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2016年3月18日 第3回組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策検討会

○日時

平成28年3月18日(金)10:00~12:00


○場所

厚生労働省 専用第12会議室(12階)
(千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)


○議題

(1)ヒアリング調査結果について
(2)講ずべき方策に関するとりまとめ(たたき台)について
(3)その他

○議事

 

○鎌田座長 皆さん既にお集まりのようですので、若干早いのですが、これから開始したいと思います。ただいまから、第3回組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策検討会を開催いたします。御多忙のところお集まりいただき、ありがとうございます。議事に入る前に、事務局から委員の出欠状況等について報告を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。

○政策担当参事官室係長 本日は皆様、全員出席していただいております。なお、本日は議題1、ヒアリング調査結果の関係で、ヒアリング調査を実施した労働政策研究・研修機構の呉主任研究員が質疑応答のため着席しておりますので、御承知置きください。以上です。

○鎌田座長 早速、議事に入ります。初めにヒアリング調査結果について、事務局から資料1について御報告をお願いいたします。なお、質疑応答の参考とするため、各委員のお手元には今回ヒアリングした事例のうち、複数社の概要等があります。これらの資料については、個別企業の特定がなされる可能性もあるため、非公開資料としておりますので、御了承ください。それでは、説明をお願いいたします。

○労政担当参事官 資料1です。これは組織再編に伴う労働関係上の諸問題について、前回の検討会で報告したアンケート調査と併せて、JILPTにおいてヒアリング調査を行った、その概要です。緊急に実施したもので、速報的な報告にはなっておりますが、特徴と思われるものなどについて報告いたします。

 1(ローマ数字)、2の調査対象と抽出方法です。ヒアリングの対象は企業9社、労働組合18組合です。前回のアンケート調査に回答したところの一部のほか、それ以外の企業、組合にも若干聞いているということがあります。それぞれ任意の協力を頂けた所にお願いしていますので、基本的には会社と労働組合は同一の会社の組合と会社というケースはほとんどありません。2ケースだけありますが、ほとんど重なっていないという状況です。また、括弧にありますとおり、会社分割、事業譲渡等の状況について聞いてはおりますが、1つの組織再編事例において、会社分割や事業譲渡、合併等の類型が組み合わさって行われているものが多いので、会社分割何件、事業譲渡何件という形の類型がなかなか示しにくいことを御容赦いただければと思います。

 補足しますと、会社の規模としては100名未満の企業から最大10万人以上規模の企業まで、規模は多岐にわたっております。初めに申しましたが、ヒアリングということで依頼を申し上げて協力を頂けたことで、初めてこのような結果が明らかになるということがありますので、あくまでも協力頂ける範囲ということを御承知頂ければいいかと思います。

 以下、2(ローマ数字)の所で詳細な網羅的なものではないのですが、会社、労働組合に聞いたもののうち、かいつまんで概要を説明いたします。混在して恐縮ですが、会社に聞いたもの、組合に聞いたものを説明いたします。2(ローマ数字)のはじめにあるA、会社分割のケースの例です。企業組織再編の目的ですが、これはアンケート調査でもありましたが、不採算部門の切り離し、他社との統合による競争力確保、2ポツ目、3ポツ目にあるような成長可能性のある事業の専業化等の目的、最後のポツにあるような低付加価値から高付加価値化へのシフト等の目的が挙げられました。

 2ですが、労働者の理解と協力。労働契約承継法でいうと7条措置に該当する取組についてどうかということですが、7条措置の進め方は「措置なし」という所もありましたし、「単発の協議、短期間の協議、長期にわたる協議、事実上の同意を得ている事例」と、いろいろ違いがありました。7条措置の内容ということでも企業ごとに違いがありまして、「協議して組合員に情報提供のみ」という所とか、「組合員に情報提供とともに意見を吸い上げて会社方針承認」、組合の中で「組合員説得」という所もありますが、そういう例などいろいろありまして、こうしたことは組合がない企業、少数組合の企業、過半数組合、組合が過半数を占めている企業などにより多様でした。

 3の労働者個人との協議、5条協議ですが、「業務上の説明にすぎないと捉えられる」、業務の説明の一環として労働者が受け止めているケースもあったようですが、いずれにしても何らかの個人面談の形で行われたケースが多いようでした。

 4の労働契約・労働条件の承継後の雇用です。補足させていただきますと、会社分割ですので、基本的にはそのときは承継されるのですが、承継後の労働条件の調整や雇用について、()()で特徴的だった例を書いております。労使で事前に協議をして、労使でまとめる、取り交わすような合意文書等の内容をお聞きしますと、承継後の労働条件については期間を明記せずに、相手企業との労働条件統合は必要なのですが、1年ぐらいかかるだろうとか、そういう形で時間を掛けて労働条件を統合するという話を労使でしている所が多いということです。なお、承継後、数年たって賃下げをした例もあったようです。雇用は承継後も引き続き雇用されるというのが基本ということではありますが、承継した後に希望退職が行われた例もあったようです。

 5の承継法の意義というのは、労使に労働契約承継法という法律の意義について尋ねたところ、その意義は認めているというのがうかがえる。「労働者が守られる」とか、「再編が円滑にできる」ということで、労働契約が確実に承継され、しかも包括的に承継できるということですが、そういうメリットは認めているけれども、それはうまくいくというものの背景には信頼に基づく良好な労使関係があるということを言っており、労使の方の中には、信頼関係がなく濫用的に活用されたらそうはいかないという率直な御意見もあったようです。こういうことを捉えた課題としては、やはり5条協議などの措置の実効性の向上とか、良好な労使関係とか、その重要性についての認識を高める必要があるのではないかというのが、課題としてヒアリングから浮かび上がっていると思います。承継後の雇用、労働条件の変化という実態もありました。

 事業譲渡・分社化のほうです。目的は「意思決定の迅速化」、「機動的な事業運営」、「間接部門の削減」等々の例があったり、先ほど言った不採算部門の切り離し、本社間の方針等、様々なものがありました。事業譲渡の実態ですが、補足して説明いたします。会社分割の場合に比べて、全般的に会社の経営状況等が厳しいケースで使われているようだ、というのが感触として感じております。補足しますと、労使間で何らかの協議なりやり取りは行われてはいるのですが、経営側から事業譲渡により事業が継続される、雇用が継続されるということで、意義が説明され、それについては労使間で一定の協議がされているようです。労働条件の引下げ、雇用減の例も見られたということです。そういうことで、労使間協議における経営状態とか、労働条件を開示することなど、労使協議の促進の重要性が事業譲渡のヒアリングからも浮かび上がってきた、労使の御意見などを踏まえるとそういう課題がうかがえたということです。大変簡単ですが、以上です。何か御疑問等あれば、質問等で対応させていただきます。以上です。

○鎌田座長 ただいまの御報告について、御意見、御質問がありましたらお願いいたします。呉研究員がいらしておりますので、呉研究員への御質問、御意見も、もしおありでしたらお願いしたいと思います。どうぞ自由にお願いいたします。

○鈴木委員 まず始めに大変短い中で調査された呉先生はじめ、関係者の皆様に敬意を表したいと思います。何点か質問させていただきます。会社分割のケースで、組合が労働協約だけではなくて、団体交渉を行ったようなケースがあったかどうかというのが1点目です。2点目が1ページ目の下から4行目に7条措置の進め方、「措置なし」という所もあったということですが、これは5条協議もされなかったようなケースであるのかどうかというのが2点目です。3点目ですが、2ページ目の3ポツの5条協議に関して何らかの個人面談が行われているケースがあるということで、いろいろとパターンがあるような書きぶりですが、具体的にどういうパターンがあるのかということをお教えいただけないでしょうか。

○鎌田座長 呉研究員に対してということですね。

○鈴木委員 はい。

○鎌田座長 よろしくお願いします。

○呉主任研究員 御質問ありがとうございます。1番ですが、団交は労使が取り決めるテーマであり、項目であり、例えば組合がスト権委譲を投票して、それをもらって行うものが団交であるというように申し上げますと、そういうものはありませんでした。しかし、事実上、労働組合の同意を得て行う労使関係であるということから見ますと、同意そのものをもらわないと承継法に対する組合の理解と協力を得られないのだという考え方で同意を得る、そういう会社もありました。

 2つ目ですが、7条「措置なし」という所、これはちょっと特殊なことがあるのですが、承継は1日だけだったのです。その次にまた子会社とほかの会社との統合がありましたので、いわゆる親会社から子会社に承継されるの1日だけだったわけです。ですので、対象者も15人ということで、それほど協議などをする状況ではなく、多分、個別同意、いわゆる5条協議もなされていなかったと思います。しかし、これはある面では譲渡のような感じで、子会社に行って、また他社との統合で、労働条件の引下げ分については何年間、補填をしたということで、形式上は承継ですが、事実上、譲渡みたいな事案でした。

 3つ目ですが、何らかの個人面談が行われているケースが多いということです。この法律上、協議とは何ぞやということにかかわることだと思いますが、5条協議を実際、会社が行っている実態を見てみますと、説明にとどまることがほとんどです。これは業務上の説明というように、労働者は受け止めているのです。上司、あるいは人事部が説明するので、これはもう業務上のものとして受け止めているので、自分の自由な意思というものはなかなか言えない状況ではないかと。ただし、組合があれば、こういう個人面談で労働者が何を言っても不利益取扱いをしないということを7条措置で会社に確認した場合には、比較的自由意思の下で5条協議が行われる可能性があると考えておりますが、組合がない所、あるいは過半数組合ではない所は、限りなく業務上の説明にすぎないところがほとんどというのが実態だと思います。以上です。

