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2016年4月13日 第6回「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会 議事概要

政策統括官付労働政策担当参事官室

○日時

平成28年4月13日(水)10:00~12:00


○場所

厚生労働省(中央合同庁舎第5号館)12階 専用第14会議室


○出席者

青野氏、磯山事務局次長、浦野氏、大内氏(WEB参加)、金丸座長、小林(庸)氏、冨山氏、中野氏、柳川事務局長、山川氏

○議事

 

 

○金丸座長 

皆様、おはようございます。定刻となりましたので、ただ今から第6回「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会を開催いたします。皆様、大変御多忙な中お集まりいただきまして、ありがとうございます。本日は、小林りんさん、御手洗さん、松尾さん、山内さんは御都合が合わず欠席される旨、連絡を受けております。また、大内さんは会の途中から御出席される予定です。

 それでは、1つ目の議題です。厚生労働省から資料1に基づき、前回の懇談会で御手洗さんから御質問がありました、働く方ごとに適用される労働関係法について、御説明をお願いいたします。

 

○鈴木労働政策担当参事官 

資料1「働く方ごとに適用される労働関係法」について、説明いたします。まず、ここ何回か、労働法がどういう方に適用されるのかということで、こちらで整理をしたものです。2ページです。総人口の全体の中で、労働力人口と非労働力人口に分かれます。非労働力人口というのは、働く意思がない方です。働く意思がある方については労働力人口になり、その中で働いている方と働いていない方がいます。働く気はあるけれども働いていない方が完全失業者という形で、220万人いらっしゃいます。働いていらっしゃる方については、自営業主、これは個人経営の自営業です。それから、家族従業者と、いわゆる雇用者に分かれます。このうちの自営業主の中で、家族以外の方を雇用されている方は、いわゆる個人経営の商店主、工場主という形になりますが、それ以外の個人、お一人でやっていらっしゃるような方については、先般から御手洗さんのところの編み手さんがこちらに分類され、個人請負等という形になるわけです。

 それから、雇われている方、(雇用者)と書いてありますが、役員の方の一部は除かれますが、この部分がいわゆる労働法が適用される労働者です。その中には、正規、非正規がありまして、非正規が今4割ぐらいいるという状況です。

3ページは、法律の適用関係です。雇用者については、基本的には労働法が適用になります。ただし、役員の中で雇用契約で働いていらっしゃる方と、委任契約で働いている方がいらっしゃいまして、このうちの委任契約で働いていらっしゃる役員の方は、労働法の適用は基本的にありません。それから、非正規労働者のうち、特に時間が短い方等については、労働・社会保険の一部が適用にならないという状況です。自営業主、家族従業者の方については、基本的には労働法の適用がないという状況です。説明は以上です。

 

○金丸座長 

それでは、次の議題に移ります。次は、浦野さんから、「コマツの取り組み-組織と人事-」というテーマで御説明を頂きたいと思います。

 

○浦野氏 

おはようございます、浦野です。今日、頂きましたテーマが、グローバルの視点からの組織運営と人の役割という非常に広いテーマで、多分弊社の制度を説明するだけですごい時間がかかってしまうと思います。今日は、私どもがグローバル化へ対応するに当たっての話と、今、お客様の現場でどういうことに取り組んでいるかの2点に絞り、お話をさせていただきます。

 簡単に自己紹介をいたします。私は1979年に会社に入りました。その時は、まだ雇用機会均等法はありませんでしたので、それ以前の人間ということです。それで、総合職に転換いたしました。最初と今2年ほどは人事の仕事をしているのですが、その間の20年ぐらいは生産管理、特に海外生産の生産管理や、物流企画といった仕事をしており、どちらかというと人事の専門ではありません。

 コマツの概要です。売上高は、約19000億円ぐらいなのですが、特徴は2つです。事業の構成が非常にシンプルで、建設機械と産業機械だけになっております。地域別の売上は、新興国、先進国を含めて満遍なく市場があります。今は中国が一桁になっておりますが、一時20%ぐらいのときもあり、逆に日本が非常に少なかった時もあります。

 連結の従業員47000人とありますが、そのうちの半数以上が外国人となっております。連結子会社が138社です。日本が非常に少ないのは、一時、営業が非常に厳しかった時に子会社を少なくしたためです。

 創業者は竹内明太郎といいまして、吉田茂のお兄さんに当たる人です。下に、当時の創業の精神が4つほど書かれております。これについては、今は95周年になりますが、全く今も変わらず、当時から技術革新と海外へ行こうということと、人材育成が大事だということを言ってまいりました。

 主要商品です。左が建設・鉱山機械、右が産業機械です。左上にあります油圧ショベルのもう少し小さいクラスの物が、この辺りで宅地造成の時に動いている物です。左下のダンプトラックのタイヤのところに人が立っているのが見えると思うのですが、タイヤの直径が3.8mぐらいあり、鉱山で動いている機械です。産業機械ですが、フォークリフトなどもありますが、一番メインな物はその下にあります自動車会社でボンネットやドアパネルなどの金属をプレスしている機械です。

 連結の従業員は47000人で、それを地域別で見たものが、こちらの図となっております。日本が多いのはもちろんですが、日、米、欧以外に多いところは、1つは新興国で人口が多くて、これからインフラをやっていくところと、もう1つは資源国が中心になっていますので、従業員もそこが一番多いということになっております。

 グローバルの生産体制です。オーストラリアとアフリカと中近東以外には全部工場がありますが、弊社の考え方は、とにかく需要のあるところで組立をしていこうということが1つあります。もう1つは、マザー工場制というものを敷いており、マザーとなる開発と生産を一緒にやっている工場が、子供の工場のQCD、品質やコストを全部見ていこうということで、マザー工場の責任者が子供の工場の利益などについての責任も負っています。

 グローバルな販売サービス体制です。弊社の建設機械の特徴は、新車を売って終わりということではなく、売った後のサービスの方が売上上も非常に大事です。そこで、例えば5年、10年、何万時間稼働していく保証をしていくことから、基本的に現地の方、自国の方がその国で売っていくという考え方をとっております。それは、サービスも一緒です。あとは、それを代理店を使ってやっています。そういう息の長い商売をしているものですから、一度進出した国からは撤退しないというのが方針です。

 次に、今どちらの方向へ向かって行こうとしているかを書いた絵です。イノベーションによる成長戦略を考えており、下にありますが、3つのフェーズで考えております。1番左が、ダントツの商品ということで、商品そのものの性能を良くしていこうと。それも、安全と環境とICTの観点から良くしていくと。その結果、値段を下げないで、高い値段をキープ又は値上げができるような商品を作っていこうという考え方です。真ん中がダントツサービスということで、先ほど申しましたように、買っていただいた後、何万時間も使っていただくということで、そこでのメンテナンスとサービスは非常に大事になってきております。現在、そこにありますKOMTRAX、トラッキングのシステムなのですが、全世界で今40万台ぐらいの車両に付いており、位置情報と稼働の状況が分かります。例えば、補修の部品をいつ送ったらいいか、エンジンの調子が悪いからきちんとメンテナンスしないと壊れてしまいますよということをやっています。これができて10数年経つのですが、ICTの観点から考えた時に大事なポイントが2つあると思います。1つは、通信技術のレベルアップと、コストが非常に下がって、使えるような状態になってきました。以前のようにサクサク大量のデータが動かないような状態では使えませんし、コストがすごく高かったら多分普及もしなかったということです。

 もう1つは、非常に拡張性の高い仕組みで、ユーザーさんもこれを使って自分達の生産性を上げていこうとか、メーカーは勿論、間に入っている代理店もそれぞれが色々な使い方ができるという拡張性の高い仕組みだということが、40万台までになってきた理由だと思っております。

 右側が、今、一番取り組んでいるダントツのソリューションです。稼働現場をきちんと見える化していきましょうと。それも、ICTを使って稼働現場を見える化することで、どういうところに課題があるかをお客様と一緒になって掴むと。その結果、お客様の生産性を上げていくということが、弊社の製品を使っていただく循環になっていくだろうと考えております。左のほうは、AHSです。これは、無人運転のダンプトラックで、チリなどで動いております。それから、ICT建機は後ほど動画で見ていただきます。

 これは、国内の人事制度の特徴です。コマツ(日本)における人事の仕組みと特徴です。弊社の特徴というよりは、日本の一般的な大手メーカーは、ほぼこれに近いものだと思っております。まず、採用については、新卒の学生の一括採用が中心です。それも、エンジニアを中心に採っております。ただし、現在でも経験者の採用や非正規の方もいらっしゃいます。特に、2000年代の中頃から非常に忙しくなった時に、期間社員の方や派遣社員の方にたくさん来ていただきました。10年ぐらいかけて、そのうちの2000人ぐらいを正規社員に登用いたしました。多分、自動車会社が今同じようなことをされているのではないかと思います。

 育成については、弊社の特徴は、とにかく機能別ということです。例えば、開発のエンジニアや生産の専門家、営業の専門家ということで、それごとに人材育成をするということで、それぞれのトップが自分の機能のところの育成も全部考える、サクセッションも考えるという考え方です。そのために、社内での職能教育も非常にたくさん行われている状態です。

 給与です。管理職は、いわゆる役割グレード制になっており、アップ、ダウン両方あることになります。一方、一般社員は職能資格に基づき能力や習熟度などを見ながら決定していく方式です。定年は、今は60歳定年と、65歳までの継続雇用をやっております。ほぼ、8割ぐらいの方が継続雇用を望まれている状態です。定年以外の事由による離職率は0.7%ということで、こちらのチームの1つのテーマである流動性を高めるというのとは今は全然違う方向なのですが、多くの方が定年まで勤められるのが実態です。

 日本の特徴は、やはり労働組合です。弊社も、企業内の単一ユニオン・ショップ制を敷いています。一般職の方は全員入っています。その中で、弊社のユニオンと約束していることは、強い会社と良い会社とを両立していく、2つの輪の重なる部分をできるだけ多くしていこうという考え方です。それから、例えば待遇や労働時間といったものの議論だけではなく、毎年、生産性議論として色々なテーマを設けております。その中には、例えば人材育成をどうやっていこうかとか、健康を増進するにはどうしたらいいかというようなテーマをやったり、待遇については、組合員ではありませんが非正規の方の待遇についても併せてユニオンと議論をするという状態です。

 ここからがグローバルの話です。まず、グローバルを貫くための基本としているコマツウェイについて、簡単に説明いたします。弊社の場合、企業価値は、全てのステークホルダーからの信頼度の総和という考え方をしております。当然のことながら、会社として、企業として、責任ある企業行動がまずベースにあるのですが、ではグループとして何をよりどころにするかということで、「コマツウェイ」というものを設けております。会社は、代々人が変わっていきます。人が変わったとしても、ずっと受け継いでいってほしい、例えば価値観や心構えや行動基準といったものを示したものです。理念とは少し違いまして、非常に具体的な、こういう場合はこういう行動をとりましょうといって、たくさん事例として示されているのが弊社の特徴かと思っております。それから、グローバルにやるということで、日本語以外に色々な国の言葉に訳しています。例えば、アフリカなどで使う場合には英語を経由して、アフリカの言語に直してもらったりもしています。

