ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 厚生科学審議会(遺伝子治療等臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会)> 第2回遺伝子治療等臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会 議事録(2017年5月15日)

 
 

2017年5月15日 第2回遺伝子治療治療等臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会 議事録

厚生労働省 大臣官房厚生科学課

○日時

平成29年5月15日(月) 15:00~17:00

 

○場所

厚生労働省共用第6会議室(3階)

○出席者

【委員】

位田委員、伊藤委員、今村委員、内田委員、高橋委員、
谷委員、那須委員、南委員、松原委員、山口委員
 

○議題

 1.本専門委員会の検討範囲について
 2.委員からのヒアリング
   ・松崎参考人
   ・内田委員
 3.指針の見直しに向けての意見交換
 4.その他

○配布資料

資料1 第1回専門委員会における主なご意見
資料2 本専門委員会の検討範囲について
資料3-1 松崎参考人提出資料
資料3-2 内田委員提出資料
資料4 検討事項(案)(改訂版)
参考資料1 ヒト受精胚へのゲノム編集技術を用いる研究について(中間まとめ)(平成28年4月22日 内閣府総合科学技術・イノベーション会議生命倫理専門調査会)
参考資料2 中間とりまとめを受けて「ヒト受精胚へのゲノム編集技術を用いる研究について」 -中間まとめ後の検討結果及び今後の対応方針- (平成28年12月13日 内閣府総合科学技術・イノベーション会議生命倫理専門調査会)
参考資料3 「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」について(平成27年8月12日付け厚生科学課長通知 科発0812第1号
 

○議事

 

 