○鈴木委員 最後の所が大変重要なポイントかなと思っているのですが、組合がない所は逆に会社としてそういった不利益な取扱いはしないということを担保していくということで、組合がないことを補っていくことが重要な気がしたのですが、そこはどうでしょうか。

○呉主任研究員 そういう措置があっていいのではないかと思います。

○鈴木委員 ありがとうございます。

○狩谷委員 先ほどの団体交渉まで至るものかどうかという話ですが、A社の実例、これを見ますと、我々の所は大概そうなのですが、普通何か問題が起これば、最初は労使協議でやるよ、労使協議会でやりますよと。それは大体時間内に行われて、賃金が付くときが多いですよね。ところが、いざそれが問題になってくると、団交に切り替えますよということで、そのときはスト権を背景にするときもあるし、しない場合もあると。だから、そういう意味で言うと、団交がある労使協議会のほうは実質上余り関係ないですよね。内容は、そこで労使対等的な形での協議が行われているかどうかということだと思うのです。ABC3社の事例が出ており、A社の実例などは象徴的なのですが、労働組合ときちっと協議があって、しかも同意まで含めて、それに事実上近いような前提で話がなされているというところについては、非常にスムーズに企業再編がなされているのです。そういう意味でいうと、それが一つと。あと、譲渡の問題はまともな事例というのはどうですか。余りないと思うのですよね。譲渡では必ず問題が起こるのです。その辺はいかがですか。

○呉主任研究員 御質問ありがとうございます。手持ち資料ですが、譲渡に関係する事例としてはB社、労働組合事例があります。これを見てみると、日本全体で半導体事業がかなり苦しいということで、企業グループの中核企業が赤字をいろいろ補填しながら、事業運営をしてきたわけですが、やはり苦しいということで、切り離したいということで、切り離したわけです。そのときに、これはいろいろな会社と交渉したわけですが、そういうことで労働契約の包括承継では多分、受け手がいないだろうということで、譲渡であれば引き取りたいということで、譲渡のときの賃下げが平均的に約15%ありました。

 そのときに、譲渡元の会社に労働組合、過半数組合がありましたので、会社側と協議をしたわけですが、一番問題は譲渡先にどういう労働条件なのかということを明確にしてほしいということでしたが、会社側は労使協議の2回目はそれを開示したのです。しかし、これは組合の三役止まり。組合員には開示してはいけないと。交渉が全部終わって、初めて開示されたわけですが、それによって労使協議がなかなかうまくいかないということで、そうであれば組合は実力で臨むしかないということで、スト権を確立して協議を団交に切り替えたわけです。そういう意味で、執行部には譲渡先の企業の労働条件などが開示されて、協議が行われていくのですが、執行部が責任を持って協議をしていく中で、組合員に情報を開示して、その組合員の声を吸い上げて交渉しなければいけないのですが、それが全くなかったということで、スト権を確立して団交までやる。そういう協議を進めたという事例です。

 これは組合があった事例で、組合があった別の事例があるのですが、そこは外資系企業ということもあって、事実上、協議はほとんどなされていないということで、譲渡先のあなたの賃金はこれ、これ、これという、労働条件を示して、書面を配ると。受けるかどうか、あなたが判断してくださいということで、事実上、労使協議がない所がありました。そういう意味で、承継よりは事業譲渡のときの企業、譲渡元の経営状況が非常に厳しいこともあって、労使交渉がなかなかうまくいかない、あるいはもうほとんどしないというところが散見されました。以上です。

○狩谷委員 ありがとうございます。

○村上委員 幾つかお伺いしたいのですが、まず、会社分割の所で、2ページの5の「承継法の意義」の2つ目のポツで、「信頼関係に基づく良好な労使関係があるから」とあり、その関係に基づいて承継法の意義も機能していくのだと指摘されています。この「信頼に基づく良好な労使関係」というのは呉研究員のお言葉かと思うのですが、どういう意味合い、イメージで使われているのでしょうか。おそらく、「良好な労使関係」というのも、人によって使い方が違うと思いますので、それについて教えていただければと思います。また、その次に「濫用的活用の可能性について、労使から指摘があった」とありますが、その点をもう少し具体的に教えていただければと思います。

 事業譲渡・分社化についてですが、2の「事業譲渡の実態」で、「全般的に会社の状況が分割より厳しい状況の時に事業譲渡は行われている」ということも影響していると思いますが、労働条件引下げや雇用減の例も見られるということで、先ほど譲渡のときの賃下げが平均的に約15%という話もありました。こういう中でだからこそ、労使間協議における経営状態や労働条件等の開示が必要だということだと思うのですが、労使協議を促進するのに具体的にどんなことをすればいいのか、何かお考えがあれば教えていただければと思います。

○呉主任研究員 御質問ありがとうございます。信頼に基づく良好な労使関係という内容ですが、ここでお話すると切りがないと思いますので、労使協議をきちんとする、良好な労使関係のためには、1つは会社が労働者の意見をきちんと聞いて経営を行うことが大事であるという経営者の考え方。それは経営者の決断というものが重要であります(社長の決断、Ketsudan)。2つ目は経営情報を全部公開すること(経営情報の公開、Koukai)。3つ目は、できるだけ労働者に権限を委譲すること(権限委譲、Kengenijou)。4つ目は、一般従業員の声であっても、社長は自分の声と等しく受け止める、相互尊重(Songosonchou)。5つ目は、社長が言っていることとやっていることが一致していること。それが明日でもそうだろうという予見可能性という相互信頼(Sougoshinrai)、この5つがあれば、信頼に基づく良好な労使関係であると考えております。私は、それ(3KS)を労使コミュニケーションの経営資源性を発揮する労使コミュニケーションの基本要件と表現しております。これについては、承継法、私の調査の結果から見ますと、この信頼に基づく労使関係ができている所は濫用する可能性が非常に低いのですが、そうでない場合にはその可能性が高いと受け止めております。

 濫用的な活用という中身ですが、例えば先ほど1日だけ承継であると。承継法は承継の後の労働条件、例えば何年までは変えてはいけませんという規定がありませんので、これは会社からもそういう濫用の可能性がありますよと。また、これも会社側からの発言でしたが、企業組織再編の円滑化を図るためには、やはり再編されてすぐ希望退職などをやると、これからは労働者から協力を得ることは難しいのではないかということで、何らかの形として承継されてすぐ希望退職などをするのは好ましくないのではないかということで、濫用的活用の可能性があるとした会社は、自社ではそういうことはまずないとして労働関係の承継を行っている企業です。

 3つ目ですが、何でしたか。

○村上委員 事業譲渡において労使協議を促進する必要があるのではないかという点について、具体的にどんなことが考えられるかということです。

○呉主任研究員 先ほど申し上げましたが、やはり会社が苦しいということで、事業譲渡することがあり得るわけですが、限りなく労働条件が下がるわけですね。どのぐらい下がるのかと。また、賃金だけではなくて、いろいろな手当もいっぱいありまして、そういうものが譲渡先に実態がどうなっているのかということを、譲渡元の労働者が正確に分かると、譲渡の際に譲渡元の会社と、例えば賃金が下がるから補填を幾らしてくださいとか、そういう協議がうまくできるわけですね。しかし、会社が譲渡先の情報を出してくれないと。これは会社の問題だけではなくて、譲渡先がそういうものを出してはいけないと、そういう縛りみたいなものがあったのかどうか分かりませんが、組合に聞く限りそういうことがあるのではないかと言われたわけです。

 そういう意味で、個々人が自分の行き先をきちんと判断する、公正に冷静に判断できるような材料を提供された上、会社との譲渡に関する協議をすることが望ましいと思っております。そういう意味で譲渡先もきちんと労働条件などの情報を提供することが望ましいのではないかと考えております。以上です。

○田坂委員 先ほどB社の事例ということで、概要を御説明いただいたのですが、御説明だけを聞いておりますと、その事例はちょっとひどい事業譲渡の例であるなと私も聞いていたところです。今回ヒアリングの対象は会社側が9社、組合側が18組合という、若干こじんまりとした母数の中でのヒアリングということになっておりますが、特に事業譲渡の場合、頂いた報告書を拝見すると、会社の経営が厳しい、そういった局面で行われている例が多いと。であるが故に、労働条件面の切下げ等々もあったということでの御報告を頂いているわけですが、本当に事業譲渡の事例は、「これはひどい」と顔をしかめるような例ばかりなのか。その辺はどういう印象を持たれているのかというのが1つです。

 厳しい状況下にある会社を維持・存続させるための方策として、事業譲渡というスキームを選んでいるケースにおいて、何らかの労働条件の変更、これはやむを得ないという中でなされた条件提示等ではないかと想像するわけですが、そんな中で十分な情報提供がなかった、あるいは十分な納得感がないのに、先ほどの外資系の例ではないですが、異議を申し立てる、あるいは質問を提起するチャンスも与えられることなく、納得を強制的にさせられた、そんなケースばかりなのか。その辺のヒアリングされての実態をちょっとお聞きできればと思います。

