ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 職業安定局が実施する検討会等> 同一労働同一賃金の実現に向けた検討会> 第2回同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 議事録(2016年4月13日)




2016年4月13日 第2回同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 議事録

職業安定局

○日時

平成28年4月13日(水)14:00~16:00


○場所

職業安定局第1、2会議室(中央合同庁舎第5号館12F)


○出席者

川口 大司 (東京大学大学院経済学研究科教授)
神吉 知郁子 (立教大学法学部国際ビジネス法学科准教授)
中村 天江 (リクルートワークス研究所主任研究員)
松浦 民恵 (ニッセイ基礎研究所生活研究部主任研究員)
水町 勇一郎 (東京大学社会科学研究所教授)
柳川 範之 (東京大学大学院経済学研究科教授)

○議題

EU諸国の法制度・運用・雇用慣行等について

○議事

○柳川座長 ただいまから、第 2 回同一労働同一賃金の実現に向けた検討会を開催いたします。委員の皆様におかれましては、大変お忙しいところ御参集いただきまして誠にありがとうございます。本日は皆川委員が所用のため御欠席となっております。

 それでは、早速ですが事務局から資料について説明をお願いします。

○河村民間人材サービス推室長 お手元の資料の確認をいたします。お手元に改めて名簿をお配りしております。川口先生が東京大学に移られておりますので配布をしております。本日メインの資料が「第 2 回同一労働同一賃金の実現に向けた検討会厚生労働省提出資料」です。本日御欠席の皆川先生から事前に御意見を頂戴しております。 2 枚紙のものです。

 資料の説明をいたします。本日、厚生労働省の提出資料は、前半が EU 諸国と日本の雇用慣行、後半が EU 諸国の法規制等です。前半ですが、まず最初にお断りをしますと、厚生労働省で限られた知見と人力で一生懸命調べたのですが、まだまだ全体的に未定稿と付している箇所がたくさんありますので、是非専門家の委員の皆様からの御知見で補足を頂きたいと思っております。その前提で御覧いただければ大変幸いです。

3 ページです。日本と欧州諸国の全体的な労働市場の状況です。人口や労働力率は御覧になっていただいたとおりです。特色としては非常にフランスの失業率が高くなっており、特に若年失業率に関しては、フランス、イギリス、日本に比べると相当高い水準になっております。 4 ページです。「就業者に占める短時間労働者割合 (2014 ) 」です。短時間と言っているのは、週 30 時間未満の方です。この割合は日本、イギリス、ドイツはおおむね男女ともに同じような傾向になっており、それらの 3 国に比べるとフランスが若干少ないという状況です。

5 ページです。短時間の方以外も含めた非正規の方についてです。短時間が青線でテンポラリーの方が赤線、派遣労働者が緑の線です。それぞれについて各国でどういう経年変化があるかということを見たものです。大雑把に見れば、 4 国どこも大体そんなに大きな変動はないのが実情です。この場合の短時間は先ほどと同じ週 30 時間未満ですが、申し訳ありませんがテンポラリーの定義が国によって異なっております。日本は 1 年以内の雇用契約の方なのですが、日本以外の国は、役務の完成や何かしら客観的な条件によって雇用期間が定められた労働者ということで、臨時・季節雇用の方等が入っております。それぞれの統計の取り方は各国で違っておりますので、厳密な比較ができないことに御留意いただければと思います。

6 ページです。勤続年数別の賃金カーブを各国で見たものです。勤続年数を指標にだんだん賃金を上げていく、いわゆる年功賃金カーブが日本に独特のものと捉えられがちなのですが、こうして見るとドイツもかなり勤続年数にしたがって賃金が上昇する傾向にあります。それに比べるとフランスとイギリスは上がり方が若干低いですが、同じようにある程度、勤続年数にしたがって賃金が上昇していくカーブになっております。

7 ページです。パートタイム労働法制についての日本と欧州諸国の比較です。パートタイム労働法制全体の詳細を調べたというよりは、パートの方が各国の労働市場においてどういう位置付けを持っているのかということを中心に整理しております。日本に関しては、基本的にパートの方の雇用環境を良くするために法制が整えられております。基本は正社員への転換の推進を図っていくという方向性になっております。

 一方で、ドイツの 1 つ目の○ですが、もともとは家庭責任を伴って時間制約のある女性の労働形態として発展してきたものですが、安価な不安定雇用としてではなく、個人のライフスタイルに対応した働き方として、積極的な活用を促進していこうという方向性にあります。○の 3 つ目ですが、そういう観点から労働者に対して雇用関係が 6 ヶ月以上ある方の場合は、パートになる請求権を与えており、経営上に拒む理由がない限りは同意しなければならない。