○下川研究企画官 定刻となりましたので、第2回遺伝子治療等臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会を開催いたします。本日は小野寺委員、中畑委員が欠席されています。また、参考人として理化学研究所多細胞システム形成研究センターの松崎先生においでいただいております。
 次に、配布資料を確認させていただきます。議事次第、座席表のほかに、資料1、資料2、それから資料番号が抜けておりまして大変申し訳ないのですが、松崎先生の資料「生体内ゲノム編集の新技術について」を資料3-1とさせていただければと思います。
 資料の束とは別に、一枚紙の横のHITI法の工夫というカラーの資料がございます。これが松崎先生の資料3-1の11枚目の差替えとなっております。
 続いて資料3-2、資料4、参考資料として参考資料1から3まであります。資料に不足等ありましたら事務局にお申し付けください。
 それでは、以後につきましては山口座長にお願いしたいと思います。
○山口委員長 ありがとうございます。本日はお忙しい中、本委員会に御参集いただきまして誠にありがとうございました。お礼申し上げます。
早速、議題に入りたいと思います。まず議題1、資料1になるかと思いますけれども、本委員会の検討範囲について事務局から御説明をお願いいたします。
○下川研究企画官 まず初めに、議題としては記載しておりませんが、前回の委員会で頂きました主な御意見についてまとめましたので御説明させていただきます。資料1を御覧ください。1枚おめくりいただき1番目、ゲノム編集技術の中でもCRISPR/Cas9システムは非常に効率よく、しかも多重な改変ができる。
 2番目、重要な技術的問題点として、全ての細胞で目的の変異が導入されない「モザイク」や目的としないゲノムDNA部分に変異が入る「オフターゲット」がある。モザイクが許容できるかどうかについては、治療の目的に照らして考える必要がある。
 3番目、ゲノム編集技術は、タンパク質単独若しくはタンパク質とRNAのみでゲノムDNAを変異させることもできるので、現行指針では対応できない。
 4番目、切断活性がない人工制限酵素に転写活性化因子や転写抑制因子を結合させることにより、ゲノムDNAの塩基配列を変異させずに目的の遺伝子発現を制御することもできる。これを指針の適用範囲とするか、検討が必要である。
 5番目、体細胞のゲノム編集による治療は、海外では既に血友病B、がんの免疫療法、HIV感染などについて臨床研究が行われており、今後日本でも行われるであろう。
 6番目、生殖細胞や受精胚におけるゲノム編集の臨床研究は、技術的及び倫理的な問題点が解決しておらず、現時点では考えにくいが、あらかじめ想定しておく必要はある。
 7番目、治療に該当しない遺伝子機能の増強(エンハンスメント)の指針における取扱いについて議論が必要ではないか。
 8番目、iPS細胞にゲノム編集を行う臨床研究について議論が必要ではないか。以上、前回の検討会における主な意見をまとめたものです。
 6番目の意見にもありますが、前回の委員会の際、生殖細胞、受精胚に対するゲノム編集について御意見を頂きました。これに関連し、続きまして本委員会での検討範囲について御説明させていただきたいと思います。
 資料2を御覧ください。本専門委員会では、基本的には体細胞に対するゲノム編集技術の臨床応用への対応について、遺伝子治療等臨床研究に関する指針の見直しについての検討をお願いしたいと考えております。また、本専門委員会では、現時点では、ゲノム編集技術を用いたヒト受精胚の臨床応用についての検討は行わないこととしたいと考えております。理由といたしましては、内閣府に設置された生命倫理専門調査会において、昨年4月にヒト受精胚へのゲノム編集技術を用いる研究についてという中間まとめがなされております。この中で「臨床利用については、現時点で容認できない。すなわち、ゲノム編集技術を用いたヒト受精胚を、ヒトの胎内へ移植すること」は容認できないとされております。指針の見直しに当たっては、この中間取りまとめに沿った内容とする必要があるかと思います。
 現在の遺伝子治療指針においては、指針の第7、生殖細胞等の遺伝的改変禁止の規定があります。その中で、「人の生殖細胞又は胚の遺伝的改変を目的とした遺伝子治療等臨床研究及び人の生殖細胞又は胚の遺伝的改変をもたらすおそれのある遺伝子治療等臨床研究は、行ってはならない」としております。
 このため、指針における遺伝子治療等の定義として、ゲノム編集による遺伝的改変を含めた見直しを行った場合、自動的に生命倫理専門調査会による中間取りまとめに沿った見直しが行われるということになります。ですので、1番目は特に、基本的には体細胞の検討を行うと書いておりますが、その「基本的には」の意味は、定義にゲノム編集技術を取り込んで見直しを行うと、自動的に生殖細胞、受精胚へのゲノム編集は禁止されますので、完全に生殖細胞、受精胚に関する議論は対象外というわけではなく、遺伝子治療等の定義の検討の際にこちらも当然含まれるのですが、禁止されない体細胞に対するゲノム編集技術を用いた治療における品質安全性の確保をどう行っていくべきかといった議論が、本検討委員会の議論の中心となるということです。
 生命倫理専門調査会の中間取りまとめは中間取りまとめでありまして、今後、生殖細胞や受精胚についての臨床応用について考え方が変更されるようなことがあれば、それに基づいて、こちらの委員会においても御議論いただくことになりますが、現時点では体細胞についての御議論をお願いしたいというものです。
 次のページは御参考までに、生命倫理専門調査会の中間取りまとめにおけるゲノム編集技術を適用したヒト受精胚を臨床に利用することについての考え方の部分を抜粋したものを付けております。課題としてアからエまで4つあります。アはオフターゲットやモザイクのリスク。イは遺伝子改変による他の遺伝子等への影響などは現時点で全く予測できない。ウ、3行目のところですが、子孫にわたって長期にどのような影響が生じ得るのかを分析する必要があるが、それを倫理的に問題なく、十分に検証することが現在の科学ではできないと認識される。エ、現在の社会において生活する上での脆弱性を理由に、次の世代に伝えないという選択をするよりは、その脆弱性を包摂できる社会を構築すべきであるとの考えもあり、広く社会の慎重な議論が必要であるといった課題があるということで、臨床利用について現時点では容認できない、すなわちゲノム編集技術を用いたヒト受精胚をヒトの胎内へ移植することは容認できないとされております。御説明は以上です。
○山口委員長 ありがとうございました。前回、生殖医療についてもいろいろ御意見があったかと思います。ただ、委員会のターゲットというか、議論のターゲットとしては、体細胞を用いたゲノム編集について、できるだけフォーカスを当てて議論させていただければという事務局からの提案です。結果として、そのことがきちんと整備できれば、当然生殖医療のほうへはねてくるというか、逆に生殖医療のほうでどういうようなことになろうと、そことの整合性は取れてくるだろうという趣旨かと思いました。
 今の事務局の御説明に関し、前の取りまとめ、資料1の1から8の御意見は大体出たのではないかという点、それから生殖医療への適用について、この2点について御質問あるいは御意見等がありましたら、よろしくお願いいたします。
○松原委員 当面の課題だけをともかく早くやっつけたいという意図があるのは非常によく分かります。ただ、American National Academy of Scienceでもゲノム編集技術に関して、体細胞の編集に関しては、従来の遺伝子治療の規定で全部カバーできるということで片付けているわけです。そういうことであれば、もし今回、これだけのためにやるのであれば、ゲノム編集を遺伝子治療の定義の中に文言として入れ込んでしまえば、これだけの人数を集めて長々議論する必要はないのだろうと思います。今日、それこそ定義を変えてしまえば結論は出ると思います。もし、そういう方向でやるのだったら、もっと早くやるべきだと思います。これからも何回もこういう議論を重ねていくのであれば、やはり私は生殖細胞に対して、今やることは考えられないですが、議論を避けてしまうと何のためにやっているか分からないと思うのです。私は時間の問題だと思います。
 特に今、日本で一番懸念されているのは、厚生労働省の管轄下にあるようないろいろな施設が、今後フライングをする可能性もあることです。そのような事態がある中、そこの議論を最初から避けることを、いきなりこのような紙で出されるという。意向は分かるのですが、こういう紙でいきなり最初から来られると、何のために来ているのだろうという気が私はすごくします。私は非常に違和感があります。
○山口委員長 事務局から何かありますか。
○下川研究企画官 資料に書かせていただいたとおり、生命倫理専門調査会が基本的には全省庁横断的な主導的な役割をしていますので、そこの議論の様子を見ないと、現時点で独立してやることはちょっと難しいかと考えております。定義だけではなく、実際に申請が出た時に体細胞についてどういったことを求めるかということがありますので、定義だけですぐに議論が終わるということではないと思っております。
○山口委員長 私が意見を言っていいのかどうか分からないのですが、多分EUもゲノム編集をどう取り入れるかということで、ちょうど今年1年ぐらいかけて、昨年の暮ぐらいに一応、改正のゲノム編集等を取り入れるかということについての委員会が、今走っているようです。今年中にその結論を得て、例えばゲノム編集で今までの定義に当てはまらないタンパクやメッセンジャー、RNA、プラスガイドRNAみたいなものを使ったケースについても、どう取り込むかということを検討していると聞いています。
 アメリカの状況は少し日本と違うところがあるかと思うのですが、EUもアメリカも遺伝子治療としては生殖細胞をいじってはいけないというコンセンサスが得られています。そこのところがちゃんとフォーカスできるようなものができあがれば、当然、生殖細胞について遺伝子治療として定義されたものは使えないだろう。もう1つ、松原先生がおっしゃるように、それがきちんと決まってしまえば、多分結果的には遺伝子治療の定義の中でそういうことができないという結論になってしまうかと思っております。
○松原委員 御意向は非常に分かります。ただ、議論そのものを基本的にはしないという方向性をいきなり、こういった最初の第2回から出されるということになると、非常に良くないと思います。別に生殖細胞のものを認めろとか、あるいは内閣府のこれまでの中間取りまとめに反することをここで議論しようということではありません。こういった問題はもう2、3年前から多分状況はものすごく変わっていると思うのです。その時にまた同じようなことを一からやるのではなくて、これが10年、20年後のことだったらこういうことは言いませんが、私は数年後に迫っていると思います。
 それこそ来年、中国でそのような赤ちゃんが産まれてもおかしくないような事情だと思います。そういった時に、とりあえず喉元のことだけ考えて、これだけの人を全国から集めてやるには余りにも無駄が多いと思います。内閣府の中間取りまとめに反することを議論しようということではありません。ただ、そういうことまで踏み込んで、きちんと議論した上で、とりあえず現状ではここで押さえておこうという結論まで出しておかないと、これだけの方がたくさんいらしている中で、もう少し踏み込んで議論すべきだというように私は思います。
○山口委員長 ありがとうございました。恐らく、事務局の話は全く議論してはいけないという話とは違うのだろうと思います。
○下川研究企画官 もちろん、定義のところに関連しますので、御意見を頂くことは差し支えはございません。
○山口委員長 恐らく、例えば生殖細胞にこういうゲノム編集をした時、どういう影響が想定されるかということは当然議論の中に含まれてもいいのだろうと思います。だから、松原先生がおっしゃるように何か違うことを議論するわけではもちろんありません。多分、事務局としては、まず体細胞についての議論をして、その中で生殖細胞に適用する時にはこういうリスクもあるという話であれば、もちろんディスカッションの題材として入れていただいていいのかという気がいたします。
○松原委員 しつこいようですが、やはり第2回でいきなりこういうものが表に出てくるというのは、ものすごく意図を感じてしまうのです。うるさいことを言うようでしたら私を外していただいても構いません。外していただければ別にこういうことは言いませんので。ただ、やはり私はすごく違和感がある。世界が動いている情勢の中で、それこそNHKのテレビでもやっていましたが、一般の報道の中であそこまで議論されている中、そこに最初から背を向けますということをいきなり宣言するような問題が、ペーパーとして出てくるというのはどうなのか。