○呉主任研究員 ありがとうございます。まず、こういう25事例の調査ができましたが、正直言って、問題が深刻な所は協力してくれません。これは個人的なつながりなどがあって、ようやく協力いただいたところがありますので、私はアンケート調査などもやりますが、基本的に問題がある所はアンケート調査にも協力してくれません。今回アンケート調査に回答した企業、組合、5事例にヒアリングをいたしましたが、それもほぼ問題がない所です。したがって、私どもの調査研究の対象になっている所は、全般的に見れば限りなく問題が少ない所ということです。

 それとこの事例調査で書かせていただきましたが、これもものすごく大変なことで、例えば今日、皆さんの参考資料としてこれを出すに当たりまして、協力してくれた所からものすごく厳しいチェックがあるのです。ですので、私どもの調査研究の成果物だけ見ると、ひどい所もあるのですが、そんなにひどくないのではないかと思っても、実はもっとひどい状況があるということは言えると思います。そういう意味で、私どもは力がないもので、相手の協力あってできる仕事で、権限がない私どもが果たしてどれぐらい満遍なく公正に調査ができるかというところに、忸怩たる思いがあります。

 2つ目ですが、情報提供しない、納得されないという中で事業譲渡が行われているということですが、おっしゃったように、やはり事業譲渡しなければ会社全体が潰れてしまうという危険性ももちろんあるのです。これについては、労働組合も、だから譲渡しないでほしいとは言わないわけです。これは組合も了承するわけですが、譲渡される側の不利益を最大限和らげて、対象者が納得までいかないのですが、これはやむを得ないなという思いを持って、それに譲渡される関係を作るためには、私は本当に信頼に基づく良好な労使関係があれば、問題なく譲渡ができると思いますが、そうでない所は一方的に労働者が不利益取扱いをされるということが行われる可能性が非常に高いのではないかと思いまして、法律でどう明記すべきか知りませんが、事業譲渡、あるいは承継も企業が行うのはいいのですが、問題を起こす可能性のある所にそれを起こさない手立てをする必要があるのではないかと。そういう意味で、私は信頼に基づく良好な労使関係というものの基準を決めて、例えば組合がある所は何点とか、そういう数値化をして、60%以上であれば法律で余りギシギシ言う必要はないと。しかし、そういう指数が低い所は、行政に届出をして、行政の監督の下でやるとか、そういう形で労使関係の信頼性に応じて、再編もできるような仕組みを導入するのが、これから日本企業の競争力強化、また労使関係の信頼を高める上で、非常に必要ではないかと感じました。以上です。

○田坂委員 ヒアリングの背景は分かりましたので、ありがとうございました。

○狩谷委員 2点私の聞きたかったことを今、おっしゃったのですが、問題が起こるのは譲渡なのです。ヒアリングに応じる所は氷山の一角で、ここに出てきているヒアリング結果は非常に良い所なのですよね。あるいは、ましな所なのですよね。普通の実態の所はなかなか出てこないのです。これをちょっと言いたかったのです。それと、その良い所でも、ましな所でも譲渡の問題になるとそうでもないと。やはり労使関係の本質的なところは、譲渡の際に出てきているのです。B社の事例などを見たら端的に分かるのですが、一つは譲渡のときに譲受会社ですね。この譲受会社の労働条件は先ほどおっしゃいましたが、それだけではなしに、例えばこれからどうなるかという自分の運命を探ろうと思えば、譲受会社の経営状況も知らなければいけないわけです。数字的にどうなっているのか、展望としてどうなるのか、こういう情報を含めて、きちっと協議されている所がどれだけあるのかということなのです。

 もう一つは、先ほどありましたように、事業譲渡の場合は大概譲渡会社が経営上しんどいのです。その時譲受会社が助けに入ってくるわけです。となると、そこの労働者は非常に立場が弱いのです。否応なしに承諾しないとしょうがないという状況が、圧倒的に多いのです。譲渡について、10件以上、私が仕掛けたこともあるし、仕掛けられたこともありますが、仕掛けられた譲渡はろくなものがなかった。そういうことで、譲渡というのは非常に大きな問題をはらんでいるのです。その一端がここに出ていると思うのです。そういうことで、事業譲渡でそういったましな事例が1つでもあったのかどうか、教えていただけますか。

○呉主任研究員 今回のヒアリングを行った事業譲渡の例ではありませんでした。

○労政担当参事官 今、呉研究員が話しましたとおり、今回は任意に依頼に応じてくださった所にやっていますので、対象企業のバランスが取れているかというと、それは難しいと思います。会社分割と事業譲渡もそれぞれ状況が違うと思いますが、ヒアリングは実態としてはこうだというのが正直なところです。議論に当たりましては、ヒアリングの調査と前回説明したアンケート調査を併せて見ていただくのがよろしいかと思います。アンケートも同じように答えていただいた所だけなので、良い所ばかりなのかもしれないのですが、事業譲渡のほうが会社分割よりもやや問題というのでしょうか、多少、労働者にとって厳しかった例が多いというのは事実だと思いますが、そこも含めて見ていただければと思います。

○鈴木委員 呉先生のお話によりますと、問題のない事業譲渡はないとの趣旨の御発言がありましたが、問題のある事業譲渡かどうかは、正確に議論しないといけないと思っております。経営が厳しいとなると、組織再編をする、しないにかかわらず、何らか労働条件の変更について、組合側に協力を頂くという場面も当然でてくる可能性があります。将来的な企業の存続とか、将来的な雇用などを様々な事情を総合勘案して、事業譲渡がベストだろうということで、経営者が考えることも多いと思っています。そのときに、事業譲渡で何が重要なのかというと、しっかりと情報を提供しながら、同意が任意でされているかどうかと考えます。問題のない事業譲渡がないというのは、正に形式的で質問も受けずに、情報も提供せずに、サインしろと、そのようなケースだけしかないという理解でいいのか確認したいと思います。

○呉主任研究員 たまたまかもしれませんが、外資系企業はそういう色彩が強いですね。もうペーパーで書面で、譲渡先の労働条件を書いて、「あなたこれを受けるかどうか、判断してください」というのが外資系企業で見られた事例でありますが、おっしゃったように事業譲渡は会社の経営が非常に厳しい中で行われることですので、私はもっと労使の話合いが必要だと思うのです。労使関係の研究をする人の中には、労使関係は対立的だと考える人が多いのですが、理論的文脈で見れば、私は会社以上に労働組合が会社のことを考えていると思うのです。

 そういう意味で、ざっくばらんに全て情報を出して話合いをすれば、事業譲渡も円満に解決していくと思うのです。しかし、何か労使の壁があって、自分が突かれることは情報を出さないとか、そういうことで、労使交渉がうまくいかないところもあるかと思います。そういう意味で、何事も情報を出し合って、信頼に基づく労使関係の下で協議し尽くせば、私は事業譲渡もうまくいくケースがあるのではないかと思いますが、今まで見た感じではそういう典型的に良い例はありませんでした。以上です。

○鈴木委員 外資系企業の協議は、法律要件とは別としても労使協議の実態として問題があるという理解でよろしいですか。

○呉主任研究員 私の場合、私自身がヒアリングした譲渡の典型的な事例は外資系企業2社でしたので、典型的な日本企業の譲渡は私の調査対象ではありませんでした。それと協議が行われているかどうかということですが、良い事例ですと、これももともとは譲渡先が日本企業だったのですが、どんどん外資を受け入れて、今100%、外資系企業になっているわけですが、そこも譲渡先が情報は出してくれたのですが、執行部が組合員まで出して、組合員の意見を聞こうとしましたら、それはできないということで、協議はありましたが、組合から見ると組合員の素直な声を踏まえた協議はできないという状況でした。以上です。

○荒木委員 貴重な御報告、ありがとうございます。ちょっと確認なのですが、今の事業譲渡の事例で、事業承継を試みたけれども買い手が現れなかったので、事業譲渡を選択したというような説明だったと思うのですが、最初、事業承継として試みられたというのは何ですか。会社分割を試みたということですか。

○呉主任研究員 はい。

○荒木委員 なるほど。分かりました。そうしますと、会社分割でやろうとすると、労働条件はそのまま承継するということになる。これを試みたけれども、買い手が現れなかった。そこで事業譲渡をやったということですね。今日の御報告の中で、インプリケーションとして譲渡に対する規制を考える必要があるのではないかということですが、お話をお聞きしておりますと、労働条件をそのままに承継しろということでは、もともと分割では買手が現れなかったわけですから、御報告の趣旨は、労働条件を全ての場合に維持すべきだということではなくて、労使でよく話し合って、労働条件が下がったとしても雇用を維持するという選択もありうる、これを労使ともに納得した上でスムーズに事業譲渡ができるようにする。そういう方向を目指すのがよいと。そういうインプリケーションかとお聞きしたのですが、そういう理解でよろしいでしょうか。

○呉主任研究員 おっしゃるとおりでございます。

○鎌田座長 まだ御質問はあろうかと思いますが、次の報告書のほうの議論に進みたいと思いますので、ヒアリング調査等についてはこの程度にしたいと思います。呉主任研究員におかれましては、貴重な調査、御報告を頂き誠にありがとうございました。

 それでは、次に前回の最後に申し上げたとおり、今回は事務局から報告書の案と今後講ずべき措置等を盛り込んだ承継法施行規則・指針の改正イメージの新旧対照表等を提出してもらっておりますので、資料2から資料6について、事務局から説明をお願いいたします。