 なので、フルタイムからパートタイムに関しては、請求権がかなり強く規定されているのですが、逆方向のパートタイムからフルタイムに労働時間を延長することについては、現状では弱い請求権になっている。括弧書きで記載しておりますが、今は復帰を請求する権利に関しても強く保障していくべきなのではないかという提案がなされているそうです。

 フランスの 1 つ目の○の 2 行目です。もともとパートの方の多くが無期雇用です。その上で労働者にとって自発的に選択されたものである限り肯定的に評価し、利用も原則自由で、パートタイムからフルタイムへ、また、フルタイムからパートタイム、フランスの場合はこの双方向について、雇用を付与される優先権を与えております。

 イギリスの 1 つ目の○です。伝統的に常用のフルタイムの方を雇用保護立法としてはメインの対象にしてきた中で、 EU のパート指令の国内法化のためにパートタイム労働者規則が制定されたという経緯があります。○の 2 つ目です。ドイツとフランスと同様に、勤続が 26 週以上の方に対しては、使用者に対して労働時間等の柔軟化の申出の権利が認められているそうで、フルタイムからパートタイムへの転換は最も一般的な柔軟化の手法である。一方でパートからフルタイムに戻るということは別個の合意を要する。この辺りは全面的に神吉先生にお教えいただいた内容をそのまま記載しております。

8 ページです。有期の法制について、特に有期の位置付けを中心に少し紹介いたします。日本は、理念としては有期と無期に関して法的な位置付けには差を設けておりません。ドイツ、フランス、イギリスに関しては、基本、有期に関して濫用の防止や無期を原則とするというスタンスを取っております。中でもドイツとフランスに関しては、有期としての契約を締結する理由にそれなりの制限を設けております。限定列挙なり例示列挙なりされている事由は御覧になっていただいたとおりです。

 真ん中の段です。勤続年数や契約更新の回数の上限に関して、日本の場合は先般の労働契約法の改正によって通算 5 年を超えた場合に労働者の申込みで無期に転換します。一番右のイギリスも 4 年を経過して雇用契約が更新されたら無期化になります。真ん中のドイツは、基本的に 2 年間までは事由を問わずにできますが、基本は最長 2 年までで違反した場合は無期のみなしが掛かります。フランスも最長 18 ヶ月で違反した場合は無期のみなしが掛かります。

9 ページです。派遣労働法制です。派遣に関しては、派遣の利用事由に関して日本、ドイツ、イギリスは事由の制限は原則ありませんが、フランスに関しては、先ほど有期で少し御覧になっていただいた締結理由の制限と同様の制限が掛っており、黒ポツの 3 点目ですが、一時的な休業者の代替、一時的な業務の増加、季節雇用等に限って利用できるということになっております。

 一番下の派遣の受入期間の制限です。日本とフランスにおいては一定の期間制限を設けており、日本は先般の昨年の改正によって同一事業所としての受入れは 3 年だけれども延長が可能、同じ組織単位、課ですとか同じ組織単位での同一の派遣労働者の方の受入れは上限 3 年ということになっており、フランスは原則 18 ヶ月以内となっております。 10 ページです。概観いただいたようなパートの方の位置付けが各国それぞれ特色があった上で、先般、御覧になっていただいたようなフルタイムとパートの方の賃金水準の差があるという前提で改めて御覧になっていただければと思います。

 駆け足で恐縮ですが、 11 ページ以降では労働協約関係の説明をいたします。 11 ページです。組合の組織率です。組織率は御承知のとおり年々、 1980 年代ぐらいからどんどん下がってきており、その点は各国とも共通です。 12 ページです。ドイツの集団的な労働条件の決定システムについて、まず少し御概観いただければと思います。上半分は交渉の基本構造と書いておりますが、主に産業レベルと事業所レベルの 2 元的な関係が存在した上で、産業レベルでは 8 つの産別の組合と 52 の産別の使用者団体があり、それぞれで交渉します。

 更にその下の事業所レベルですが、従業員の代表機関である事業所委員会を設置することができ、事業所委員会に様々な共同決定権が付与されています。

 後ほど出てきますが、事業所委員会が賃金決定に関しても様々な関与をしているという現状です。下半分がこうした集団的な協約の意義、機能です。 1 つ目の○です。協約の効力は基本は組合員に対して及ぶものであって、非組合員に適用されないのが原則です。 2 行目ですが、公共の利益にとって必要だという場合には労使の同意を得て大臣が一般的拘束力宣言を行うと、非組合員にも拡張的に適用されます。