 コマツウェイの構成は3つあります。トップマネジメントがやるべきこと。それから、全社員の共通編で、例えば品質と信頼性とか、7つの項目があります。それから、もう1つが、ブランドマネジメントです。少し分かりにくいですが、お客様に常にコマツを選び続けてもらいたい、そのために、お客様の課題に深く会社としても入り込んでいく、そして、一緒に解決していきましょうという活動をすることをブランドマネジメントと名付けて、活動しています。

 今トップが一生懸命やっているのは、自らが直接コミュニケーションをするということです。各ステークホルダーとのコミュニケーションですが、社員についても、中間決算と期末時に社員ミーティングを管理職だけではなく一般社員も集めて各事業所を回ってやっております。多分、これは12時間ぐらいかけていますので、社長のかなりの工数を割いているのではないかと思います。

 こちらは、コマツの行動基準で、これ自体はどちらの会社も似たようなものをお持ちだと思います。弊社では、これをグループの全社員に全部守ってもらうために、宣誓、署名をしてもらっています。これは、非正規の方にもやっていただいております。

 また、安全衛生と、コンプライアンスが何よりも最優先という考え方をしており、この標語がどこの事務所に行っても貼ってあります。特に、下段にある、SLQDCで、何か物事で困ったときにどういう優先順位で物事を考えていくかを明確に言っております。まずはSafety、次はコンプライアンス、QDCはその後ということを言っております。例えば、現地のトップから社長への月次報告は、海外の方は自分の業績をまず最初に書きたいところですが、業績を書いても駄目ですよと言って、この順番に書けということをしつこく言って、まず安全とコンプライアンス最優先を浸透させています。

 人事については、書いてあることは非常に基本的なことしか述べておりません。ただ、会社として考えていることは、まず基本方針はきちんと守りましょうと。あとは、その地域にふさわしい人事制度を構築してくださいということで、日本のものを全部コピーすることはしておりません。例えば賃金などについても、賃金レベルは工場が立地しているその地域でのトップグループにいることで見てくださいという言い方をしております。

 ここまでが、よりどころとする基本的な考え方です。時間軸で見たものが、こちらです。大きく3つに分かれていると思います。1955年に最初の輸出をアルゼンチンにしてからが、輸出の時代です。それから、1900年代からが海外生産の時代です。2000年に入りまして、新興国が伸張、成長していることと併せてグローバルな連結経営と、この3つの段階があるかと思います。

 その中で、コマツとしてグローバル化をどう考えているかが、こちらの表になっています。グローバルの意味合いとしては、あくまでも日本国籍のグローバル企業でいこうと。グローバルの司令塔は、今は日本に置いています。各地域のオペレーションは、日本市場も含めてローカルの総和がグローバルになっていくと。ですから、まずはローカルがベースという考え方をしております。

 人材の活用については、最初に機能別だということを申し上げたのですが、例えば開発、生産の機能で横に串刺しをする考え方をしております。地域については、今度は縦軸になりますが、最初は日本人が行ってやっておりました。それを、ローカル化し、現地の方々にトップになっていただくことを進めているのが現状です。海外のマネジメントというのは、顧客密着のため、現地化を推進していくことです。生え抜きの優秀な方を生え抜きが育てるようにしております。これは、過去に非常に失敗もしまして、ヘッドハンティングとか色々して来ていただいたのですが、全然定着しないということもあり、散々失敗した挙げ句、やはりコマツのカルチャーがいいと思ってくださる方を、精々課長ぐらいの方の時に入っていただいて、そこから内部昇格をしていっているのが、今の全部の地域トップです。

 一方、日本自体がグローバル化しているかというと、まだまだそうなっておりません。そこについては、まだ日本語メインであることもあり、もう少しダイバーシティや人材の交流を進めていかなければいけないと思っております。

 では、経営の現地化がどのぐらい進んでいるかですが、各地域で、青字が日本人がやっていた時代、赤字が現地の外国籍の方がトップをやっているものです。早いところは、1980年代の後半からローカルの方がトップになっていきます。今はこの段階ですが、今年更に1歩進めようということで、これらの現地トップの方々をグローバルオフィサーに任命すると同時に、何人かの方はコマツ・リミテッドの執行役員にも任命しました。これにより、今までは地域のオペレーションをやっていただく代表という位置付けだったのですが、それをもっとコマツの意思決定に関与していただくというところに更に進めようと考えております。これは、今始まったばかりですので、これから少し試行錯誤ということになるかと思っております。

 先ほどの機能別でどのように現地化しているか、又は日本主導でやっているかを書いたものが、このグラフになります。経営は、もちろん現地化を進めています。それから、人事・法務についても、先ほど申し上げたように、日本側はグローバルのポリシー、守るべき最低限のことは言うけれども、あとは現地に任せることでやっております。一方、上から5つ目の研究・開発については、今は日本がメインになっています。これは、社員の数からいくと日本がメインです。ただし、社員数はそうなのですが、以前から自前主義はもうやめようということをやってきており、オープンイノベーション、産学や産産のアライアンスとか、M&Aも含めて色々なことをやっています。その多くは、海外とも組んでいますし、後ほど見ていただくICT研究は、かなりの部分に海外の技術が入っています。

 最後に、人材要件の変遷です。このようなグローバル化をやっていく上で、日本人がどういう役割を果たしたらよかったのかをまとめたものが、こちらです。上は、先ほどの輸出の時代、海外生産の拡張の時代、それから連結経営の時代と3つあります。やはり、最初は輸出中心だったものですから、英語、現地語ができて商売ができる人を送り込んでいました。その後、現地生産が進んでいくに従い、語学能力というよりは、どちらかというと、現地でのオペレーションの改善にきちんと関与できる、彼らのオペレーションを改善できる人が良いということになってきました。現地のトップ化が進んでくるに従って、ますますジェネラリストは要らないと、そんなのだったらいいよと言われていまして、この件なら誰にも負けないという人に来てほしいという感じになってきています。さらに、今は連結経営が進んできているということで、大事なブランドマネジメントやコマツウェイといったものを、自分の経験と自分の言葉で語れることが求められていると感じております。

 こちらは、人材育成の写真で、トップマネジメントのクラスから、メカニックの方々のコースも色々やっています。

 では、ここからは動画を御覧いただこうと思っております。先ほどのICTを使って、現場をどうやっていこうかということなのですが、これは言葉で話をするのは難しいので、百聞は一見で、見ていただいた方がいいと思います。7分ぐらいのものです。

( 動画)

考え方としては、現場を工場に見立てるということです。まず、とにかく安全。従って、人と機械が交わることはできるだけ避けたいと。もう1つは、工程管理をきちんとやることで、資材調達や生産の管理そのものをやっていきます。今は、1000か所ぐらい日本で入っているのですが、いいところでは工期が3分の1ぐらいになったところもあります。やはり、実際の作業よりもその前後工程が非常に大変で、そこに熟練の技が必要になってしまっていることがわかります。

 もう1つは林業の話です。今、一次産業に製造業が色々なところでお役に立ちたいということでやっております。今回は林業の話で、北欧の事例で、昔と今が比較できるような状態になっております。

( 動画)

今ほど見ていただいたのですが、例えばこの太さの木を今日は何本切りなさいという生産計画が出てくるのですね。それに従ってオペレーターが、その太さの木だけをつかんで、切って、枝払いをして、必要な長さに切って、積み込むというようなことが一連でやれるようになっております。ただ、弊社はスウェーデンの会社を買収して今、売っているのですが、残念ながら日本では駄目で、それは斜面が急すぎるのですね。やはり、ある程度広くて少し平坦なところでなければいけないということで、日本の中には今は違ったものを、クローラーに今の作業機だけを付けるようなものを作っています。

 もう1つは、機械だけ良くても駄目で、では枝払いした分や間伐材をどうするのかと。それをバイオマスに使えるのかどうかとか、切った後の植林をどうするのかという循環までやっていくことが必要だと思っています。それぞれの森林組合の方々とやりながら、少しずつトライアルしている拠点を増やしているのが今の状態です。

 以上、グローバルな話と、機械化の話の2点について、説明させていただきました。ありがとうございました。

 

○金丸座長 

浦野さん、ありがとうございました。20年後も、コマツの未来は輝いていそうだということは確認できました。只今の、浦野さんからの御説明に関し、皆様から御質問や御意見がありましたらお願いいたします。

 

○冨山氏 

ありがとうございました。23点質問させていただきます。1点は、グローバル化していく中で、世界的に求められている人材要件の中に、要は日本的曖昧なジェネラリストは要らないのだみたいな議論がありました。もともと、コマツさんは分野別に分けて、ある種スペシャリスト型の育成をして、後にジェネラリストになるというモデルのように理解しています。

 

○浦野氏 

はい、そうです。

 

○冨山氏 

それは、世界的にそういう考え方というか、あえて言えば日本型正規雇用的な、曖昧なジェネラリストみたいなのは、どちらかというと要らない流れになっているかどうか。2点目は、KOMTRAXという、買収で手に入れている技術ですよね。GPSの技術とか。

 

○浦野氏 

買収ではないのですけれども、日本の技術ではないです。今、GPSで一番進んでいるのはロシアの技術です。

 

○冨山氏 

質問は、オープンイノベーション、取り込んでいくときに、例えばM&A型でやったときに、いわゆるICT技術者が入ってくると。私も実際に経験している事案が結構あります。ああいう人たちは、今のコマツのテーマが面白ければずっとそこにいますけれども、そのテーマが終わってしまうと別のことをやりたくなったりするではないですか。アメリカだと、それは普通に動いていく話なのですけれども、今問われているのは、国内でなぜそういうことが起きないのだろうかという議論がある。国内でも、そういうICTをやっている人がいっぱい出てきていて、そういう会社が日本の大きな会社に買収されると、大体殺してしまうケースが多かったり、買収されたくなかったりということがあるような気がするのです。

 そこをストレートに聞いてしまうと、非常に流動性が低い、長期内部育成型の会社の有り様と、どちらかというとスキルセットとか関心事項の寿命が短いICT的世界のミスマッチみたいなものが、特に日本の場合は顕著にならないのかなという懸念を感じています。その辺は既に何か問題が起きているのか。むしろ海外の方がオープンイノベーション中心になってしまうのは、海外の方がその辺の操行が少ないのでやりやすいという環境があるのか、その辺は実際問題としてどんな感じなのですか。

 

○浦野氏 

最初の御質問については、基本は「あなたは何者だ」と聞いたときに、「自分はお金のことが一番詳しいです」とか、「自分は人事をずっとやってきた」だとか、「開発のことなら任せてくれ」というところは多分変わらないと思います。弊社のことを、「良いよ」と言ってくださっている現地トップの方というのは、自分の強みがあって、その点では世界中誰よりもコマツの中で自分がトップだと思っています。その自分の専門性を生かしたいという気持ちが非常に強いのだろうと思います。それが良いかどうかは別として、弊社としてはそっちの道を今は選んでいるのが実態です。

 今回、彼らに、人材の育成を含め、人材活用というものをグローバルにコマツがこの先どうやったらいいかという意見を聞こうと思っています。その中で、色々な意見が出たらまた御紹介させていただきます。今のところは満足している方が残ってくれているというのは、結果としてそうなのだろうと思っています。それを、わざわざ選択しているということではないのかと思います。

 

