ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 政策統括官(総合政策担当)が実施する検討会等> 労働政策担当参事官室が実施する検討会等> 「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会> 第7回「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会 議事概要(2016年4月26日)




2016年4月26日 第7回「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会 議事概要

政策統括官付労働政策担当参事官室

○日時

平成28年4月26日(火)16:30~18:30


○場所

厚生労働省(中央合同庁舎第5号館)12階 専用第14会議室


○出席者

青野氏、磯山事務局次長、浦野氏、大内氏(WEB参加)、金丸座長、小林(庸)氏、冨山氏、中野氏、御手洗氏、柳川事務局長

○議題


○金丸座長 
定刻となりましたので、只今から第7回「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会を開催いたします。皆様大変御多忙の中、お集まりいただきましてありがとうございます。本日は小林(りん)さん、松尾さん、山内さん、山川さんは都合が合わず御欠席です。また、中野さんは都合により会の途中で御退席される予定です。大内さんはWeb会議での御出席です。
 1つ目の議題は、御手洗さんから、「気仙沼ニッティングから見る、地方の雇用の現状と未来」というテーマで資料に基づき御説明を頂きます。それでは、御手洗さんよろしくお願いいたします。

○御手洗氏 
よろしくお願いいたします。今回、最初に頂いていたテーマが、「気仙沼ニッティングから見る、地方の雇用の現状と未来」でした。ただ、プレゼンテーションを用意しているうちに、特段地方に限ることはないかと思い、発表内容はあまり地方に限っておりません。それよりも、これまでの議論の中で忘れられないのが、山内先生に編み手さんは労働者じゃないと言われたことなのです。前回、厚生労働省の事務局から頂いた資料などを基に、もう少し非労働力人口と言われている方々についても詳しく見られたら良いかと思ってプレゼンテーションを用意してまいりました。
 資料の3ページで、本日お話する内容を示しております。1番目は、気仙沼ニッティングの概略で、これは簡単に説明します。2番目は、データから見る働き手の状況です。3番目は、柔軟で多様な働き方を実現するために求められた経営上の工夫とチャレンジです。
 では、1番目、「気仙沼ニッティングの概略」です。気仙沼ニッティングというのは、震災後、2011年3月11日の東日本大震災後に、地域で続いていく産業を作ろうということで立ち上げた会社です。私は、もともと前職でブータンという途上国の政府にいたことがあります。支援というのが諸刃の剣で、人的支援、経済的支援のどちらについても、後先なくやってしまうとかえって地域が中長期的に自立していくのを阻害することを肌身を持って感じております。震災後、短期的な復興支援は多くありましたが、地域が中長期的に自立していくための産業を育てる、そのための種を蒔くというようなことが少ないのではないかと思って始めたのが気仙沼ニッティングという会社です。
 また、気仙沼ニッティングは働く人が誇りを持てる仕事を作りたいと考えています。震災後の気仙沼である人が言っていた言葉が忘れられません。自分は仮設住宅の集会所などであった、学生たちが来て、小物をみんなでワーワーと作って、それを学生が東京に売りに行くという活動にいまいち参加できなかった。仕事というのは、本来相手に喜んでもらうためにやることであって、お客さんが喜んでくれるから頑張れるし、もっと良い仕事をしようと思うものだ。それなのに、自分の息子や娘みたいな年の子が「かわいそうな人たちが作ったものなので買ってください、よろしくお願いします」と、東京で頭を下げて売る物を、どういう気持ちで作って良いか分からない、と。それは、真っ当な感覚だと思いました。
 そういうことで、続いていく産業を作ろうということと、働く人が誇りを持てる仕事を作ろうということで始めたのが気仙沼ニッティングです。
 気仙沼ニッティングというのは、気仙沼の編み手さんが編む手編みのセーターやカーディガンなどをお届けする事業を行っています。よく、なぜ編み物なのかと言われます。1番の理由は、震災後色々なものが流されてしまった気仙沼でも始められる事業だったからという実現可能性の問題でした。気仙沼は沿岸部が地震によって地盤沈下しています。盛土をしないと建物が建てられないので、大きい工場などをすぐに建てられる状況ではなかったのです。しかし、編み物であれば、編み針と毛糸があればすぐできる。それだけ初期投資が少ないものであるわりに、他の刺繍などの手芸とは違って、セーターやカーディガンという洋服を作れますので、わりと大物を作れる。そうすると手芸ではなくて、アパレルとかファッションの領域での値付けができます。私は途上国出身みたいなものなので、そこからすると日本の人件費は高いと思うのです。その人件費を掛けて労働集約的なことをしても採算があうようにするには、高付加価値な仕事をする必要があります。編み物であれば、良いデザインにして、良いブランドに育てることができれば、何とか採算を合わせることができるのではないか。そう考えて、編み物にしました。
 編み物の会社を始めることにして、一番最初に考えたのは、価格設定です。いったい幾らぐらいの商品にすれば採算が回る事業になるのか。まず、セーターを1着編むのにどれぐらいの時間が掛かるのかを調べたのですが、50時間以上掛かります。そこに対して人件費がかかりますし、その他のコストもかかります。その時点で、最初の商品は15万円で売れるものにしようと思いました。でも、15万円で売れるセーターやカーディガンはなかなかの価格なので、相当良いものに振り切らないと成立しないということで、毛糸作りから始めました。デザインは、編物作家の三國万里子さんという、人気編み物作家にお願いしました。
 最初に出したカーディガンはオーダーメイドの「MM01」で15万1、200円でした。最初は4人の編み手さんしかいなくて、これを4着受注しますというところから始めたのですが、それでも注文が来るかどうかドキドキだったのですけれども、100件ぐらい応募が来て、抽選販売になりました。その後もずっと倍率が落ちなくて、去年ぐらいからは、ご注文いただいた方には順番に編ませていただきますという方針に切り換えました。今でもこの商品だけで170人待ちぐらいになっています。
 買ってくださるのはどういう方が多いかということです。都市部の富裕層ですかと、聞かれるのですけれども、全然そんなことはないです。極めて全国の方です。大体が、普段から15万円の服を買っているような人ではないです。どちらかというと、普段はそんな贅沢はしないけれども、買うときには良いものを買って長く使いたいという方が多い。そのような一生ものの服が欲しくてと。1着ぐらいは子供に、これは良いものなのだよ、あなたも大きくなったら着なさいと言って渡せるような服が欲しいですという方が多いです。
 着物の文化にも近いのかなと思っています。私も友人の結婚式に参加するときに着物を着ていったりするのですけれども、大体が親の着物におばあちゃんの帯みたいな感じなのです。良い物を作って、代々使うような価値観というのがもともと日本にはあるのかなと。最近はそんなに着物を着るわけではないですが、そういう価値観でうちのものを買ってくださる方が多いのかと思っています。
 今はモデルも4つに増えています。左下の「エチュード」という一番シンプルなモデルが7万5、600円で、売れ筋です。うちの会社の売上げを支えているのがこのエチュードです。MM01は15万円という価格にも関わらず、何百人待ちということで噂になりやすいのですけれども、それよりは何倍も売っているのがエチュードです。着るとこんな感じです。
 また、気仙沼に店舗を構えています。こういう感じです。お客さんは、オンラインでも注文できるのですが、気仙沼までわざわざ来てくださる方が多い。
 編み手さんが一番喜んだ瞬間というのがありました。今やうちの編み手さんは練習生も含めると60人ぐらいになっていますが、一番喜んでいたのはいつかというと、気仙沼ニッティングが法人化して最初の1年が終わった時です。会社としての決算が、黒字だったのです。それで、うちの編み手さんたちに、「皆さんがコツコツ1年間良いセーターやカーディガンを編んでくれたおかげで、気仙沼ニッティングは初年度から黒字でした。これで、無事に気仙沼市に納税できます」と発表した時に、「うわーっすごい、信じられない」というように場が沸いたのです。ある人が、「これで肩で風切って気仙沼を歩けます」と言いました。
 肩で風切って気仙沼を歩けますと言った人は、一番最初に、かわいそうな人が作ったものです、買ってください、お願いしますと、大学生が頭を下げて売るようなものは作れないと言った人と同じ人だったのです。逆にこちらが学ばせていただく思いで、なるほどなと。ここまで含めて仕事の喜びであり、誇りなのだなと。最初は皆の暮らしの糧にと思って会社を始めました。もちろん、それも一義的な仕事の意味としてあるかとは思いますが、やはりお客様が一生ものだと思って着てくれるようなものを作れるというのがうれしいのです。うちのお母さんはそういう仕事をやっているのだ、ということが娘の自慢になっていたりします。さらに自分たちの仕事によって会社も利益を上げて、町に貢献できている、というところまで含めての嬉しさなのだと思いました。
 また、気仙沼市役所が本当に粋なことをやってくれました。これを発表した日に、どこかからかこの情報を仕入れた気仙沼市が、ツイッターの公式アカウントで、「気仙沼ニッティングさんが初年度から黒字で納税してくださるそうです。ありがとうございます」と出してくれたのです。それで、うちの人だけではなくて、町の人の知るところになり、ますますうちの編み手さんたちは肩で風切ったわけです。税金は督促されることはあっても、「ありがとうございます」とはあまり言われたことがなかったのです。これは、どの自治体でも無料でできることなので、みんながやったら良いのではないかと思いました。以上、気仙沼ニッティングの話を駆け足でしました。
 気仙沼市というのは、基本的に人口減少も高齢化も進んでおりますし、地域で働き手が集まらないと言って、水産加工会社はヒーヒー言っているような町であります。その中で、うちは3、4年で60人ぐらいの所帯になっていて、どうなっているのだと言われることが多いです。うちに人が集まるのは、他社から取ってきているのではなく、他では働けない人が来ているためです。うちでアンケート調査を取ったら、半分以上の人が、他では働けないと答えていました。うちに来る前は仕事をしていなかった人が多いので、そんな感じなのかと思っています。
 どういう人が多いかというと、この前御紹介したような、要介護の旦那さんと2人暮らしで、なかなか外に出られない方。旦那さんが病気になった時に、医療費で貯金が尽きてしまっていて、今は外に働きに出られないけれども、この状況でずっと年金だけというのは非常に心細い。食事の支度とか孫の世話、おうちの会社の手伝いとかもあって、週に数時間家を抜けるのがやっとであるけれども、何か仕事がしたい。子供が2人いて、この人はしっかり者なので、幼稚園のPTA会長まで任されている。そうすると、なかなか外で働くのは難しい。この方などは、お金を稼ぎたいというよりも、何か自分も役割が欲しいみたいな感じなのです。そうなのだけれども、70歳を過ぎていると、どこも雇ってくれない。なるほどなと思ったのは、小さい町なので、震災を機に家業だった会社を畳んで、何々屋の奥さんというように顔が割れているので、コンビニのレジには立てないのですという方。これは、家業だった会社を畳んだ方以外でも、旦那さんが社長だったりすると、大体がアルバイトは難しいということがあるのかと思っています。
 そんな人たちが、どのように現状、捕捉されていたり、対策が取られているのだろうか。ここからは、「データから見る働き手の状況」ということで、データを見ていきます。前回の会議で、事務局からこの資料を御提示いただいたと伺っています。私がリクエストしたのに、欠席してしまって大変申し訳ありませんでした。「働く方ごとに適用される労働関係法」ということで、これは漏れなく、ダブリなくという形で、人口が就業状況によって分かれています。私はこのデータをメールで送っていただいたときにびっくりしました。「非労働力人口」が1個も分かれていない。4割いるはずなのに、全く枝分かれしていない。4割のこれは何だみたいなことに、非常に興味津津になりましたので、今回見ていきます。
 グラフにすると分かりやすくて、左側は15歳以上人口です。厚生労働省で労働者として把握している方は、基本的には「雇用者」であるということを山川先生から教えていただきました。事務局にも確認したら、やはり「そうです」と伺っております。そういう方は5割です。正規、非正規で言うと、全体の3割ぐらいの方が正規社員になるかと思います。そもそも雇用者は5割ぐらいしかいません。私は、もっと自営業者が多いのかと思って、この前の会議までは「自営業の人もいるし」と言っていたのですが、それは気仙沼市に特に多いということのようで、全体ではそんなに多くなくて、1割ぐらいでした。
 ただ、圧倒的にびっくりするのは、この4割の人が「非労働力人口」になっているということです。これは何だろうというのが気になっています。基本的には15歳以上人口から、就業者と完全失業者を引いた人たちなのです。完全失業者というのは極めて定義が狭くて、労働力調査の調査票をみると、調査前月の月末1週間に具体的な求職活動をしていないと入りません。それ以外の人は、基本的に非労働力人口であるということでした。
 どういう人なのかと思って次のページで見てみました。これは、青が労働力人口、赤が非労働力人口です。女性は15歳以上でも半分が非労働力人口なのだということが分かりました。各年代にいます。この辺はきっと子育てが忙しかったりすると思います。65歳以上になるとかなり人数が多いです。
 次のページでは、都市部が多いとか、地方が多いとかあるのかと思って、こういう場所に多いという意味合いが出せたら良いと思って並べてみたら、むしろこれは差がないという意味合いであろうというぐらい、ほとんどみんな4割ぐらいなのです。都市部か地方かにかかわらず、大体4割ぐらいの人が非労働力人口。地方も都市も関係のない問題なのかと思います。