 全体の方向性として、前回の議論の中で1から8まで出てきた中、要するに6にターゲットを絞って「これはやりません」ということをいきなり宣言した衝撃がこのような形で出てくるという。
○下川研究企画官 やらないということではありません、臨床利用するということに基づいて議論するということはしませんという意味です。
○松原委員 いや、それを想定して、どのように進めようかということではないのです。
ただ、実際には、そういうものも目の前にすぐ出てくる可能性があるわけです。ですから、私はそこまで踏み込んで議論しておくべきではないかと思います。別に、厚生労働省が率先してそこをやりましょうとか認めましょうとか、内閣府に背いてそういうことをやることを率先しているわけではない。ただ、これだけいろいろな専門家が来られている中で、やはりそこまで踏み込んで、ある程度きちんと議論はしておかないと、もう数年後にほとんど意味がない議論になってくる可能性があると私は思います。これは私だけの意見かもしれません。ほかの先生方が「そんなことはない」と言うことであれば、私はここで口をつぐみますが、少なくとも私はものすごく違和感があります。
○伊藤委員 松原委員のお話に賛成というか、深い議論はまだ難しいにしても、そういうことを想定してやっていかないと、社会の方々にも分かってもらえないし、大事なことだと思いますので、今の松原委員の発言を支持したいと思っています。
○位田委員 どこまで議論するかというのは、ある程度枠ははめないといけないとは思いますが、生命倫理専門調査会でやっているからここで議論はできないというのはおかしいと思います。いろいろなところで議論をした結果が生命倫理専門調査会に上がっていって、更に調査会でもまた議論を深めていただければいい。そういう意味では、ここで実際に遺伝子治療、臨床研究という観点から受精卵に対するゲノム編集、それから将来的な利用の可能性、そういったことも含めて議論をしておくこと自体はいいと思います。この紙がどれだけ意味があるかどうか問題ですが、最初からやらないというように持っていかれるようなことはやめていただきたいと思います。
○谷委員 先週末、米国遺伝子細胞治療学会に出席し昨日帰国しました。小野寺委員も出席されており、ゲノム編集関連演題の多さと研究内容の進歩を2人で痛感してまいりました。やはり、世界の本領域研究はかなりの速度で進んできていました。松原先生がおっしゃったように、数年以内に受精卵でのゲノム編集がなされてもおかしくない状況にあると思われます。なぜかと申しますと技術がかなり進化発展しており、ゲノム編集を請け負う専門会社が多数できてきております。米国の研究者に、なぜこんなに広がったのかと聞きましたら、やはり技術の均等化を背景に、本技術を用いないと成果発表論文としての評価が低くなることと、一定料金を支払えば誰でもアプローチできる状況になってきているというのが理由であると話していました。
 日本においても、類似のベンチャー会社が幾つか出来てきているのを聞いております。例えば今、日本においても頼めばすぐ欧米や日本の会社でゲノム編集研究ができるようになっています。体細胞の遺伝子治療に関しては、幾つかの指針改定行えば恐らくで実施きると思いますし、改定作業自体にそれほど手間はかからないと思います。やはり、松原先生がおっしゃっいましたように、多くの専門の委員の先生に集まっていただいている本委員会においては、受精卵のゲノム編集についても、境界を設けず、ある程度の議論はしていただいた方が不測の状況に備える意味でも良いのではないかと思います。
○山口委員長 ありがとうございました。
○伊藤委員 当代というか、第一世代が世代内のゲノム編集で遺伝子治療が行われるとしても、遺伝の病気である限りは必ず子孫に同じ病気が出てくるわけです。当代が苦労したということは、当然、次世代にも苦労させたくないという思いがある。必ず。それはその後の受精卵の治療といいますか、治療なのかどうか分かりませんが、遺伝子の改変ということになっていくのだろうと思います。そういうようなところまで見て、これはどうなのかということを議論していかないと、そこだけやればいいという話にはならないと思います。是非、幅広く議論されることが大事かと思います。
○山口委員長 ありがとうございました。今までの御意見を聞いていると、事務局のおっしゃるように、多分、体細胞に関するゲノム編集についてまず議論はしてほしいというのはよく分かります。ただ、ペーパーが出てきたことに関して、フォーカスが意図的に絞られたというような委員の受け取り方があるようです。事務局に御相談なのですが、これは一度下げていただいて、事務局の意図としては要するに見直しの改変ですから、遺伝子治療指針、指針だけではなく、指針の中の計画書や別添というものをそれに合わせて改正しないといけません。多分、そのことは第一優先的に議論させていただければ。その中でいろいろ議論が出てきた、要するにこういう懸念というものについては出していただいて、それはそれで必要に応じて生殖医療、遺伝子治療の委員会としては、そういう懸念もあったという話で出していけるということでもいいのかなという気がするのですが、いかがですか。
○下川研究企画官 山口先生の御提案どおりで結構です。ちょっと資料の書き方が悪かったのかもしれません。体細胞の議論だけではという意味ではなく、基本的にはということなのです。
○山口委員長 体細胞以外の議論を禁止したというつもりはもちろんないということかと思います。恐らく委員会の名称ですね、改正をやってほしいというのがまず一番大きな課題なのだろうと思ったので。委員の皆様方がおっしゃるように、ゲノム編集の持つ科学的な側面がどれだけ影響するか。そこに関しては生殖細胞への影響、例えばアメリカなど生殖細胞への影響が環境影響評価になっていますので、環境影響評価として生殖細胞への影響が考えられている。そういう意味でも、当然遺伝子治療の中の技術としてそういうところに波及してくることは議論してもいいのだろうとは思っています。課長、何かありますか。
○佐原課長 どうも御議論をありがとうございます。今、委員長がまとめていただいたような感じでいいと思います。ただ、事務局として一点お願いしたいのは、生殖細胞のことでは非常に多岐にわたった検討が必要だと思います。一方、体細胞についての検討というのは、松原先生がおっしゃったようにすぐにでもできるのかもしれませんので、なるべく早い段階できちんとまとめをしていただきたいと思います。両方全部混ぜて、最後まで結論が出ないということではなくて、まず第一段階として体細胞のところはきちんと結論を出していただく。プラスアルファで生殖細胞のところについて深い議論があるというのはありだと思います。いずれにしろ第一段階、体細胞についてはきちんと早めに結論をお願いしたいと思っています。
○山口委員長 ありがとうございました、よろしいでしょうか。
○今村委員 生命倫理専門調査会議の下にぶら下がっているというわけではないのでしょうが、見直しの委員会の意見がそちらに上がっていくというのは分かりました。ほかにもそのような、別の委員会みたいなものがあるのですか。こういったことについて検討するような。
○山口委員長 遺伝子治療に関してでしょうか。
○今村委員 はい。
○山口委員長 遺伝子治療はここ以外にはないと思われます。一応、ここは再生医療等評価部会の下にぶら下がっております。部会としては、そこのところに多分答申を上げていくことになるのだろうということでよろしいのですよね。
○今村委員 そうしたら、再生医療部会の意見が内閣府の倫理専門調査委員会に上がっていくというやり方はないわけですか、仕組みはないわけですね。こちらのほうは再生医療部会のほうに行くと、内閣府のほうについてはどこの意見を聞くということはないと。
○下川研究企画官 内閣府の生命倫理専門調査会には、議論の内容としては情報提供したいと思っております。
○今村委員 ということになれば、事務局の意向は分かりますが、ほかの委員の先生が言われるような生殖細胞に関わる部分というのは、ここでしか議論ができないということであれば、一旦体細胞についての取りまとめを行った後で、それについてもある程度の議論が必要になってくると理解していいのでしょうか。
○山口委員長 多分、遺伝子治療という枠組みの中を入れますと、生殖細胞をいじってはいけないというのが当然もともとの禁止事項にあります。ただ、そこでカバーし切れない技術、遺伝子治療に該当しない技術で改変されてしまったりとかいうことも想定されますので、その辺も議論の対象になるのだろうと思います。
○今村委員 この前の議論の中で、要するに民間の第一線の医療機関でも行い得るような技術のレベルになってきているということで、今みたいな懸念が非常に出てきているのです。本委員会は、特にそういう方面の分野を統括するところですので、そういうところについてはどこかでやっていただかないと、起こってしまってからそうだったのかでは済まないようなところもあるかと思います。
○山口委員長 例えばクリニックで遺伝子治療を標榜してやっているようなケースがあるのではと遺伝子治療学会から一応注意喚起が出ていました。これまで遺伝子治療の臨床研究はすべて大臣承認が必要で、そのような承認を受けていない遺伝子治療が実施をしているのではという懸念です。今村先生もおっしゃるようにクリニックで自由診療としてやっているようなケースがあれば、その安全性が懸念されるわけですが、その妥当性が問題となります。一方で実施されている医療行為が本当に遺伝子治療であるのかということも不確かであり対応が難しいという一面もあります。
○今村委員 妥当ではなくてもやってしまうということは、今まで多々あったわけですよね。そして、きちんとしたやり方が国のほうで決められていないから、最大学会の除名ぐらいで済んでしまって、実効力はほとんど何もないということになっていたのです。そこのところが非常に懸念されます。
○佐原課長 今村委員の御質問、このことについて議論するのはここだけなのかというと、多分恐らくそうではないと思います。もちろん生命倫理専門調査会もありますし、生殖細胞の基礎的な研究はどこでやるのか、基礎的な研究のルールについてはどうするのかという議論は、それはそれでまたやっています。そういった議論との整合性とか、ちょっと繰り返すようですが、非常に幅広い影響がありますので、委員構成なども含め、これを本格的にやっていくのであれば、もうひと工夫必要なのではないかと事務局としては思います。
○今村委員 お願いします。
○山口委員長 ありがとうございました。ですから資料2については先ほどのような取扱いをさせていただいて、資料1、まとめはこれでよろしいでしょうか。頂いた意見についてまとめていただいたということで、そのようにさせていただければと思います。議題2に移ってよろしいでしょうか。
 今日はヒアリングを予定しています。本日、先ほど御紹介がありました松崎先生と内田委員からのヒアリングを予定しております。松崎先生から「in vivoゲノム編集技術の状況と課題について」、内田委員からは海外のゲノム編集、先ほどのEMAやFDAの状況などを含め、規制の状況等について御説明願う予定にしております。まず松崎先生、よろしくお願いいたします。
○松崎参考人 御紹介をどうもありがとうございました。理科学研究所多細胞システム形成研究センターの松崎です。本日はゲノム編集の新技術ということで、新しい話をさせていただきます。あらかじめお断りしておきたいのは、私自身は全くの基礎研究者で、脳の発生と回路形成の研究をしております。そこで、よく使われるモデルマウスとか、そういうものを超えて、最近は霊長類なり、遺伝子工学が使えるモデル以外のものを対象にした研究が、基礎研究として非常に進んでいます。その過程で、遺伝子改変を受精卵のマニュピレーション、操作を経ずにする方法を研究室で幾つか考案して、考えて開発していきました。その過程で、将来の治療に役立つと思われる方法論が開発できました。それを、アメリカのソーク研究所のグループと組んで、より発展させて論文として発表しました。
 本日はそれに関してお話しますが、その前にこの方法というのは、CRISPR/Cas9を使っておりますので、それの基本的なところから御説明したほうがよろしいかと思いますので、順を追ってお話させていただきます。もちろんここにいらっしゃる方は、ゲノムというのがどういうものかはよく御存じだと思います。これがDNAの二重鎖で、もともと染色体にはこの二重鎖が1本あります。ヒトの場合は必ず相同染色体というのがあってペアになっています。その1本の二重鎖は、細胞が増殖するときに半保存的複製という有名なワトソン・クリックの提案した方法で、必ず元と同じように、2本それぞれが複製されるということがよく知られています。
 この際に、機械のように細胞中では複製が行われるわけですが、どうしてもエラーが起こります。生体内の物事というのは、必ずエラーが存在すると思って間違いないです。その過程でよく起こるのが、二本鎖のDNA切断です。例えば、我々は常に放射線を宇宙から受けているわけです。DNAに放射線が当たると、先ほどの二本鎖がスパンと切れてしまうことも結構あります。それ以外にDNAが複製される過程で、誤まって切断されてしまうこともあります。