 こうした中で、産業別の協約が最低労働条件を決める機能を持ってきていて、産業の中での企業の競争条件を整えるという機能を長らく持ってきたけれども、近年、組合の組織率の低下に伴って直接的な協約の適用率は、かなり下がってきております。括弧内に西ドイツと東ドイツでどれだけ差があったかという数字を記載しております。ただ、実務上は使用者と非組合員の方の労働契約そのものにおいて組合員に適用されている協約を引用するという慣習がかなり行われているようで、こういう「引用条項」による間接的な適用を含めると 7 割の方が今もなお、その協約の適用を受けて労働条件が決まっているということが現状です。

13 ページです。フランスもドイツと同様に産業レベルだけではなく産業レベルと企業レベル、それぞれで交渉が行われている上で、中ほどですが、労働者が 11 人以上の事業所で従業員代表の設置が義務付けられております。実際に中小の企業は、日本も同様ですが組合が存在しないケースが多い中で、企業レベルでもきちんと労使交渉を拡大していこうという政策的な必要性が認識されて、従業員代表にも組合の代表委員が存在しない場合なら、一定の場合については協約の締結権限を認めるという改正が 2004 年に行われております。

 こうした中で、下の産別協約の意義・機能です。ドイツと同様に拡張の適用の仕組みがフランスの場合は 2 つあります。 1 つ目の○です。協約が有効に成立すれば協約の相手方である使用者か使用者団体の全労働者、すなわち非組合員も含めて協約の相手方である使用者の傘下である全労働者に効力が及ぶという「一般的効力」がまずある上で、更に一定の法定要件を満たしていれば協約の適用対象に含まれ得る全ての労働者、使用者、つまり協約の締結の相手方にかかわらず、全ての労働者と使用者に「拡張適用」されるという制度が制度上設けられています。ですので、組合の組織率は 8 %前後と非常にフランスの場合は低いのですが、これらの拡張適用等の仕組みによって、実際の協約の適用率が 98 %と極めて高い状況にあるというのがフランスの現状です。

14 ページです。「イギリスの集団的労働条件決定システム」です。イギリスの場合はドイツ、フランスに比べると産別の組合による交渉の影響力は決して大きくない状況です。実際に個別企業ごとの労使の決定がメインになっております。下の箱ですが、あくまで協約自体は私的契約なので、特に拡張の枠組みがないようで、そういう中で協約の適用率は 27 %程度となっております。

15 ページです。以降、 3 国の一般的な賃金制度について概観できればと思います。まず、ドイツの賃金決定のポイントです。産業別と地域別の労働協約の中で一般的な業務内容、その業務内容に対応した求められる能力の水準と賃金等級の関係を提示しております。右側にイメージとしてドイツの金属・電子産業の協約の例を付けておりますが、賃金等級で上が EG1 、下が EG14 とあります。

 余り求められる能力水準が高くないほうが上にあり、下に行くほど求められる能力水準が高くなります。それぞれの EG1 とか EG2 に対応する一般的な仕事の内容とその能力と、それに対応する賃金の関係が産別の労働協約の中で一般的な関係として提示される。更にそれを受けて個々の事業所レベルで自分の事業所の具体的な仕事と賃金との対応関係を決定していく。この決定自体について、先ほど少し紹介した事業所委員会で共同決定するという仕組みになっております。更に、こうした能力水準も加味した仕事の内容との対応関係を決めた賃金に、さらに上乗せとして、成績や成果に応じた加給が行われるという仕組みになっております。

16 ページです。フランスもほぼ同様の仕組みになっております。○の 3 つ目です。産業別の労働協約の中で一般的な業務内容、これは純然たる業務内容だけではなく求められる能力の水準を含めた上で賃金等級の関係を提示し、それに対して個々の事業所で当てはめを行って、 1 つ上の○ですが、雇用契約には全部職務等級がそれぞれ明記される仕組みになっております。

 右下の昇給の仕組みの所に少し書いておりますが、フランスも従来は全従業員に対して一律の改定を行うという方式、集団平等的な賃金決定になる傾向があったようですが、近年こういう全般的な昇給に加えて、個々人の能力発揮に基づいて個別的な昇給を組み合わせるというタイプに移行が進んでいるということです。ドイツとフランスも一般的に「職務給」と言って、イメージとしては業務内容だけで賃金が決まるようなイメージがありますが、そもそも業務内容に求められる能力水準が加味されて賃金決定されている。更に、そのベースになる 1 階部分に、さらに能力発揮に応じた加給が上乗せされるという仕組みです。