○冨山氏 

これもよくある神話で、スペシャリスト指向とか、エキスパート指向していくと、日本のものづくりは駄目になるというトンチンカンなことを言う人がいっぱいいるのですけれども、全然そのようにはなっていないということですよね。

 

○浦野氏 

そうです。

 

○冨山氏 

コマツさんというのは、日本を代表するものづくり企業ですよね。漫然とやっているジェネラリストがいないと、すり合わせができないのだという人が結構いるのですけれども、私はなぜかあれが昔からよく分からないのです。その辺をちょっとすみません。コマツさんというのは、かなりエキスパートにクリアな感じがするのです。

 

○浦野氏 

コマツウェイが役に立つかどうか分かりませんが、今すごく言っているのは、お客様のところの課題を一緒にやるのだと。目標設定をそっちに置いていますので、そのときに競合他社がどうだというのはやめよう、ということに最近はしています。そうすると、お客様から言われていることに応えるということが、誰にとってもそれは使命になりますので、社内のことを色々言っている場合ではないという気がします。

2つ目の御質問は、基本は社内で抱えている研究者ですが、今、社内で基礎研究はしておりません。それは、全部産学とかの大学との共同研究にシフトしています。研究所の名前もやめてしまいました。開発センターの中に、一部研究を残しているだけです。その方を社員に取り込んだ方が良いのかどうかという議論があると思うのです。社員として来ていただいている方もいます。そういう方たちの指向はどうかというと、最終製品が見られるから行きたいという方は結構います。そういう道に行きたいという方はいると思うのです。一方、自分の得意分野をやり、それが一段落したら次のことをやりたいと思っている方は、多分弊社には入ってくれないのだろうと思っています。従って、それは短期的な共同研究という形です。

 それは、ベンチャーと一緒に付き合っていく場合でも非常に大事なことだと思っています。決して相手の会社のカルチャーに口を挟まないというのは大事にしていこうと割り切っていると思います。

 

○冨山氏 

ありがとうございました。

 

○小林()氏 

ありがとうございました。最後の動画は未来の工場というか、現場がリアルに分かって非常に勉強になりました。幾つか今のと関連するところと、冨山さんの御質問とも少し関連するところを御質問します。そもそも、KOMTRAX自体がIoTとかAIの先進事例としていつも取り上げられていて、更にその先ということなのかと思いました。その時に人の役割がどう変わるのか。働き方が変わるというのは、動画の中でも御指摘があったと思うのです。あの時に、熟練の方がどういう役割になっていくのか、その技能の継承のところでどうなっていくのか。これからなのかもしれないのですけれども、そういうところを教えていただければというのが1点です。

 先ほどの、ジェネラリストとかスペシャリストみたいなお話も若干絡むのかもしれないのですが、頂いた資料の20ページで、かなり現地化が色々なところで進んでいますと。マネジメントとか、営業マーケティングとか、かなりのところが現地化しているにもかかわらず、日本国籍みたいなところをまだ維持するというか、持っている意味合いは何なのか。それが、もしかしたらジェネラリストとかスペシャリストという議論を超えた、日本のものづくりみたいなところの、何か背骨なのかと思っています。その2点を教えてください。

 

○浦野氏 

非常に難しい御質問ですね。ICTと技術のことでいくと、本日は松尾先生はいらっしゃらないのですけれども、まだ、熟練の方が何を見て、何を注意して、どういう手の動き方をしているかということを模倣して、それを機械化するのが今の段階です。これからAIが進んだ時にどうなっていくのかというのは、残念ながら私たちも全く分かっていません。逆にこの懇談会から何か方向性が見えたらいいと思っています。

 それから、人の役割がどうなるかということについてです。先ほどのICT建機も、何が困っていますかということを聞いたときに、お客様自身が、これがこう困っているからこうしたいということを明確に言えるお客様はなかなかいないのです。そこからどういう質問をすれば、お客様の本当の困り事を聞き出せるか。工程を見ていって、どこの工程をチェックすると、どこにネックがあるのかとか、そういうのを見るというのは、今だと人間のやるべきことなのだろうと思っています。いろいろな質問設定をして、違う質問から入っていくことで、結局、最後に「これが駄目だったのね」みたいなのが分かるというのはあると思います。それは将来的にも残っていくと思うのです。

 それに比べて物流的な仕事、例えば工場内の物流とか、ああいうものは視覚のセンサーなどがもっと発達していったら、必要なものを全部自分で探し出してきて、運び出すというようなことはどんどん機械化されていくのではないかと思います。お答えになっていないかもしれません。

 現地化で何を目指すかなのですけれども、これも全く最終形ではなくて、今はこうだというだけの状態です。最初に決めた時に、組立ては現地でやるのですけれども、もともとキーとなるバイタルコンポーネントは日本でやりましょうということにしたのです。それを決めた時の一番大きな理由は、すり合わせ技術がどうしても必要と。今、日本は北陸、大阪、北関東に工場の集積があります。圧倒的に技術の高い中小企業、協力企業が集まって、その集積がものすごく大きいものですから、何か試作を作った後、「これを加工して」と言って、翌日に持ってきてもらってテストをするとか、そういうことができていくことがあります。多分、これは海外へ行ってしまったらなかなかできないと、ましてや新興国には無理だということが分かっていたので、スタートは生産技術や製造のところは日本に残そうということです。それを残すためには、開発も日本にあった方がコミュニケーションもいいよね、ということからのスタートになっています。これを目指していたわけではなくて、結果として今はそうなっている状態です。

 

○青野氏 

ありがとうございました。質問はシンプルで、ソフトウェアの技術、そのスキルというものをどのように獲得しているのかをお聞きします。先ほどのビデオでは、現場のソフトウェア化が進んで、工事のソフトウェア化が進んでいると思います。情報をインして、処理して、ハードウェアにそれを預けていくというモデルだと思います。おそらくそのスキルというのは、コマツさんが伝統的に持っていたスキルとは全然違うものだと思います。先ほどの話だと、どちらかというと、新卒で採用して、ずっと行くというモデルですし、そのスキルの獲得についても、基本的にはその部門の中で職能別にやっていくということですから、新しくそこにソフトウェアというスキルを身に付けようと思うと、外部から持ってくるとか、何か工夫しないとそこは生まれないような気がするのです。日本の電気メーカーと比べると、そこが随分上手くいっているように見えますが、そこはいかがでしょうか。何か買収されたのか、何か別の工夫をされたのか。

 

○浦野氏 

買収も多くしています、それも古くからです。今の学卒の技術屋というのは、ほとんどが機械系の方です。機械については、多分これからもずっと社内でやっていけると思っています。材料の方も多いかと思います。ただ、電気・電子系は非常に少ないのですけれども、そうは言いつつ私が入った頃から研究所があって、その当時は会社の中でずっと一生懸命やってきた方たちが、今こういうところを引っ張っているトップになっていることは確かです。

 ただ、本人たちだけの話ではありませんので、ある程度ソフトウェアの関係者も採用いたしましたし、外ともやっているのが今の状態です。今でもソフト系のところは技術系のトップは沢山採用したいと言うのですけれども、多分会社の中にずっといて、20代はいいですが、50歳までその方の能力を活かしきる責任を持てるかというと非常に厳しいと思っていますので、採用は最低限にしてほしいという話をしています。それだったら外と提携をしてくれという話を人事としては言っているのが現実です。

 

○大内氏 

遅れてきて失礼しました。私がよく分からないことの1つに、最近よく企業経営におけるダイバーシティが重要であると言われて、グローバリゼーションもその1つなのでしょうが、もしかしたら機械を使っていくというのも、ある種のダイバーシティかもしれないし、いろいろなダイバーシティというのはあると思うのです。そういうことと、企業におけるアイデンティティというか1つの企業の理念あるいは精神というものをどう統合していくのかというのは、やや矛盾する方向なのかという気もしています。

18ページに、日本本社ではコマツの文化を理解した人材を求める。逆に言うと、海外では、そういう人は求めていない。しかしそういう人もコマツの一員としてやっておられると。それはダイバーシティなのでしょうが、そういう時のコマツという企業で働くということの意味、あるいはダイバースな人材を統合してつなげていくというのはどのようにやっておられるのかを教えていただければと思います。

 

○浦野氏 

中でも話をしたのですけれども、特にグローバル化についての、人のダイバーシティについては過去に多くの失敗をしてきています。失敗した結果、「コマツでいいよ」と言ってくださった方が残っているというのが今の結果だと思っています。先ほどコマツウェイという企業の行動基準みたいなお話をしたのですけれども、それは昔からまとまっていたものではなくて、今の相談役が、自分が退くときに、何とか引継書を書かなければいけないと引継書の中に、過去色々やってきた事例を盛り込んで、これを見て理解をできる、又はそこにある事例を使って、海外の人たちについて指導ができるということをやらなければいけないということで残しているのがコマツウェイです。コマツウェイが腹落ちし、こういうカルチャーの会社ならば、自分はいても良いかなという方だけ残られているのだろうと思います。

 

○大内氏 

それは、テクニカルな要素のことなのでしょうか、それとも精神的なものも関わるのですか。

 

○浦野氏 

中間ぐらいだと思うのです。理念ではないというようにしていますので、中身が具体的な事例になっています。例えば、お客様から沢山のオーダーが来ました、何を優先しますかという話があります。そのときに、工場系の人は自分のラインを止めたくないのでライン優先です。それは駄目だということをはっきりと言っています。何とならば、お客様の機械が止まっているのならば、最優先で動かすべき、ラインを止めてでも物は出しなさい。そういう具体的なものが詰まっているというように御理解いただければいいと思います。

 ブランドマネジメントについても、これは変な例えかもしれませんが、恋敵の方を見るのではなくて、相手に喜んでもらえるようにしろということを、いろいろな事例を書いています。そういう行動で、多分1行で書いてしまえば何でもない、「お客様指向」ということですが、それはどの会社でも同じだと思うのです。それをコマツの場合はどう考えて、どういう行動に移しますかみたいなことが、割と詳しく書いてあるという感じです。

 

○大内氏 

まだお聞きしたいことはありますが、とりあえずここまでにいたします。

 

○山川氏 

グローバル人材ということで、人材要件について、自分の経験と自分の言葉で語れると仰った点が非常に印象的でした。そういう人材について、新卒採用の段階、その後の能力開発の段階で、中途採用は別として、どのように人材開発をされているのかについてお伺いします。

 

○浦野氏 

これは日本のメーカーはみんな同じだと思うのです。小集団の改善活動とか、そういうものがやはり大きいだろうと思っています。基本はOJTだと言っていて、その中で、例えばデータをどう取るのだとか、そういうことも含めて改善活動をやっていって、それを部内の発表、全社大会みたいなのをやったりというのが、こういうことを身に付ける一番の機会と思います。もう1つ言われているのは、社内でどうのこうのよりは、お客様から言われることが一番利くということがあります。それは、最近、色々な場面で、若い人もお客様からダイレクトに文句なり意見を言われることが大事だろうと思っています。

 もう1つは、業界が、そういう意味ではウェットな業界であることも確かだと思います。弊社の上の方などは、アメリカだって浪花節が通じるみたいな言い方をしており、話せば分かると。そのときに、極力データで語らせろみたいな話はあります。客観データに勝るものはないから、データを持っていけば、あとはこの人の言っていることが信頼できるかどうかは、非常に日本的なのですけれども、そういう業界であることは確かだろうと思います。