 ポインターで指している所のように、二本鎖が切断されることがいろいろな理由で起きます。我々が今、ゲノム編集と呼んでいる技術は、こういう二本鎖切断が、普通に体内で起こって、それがもともと体にある仕組みで補修される。そのもともとある方法を必ず基に利用しているということを頭の中に入れておいてください。したがって、この細胞には二本鎖を修復するメカニズムが必ずあって、それには2種類あります。
 1つ目は、相同組換修復、英語ではHomology-Dilected Repair(HDR)という方法です。2つ目として、非相同末端結合という別のメカニズムがあります。そこに働いているタンパク質も違うものが働いていて、別ものだと思ってください。それぞれに関して説明をしないと、この後の話が全く進まないので説明させていただきます。
 二本鎖が何らかの理由で切れた場合に、この相同組換修復というのは、天然の場合は相同染色体が必ずそばにあるので、その同じ遺伝子が必ずペアとしてあり、それを基に修復する方法です。この絵で見ると、まず切断された所の一方の鎖をヌクレアーゼという酵素がガリガリとかじります。そうするとこういう出っ張りが出ますので、出っ張りの所にある1セットのタンパク質がまとわり付くことになります。これの名前はさておき、こういうタンパク質の複合体がくっ付くと、これがもう1つの相同染色体の同じ配列を探します。
 我々は2倍体なので必ずこれがあります。1倍体の人はそれができないですけれども、2倍体なので必ず相同染色体、多少違うかもしれないけれども同じ遺伝子が必ずあります。父親からもらったものもあるかもしれません。この仕組みが相同染色体中の同じ場所を探して、今度はそこに必ず相手方の鎖、なくなった所に相当する配列が必ずありますので、それを基に鋳型に、かじってなくなった所を修復する。相同染色体に依存して、それを鋳型にして修復するというのがこの方法です。
 お分かりになりますか。まず、スパッと切れたら、自ら端を削っていきます。そうすると、二本鎖の切れた所が、一本鎖が出っ張っている所があって、その一本鎖が、相手側の相同染色体の相当する所を探してペアを作って複製する。そういう仕組みが相同組換修復と言われています。これは、マウスを使って、遺伝子組換え、ノックアウトとかノックインということによく使われている方法で、一番ポピュラーな方法です。マウスでは非常に効率が高いので、いろいろな遺伝子改変マウスがこの方法で作られています。そのときには相同染色体ではなくて、自分の入れたいDNAを一緒に入れる、そうやって遺伝子改変を行います。
 もう1つの修復経路として、相同染色体を利用しない方法があります。それは非相同末端結合という方法です。これは二本鎖がバチッと切られると、端の部分が少し開いて、そこに別のタンパク質の組合せがスパッと入ります。両側の末端を保護する形で入ってきます。それで、切れた所がかじられないような形、あるいは壊れないような形、接着酵素みたいなのがあって、DNAを2つそのまま繋ぎ合わせるというメカニズムも働きます。これとこれとがどう違うかは、後でもう少し詳しく説明します。今の段階では、我々の体の中の内在性の仕組みとして、こういう2つの修復機構があるということを頭に中の入れておいてください。遺伝子編集、ゲノム編集はこの2つの方法をそれぞれ利用しています。
 それぞれ利用しているのですが、我々がゲノム編集というときには、勝手に切れた所を編集すればいいわけではなくて、ちゃんと狙いを定めて、この遺伝子のこの部分を修復したい、改変したいというのがあるわけです。その対象とする標的遺伝子を、非常に特異的な形で認識して切断する、これが我々がゲノム編集と言うときに、もう1つの大事なことです。そのためにヒト以外、哺乳類以外の様々な酵素を利用しています。一番最初に利用されたのは、Zinc Fingerヌクレアーゼというもので、次は日本語ではターレンと呼ばれていますが、TALENというヌクレアーゼが、うまくそのタンパク質を人工的に改変させてやれば、それが特定の塩基配列を認識することができるようになって、そういうことが思うような対象標的遺伝子を切断することができるようになってきました。
 一番最近開発されたのが、CRISPR/Cas9システムで、これは長い名前の省略形なのですが、長い名前を言ってもしようがありません。もともとは、バクテリアの免疫システムとして働いている遺伝子を使っています。バクテリアの場合は、特にStreptococcus pyogenesというバクテリアの株で研究が非常に進みました。
 例えば、ここにファージとあります。ヒトに感染するウイルスですがバクテリア、原核生物に感染するのをファージと呼んでいます。このファージが感染してDNAが入ると、それが細々に切られて、ある特定の領域に挿入されてきます。これはゲノム領域に挿入されます。実は、これはこの免疫機構の素晴らしいところで、対象となる進入してきたファージのDNAを細かくカットして、その一部を自分自身のバクテリアのゲノムの中に並べるわけです。
 次に、このDNA断片が外から入ってきたらやっつけるぞという準備ができます。それはどうなるかというと、まず、ここに外来のDNAの見本がゲノム上にたくさん並んでくるわけです。次の機会に、同じファージが例えば入ってくると、外来の進入を察知して、ここに陳列されていた見本のDNAがRNAとしてたくさん読み出されます。これをスパッスパッと切って、ちょうど合っている所があると、そこにCRISPR/Cas9が来て、CRISPR/Cas9酵素と一緒にここに来て、それで二本鎖を切断する。つまり、同じものがもう一回次の機会に入ってきたときには、鋳型が自分のゲノムにあるので、とにかく全部メッセンジャーレーンに呼んで、それがCas9酵素と一緒に、外来遺伝子をスキャンするわけです。同じものがあったら、そこでCas9がバシッと二本鎖を切ってしまいます。二本鎖を切ってしまうと、その外来遺伝子はもう働けなくなるので、それで防御が成立します。そのように作られています。
 そのシステムがCRISPR System、CRISPR rocusと呼ばれるもので、このシステムをうまく応用できることが、幾つかのグループでしのぎを削って開発されてきました。例えば、切る酵素というのはCas9という酵素で、これはそのまま標識された特定のターゲットの遺伝子をスパッと切るものです。そのための鋳型が必要なのです。それは、バクテリアの場合は、かつて入ってきたゲノムを細々に砕いて、数十ベースのサイズにしたものを、ゲノムの中に取ってあるのですが、これをこういうバクテリアではなくて、我々の場合はゲノム上にあるこういう見本の遺伝子ではなくて、この遺伝子を改変したいという目的の遺伝子の配列をそのように変更します。
 例えば、白血病の何とかかんとかに関係する原因遺伝子があったとすると、その遺伝子の配列を標識遺伝子として考えればいい。だから、そういう意味では頭の中で読み換えるのです。これを、Guide RNAというゲノム上の標識遺伝子とすればよいと。切断するのは、同じくCaspaseで、ここにあるtracrRNAというのはちょっと難しいのですけれども、これはCas9と標的遺伝子をくっ付ける遺伝子で、今は余り触れないほうがいいかと思います。
 このようにバクテリアの免疫システムが、特定の塩基配列を認識して切るというのをCRISPR/Cas9システムというのは応用しているわけです。バクテリアの場合は外から入ってきたゲノムのDNAの、どこか特定の配列をゲノムに取っておくわけですけれども、ゲノム編集にCRISPR/Cas9システムを使うときは、例えばミョウシン遺伝子ならミョウシン遺伝子のここを直したいとか、福山型筋ジスのこの遺伝子のここを直したいというときに、その遺伝子を書き換える、その遺伝子をまず切るわけです。まず切らないと話にならないので、切るためにCRISPR/Cas9というのが使えるというのが、この最初の発想です。
 ただ幾つか問題があって、最初に申しましたようにこういうゲノム編集、CRISPR/Cas9でもTALENでも何でも、特定のターゲットを切る仕組みは、バクテリアなりいろいろなシステムを使いますけれども、結局それを修復したり改変したりする仕組みは、我々が元来持っているDNAの修復機構によっているわけです。その修復機構を最初に説明しましたが、実はこの2つの修復機構に、それぞれ特徴があります。最初にお話した相同組換えによる修復というのは、S期とG2期、細胞周期が回っている、細胞が増殖してDNAの修復作業が起こっている、そういうときにしか働かない。
 元来相同染色体があって、それを鋳型に複製するので、複製のときに働くと考えていただければいいと思います。それなのでよく使われている相同組換えというのは、細胞が増殖していないと使えない仕組みなのです。これは、マウスでは非常にうまくいくのですが、なぜかヒトでは非常に効率が悪い。ヒトの細胞でこの相同組換えをやろうと思っても非常に効率が悪いです。それはよく知られていることで、それほどうまく利用されていないというのが多分本当のところだと思います。
 それではもう1つの非相同末端結合、つまりバシッと2つに二本鎖が切れた後、そのままくっ付けるという方法はどうか。それは今までほとんど使われていませんでした。それというのは、修復をするためには、くっ付けるときに何かを入れないと修復はならないわけでして、その効率が極めて悪かった。ほとんど使いものにならないぐらい悪かったので、こちらのほうは全くと言っていいぐらい利用されていませんでした。今までは相同組換え、つまり鋳型があって、初めて修復される仕組みだけが遺伝子編集、ゲノム編集に利用されていたのですけれども、こちらは使われていませんでした。
 それが今まで大問題だった。なぜかというと我々の体、例えば皆様の体の中で、増殖している細胞というのは、例えば幹細胞、生殖細胞、血液細胞、皮膚の細胞とか、幹細胞系が働いているものに限られます。神経の場合は、ほとんど増殖はしません。神経幹細胞というのは、ごく一部海馬に少しありますが、例えば40歳を超えると、そこではほとんど幹細胞は新たにニューロンを生み出すこともなくて、だんだんぼけていきます。体の多くの組織は、細胞の増殖を伴っていません。
 例外は、例えば筋肉とか生殖細胞です。筋肉は断裂したりすると、そこにあるsatellite cellという幹細胞が増殖を始めて修復します。脳などほとんどの臓器の細胞というのは、幹細胞でない限り増殖はしません。つまり、ほとんどの細胞は修復しようと思っても、今まではほとんど対象外だった。これが今までのボトルネックだったのですが、今回の方法は、それを非増殖細胞で遺伝子編集ができるように工夫しました。その結果、いろいろな細胞を遺伝子編集の、ゲノム編集のターゲットとして考えることができるようになりました。
 この研究は、もともとうちのラボの、私の研究室の恒川雄二研究員と、ソーク研究所の鈴木啓一郎君の2人が共同して考えながら進めていったものです。我々の所は基礎研究の研究室なので、ベーシックなところ、プルーホグコンセプトという方法が使える。その方法をどのようにしてやればうまくいくようになるか、という技術を積み上げていきました。
 例えば、モデルシステムで試してみるとか、そういうことはソーク研究所のほうでやっています。例えば、最後にretinaの修復、病気の修復をお見せしますが、それに関してはこちらのほうでやっています。今回の方法は名前が付いていて、非相同末端結合、つまり今まで余り使われなかった方法を使っています。それはなぜかというと、増殖していない細胞でも、その仕組みは働くからなのです。働くけれども、そこに遺伝子を挿入することは、効率が極めて悪かったので使えなかったのです。その効率を上げてやろうというのが、今回のミソです。
 非相同末端結合というのを、homology-independent targeted integration、homologyに依存しないtarget integrationの修復ということで、頭文字を取って「HITI法」と言っています。日本では「ハイチ法」と言われているみたいですけれども、アメリカでは「ヒティ」と言っているそうです。本日は「ハイティ法」と呼びます。この方法のミソというのは2つあります。
 1つは、挿入する遺伝子のほうも、字が小さくて分かりにくいのですが、挿入遺伝子があります。標的遺伝子のミョウシンならミョウシンでもいいのですが、その遺伝子の標的遺伝子のここを切って何か修復したいというのを黄色で書いてあります。遺伝子配列というのは方向がありますので、□と△を繋いで方向を表現しています。ここで切って修復するということです。今まではこれだけを切っていたのですが、今回の工夫の1つは、挿入する遺伝子、外から入れる遺伝子のほうにもこの標的遺伝子を乗せる。これが1つ大事なポイントです。