17 ページです。イギリスは、先ほど見ていただいたとおり基本、企業ごとの決定ですので企業によって様々な決定があります。 1 つ参考になる情報として、一番下ですが、企業ごとに様々な賃金決定である結果として、個人単位で自分の賃金水準を把握することが非常に難しいので、国全体で給与比較を行うことができるようなサイトが開設されていて、職種別の平均賃金がかなりデータベースとして整っている状況にあります。

18 19 ページです。 EU 諸国の法制度と運用について説明いたします。 19 ページの所で日本と EU 諸国の法の構造を少し整理しております。左側に (1) として待遇の違いを許容する判断要素を挙げて、右側に待遇の違いを整理しております。日本の場合は待遇の違いを許容する判断要素として、業務内容と責任の範囲、人材活用の仕組み・運用という 3 点を中心に見て、それらが正社員と同一の場合、同じであれば同じ待遇でなければならないということが積極的にパートタイム労働法の第 9 条に書かれております。

 これらの1~3が正社員と異なる場合、その下の行であっても、これらの1~3の違いを考慮して不合理であってはならないというルールになっております。その下の※ですが、これはあくまで、個々の待遇ごとに判断されるべきであるということを現行の通達の中でも示しております。ですので、その続きの括弧内ですが、1~3のような判断要素に一定の差がある場合において、一定の差があるのならば待遇は正社員と違ってもしょうがないということではなくて、例えば待遇の一部については正社員と「同一」であるということが求められて、また、別の部分については1~3の判断要素の「違い」に応じた待遇の「違い」が許容されるというケースも考えられるということが現行法の解釈です。

 更に、下の EU の場合です。 EU は待遇の違いを許容する判断要素としては、あくまで客観的に正当化すべき事由があるかどうか、これは具体的には司法判断です。不利益取扱いは原則禁止された上で、こうした客観的な正当化事由が認められる場合には、例外的に不利益取扱いが許容されるという考え方になっております。

20 ページは、日本の参照条文ですので飛ばします。 21 ページ以降は EU 各国の規定です。一番上がパートの指令で真ん中が有期の指令です。この 2 つは構造が同じで、下線を引いている部分ですが、客観的な根拠によって正当化されない限り、比較可能なフルタイムの方や比較可能な常用労働者の方よりも不利な取扱いを受けないということが規定された上で、適切な場合には時間比例や期間比例の原則が適用されるという条文の構造になっております。

 一方で、一番下の派遣労働者の場合は、同一の職務に利用者企業によって直接採用されていれば適用されていたものを下回らないという、実在の方ではなくて、もし採用されていれば適用された条件を下回らないという規定のされ方がしてあります。ただ、※の所ですが、別途労働協約によって異なる条件を定めることを許容しており、ほかの国の例にもありますが、協約による除外がそれなりに広く行われているのが現状です。

22 ページはドイツの規定です。ドイツも EU 指令にかなり忠実な規定の仕方をしており、左側のパートと真ん中の有期の所は、先ほど紹介した形とほぼ同じ規定の仕方をしております。それぞれ強行規定なので、協約による逸脱はパートと有期に関して許されないという法制が取られております。

 一方で、右側の派遣です。ドイツの派遣の場合は、先ほどの EU のような仮想の比較対象者という考え方ではなくて、派遣先における比較可能な労働者に適用されている条件よりも不利な労働条件を定めるものは無効だという規定が書かれております。※の 1 個目ですが、協約によってより低い条件を設定することが可能で、協約による逸脱が許されている。 2 つ目の※に少し書かれておりますが、実際にはこの協約による逸脱がかなり広く行われているようで、派遣労働者の保護には相当なレベルに達していないといけないのではないかということで議論がなされている状況です。

 今、見ていただいた労働条件本体は協約による逸脱が許されているのですが、ドイツの一番下のポツですが、子ども養育施設や社員食堂等の共同施設、サービスについては、正当化事由がない限り同一の利用条件を認めなければならないとされており、こちらのほうは労働協約による逸脱は認められていないという法制です。

24 ページは、フランスです。 EU 指令よりも先に法制が出来ておりますので、書き方が少し違っております。左側のパートですが、フルタイムに認められている契約の権利を享受する。協約が定める特別な適用方法によることが認められると言っております。下の※ですが、「客観的な根拠によって正当化されない限り」という EU 指令やドイツ法にある留保が設けられていないのですが、実際は客観的な根拠がある場合も異なる取扱いを認めないというものではなくて、給付の性質、目的に照らして個々の判断がなされます。