○労政担当参事官 資料2以降を御覧ください。「組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策について(報告)(素案)」をまとめております。資料の構成を御説明しますと、報告書の本体ですとか文章が資料2であり、それに添付している施行規則改正以下の各改正や指針の策定イメージが資料3、4、5、6です。それらがセットですが、順次御説明いたします。

 資料2に戻っていただき、文章を御説明いたします。1パラ目は経緯を書いており、会社分割、事業譲渡といった組織の変動に伴う労働関係については、ということで、承継法を制定する等の対応がなされてきたこと。その後、会社法等の法整備、組織の変動に係る裁判例の蓄積などの状況を踏まえて、平成2612月から学識経験者の研究会において諸課題の整理、対応を行う必要性の検討が行われて報告書をまとめるなどという事実を書いております。

 次のパラですけれども、この検討会においては労働法等の専門家、労使関係者の参画を得て、1月25日以降、先の研究会報告書も参考としつつ、実効ある政策を実施していくために必要な対応方策を議論・検討してきたところですが、今般、以下のように取りまとまったため報告すると書いてあります。

 次の固まりは、総論的な趣旨を書いており、1パラ目ですが、会社分割、事業譲渡といった組織の変動は事業の選択と集中、事業効率性の向上などを通して、企業価値の向上やグローバル化に対応するなどの戦略的な観点からなされるものである一方、労働者にとっては、雇用や労働条件の変更など、それに伴い被る影響は小さくない。

 他方、会社法等の法整備の状況、裁判例の蓄積なども踏まえて、一定の対処が必要な事項も生じていることなどから、労働者の保護と円滑な組織再編とのバランスを図るため、実効ある政策を実施することとし、承継法の施行規則、承継法の指針の改正と事業譲渡、合併に関する新たな指針の策定等によって、下記の事項を講ずることが適当であると書いてあります。

 1枚目の最後のパラですが、労使関係のことを書いており、今回の措置が使用者、労働者等に十分に周知されて、労使協議や相互理解が促進されて労働者の保護と円滑な組織再編とがともに図られることを期待すると書いております。労働者保護と円滑な組織再編のバランスというのは、度重なるこの議論の中で、かなり皆様の認識が醸成された部分かと思いますので書かせていただいております。

 2ページ目です。「記」書き以下で具体的な措置について書いております。記の1が会社分割についての措置です。会社分割については、承継法や施行規で手続等が定められているけれども、会社法等の法整備の状況、裁判例の蓄積等も踏まえると、労働者保護の観点から対処が必要な事項も生じていること等から、施行規則、指針の改正等により、措置を講ずることが適当。具体的には()以下で書いております。

 前回の御議論等も踏まえて書いてありますが、()は、まずイで主従事労働者の判断基準は、労働者保護の観点から、引き続き「事業」単位で判断することとし、併せて「事業」の考え方を明らかにすると書いております。これは会社法制定により、会社分割の対象は「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」とされた一方で、承継法上の主従事労働者の判断基準は、引き続き「事業」単位という趣旨で書いております。

 ロは5条協議、個別協議の対象に、今、対象となっていない承継される不従事労働者、事業に従事していないけれども承継されるとされた労働者を加えることを書いております。

 ハは、会社法制定で、「債務の履行の見込みがあること」が事前開示事項でなくなり、債務の見込みがない場合もあり得るとされることとなったことに伴う対応ですが、7条措置、5条協議で債務の履行の見込みを説明し、理解を得ることについての周知を書いております。

 ニは、その債務の履行の見込みのない分割に伴い、不採算事業とともに労働者の承継等の事態が生じ得ることを踏まえて、会社制度の濫用の場合には法人格否認の法理の適用があり得る等のことについての周知、紹介を書いております。

 (2)が5条協議の法的意義です。これは、IBM事件の最高裁判決で示された5条協議が全くないか、著しく不十分等々の場合の労働契約承継の効力を争えるということについての周知です。(3)は転籍合意により労働契約を移転する場合ということで、承継、分割契約等に労働契約を定めずに転籍で移転するという転籍合意の場合でも承継法の手続は省略できないこと等の周知と、労働者に通知するとしている事項に、会社分割による労働契約の承継の場合には労働条件がそのまま維持されるということも含めるということを書いております。(4)は労使間の協議等に関する留意事項です。個別の協議である5条協議、労働者全体の理解と協力を得る7条措置に関する様々な周知とともに、団交権や団体交渉に応ずべき使用者に関する裁判例等の考え方についての周知・紹介を書いております。ロは、現行も法律・指針で定められることがありますけれども、徹底されていないという意見もありました労働協約の承継の取扱いや、異議申出に対する不利益取扱いはしてはならないことの周知を書いております。

 2が事業譲渡等です。趣旨書きですけれども、労働者の同意が必要とされているものですが、労働者保護のための固有の法的措置はありません。しかしながら、労働者の雇用や労働条件に大きな影響を与える場合もあり、労使協議が一定程度行われていると認められるものの紛争も生じている。そうした事例については、一部は裁判等で事後的に個々の解決がなされている現状にありますが、そうした中、個人の同意の実質性を担保し、また現場の労使間での納得性を高めるための労使間の自主的なコミュニケーション促進のため、留意すべき事項に関するルールを整備する必要があると書いております。このため、現行の通知等の内容も参考にしながら、新たな指針を策定するということを書いております。

 まずは事業譲渡、イは労働者個人との手続ですが、○1個別の同意が法律上必要であるとされていることに併せて、事業譲渡に関する全体の状況や譲受会社等の概要等を十分に説明する。その同意に当たって説明する必要があること、労働条件の変更の同意が必要であること等が書いてあります。○2は解雇について、承継への不同意のみで解雇が可能にならないなど、解雇権濫用法理等を踏まえた留意事項ということです。○3は労働組合に対する不利益取扱い等を行ってはならないこととか、裁判例において個別の事案に即した救済状況の留意、周知ということを書いております

 ロが、労働組合等との集団的手続等です。○1が過半数組合等との協議の方法によって、労働者の理解と協力を得ることに努める。その際には、事業譲渡の背景・理由、債務の履行の見込み等を対象として掲げることを書いております。○2は先ほどの承継法と同じであり、団交権や使用者に関する裁判例等の考え方等にとっての周知を書いております。

 (2)は合併ですが、合併は包括承継であることから、そのため労働条件もそのまま維持されるということの周知を書いております。

 資料3以降ですが、少し雑駁ですけれども御説明します。資料3以降は今、講ずるべき措置を施行規則等の措置に移して書いたものです。資料3が承継法の施行規則であり、先ほどありました、1の(3)の転籍合意の際に、会社分割による承継であれば労働条件が維持されるということを通知事項に入れるという改正事項を反映したものです。詳細は省略します。それを省令の中に書き込むのが、資料3です。

 資料4を御覧ください。指針の改正です。先ほどの省令改正、指針改正にわたってのお断りですけれども、講ずべき措置を省令指針で反映するために事務局で作業した案ですが、法規的なものでもありますので、今後法技術的な修正は、省内の審査等を通じてさせていただくこともあるかと思いますので、現時点ではイメージということで見ていただければと思います。一応コンテンツとしては入れるべき事項と思うことは書いております。

 第2の2は、承継法の中で労働契約の承継に関する項目ですが、(3)が主従事労働者の範囲に関する部分です。その冒頭に、先ほどの報告書のはじめに挙げた事業単位で判断するという主従事労働者の考えを書き込むものです。事業単位で判断することと、事業の解釈に当たっては、労働者保護の趣旨も踏まえながら、一体的な財産として機能する財産であることを基本とするという考え方を書いております。

 次の2ページを御覧ください。前半の始めの前ページ(ロ)から続く部分は、労働契約法の制定を踏まえた労働条件変更法理の記述のリヴァイズをしております。(ハ)ですが、これはもともと解雇についての留意事項を書いているものでしたが、その後段に債務超過分割の際を想定した記述で、そういう債務超過などの場合も含めて、特定の労働者を解雇する目的で会社制度の濫用等があれば、法人格否認の法理等の適用があり得るという注意喚起をするものです。

 (5)が転籍合意です。これは法律上の手続との関係を整理しております。これは新たに項目を起こして指針の中に書き込もうと思っております。イですが、転籍合意です。これについては主従事労働者について、転籍合意で転籍させる場合には、その主従事労働者に対して留意すべき事項を(イ)以降で書いております。(イ)は法律上の通知、5条協議等の手続は省略できないことです。(ロ)が主従事労働者に説明すべき事項を書いているのですが、分割契約等に定めがある場合、承継法に基づく旨の定めがある場合には、労働条件が維持されるという事実を書いた上で、3ページに行きまして、そうではなく、承継法の定めがない場合には、異議申立権があるということを説明すべき事項として挙げております。

 (ハ)は先ほどの後段の異議申立権が行使された場合には、法律上の効果によって労働条件を維持したまま承継されるということで、その場合には転籍合意は無効になるということが書いてあります。ロが出向の場合です。同じように分割契約ではなく別個に出向で行う場合であっても、手続が必要であるということを書いております。

 4番が、理解と協力ということで7条措置、5条協議について書いている指針の部分です。4の(1)が5条協議の項目ですが、イの初めに不従事労働者で、かつ承継される定めがある労働者も対象とすることを追加で示しております。その次のパラで、5条協議の中で説明する事項として債務の履行の見込みに関する事項を書いております。

