくお願いいたします。ありがとうございます。
ただ、もう1つは、今の位田先生の御質問であったところの、遺伝子治療のゲノム編集の中の全てをどう取り入れていくべきかについては、むしろ、残りの時間はそんなにないのですが、もし方向性への御意見がありましたら、今お願いできればと思います。もちろん今日1回ではなくて、むしろ方向性のようなところの意見を言っていただいた上で、次回以降、それについては更に検討を続けていきたいとは思っております。
○高橋委員 筑波大学の高橋です。やはり動物の作成のほうでは、vectorを入れるよりはタンパクやメッセンジャーRNAを使っているものが結構多いのです。なので、やはりそれは検討したほうがいいのではないかと思います。
○山口委員長 先生の御意見としては、そういうものを、やはり遺伝子治療として考えていくべきではないかということですね。
○高橋委員 はい。
○山口委員長 ありがとうございます。
○内田委員 今のと同意見ということにはなりますが、今までは遺伝子の導入ということで定義をされていましたが、遺伝子の導入だけではなくて、やはり遺伝子改変というものを取り扱うというような方向がよいのではないかと考えております。
○山口委員長 ありがとうございます。
○谷委員 私も高橋先生、内田先生のご意見に賛成いたします。
○山口委員長 ありがとうございます。多分、実際にどういうふうに定義していくかというのは、今の時間でやるべきことではなく、もっときちんとした議論をさせていただきたいと思うのですが、ある程度の方向性として、もし今の3人の先生方から頂いたような御意見の上で作業委員会のほうは作業をさせていただければと思っております。むしろ定義について、どこまでどういうふうに書くかとか、改正案というか、指針の中の特に1~11条の総則のところは、全ての他の治験にもはねてきますので、その辺りも含めてきちんとした議論を次回以降させていただければと思っております。よろしいでしょうか。
○位田委員 恐らくレギュレーションという考え方からすると、遺伝子を改変するということと、メッセンジャーRNAやタンパクを入れるということに、どこがどう違うのか。明らかに、ここはこう違うのだということであれば、恐らく2つに分けたほうがいいでしょうし、結果的に遺伝子を改変することになるから1つにするのだということであれば、その方向で議論しないといけないのです。きちんと、ここからここまでは、いわゆる遺伝子治療で、それ以外はタンパクやメッセンジャーRNAでやるのだということがはっきりする場合には、していただきたいなと思います。
○山口委員長 多分次に申し上げるのは私の私見で、ほかの先生方からも御意見を頂ければ有り難いのですが、遺伝子治療で、今までは、例えばレンチやレトロというのは、挿入をさせて発現をしますので、その点では遺伝子改変ということになるのですが、例えば、センダイウイルスベクターでは細胞質でのみ生活環がありますので遺伝子改変とはならないわけです。ただし遺伝子を入れていますので。そうすると、そういうAAVが遺伝子治療になって、遺伝子改変だけという話になると、今までとは少し齟齬が出るのです。その辺りは少しきちんとこの中で議論させていただければと思っております。ですから、すっきりはしない部分はのこるのだろうと思います。その辺りは、谷先生や那須先生はいかがでしょうか。松原先生、どうぞ。
○松原委員 そういう中で言うと、例えば遺伝子の発現を制御するというものも、どう考えるかという第3のカテゴリーとして出てくると思いますので、その辺りをどういうふうにするかは、やはりきちんと分けていかないといけないかなと思います。
○山口委員長 そうですね。例えばepigeneticな効果も、それはこの中で是非、次回以降に議論させていただければと思っています。どこまで入れるのかというのも非常に問題で、大きな範囲になりますので。
○松原委員 少し議論を混乱させるかもしれないのですが、そもそも遺伝子治療のこの指針の中で考えていくものでゲノム編集をやるということの無理は、やはりすごくあると思うのです。それは恐らくヒト胚の扱いや受精卵などの生殖医療を中心に考えてきた、ES細胞や受精のために考えてきたものの指針とか、そういう切り口で、またゲノム編集を今、日本でいろいろ指針を作っていこうとしていますが、本来であれば、ゲノム編集という1つの大きなカテゴリーで考えていくべきものなので、それを何かきれいに無理無理切り分けて、これはここでやろう、これはこっちの指針でやろうというところにすごく無理があると思います。その辺りは、このまま行くしかないのですが、やはり上手に切り分けていかないと、結局、何かどこにも分類不能というものが出てくる可能性が常に出てくると思いますので、その辺りは十分配慮が必要かと思います。
○山口委員長 はい。多分ここが、先生のおっしゃるように、遺伝子治療の指針の議論をする所なので、どうしてもそちらのほうに行こうと思うと、また別の所というふうになってしまう。ただ、ここでの議論というのは、恐らくほかの所にも伝えていただけるのだろうと思っております。ただ、ここの中の最終目的は、指針の改定というところが課題として頂いていますので、そこからいろいろな議論になったことというのは、多分、厚労省のほうから伝えていただく、あるいは、別の所にフィードバックしていただけるのだろうと思っております。よろしいでしょうか。もし、課長のほうから何か。いいですか。すみません。
本日は事務局のおっしゃっていた予定よりも少し時間を過ぎてしまったのですが、非常に活発な議論を頂き、ありがとうございます。それでは、最後に事務局のほうから次回の連絡等についてお願いいたします。
○下川研究企画官 次回の日程については、先日、委員の皆様から頂いた候補の日程をもとに改めて御連絡いたしますので、よろしくお願いいたします。本日の議事録については、作成次第、先生方に御確認をお願いし、その後公開させていただきますので、併せてよろしくお願いいたします。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
○山口委員長 それでは、第3回の専門委員会を終了させていただきます。本日は長いこと、ありがとうございました。
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