 

○柳川事務局長 

先ほどからお話の出ているグローバル化のところに関係していて、既にお話のあったことかと思うのです。かなり現地化のところを重視されていて、例えば販売戦略のプロとして、世界中あちこちを動かすというような、そういう横軸で人を動かすということはあまり考えていないのでしょうか。それとも、それは将来的にはあり得ることですというように考えているのかを伺います。もし、あり得ることだとすると、そこではかなり人事システムをグローバルに統一していかないと回っていかないような気がするのですけれども、その辺りはどのようにお考えかを教えてください。

 

○浦野氏 

現時点では、まだその地域のオペレーションのトップをあなたに任せますということで今はやってきています。ただ、次のステップはあると思っています。それは一般の建設機械の方ではなくて、鉱山関係は今でも鉱山の鉱山長というのは、オーストラリア人がインドネシアで働いたりということが、グローバルにモビリティというのが非常にある世界です。弊社の鉱山系のトップも、実はオーストラリア人とか、実は何々人という人がいて、今はアメリカで働いているという人もいます。まず、そういう分野からモビリティが進んでいくだろうと思っています。

 グローバルの報酬も、ある程度上の方から段々と揃えるようにしてきています。今やっているのは、報酬の水準を揃えるということではなくて、評価の基準を揃えるようにしています。あとは、その地域の同業他社との比較で決めています。したがって評価基準が決まっていれば、次は違うところに働くときには、その地域に合った報酬で評価基準は変えないということができるのかと思っています。一遍にではなくて、そういう分野からという感じだと思います。

 

○中野氏 

御自身も、均等法以前の入社ということで御苦労されてきたのではないかと思うのです。女性比率で言うと、グローバルと日本国内ではどれぐらいなのでしょうか。エンジニア領域で、そもそも学部出身者の男女差というのもあると思いますし、多分お客様も男性が多いと思うのです。そのような企業、メーカーにとって、そもそも女性比率を上げる必要性を感じる事由は何かあるのかも併せてお伺いします。

 

○浦野氏 

今、女性社員の比率は約10%ぐらいです。管理職の比率が今年は4%台で、四捨五入したら5%になったと言って喜んでいるのですが、そういう状態です。5年後には更に伸ばし、基本的に社員比率と、女性の管理職比率ができるだけ一緒になるようにしたいと思っています。

 弊社みたいな業界がどうかということなのですけれども、これについては社内でも言っているのですが、日本だけが遅れています。もちろん管理職の定義には少し比較障害があるかもしれませんけれども、中近東とかアフリカなどでも、社員比率と女性管理職の比率に差がない。日本だけが極端に違うという状態になっていて、これは駄目だろうと、おかしいでしょうと。グローバル標準でないものは、そのうち日本も淘汰されると言っています。なぜ、こういう業界でも女性がということは、私も非常に気にしているというか、男性社員から言われます。「業界別でいいじゃない」というのはいつも言われますが、1つは先ほどのスマートコンストラクションではないですけれども、やはりお客様とのつながりというのは大分変わってきています。商品を売るということから、お客様の困り事を聞きに行くということは、男性も女性も関係ないだろうと思っています。あとは女性が働きやすい環境を作っていくということは、今後介護を抱えられた方とか、高齢の方にとっても大事で、それは生産技術にも非常にうるさく言って、工場の中の設備も女性仕様にしろということはうるさく言っています。そういうことから、今後も、こういう業界でも女性が活躍していけるというか、女性ならではも含めてですけれども、やっていけることはたくさんあるだろうと思っています。

 

○中野氏

 追加ですが、男女に限らず、そういう働き方の上で、お客様の働き方は先ほどのスマートコンストラクションですごく変わるなという印象はあったのですけれども、コマツさん自身の働き方の課題が、もしこういうところにあるというのがあれば教えてください。

 

○浦野氏 

本日は時間の関係でお話しなかったのですけれども、フレックスはほとんどの部門で使っています。また、開発部門は裁量労働になっています。ただ、彼らも最後の追い込みの時にはすごく忙しいのです。そのため、みなしの時間だけでは駄目なので、その時に彼らは普通の残業に切り換えています。残業と裁量労働を使い分けしているような状態にしています。全然足りていないのが在宅勤務で、そこはこれからやっていこうと思っています。製造現場に近いところはどんどん変わっていくと思っているのですけれども、逆に事務部門の生産性や働き方の改革はすごく遅れていると思っています。そこは青野さんのところで勉強させていただきたいと思っています。

 

○金丸座長 

ありがとうございます。次の大内さんのプレゼンに移らせていただきます。私も楽しみにしておりましたので、大内さん、よろしくお願いします。

 

○大内氏 

 今回何を話そうかと考えていたのですが、労働法研究者としての立場からは前回山川先生の立派な御報告もあり、私が何も追加することはなさそうなので、ここでは、私はやや普通の労働法の研究者と違った観点の議論をやっているのかなという自覚をしておりまして、普通では厚労省からとても声が掛からないような研究者ですが、2035年ということになると「こいつにしゃべらせてもいいだろう」ということで、私論、personalということで、tentativeという意味も少し掛けておりますが、そういうことでお話をさせていただければと思います。

 まず、私がなぜこの懇談会に参加したのかということです。私自身、この数年の人工知能の飛躍的な発達というものが雇用の現場に大きく影響を及ぼすだろうということを数年前から耳にして、これは労働法研究者としても関心を持つべきだと思うようになり、昨年、実際に20年後の労働法はどうなるのかということを考える個人的な研究計画を立ててやっていたところだったのです。

 なぜそういう関心を持ったかというと、もちろん技術革新の影響ということもあるのですが、非常にシンプルなことから言いますと、労働法の発展の主たるターゲットの変化ということです。労働法は、もとは工場内における従属労働者、産業革命後の工場において機械とともに働くという従属労働者がターゲットになって、それが徐々に工業だけではなく、またブルーカラーだけではなく、従属労働者一般にまで広がってきたという労働の発展過程があるわけですが、今、問題となっているのは、むしろそういう従属労働者が、機械や技術の恩恵により徐々に減っていくのではないか。そうなってくると、むしろ従属的かどうかに関係なく働く人全てを労働法のターゲットにすべきなのかどうか、「自営業者も含む」と書いていますが、こういうことが重要な問題になってきていると考えているのです。これは研究者としてみれば、理論的に大きなチャレンジになりますので、関心を持ったということです。

 「歴史はめぐる」ということですが、今の話を私なりにまとめてみました。一番上の「職人の時代」というか、産業革命以前は、手工業の職人が活躍できた時代で、個人の技能というものが重視されていたのだけれども、産業革命によってそういう職人が仕事を失っていきます。そこで起きたのが、機械による大量生産です。先ほど申しましたように、そういう中で労働法というものは誕生し、発展してきたと。右に書いていますが、「集約的生産過程における労働者の従属性」というものが1つのポイントであったわけです。

 それからずっと時が流れて、コンピュータやロボットの発達がどんどん進んできて、省力化で人間の労働力を少しずつ減らしていく。また、人間の仕事の低技能化が進んでいき、それが非正規雇用増加の背景にもあるということが言えます。これは割と近年の話です。更に、今はITAIが飛躍的に発達していて、こういう仕事すらもなくなっていくということで、残された人間の労働として重要なのは、知的創造、イノベーションというものを生み出す労働であり、こうしたものが今後は中心になっていくことが予想されます。左に書いていますが、右との対比で、「分権的な生産過程における労働者の独立性」、独立して創造的な仕事をしていくというのが中心になっていくということです。

 そうなっていくと、労働法の誕生、発展のプロセスとは違う労働者や労働の現場の像が出てきて、そこで、労働法の運命はどうなるのだろうというクエスチョンマークを付けているわけです。再び職人的な世界、個人の技能が重視される時代になっていくのかというようなことを、まず問い掛けているわけです。

 ここからpersonalな話になっていきます。私の研究として、なぜこの懇談会に来たかということとも関わるのですが、まず「2035年の雇用社会と労働法」で左に書いているのはネガティブなことで、未来予測的な研究は学術的な手法では難しいと言われているわけで、これはKarl Popperのを引用しておりますが、要するに人間の歴史の行く末というのは、学術的あるいはその他の合理的な方法によって予測することはできないということです。それはそうかと思います。

 従って、私は何をやったかというとエッセイを書くということで、今、現在、弘文堂スクエアという弘文堂という出版会社のホームページで昨年の8月から「絶望と希望の労働革命」というタイトルで、人工知能とか技術の発達がどうなっていくのか、正に2035年の辺りをイメージしながらエッセイを書いて、そうは言いながらエッセイばかりではなく、依頼されたこともあって、日本労働研究雑誌というところに昨年10月に「ITからの挑戦」ということで、中間的な論文を書いている状況の中で、今回声が掛かって引き受けたということです。

 労働法の研究者が2035年問題を扱う意義はどこにあるかということについて、おそらく一般的に言うのは難しいかもしれませんが、私自身の研究テーマからくる必然性があると自分では考えております。私自身は、ここにも書いていますが、常に「労働の従属性」というものをア・プリオリに措定することへの疑問を持ってきた研究者です。

 こういう発想は先行業績としては、労働法の世界では大変に著明な菅野和夫先生、諏訪康雄先生の有名な論文がありまして、これはある種革命的な論文だったのですが、こういう議論の流れに私も沿って研究をしているところがございます。

 もう少し従属性の問題について語ってみたいわけですが、これは第1回目のときの自己紹介で少し述べたこととも関わります。従属性という概念は割と英米系の学者はあまり使わないです。山川先生は英米系の労働法の研究の大専門家です。ただ、ヨーロッパ、continentalで大陸法系のことを勉強した研究者にとっては従属性というのは大変重要な概念なのです。日本は英米系の影響と欧州大陸法系の影響の両方があるのですが、理論体系的には欧州大陸法系の労働法の影響力が比較的強いのかなという気がします。

 それはともかく、従属性には2つの意味があると私は見ています。1つは、古典的な契約論あるいは民法などの世界と区別するための従属性ということです。もし従属性というのがなければ、別に民法の契約論で構わないわけです。従って、従属性にこだわるのは我々労働法屋が、自分たちの仕事の領分を維持するためにも必要なことなのです。従属性がなくなれば労働法は要らなくなるということです。

2つ目は、労働法の存在意義を正当化する従属性ということです。これは従属性をもっと実体的な概念と見て、従属的だから保護するニーズがあるということです。労働者は従属的だから、その保護のために政府が介入しなければならない、あるいは厚生労働省が存在する意義はそこにあるのです。従属性にはこういう2つのものがあるわけです。

 この従属性概念を私は再検討してきたわけですが、どういうことかというと、従属性というのは存否だけではなくて程度も問題となる、可変的な概念だということです。可変性というところが重要です。このようなことは実務をやっている方は当然のように思われるかもしれませんが、従属性というのを変化し得る概念と捉える視点というのは、あまり研究者の中ではないのではないかと思います。