 4ページの始めのロの前の数行の追加は、事業単位で判断するということとも関連しまして、権利義務レベルの分割が可能となったことに対応して、権利義務レベルの分割の場合、承継の定めがなければ5条協議の対象にならないわけですけれども、職務等に影響する労働者に対しては説明を行うなどの情報提供が望ましいことなどを書いています。次のハとニは規定の整備で順番を入れ替えただけですので、省略いたします。ヘの最後、2パラ目の追加は、IBM事件の最高裁判決の5条協議の法的効果を記述しているものですので、内容等は省略いたします。

 5ページのハですが、労働組合法上の団体交渉権等ということで、現行も別途の団交申入れは拒否できないということを書いてある部分ではあるのですけれども、その前に団交を行う権利を組合が有することを書いた上で、使用者の判断についての最高裁判例の考え方等に留意することを、判旨を引用する形で書いております。ホですが、会社分割に伴い、不当労働行為責任、使用者の地位が承継会社等に承継されると判断している裁判例、命令がありますので、それに留意するということが書いてあります。承継法指針の改正は以上です。

 資料5を御覧ください。これは事業譲渡の指針です。こちらは新たに定めるので、新たな指針案として、たたき台として書いております。趣旨にありますとおり、会社等が事業の譲渡、合併を行うに当たって、一応目的として4行目に書いてありまして、労働者の承諾、同意のことですが、実質性を担保し、併せて労働者全体及び使用者との間での納得性を高めること等によって、事業譲渡等の円滑な実施、労働者保護に資するよう、留意すべき事項について定めたということです。

 第2が事業譲渡についての留意事項です。この趣旨は、全体として労使でお取り組みいただく際の円滑な譲渡の実施、保護に資するために留意いただくことが適切な事項ということで書いてあります。1が労働者個人の手続で、(1)は現行の通知にもありますが、事業譲渡というものの法的性格からして労働者個人の同意が要ると。民法上は「承諾」という表現ですが、個別の労働者の承諾が要るということを書いております。(2)が承諾を得るに当たっての留意事項であり、イが事前の協議等ということで、承継予定労働者に対して、事業譲渡に関する全体の状況、勤務することになる譲受会社等の概要や労働条件等について十分に説明することが適当であることを書いております。

 2パラ目で、特に労働条件を変更する場合には、その同意の必要があることが書いてあります。ロが代理人ということで、個別の協議ではありますが、労働組合が代理人として選定された場合には、その組合と誠実に協議することを書いております。ハがそれにも関わり、2ページにわたりますが、労働組合が対応をする場合もあり得るということですけれども、団交事項については、別途なされた団交の申入れがあれば、それは拒否できないと、こちらの協議があるからといって拒否できないということを書いております。ニは協議開始時期ということで、十分な協議ができるように時間的余裕をみて行うことが適当だということを書いております。ホは、情報提供に関する事項ということで、意図的に虚偽の情報の説明を行う等の場合には、民法96条に基づく詐欺、強迫に基づく意思表示の取消しがなせることを書いております。

 (3)が解雇に関して留意すべき事項ということで、報告書に書いたとおり、解雇権濫用法理を踏まえたものであり、1パラ目が承継を承諾しなかったことのみを理由とする解雇等は、労働契約法第16条に抵触するような解雇は、権利濫用になるということに留意すべきと書いております。2パラ目は同様に、事業譲渡を理由とする解雇についても、整理解雇に関する法理適用があることも踏まえ、16条の規定により留意すべきことを書いております。3パラ目が解雇権濫用とされる場合には、配置転換を行うなどの雇用関係維持のための措置を講ずる必要があるということを書いております。

 (4)が労働者の選定を行う際に、不当労働行為などの法律の違反を行ってはならないということを書いたとともに、「また」以降の所で、裁判例においても、黙示の合意の認定、法人格否認法理等を用いて、個別の救済がなされていることに留意すべきということを書いております。以上が個別の事項です。

 2が組合との集団的な協議等に関する事項です。(1)が労働組合等との事前の協議等であり、イですが、事業譲渡に当たり、過半数組合又は過半数代表との協議その他、準ずる方法によって理解と協力を得るように努めることが適当であるということで、「その他これに準ずる方法」については、労使対等の立場に立って誠意をもって協議を行うことが確保される場において協議されることが含まれることを書いております。対象事項ですが、事業譲渡の背景、理由や、債務の履行の見込み、承継予定労働者の範囲、労働協約の承継に関する事項などが考えられるということで書いております。ハは団交権の関係で、先ほどと同じように、この手続をもって別途の適法な団交の申入れを拒否できないことが書いてあります。ニの開始時期ですが、個別の承継予定労働者との協議の開始までに開始され、その後も必要に応じて適宜行われることが適当であると書いております。

 (2)は団交に関する留意事項であり、承継法指針と共通しておりますが、労働組合に団交権があるということを書いた上で、使用者の判断に当たっての最高裁の判例の考え方等を書いております。ただ、これについては、下の4行ですが、譲受会社が近接した時期に雇用する可能性が現実的かつ具体的に存する場合ということで、使用者に該当するとされた命令例がありますので、それにも留意するよう注意喚起しております。第3が合併に当たって留意すべき事項で、包括承継であるということと労働条件が維持されることを書いております。資料5は以上です。

 次の資料6ですが、「パンフレット・QA等により周知を行う事項一覧()」とあります。これは指針に書くレベルではないと思われることや、再度徹底すべき事項についてまとめていますが、会社分割であれば債務の履行の見込みについての7条措置、5条協議の対象であることの徹底。あとは、2番目にあるとおり、会社法の詐害的会社分割の残存債権者による請求権の周知。あとは、5条協議及び7条措置の更なる徹底。使用者性に関する裁判例、協約の承継や異議申出に対する不利益取扱いの禁止についての明確な周知等々があるかと思っております。事業譲渡等については、個別に救済された裁判例や使用者性についての裁判例の周知がパンフレット等でできるかと思っております。これらの措置も併せて、いろいろなレベルで対応措置を講ずることは考えられると思い、案を提示しております。

 以上ですが、残りの参考資料1、2は横になっておりますが、承継法の省令指針については、全体の中での位置付けを参考にしていただく場合もあるかと思いまして、改正部分ではない、全文を入れたものとして作っておりますので、適宜、御活用いただければと思います。参考資料3以降は以前の資料ですので、適宜、見ていただければと思います。御説明は以上です。

○鎌田座長 これから、御説明いただいたことに関して、御意見、御質問を頂きたいと思いますが、まず報告書の素案の総論部分と、会社分割、事業譲渡が書かれていて、分割に関しては施行規則、そして指針の改正案、事業譲渡に関しては新たな指針案ということです。そこで、一応分けまして、報告書の素案の総論部分と会社分割に関わる部分について、御質問、御意見を頂いて、その後、事業譲渡の部分について再び御議論いただく。一応このような分け方で進めたいと思います。

 それでは、まず、今申したように、報告書の素案の総論部分と会社分割、それから施行規則、指針の改正部分についての御質問、御意見をお願いいたします。よろしくお願いいたします。

○村上委員 報告書の素案ですけれども、報告書は、検討会においてどのような認識の下で、どのような議論を行ってきたのかということを示す上で、私としてはとても重要なものだと思っております。そういう意味で淡白に、淡々と書くだけではなくて、どのような認識だったのかということは記載していただきたいと思っております。

 その上で、先ほどのヒアリング調査に関する議論もありましたけれども、「良好な労使関係とはどういうことか」という点については、いろいろ意見はあるかもしれませんが、「良好な労使関係がとても大事だ」ということは、恐らくこの検討会の共通認識なのではないかと思っております。今年の経労委報告でも労使コミュニケーションの重要性ということを掲げられて、私どもも同じ認識ですけれども、良好な労使関係があるからこそ円滑な組織再編が進んでいくのだということは、共通の認識ではないかと思っておりますので、その点を入れていただきたいと考えております。

 2つ目は、報告書の1段落目の4行目です。「会社分割に伴う労働関係の承継に関する法律を制定する等の対応がなされてきた」とありますが、私どもとしては、商法改正時に承継法を作ったが、その後は円滑な組織再編を促進する法整備に対応する労働分野の法整備は進んでこなかったということを認識しておりますので、そのことを記載していただけないかと考えております。

 それから、「本検討会では」という所ですが、「組織の変動に係る実効ある政策を実施していくために必要な対応方策」というのは、少し分かりづらい部分がありまして、「組織の変動に係る労働者保護に実効ある政策を実施していくために必要な対応方策」ではないかと考えており、その点、言葉を補っていただけないかと考えております。まだまだ意見はありますけれども、取りあえず1ページ目ということで、御意見申し上げます。

○鈴木委員 ただいまの村上委員の1点目の御発言に対して発言させていただきます。私どもは、おっしゃっていただいたように、良好な労使関係は大変重要だと思っています。ただし、この話は、会社分割について言うと、7条措置、5条協議の実効性を担保するということが、最大の目的だという認識を持っておりますので、先ほど呉先生からも良好な労使関係というのは、5つの条件がマッチしないと、それは良好ではないのではないかというか、私どもからすると、ややハードルが高いような概念を含んだかなり多義的なものです。ある程度こういった法律に基づくような資料ということについては、明確性というのも、やはり一方で考えないといけないと思っておりますので、一切書かないでくれと申し上げるつもりはないのですが、その辺のバランスもちょっとお考えいただきたいと思っているところです。以上です。