 先ほどの非労働力人口の赤の所をもう少し分解してみました。非労働力人口の人がなにに従事しているかを示しています。この濃い赤、下の方の15~24歳ぐらいまでに見られる所の方々は通学、赤の方々が家事、ピンクの方々がその他です。やはり、圧倒的に赤の家事の方々が目立ちます。女性の場合は全年代にいます。特に60~70代が多いと思いました。もちろん60~70代は団塊の世代なので、もともとのボリュームが多いというのがあるかと思います。これだけ見ると、若い頃働いていた人が、60代になると退職して家事を担うようになるから、60代以上の非労働力人口が多いように見えます。社会保障制度の議論でも、65歳以上の人にも活躍してもらうために、退職年齢の引き上げという話もあります。しかし、本当にそうなのかなと思いました。
 そこで、現在65~69歳の人たちの、10年前、20年前、30年前を遡ってみました。今家事をやっている人は、多分ずっと家事をやっていたのではないかということが分かりました。もちろんそうでない方もいますし、この辺は入り繰りがあったりするかと思うので、個人ベースでは何とも言えないのですけれども、単にボリュームだけ見ると、65歳以上の非労働力人口の女性の多くは、30~40代のころから家で家事をしていた人たちが多いことが推察できます。もともと専業主婦が今よりも割合が多い時代だったということもあるでしょう。30歳、40歳ぐらいまで、例えばこの辺までずっと家にいると、なかなかその後の就業が難しいという事実もあったのではないかと推察しています。
 以上のデータから、私が感じるのは以下の3つです。
 1点目は、労働政策が対象とする「労働者」は、現在は「雇用者」とされていますけれども、それは5割にすぎないですし、自営業なども入っていない。今後、多様な働き方が求められることが予想される中で、言葉の定義が知らず知らずのうちに政策空間を規定してしまうことが往々にしてあるのかと思っています。現状の「労働者」は定義が狭いのではないか。特に、「非労働力人口」の人が働けるようにするためには、自営業的働き方まで含めて考える必要がありますが、労働者の定義が雇用者に限られていると、こうした対策が取られにくくなってしまいます。
 2点目は、人口の4割に上る非労働力人口について、それがどういう人たちで、その中で就労意思があるのはどういう人たちで、なぜ就労できないのかについて、現状の課題や原因を正しく正確に把握して、対策を取っていく必要があるのではないかと思っています。
 3点目ですが、非労働力人口は65歳以上の人たちに特に多く、特に社会保障の観点から、こうした方々の社会参画を議論されています。しかし、この方々の中にはずっと家にいた人が多いので、単純に退職年齢を引き上げるというだけでは多分対策にはならず、新しい社会参画の形を創出することが求められるのではないかと思っています。
以上が第2章のデータから考えることでした。
 次に、第3章です。そうは言いつつ、柔軟で多様な働き方を実現しながら経営するというのは、普通の経営よりも難易度が高いのではないかと私はうすうす思っています。具体的な工夫やチャレンジについてお話できればと思います。まずは気仙沼ニッティングの仕事の背景と概要についてざっとお話します。気仙沼ニッティングの編み手さんたちというのは先ほどお話したように、子育て、介護、家事などで外に出られない、1回も外に出たことがないという人が結構多いです。こういう人たちも働けるようにするために、うちの場合は初めてでもできる、自宅でもできる、自分のペースでできる、好きな分だけ仕事ができるという就労形態にしています。
 自宅でできるというところだけ注目されることもあるのですけれども、自分のペースというのが肝だと思います。自分のペースにするために納期なしにしています。製造業なのに納期なしなので、うちはすごく大変なのですけれども、そのような形態をとっています。これができるようにするためには、誰でもいきなり発注できるだけのスキルがあるわけではなくて、スキルトレーニングをして、そのスキルトレーニングをした人たちには必ず仕事を発注する。スキルトレーニングと発注契約を組み合わせた形にしております。これは雇用の形態ではないので、現状の労働者の定義には当てはまっておりません。一番難易度が高いというか、経営としては一番ポイントだろうと思うのは、こうした働き方をしながら、尚お客様に求められる商品やサービスをちゃんと設計する。つまり、それでニーズが合うものを作るという部分が経営上は一番大事なところなのかと思っています。
 そのために、具体的に何が求められたか。一番上は意外かもしれないのですけれども、一番大事だったのは楽しいムードでした。なぜかというと、これまで外で働いたことがない人は、「今更外に勤めに出られるかしら」など、外で働くことの心理的ハードルがすごく高いのです。また小さい町だからか「あの家の奥さん、旦那さんが会社をやっているのに、奥さんが働き出した」というと、旦那さんの会社は経営状態が危ないのではないかと見られてしまうことがあります。これをおそれ、旦那さんが会社をやっている人は、外で働きにくい。それでも本当に家計的に現金収入が欲しいこともあるので、昔はどうしていたかというと、パチンコ屋の玉洗いみたいな、外に出ないで済む仕事や、水産加工会社の夜のシフトとか、お客様に会わなくていい、すごく限られた職種に就くため、意外とそういう所に社長夫人がいたりするということがありました。ただ、楽しいムードだったり、あそこは良いよねという場所だと、本人の心理的抵抗も低く、周りのそういうレピュテーションコントロールにもなります。
 2番目は先ほどのとおりなのですけれども、自宅でできる仕事を作る。3つ目も先ほどお話をしたとおりですけれども、人の手が掛かって、かつ売れる商品・サービスを企画する。4つ目はスキルトレーニングの場を作る。5つ目は先ほどお話をしなかったかもしれませんが、各自、自宅でやるようにしてもらいながらも、特に高付加価値商品だったりすると、品質の担保が非常に重要になるので、その上で品質管理をどうやるかという、その仕組みのところは重要でした。
 最初の、楽しいムードなのですけれども、結構こういう細かいところが侮れなくて、地元のイベントとか、採用においても、うちの場合はデザイン全力投球なのです。つまり、顧客向けと同じぐらいデザインに力をかけます。これは、気仙沼ニッティングが一番最初に気仙沼で開いた編み物ワークショップの時のポスターです。「これ、編めます。」と書いています。これで、町の編み物好きが40人ぐらい集まって、それがうちの最初のプールになって、その中から上手な方に最初は2人に声を掛けて、だんだん声を掛けていってというようにしていきました。こういうのも、適当なチラシにしないということにはとても気を付けています。
 ちなみに一番最初は、ここに手袋ワークショップ、編み物ワークショップと書いていたのですけれども、これで人が集まるかなということを、気仙沼の人に見せたら「駄目だ」と言われました。「たまちゃんが集めたいのは、気仙沼の編み物が上手なおばちゃんなんだよね」「そうです」と言ったら、気仙沼のおばちゃんはワークショップという単語が分からないから、それでは誰も来ないと。確かにマーケティング的にそこは重要であると思って、「これ、編めます。」というようにしました。
 これは今年の1月に、うちが新聞に入れた折込みのチラシです。なぜお金を掛けて折込みを入れたか。小さい町なので、これまでは気仙沼ニッティングが採用募集しますとか、募集説明会をしますと、いつも記事に載っていたのです。気仙沼ニッティングの募集説明会は何日何時に、どこと。基本的にここに書いてあることと同じ内容なのですけれども、それではだんだん人が集まらなくなったのです。以前はその記事が出ると30人ぐらい集まっていたのが、数回出していくうちに集まる人が5人ぐらいになってしまったのです。この町には編み物好きがもういないのか何なのか、もう一工夫しようと思って、きちんとしたチラシで、「気仙沼ニッティングは良いものを編む会社です。一緒に、セーターを編んでくださる方を募集します。」と手抜きなしのデザインと表現でこれを出したら55人来ました。やはり、こういうところが結構大事なのです。これだと、参加してみたいとみんなが思うのだと思うのです。こういうところが効いてくるのだなと思っております。
 仕事の仕組みなのですけれども、これは外でちゃんと話したことがなかったと思っています。うちの場合、採用、トレーニング、作業、品質チェック、支払いという順でいくと、採用は不定期に先ほどのような募集を掛けます。やりたいと言った人に1回全員入ってもらいます。週に1回編み会を開催し、みんなが集まります。この編み会に全員来てもらいます。この編み会の場で、先生から商品の編み方についての指導を受けます。ある一定レベルになって、商品が編めそうになると、編み手さんの契約を結びます。作業は自宅へ持ち帰って進めて、編み上がると次の編み会。週1回は編み上げていなくても必ず来るのですけれども、編み会に持ってきて、品質チェックをします。寸法とか、模様が全部仕様に合っているかを確認します。これで合格すると納品なのですけれども、不合格の場合には編み直しになります。
 これは何十時間掛かっていても、不合格だと編み直しです。私のチェックが非常に厳しいと言われていて、1cmでも違うと全部編み直しになりますので、戦々恐々とした雰囲気になってしまいます。ただ、ここの部分は主観ではなくて、チェックリストもつくり編み手さんとも共有していて、全員が見ている前で一人ひとりのを測ってという、完全透明性でやります。最後は、納品した商品の数や種類に応じて支払いとなります。
 それだけではなくて、週1回の編み会の場というのは、みんな楽しみにしているところもポイントなのかと思います。技術指導、品質チェックの場であると同時に交流の場でもあります。みんなの顔が見たいから来るみたいなところもあります。何回も募集を掛けたので、今は3クラスで、入った期で言うと5回ぐらい入っています。すごく仲が良くて楽しい期、クラスというのはみんな残るのです。どうにか頑張ってみんな成長していくのですけれども、いまいち楽しい雰囲気にならなかったり、コミュニティがうまく出来なかった所は、いつの間にか辞めていってしまって、幽霊部員が増えるみたいなことがあります。このコミュニティ機能みたいなのが意外と効いてくると思っています。
 大体最初は難易度の低いものから始まって、難しいのに挑戦していって、それごとに編み代が高くなっていくという構造です。お客様にも、手編みであることを楽しんでもらうのは非常に重要だと思っています。単にハンドメイドという札が付いていれば良いというものでもないので、誰が編んだか分かるような工夫をしていたり、お店に来ると編んでいる人に会えますとか、このように人が感じられる、すごくヒューマンであるということを思いきり出しながらも、厳しい品質基準というか、ハイクオリティということの両立でやっています。
 そんな話ばかりすると、すごく上手くいっていそうではないかと見えるのですけれども、やはり大変なことは大変なのです。むしろ、こういう経営上のチャレンジみたいなことの方が参考になるのかと思って、これは公開資料なのに赤裸々に書いてまいりました。1点目は何がチャレンジになるかというと、働き手が各自のペースでできるようにすると言って、納期もなくしたりすると、極めて生産計画は立てにくくなります。それなので、大体うちは毎冬商品がショートしていますし、急いでみたいなこともすごくやりにくいので、上がってきた数が、結果論としてうちの生産数みたいになります。生産数が足りないと思ったら、編み手さんの採用から始めるということで、短期での生産調整は非常に難しい。
 2点目は結構誤算だったのです。みんなが沢山仕事をして、沢山稼ぎたいわけではないのです。1人当たりの編む数はみんなのペースに任せていたら少なかったのです。これは編むのが遅いというよりも、自分は1日の中でどれぐらい仕事に時間を使って、月々幾らぐらい稼ぎたいかというのが、私が思っていたより結構低かったのです。もちろんフルタイム並みにバリバリやる人もいるのですけれども、そういう人は全体の4分の1程度で、多くの人は、普通にフルタイムで働く場合の半分程度かと思います。
 3点目は、人工知能の話を伺うと頭が痛いと思うのです。難しいことにチャレンジするよりは、同じ簡単な作業を繰り返す方が好きであるという人は結構多いのです。気仙沼ニッティングの商品は、難易度に応じて編み代は異なります。このため、難易度の高い商品を習得した方が、1月に稼げる編み代も高くなる。しかし、それでも、難易度の高い商品に挑戦することに抵抗があり、比較的簡単な商品をずっと担当していたいという人は多い。金銭インセンティブだけでは不十分で、新しいこと、難しいことに挑戦するのは格好いよねとか、やはり難しい商品を編める人はすごいよねみたいな、文化ごと作っていかないと成立しません。うちの場合は、エチュードを習得した人は皆、難易度の高い商品の練習に入る、というルールにしています。それから、MM01を編んでいる人たちはすごいと尊敬する会社の雰囲気があります。弊社は、ルールと風土の両方でどうにか乗り越えましたが、これは基本的には当たる壁だろうと思います。
 4点目は解決できていなくて悩ましいところです。出来高制というのは自分のペースでできるところが良いのですけれども、裏を返せば完全実力主義なので、なかなか上手にならない人を救えないところがあります。練習しても練習しても、どうしても編めるようにならないとか、いつまでたっても1着当たりのスピードが遅い人は、どうしても大変になってしまうところがあります。出来高制ははっきりしていて分かりやすいのですけれども、セーフティネットがない大変さがあります。ここは課題です。
以上が、気仙沼ニッティングのお話です。
 最後に、気仙沼という小さな町に身を置いていて感じる、企業経営者にこれから求められると思うことです。やはり人口減少が進んでいる地域においては、企業というのは商品市場、商品サービス市場だけではなくて、もう片方の人材市場の方でも激しい競争に直面しており、今後これは激化すると思っています。具体的に言うと、これまでは物が売れないから潰れてしまう会社があったかと思いますが、おそらく今後は人が集まらないから潰れる会社が増えてくる。
 例えば、工場で稼働率がずっと損益分岐を割ってしまうみたいなことで潰れていく会社が増えるのではないかと思います。それなので企業としては、まず今やっている仕事とか、これからやる仕事のうち、何はロボティクス、人工知能に代替していくことができて、何は本当に人間がやるべきなのかというところは、きちんと見極めて分別していく必要があるだろうと思います。
 その上で人間がやるべき仕事をきちんと人間が行えるようにするためには、どうしても人の数は減っているので、色々な人に参画してもらう。そのためには多様で柔軟な働き方を創出することが求められると思います。その方が世の中のためだよね、みんなハッピーだよねというだけではなくて、それは企業の基本的な生存戦略になるということなのだろうと思います。以上で終わります。御清聴ありがとうございました。