 従属性をそういう可変的な概念と見ると、労働法の存在理由は自明ではないことになります。つまり従属性が減っていくと先ほども申しましたように労働法が介入しなくてもいいという話になってくるし、2番のところもそうなのですが、従属性を実体的な概念と見て、保護のニーズがあるから従属的な労働者を保護するということをいっても、労働者というのは非常に多様で、昔は工場労働者でかなり労働者の置かれている利益状況というのは統一性、一体的な把握が可能であったかもしれないけれども、今日ではそういうものではない。そうなると、保護のニーズによっては労働法の一律の規制が、場合によっては過小であったり過大であったりするということが起こります。これが従属概念を可変的に見ることの1つの効果です。

 それに続けて「技術」です。とりわけ技術の発達、近年のIT革命以降の話が特に重要だと思います。労働者の従属性を変えて保護のニーズを変容させ、労働法の存在理由の再考を促す状況に来ていると私は捉えており、関心を持ったということです。

 ここは私の研究で、関心がなければ飛ばしてもらっていいのですが、一応話しますと、私はずっと従属性の反対概念である契約の自由というものにこだわって研究をやってきました。○2のところは、今から17年前の1999年、労働法を、保護の対象の労働者概念、規制事項の範囲、規制の手法の3つに分けて、それぞれについて従属性とか契約の自由というのをどこまで認めるか、契約の自由をどこまで制約することが正当化されるかという、primitiveではありますが、そのような検討をしました。

 ○3のところは、今、この懇談会でも若干議論されているテーマとも関係しますが、「従属労働者と自営業者の均衡を求めて」という論文を書きました。そこでの問題意識は、従属労働者と自営業者の保護がall or nothingであることへの疑問です。今日は最初に説明があったのでしょうか。自営業者、非労働者になると基本的に保護はnothingなのです。そういう状況はあまりにも極端ではないのか、という問題意識です。

 例えば労働法の中にある経済的従属性に関わるような保護規制というのは自営業者にも拡張すべきであるし、逆に人的従属性があるとされる典型的な労働者でも、人によっては1億円を稼ぐような労働者も実はいるわけですが、そういう人は経済的従属性が弱ければ、保護規制からの逸脱というのを認めるべきではないかというようなことを主張した論文です。保護規制からの逸脱というのはderogationという言葉で、英語ではあまり使わないらしいです。フランス語のderogationというのがいいのですが、それを英語読みしたもので呼んでいますが、こうしたことを主張しています。

 次の論文は割と最近のもので、安倍政権ができて以降の話です。今の話の延長なのですが、労働法の規制というのは、従属性からくる保護のニーズに照らして、必要十分かを厳密に検討すべきである。そうした観点から規制が過少な領域については積極的に立法介入することが憲法の要請であるし、例えば労働時間の規制の強化というのはあってもいいし、他方で過剰な部分については適用除外ということで、ホワイトカラー・エグゼンプションとか、先ほどのderogationを認めるべきだと。それをせず、過剰な規制になっていれば、企業に憲法上保障されている経済的活動の自由に対する不当な侵害となって違憲問題も出てくる、というような主張をしておりますが、あまり相手にされておりません。そういう問題関心を持っているということです。

 これは規制手法の問題でもあり、実は前回の山川先生のご報告とも関連しています。前回の山川先生の規制手法の議論は、私にとっては大変勉強にもなりましたし重要なのですが、なかなか皆さんに御理解いただいていなかったのではないかなという気もしていて、前回の議論は全然違う方向にいってしまったのですが、山川先生の議論を受けて私なりの規制手法の話をここで追加しておきたいと思います。

 これは実はとても重要で、労働法というのはこれまでどのように労働者の権利を増やしていくとか、使用者の義務を増やしていくとか、そういうことが重要だったのですが、それだけでは駄目だということで、どうやって権利を実現していくか、あるいは法をどうやってenforcementしていくかというようなことが重要で、そのためには規制の手法というのをもっと考えるべきではないのかというのが、おそらく最近の山川先生が仰っておられるところでして、これはとても難しいテーマなのです。

 この図は簡単に描いてしまったので、前回の山川先生の精密なものがある方を御参照いただいたほうがよいのですが、私なりに簡単に整理しました。右上に「権力的手法」とありまして、この言葉がいいかどうかはあるのですが、これは伝統的な労働基準法とか労働安全衛生法などの世界のものです。つまり、法違反があったら罰則を科し、労働基準監督署等の行政監督機関できっちりと監視していく。そして、権利と義務という点では、強行規定で当事者がそれから逸脱してはならないというような形で、非常に強い規制というのを従来やってきたわけです。労働基準法は、罰則、行政監督、強行規定の3点セットが付いている非常に強力な規制です。このイメージは工場主に対する取締りというものです。

 こういう形で保護するに適しているのは、右に書いていますが「労働者の基本権」です。基本的な権利の保障ということになると、確かにこういう権力的な手法というのは重要で、労働安全衛生などで危険な仕事をやらせるような場合には罰則を科すとか、行政がきちんと監督するということは大切なのだろうと思います。

 しかし、労働法の規制内容はこういうものばかりではありません。右下にいくと、一定の政策目的を実現していく、基本権の保障よりはもう少し政策的要素が強くなるようなものもあります。しかし、ある程度重要なものであるならば、これは努力義務ということで、行政指導で目的を実現していくとか。前回紹介がありましたがインセンティブということで、補助金や助成金を付与するというような形で強く誘導していくという方法があります。インセンティブの場合は「強制性が強い」という言い方は合わないのですが、強い誘導性があるという意味で捉えていただければと思います。

 左上の方は「私法的手法」です。あまり労働法の中にはないのですが、権利と義務をただ定めて、後は何かあったら裁判所でというところです。ここでも強行規定はあり得ますけれども、任意規定というものもあり得ます。あり得るのですが、労働法の中では少ないです。こういう形で当事者に権利と義務を定めることによって、当事者の行為準則にしていくことで、紛争の未然防止を実現していくというものもあり得ます。これはかなり強制性が弱いということになります。

 左下です。これが一番注目されるところで、「市場メカニズムを使う」ということです。たとえば、reputationの活用というものがあり、「評判のメカニズム」ということを経済学者の方はよく仰います。つまり、法を使わないで市場を使って、問題ある企業の評判が落ちていくことにより放逐されていくというイメージです。

 最近ではSocial Network Service(SNS)の威力が強大で、ある企業で問題があるという評判が流れると、時給をどんなに上げても人が集まらないとか、こういう形で経営の改善が促されるとなると、これはローコストで、かつ現代的に見れば非常に強力な手法だということです。

 こういう規制手法というのは色々あって、これを今後どう考えていくかということを山川先生は前回に仰っていました。私自身は、時代の流れからすると、右上に関する部分というのは、かなり労働法は行き届いていると見ています。従って、今後出てくる色々なものは、むしろ右上ではない手法をどう組み合わせて実現していくか。おそらく左下の「市場メカニズム」というのをもっと使う可能性を考えていった方が、ローコストでいいのではないかと思います。この辺は、もし何かあればということですが、取りあえず前回の山川先生の話と接続するために申し上げました。

 私の研究テーマに戻らせていただきます。もう1つの問題というのは、「規制の副作用を考えなければいけない」というのが私が最近進んでやっている議論です。現場の動きやニーズに目を向けろということなのです。このことを言うと、「お前は労働の現場を見ていないから、お前こそ現場を見ろ」というようなことを言われてしまうのですが、そうではないのではないかという話です。

 私自身、近年は上の2つ、経済学との協働、コラボレーションというのをやってきて、これがどういう視点を与えてくれたかというと、労働者保護規制というのは当然企業の行動に影響を及ぼすわけです。労働者を保護するというところだけを見ているといいことばかりかもしれないけれども、企業の行動に影響を与えることによって、副作用が出てくる可能性があります。そこまで見なければなりません、それが「現場を見ろ」という話なのです。こういう観点から、経済学者の方と共著を出しています。

 もう1つは、経済学の1つだと思いますが、人事管理論との協働です。労働者保護規制というのが企業内の人事管理、HRMに与える影響を分析するということが重要だということです。こういう観点からの本を私は出させていただいておりますし、この『人事と法の対話』という本の中ではコマツの日置さんとも鼎談させていただきまして、非常に勉強になりました。

 そういう勉強させていただいた知見を踏まえて、労働政策批判ということで、これも厚労省に怒られる話かもしれませんが、一見労働者を保護するように見える政策が、労働者保護につながっていないという問題点がたくさんあるのではないかということを指摘させていただいて、これも本を書いておりますので、御参照いただければと思います。

 こういうことをやってきたわけですが、その中で2035年の問題を考える際には、それを考える際に今の直近の問題についても考えていかなければなりません。それを考えることによって、2035年につながるということもあって、私自身では3つの政策提言を、2つはやって1つは計画しているところです。「解雇法制」「労働時間法制」「派遣法制」とあるわけです。

 次の「労働力の流動性」というのは解雇の話です。これは私が何を言っているかということを御理解いただくために書いていて、長いところは省略して、下の2行だけを見ていただくと、「解雇ルールを、労使自治をベースにした分権型のものにし、それによりルールの明確性と現実的妥当性を追及すべきだ」という提案で、前回に少し議論があったと思いますが、金銭解決というものも入れるべきだということも提案しております。 もう1つは労働時間です。「成果を重視した働き方」と書いております。私はあまり審議会の動きはフォローしていないのですが、これは割とactualな問題かもしれません。下の2行で「労働時間規制について、不足している規制を補充し、過剰な規制を撤廃すべきだ」という提案です。現在の労働時間規制は健康障害の防止、ワーク・ライフ・バランスの実現という点で機能していないという評価をしていて、その点で現在の規制を根本的に見直す必要がある、36協定、割増し賃金という手法ではいけないということを言っています。それと同時に、管理監督者とか、裁量労働制という弾力的な規制が十分に機能していないと私は見ておりまして、ホワイトカラー・エグゼンプションを導入すべきだという議論もしています。これも知的創造性を重視した未来の働き方に関係します。

3つ目は派遣で、まだ本は出ておりませんが執筆途中です。派遣についても色々な議論があって、昨年に改正があったばかりですが、派遣というのはもともと専門的業務、この「専門」という意味は広いのですが、専門的業務における労働力の需給調整のための制度だったのです。1999年の法改正でそこは少し変わって、どのような業務でも基本的には派遣できるようになってしまったのですが、もともとは専門的業務における労働力の需給調整、需給のマッチングのための制度であって、これのもつ社会的意義というのは非常に大きいわけです。

 今後は、こういう仲介ということが重要になっていくだろうということで、派遣性悪論というものに反対して、派遣の効用を直視して、望ましい活用に向けた政策を進めるべきだという提案をする予定です。

 少し観点を変えて、将来についての企業内における人材の階層を見ておきたいと思います。ピラミッド構造の中で、上にマネジメント層がいて、次に、技能の高い正社員、その下に技能形成過程というか、とくに文科系の大学の新卒というのは若い頃はそれほど技能は蓄積されていないわけですが、段々と蓄積されて、高技能正社員になっていく人とか、あまり技能が伸びなかったというのを「一般」という言い方をしていますが、「低技能」といってもいいのかもしれませんがネガティブな表現なのでやめています。そういう人が第3層にいて、第4層に非正社員というのがいます。