○鎌田座長 ありがとうございます。村上委員がおっしゃった、これまでの法制定の経緯や組織変動に係る実効性ある政策に労働者保護という観点を強調したらどうかという御意見もあったのですが、鈴木委員のほうでその点について何かありませんか。今のところはないですか。では後で、もしあれば。

○村上委員 先ほど言葉が足りなかったかもしれませんが、呉研究員がおっしゃった良好な労使関係のための5つの要素を、そのまま報告書に書いていただきたいということではありません。会社分割に限った話ではなく、会社分割、事業譲渡全体を含めたことを1ページ目に書いているかと思いますので、「良好な労使関係が必要である」という労使関係の重要性は共通認識ではないかということで、最後の段落の所だと思いますけれども、書いていただけないかということです。

○鈴木委員 ちょっと法制面の件で、少し重複するかもしれませんが、申し上げたいと思います。今回の報告書については、これまで、やや明確でなかった所、例えば、債務の履行の見込みに関して、しっかりと説明するというような重要な論点が入っております。アンケートに対する評価というのは、いろいろあろうかと思うのですが、私自身としては、会社分割あるいは、その事業譲渡においても、協議、あるいはプロセスにおける納得性というのは、おおむね高いと認識しております。この報告書の内容、すなわち法的な措置ということについては、触れないという原案を支持したいと思います。 

○村上委員 同じ所でありますけれども、「債務の履行の見込み」に関してです。2ページ目の会社分割の(1)ニの辺りかと思いますが、「7条措置及び5条協議で説明し、理解を得ることについて周知を行う」こと自体は否定いたしませんし、必要なことだと思っておりますけれども、これで十分であるとは思えません。「債務履行の見込みがあること」というのは、承継法の制定当時は不採算部門の切り離しのための分割など濫用的な会社分割を防ぐ一つの要件でしたけれども、その要件がなくなったにもかかわらず、承継される主従事労働者には異議申出権がないという状況にあります。これでは、泥舟分割が容認されていて、そこで労働者が同意なく承継せざるを得ないことになりますので、前から申し上げておりますが、承継される主従事労働者に異議申出権をきちんと付与すべきだと考えております。

○鈴木委員 泥舟分割については、第1回目からかなり議論が積み重ねられておりまして、繰り返しになって恐縮なのですが、会社分割については御案内のとおり、債権者保護手続の1つに、債務履行の状況の事前開示というものがあるわけで、当然その債権者というのが自分の債権が会社分割によって、回収の確率が下がるのか上がるのか、かなり敏感に感じ取ると思います。多くの債権者が、これは回収の見込みがないということで、異議申出をすればその段階で弁済あるいは担保の提供ということが求められますので、事実上会社分割ができないような仕組みになると思っておりますし、そのことは結果として労働者保護にもつながっている面があるということを御理解いただきたいと思います。

○鎌田座長 ありがとうございました。そのほか何かありますか。

○村上委員 すみません、報告書以外についてもよいでしょうか。

○鎌田座長 もちろん分割についても構いませんし、指針の改正等についてもお願いいたします。

○村上委員 それでは、資料4の承継法指針新旧対照表の2ページで、労働契約の変更についての合意原則と就業規則の不利益変更について今回触れられておりますけれども、労働協約についても触れておく必要はないのだろうかと考えております。阪神バス事件は、会社分割では労働条件は基本的に承継するということが原則であるところ、ある程度労働協約を不利益変更してしまったということについて、その拘束力を否定した事例ですので、会社分割において労働協約で不利益変更しても、その承継労働者の労働条件を拘束しないということを、この指針にも書いておく必要があるのではないかと考えております。

 また、その続きで2ページの(ロ)で追加された部分ですが、「法人格否認の法理及び公序良俗違反等の法理の適用があり得ることに留意すべき」とありますけれども、その公序良俗違反の後に、不当労働行為についても一言記載を頂けないかと考えております。以上です。

○鎌田座長 事務局で何かコメントありますか。

○労政担当参事官 御意見の趣旨がきちんと理解できていないのかもしれません。1点目なのですが、まず労働協約のことについては、2ページの(ロ)の部分に関して御意見があったのかと思うのですが、もともと労働組合法における労使間の合意ということで、労働協約での労働条件の規律のことも想定しては書いているつもりではあります。ちょっと的外れな回答かもしれませんが、すみません。不当労働行為の話については、ちょっと検討させていただきますが、確かに明らかな法違反でありますが、ここはどちらかというと、実定法の法違反というよりは、裁判所を使われている法的枠組みなどを想定していたので、どのように入れられるかは検討したいと思います。

○鎌田座長 そのほかございますか。なければ事業譲渡、また戻っても結構ですから、事業譲渡のほうに関連して御質問、御意見があればお願いしたいと思います。

○狩谷委員 この指針はたたき台ですけども、まず、事業譲渡について、労働契約の承継に関する基本原則に書かれている民法に基づく個別の承諾以外、根本的な法的枠組みがないということは大きな問題だと、先ほどの事例報告を通じても明らかになってきているのではないかと思うのです。先ほども言いましたように、譲渡会社の労働者というのは非常に立場が弱いのです。追い込まれているのです。そういう状況の中で、では承諾するのかどうかということでやられますと、現場ではどうしてもこの原則は通用しないのです。

 もう一つ、承継予定労働者との事前の協議、これは「適当である」となっていますが、もっと強い言葉にしないとあかんのと違うのかと。私はむしろこれをきちっと法律で規定すべきだと思うのです。譲受会社の状況がどうなっているのか、労働条件について、あるいは、その譲受会社がこれから発展する会社なのか、努力すれば何とかなる会社なのか、こうした情報は事前に伝わらないかんと思うのですね。そういうことで、この「適当である」という言葉は、せめて指針の中で何とかならんのかと思います。

 それから、3ページ目になりますか、団体交渉に関して留意すべき事項ということで、かなり踏み込んで書いていただいています。いわゆる、使用者概念や法人格否認の法理等々、これまでの判例法理を引用しながら、ある程度のところまで書かれているのですが、それに加えて、はっきり譲受会社と団交する権利があると、あるいはその仕組みを作るということが必要だと思うのです。私も、いろいろ手掛けた譲渡、あるいは仕掛けられた譲渡ですが、大体仕掛けられた場合は事前に労働組合と十分協議の上できちっとやれば、労働者の同意を得て譲渡を行うことができます。ただ事前協議というと、企業側は厄介だと取るのですね。事前協議で、この譲渡が企業にとって、あるいは労働者にとって果たして良いものなのかどうなのか。企業にとって、あるいは労働者にとって良いものなのかどうか、こういう議論をかなり詰めてやって、それだったらそれで行こうやということで初めてうまくいくのですよ。先ほどもありましたが、その辺のところの事前の協議が大切になると思います。この点は会社分割も似ているのですけれども、会社分割の場合は部分的包括承継ですから、これは安心できるのですよ。譲渡というのは安心できるものがないのですよ。だから、ここをきちっと法的にフォローしないと、譲渡ではいろいろな問題が起こるということになってくるのです。

 それともう一つ、先ほどの報告の中では出てこなかったのですが、よく起こるのが労働条件とか雇用の問題だけやなしに、いわゆる労働組合、労使協約、労働協約でいうと債務的部分です。労働組合の存在そのものとか、あるいは上部団体の所属とか、こんなことが問題になるのです。先ほどあった報告は数百人規模のレベルの話ですが、例えば我々がよく経験するのは100名前後、あるいはそれ以下のところの譲渡になってくるのですが、労働組合を抜けろと、あるいは上部団体を抜けろということが平気で議論になるのです。あるいは組合を潰せと、潰したら譲受会社が面倒を見ると。こういうことが平然とやられているのですよ。そのようなことを踏まえれば、不当労働行為性があればその譲渡は成立しないのだということぐらいまで、きつい縛りが要るのではないですか。

○鈴木委員 まず、その組合潰しということが実態としてあるということで、真摯に受けとめたいと思うのですけれども、その組合潰しがあったケースで、果たしてこの5条協議というのはされているものでしょうか。狩谷委員にお聞きしたいと思います。

○狩谷委員 組合潰しをやられるところでは5条協議とか呑気な話ではない、話にも何にもならない。

○鈴木委員 そうしますと、今の仕組みでも、5条協議がされてないということであれば、個別救済がされると。それは裁判所のハードルが高いのかもしれませんが、最近は労働審判でも、こういう会社分割の案件も取り扱われているというように聞いておりますので、そこをしっかりと周知をしていくということが、今大切ではないかなというふうに思っています。

○狩谷委員 何回も申し上げましたが、こういうことをやる経営者というのは確信犯なのですよ。不当労働行為というのは、前にも言いましたが、不法行為であろうと違法行為であろうと、やってやり切って、組合をたたき潰せば勝ちなのですよ。法に違反している、あるいは背いているということと関係ないのです。だから、そこをきちっと押さえるためには事前にきちっと協議するのだと、枠組みをきちっと押さえてやらんと、カバーできないのですね。たとえ争うと言っても、何年かかると思いますか。実質役に立たないのです、そんな場合は。だから、きちっとその辺のところを法的なフォローの体制を作らないと、容易には救済には繋がらないということなのです。