○金丸座長 
色々な問題提起も頂いたわけですが、最後のAIのところは全ての企業というか、全ての国の人たちが悩むことでもあるかなと思います。
 これからフリーディスカッションに移ります。どなたかから、御質問、御意見などは。中野さんからは何かありますか。

○中野氏 
本筋ではないのですが、1個だけ気になったのが、女性の今の65歳以上の方で、1回も働いたことがないのではないかというデータの所で、男女雇用機会均等法前より前であり30歳定年制、結婚退職制などがあったので、そこを見ると、ちょっと違うかなとは思いました。

○御手洗氏 
あとデータを10年遡ると、そこまで見えるということですね。

○中野氏 
そうですよね。でも、どちらにしろ、あったとしても家事だけに従事している期間が長かった人というのは一定数いるでしょうし、今の50代、40代を見ても、そこにはまってしまっている人たちをどうするかというのはあると思います。

○御手洗氏 
あれを見て思ったのが、ずっと30、40代まで外で働いていないと、雇用の機会という意味でも、自分の心理的バリアという意味でも、どんどん外に出にくくなるのだろうということ。この年代の時からずっと問題は繋がっているのではないかという課題意識でした。

○中野氏 
次回、私が女性をテーマにしますが、新たにそういうブランクが長期にわたってしまう人をいかに作らないかということと、既に空いてしまっている人をどう戻していくかというところかなと思います。ありがとうございました。

○金丸座長 
どなたか御質問、御意見がありましたらお願いたします。

○小林(庸)氏 
基本的なことを2つとコメントです。先ほどの35枚目、入門編からプロフェッショナルに移っていく図で、編み代もMM01だと高くいと仰っていたと思います。今、編み手のシェアはどうなっているのか。つまり、入門編で止まってしまっていて、プロフェッショナルに行きたくない、行けないという人がどれぐらいなのか、それが課題になってしまっているのか。先ほど、170人が待っていると仰っていましたが、編み手が増えればそこをもう少し減らせるのだと思うのですが、その実態はどうなのでしょうか。
 あと、最後の方に仰っていた、スキルをどうやって上げていくかというところで、とはいえこれは完全成果主義なので、スキルが上がらないと収入も上がらないというお話をされていて、一方で編み会のようなものがスキルを移転する場所なのかなと思うのですが、それ以外にやっているものがあるとか、若しくはスキルを上げるために効果的になっているものがあったら教えて欲しいというのが2つ目の質問です。
 もう1つはアブストラクトな話かもしれませんが、御手洗さんの会社はまさにそうだと思うのですが、去年1年ぐらいかけて、ソーシャル・ビジネスというか、社会的企業と呼ばれる企業などを15社ほど回ってお話を聞いた時に、まさに我々なりにまとめた結論は、働き方の多様性の受け皿が社会的企業であるというのが、1つの得られた示唆だと思っています。つまり、他で働けないとか、時間の制約がある、障害を持っている、子供がいるというような場所になっているのが、もしかしたら社会的企業なのではないか、御手洗さんのような所かなと思います。もしかしたら、我々の調査は社会的企業を中小企業に限定してしまったので入らないのですが、青野さんの会社なども多様な働き方で、普通の会社だったら短い時間だと働けないような方が力を発揮しているという、まさに柳川先生や磯山さんと先日お伺いしましたが、そういう例なのかと思っています。
 これから労働力が希少になっていくとしたら、賃金に反応する人は賃金の高い所に行けば良いのだと思うのですが、賃金のみには反応しない人もいると思うのです。そういう人たちの1つの働く場所の参考になる点だなと思いました。最後はコメントです。

○御手洗氏
 実は、編み手さんの多くは難易度の高い商品を習得しはじめています。弊社で1年以上やっている編み手は30人ほどですが、このうち半分以上はすでに2つ以上商品を編めるようになっていて、難易度の高い商品も習得しています。
 ただ、エチュードもこれだけ並んでいるように見えますが、これはこれで品が切れていたりするので、その辺はバランスを見ながら進めています。小林さん、お店に来ていただいて、御購入いただきまして、ありがとうございました。