 こういう構造があるとするならば、このうち「非正社員」の層というのは、事務系はコンピュータで代替され、現業系はロボットで代替されていくというのが世の流れではないのか、20年後までを考えるとそうなるのではないか。また、上から2つ目の「高技能正社員」は、特に知的な仕事とされているものは人工知能に代替されていく可能性が高いのだろう。初回でしょうか、松尾先生のお話もありましたが、 1020年で仕事が半分になると言われているわけで、それがどれぐらいの真実性があるかは分かりませんが、そういうものも視野に入れておいたほうが良いだろうと思います。

 そして、技能がどんどん急速に発達していくと、企業内において技能を蓄積していくという人材育成ということが、徐々に難しくなり、行われなくなります。つまり、第3層も存在しなくなるのではないか。そういう中で、企業は即戦力の技能労働力は外部調達していくことが増えていくのではないか。これはクラウドソーシングの話ということになります。

 伝統的な正社員というのは、今あったように上から3つの層なのですが、職種非限定、勤務地非限定、勤務時間非限定というような働き方で、無期雇用というのが特徴であったわけです。こういう正社員がなぜ存在し得たかというと、今の話と関わり、日本の特徴だと思うのですが、日本の企業は技能というのを企業内で育成してきました。外部から調達するのではなくて、社員として組織内に取り込んで育成してきました。そのため、教育のために投下した資本を回収する必要性があります。そのためには長くいてもらわなければ困るということで、長期雇用を保障する。真面目に働くなら定年までいることができる。そして年功型賃金ということで、勤続年数が増えれば給料が上がっていくというインセンティブを与えます。それは一種の飴で、他方で鞭としては、広範な人事権があり、配転権、教育訓練を受けなさいということになっています。それが、技術の進歩の中で、こういう形の長期雇用の正社員というのは不要になってきて、むしろ即戦力の専門労働者の需要が増大していくのです。そういうことで、下に掲げている拙著は、私が若者に向けて「こうなるよ」ということで、正社員を目指すなということを書いた本なのです。

 こういうことを前提として「未来に向けた制度改革」ということで、先ほどの解雇、労働時間、派遣法に関わってくるわけです。イノベーションとか技術の進歩があると、技能は早期に陳腐化していきます。そうすると、労働者の移動というものが重要になってきて、解雇法制というか、もっと広く言うと労働市場政策というものが重要になってきます。左の方の「労働時間法制」は、知的創造、イノベーションが重要な働き方になってくると、これは成果を重視する働き方になって、そうすると賃金と労働時間の分離が必要になってきます。これは、現在の割増賃金というのは、労働時間に比例していくわけで、接続しているわけですが、これを分離することが必要になってきます。派遣については、専門的な技能を持つ労働力の需給のマッチングというものが必要になってくるという話です。

 今のは仕事の中身が変わっていくという関わり方との観点を重視したものですが、もう1つ重要な視点というのは、やはりITの発達によって、働き方、働かせ方が変わるということです。既にここでも議論があったと思うのですが、テレワークは何が新しいかというと、テレワークには雇用型と自営型があるのですが、雇用型であっても、在宅就労、在宅勤務というのは場所的、時間的な従属性は非常に希薄化するわけです。そして、これはワーク・ライフ・バランスにプラスになるわけです。こういう点で注目されるわけです。

 今「自営型」「雇用型」と言ったのですが、法的に見たときに、「雇用型」であっても境界線が曖昧になってくる、なぜかというと雇用かどうかを見極める上では、「使用従属関係」という言葉を使うこともありますが、指揮命令関係にあるかどうかが重要なのですが、それがテレワークになってくると、特に在宅勤務になると不明確になるわけです。従って、ここに線を引いて、こちらが労働者、こちらが自営業者で、保護のall or nothingにするということは非常に現実的にも難しくなって、テレワークはそういう問題を提起しているのだろうという気がします。

 クラウドソーシングの問題は、これは自営業者の問題です。ネットが媒介するわけですが、発注企業があって、その中で事業をアウトソーシングしたいと。特に、AIとかコンピュータの発達によって、仕事の組立て方もモジュール化していくということで外部に発注させやすくなります。そういうときに直接ネットを通して取引するという、発注企業と就労者の直接取引もありますが、仲介業者が必要となることも多くなってくるでしょう。いずれにせよ、こういうクラウドソーシングでの働き方が今後は増えていくのではないか、あるいはこれが中心になっていくのではないかと思うわけです。

 また、やや似たような話なのですが、「新たな経済システムと働き方」ということで、On-demand economySharing economyという言葉はよく耳にする言葉でありますが、こういう動きというのを簡単に言うと、企業主導の大量生産との決別なのだろうということだと思います。On-demand economyは必要なときに必要に応じて消費するイメージですし、Sharing economyというのは先ほど民泊の話も出てきましたけれども、遊休資産を活用していくというようなものでありまして、その中の1つの象徴的なものがUber的な働き方、あるいはlife & work styleというものがあるわけです。Uber的なものというのは、6つ挙げておりますが、Uberでも雇用というのはあり得ると思うのですが自営業が多い、自営的であり、ワーク・ライフ・バランスの実現が可能である。自分の持っている車などを利用するとなると遊休資産の活用ということでエコにもいい。スマホを活用することは利便性が高く、消費者目線であるため、新たな社会関係が構築されます。直接働く人と消費者が接するということで注目されるわけです。

 こういうことで、自営的就労は重要なのだけれども、これを保護するかどうか、何か法的に介入すべきかどうかというのはなかなか難しい問題があるということです。まず、左の方は、これまでの伝統的発想からすると自営就労者というのは人的従属性がないということが定義上出てきます。そうである以上、保護の正当化というのは困難で、従属的ではないのなら何で保護しなければならないのだということになってきます。だから、パターナリズムは不要ではないかということで、自己決定、自己責任論というのが自営就労者の場合は当てはまる気がします。

 次のページです。その問題はどう考えていったらいいかということです。ここは今の話の繰り返しなのですが、労働法というのは企業対労働者という二者関係で見ているわけです。企業が労働者を支配するから、企業を抑えて労働者を保護しなければならないという発想なのだけれども、自営的就労者の場合にはそういう対立構造あるいは階層構造、対峙構造というのはないわけで、水平的な関係です。ですから、伝統的な労働法の手法は使えないということになります。

 実際はどのようなニーズがあるのかということが重要であると。これはこの懇談会でもっと私が勉強したいところです。あり得るとするなら、まず上から2つ目の方です。健康の確保というのもあるのだろうけれども、これは自己責任かなというところもあります。健康確保あるいは契約の履行をめぐる問題、契約を打ち切られたような問題、各種の保険というものがあります。あるいは契約リテラシーというのは個人で契約書を書いて企業と取引しなければならないとなってくると、契約を読んだり書いたりする能力の向上が必要になってきます。また、仕事の仲介も関わってきます。こういうところに保護というか、サポートしてもらいたいというニーズがあるのかもしれないということです。

 さらに理念的な話として、先ほども述べましたがパターナリズム不要論、あるいは自己決定・自己責任論というのが一方にあります。しかし、他方で、先ほど見た私の将来の見取図が正しければ、こういう働き方が中心になっていくとなると、日本経済にとっての必要性というのはあります。そうすると、自営的就労を健全な働き方にするための環境整備のために政府がやることはあるのかなと思います。そういうことを私は2035年問題として考えていきたいと思っています。

 左下に、「労働法の原点」と書いていますが、先ほど私は「従属労働者は従属的だから保護しなければならないから労働法がある」と言いましたが、労働法の発祥の観点でもう1つ重要なのは、そういう労働者を保護することによって、労働力が摩耗しないようにして、日本経済に役立てるという観点もありまして、そうすると同じことと言えるわけです。

 ここから先は余談のようになりますが、もっと考えると、我々は「幸福とは何か」というのを考えていかなければ駄目だという話です。仕事と幸福追究というものを考えていく際には、人は多くの時間を仕事に捧げるために、仕事において幸福にならなければいけないと。仕事において幸福になるためには仕事に隷属するなと。これは当たり前のことなのですが、Carl Hiltyの「幸福論」に書かれているものです。そのためには、仕事における創造性、時間主権の回復という2つが重要ではないのかと考えています。そして、それを実現していくためには、まずは適職を見つけることであって、適職を見つけると働くうえでのモチベーション、動機付けも創造性も高まっていきます。

 そして、適職はどこにあるのかが問題になってきます。ここが難しくて、これからの技術の飛躍的発達の中で適職は一体どこにあるのかということを、先のことが見えていない人とっては見えていないから関係ないのかもしれませんが、先のことが見えている人にとっては非常に不安なのです。ここは難しいところです。「技術の急速な発達のジレンマ」と書いていますが、メリットとしては、先ほどのコマツさんの話の「苦役からの解放」というのを挙げてもいいのかもしれませんが、それもありますし、生活を豊かにします。デメリットは、熟練技能の陳腐化、新技術習得の困難化というのがあって、このデメリットが適職を探す上で重要な問題になってきます。

 こういう問題点を言いすぎると、新技術はやめたほうがいいと。右下に「現代版ラッダイト運動をやるべきではないか」というような話も出てきかねないわけです。しかし、今後の労働力人口の減少、グローバル化による競争の激化、他国はどんどんそういうものを使っていきます。そして、日本のホワイトカラーの生産性は低いというような議論もあり、生産性の向上を目指す上では新技術の活用は不可避であって、現代版ラッダイトというのはやるべきではないと思います。

 こういうような認識の中で、これからの真の政策課題というのは「技術の発展がもたらす未来の労働の世界を想像しながら、新たな労働法の構築のための作業を進めることである」。そこにある労働法というのは、もしかしたらもはや「労働法」ではないかもしれず、私自身自分の仕事をなくしていくようなことを言っているのかもしれませんが、そういう意識を持っているということです。

 政府は何をしてほしいか。今のような話についての情報をしっかりと収集していただいて、分析し、若者を中心に彼ら、彼女らに必要な情報を提供していくということが、政府がやっていくべきであって、そういうことによって真の意味でのセーフティネットの構築を目指すべきだということです。

 最後に「キャリア権」という概念を持ってきています。法律の議論として、キャリア権という概念が20年近く前に出てきております。もともとは諏訪先生のオリジナルですが、みんなが使っているうちにそれぞれの定義をするようになってきて、共有財になってきている感じで、私自身は「国民一人ひとりが、職業キャリアを通して幸福を追究する権利」をキャリア権だと見ています。

 そのキャリア権を実現するためには、詳細は省略しますが「雇用」「社会保障」「教育」「産業」の4つの政策が統合して、労働者一人ひとりが特定の企業にキャリアを委ねるのではなくて、色々と転職もしながら、そして転職せざるを得ない状況があるわけですから、そういう状況で人生の職業キャリアを充実して、幸福を追究していくことが必要で、そういう目的を立てて、それを実現するための法的な基底的概念がキャリア権であって、これを実現するために政府は力を合わせて、省庁を越えるので難しいかもしれませんが、やっていかなければ2035年問題は解決できないのではないかと考えています。以上です。

 

○金丸座長 

大内先生、ありがとうございました。大変熱心で、かつ、色々な視点を複合的にお話しくださいましてありがとうございました。それではどなたか、御質問、御意見があればお願いいたします。磯山さん、お願いします。

 