○鎌田座長 狩谷委員、一応聞いてくださいね、次々と反応しないで。

○狩谷委員 失礼しました。

○鈴木委員 法的措置について私は反対なのですが、仮に狩谷委員がおっしゃるように、事前の合意を作っても、それは組合潰しをしようという経営者にとっては効果がないというふうに聞こえました。

○狩谷委員 いや、あるのとないのと違います、あるのとないのとでは。

○鈴木委員 それからもう一つ、これも繰返しですけれども、うまくいっている所は同意を取ってやられたと。これはこれで1つ周知をしていくべきケースだというふうに思うのですけれども、やはり労使関係が良好な所ばかりではないということの中で、義務的にその譲受会社に、協議ですとか団交の応諾義務を課すということになると、譲渡会社との信頼関係にもひびが入りかねないということを懸念するということで、私自身は反対ということを繰返し申し上げたいと思います。

○狩谷委員 何回も申し上げますけれども、譲渡がうまくいくためには、あるいは会社の分割も含めてそうですけれども、やはり労使の協議が大切なのですよ。先ほどの呉先生の報告にもありましたが、ここがきちっとできなかったら、うまくいかないのですよ。そうなると譲受会社ときっちりいろいろなことの話をすることが必要なのです。邪心のない経営者であれば、むしろ協議を求めてくるのです。私はそういう経験を何回もしました。いわゆる、これから面倒を見てもらう社長にきちっと話して、これからどうなるのやと、ざっくばらんな話をして、そこで労使の関係を作っていかんと、その後もうまくいかんのです。別に混乱しません、逆ですよ。経営側は何か協議を労働組合を対立するものとして考えているからそういう考え方が出てくるのであって、むしろ今の労働組合は、経営者以上に経営のことを考えていますよ。自分たちの運命がそこで決まるわけですから。そんなことを含めて、胸襟を開いて、議論できる体制を法律的にバックアップすべきですよ。

○鎌田座長 あるべき労使関係、そしてあるべき労働組合がこの中でどういう働きをするか、いろいろお考えがあろうと思うのですね。そういったことは、それぞれの立場でお持ちであるということは分かっております。ただ、本件につきまして、この議論の中で、どのような点を具体的に要望されるのか。そういったところに少し絞りながら、御意見を頂ければありがたいと思っております。

○鈴木委員 先ほど呉先生から外資系企業のケースで一方的な説明になっているというようなケースがあったということで、それを踏まえると、その協議の仕方は置いておいて、まずは御本人が納得とまでは言いませんけども、任意で同意するということをどう担保していくか。そのときに、先ほど来お話が出ていますけれども、様々な情報提供をしていくということが重要であり、その方向性で、この事業譲渡の指針を広めていくということは、私自身大変有意義なものだというふうに思っております。難しいのは、その任意性の有る無しということについては、民法625条の解釈で、これは各個別ケースによって変わり得るものですので、余りリジッドにこれをしなければ任意性がないとか、これをすれば任意性があるというようなことは、かえって実態に合わない結果になるので、私は原案を支持したいと思います。

○田坂委員 本日はありがとうございます。事業譲渡に関してでございますけれども、私どもの会社としては、狩谷委員のお話を聞いておったり、先ほどの呉先生の報告を聞いていますと、よもや信じられないという思いで聞いているところでございます。第1回から申し上げている点ですけれども、やはり企業再編・組織再編を行うに当たって、事業譲渡スキームというのは、ケースバイケースに応じて使い得る、非常に使い勝手の良いものではないかな、というふうに思っています。それは会社分割が、リジッドないろいろ株主総会であるとか、そういったものを求めるものに比してという意味でございます。機動性をキープしながら、とはいえ個別同意が必要な世界ではございますので、十分な承諾の実質性を担保しながら、そして十分な情報開示をしながら事業譲渡スキームを利用する。そこに反論するつもりは毛頭ございませんので、そういったことをこの指針のたたき台の冒頭部分に書いていただくことについては賛成でございます。ただ、そこを一歩踏み出して、事業譲渡においてはこういったことをするのがマストで、絶対しなきゃいけないというような新たな要件を今回のこの検討会の結果として措置するというところは、個人的には行き過ぎではないかと思っているところでございますので、「協議を行うことが適当であること」等々といった記載にとどまっている原案を、私としては支持したいと思っているところでございます。

○村上委員 先ほどの鈴木委員と狩谷委員とのやりとりの中で、鈴木委員が5条協議の話をされましたけれども、狩谷委員は分割の話ではなくて、多分譲渡の話をされていたかと思いますので、5条協議の問題だけではないということであります。

 それから、同じく鈴木委員が、「労使関係が良好な所ばかりではないので、一律に義務付けられない」というようなお話でしたけれども、むしろ良好な労使関係にしていくためにどうするのかということを、ここでは話し合っているのではないかと思っております。良好ではないから法的義務を設けるべきではないという話ではないと思っております。

 その上でなのですが、具体的に、報告案の3ページの2で事業譲渡について各記載がございます。ここでいろいろ書かれておりますが、その4行目で、「労使協議が一定程度行われていると認められるものの、労働契約の承継・不承継等をめぐり紛争に発展する事例も生じている」とあります。悪い譲渡ばかりではないということも、もちろん承知はしておりますが、「労使協議が一定程度行われていると認められる」とまで言っていいのかというのは、心許無い部分もあります。「行われている場合もあるものの」ぐらいが良いのではないでしょうか。「一定程度」というのがどれぐらいか分からないところの中で、「行われていると認められるものの」とまで言ってよいのかというところは、少し疑問があるところであります。

 それから資料5の指針です。第1の趣旨のところでは、おそらく少し言葉を追加いただけるのではないかと思っておりますが、それ以外のところで申し上げますと、前回、石崎委員からも指摘があったものに青山参事官からお答えがあった部分なのですが、2ページの(3)の解雇に関して留意すべき事項の3段落目のところが、「譲渡会社などが雇用関係維持のため相応の措置を講ずるなど、そのような措置を尽くさずに当該労働者を解雇することは、解雇権の濫用として許されない」という表現のほうが、事実関係としてはよいのではないかと思います。解雇権濫用とされる場合にはこういう措置が必要であるという話では、通読して少し違和感がございました。

 それから、同じページの(4)です。「譲渡会社等が、承継予定労働者の選定を行うときは、労働組合員に対する不利益な取扱い等の不当労働行為など、法律に違反する取扱いを行ってはならないこと」とありますけれども、ここに、「不当労働行為」だけではなく、「労働条件変更に同意しない労働者の排除」ということを入れられないかと思います。協議をしていく中で、様々厳しい状況下で、どこまで述べるのかという、ぎりぎりの協議をしていくのだと思いますが、同意しないからと言って、そのことだけを理由にして、その労働者を排除するということは、やはり好ましくもないですし、許されないことではないか。そのようなことを踏まえ、「労働条件変更に同意しない労働者の排除」も入れられないかということであります。差し当たり以上です。

○鎌田座長 報告案の文案に関わることなので、事務局からの御説明を受けたいと思います。どうぞ、お願いいたします。

○労政担当参事官 今、村上委員が言われた部分で、事業譲渡指針案の2ページの(3)の3パラ目です。確かにこれは前回いろいろ御質問等を頂いたのですが、私の前回の説明が多少分かりにくかったというのは申し訳なかったのですけれども、ここで言いたかったのは、正にこれはこういう労使とともに、会社さんとして留意していただきたい事項、こういうふうに行動していただきたいというものとして書いておりますところ、その前の2パラ目に解雇権濫用がありますが、濫用になったということであれば解雇はいけない場合なので、そういう場合には配置転換などの雇用関係維持をしなさいという、すべきという趣旨で書いておりまして、この趣旨からはこの表現がよいと思って書いたわけでございます。今おっしゃったような、こうだったら濫用されないというのは、結局どういう場合が濫用にならないのかというのは、釈迦に説法ですが、裁判所が最終的に判断するものでございますので、それをこの指針で、こういう場合であれば濫用とされないということを、今引き続き解雇をめぐっていろいろな裁判の動きがある、裁判例の推移がある中で書くのはいかがなものかということで、あくまでも会社さんとしてこういう行動を取っていただきたいという思いで書いたほうがよいと思って書いたわけでございます。

 (4)の労働条件に同意しない労働者の扱いですけれども、すみません、ここは抽象的になってしまっているのですけれども、実は込めてはいる、そういうことも周知しながらと思っているのですけれども、2パラの労働条件の変更、1行目の「承継の有無や労働条件の変更に関し、裁判例において」について具体的に言うと、労働条件の変更に同意しない労働者だけを排除した例について、それが不当とされたという裁判例もあります。そういうこともパンフレットで実裁判例を周知することと、合わせて対応することで周知が図れるのかなと思っております。

○鎌田座長 もう一つ、報告書案のほうの3ページ目の事業譲渡の上から4行目、「一定程度行われていると認められるものの」、これについては、村上委員のお話だと、何か逆にしたほうがいいのではないかと。つまり、問題はあるけどうまくやっている所もあるというようなニュアンスですか、あるいはそこまでは言わないのですね。

○村上委員 はい。

○鎌田座長 これどういう、もう一度御趣旨を。

○村上委員 いろいろ申し上げて、すみませんでした。「一定程度」というのがどのくらいか分からないという中で、「一定程度行われていると認められるものの」と書くのは大変曖昧な部分があると思っています。ただ、労使協議が行われている場合もありますので、「労使協議が行われている場合もあるものの」としたほうが、ニュートラルではないかと考えました。