 CRISPR/Cas9のシステムというのは、本来相同の配列を探して切るという仕組みなのです。CRISPR/Cas9というのはゲノムの上を、DNAの上をザーッとスキャンしながら動いていきます。それなので、DNAの上を歩いているわけです。歩いているCas9が切るわけで、なぜ挿入する遺伝子のほうにターゲットの配列をわざわざ入れたかというと、つまりCas9がある所でないと、これは挿入する遺伝子も切れない。逆に言うと、Cas9がある所、つまり標的遺伝子の所では、たくさんの外来の遺伝子、こちらの挿入する遺伝子も切られて使えるようになる。極めて高濃度にターゲットの所にこういうものが存在することが1つの工夫です。
 2つ目からちょっとややこしくなります。これは、そのままこっちとこっちがくっ付いて、こういうふうにそのままくっ付くと、これはノーホムルグアッセンドジョイニングなので、全然鋳型がないわけです。だから、こうくっ付くか、こうくっ付くかどっちかなのです。あらかじめお渡しした資料は、この遺伝子の方向が逆になっていましたので、それを差し替えていただきました。まず□と△の端がくっ付いたとすると、こういうふうに入るわけです。□と△がくっ付いたら、反対側も□と△がこういう順番に入ります。
 実はこの挿入したい遺伝子、DNA断片は本来の方向と逆方向に入ってしまいました。それはとても困るのだけれども、実はよくよく見ると、ここに標識、ターゲットとなる切断認識配列が再生されています。だから、これはまたCas9のターゲットになり得るわけです。それなので、こうなったら何回でもまたCas9が来て、また同じことをトライする。
 一方、この□側同士でくっ付いて入ると、□側同士、△側同士でくっ付いて入ると、挿入遺伝子のほうは正しい方向に向いています。これが、本来修復するときの正しい方向なのですが、このときは□□、△△なので、Cas9とguide RNAが認識する切断配列、認識配列がもうなくなってしまっています。こうなると、CRISPR/Cas9システムが働かなくなって安定になります。
 このことが起きるので、結局逆方向に入ると、何回でもCas9が凝りずに切って、また繋いで、切って、また繋いでをやるわけです。最終的に正しい方向に入ると、そこは認識配列がなくなってしまうので、御覧のようになくなっているからもう切れない。Cas9に見離されるのですけれども、これが目的の挿入なのです。それなので、それぞれの効率は悪いのですが、こうやって逆方向にくっ付くとまたターゲットになるということが繰り返されるので、こういう反応が積算されていくと、どんどんこっちが増えてくる。そういう方法で効率を最終的にものすごく上げる。本来非常に低い非相同末端結合を使っているのですけれども、こういう方法でうまくいったときだけ、それが安定になって、逆方向に繋がると、またCas9のターゲットになる。この繰り返しを考えると、これがどんどんたまっていって、最終的には非常に効率が上がる。それがこの方法の味噌です。
 1つスキップして、それがムービーになっています。普通なら動くのですが、動きませんかね。時間もないのでやめましょう。今言った正しい方向へ入るとそこで止まって、逆方向に入ると何回でも繰り返してやるということを、ムービーにして分かりやすくなっているのがあったのですが、本日は動きそうもないので次に行きます。
 このコンセプトがどのぐらい有効かというのを、モデル型を使って試しました。これはヒトの細胞です。ヒトの増殖する細胞をモデルとして、ある遺伝子に、もともとこのGFPを挿入しておいて、そこにmCherryという赤い蛍光色素、蛍光タンパクがどの程度の効率で挿入されるかという、人工的なターゲットをゲノムに1個用意しておいてテストしています。従来の相同組換えと、今回開発したHITI法と、もう1つ別に広島大学で開発したマイクロホモロジー媒介末端結合法というのがあります。この方法は3年ほど前に発表された方法です。この3つの方法を比べてみました。
 増殖するヒトの細胞ですので、この3つとも働き得るのですが、先ほどお話したように、相同組換え、鋳型を使った組換えというのは、ヒトの細胞では非常に効率が悪いというお話をしましたが、実際に非常に効率が悪いです。それに比べると、今回我々が開発したHITI法はこういうのを使って、挿入すべき遺伝子の端に標的遺伝子、ターゲットとなる配列を両側に2つ入れてやると、ものすごく効率良く入る。30%ぐらいの割合で入ります。マイクロホモロジー媒介末端結合の方法も10%強、20%近くまで入ることが分かってきました。でも、このHITI法は非常に効率が良いです。
 次は実際の個体でテストしてみようということで、まず神経細胞というか、脳に直接入れる方法で、同じように効率を調べました。とは言っても、これは胎児の段階で、脳にこのシステムを導入して、それが成体になったときにどの程度神経細胞に、GFPをモデルとしているのですけれども、GFPが入っているかで計算しています。少し特殊な環境ですが、かなり効率高く入ることが分かります。
 今のは、直接胎児に入れたのですが、今度は直接というよりも、むしろウイルスを使ってこのHITI法を導入しようという試みです。まずアデノ随伴ウイルスを使うのですが、皆さんもよく御存じなのではないかと思います。遺伝子治療に使われる非常に機会の多いウイルスです。特徴としては、ヘルパー依存型で、この殻を持たない一本鎖DNAウイルスです。特徴としては感染細胞を選ばないということと、非増殖細胞、増殖細胞の両方に感染するということ。もう1つ大事なのは、免疫原性がほとんどないということで、免疫反応を惹起しないというのが非常に特徴的なウイルスです。
 このウイルスをキャリアとして、その中にCRISPR/Cas9 system、今お話したシステムが働くように遺伝子とターゲットの標識のguide RNAの遺伝子を入れてやって、それをこのアデノ随伴ウイルスにパッケージしてやる。これを、いろいろな方法で体内に導入してみました。例えば、最初は成体の脳に直接このウイルスを注射で入れてやると、ここにしか入らないわけですけれども、大体全体の細胞中の3.5%ぐらいまでは入る。ちゃんと標識遺伝子を認識してノックインが成功した。それ以外に筋肉でも同じように入っていることが分かります。だから、局所的に狙って遺伝子改変をすることは、この方法で結構効率良くいく。
 それでは、全身にウイルスを感染させたらどうなるか。例えば血液なり体腔にウイルスを注入してやると全身に回るわけですけれども、そうするとどうなるか。もちろんこの場合は生殖細胞にも行く可能性があるので、先ほどの議論だと望ましくない方法です。全身に回る。これは生後1日目のマウスの腹腔、あるいは血管にこのアデノ随伴ウイルスの配置システムを入れて感染させました。その結果、体の中の3つの組織を調べました。1つ目は心臓、2つ目は肝臓、3つ目は筋肉です。この3種類の組織で、これは筋肉ですけれども、かなり効率よく入っています。このアデノ随伴ウイルスのタイターの力価を上げてやると、かなりよく入るようになって、例えば心臓でも16%の細胞で標的遺伝子組換えが起こりました。筋肉だと25%の細胞に効果があったということが得られました。
 面白いことに、一個一個細胞を取ってきて調べると、先ほど申しました相同染色体に遺伝子がありますが、両方が改変されている割合が非常に高いという、これは予期しなかった結果ですけれども、そういうことが分かってきました。CRISPR/Cas9を使うときの問題ですが、必ずoff target効果がある。つまり、標的遺伝子に似た配列があったら、そこも改変してしまうというのがoff target効果と言います。そういう効果があるかどうかというのを、この例の場合は標的遺伝子はGFPの一部だったのですけれども、人工的に導入したGFPに似た配列がゲノムの上に結構あるわけです。そういう配列を幾つかピックアップして、そこだけ調べてやったのですけれども、ちょっと入っているけれども、実際のターゲットに比べればずっと少ないということが分かります。ただ、少ないと言っても入っているので、これを実際にヒトにやる場合は、こういう状態では多分難しいと思います。
 それでは、アデノ随伴ウイルスを使って、高力価の状態でこのHITI法を導入してやったら非常に効率良く遺伝子組換えがいったと。しかも、今まで見てきたのは増殖しない細胞、心筋細胞とか普通の筋肉細胞にちゃんと入っていた。それでは実際の病気がこれで治せるかと。実際の病気というのはratなのですけれども、ratの網膜色素変性症、これは皆さんのほうがよく御存じだと思うのですけれども、高橋政代さんがよく口にする遺伝性疾患で、日本人の場合は4,000分の1から8,000分の1と言われていて、網膜の竿体細胞と色素上皮細胞が障害されて、このような視野になってしまいます。
 原因遺伝子は幾つも知られているそうです。これのモデルratというのがあります。RCS ratという、劣性のhomoにしてやると、これが全く同じ症状を示すということで、これはよく使われるらしいです。これをモデルにして、これを修復できるかどうか。実はこのratはある遺伝子、Mertk遺伝子に欠損があって、その遺伝子の第2エクソンという、それが欠けているのです。両方ともhomoでこの欠損が起こってしまうと、今言った網膜色素変性症が発症します。
これを治す試みを、この方法でしてみようということです。もちろんこういう網膜の細胞は増殖しない分化した細胞ですので、そういう細胞に遺伝子導入をして修復してやろうと。非常に単純ですが、第2エクソンが欠けているので、その第2エクソンを丸ごと入れてやる。そういう非常に単純な方法です。これがうまくいけば、欠けている第2エクソンの前に正常な第2エクソンが挿入されることになって、遺伝子機能が回復するはずです。このHITI法を用いて、3週齢のratの網膜に直接ウイルス液を注入して、局所的に感染させて、数週間後にその結果を解析した。そうすると、確かにこの原因遺伝子のタンパク質が発現するようになります。これが元のhomoの変異です。これをこの治療をしたratは、この網膜の厚さがずっと厚くなっていることが観察されました。
 これは、光を瞬間的に当てて、電位の変化がどの程度起きるかという機能的なアッセイ、機能がどの程度あるかという、網膜の機能の非常に大雑把なアッセイ、ビベーブアッセイと言いますが、これもテストすると、このratもhomoだと、非常に電位は低いのですが、CRISPR/Cas9で、このHITI法で導入してやると、ある程度は高くなる、正常ではもっと高い。ちょっとここは抜けていますが、回復したといっても、正常はこの辺まであるので、ごく微々たる回復しか起きていません。取りあえず多少は改善されているだろうということです。
 これは論文に出ていない、つまり再現性が十分取れていないので、論文にはまだ出さなかったということです。ムービーは動かないので諦めますが、周りの黒い縦縞が一定方向に回っています。そうすると、ratは普通はこう向いて、またこっちへ戻って、こう向いてという首振り運動をします。この網膜色素変性症のモデルマウスは全く首を振らなかったのが、多少首を振るようになった。言ってみればチャンピオンデータなので、外には見せられないデータですが、そういう可能性もある。そういう意味で、ある程度はこの方法で現時点でも、モデル型を使えば修復できました。
 今までのお話は多少難しかったかもしれませんが、ポイントは4つです。まず分裂しない、もう分化した細胞にも効率良くノックインができる。これは非常に大きなアドバンテージです。そうすると、我々の体の中で将来病気になったときに、例えば幹細胞を取り出して、そこにある遺伝子を入れて、それを元に戻してやって、ずっと待つというよりも、直接ウイルス経由で、ウイルスにHITI法を乗せてやって感染させて、特定のターゲット組織の病変を修復することも可能なのではないか。
 アデノ随伴ウイルスを体液中に乗せない限り全身に行くことはないので、局所的な導入の場合は、子孫に受け継がれることもない。そういう意味では比較的安全であろうということが言えると思います。
 一方問題点として、これはCRISPR/Cas9に共通な点ですが、必ずオフターゲット効果があるので、標的遺伝子以外で似たような遺伝子があったときに、そこが修復されてしまう可能性がある。これは問題として残ります。現在、世界中の研究者が、このオフターゲット効果をどれだけ減らすことができるかということに一生懸命になっています。新しいCas9の開発とか、いろいろなプロトコールを皆さん水面下で一生懸命やっていて、論文が次から次へと出てきて、中には全然再現性のないものもありますが、現在こういうことは世界中で取り組んでいるところだと思います。
 この方法の利点は、非分裂細胞に導入できる、修復できるということだったので、これに関しては非常にユニークで、アデノ随伴ウイルスさえうまく使って導入できれば、将来いろいろな病気の治療に使える可能性があるということで発表しました。以上です。