○小林(庸)氏 
全然関係ないのですが、先週気仙沼でハーフマラソンがありまして、私はそれに行きました。御手洗さんはいらっしゃらなかったのですがお店はやっているということで、買わないと思って行ったのですが、着てみたらすごく軽くて暖くて動きやすいことに感動して、つい買ってしまったということでした。

○御手洗氏 
ありがとうございました。編み手をいっきに30人増やせたのは、「大丈夫ちゃんと上がる」と思えたからです。それは金銭的インセンティブだけでは機能しなかったので、その風土を作るのにすごく時間が掛かったと思っています。
 なかなか上達しない人についても結局は編み会の中で対応しています。場や先生の相性もあったり、同期の中で自分だけ編めていなくて、辛い気持ちになって編み会に行きたくなくなってしまうということがあるのです。私は定期的に全員に個人面談をしていて、そういう悩みを聞くので、そういう人には何食わぬ顔で初心者クラスに入ってもらうのです。そうすると、また急に楽しくなってそのうち編めるようになったりします。
 私の本日のポイントとしては、社会的企業というよりも、人口が減少していくので、みんなこれをやらないと潰れてしまうと思うというところです。もう1つ、多様な働き方を受け入れるというのは、多様なインセンティブ設計もできるようになるということなのかなと思っています。

○金丸座長 
それでは、大内先生、よろしいでしょうか。

○大内氏 
今日は非常に貴重な話を聞かせていただき、どうもありがとうございました。私自身が興味を持ったのは、前回、幸福な働き方のためにはどうしたら良いかという話もさせていただいて、労働者目線では、時間的、場所的な自由を確保できるというのは非常に重要かなということをお話ししたので、今日お聞きしていて、編み手の方が自宅で、自分のペースで働くというところは、非常に良いことかなと思ったのですが、他方で、最後の方でも仰いましたが、こういう働き方は経営を上手くやっていく上では難しいところもあるというところで、ここをどう両立していくのかという問題があるのかなと思いました。
 それと同時に、今日のお話の中で、非労働力人口をどう政策の視野に入れるかということを仰っていたのですが、その議論の中、御手洗さんのお話の中に入っていたかどうか分かりませんが、政府が一般的にこういう労働力の活用ということを言う中には、日本経済のために使える人材を使っていこうという視点があるのかなという気もするのですが、自分のペースで働きたいと思っている人の幸福を見つめていくということと、日本の経済のためにもっと活躍してもらうということは、もしかしたら両立し難い面もあるのかなという気もしたのです。先ほどのビジネスの難しさという問題と、個人の幸福と日本の経済の葛藤について、何かお考えがあれば教えていただければと思います。

○金村座長 
難しい質問ですが、お願いします。

○御手洗氏
 まず、ビジネスの難しさというところと後半と引っくるめてのお答えになるかもしれません。やはり、地域の中で、フルタイムでバリバリに働く男性は母数が少なくなっていく。そうすると、会社としては、御高齢の方や、家事で家でやることのある方とにも社会参画していただかないとまわらなくなってしまう。「家で仕事したい」「少しだけ働きたい」という、ちょっとだけ参加したい人も参加でる会社にして、でもきちんと回っているという経営が重要になっていくのではないかと思います。経営としては難しいと言いますが、そういうことができるようにならないと、特に地方などではそもそも経営が難しくなるのではないか。うちの会社が特殊なのではなくて、例えば水産加工会社であれ、タクシー会社であれ、ある程度そういう要素を持っていないと、人が集まらなくて倒産してしまうということが未来としてあるのかなと思っています。
 先ほど「経営が難しい」と言いましたが、一長一短の話なので、新しい経営思想、新しい仕事の作り方の設計思想を身に付けるというところなのかなと思っております。
 それから、政府がバリバリ働いて欲しいと思っているということと人の幸せは両立し難いのではないかと言われていましたが、私はそのようには思っておりません。人はやりたくないことはやらない。政府とあれど、絶対に働けと強制することはできないわけなので、幾ら政府にそのような思惑があるとしても、結局は、楽しく働きたくなるような仕事を作るということが、より課題になってくるのではないかと思います。

○金丸座長 
青野さん、いかがですか。

○青野氏 
大変勉強になりました。ありがとうございます。特に、スキルトレーニングと発注契約の仕組み、スキルをアップさせる仕組みとか、大変勉強になって、早速参考にさせていただきたいと思います。
 ちょうどブランクのママの採用を狙っていて、20人ぐらいの申込みがあって、来月からインターンが始まるのです。もちろんフルタイムは無理なので、ブランクママにどのように働いてもらうか、どのようにスキルを身に付けてもらうかというのを悩んでいたところなので、是非参考にさせていただきたいと思います。
 あと、これは厚生労働省の方に聞いていただきたいのですが、30ページにありました、仕事をしたくても家を離れられない人がたくさんいて、この人たちが非労働者と言われているということなのです。ここは是非理由を調べてほしいと思っています。副業禁止を禁止しろというのが、私の一貫した私のメッセージなのですが、もう1つ足してほしいのがあって、旦那の異動を禁止しろというのがあるのです。実は旦那の異動で奥さんが働けなくなるという事例が山ほどあると思っています。私のいたパナソニックでも、結婚して家を買った瞬間に異動になるという伝説があって、強制的に辞めろということですね。要は、奥さんは働くなという異動によることがあって、2週間前に言ったらどこにでも行けみたいな、こういう大企業の良くない慣習を禁止して欲しいというのがあります。家族がある人を、本人の希望でもない所に勝手に異動させるというのがそもそもおかしくないかということを原則論としていただきたいと思っています。
 質問はまた全然違う切り口なのですが、編み手を増やしていくのは片方の車輪だと思うのです。もう1つは、その分の注文を増やさないと回っていかないわけで、渡す仕事がなくなってしまうわけです。そちら側はお困りではないのか。確かに受注残がたくさんあるというのはお聞きしているのですが、そうはいっても発注を増やしていくのは難しいだろうなと思うのですが、いかがでしょうか。

○御手洗氏 
今のところあまり困っていないです。むしろ、私は編み手を増やすことにずっと慎重だったのです。仰るとおり、編み手に入ってもらって、半年間練習してもらって、その挙げ句に渡す仕事がないというのが私にとっては最悪の事態です。一番避けたいのはその状況。
 うちがいつもいつも欠品とか、170人待ちと言っているのはそのためで、商品が確実に売れる状況を先につくってから、編み手を増やします。生産が販売を追いかけている。今日は厚生労働省での話だったので、市場側でどういう工夫をしているのか、どういう商品展開をして、次にどういうことをやってみたいなことはお話をしていないのですが、ふだん、頭の半分以上は、基本的にそちらに使うという感じです。
 これは大内先生からの御質問にも対応しているかと思うのですが。

○小川統計情報部長 
これは労働力調査の詳細集計のものでして、非労働力人口の中で就業希望があるかどうかについての調査です。
 例えば2015年の平均がありますが、非労働力人口の女性のうち、2、887万人いる中で、就業希望者というのは301万人しかいないわけです。実は就業を希望していない方が多いのです。特に65歳以上の方が多いわけで、65歳以上の人は当然就業を希望されない場合が多いわけです。そういう意味では、例えばわりと若い方であれば、25~30歳のうちの167万人のうちの68万人とか、35~40歳の238万人のうちの84万人の方は、就業を希望しているけれども就業していないという方が結構おられるわけで、その理由としては、適当な仕事がありそうもないという方もいるし、当然、出産・育児というのが1番多いというのがファクトとしてあるわけです。基本的には、特に高齢者になると、そもそも非労働人口が就業を希望していない、比較的若い方だと、希望はしているけれども出産・育児などで就業していないということになっています。
○御手洗氏 
ありがとうございます。これが、私が言っていた衝撃的数字というのです。これは、理由の所よりも、とにかく一番端の総数が大事だと思っています。非労働力人口の総数という一番左端の欄と、次の就業希望者数なのですが、例えば65歳以上限定で見ると、今年も去年も65歳以上の非労働力人口は男女計で2、500~2、600万人います。そのうち、就業希望の人は44万人しかいないと。やはり、年金を受給できる年齢になって、今更働きたくないということかと。社会保障制度改革での話などもものすごく乖離があり、これは潰れてしまうではないかみたいな勢いで、すごく衝撃的な数字だと思っています。
 ただ、一方ですごく肌感覚として分かるなと思っていて、うちの編み手さんになった人たちは、編み手になる前にこの調査票が来たとして、「就業希望」○を付けているかというと、多分、付けないのですよ。なぜなら、先ほどお話したとおり、自分が求めているような仕事が街にあると思っていないからです。「本章のデータから考えること」の3ポツ目で、退職年齢の引き上げだけでは対応できないと書きましたが、既存の仕事をそのまま年齢の上の人にもやってもらおうというのは多分機能しなくて、新しい社会参画の形を考えていかないと、どうにもならないというのは、その点です。

○浦野氏 
質問と意見です。今日のお話は非常にヒントの沢山あるお話で、ありがとうございました。私は、多分過去に企業などに勤めたことのない女性の年齢に一番近いと思いますので、私の立場から言いますと、やはり私の同期、一緒に会社に入った人も、全員結婚で辞めているのですね。そうすると、やはり3年ぐらいで辞めているので、その間は当時はお茶汲みをして、書類を配って、コピーをするということが中心ですので、勤めていた時のスキルが、一旦家に入ってしまってから改めてというのは、それはまず無理だと思うのですね。
 ただ、一方、今の65歳以上の方たちがすごいのは、この編み手の方たちもそうだと思うのですが、半端ではないお稽古ごとや家事とかをされているのです。そういう意味でのスキルは非常に高いと思うのです。なぜそれを感じているかというと、私どもは今、子供たち向けの理科教室や託児所を手伝うみたいなことを地方でやっていますが、そういう方たちは、家庭で培ったスキルはすごく高いので、色々なことができます。そういう意味では、年金をもらいながら、お弁当が出て交通費ぐらいが出れば、社会参画したいと思っていらっしゃる方はすごくたくさんいると思います。それが多分65歳以上のかなりの部分で、健康な方だと思うのですね。
 もう一方、先ほど質問したかったのは、工賃の高い方にいかれる方が25%ぐらいで少ないと仰っていたと思うのですが、差し支えなければ教えていただきたいのですが、その方たちのそこでの収入は自立できるぐらいの収入の方が多いのか、それとも年金プラスとか、御主人との家計を足し合わせてなのか、その辺りのところの感覚を教えていただければと思います。