○磯山事務局次長 

大内先生、ありがとうございました。非常に、目から鱗といいますか、腑に落ちたといいますか、従属性がキーワードだということで。私は5年前に会社を辞めて従属性から解放された。つまり、自由になったということなんだなと改めて思いました。その一方で、今日の冒頭の、法律にカバーされている人、しない人でいくと、多分、この懇談会のメンバーの過半は労働関係法にカバーされない人で構成されているということで。でもみんな働いているわけで、本当に法体系というのはそれでいいのかと。

 いわゆる労働法と言った時の概念が、ここで最初の時に議論がかみ合わなかったのは、特に御手洗さんがそうでしたが、労働法と言ったときに、我々一般に働いている人が思う労働法という概念と労働法学者の方が思っている労働法の概念が実は大きく食い違っていて、議論の根底が違っていたということだと思います。そうはいっても、大内先生は自分は異端だとか嫌われているとかと仰っていますが、私は先生の本も読ませていただいたのですが、私たちみたいな労働法の枠外にいる人間から見ると、非常に当たり前のことを仰っていて正論ということで、イタリアの方が生産性が高いというのがすごく目から鱗だったのですが。

 今後、ここでしなければいけない議論は。つまり、働き方が、工場の中で働いていた本来の労働者、もともとの労働者というところに捕らわれない人がどんどん増えているということだと思うのです。ここは皆さん、労働法の範疇外にいる人がほとんどだと言いながらも、では、本当の意味で従属関係にないかというとそうではなくて、やはり請負関係みたいな仕事の取り方をたくさんしているわけで、私などもほとんど請負的に、契約のほとんど明確でないままに原稿を頼まれて、原稿を出した後に振り込まれて初めて原稿料を知ったというようなことは山ほどあるのです。これは一応、法律的には契約をしなければいけないことになっているのですが、そんなことをやると契約書を作っている時間の方が大変みたいなことが起きていまして、もう少し議論の根底の幅を広げなければいけないと痛感した次第です。

1つ質問です。取締役とか役員とかは基本的に労働法の範疇から外れていると思うのですが、それで本当にいいのかなというのは、先生、どう御覧になりますか。つまり、一般的に雇われている人とか自営で働いている人の議論がメインにされるのですが、実際上は、取締役で今、執行役員だったりとか、実際上は、社長に「お前、クビだ」と言われた瞬間、明日路頭に迷うような人もいるはずなのに、でも何か、働き方は全部無限定で長時間働かされているというような。取締役のところの働き方の規定みたいなのはどのようにしていったらいいと思われますか。

 

○大内氏 

それは難しくて、まず、取締役だから労働法の適用はないということになっていないのです。そこは実態を見るということになっています。取締役兼使用人などという概念もありまして、取締役になっていても労働者的要素があるならば労働法の、例えば労災に遭えば労災保険法の適用を認めるとか、そういう形でカバーしています。あるいは、解任からの保護というのも理論的にはあり得ると思うのです。だから今の話はむしろ、かわいそうなというか、明らかに保護に値するだろうというような取締役は、おそらく労働法はそれを労働者と定義して保護の手を差し伸べるということをやっているのです。本当に独立的でそういう要素のない取締役が解任されても、それはさすがに知らんというのが労働法のスタンスです。だから労働法は割と実態を見て、それに応じて保護すべきところは捕捉できる体制になっていると思います。

 

○金丸座長 

よろしいですか。ではどなたか。

 

○冨山氏 

ありがとうございました。私も、中身は当然当たり前のような話ばかりで、これが当たり前でない世界が当たり前でないのかなと思っていて。だから逆に言うと、従来のこの手の議論をするフィールドがいかに異常な世界になっているかというか、要は、実はすごく狭い世界の人たちだけで、ずっと私が言っている2割の世界だけで議論をしているのかということを改めて思いました。

 そういう面から2つ質問があります。1つは柳川先生にも聞いてみたいことです、4ページ目かな、「歴史はめぐる」のこの循環ですが、この左側で本当に知的創造やイノベーションで価値を生み出せる人というのは、逆にいうと、労働者というよりは知的資本家みたいな存在になってきていて、実は、多分この10年間で生まれたビリオネアーの大半はお金を持っていて成功した、要するに、設備集約で成功したのではなくて、頭の思い付きで何か、要は、ビリオネアーというかもうトリリオネアーかな、になってしまったザッカーバーグのような人が圧倒的に多いわけです。そうすると、むしろ今起きている格差問題というのは、そういう人、要するに設備を持っている資本家と労働者という格差ではなくて、むしろ左側の世界において知的資本家と言えるようなレベルになっている人と、そうではない下請プログラムになってしまっている人、その間の格差のような気がしていて、そういう認識は正しいかどうかと。その中で格差を是正するというのは、それこそ従来の労働法的な枠組みだと、多分、これは資本家対労働者みたいな議論なので、もうちょっとそれを超えてしまっているのかなという印象をこれを見ていて思ったということが1つ、質問を含めてですが。

 それからもう1点、ちょっと似た話ですが、後ろの方かな。要は自営業者の話です。これもちょっと似ているのですが、今、磯山さんが言われたのとちょっと被るのですが、自営業者と会社の関係、典型的には大きな会社なのですが、この議論になってきてしまうと、特に日本で起きている現象というのはほとんどが優越的地位の濫用的な話があって、要は下請法に近い世界で、すごく良いアイディアを持っているプログラマーであったり、あるいは新聞社、テレビ局の制作会社の下請であったりというような、知財から何から全部ごっそりテレビ局に巻き上げられる、あるいは大手メーカーに巻き上げられる、その大手メーカーが同じものを競争相手に作らせるということが今日でも普通に行われています、私の知っている限りでは。系列取引が普通、それが普通です。そうすると、結局、実は違った形の搾取が起きていて、その問題になってしまうと、むしろ労働法と何か、競争法というのですか、競争法というのがむしろ、このフィールドになったらむしろオーバーラップしていかないと、実はこの問題には解がなくて。ですから、契約法的解決と競争法的解決と労働法的解決が融合していくような世界が出てくるのかなという印象をちょっと、紹介されたもので、これはどうでしょうか。

 

○大内氏 

大変面白い御指摘だと思います。まず最初の方は、知的な仕事が重要になっていく中で、しかし、その中で勝ち組と負け組が出てくるという話だと思うのですが、その格差をどう考えるかということですね。格差の是正の処方箋という問題だと思うのです。

 私の基本的な考え方は、これまでは従属性という図式の中での企業対労働者というもので、従属性のある労働者を保護するということだったのですが、今後大切なのは、従属性にならないようにするためにはどうしたらいいか、そこを考えるべきだというのが実は1つの大きなポイントなのです。従属性を所与の前提として、その状況をどう改善するかではなくて、それも大切かもしれないけれども、従属にならないようにするにはどうしたらいいか。これは教育の問題とかです。今仰った格差の問題というのは、むしろ、どうやったら負け組にならないで勝ち組になれるかというところで、今後はそういう社会が来るのだから負け組にならないようにもっと頑張ってこういう方向で勉強していこうとか、そういうことが大切で、起きてしまった格差に対処していくのは、社会保障や税法とか、色々な別のやり方があると思うので、労働法でやるべきではないのだろうと、労働法はむしろ従属的にならないようにすることを考えていくことが大切だというのが1つです。

 後者の方も非常に重要な問題で、労働法は、例えば労働基準法を見ますと、使用従属関係にあって賃金を払われる者が労働者です。使用従属関係というのは人的従属性なのです。人的従属性があるものがターゲットになっている。しかし、労働者は、同時に経済的に従属的でもあるわけですね。労働基準法は、経済的従属だから労働者だという言い方はしていないのです。でも、根底には経済的従属性というものがあって、そういう意味で労働者の置かれている状況と、その他の分野で下請とかで経済的従属関係があるとか、あるいは消費者対企業でも、消費者は経済的従属性があるなどという言い方もできるわけです。このように、実は、世の中にはそういう経済的従属関係のために契約上の弱者がいるわけで、そこには、労働法の発想を拡張できるという考え方もあるのです。今新しく考えていくのは、おそらく人的従属性は段々重要性が減っていくというのが私の認識なので、むしろ経済的従属性を正面からターゲットとして、そういう状況で働く人という部分を一括りにして、どういう保護、サポートが必要かというのを見ていくという形で労働法を組み直すことが必要ではないかと考えているわけです。

 

○金丸座長 

ありがとうございます。

 

○柳川事務局長 

冨山さんの御指摘は非常に重要なポイントだと思っていて、特に大内さんの4ページにあるこの図は、「歴史はめぐる」というタイトルは私もこのとおりだと思っているのです。ある意味で少し昔の世界に戻っていて、この右側の大量生産の時代というのが、ある意味で皆さんがイメージしているある程度の近代化の……だったのですが、実は、それよりもこの左側の「知的創造・イノベーション中心」という部分に移ってきていて、ある意味で、昔、それぞれの人が自営業で、自分が少しアイディアを持って職人が発達していくという世界に、現実はそこがかなりメインフィールドになっているという大きなパラダイムのシフトが、元に戻っているとも言えますし、大きな変化が出てきている。

 その中での新しい格差が、今、冨山さんが御指摘になったような話です。結局、そうだとすると、ここでお話しになったように、保護とか従属性からの解放とか、何をもって保護というかというと、従属性を外してあげたところでアイディアが出なかったら、その人は結局何も稼げないしということで、本当の意味でのその人の幸福への貢献にはならないし経済の発展にもならないという、そこはやはり大きなポイントだと思うのです。何かその人のためにサポートしてあげるという時には、上から強い人が搾取しているものを、資本家から搾取されているものから従属性を解放してあげればそれでハッピーになれるかというと、実はなれない時代になっているというところはやはり大きなポイントで、そうであれば、ずっとお話があったように、より活躍できるようなところにフィールドを持っていく、そこはポイントがあった教育の話であったり能力開発のところであったりするし、そこから人的な従属性という話を変えていかなければいけなくて、そこが正に、実は労働法と今の下請法とか競争政策とかという話のオーバーラップが相当出てきている部分で、これはやはり法制度としてももう少し横断的な話を考えていく、非常に重要なところだと思います。ここの委員会でそこを全てやることはできないのですが、やはりすごく重要な御指摘だと思います。

 

○金丸座長 

ありがとうございます。山川先生、何かありますか。

 

○山川氏 

大変有益でかつ面白いお話をありがとうございました。皆さんに誤解を避けるために言っておきますが、別に大内さんは異端ではありません。法政策的には私と意見が違っているところは多々ありますが、はじめの部分と終わりの部分はかなり共通していて、それであるがゆえに労働法学会からも非常に信頼を受けているので、先ほどのは自虐的なお話だと思います。

 それで1点、経済的従属性への対応を労働法ないし労働政策でどう図るべきかは、この懇談会では段々とイメージが共有されてきつつあるかなと思います。それは私も共感するところです。ただ、経済法との接合といいますか、コラボレーションをどうするかというのは、仰るようにちょっと政策的な課題になるかと思います。

 もう1つ、働き方の中身について。大内さんは経済学的なことも人事管理的なことも研究されているので、企業というものがどう変わっていくかについて、要するに、生かじりですが、企業というのは契約の束で、各個別的な取引をしていると取引費用がかさむから、指揮命令とか、そういう形で組織内化していくということかなと思うのですが、将来的にはその企業が変わっていく、先ほどコマツさんの話でも若干ありましたが、従業員を使うのではなくて、個人請負を使ったり、あるいはその提携を使ったりとか、その辺りの企業組織というものがどう変わっていくかという点が出てくるかと思うのです。これも柳川先生にも聞いた方がいいかもしれませんが、大内さんにまず伺います。