○山口委員長 ありがとうございました。多分、御質問があろうかと思うのですけれども、内田委員の後で質問の機会を設けさせてください。
○松崎参考人 はい。
○内田委員 国立医薬品食品衛生研究所の内田と申します。私からは、遺伝子治療とゲノム編集の臨床研究に関する規制の現状について、簡単に話をします。一応前回の復習ということで、まずはゲノム編集技術の現状と指針の問題点をお話して、あと、米国と欧州のガイドラインとゲノム編集技術への対応について話をしたいと思いますが、飛ばしながら簡単にいきたいと思います。
 遺伝子治療の指針と法律、審査についてです。遺伝子治療は、in vivo遺伝子治療とex vivo遺伝子治療に分かれています。in vivo遺伝子治療には遺伝子治療等臨床研究に関する指針全体がかかりまして、厚生労働省の審査委員会で審査をして、再生医療等評価部会にかかりますが、ex vivo遺伝子治療に関しては、再生医療等安全性確保法の第一種がかかりますので、こちらの委員会ではなくて、特定認定再生医療等委員会で審査をした後で再生医療等評価部会にかかる形になっておりまして、遺伝子治療の指針は総則のみが適用されています。
 ゲノム編集の臨床試験の現状について簡単に話をしたいのですが、これはアメリカの臨床試験の登録サイトで検索した結果です。既に何件もやられています。実際にやっているものだけではなくて、登録されているのみのものもありますが、先ほど話があったCRISPR/Cas9の開発によって、昨年辺りから臨床試験の計画が非常に増えている現状があります。非常に細かいスライドで申し訳ありませんが、今登録の内容、詳細を示しています。こちらを見ると、エイズに対するZinc Fingerを用いたゲノム編集がゲノム編集臨床試験での最初の例で、前回もお話がありました。これは、最初の頃はアデノウイルスベクターがゲノム編集に用いられていましたが、最近はmRNAが使われています。
 それから、ゲノム編集の目的は、効率の問題もありまして、ほとんどはノックアウトを目的としています。Zinc Fingerのin vivoで、特定のアルブミン座という所に遺伝子導入をすることが既に行われていますが、これのみが遺伝子導入で、遺伝子修復について行われている例はまだありません。それから、CRISPRに関しては詳細が分からないものが多く、かなりの件数が登録されているのですが、これは全て中国の例です。御存じのように、既に昨年から中国のほうでCRISPR/Cas9の臨床試験が始まっているということです。これについては導入法の詳細は分からないのですが、今年からアメリカで開始予定のゲノム編集を用いた臨床試験があります。これ自体は自己T細胞にCARをレンチウイルスで導入していて、遺伝子治療に当たるものですが、この中のゲノム編集に関しては、Cas9のRNAとガイドRNAをエレクトロポレーションすることによって、目的の遺伝子をノックアウトしていることになります。
 それから、問題になっているヒトの受精卵のゲノム編集が中国で3件報告されておりますが、Cas9はmRNAかタンパク質を使っていて、それから、ガイドRNAと、あと、遺伝子修復を行っているのですが、それもドナーオリゴDNAを使っていて、ベクター等を何も用いないでゲノム編集が行われている状況になります。
 こちらの委員会の大きな目的の1つになっている、問題点となるのが、指針の定義になります。繰返しになりますが、遺伝子治療等とは、「遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること」と定義されておりまして、更に、指針のQ&Aで、核酸医薬(合成オリゴDNA/RNA)の導入は対象外とされています。mRNAの導入も対象外となっております。これによって、ウイルスベクターやプラスミドを用いるゲノム編集や、外来遺伝子を導入するものは遺伝子治療となり、現在の指針でも対象になりますが、先ほど示したような、ゲノム編集用酵素をタンパク質やmRNAで導入する場合や、ガイドRNAにオリゴRNAを使う、塩基の書換えにオリゴDNAを用いるといったゲノム編集が既に行われていて、こういうものが指針の対象外になってしまいます。このときに問題になるのが審査で、遺伝子治療は、指針の対象だと、日本では厚生労働省での審査を行う形になっておりますが、指針の対象外になった場合、十分な審査が行われなくなることだと思います。
 あと、こちらも先ほどから問題にされている「生殖細胞等の遺伝的改変の禁止」は指針で規定されているのですが、これまでCRISPR/Cas9によって実施されたヒト受精卵のゲノム編集に関しては、遺伝的な改変ではありますが、この指針には「遺伝的改変を目的とした遺伝子治療等臨床研究」は禁止とありますので、そもそも遺伝子治療に該当しないとなると、現行の指針のままでは受精卵のゲノム編集が指針の対象外になります。先ほどの生命倫理専門調査会では、この指針を根拠として臨床利用できないと言っておりますが、その根拠がなくなってしまうことが問題になると思います。
 もう1点です。先ほどコメントしようかと思ったのですが、最初にお話したように、ex vivo遺伝子治療の場合は再生医療等安全性確保法に従うことになります。その施行規則により、「遺伝子導入をする操作を行った細胞」は最もハイリスクの第一種ということで、特定認定再生医療等委員会で審査をされますが、「遺伝子を導入する操作を行った細胞」に限られていて、更に、「核酸医薬は含まれない」と書かれておりますので、これに従うと、遺伝子導入を伴わないような遺伝子改変の場合、デリーションというか、ノックアウトのみ行った細胞の場合には、第一種再生医療等には該当しないことになって、ここでも十分な審査が行われないことになります。
 もう1点です。政令で除外した技術の場合には法の対象外とされていますが、政令で除外した技術の中に、「人の精子又は未受精卵に培養その他の加工を施したものなど」と書かれておりますので、そもそも再生医療等安全性確保法では、精子や未受精卵の操作は対象外となることが問題として挙げられるかと思います。
 今後、遺伝子治療等臨床研究に関する指針で、タンパク質やmRNAによるゲノム編集についても対応していくためには、従来の遺伝子治療とは異なる品質安全性評価も必要になってきますし、現在は遺伝子導入でベクターの利用を前提として書かれている計画書の記載事項や品質、安全性の留意事項等についても、そういう内容を取り込んでいくような形での改正が必要になってくると思います。
 アメリカの状況についてです。アメリカでは、遺伝子治療に関して複数の指針が出されていますが、基本になるのが1998年の指針です。これは古いものですので、特にゲノム編集について考えられているわけではありませんが、遺伝子治療は「生細胞の遺伝物質の改変に基づく医療行為」となっています。ただ、その中身として、組換えDNA物質(recombinant DNA materials)を使うことが規定されています。
 もう少し新しい指針、2015年のガイダンスでは、Gene-modified Cellular Products、遺伝子改変細胞について書かれております。これも遺伝子改変とはなっていますが、実態としては、遺伝子を体外で細胞に導入した製品となっておりまして、単なるdeletionの場合にはこちらに該当しないことになります。組換えDNA物質を導入するという観点からは、タンパク質やmRNAによる導入はこの指針には該当していない形になって、アメリカのほうでも十分な対応はできていない状況です。ただ、FDAではこの1月に、FDA Voiceという公式のブログでゲノム編集に関する考え方を表明しています。その中でいろいろな技術応用に関して述べているのですが、遺伝子治療に関しては、ゲノム編集の適応に際しては従来の規制的枠組が適用されると言っております。また、公的資金の出資を認可する法案があるようで、これによって、ゲノム編集技術は体細胞の遺伝子改変に限定され、生殖細胞への適用は認められないことも述べております。
 アメリカでは遺伝子治療の場合、RAC(組換えDNA諮問委員会)という所で、科学的、臨床的、倫理的な観点で審査を行いますが、ゲノム編集に関しても、例えば、Zinc FingerのmRNAでの導入という場合についても、RACで審査が行われています。アメリカでは、RACの審査とFDAによるINDの審査の両方を行わないと臨床試験ができませんが、これに関しては遺伝子治療であろうがなかろうが、同じ審査が行われている状況です。あと、オフターゲット等のゲノム編集の課題についても認識していることが書かれています。ただ、アメリカでも、ガイダンス上はゲノム編集に対応していない現状で、今後そういうガイダンスが出てくるかどうかはこれからの問題で、まだはっきりしていません。
 次に、欧州の状況です。EUではEMA(欧州医薬品庁)という所から、遺伝子治療に関して複数のガイドラインが発出されています。その基本になるのが遺伝子治療用製品のガイドラインと遺伝子改変細胞製品のガイドラインの2つです。今、遺伝子治療用製品のガイドラインは改定案が出されていて、現行のものは2001年に作られたものですが、2015年のガイドラインを見ても、遺伝子治療用製品の定義はrecombinant nucleic acid、組換え核酸を含むものから構成されるということです。ゲノム編集についてもmolecular scissorsというような形で、こういう方法もあると触れられてはおりますが、shRNA等と並べて書かれていることから、ゲノム編集酵素をベクターで発現させることを念頭に置いて書かれているようです。あと、核酸の導入についてもありますが、タンパク質の導入については考慮外だと思われます。やはり対象はベクターとなっています。それから、遺伝子改変細胞ガイドラインは、genetically modified cellsとなっておりますが、これの中身は遺伝子導入を考慮したガイドラインとなっていて、ゲノム編集には十分に対応していないのが現状です。
 EUのアップデートとして、EUでは、昨年、ゲノム編集技術を含む先端医薬品に関するワークショップを開催しております。その中で、ゲノム編集をどのようにガイドラインに規制していくかについて検討中とのことですが、少なくとも現在分かっているものとしては、先ほどの遺伝子改変細胞のガイドラインに関して、ゲノム編集への対応を目的の1つとして、今年から改正作業を開始していることが分かっています。
 こちらにあるのがEUのワークショップのまとめですが、指針の改定と、そのほかに、ゲノム編集技術の科学的及び規制的要件に関する考え方を示す文書をまとめることも出されておりますので、欧州でもこれからゲノム編集を検討していく状況にあるようです。
 ほかに、EUではゲノム編集の研究にも投資をしていて、有用性を確保するような施策にも積極的に推進している状況にあるようです。ゲノム編集に関するワークショップをヨーロッパで開催するために、Academy of Medical Sciencesが欧州でのレギュレーションに関してまとめた文書があって、そこから1つ引用しましたが、欧州では、ヒト体細胞ゲノム編集臨床試験に関しては、既存の遺伝子治療に関する規制や法律を当てはめるのが適当ということで一致しています。ただ、ゲノム編集に関しては従来の遺伝子治療とは異なる点があり、そのような安全性評価に関する規制については、今後見直しが必要であろうとのことです。生殖細胞のゲノム編集については、EU指令によって、生殖細胞の遺伝的改変を伴う遺伝子治療臨床研究は禁止されていることが書かれておりました。生殖細胞の遺伝的改変というのは、先ほどの遺伝的改変が遺伝子導入かもしれないのですが、ICH見解という、日米EU医薬品規制調和国際会議の遺伝子治療専門家会議のほうでまとめた規制文書があります。こちらにも、生殖細胞への直接の遺伝子組込みを目的とする遺伝子治療の臨床試験は実施すべきではないと、日米EUで合意をしていることが書かれています。
 以上のまとめとして、ゲノム編集技術には、現行の遺伝子治療等臨床研究に関する指針の対象外となるものがあります。その対象外となった場合には、十分な審査を受けることなく臨床研究が実施されることが懸念されます。一方、欧米の場合でも、遺伝子治療のガイドラインは遺伝子導入が前提となっており、現在のゲノム編集には十分対応できていなくて、特に安全性の課題への対応はこれからといった状況です。ただ欧米では、遺伝子治療に関する既存の規制や法律をゲノム編集に当てはめるのが妥当と考えられておりますし、欧米では遺伝子治療に該当するしないに関わらず、遺伝子治療と同様のINDの審査、アメリカの場合には更にRACの審査もかかっています。日本では指針にかかるかどうかで十分な審査ができるかどうかが異なりますので、そこがこの指針の問題点になってくるかと思います。あと、生殖細胞の遺伝子導入については、これまでの流れとして、すべきではないということで、日米欧の規制当局は合意をしています。簡単ですが、私からは以上です。