 真ん中の有期の規定の仕方は、無期の方に適用されている様々な措置は有期の方にも適用されるという規定の仕方になっており、下の※で同じように正当化事由があれば個別に判断がなされるという運用はなされているようです。一番右の派遣ですが、派遣の方の報酬は派遣先において同等の格付で同じ職務に就いている無期の方が、試用期間終了後に受け取る報酬と同額以上でなければならないという規定がされた上で、別条で施設等の利用、交通手段や食堂というものは享受できるという条文が別途置かれております。

25 ページです。フランスの場合、パート、有期、派遣の法制よりさらに上位の概念として、判例法理の同一労働同一賃金原則があるようで、 1996 年のいわゆる Ponsolle 事件判決において、 3 行目ですが、賃金格差が正当化される場合を除いて、使用者は同一の状況に置かれている全ての労働者の報酬の平等を保障しなければならないという原則が判例法理で確立されております。

 ※の 3 点目ですが、この判決後の判例の展開としては、労働の同一性が主たる争点となる事例は余りなくて、むしろ労働の同一性よりも賃金格差が客観的に正当化できるかどうか自体が争いの中心となっている。給付の目的・性質に応じて個別に判断がなされているという現状にあるようです。

26 ページです。イギリスも、パートと有期に関しては EU 指令と同じような比較可能なフルタイムや有期の方よりも不利に取扱われないという原則があった上で、客観的な正当化事由があれば、その限りでないという書き方がされております。その上でイギリスは派遣の規制の仕方が少し特徴的で、まず派遣の一番右上の (1) ですが、派遣の初日から (2) の勤続 12 週に至るまでの間の均等処遇としては、集団的福利厚生施設、食堂等の利用に関して正当化事由がない限りは不利益に取扱われないということで、ここの部分に限定されております。

 その上で (2) ですが、勤続 12 週を経過した後に関しては、派遣先に直接採用された場合に認められるのと同一の権利が与えられるという規定のされ方がされております。明示的に協約の逸脱の条項は見当たらないのですが、一番下の※ですが、派遣元とその期間の定めのない雇用契約を締結していて、中断期間に契約の半額以上の賃金と週 1 時間以上の労動が保障されている人については、この効力を生じないとされております。こちらは事実上の適用除外に近いような効果が出てしまっているようです。すみません。少し時間を超過してしまいましたが、以上です。

○柳川座長 詳細な御説明ありがとうございました。それでは、ただいまの御説明を踏まえまして、大部なので、まず資料前半の。

○河村民間人材サービス推進室長 申し訳ありません。一言申し述べるつもりでした、皆川先生の御意見をいただいておりまして、ごく簡単に御紹介をさせていただきます。

 皆川先生の御意見をお手元にお出しいただければと思います。一番上の資料 8 ページ関連という所ですが、ドイツのフルタイムとパートタイムが日本のように大きく位置付けが異なるわけではなくて、ドイツのパートは、日本でいう一般職みたいなイメージですという知見を頂いております。

 下の資料 12 ページ関連という所ですが、ドイツは賃金が産業レベルで統一的であるべきという価値観がかなりあるようです。 4 行目ですが、ドイツの賃金は学歴や教育訓練程度によって決まってくるので、賃金水準が社会の教育程度や職業訓練制度と連動した形で集団的に賃金が決まっています。

15 ページ関連ですが、裁判のハードルが低いので、企業の労務管理担当者が裁判になったとしても、常にちゃんと説明できる、敗訴しないかどうかを意識しながら賃金体系を設定している。

 資料 22 23 ページですが、判例を見ると、下線の所で、基本給以外の手当の部分は、必ずしもフルタイムとの職務同一性が余り強く求められているわけではない。ドイツも判例法理である平等取扱い原則が影響していて、給付の性質・目的からみて異別取扱いが正当化されるかどうかというのが個別に判断をされるようです。以上です。

○柳川座長 それでは、資料前半の1 EU 諸国と日本の雇用関係の部分について、まず委員の皆様から御意見、御質問等をお伺いできればと思います。余り細かくなると大変かもしれませんが、皆さんの専門分野の知見を頭まえた御意見等でも構いませんので、お願いします。

○川口氏  5 ページの非正規労働者の割合のグラフに関してですが、短時間労働者とか、契約期間の長短、直接雇用か間接雇用かの違いで分けると、日本は必ずしも突出して、いわゆる非正規労働者の割合が高いわけではありませんし、 2000 年代に入って増えているわけでもありません。