○労政担当参事官 そこはニュアンスをどう表現するかということだと思うのですけれども。前回のアンケート、今回のヒアリングを通して協議したかどうかという結果を見ると、組合がある所中心ですけれども、ちょっと数字が出てきませんけれども、一定割合で協議したというのがありますので、そこを捉えて「一定程度」としています。それが大部分というまでのつもりはなかったのですけれども、何らかのやりとりという意味では、「一定程度」という表現は要るのかなと思って書いたわけでございます。ここはちょっと皆様の御議論かもしれないです。

○鎌田座長 前回のアンケート、それから今日のヒアリングを含めた事実の評価に関わる部分なのかもしれませんが。

○久本委員 最初に、報告の素案のほうの3ページで、先ほど狩谷委員が言われたのですが、その事業譲渡で「適当である」という表現がどうかという話があって。もちろん法律用語としてあるのだろうというように思うのですけれども、例えば、普通の感覚で言いますと、「必要である」と言えば、かなり。こういうことをやるのが必要だというふうに言うのは駄目なのかどうか。「必要ではない」というのでなければ、「必要である」というように言えばかなり、恐らく印象は強くなると思いますので、それはどうかとちょっと思ったので、御検討いただければと思っています。

 それから、たたき台のほうですけれども、もちろんその労働者の承諾の実質性の担保と納得性を高めるというように趣旨に書いてあるわけですが、そうではないんじゃないかという御批判がたくさんあったとは思っています。然りとて、この指針案に大幅に手を入れるということは、今の時点では恐らく無理だろうと思っております。その中で、ちょっと今考えたところは、先ほどのと絡むのですが、1ページの9行目で、やはり「適当である」という表現があります。「十分に説明し、承諾に向けた協議を行うことが適当である」というのを「必要である」と言えばいいのではないかと思うというのが1つですね。

 それから、特に「十分に説明し」というのが、「十分」とは何かというのがよく分からないので、もう少し何か、やや具体的にといいますか。余り細かく何時間とか、何日とかいうことは、実務の世界で言うと困るという話になると思うのですが、ただ、「十分」とは何か。先ほど出ましたが、1日とか1時間が十分なのかという話になりますので、何かその辺、もう少し工夫が要るのかと。それは2ページの上から6行目のところでも、「十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて」と言うのですが、「時間的余裕」というのは1時間なのか10日なのかとか、何となくその辺が分かりにくいのですね。もう少し何か具体的なというか、どの程度がいいのか私は分からないのですが、その辺が割と曖昧にしているという、わざと曖昧にしていることは分かるのですが、余りにも曖昧すぎて、1時間でも十分な時間的余裕なのだというふうなことが成り立つかどうか。1日が十分か。その辺が気になったというのが1つです。

 それから先ほど解雇権の濫用とされる場合というのがちょっと。こんなことを言うのはおかしいのではないかということです。「解雇権の濫用とされないように」と言えばいいのではないかと思いました。「されないように譲渡会社とはこういうことをしなさいよ」というふうにすれば、割と自然な文章になるのではないかと思いました。私が感じたのは以上です。

○鎌田座長 ありがとうございます。事務局、今、文言についてのいろいろな御意見を頂きました。

○労政担当参事官 文言の話は、指針の性格に関わる話かと思いますので、事務局としての思いを説明いたします。まず、事業譲渡については、今625条の同意が必要という以外に法的措置がない状況で、それだからこそ皆さんの御議論があるのだと思うのですけれども、同意の実質性と労使間の納得ということで御議論いただいたので、何かあるべき姿をお示ししようということで、一歩踏み出したつもりで事務局としては書いております。

 逆に、何か承継法のように、もともと構造があって、法律上7条措置の義務とかがあればいいのですが、何もない中で一歩踏み出す場合に、あくまでも労使で自主的に取り組んでいただくしかない中で、どこまで指針で、これは厚労大臣が定めるもので、告示にまでしようかと思っているのですけれども、十分、慎重かつ前向きには考えていかなくてはと思って悩んでまいりました。「必要である」ということになると、何を根拠にそういえるのかという、御議論が一方で出てくるかと思います。その同意、特に個別の協議につきましては労働者の承諾が必要なのだから、そのためにこういうふうにやっておかないと承諾がうまく取れませんよという意思を示し、それを「適当である」という表現にしています。「望ましい」よりも強めて書いていますし、「適当である」というのは十分に現場にはインパクトがあるのかなと、事務局としては思って書いた部分でございますので、ちょっとそこはどう、労使の方を含めて御判断いただけるのかなというところがあるかと思います。

 同じような意味で、確かに「十分に」とか「時間的余裕」とか、非常に抽象的にとどまっているのもあるのですけれども、何分、今何も規律がない中で、労使で様々な事業譲渡のケースを捉えて取り組んでいただくときに、やり方を具体的に決めるという物差しも見出せない。そういう意味で精神論的な説明になってしまいますが、「十分」とか「時間的余裕」とかということを書くことで、そういうふうに努力を尽くし、意を尽くしてやらなければ承諾は取れないということを指針で可能な限り示すことで、同意の実質性とか労使間の納得というものを確保したいという思いで書いたということを御理解いただければと思います。あとは御議論かと思います。

○鈴木委員 ただいまの件ですけれども、この説明の仕方というのは恐らく、例えば債務履行の見込みがどのくらい見込まれるのかによっても、当然必要な協議の時間というのも変わり得ると思っておりますので、具体的に書くということについては、私は慎重な立場であります。

 また、指針の位置づけについては、田坂委員が前回おっしゃっておられましたが、相当重く受け止めておりますので、「必要」ということになると、「など」ということも含めて、全てやらないといけないという間違ったメッセージになり、結果として、円滑な事業譲渡等を阻害しかねないと思っております。

 それからもう1点、別件ですけれども、資料5の1ページの下から3行目に、「労働組合を代理人として選定した場合には誠実に協議」という言葉がありまして、その次のページに、いわゆる労働組合の団交については、上から3行目、「適法な団体交渉の申入れを拒否できないもの」ということで、ある意味入口のところでとどまっているのですね。団交というと、誠実団交義務というのを想起するところなのですが、入口で拒否しないということと併せて、誠実に団交するということもあってもいいのではないかと思うのですが、特に入っていない理由があれば、事務局にお伺いしたいのです。

○鎌田座長 では、御質問の部分について。

○労政担当参事官 ここは率直なところ、今の承継法の指針で書かれているものも参考に書きました。誠実交渉義務があるのはもちろん事実なのですけれども、ここはあえて入れてないというよりは、最低限適法な団交事項であったり、交渉権限がある組合等からのものがあれば、それを拒否すれば明らかに不当労働行為になりますので、そこの最低限確実なところを注意喚起しているにとどまるかと思います。ちょっと承継法自身もこれにはとどまっていることもあるので、その並びもあるかなというところはあります。

○鎌田座長 もう予定の終了時間に迫まってきておりまして、何か特に御意見はございますか。

○村上委員 全体に対する意見ということで、報告書についてなのですが、書けるかどうかというところはありますけれども、1回目から申し上げてきたのですが、会社法などの再編の制度は法整備がされるのに対し、これまで労働者保護ルールは追い付いていなかったということがあります。その点を踏まえ、今回検討していただいておりますけれども、この先まだまだ何か変わり得る可能性というものはあるのであって、その際にどうしていくのかということも念頭に置く必要があります。会社法をはじめ、組織再編を促進する法律が変わるのだったら、そのときにはやはりあわせて労働者保護ルールもきちんと見直していく必要があるのではないか。そのような問題意識をこの報告の中に、今後の課題として入れておく必要があると思っておりますので、是非御検討いただければと思います。

○鎌田座長 3回まで、いろいろなアンケート、それから今日のヒアリングも含めて、たくさんの御意見を頂いております。今までの御意見を私なりにお聞きしたところでは、この報告書案につきましては、状況、課題認識等、文言については幾つか御意見があったと思います。まずは、この指針等、取り分け事業譲渡に関する新たな指針を作って、労働者個人、それから労使の協議を進めていくということについては、1つの前進として進めていくという考え。これについては恐らくもう異論はない。ただし、今後の会社、全体を含めて、法的に何らかの対応も検討してほしいという要望が付け加わっていると、こういうような認識でおられるのかなと思っております。

 そういったようなことで、共通の認識ということであれば、あとは基本的に分割については施行規則、それから指針の改正、それから新たに設けられる事業譲渡の指針案については、大枠としてこの原案に従いながら、なお、今幾つか御意見を頂いた部分については、調整を進めながら最終取りまとめを行っていったらどうかと思っておりますが、この点で何か御意見はございますか。よろしいでしょうか。

 それでは、そのようなことで次回は、今頂いた御意見を踏まえまして、報告書の最終案、分割についての改正案、事業譲渡についての指針案について、事務局のほうで取りまとめをしていただきたいと思います。よろしくお願いしたいと思います。

○労政担当参事官 分かりました。次回、資料を提示いたします。

○鎌田座長 それでは、次回の検討会の開催について、事務局から連絡があれば、お願いいたします。

○労政担当参事官室係長 次回の検討会でございますが、4月中をめどに調整中でございますので、追って正式に御連絡を差し上げたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

○鎌田座長 これをもちまして、本日の検討会を終了いたします。お忙しい中、ありがとうございました。

 

 


(了)

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