○山口委員長 ありがとうございました。最初に松崎先生のほうから、in vivoのゲノム編集について、それから規制的なことを海外の状況も含めて内田委員のほうから説明していただきました。最初はお二人の先生方に、まず質問を中心にしていただいて、最後のほうに少しゲノム編集についての、遺伝子治療への、どのような対応をしていくかという議論を、少しだけできればと思っています。
○伊藤委員 質問ですが、松崎先生の最後のまとめの所に、●の上から4つ目で、「全身性のAAV感染を行わない限り」とありますが、これはどういう意味なのでしょうか。
○松崎参考人 先ほど途中で申しましたが、血管、あるいは血液、あるいは体腔にAAVを感染させて、体液を介してAAVを全身に感染させることが可能なわけです。そうすると、いろいろな組織のDNAが修復されるということは、モデル型で示したのですが、筋肉、心臓、確かに全身に行っているということを確かめたのですが、同時に生殖細胞も感染する可能性があるというわけで、その全身性の感染を行うと、子孫に伝わってしまう可能性がある。それは、必ずしも正常な改変だけが伝わればいいのですが、そうではない例えばオフターゲット効果とか、そういうものも万が一、生殖細胞を介して子孫に伝わってしまっては困る。
 しかし、これは全身にAAVを感染させるときだけ、そういう可能性が考えられるわけで、例えば脳内、あるいは筋肉の一部とか、そういう所に局所的に感染させても、生殖細胞にウイルスが伝搬することはまずあり得ないので、そういうやり方でやれば子孫に遺伝子改変が伝わることはないという意味です。
○伊藤委員 遺伝子ドライブというのとは、また違うという意味ですか。
○松崎参考人 遺伝子ドライブというのは知らないです。すみません。
○伊藤委員 昨日だかNHKでやっていたウイルスを感染させる蚊を撲滅する方法として、遺伝子ドライブで生殖できなくする。生殖しても統一性を持たないようにしてしまうという話ではないのですか。
○松崎参考人 そうではありません。
○谷委員 松崎先生のHITI法は非常に将来性が高い方法と思います。米国遺伝子細胞治療学会でも、演題をお聞きしたと思いますが、例えばGFPの最初の基礎研究に関しては、AAVS1サイトをターゲットにされた研究なのでしょうか。ヒトですと19番染色体上にあるサイレントエリア、もしくはどこか他の特定の遺伝子をターゲットされているのでしょうか。
○松崎参考人 これは、マウスのモデルの場合はローザ26という遺伝子があって、その遺伝子は全身で発現することが分かっているのです。ただ、何をしているかよく分かっていない遺伝子で、そこに遺伝子を挿入すれば、そのプロモーターで、全身でどの細胞でも発現することが分かっている遺伝子です。そこにターゲット遺伝子を人工的に入れてあげて、まずターゲットを作る。それが改変されたかどうかというのを検定するということでやっています。
○谷委員 すみません、私が少し言い間違えました。ヒトゲノムにはAAVS1サイトという、AAVが組み込まれた部分があり、サイレントエリアになっているのですが。
○松崎参考人 19番染色体の。
○谷委員 先生のご研究ではマウスにも同様なサイレント遺伝子部分があり、そこを標的としているということでしょうか。
○松崎参考人 そうです。
○谷委員 有難うございました。もう一つ、先ほどの御質問とも被ってくるのですが、非増殖細胞に非常に効率がいいとのことですが、増殖細胞だと、もっといいのでしょうか。
○松崎参考人 いえ、最初の例は、この方法は相合組換えに当たる相合DNAがないのです。なので効率としては、増殖性の細胞も、非増殖性の細胞も、特に変わらないと思います。増殖性の細胞もhomology-independantに挿入されるのは、S期とG2期以外のG1期だけなのです。G1期には同じように働きます。分化した細胞はG0期というように考えたりする。それは、いつでも働くわけです。そういう意味で、特に増殖細胞でより効率が上がるということはないはずです。
○谷委員 例えば眼内に接種した場合、全身に回ることで生殖細胞への影響が出てくる可能性はありますでしょうか。体細胞へのゲノム編集が許されるようになってくる場合に特に生殖細胞や骨髄細胞への影響はいかがでしょうか。
○松崎参考人 ウイルスがそこに行ってしまうと、それは感染してしまうわけで、それは防げないですよね。それが、例えば増殖細胞が特異的に改変されるかというと、より効率よく改変されるかというと、そういうことはないです。だから、確率的には非常に少ないと思っていいと思います。
○谷委員 ありがとうございました。内田先生にお聞きしたいのですが、EUではRNAとかオリゴヌクレオチドを用いた遺伝子治療に関してはどういった取扱いになっているのでしょうか。米国ではRACが取扱っているようですが。
○内田委員 すみません、その辺のところは分からないです。
○谷委員 EU各国では共通の遺伝子治療指針、ガイドラインに基づいて遺伝子治療は勧められているのでしょうか。それとも、やはり各国レベルで。
○内田委員 EUの場合、臨床試験に関しては、各国レベルで審査をすることになっていると思いますので、それは各国で違っているのかなと思います。ただガイドラインは、特に承認のときのガイドラインという形にはなっていますけれども。
○谷委員 例えばEU各国間にまたがって臨床試験、治験がやられるような場合に、EMAが検討するという理解でよろしいのでしょうか。
○山口委員長 EUの場合には、例えばフランス医薬品庁(アフサップ)とかドイツのポールエーリッヒ研究所が、治験の申請や、治験でなくても臨床研究もそうですが、一応そこで受理します。受理して、各国間にまたがった話は、まだ確認はしていないのですが、その各国の規制当局によって、治験の妥当性については評価されます。
 ただし、EMAの中央審査というのは承認時の審査であって、治験の導入に関しては各国の規制になっています。ただ、多国籍のマルチリージョナルな治験については、それぞれの国に同時に出さないといけないのかもしれないです。そこは、ちょっと確認はしていません。
○谷委員 ありがとうございました。
○山口委員長 先ほどの増殖と非増殖の話ですが、これは多分、増殖も非増殖も同じ効率で入るという、入るところは多分、どれだけレセプターがあるかどうか、そういう話になりますよね。
 入った後、AAVの場合には当然、分裂したら多分AAVそのものは増えないので、分裂細胞では要するに導入されたAAVゲノムは薄まっていくというように増殖細胞では経時的に減っていきますよね。
 一方、非分裂細胞だと、一般にAAVというのはかなり持続性をもつとされますよね。そうすると、非分裂細胞のほうが、より改変されやすい。そういう意味での改変されやすさというのはあるのですか。
○松崎参考人 AAVの効果としては、確かにおっしゃるとおりだと思います。これはヘルパーがないと増殖しないものなので、もちろん幹細胞のような分裂する細胞は薄まっていくことが考えられますから、そういう意味では最終的に薄まりますが、最初はやはり同じ濃度で入っているので、そのときに起きる確率は、恐らく非増殖細胞とそんなに変わらないのではないかとは思います。
○山口委員長 いわゆるターゲットモチーフがある限りは、永遠に切れ続けるという、多分そういう話だったと思います。その永遠に切れ続けるターンがどのぐらいなのかなというのは逆に。
○松崎参考人 なるほど、そういうことですか。ここで実験しているのは、数日から数週間の範囲内で、その間に幹細胞がどれぐらい分裂するかというと、幹細胞にもよりますが、脳の幹細胞というのは1か月に1回ぐらいしか分裂しないので、そんなに薄まるとは考えられません。
筋肉のサテライト細胞も、あれは傷や障害が起きないと活性化されないので、そういう意味では、感染したらば非増殖細胞と同じような考えでいいのではないかと思います。
○山口委員長 ありがとうございます。
○高橋委員 内田先生にお聞きしたいのですが、クリニカルトライアルがされているときに、体細胞だと、どんどんやりましょうみたいな雰囲気にはなっているのですが、そのオフターゲットについて当然評価はされているのだと思うのですが、その辺はどういう整理なのですか。
 例えば日本でもやりましょうといったときに、それをどれぐらい見るかというのは、多分大きな問題になってくるかと思うのですが、情報はありますか。
○内田委員 それに関しては、全く情報はありません。RACに関しては議論の結果について、公表はされておりますので、そこでオフターゲットについても確認等はしていますが、FDAでどのような審査が行われているかというようなことは分からないです。
○山口委員長 ほかによろしいですか。
○位田委員 内田先生にお聞きしたいのですが、最後のまとめの部分だと思うのですが、アメリカにしてもEUにしても、基本的にゲノム編集は規制の中に入れるということで、その入れる方法は問題かもしれませんが、大体の合意があると考えていいのでしょうか。
 つまり問題は、日本でもそうですが、そういう何らかの規制の枠組みがあって、ゲノム編集をそこへ入れ込むのかどうかという問題と、仮に入れるとすれば、同じ基準をそのまま使うのか、若しくは安全性の問題だと思うのですが、異なる基準を新たに作るのか。かつ、今の松崎先生の話を聞いていると、いろいろなケースで安全性の基準が違うのかなという気もするのですが、そうすると今の日本の指針は、そういう形にはなっていないので、もっと細かく分けないといけないのかなと思うのですが、その辺りがアメリカやEUはどのように考えているのでしょうか。
○内田委員 その辺がまだ指針としては、明確にされたものは全くないという状況です。EUのほうで、今年から遺伝子改変細胞のガイドラインの見直しを行うというところの中には、そういう情報が出てくるのではないかとは思います。ただ、遺伝子治療として、その中にゲノム編集を入れ込んでやっていこうという方向なのだとは思います。
○山口委員長 多分、つい最近やった指針の改定の中では、野生型、あるいは弱毒性の腫瘍溶解性ウイルスの話を少し議論させていただいて、位田先生は覚えておられると思うのですが、あの場合には、日本では非組換えの場合には、遺伝子治療に該当しないのです。
 ただし、なぜアメリカはやっているかというと、全部のINDをアメリカは審査できるのです。遺伝子治療に該当しなくてもFDAないし、RACをやるかどうかというのは微妙なところですが、FDAは必ず見るという審査になっていますので、遺伝子治療に該当しなくても見ることができる。
 日本の場合は、遺伝子治療は中央審査をやっているという、これが大きなところで、それに該当しないときにどうなるかという、そこが一番大きな今後の課題かなという気がするのです。
 松崎先生にお聞きしたい。今、AAVを使われてやっていますよね。AAV以外に、例えば非増殖性に入るということで考えれば、例えばレンチとか、ほかのベクターを使うことも十分考えられると思うのですが、もちろん増殖性……入らないベクターを使うと、余りよくないとは思うのですが、非増殖性に入るベクターを使えば、大体同じようなことが。要するにAAVと使ったとしても、同じようなことが想定されるのか、その辺のところはどうでしょうか。
○松崎参考人 ウイルスベクターというのはそれぞれいろいろな特徴があるわけで、今回の場合、なぜAAVを選んだかというのは、まず最初にお話したように、自分自身で増殖しないということ。それと、選択性がないというのはすごく大きくて、認識タンパクがインテグリンですので、それはどこにでも、どの細胞にもあるということで、いろいろなテストをする際に一番便利かなということで、AAVが選ばれているのです。
 レンチを使うという話も出たのですが、結局、今は皆さん、いろいろな所で遺伝子治療に使われている傾向を見ると、AAVのほうが免疫反応も起こす割合が少ないと思われているようだと、我々は専門家ではないので、間違っていることを言っていたら訂正をお願いしますが、そのようだということで、AAVに決めたのです。
 実際、感染効率はレンチもAAVも非常に高いのです。そこは確かにチョイスがあるというのは認識しました。
○山口委員長 もう1つはin vivoの中の、逆にベクターの相合組換えの話がちょっと気になったもので、例えばレンチであれば普通、なかなかケースはないかなという気がするのですが、AAVはひょっとしたら、中に野生型のAAVもいるという。
○松崎参考人 そうですね。それは、そういう心配も将来出るだろうなという話はありましたが、なにせ短い論文なので、そういうところは全然触れていません。
○山口委員長 ありがとうございます。お二人の先生方への御質問のほうはよろしいでしょうか。それでは、改正の話のほうに、もし今回の話を受けて、あるいは前回の話でももちろんよろしいのですが、改正の方向性としての御意見等がありましたら、まず議論をさせていただければと思っています。あるいは、もう今日は時間がないので、議論をする時間はないと思うのですが、もし何かこのことだけはという話があればお願いしたいと思います。