 その一方で、いわゆる非正規労働者が 4 割を超えているという報道もあるわけですが、どういう定義で非正社員を定義しているかというと、呼称ベースで定義したときに、正社員の割合が高いということになっているわけです。そうすると、今の問題の本質というのは、労働時間の長短や契約期間の長短、あるいは直接雇用、間接雇用それぞれ問題はあると思いますが、より大きな問題は呼称によって雇用管理の在り方が違って、そのことが正社員と非正規社員との格差につながっているのだと思います。

 そうすると、後の法律の話とも関係してくると思いますが、雇用管理の種類が正社員と非正規社員で違うということを、どの程度許容して、その合理性の判断に入れ込んでいくのかということも考えていかなければいけないと思います。

 呼称ベースというのは、日本のかなり特有なことだと思いますが、その裏には日本型の雇用慣行があって、正社員が日本型雇用、特に大企業で勤める方ですが、日本型雇用管理に服していて、その中で正社員と非正規社員の間の賃金に差が出てきている、待遇差が出てきているということが重要なポイントかと思います。

○柳川座長 ほかにいかがですか。

○松浦氏 データのことで関連して 10 ページについてです。参考資料として拝見しましたが、感想めいたことを 2 つ申し上げます。

パートタイム労働者の賃金水準について、日本については新卒一括採用で採用された正社員は、その後雇用等が安定的に守られるという前提があり、その一方で非正規社員、パートタイム労働者の賃金水準が低くなっています。一方で、欧州諸国については、職務で人を採用しますので、若年の就業率が低く、若年と職務に就ける人との格差が課題となっています。つまり、この比較は国によって、課題となっている部分と、課題になっていない部分を比較しているグラフなので、この比較を直接的に解釈するのはややリスキーではないかというのが 1 つ目の感想です。

 もう 1 つは、同一労働同一賃金というのが、前回のご議論の中にもありましたが、あくまでも同じ職場での同一労働同一賃金だとすると、同じ職場の中での格差がもし不合理であれば是正するというところまでが議論の範囲であって、そのミクロの賃金水準の格差是正が、必ずしも長期的に、マクロの賃金水準の格差というか、さらにいうと諸外国との格差を縮めることにはつながらない。企業によっては同一労働同一賃金に対する規制に対して、職域を分ける行動に及ぶことももちろんあり得るわけですから、マクロの議論とミクロの議論は分けてしなければいけないと思います。感想ですが、 2 つ申し上げました。以上です。

○柳川座長 同一労働同一賃金の定義というか、考える範囲では、同じ職場の中でという話に限定されるかどうかは、まだ決まったわけではなく、一応事務局からそういうところでフォーカスをしてはどうかという御意見が前回出たということなので、まだ確定ではないと思います。ミクロとマクロを区別しなければいけないというのはそのとおりです。

○中村氏 お二人の先生から出ていたこととも関連するのですが、企業の雇用管理の中で、賃金体系というのは正規、非正規の 2 つではないことが往々にしてあります。いわゆる正規の中でも、限定正社員と言われる人と、正社員の年功賃金型の正社員では違う賃金体系になっています。有期の社員の中でも、契約社員で比較的準正社員に近い位置付けの方と、短期の本当にスポットで働く方は違います。

 そういう意味で言うと、この問題は正規、非正規というところから、待遇者のところから議論がスタートしていますが、企業の中の複数の賃金パターンのどこに焦点を当てて、同一性を議論していくかというのは、もう一段丁寧な議論が必要に見えます。

 併せて、その際に重要になるのが 8 ページにある有期労働法制等のことですが、日本の労契法と派遣法の改正も含めて、ある一定のタイミングで無期に転換されていく働き方が各国で見られます。その際に、非正規、いわゆる有期で働く人たちの待遇を改善していくのを、無期に転換された後に、いわゆる正社員と同じような形でそこが是正されるという前提でいくのか、有期で働いている期間の中でそもそも年功のように期間比例していくような賃金を作っていくのかというところも、非常に大きな論点になっているように見えますので、その辺りも今後整理できるといいかなと思いました。

○柳川座長 課題はいっぱいありますが、そのほかいかがでしょうか。

○水町氏 1に対応しているかどうか分かりませんが、委員の先生方からお話があった点を少し法的な観点から申し上げると、ここで法的に議論していくのはマクロの議論ではなく、ミクロの議論で、それぞれの企業であったり、その企業の中の個別の制度を見ていくという議論になっていきます。