○御手洗氏 
御質問は、後半の方ですよね。編み手には自立というのは結構難しくて、そもそも独り暮らしの人は少ないので、編み代だけで世帯の生活をまかなっている人はほとんどいないと思います。うちも結構気になって、この点はよくアンケートなどで聞いていますが、やはりフルタイム一人前ぐらいしっかり働かれている方だと、生活費プラス貯蓄に回っているとか、大きい買物に回っていることが大きいです。がっつり編んでいる人はそうですかね。大体、旦那さんや同居している子供たちにも収入があり、ない場合は、年金と自分の収入などの組み合わせになっているかと思います。年金もなくて完全に一人ということはあまりないですね。

○金丸座長 
生活のためという人は、そんなにはいらっしゃらないのですか。

○御手洗氏 
いや、生活にも入れています。

○金丸座長 
何が何でも稼ぐということではないということですね。

○御手洗氏 
そもそも2世帯以上で暮らしていて、世帯に稼ぎ手が1人加わるイメージですね。65歳以上の方は、大体、年金で基本的なところは賄って、プラスアルファにされている方が多いです。あと多いのは、ダイソンの掃除機とかを買っていますね。

○金丸座長 
具体的なターゲットがあるということですね。分かりやすいですね。

○磯山事務局次長 
2つあります。1つは、具体的にどれぐらいの労働時間を費やして、どれぐらいの収入を得ているのかというイメージがよく湧かないのですが、時給にするとどれぐらいなのか、一番ハイエンドの人から入門の人までいると思うのですが、それがどうなっているのか。あるいは、労働時間の把握みたいなものを経営者としては一応するようにしているのか、そこは全くお任せなのか。何に使ったか、どれぐらい時間を使ったかは多分アンケートをしていると思うので、これはどんな傾向になっているのかを教えていただけますか。

○御手洗氏 
細かく何時間というのは、編み手さんが計測していないので、ヒアリングしきれていません。うちの編み代の算出方法をどうしているかというと、標準編み時間というものを全部の商品に設定していて、難易度が高いものは、それに対して気仙沼の平均時給よりも高い時給を掛け合わせて編み代を設定する。難易度の低いものは、それと同じとか、こちらよりは下がるようにして掛け合わせるということをしています。
 ただ、この標準編み時間というのがポイントで、それより早く編む人は、もっと稼いでいくわけです。以前聞いたら、標準編み時間の半分で編んでいる人がいました。そうすると、とても効率よく稼げます。しかし、ゆっくり編む人の中には、標準編み時間の2倍掛かっている人もいます。そうすると、その人の時給に換算してしまうと、下がってしまいます。ですから、テンポよくパッパと編めるようになると、どんどん稼げるようになるのですが、もっとスピードアップをして沢山編もうとなかなか思ってもらえないところはありますね。思ってくださる方もいらっしゃるのですが。

○磯山事務局次長
 もう1つは、編み手として、今まで仕事をしたくても外に出ていけない人が多くて、その人たちに働いてもらうという多様な働き方の1つのきっかけだと思うのですが、経営者として、先ほどの大内先生の話にも通じるのですが、常用雇用というか、フルタイムで働いてくれる生産性の高い人を雇えれば、むしろそういう細々とした人たちを雇うよりも、きっと効率的であるという発想にはならないですか。
 もちろん、将来にわたって労働力人口が減っていくから、そういう多様な人を受け入れなければいけないというのは分かるのですが、もし、ある程度の売上げや受注が固定している中で、どちらの労働者を選ぶかというときに、御手洗社長はどちらを選ぶのですか。

○御手洗氏
 それで言うと、うちにはフルタイムのスタッフもいます。ただ、それは編み手さんではなくて、もっとジェネラルに、事務全般や店舗全般を担当しているスタッフです。編み手については、フルタイム化は考えていないですね。フルタイムにして時給制のにすると、編むスピードがゆっくりだったり、上達しにくかったりするように思います。どうですかね。

○冨山氏
 割とブランド型ですよね。高付加価値型で勝負をしているわけで、御手洗さんはやや謙虚に労働集約型と言っていますが、これは結構知識集約モデルに持っていっているから、10何万円で売れているのですよね。ですから、これを普通の労働集約産業とequivalentに考えてしまうと多分間違っていて、ですからブランディングと、ある種供給側を常に不足気味にマネジメントしているわけです。これは実は日本の企業は一番下手なところで、どちらかというと少し売れると頑張って固定設備投資をやってしまって、人件費も固定費化して正社員で雇ってしまって、要は固定費で供給力を持ってしまうので、それを埋めるために受注しなければいけないとなってしまうと、御案内のように四半期ごとに安売りをやってという、よくある日本のアパレルのダサダサのパターン、永久に抜け出せないあのパターンに陥るのだと思うのです。ですから、そういう意味で言うと、私はどちらかというと今のモデルの方が、常に供給、キープマーケットハングリーな方が良いので、そうするとむしろ全体のモデルと供給体制は調和しているというような印象で、多分、青野さんと似たような考え方だと思いました。
 それから、話が飛ぶのですが、何か厚生労働省という省名がまずいのではないかと。労働という言葉はやめたほうが良いのではないかと。厚生人材省なのか、厚生働き手省なのか分からないけれども、どうもこの労働という概念が、前回大内先生の話もありましたが、どうも今日的にやはり合わないと。それから、先ほどの話は私はかなりリアルな印象を受けています。そうすると、やはり働く場所も含めて相当多様性を担保することがすごく大事だと思いました。
 次に出てくるのは、ある種出来高制の働き方を労働強化ととる人がいるのですよね。結果的に出来高が生まれないと、対価がもらえないので、それを労働強化だからまたすぐに規制しろみたいなことを言う連中が出てくるので、その辺りの答えはまだないのですが、その辺りのチャレンジにどのように制度的にフェアな形で対応するか。実は、私はこういう働き方は大事だと思っています。逆に、これは出来高制なので変なプレッシャーがないというのもきっとあるのですよね。

○御手洗氏
 まさにそうなのです。先ほどの磯山さんの話ですが、本当にフルタイムにしたら生産性は上がるのかというのは、現場の感覚からするとそれは絶対ないのですが、どう説明すれば良いのか考えていました。やはり、上手になればなるほど、みんなから「すごいね、マスターだね」となっていきますし、賃金も上がっていくので、インセンティブ設計がまっすぐで、無駄なく成長するのですよ。それが、フルタイムで月に幾らですと払っていってそうなるかなというと、なるイメージがないなというところですかね。

○金丸座長
 磯山さんの質問は、わりと日本的な質問に見えたのです。というのは、イタリアのアパレル屋と日本のアパレル屋の違いみたいなもので、イタリアのアパレル屋は夏休みに休むお金も我々客にチャージしているのです。それで、向こうに行ってみたら何を言ったかというと、糸を休ませているのだと。ですから、何もしないこの2か月間は自分が休んでいるのではなく、糸が生き物なので、これを休ませなければいけないのだと言って正当化して、その期間は当然、糸のためですから、客のためでもあるので、それがチャージされるわけです。しかし、日本は単位時間当たりの生産性の個数を高めようと思ってしまうから、そうするとどんどん安売りというか、特徴のないアパレルになってしまう。
今日お伺いしたら、デザインで三國先生を雇われて、今度は素材にいっているじゃないですか、良い糸。あとは、編み方です。一番気になったのは、突然気仙沼ニッティングに入って、そんなにバリューのある編み方になれるのはトレーニングの内容なのか。それとも、先ほど浦野さんが言われた、その人たちは、編み物は私昔やっていたよという人なのか。デザインと糸は経営者が揃えられるのだけれども、編み方はどのように付加価値を生むような編み方にしていかれたのかをお聞きしたかったのですが。

○御手洗氏
 今日、そちらの話は飛ばしてしまいました。まず、うちはテーラーのようにオーダーメードはきちんと採寸してそのとおりに仕上げられるのです、しかも同じタッチアンドフィールで。ですが、そもそも編む技術の前に、それは日本でしかできないのですよ。何でかというと、英文の編み図は文章で書かれていて、表目2目、裏目2目、次に1回捻ってこうしてこうしてと、全部文章表記で、そのとおりに編むとこれが大まかにできると。大きくしたいなら、太い針を使いましょうみたいなものです。一方日本の編み図は、方眼紙にバーッと全部編み記号が出ているので、ここを3%縮小、ここを何センチ伸ばしてとか、全部グラフィカルに操作ができます。編み地を一定にたもったまま正確にサイズ調整したニットを手編みするというのは、日本でしかできないというところがまずベースとしてあります。その上で、そういうことを実現していくには何が大事かというと、常に一定の手加減でものすごくきれいな編み地ができてくるということが、1つ大事なのですよ。
 うちで何が一番大事かというと、家でやっていると多少サイズが違ったりいびつになってしまったりしていても、「良いや」といって編んでしまうのです。料理に似ているのですが、家でずっと毎日毎日みんなの夕飯を作り続けたお母さんが一流シェフみたいな腕前かというと、それは違ったりするじゃないですか。それと同じで、プロフェッショナルクオリテ良いでやるには、例えば一番最初の、ゲージと良いますが、この手加減でこのメリヤス編みの所をこれだけきれいに編むと。次に、このぐらいの手加減でこれだけきれいに編むとか。あとは、ここのジグザグ模様の出し方も、すごくコツがあって、普通の機械みたいに全部均一に引いていくと、きれいに出ないのです。ここをこのように引くとか、かなりテクニカルなことがあって、それをパーツパーツで練習して全体を作っていくようなことをします。
 これはすごくマニアックな話になってきますが、例えばこの赤い編み込みのセーターがあって、模様が浮いている感じに見えるのですが、普通に機械でやるとこうならなくて地味な色が浮いてしまうのです。こういう見え方にするために何をやっているかというと、各段をこのように編むのですね。各段2色なのですね。差し色の方を緩めに編んで目を大きくするよう編む。ですから黄色や赤が浮いて見えるようになっているとか、これも普通に編むと白がもっとフワーッと出てしまうところを、ここの中では紺のこういう模様を目立たせたいとか、もう目単位で全部編み目の大きさまで変えるようなことをやっていて、それでこういう格好良い感じになるのです。
 うちは、私も編み物やっていた、編み物好きだったのというおばちゃんたちも見にきたりするのですが、そういう人がみんな「駄目だ、かなわない」と言って愕然として帰って行ってくれないとしょうがないので、そこは頑張るところです。