○位田委員 質問です。ゲノム編集を遺伝子治療として取り扱うというのは、原則はそうなのでしょうけれど、基本的に規制をすることによって研究が進まないという話も、当然あり得るわけですよね。
 規制の中に入れると、プラスは安全性が確保できるということですが、それが今の指針の体系の中に入れると、マイナスになる部分というか、研究をやればいいと私は思っているわけではありませんが、やはりある程度リスクとベネフィット、リスクではないのですが、メリット、デメリットと言うのでしょうか。その辺を考える必要があるかなと思うのです。その辺りは何かあるのでしょうか。
○山口委員長 多分これは、私が言うべき話ではないかもしれませんが、先ほど内田委員の説明の中にありましたように、例えばヨーロッパは官民を合わせた予算を持っていまして、その中にゲノム編集そのものを、やはり活性化していくのだという、それは明確なメッセージが出ているわけです。
 そのためにはアメリカもそうだと思うのですが、より正確なゲノム編集。多分、先ほどから松崎先生の御説明があったような、オフターゲット効果の少ないゲノム編集を開発していこうということに対する意思は感じられます。規制当局はそういうことも、やはり逆に言うと考えているのだろうとは思うのです。もう1つは規制というか、指針の対象にするというのは、阻害するという意味ではないような気がするのです。要するにガイダンスというのは、こうやれば開発できるよという意味も、もちろんあるので。
○高橋委員 前回もまとめに出ていたのですが、書き換えない場合というのは、例えばアメリカとかヨーロッパでは対象外にされているのですか。要は、配列を変えないというのをどうするかというのは、多分それでこの会の議論が大きく変わってくると思うのですが。
○内田委員 そこまでの細かい話というのは、全く分からない状況です。ただ、海外はとにかくどのような臨床研究であっても、IND審査ということで、必ずどのような臨床試験でも審査が入りますが、日本の場合には、指針の対象か対象でないかによって、審査の状況が変わってくるというところが、大きく違ってくるところです。
○山口委員長 去年の12月、少しFDAで議論したのです。一応タンパクを使った場合とか、mRNAを使った場合に、対象外になるよねと。もともとFDAは遺伝子を搭載したものを入れない限り遺伝子治療にしていなかったのです。デリーションというかナショナルカレンスになるようなものは、遺伝子治療の対象というか、遺伝子治療の規制としての対象外になっていたのです。でも、この辺は多分オフターゲット効果の話も、FDAは当然考えていまして、その辺をどうするかというのは、今、FDAの動きがどうあるかというのは、ちょっと私も分からないのですが、そのことの認識はあるとは思います。
○今村委員 適応範囲の拡大というのは、その方向の議論がされていると思うのですが、今、話があったように、EUとか米国も同じようなところに差し掛かっているということであれば、そういうEUや米国のあれというのは、やはり横目に見ながら、日本のあれも規制というか、指針を考えていかなければいけないのではないかなと思いますが、そこのところはどうなのですか。
○山口委員長 できるだけその辺は、情報を集めさせていただければと思います。それで、分かった時点では当然こちらに提供。EUは多分、最終的にまとめたものを絶対に発表しますので、恐らく今年中には出てくると思うのですが、それ以外に、場合によっては誰かEUに行っていただいて、聞いてくるというのも1つの手かなという気がします。
 ほかによろしいでしょうか。多分、今日は指針の中のかなり深いところまでは、なかなか難しいとは思うのですが、議論の続きというのを次回以降にさせていただければと思います。
 それから、最初のほうに少しありましたが、指針というのが3層制になっていまして、大臣告示の部分と、計画書としてどういうものを書くべきかというのと、更に細かい遺伝子治療ベクターの製法とか、そういうところが書いてある別添の部分。そういうところまで含めて、どういうところを、例えばゲノム編集で今まで適応されていなかったけれども、適応する場合にはどこまで書き込まないといけないかとか、その辺のことについて、できれば考え方を少し小グループでまとめたほうがいいのかなという気がしていまして、その辺を少し事務局のほうから御説明いただけますか。
○下川研究企画官 資料4を御覧ください。今日はこれについて御議論いただく時間はないのですが、まず2ページの所です。前回頂いた意見を下の※の所に反映させています。また、今日頂いた御意見についても、反映して改定したいと思います。
 それから今、山口先生から技術的な部分について小委員会でというお話があったのですが、4ページをお開きください。これは(2)の項目に関しての部分ですが、一番上の※1の所です。この(2)というのは、研究計画書の記載事項や内容、実際に計画書を記載する際に、技術的なことについての留意事項をどうするかということを決めなくてはいけないのですが、技術的かつ細目的な内容となっておりますので、効率性を考慮しますと、まず私ども事務局で考えておりますのは、山口委員長の下に別途、研究班を組織しまして、今までこの委員会で頂いた議論を踏まえつつ、その内容について、この(2)の所については案を作成いただいて、その結果を踏まえて、またこの委員会で検討を行ってはどうかと考えています。
 それから(4)の所ですが、新規性の判断のところもかなり専門的な部分になりますので、そこも併せて研究班のほうで御検討いただいたものを、この 委員会に上げてもらってはどうかと考えています。説明は以上です。
○山口委員長 いかがでしょうか。多分このやり方というのは前のときの、遺伝子治療の臨床研究の改正のときも、全体のこういう議論をやる場と、細かい作業をやる場と、2つに分けさせていただいたのですが、そういう方向でよろしいでしょうか。
○位田委員 作業はそれでやっていただいたらいいと思うのですが、全体の、ゲノム編集という言葉が載っている範囲というか、それはもう確定しているのでしょうか。つまり、昔はと言ったら言い方はおかしいですが、遺伝子を導入する、それで治療するというのが遺伝子治療だったと思うのですが、今回は切るということから始まるわけですよね。今度は抜くというケースもあるでしょうし、切る、抜く、加えるという全部をゲノム編集と呼ぶのか。つまり、ただ単に切るだけというのもゲノム編集に入れるのかどうかという問題があると思うのです。
○山口委員長 鋭い指摘だと思います。正直に申しまして、ゲノム編集を全て定義付けるというのは、松崎先生はどうでしょうか。なかなか今はパっと、こういうのが全部ゲノム編集に入るのかという、その辺はかなりフレキシブルなゾーンと、はみ出してきているゾーンもあるような印象を、私としては持っているのですが。
○松崎参考人 私自身はゲノム編集の専門の研究者ではないので、直接お答えはできないかもしれないのですが、やはり今、何を対象にして、どこまで議論するかということを、あらかじめ決めておく必要がある。なんとなくフワーンとしたまま議論していると、目的がないままさまようことになりかねませんので、少なくともここの委員会では、ここの部分をきちんとやるのだという、特に技術的な面も中心でしょうけれど、そういったことはあらかじめ決めておく必要があるだろうなと思います。
○山口委員長 多分そういうところは、ここの委員会で議論していただかないといけないのだろうと思います。それに合わせて、例えば細かいところをどう規定していくかというのは、その作業委員会のほうでいいとは思うのですが、今の技術レベルは多分、かなり急速に変わってきているという、そういう技術も含めてどう規定しておくかということなのかなと思います。
○松崎参考人 あと、今回はヒトに対しての治療ということでの範疇に入ってくるわけですが、ただ、必然的にその一歩手前の基礎研究の部分というのは、どうしても入ってきますし、そしたら、その中で生殖細胞、受精卵というのはどうしても噛んでくる面があります。直接ヒトにやらないにしても、そこのところもどこまできちんと決めておくのかということで、あらかじめ考えておかないと、不用意に全部、従来の枠組みに放り込んでしまうと、研究がどこでもできなくなるという事態も起こりかねないですよね。
もう1つ、日本はこういったものは、例えば胚の扱いであるとか、あるいは生殖補助医療の扱いであるとか、その場その場でつぎはぎだらけでいろいろなものを作ってきていますよね。作った時点では、ともかく齟齬がないように、上手に専門家が作っているわけですが、新しいものが出てくると、そこで全部綻びが見えてくる所があるのです。そこまでこの委員会で話す立場ではないのかもしれませんが、そこのところまで踏み込んで、この委員会としての提言といったところまで出すようにしないと、今後また何か私たちが考えもしない新しいヒトゲノム編集が出てきて、それは今の既存のもので当てはまらないとか、さあどうしようと、いつまでたってもつぎはぎの着物を着ているような状況になる可能性があると思いますので、その辺の整理はとても大切だと思います。
○山口委員長 多分、今変えようとしているのは、今までのもので対応できなくなってきているのは間違いないと思いますので、高橋先生のほうは、その辺はいかがですか。
○高橋委員 先ほど質問させていただいたのですが、結局、今はDNAを改変するというところを考えたほうがいいのではないかなと思うのです。ただ、新しい技術としては、変えないで発現だけ抑えるみたいなのもあるのですが、そこまで行ってしまうと、なかなか収拾がつかないのではないかなというのが、私が周りの先生方とお話したときの印象ではあります。
○山口委員長 それは、この場で議論させてほしいのです。この間お話いただいたように、ゲノムを変えずに、例えば発現抑制をさせたり活性化する場合に、その技術のところを言及するのか。それから、場合によってはDNAアセチル化とか、そういうものまで関わってきた場合に、書き様がものすごく難しくなってくるような気がするので、委員会としてはそういうところを整理させていただければいいかなという気がしています。
○位田委員 もう1点だけ、生殖細胞に触ってはいけないというのは基本なのですが、先ほど松崎先生がおっしゃっていたAAVが全身に行ったときに、結果的に生殖細胞に触る可能性があるという場合は、どうなるのかなという気がします。
○山口委員長 それは先ほど内田委員が、意図しない生殖細胞への挿入変異のリスクについてという、一応ICHで見解を紹介されていまして、その中から、やはりそういうことが起きないかということ、起きていないかということを評価するべきというのを、一応出されています。
それは、例えば動物を使って、もちろんヒトでは試験はできないのですが、欧米では場合によっては被験者のspermの中に、DNAがゲノムに入っていないかという検査までやられています。
○位田委員 もし1回そういうことが起きると、仮にヒトで起きた場合には、元に戻せないですよね。
○山口委員長 はい。
○谷委員 やはり生殖細胞を用いたin vitro研究は、何らかの形でやらなくてはいけないゲノム編集技術自体に関する毒性試験の1つだと思います。マウスやサルでは分からないことが起こり得る観点から、詳細な研究の実施も必要であると思います。AAVに関しましても、AAVはヒト特異的なウイルスでして、AAV1領域というのは、ヒト種内に同一のウイルスが挿入されている遺伝子領域があるわけでして、そういうものも含めて松崎先生が先ほど仰いましたin vitroの研究も含めた形での、ゲノム編集全体としてのディスカッションポイントが出てくるのではないかと思います。
○山口委員長 最後に活発な御議論を頂きまして、ありがとうございます。次回以降に是非その辺の議論をさせていただければと思っています。最後に事務局から連絡事項等がありましたらお願いします。
○下川研究企画官 次回の日程ですが、7月5日の午後5時からの開催を考えています。次回は、ゲノム編集技術による医薬品を開発されております東京大学理学部の濡木教授を参考人としてお招きし、お話を伺って、その後、これまでのヒアリングを踏まえまして、検討事項について具体的に御議論を頂ければと思います。今後、改めて御連絡いたしますので、よろしくお願いします。
本日の議事録につきましては、作成次第、先生方に御確認をお願いして、その後公開させていただきますので、よろしくお願いします。以上です。
○高橋委員 資料は持って帰っていいのですか。
○下川研究企画官 資料はお持ち帰りいただいて結構です。
○山口委員長 本日は第2回の遺伝子治療等に関する指針の見直しに関する専門委員会に御参集いただきまして、ありがとうございます。次回以降もまたよろしくお願いします。
 

 

(了)

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