 賃金体系はいろいろあるかもしれませんが、賃金体系や正社員制度という大きな体系とか枠組みではなくて、個別の、例えば基本給、基本給の中でも勤続に対応している部分とか、成果に対応している部分とかいろいろあるかもしれません。

 また手当もいろいろあります。通勤手当もあるかもしれませんし、更にはその他の給付、例えば安全管理についての防災器具や、そういうものを個別にどう取り扱うべきかというのを 1 1 個検証していくという作業が必要になってきて、ガイドラインにまとめるとすればどういう形にまとめるかという議論になってくると思います。

 それと川口先生がおっしゃった雇用管理の違い、それが処遇の違いをどこまで正当化できるかということなのですが、最近の諸外国の議論も含めて考えると、そもそも雇用管理区分が違う。例えば正規という雇用管理区分、非正規という雇用管理区分、総合職という雇用管理区分、一般職という雇用管理区分が違う。その雇用管理区分の名称、形式の違いそのものは、格差、処遇の違いを正当化できるものにはならない。

 むしろ雇用管理区分の違いの中で何が違うのか。具体的な違いを見て、その違いがそれぞれの制度、それぞれの給付について正当化できる要素になるのか。例えば責任の重さが違いますとか、キャリアの幅が違いますとか。ただそのような形式になっているが、実際に中身を見てみたら、総合職も一般職もそんなにキャリアの幅は違わないということであれば、実態として、前提に違いはありませんでしたよねということになったり、個別の給付ごとに何が具体的に前提として違って、その給付の違いを正当化できることになるかを検証していくのが、法的な作業になるということを申し上げておきたいと思います。

○柳川座長 いかがですか。今のように、対象はミクロの話であって、ミクロもどのレベルかのミクロですが、かなり細かく見ていかなければいけないというところは、皆さん共通の課題だろうと思います。それを国際比較しようとすると、すごく難しいというのが、ここに出された資料や先ほどのマクロ的な国際比較のデータみたいな所で、皆さんが購で議論してもという感じられるところなのだろうと思います。本当は先ほど水町先生がおっしゃったような細かい所を見ていって、細かい議論の積み重ねの中でどのような差が出ているのかという話を国際的にも各国でやって、日本と各国の細かい事情の中で、日本がどうあるべきかということが議論できるとよくて、そういうデータがどこかにパッとあるといいのですが、残念ながら、丁寧に御説明いただいたように、いろいろな面で海外と違っていて、制度も違っていて、その中で実際の数字がかなり違っているというところを、どう判断するのかというのが、今出ているデータの話であって、国際比較はとても大事で、いろいろ見ていかなければいけないのですが、そこから得られる情報がダイレクトに我々のメッセージとして使えるものではなくて、あくまで参考にしながら、日本としてどうしていくかということを考えなければいけないという現状の話はそういうことだと思います。

 そういう意味では、単純にこれを使うのではなくて、細かい所を見ていかなければいけませんが、ある意味で一定の情報を事務局にまとめていただいたデータから読み取ることができると考えるべきで、どう使っていくかというのは、皆さん御意見がいろいろおありだと思います。

○水町氏 マクロのデータは、社会の背景を知ったり、政策決定をするときに、非常に大切なデータだと思います。実際にミクロの法的な判断になると、海外の判例が個別に、この人とこの人の間のここの違いは、この給付の違いを正当化できるかという判例が積み重なっているので、この点は次回以降議論していきたいと思います。

 諸外国の判例を見ていくと、こういうことが日本にも参考になって、同じようなことが言えるかもしれないとか、日本だとこれはちょっと難しいかもしれないということが、判例を見ながら、次回以降出てくると思います。

○川口氏 ミクロとマクロの話で補足です。例えば賃金構造基本統計調査というのは、事業所レベルで労働者をサンプリングして、事業所の中でのフルタイムとパートタイムの比較もできるわけです。正確に覚えているわけではないのですが、一般の事業所の中で働いている人を比べても、パートタイムとフルタイムの間には大きな賃金格差があるという結果が出ていると思います。その意味で言うと、松浦委員の御指摘は全くもっともなのですが、現実的に考えてみると、ミクロレベルでの事業所内での差というものがそのままマクロレベルでの差につながっているという側面はあると思います。