○金丸座長
 もともと、そういうものは得意だったのですか。

○御手洗氏
 そんなに得意ではないです。頑張りました。

○金丸座長
 今の話は、良い話ですよね。日本モデルというか、日本にしかできないとか、日本に合っているという話ですから。

○御手洗氏
 そうなのですよ。しかし、それは全部後から分かりました。

○柳川事務局長
 今のはとても良いお話で、日本でどうやってこれから生き残って生産性を上げていくかという1つのモデルだと思います。ずっとお話を伺っていて、これをどこまで他の業種や他の製品に応用可能かという感じで聞いていました。1つは、先ほど冨山さんが仰ったように、固定費が結構かかると少し難しいのかなと思いますので、事実認識として設備投資的なものがどのぐらい必要なのか、それから、先ほどの営業の人や固定的に必要なホワイトカラーみたいな人はどのぐらいいるのか、固定費があると難しいということをどう思われるかをお伺いしたいと思います。
 3つ目は、やはり編み物だったからという先ほどの浦野さんのお話があったように、今までの経験をその世代の人がしてきた部分のベースがあったから、何かこういう御手洗さんのイメージに合うものの要求を、大変とはいえクリアしていける人材が見つかったということなのかなと思ったのですが、そうではなくて、こういうものは未経験者でもある種のトレーニングのチャンスを与えてあげればできることなのか、その辺りのポテンシャルな能力の必要性みたいなものをどのようにお考えなのでしょうか。それがあまりハードルが高くなければ、他の産業などにも、今まで経験のない人でも飛び込んでいけるような可能性もあるので、その辺りの今まで持っている技術をどこまで必要とするかをお伺いしたいと思います。

○御手洗氏
 前半の固定費の話は、仰るとおりで、うちは非常に固定費が軽いモデルにしています。編み手さんは練習中も入れると60人ぐらいいますが、フルタイムのスタッフは私以外に2名で回しています。こういうモデルですと、一般管理費と売上のバランスは常に見ますし、そこがバランスして、更に新しい事業に再投資できるだけの余剰を出せるぐらいが、この業態の最適規模だろうなと思っていて、そこまで持っていくことを常に考えています。うちの場合は3期ずっと黒字なのですが、新しい事業をやろうと思ったときの再投資という意味では、利益や余剰金として十分出ているわけではないので、もう少しは成長させたいと思っています。
 それから、もともとのスキルが必要なのかですが、正直そうでもないと思います。先ほどもお話したように、家でたくさんご飯を作っていたという人と一流シェフみたいなもので、レベルが違います。でも、気仙沼に編み物が得意な人が多かったというストーリーがきちんとお客さんに話せるというのはいいことでした。それに、気仙沼の人が、新しい会社ができたときに突拍子もなく感じない。そういうソフト面では役に立ちます。うちは夜間、35歳以下限定の若者育成コースも作っているのですが、そちらは初心者ばかりですが上達しています。あまり関係ないかと思います。

○柳川事務局長
 そうすると、実際やるかどうかは別にして、例えば違う業種で似たようなビジネスモデルは何かイメージできたり、やれそうだということはあるのでしょうか。

○御手洗氏
 ありますね。同じオペレーションで別のコンテンツを乗せるということはできるだろうと思っています。

○金丸座長
 今日の御手洗さんの問題提起の中で、非労働力人口という話があって、先ほど厚労省からこのデータが出てきて、さてどうしましょうと。これを、どう考えればいいですかね。

○小川統計情報部長
 雇用者だけが労働行政の対象かというとそうではなくて、例えば失業者であれば当然のことながらそれを救済するという話もありますし、それから、もちろん非労働力人口についても、例えばM字カーブも底を上げていこうという施策を全体として取っているわけですから、当然、非労働力人口も労働力化していくと。それから、起業についても、あまりメインストリームではないけれども多少起業支援という政策メニューもありますから、全くそういうものを対象としないわけではなくて、非労働力人口にも労働力化してもらう、若しくは起業化してもらうことは、当然我々としては持っています。

○岡崎厚生労働審議官
 今のは政策の話ですが、もう1つは非労働力人口がどういう人かというのは、これは就業希望の所だけを切り取っているので、就業希望をしていない方々がどういう人か。その中には、当然のことながら75歳、85歳、95歳で働けず、逆に要介護になっている方もいると。ただ年齢だけで就業を希望しない方もいると。そうすると、ターゲットは就業希望の所だけではなくて、就業は希望していないけれども、良い機会を与えれば就業させられる方々がどのぐらいいるか。ですから、これは人数だけではなくて、就業希望ではない方を含めて、健康状態などをもう少し分析できればと。そういうものをもう1回整理して、非労働力人口がどういう方々かというのも出させていただいて、それで御議論いただくのが良いかなという気がします。

○金丸座長
 そうですね。このデータを見ると、65歳以上というのは一括りになっているので、今仰ったように65、70、75、80、80歳以上はどうかというのはあるかもしれないけれども、80歳でも元気な方は経済界にはたくさんいて、私なんかはまだ若手と言い続けている人たちがたくさんいますので。ですから、ここは引き続き研究していただいて、その時点でもう1回皆さんにお示しして、御意見を頂こうかなと思いました。

○御手洗氏
 やはり定性調査なく数字だけを見ても意味合いが取れないということもあると思うので、何かどこかの町でまとめて話を聞いてみるとか、1回、生の声をこの懇談会の場でも聞く機会があると、大分議論の生々しさが変わるのではないかとは思いますが。

○青野氏
 そこは、是非お願いします。この近くに仕事がないというと、すぐその地方で仕事を作ろうという話になるのですが、違うと。学校を出たときには仕事が近くにあったと。何でその仕事から離れざるを得ない場所に行ってしまったのかというところの原因まで測らないといけないと。今私たちはママさんでも働きやすいと言われる会社になったのですが、この4月までに3件退職者が出ました。旦那が直前に転勤になって、香港です、ドイツですとなった瞬間に、私たちもそこまでは正社員で雇い続けられないとなってしまったのです。そういうケースがどれぐらいあるのかと。旦那の異動で辞めた人がどれぐら良いるのかというのは、これは逆に言うと定量で追おうと思ったら追える数だと思うので、是非もう一段階掘り下げて原因を探求してほしいなと思います。

○金丸座長
 そうですね。女性が仮に転勤したら、旦那が辞めて旦那が付いて行くかというと、そんな気もしないので。うちの会社も、それは多いですよ。

○冨山氏
 アメリカとかは普通ですよね。

○磯山事務局次長
 御手洗さんにお聞きしたいのですが、この非労働力人口の部分で、実際には請負みたいなもので働ける可能性のある人たちに、多様な働き方をしてもらうのは大賛成なのですが、そのときに何かセーフティネットだったり、編み手さんが守られるような何かがあるとプラスになるとか、あるいは彼女たちが働くに当たって困っているものは何かないのか。要は、正社員とか労働者というのは、基本的に組織に守られている部分があって、そこで権利主張をして、ずっと安定的に守られるから正社員は得なのだと、大内先生の本にもたくさん書いてあります。それで言うと、自由な働き方はできるけれども、すごい不安定な編み手さんを守る仕組みみたいなもので、新たにあったほうが良いもの。別に今日答えが出なくてもいいと思いますが、何かそういうものがあると、政策で付け加えていくことができるのではないかという気がするのですが。

○御手洗氏
 政策的に守るというよりは、やはり一番労使の力関係を決めるのは、お互いにお互いの選択肢があるかことだと思います。つまり、マーケットが機能しているかですよね。うちの会社の場合は、現状は少し会社が強くなっていると思っていて、すごく気を付けるようにしているのです。何で会社が強くなりかねない環境にあるかというと、うちの編み手さんの多くは、うちを辞めてしまうと他で働けないからです。こういう形態で働ける会社が、地域内にほかにないのです。そうすると、きちんとマーケットが機能していないので、向こうは選べないと。こんな会社辞めてやる、他の出来高制の会社があるからいいわ、ということができないのですよ。ですから、やはりこういう形態の会社が増えてきて、きちんと我々も競争にさらされるというのが、まず第一義としてあったら良いなと思います。

○金丸座長
 それでは、大内先生、お願いいたします。

○大内氏
 ホワイトボードがもしあれば使って欲しいのですが、そこに三角形を作っていただきたいと思います。今から話すことについて、簡単なことなのですが、今日の報告を聞いていて、私の立場からみると、自営業者や非労働力人口に対してどういう政策を取るべきかという重要な問題提起をしていただいたと思うのです。その問題を考える際に、私は三角形の頂点に幸福追求という言葉を書いて欲しいのですが、右下は日本経済、左下は生存保障。幸福追求も生存も、憲法で保障されている重要な権利なのですが、これまでのいわゆる従属労働者、雇用労働者というのは、まずは政策の上で考えるべきは、生存の確保があって、それを通して彼らが健康に働くことによって日本経済にも貢献する。下の2つの要素を充足するというのが政策にとって相対的に重要性が高かった。幸福追求は、その過程では多少従属労働ですから、やや犠牲にされる、あるいは大いに犠牲にされることがあると。これを避けて、幸福追求を重視したいと考えている人は、自営でいくという選択肢があったわけですね。
 先ほど、出来高給の話があったのですが、自営は出来高あるいは成果で報酬を受けることが基本だと思うのですが、自分で仕事をコントロールできる人は自営を通して幸福追求が可能である。しかし、自営でも生存がかかってくると、出来高で測られるというのは大変きつくなってくるわけです。単価が幾らかということによるのですが、馬車馬のように働いて稼がなければいけない。自営業の中には、この2つのタイプがあって、現行法でも、自営業者に例外的な保護というのがあるのは家内労働法なのですが、家内労働法は生存の観点から自営業であっても一定の保護が定められている。ただ、この保護の方の論理を重視すると、自由度が減ってくるので、幸福追求が難しくなるというのが、この自営業者に対する政策の難しいところだと思います。
 非労働力人口は、私はよく分かりませんが、自ら働かないことによって幸福追求というものをしているのではないかと思うのです。生存の必要があれば、おそらく労働力人口に入ってくるわけで、そうではない方法で幸福追求をしていると。先ほど私が申し上げた話は、右下の日本経済のロジックで非労働力人口をもっと活用しようということになると、やはり幸福追求とバッティングするのではないかということで、お聞きしていて思いついた話ではありますが、今後の政策を考える上で何かの参考になればと思い、御発言させていただきました。どうもありがとうございます。