 

○大内氏

 私が先ほどコマツさんに御質問したのは実はそういう問題意識がありまして、例えばクラウドソーシングのような外部労働力をどんどん活用していくとか、内部においてはどんどん機械に置き換えていくとか、そのようになっていった時に、企業と従業員で作り上げてきた従来の組織のアイデンティティはどうなるのだろうかと思いました。そういうものが実はあまり重要ではなくて、契約の効率性で、これは外部からやった方が効率的、それは内部に取り込んだ方がいいという、その論理だけでいくならば、今後、クラウドソーシングがどんどん増えていくような気もするわけです。ただ、もしかして、もっと精神的なものとか組織に取り込むことによる相互作用とかで、それが何か価値を生み出しているとなると、クラウドソーシングのようなものもそう簡単には進まないかもしれない、機械に置き換えるということも起こらないかもしれない。実はそういう問題意識があって先ほど御質問させていただいたのですが、そこはいかがですか、逆質問で申し訳ないですが。あるいは、もし柳川さんが何かあればお願いします。

 

○浦野氏 

すみません、これはあくまでも個人的な見解です。今回、このお話をする中で、何で学生さんは皆さん大企業がいいのかなと、大企業、大企業と言われるのかなというのがすごく気にはなっていまして、多分、それは仕事の中身とかお給料とか、そういうことではなくて、何か付随している、一人で独立するとすごく大変なのだけれどもそれを会社がやってくれてしまうみたいな、そういう目に見えない楽さの束が1つあるのだろうと思っています。それは皆さん、やはり辞めるOBの方が「大変だよ、自分で定期も買わなきゃいけないし」から始まるわけで、それが1つあります。

 あとは、では何をもってやるか、精神性という意味でいくならば、1つは自分のよりどころがどこに属しているかということを、必要とされる方と必要とされない方が世の中に多分いらして、どこかにところ属していることによって自分の居場所を感じるという人はやはりある程度いると思うのです。それがもう1つの大きな理由かなと、個人的には思っています。

 

○大内氏 

帰属意識の問題はマネジメントの世界とかでもよく出てくる話だと思うのです。多分、きちんと調べたわけではありませんが、日本人は割と企業に帰属するという意識が強いと思うのですが、外国人は、そういうのはむしろ少ないといいますか、ないのかもしれません。ただ、日本人が特殊かというと、企業に帰属しろというように、ある意味日本の企業はマインドコントロールをしてきたのかなと思います。そちらの方が多分、労働者にとっても企業にとっても良かったというお互いのメリットがあったのでしょうけれども、段々それが変わっていく可能性もあるし、特にグローバリゼーションが進んでいくと、外国人の考え方も入ってくるとなると、帰属を企業ではなく住んでいる地域に求めるとか、家族に求めるとか、友人関係、あるいは、最近ではソーシャルネットワークの方でいくとか、色々多様化してきている中で、そうするとやはり、企業の持つ帰属場所の提供という意義付けが相対化していくのかなという気がするのです。

 

○浦野氏 

多分、不安感の裏返しなのだろうと思うのです。従いまして、例えばこの前からの、兼業するとか、色々な話が出ていますが、自分の居場所を別の所に見つけていかれるということができると思えば飛び出ていける、だけれども、それが不安だなというときには、まずどこかに精神的な寄り掛かりが欲しいということだろうと思いますので、これがずっと続くというようには全然考えていないです。

 

○柳川事務局長 

仰るようにやはり、社員を全部抱えてという大企業のパターンから、もう少し個別に小さい企業なり個人がいっぱいあって、それが契約で繋がっていく方向に全体としてはいくと思うのです。その大きな理由は、やはり大内さんが先ほどお話しになったような機械による大量生産の仕組みから個人の知的イノベーションが重要なので、有名な海外の本にありますが、大企業の中でずっと机を並べて、みんなが集中して働いている中からいいアイディアなんか出てくるかというのは、やはり重要なポイントだと思うのです。どうしても左から右にいくので、そこが出てくると思うのです。

 もう1つは、仰っているような大企業が提供できる安心みたいなものも、これだけ変化が激しい時代では提供しようにもなかなか難しくなっているという面があるので、この2つがやはり変わっていくと思うのです。

 ただ、そういう中でもみんな不安があるというのは事実で、そこは大内先生が途中でちょっと仰ったと思うのですが。では、個別自営業者がいっぱい出てきた時に、先ほどの契約を簡単にできるとか、保険の提供とか、何かそういう仕組みはインフラとしてあった方が良くて、そういうインフラがないがために、むしろみんなが無理して大企業の方に非効率的に寄っているという部分があるのだろうと思うのです。そこは、やはり改善のポイントだと思います。

 それから、先ほどのコミュニティの話は私はとても大事だと思っていて、本来であれば、地域とか、あるいは教会とかが海外だとコミュニティの帰属先になるのですが、日本はないとすると、これは残してあげた方が良いと思います。大企業は、契約関係は実は独立なのです。でも、うちのコミュニティですよとコミュニティ安心感提供業をやればいいのだろうと思っています。

 

○大内氏 

企業のOB会という感じですね。

 

○柳川事務局長 

そうなんです。だから、今で言うと元リクとか、何かそういう発想のものです。

 これが多分、青野さんのところもそうで、実は会社を離れていたり、また戻ってきたり、出入りしているのだけれども、何かコミュニティのグループがあって、それを提供すること自体が日本の社会の中では今のところは大事で、そういうことをもう少し考えることが必要だと思います。

 

○大内氏 

一人でやっていく上において、やはり何か安心感を与えるためなのでしょうね。契約をきちんと書いたり読んだりすることができるというのは一人で自営でやっていくための安心感ですし、保険ですよね。今日、前半でも話があったと思いますが、自営業は失業しても何もないとか、社会保険でも、どうしても雇用労働者が優遇になっているというようなところ、あるいは労災保険もそうですよね。そういうところが不安になるのだろう。そこのところを全部、労働者と同じ扱いにしなければならないということはないと思うのですが、セーフティネットをきちんと張るということはとても重要なことです。1つは、先ほど私が申し上げたように、本人の力を付けるような教育をしていくというのも、ある種セーフティネットだと思うのですが、やはり実際に仕事をしていく上においての最低限の保障がなければ、それはやはり、人間、大変だろうと。

 私が知りたいのは、私は一応大学に雇われている労働者ですが、実際には自営的な要素が強いので、こういう会合の場を通して、具体的に自営的就労者はどういうものを求めているのかというニーズを知りたいと思っています。そのニーズを知った上で、それに対応する政策をどこまで、どうやって取るかを検討していくことが必要だと考えています。いまはまだ思い付きで書いているだけなので、これを今後はやっていっていただければと思うところです。

 

○山川氏 

コメントですが、安心だけを求めて企業にみんなが集まってくると、多分、あまり競争上は良くないのではないかと思います。そうすると、企業価値を高めるがゆえに企業として存在できるといいますか、その点でコマツさんの話はその点では非常に示唆的だったと思います。そういう意味での企業価値を高めるために組織を作っていくといった視点も、例えば懇談会の中では必要かなと思いました。

 

○金丸座長 

どうもありがとうございました。

 

○中野氏 

ニーズの中の1つに、口頭では仰ったのですが、やはり教育とか訓練というのは非常に大きいと思います。私自身も従属性から解放された1人です。でも、今クラウドソーシングなどで活躍できている人は、過去に正社員の立場で学んだことを生かしているケースが結構あると思います。企業内の育成が今後どうなっていくのか。もしそこが、企業は育てることはしないで即戦力だけ欲しいというようになったら、一体誰が育てるのかという観点も必要かなと思いました。

 

○大内氏 

答えにくい質問なのですが、逆に言うと、日本の企業の正社員の育成力はすさまじく高かったのだろうと思うのです。それは世界でも有数のもので高く評価すべきなのですが、段々、企業は教育できなくなってきているのではないかという認識があります。そうすると、誰が教育するかというのは大問題で、「大学、頑張れよ」と言われてもちょっと大変なのですが、結局、学校教育がもっと職業オリエンテッドでやっていくしかないと思うのです。大学に入るまでの初等・中等教育の目的は、やはりある程度職業人を養成、これはドイツ的な発想なのですが、そういう発想をもつべきではないかと思います。全面的に職業人志向でやるというのはどうかという問題はありますが、もっと職業を意識した教育をやっていくことが重要で、とにかく企業に技能育成の責任を、これまでおんぶに抱っこだったのですが、それを期待した政策ではいけないだろうとは思っています。

 

○金丸座長 

ありがとうざいます。お時間になってしまったのですが。今日は前半、コマツの浦野さんのお話をお伺いして、やはりコマツはいい会社だなと、経営者の私としては、まず、離職率年0.7%にびっくりして、一方で、私がコマツに入っていたらどうしたのだろうと思うと、この育成のところ、30代半ばか40歳過ぎで課長というのを見ると、やはり私は向いていなかったのではないかなと。そうすると、私は私なりの人生で良かったのかなと思いますし、コマツさんはコマツさんでダントツ経営をなさっておられて良かったのではないかと思います。だから、そういう意味では相当個人の資質とか選択肢は多様になっているということだと思うのです。多分、冨山さんもコマツに入っていたらすぐ辞めていたのではないかと思います。

 後半は大内さんのプレゼンを聞きまして、冨山さんが仰ったとおり、私は全く違和感なく、やはり世の中で異端と言われている人同士は別に異端とはお互いに思わないものだなと思って主張をお聞きしていました。私たちのビジネスが、先ほど出てきた絵の中だと新しいタイプで、従属関係の本当に希薄化した組織で、人材の流動性は業界全体で高くて、みんな仁義なき引き抜きとなっていますが、多分、コマツさんの所属されている機械業界では仁義なきヘッドハンティングというのはお互いにあまりないのではないかと思います。我々の方は油断も隙もない、しかも、ネットを使ってアクセスするということなので、人材の流動性が高まる環境の中でいかにそれを阻止するかということで、偉そうな経営はできない、経営者はそれほど偉くないという、そんな組織なので、労働者を使い倒すみたいな世界とは全く違うという、そんな分野がこれからは実は伸びてくるのではないかと思います。

 そういう中で、これから終盤に差し掛かってまいりまして、今日、大内さんのプレゼンをお聞きして、次回、本当は今日来ていただければ一番良かったのですが、御手洗さんのプレゼンを聞かせていただきます。その後は、懇談会のまとめに入るというフェーズを迎えますので、引き続き皆さんも、論点整理とかまとめていく点において是非御協力をお願いしたいと思います。

 それでは次回の御連絡を、鈴木さん、お願いします。

 

○鈴木労働政策担当参事官 

次回につきましては、426()1630分から1830分、場所は本日と同じ、こちらの第14会議室で行わせていただきたいと思います。詳細につきましては、また別途御案内させていただきます。

 それから、前回からこの青いファイルを置いておりますが、これは本日の資料を差し込んで、また次回置いておきますので、このまま置いてお帰りいただきたいと思います。

 

○金丸座長 

本日も皆さんの熱心な議論を頂きまして、ありがとうございました。

 

 


(了)

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