○金丸座長
 ありがとうございます。今の大内先生の御意見に何かありますでしょうか。

○御手洗氏
 この3つが独立なのかというのはちょっと分からないところだなと。私は前職がブータンという国の政府に勤めておりまして、御存じかもしれませんが、ブータンというのはGDPよりGNHが大事だと言っている国です。私はそこのGNHコミッション所属の首相フェローと首相の補佐の仕事をしておりまして、産業育成をしていました。先ほどのお話の中で、非労働力人口で就業を希望していないとか働いていない人は、それによって幸福追求をしているはずだというところはもう少し精査が必要なところかと思います。それこそ今日私が話していた、働きたいけれど働けない事情の人も相当数いらっしゃるはずです。
 それから個人の幸福追求と経済が違う観点かというと、そんなことはないと思っています。例えばブータンのような国ですら経済というのは非常に重要です。ブータンでは丁寧な定性調査をして人の幸福度を訊くのですが、基本的な生活水準とか収入レベルがものすごく人の幸福度に影響してしまうということはよく分かっています。GDPや経済水準というのは、幸福の下のサブ概念として位置付けられているのですが、調査結果から見ると実際にそうなっている。
 また、幸福というのが日本経済にどう影響するかですけれど、やりたいことがやりたいという、人の欲求は基本的なドライブになります。欲しいものが欲しいと言って人がものを買うことが消費の原動力で、経済を回していますし、この幸福追求というのが経済に影響してくるということもあると思います。あまりこれはそぐわないものだと考え過ぎないほうが良いのではないか、あくまで私見です。

○柳川事務局長
 それに関連して、大内さんの問題提起はとても重要なところだと思うのですが、御手洗さんが最後に仰ったように、私も幸福度と働くこととは必ずしも二律背反のものではないと。大内さんもそのように考えていらっしゃるわけでもないと思いますけれども、むしろ今までの労働法制は、わりとそこは働かされると不幸だ、だから働かされないようにしようという組み立てが強かったので。

○冨山氏
 労働は苦役ですから。

○柳川事務局長
 そこはむしろ御手洗さんのような発想で働けるような、それをバックアップしたり、支援できるような形の法制度をどう作っていくかということが、前回の大内先生のお話の従属性ということにも絡む話で、多分そこが1つのポイントだろうと思うのです。
 もう1つは、非労働力人口のところで、自発的に非労働力人口になっている話と、非自発的にそこに落ちているものとやはり区別しなければいけなくて、これが精査の1つのポイントだろうと。
 それからもう1つは、非自発的か自発的かといっても、実はそこはかなり曖昧なもので、どのくらいの情報を持っていたりとか、こういう機会がありますよというところがどれくらい見えているかで随分変わってくる話で、今日の御手洗さんのお話のポイントは、そこが随分見えてくれば、こうやってみたらどうですかと見えてくると、実は自発的に非労働力人口になっているような人に見えても、それがどんどんこっち側に入ってくる。やはりそこの垣根をどのように変えていくかというところが我々の議論のポイントだろうと。
 4番目はちょっと難しい話で、大内先生が仰った出来高制のポイントみたいなところがあって、出来高制はある意味ではモチベーションを高めるすごく良い部分があって、それだからこそ楽しく働けるという部分もあるけれども、製造可能性の限界のところに出来高制がきてしまうと、そこはなかなか辛いですねと。この出来高制がその2つの側面を持っているというところは、少し注意をして検討をしていくポイントだろうと思います。

○大内氏
 一言だけ。柳川先生から御指摘いただいたように、この3つは説明のためのもので、本当はこの3つが全て同時に実現するのが望ましいということです。ただ、従属的な労働と自営的な労働と自発的非労働力人口というか、そういうものの典型像をあげて考えると、こういう整理をしたら分かりやすいのかなと思って書かせていただきました。
 それと、私自身の立場は、皆さんあまり関心があるかどうか分かりませんが、政府は不必要な介入はすべきではないと思っています。だから個人が自発的に幸福追求をできるような選択をしている限りは、あまり介入しないほうが良いと。非労働力人口についても、そこは皆さんが仰ったように、本当に非自発性がどこまであるのかをチェック、精査する必要があるということです。
 最後に一言だけ。先ほど前のほうで副業禁止とか、転勤について禁止せよという御意見があったと思いますが、私の考えでは、そもそも法律はこの問題についてノータッチなのです。副業を禁止するか認めるか、転勤をどこまでやるかというのは労使で自由に決めてよいということだと思います。こういうテーマについて、確かに現状色々問題はあるのですが、あまり法律でそういうマターについて介入をしないほうが良いと考えています。先ほども私が申し上げたように、できるだけ政府は過剰には介入するべきではないという観点からは、むしろそういうワーク・ライフ・バランスを損なうような働き方をしている会社の情報は流して、そうした会社にはできるだけ近づかないという形で対応した方が良いと、個人的には思っています。

○金丸座長
 19ページの労働力人口の絵がありますが、これで例えば農業者とか漁業者は、一番右端の「雇われて働いている人」の中にカウントされているのですか。

○御手洗氏 
自営業主では。

○金丸座長
 いやいや、農業で雇われている人がカウントされているのかという質問です。

○岡崎厚生労働審議官 
農業法人みたいな所ですか。

○金丸座長
 農業法人でも、その法人の事業主と、雇われている人というか。

○岡崎厚生労働審議官
 農業法人に雇われている人は雇用者の方です。

○金丸座長
 雇用者に入っていて、その労働基準法の対象になったりするのですか。

○岡崎厚生労働審議官
 対象です。

○金丸座長
 そうすると、家族経営の農業者がいて、そこに誰か手伝いに入っている人はどうなのですか。それは結構多いですよね。

○安藤政策統括官
 手伝いというのが家族であって、雇われていなければ入ってこないです。

○金丸座長 
家族経営だけど、法人も何もしていない。

○御手洗氏 
パート・アルバイトではないですか。

○金丸座長
 パート・アルバイト、ここに入るのですか。

○鈴木労働政策担当参事官
 その場合は雇用労働者になりまして、例えば田舎の方でみかんの収穫期だけ雇われて、それでその後辞められてハローワークに雇用保険を受けに来る方がいらっしゃいますから、そこは雇用労働者ですね。

○御手洗氏
 多分、この非正規に入るのですよね。パート・アルバイトですよね。

○鈴木労働政策担当参事官
 多分、非正規の部類での雇用労働者に入ります。

○金丸座長
 農業者は労働基準法対象外になっているのではないですか。

○鈴木労働政策担当参事官
 労働時間だけが対象外で、労働契約とかそれ以外は対象になっています。

○金丸座長
 では、雇用保険とかは入りますか。

○青野氏
 ちょっとあえて過激に言っているところもあるのですが、人類の歴史からいくと基本的に人権は認められる方向で段々きているわけです。それがまだ認められていない人権があるということです。それが複数の会社で働くということすら今は認めてくれない、自分が働く場所さえ選べない、命令に従わなければならない、これも基本的人権を侵害しているよねと、22世紀の人は言うと思います。
○御手洗氏
 柳川先生の最後のポイントで、あと大内先生に言っていただいたポイントで、私が悩んでいるところでもあるのですが、うちの会社1社で言うと、生活に苦しい人が出来高制の賃金だけで生きていこうとすると危ないという面もあります。うちの場合は、私が編み手さん全員と個人面談をしているので、本人が稼ぎたい額に対し力量が追いついていないという場合は、そこまで力をつけるには多分このくらい時間が掛かるから、そこまでは副業した方が良いですよと言っています。それですごくレベルが上がってくると副業を辞めるみたいな感じです。

○冨山氏
 今の議論で、生存保障の議論というのは、要するに構造的に人手が足りなくなると言っているような国なので、ある意味では労働市場が効率的になっていて、なおかつブラックを排除する、労働基準監督をちゃんとやっておいて、広い意味ではこういう自営業者も含めてあるいは競争法をうまく使うというのも含めて、とんでもないものを排除することをちゃんとやっていけば、わりとその問題は解決していくような、日本においてはその問題はもうないような気がします。もともとこの労働法体系は19世紀とかあの時代のとんでもない労働環境でめちゃめちゃ資本家がやっていた時代に制定されたものが今日に引き継がれていると、この前お話がありましたけれど、そういう歴史があるのですが、21世紀の日本の、人類史上空前に人手が足りなくなるという人類が初めて経験する局面においては、多分、歴史的に意味を失っている議論だと思うのです。
 ですので、もう1つあるのは、幸福追求と生涯生存保障というのがセットになったのが日本的正規雇用なのです。その問題と、先ほど青野さんが言われた転勤命令に応じるとか、配置転換命令に応じるというのは、多分セット、パッケージになっている契約なのですね。それがうまくいくタイプの人たちもいるけれど、実は21世紀の日本にはもはやそれもあまりはまらなくなっていて、根本の議論に戻るのですが、22世紀から振り返って恥ずかしくない答えになっているかどうかが問いなので、全ての議論を、これが日本の労働市場の需給関係と、産業構造でいうと知識集約化とサービス化とクローバル化、これが3つのキーワードになるので、それに合わせた時にどういう働き方が良いのですかという議論に結局戻るような気がしています。
 そうすると、くどいようですけれど生存保障というのがものすごい深刻な問題で、労働政策が出てくるのは、何か全てにわたってそれを基軸に考えるのはもうそろそろ捨てた方が良いと思っています。だから残さなければいけないのは、最低賃金の問題や、とにかくブラックを排除するということは徹底的にやるべきなのですが、それと労働市場が効率的になることで解決するというように割り切った方が良いような気がしているので、そこはこの懇談会としては、1つ何か結論に近い整理をしておいたほうが良いような気がします。
 それから今日の御手洗さんの議論で改めて思ったのは、厚生労働省という省名はやはりもう違っていて、厚生人材省にするのか分からないですけれど、多分、労働者という定義自体が時代に合わなくなっているし、労働で入ってこない人たち、あるいは今後、今日の仮説でいくと、これから仮に戻ってくるとしても、いわゆる労働者として戻らない可能性が高いわけでしょ。

○御手洗氏
 そうですよね、そう思います。

○冨山氏
 だから、今後はデザイナーの仕事とかプログラミングの仕事というのは、むしろ家でやってしまって、出来高ベースでやった方が気楽で良いという人が増える可能性が高いので、そういう仕事が一番女性が戻ってくる現実的な選択肢だとすると、それも全部、本来厚生労働省の守備範囲にするとすれば、やはり労働という名前はやめましょうよ。

○柳川事務局長
 今の点、労働という名前を、こうやって統計上区切っていますけれど、この区切りにきちんと当てはまらない人たちが増えてくるので、一時期は働いているかもしれないけれど、少し休んで、あるいは働いているか働いていないか、パートとも言えるしそうでもないしという人がどんどん増えてくるのだと思うのです。それを統計では、例えば何時間以上働いたらこっちとか、求職していればこっちなどと無理矢理データを当てはめてやっているところがあって、これから起こっていったり、今起こっているところの大きなポイントは、こっち側のこの分類の中も相当あやふやな方が増えてくるし、非労働力人口の方に入っている人もこっち側に入っていると本当に考えないといけないような人もと、こういう仕切りが随分変わってくるというところなので、フォーカスとしては、細かくレンジを切っていってそれぞれにどうするかと考えるよりは、先ほどの幸福ではないですが、全体の人口としてそれがうまくトータルで働いていくことをどのくらい上手くやれるかというスタンスで見ていかないと、少なくとも我々が今見ようとしているところのフォーカスにはならないというのは仰るるとおりだと思います。

○大内氏
 労働者という概念を使うかどうかというのは言葉の問題だと思うのですが、例えば外国法では従属的労働者、独立的労働者などというように、労働者に形容詞を付けて、労働者としては非常に広く統一して見て、その中での従属的労働者のみを保護にする、フランスなどはそうですけれども、そういう言葉の使い方もあります。問題は、柳川先生が今仰ったように、労働者というカテゴリーの中で、これまで従属的か独立的かということをはっきり区別して、従属的のみを保護の対象にしていたというこれまでのやり方が難しくなってきているという点です。境界線がはっきりしないのだから、無理矢理線を引っ張ってオール・オア・ナッシングにするというのはもうやめたほうが良いというのが今の状況だと思います。私が前回申し上げたのは、それプラス幸福追求という言葉を使うと、労働者が経済的にも従属しないようにするための政策がこれからは大切で、従属的労働者だから保護するのではなく、従属的にならないようにするためにはどうしたら良いかを考えていくことが必要だと思います。

○金丸座長
 すみません大内先生、独立労働者と従属労働者の定義の違いはどこにあるのでしょうか。

○大内氏
 これは日本法で言うと、従属的労働者が労働者、使用従属関係にある労働者で、独立的労働者は自営業者になります。

○冨山氏
 仮にそうなっていても、例えば下請法ではないけれども、経済的にすごく弱い立場になってしまうと、事実上従属しますよね。だからそういう意味で、先生も境目が曖昧なのではないのかという議論だと思うのですが。

○金丸座長
 先ほどのこのカテゴリーというのは、何か経済の変動も変化も激しくなるから、行ったり来たりというか、相当流動的になるかもしれないですね。
 一方で、この前のコマツのお話は離職率0.7%で、コマツワールドで入社してから最後まで過ごすというのがほぼ定番になっておられて、青野さんの話ではないけれど、次の人事異動でドイツに行けとか、中国に行けというと、皆さん散って行かれるわけですよね。

○浦野氏
 こういう話をしますと、必ず、いわゆる日本は無限定の何でもやれと言われるのですけれども、少しそこはあるのかなと思います。1つは、今回弊社で転勤はどのぐらいあるのかを調べてみました。やはり非常に少ないです。というのは、転勤していく人は、ある程度上に上がっていってグローバルでやりたいと思っている人が多いので、多分今は若い人たちは奥様が嫌だと言ったらノーと言うのです。なので会社の言うとおりに全部というのはすごく少なくなって、本人が選んでいる。ただ、そのときに奥様はやはり新婚だったらついて行きたいけれどもどうするのという問題があって、やはり今はその人たちには帰ってきてもらうような制度を作ろうとしています。
 あともう1つ、0.7%が良いかどうかという話なのですが、多分大企業の中では色々な職種があるのですね。それもちょっと調べてみたのですが、開発、設計職で入った方たちが50代になった時に、開発に残っているかというと、半分は残っていないのです。開発の時に身に付けた知識などを使ってマーケティングに出て行ったりとか、色々な仕事になってきていて、だから規模が大きな会社というのは会社の中に色々な仕事があると。ただし、それが日本全体の流動性の中で良いかといったときに、セーフティーネットみたいな、若干色々な気持ちの問題と、いわゆるフリンジベネフィットと両方あると思うのですが、それで寄りかかっていたいという人もいると思うので、その人に突然出て行けというのは難しいかと思って、ちょっと考えていたのは、例えば登録制というか、自分はこんなこともできるし、こんな仕事があったらやってみたいと思うけれども、根っこはちょっと会社に置いておきたいなというようなことになっていけばやれると思いますけれども、今のやり方というのは、会社をきっぱり辞めなさいと、そうしないと次の仕事は探せませんよとなっていますので、それは非常にハードルが高いと思います。そうであれば、会社にしがみついておこうかというのは、やはりあるのかなという気はします。

○金丸座長
 この会のメンバーはわりと自由業に近い方が多いので、浦野さんは遠慮なさらずに、コマツ的主張は是非していただいたほうが、今後も良いのではないかと思います。その他ありませんか。

○柳川事務局長
 今のに関連して少し。御手洗さんのところで、先ほどのずっと働いていくかみたいな話で、この先になったときに、今働いていらっしゃる方々にずっと自分の所にいてもらおうと思っているのか、あるいは独立とか暖簾分けみたいなこととか、あるいは他の所に行くとか、そういうことはどのぐらいイメージしているのか。あるいはこうあったら良いなとか、その辺りはどういうビジョンを描いていらっしゃるのかを教えていただけますか。

○御手洗氏
 そこは完全、みんな自由にしたら良いと思っています。スキルだけ得て出て行ってしまう人がいても、仕方がない。そのスキルトレーニングのコストはうちの持ち出しなのですが、それもみんな良しみたいなところで。一定の歩留まりを見込んで、最初は多めに全員入って良いよというように入ってもらって、スキルトレーニングをして、その後で主力選手になる人もいれば、基本的な編み方を教わってよかったとか言って、あとは家で編み物をしている人とかいるのですが、それもみんな良しみたいなことにしています。それだけのある種度量の広さを持っている会社がないので、うちにまず来てみようかなという吸引力になっているかと思います。
 ただ、暖簾分けは難しいなと思います。やっても良いのですが、みんな編むところしか勉強していないので、経営側を勉強しているわけではないのですね。確かに暖簾分けは悪くないですけれども、そういうところは全然経験していないので多分難しいだろうなと思います。

○冨山氏
 御手洗さん、今まで会社経営はやったことはあるのですか。

○御手洗氏
 いや、初めてです。

○冨山氏
 初めてですよね。何が言いたいかというと、経営は大事で、要はこういうことができない人が世の中にはいっぱいいるんですよね、現実の経営のレベルって。結論から言うと、その人たちが大体団体をつくって、税金下げろとか、補助金くれとかとワーワー言う人たちなのです。正直言って、もちろん皆さんとても優秀な人なので、これだけのことができているのだけれども、10年も20年も経営している連中が、要はできないわけでしょ。こういう人たちにはもう一方で消えていってもらうのが正しいと思うのです。労働市場政策も活用して。これは残念な現実としてあるのです。今日お話を伺っていると、すごく色々なことを考えて経営をしているわけで、色々なことを一生懸命工夫をして、多分、今の姿はいきなりこうなったわけではなくて、色々工夫してこうなってきたわけでしょ。

○御手洗氏
 そうですね。

○冨山氏
 だから色々なことを変えながら色々なことに気を付けながらやってきているわけで、やはりこういう人たちが企業経営の主体になっていくことも、一方ではこの議論の裏側にはあって。労働市場がなんとなくいまいちな感じというのは、裏返すと経営者の人たちがはっきり言っていまいちなので、その反射だと思っているので、そういう教訓も今日あったかなと思った次第です。

○磯山事務局次長
 先ほど大内先生が、国はあまり関与すべきではないという、私もそのとおりだと思うのですが、一方でセーフティーネットみたいなものというのは何か政策でやった方が良いと思っています。小川部長にまたお願いなのですが、今出ているこの表の中で、厚生年金と国民年金と雇用保険とで、どこがどれだけカバーされているのかを作っていただけないかなと。例えばパート・アルバイトの人たちはどれぐらい雇用保険を払っているのかとか、そんなに厳密でなくても良いのですが、何となくイメージで、どこの人たちがセーフティーネットから漏れているのかを見えたらなと思うのですが、何か考えていただけないでしょうか。

○金丸座長
 1人当たりの収入とか出しておきますか。

○磯山事務局次長
 この人数的にどれぐらいカバーされているのかなと。

○金丸座長
 そろそろ時間がまいりましたので。今日私は、何よりも御手洗さんが使命感を持っていて、そこで付加価値を創造していくというその様をお伺いして、安売りに行かなかったというのはやはりすごいなと。それが安売りを目指す人が行っていたら、向こう側の人は全員それこそ個人事業主だけれどもブラック経営者になっていた可能性もなきにしもあらずなので、それで色々なことをお伺いしたのですが、問題に出くわしていながら解決していったというような御説明だったので、結構聞いてみると理にかなっていることをちゃんと普通にやって、途中の問題解決なども、どんどん相手と、気仙沼の方々と話をしながら、編み手の方々と話をしながら、全部、ファクトベースで、種類のある雇用形態なども許容なさっておられるというのを聞きました。本当は地方にも、先ほど冨山さんが仰ったように、日本の大学の経営学部は経営者をつくらなければいけないのに中間管理職をつくっているだけで、その経営ができる人をつくっているわけではないので、真の経営者がというか、真のリーダーがいないのではないのかなと。でも御手洗さんみたいな方がいらっしゃると、随分やれることはまだ残っているのだなと少し学習もさせていただきました。本日は熱いプレゼンテーションをありがとうございました。

○御手洗氏
 ありがとうございました。

○金丸座長
 大内先生もWebから、ありがとうございました。

○大内氏
 ありがとうございました。

○金丸座長
 それではこれで本日の懇談会を終了させていただきます。次回の連絡はありますでしょうか。

○鈴木労働政策担当参事官
 次回につきましては、ゴールデンウィーク明けの5月10日火曜日の14時から16時まで、場所は当省内の会議室です。詳細につきましてはまた別途御案内させていただきます。よろしくお願いいたします。

○金丸座長
 どうもありがとうございました。

(了)

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 政策統括官(総合政策担当)が実施する検討会等> 労働政策担当参事官室が実施する検討会等> 「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会> 第7回「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会 議事概要(2016年4月26日)

ページの先頭へ戻る