 それと水町委員から法的な議論の進め方について、大きな方向性を教えていただいて、非常に有り難いと思いました。正社員だから、非正規社員だからというラベルを貼って、それでおしまいというのは余りだろうという話だと思います。全くおっしゃるとおりで、正社員の制度の裏側にある理念というか、理由が長期的な人材育成ということだと思います。「何か合理性を説明しなさい」と言われたら、実務の方はどのように説明するかというと、長期的な人材育成計画に基づいて、正社員というのは雇用していて、非正規社員はそうではないとおっしゃるのではないかと思います。そういったことを求めるというのをガイドラインに書き込むことも、 1 つのアイディアというか、そういうことを考えるべきだというのを御意見と理解してもよろしいのでしょうか。

○新原一億総活躍推進室次長  1 点、事務局からです。もう一度この検討の目的を確認させていただくと、最初にお願いしている点は、ここで同一労働同一賃金を入れるか入れないかを議論するということではありません。入れることを前提として、ガイドラインを考えていく、あるいは法律を考えていくときに、そのガイドラインなり法律を考えていく上で、ヨーロッパの実際の運用がどうなっていて、日本の国内の運用がどうなっていて、といった細かい所をきちんと明らかにしないとガイドラインなり法律は書けません。そこのファクツ・ファインディングのところをここできちんとお願いしたいと考えています。先ほども先生が言われたように、まだそこまで入れてないのですが、判例などを見て事細かにやっていくというのが、この検討会の目的だと思っています。以上です。

○中村氏 細かくファクトとか、賃金を決定する要素を見ることについては賛同いたします。その上で、企業の中の賃金差が生まれているときに、集団的に決まっている賃金体系、例えば正社員と有期社員の賃金体系同士の違いの合理性という判断と、 1 つの賃金体系の中にある複数の社員に対しての賃金の異同。分かりやすいところで言うと、評価によっての上下などです。 2 種類あって、そこはまずは企業の中である程度集団的に決定されている複数の賃金体系の中の異同の合理性に議論の焦点を当てるのか、 A さんと B さんの違いまで見るのかというのも、議論の中にクリアになっていくと、同じミクロであっても入れるべきものと、入れないものが入ってくるのではないかと思いました。

○柳川座長 私がどうこうという話ではないのですが、新原次長からお話があったように、かなり細かい所を海外のケースと日本のケースと比べながらチェックしていくことが大事なのだろうと思います。

 その上で、日本の実状や日本の労働市場全体とか、そういうことも当然考えなければいけませんし、もう少し先の話だと、日本の雇用システムの変化みたいなことを捉えながら、どう考えていくかということも当然考えなければいけないので、個別の所を見ていて、全ての議論ができるかというとそうではないというのが難しいところで、それがそもそもドイツでもフランスでもイギリスでも、全体の回っている労働市場とか、経済システムというのは当然違うので、それを前提にいろいろなものが作られている部分もあって、その辺のフォーカスを大きくしたり、小さくしたりしなければいけないというのはなかなか難しいところだろうと思います。

 ガイドラインということが出てきましたが、今日の議論はまだそこまで行けてなくて、皆さんいろいろイメージされているものはあると思いますが、一応欧州諸国との比較という点で日本をどう考えるか。ヨーロッパの法制度とか、運用の辺りを皆さんに確認していただいて、御存じの方は多いのだろうと思いますが、私も含めて、改めて整理してみると、いろいろ違うのだなということも分かるので、この辺りから順番にということです。

 また戻ってきていただいてもいいのですが、わざわざ区切るまでもなかったのかもしれませんが、後半の2の EU 諸国の法制度・運用等は、既に御議論がいろいろ関連していたような気もします。2から最後まで、あるいは全体を通して、御質問、御意見を出していただければと思います。

○水町氏  1 つだけ派遣についてです。労働協約による逸脱、異なる定めが許されているということが、一般的な形でお話があったように思いますが、結局、協約によって、労使の合意によって異なる定めをすることが許されるかどうかは、中身の適正さとの相互関係のなかで決まっているというのが一般的な対応だと思います。

 例えばインサイダー、アウトサイダーで、インサイダーが締結した労働協約でアウトサイダーを排除するのか、正当と認められるかというと、そうはならないし、そのような場合に労働協約、労使自体が差別を生み出しているということに対する懸念・危機感というのはヨーロッパにもあります。そういう場合には、例えばドイツで派遣労働者について賃金を低く設定する労働協約を締結していたときに、その労働組合が労働協約を締結する協約能力自体を否定するという連邦労働裁判所の判決が出たことがあります。

 他方で、実際現場で労使でいろいろな点を考慮しながら制度設計をすることも大切なので、労使合意、労働協約があることが客観的合理性の判断にプラスにならないかというと、事案によってはプラスになるかもしれない。そういう緊張関係の中で、そういう微妙な個別判断が客観的合理性の判断の中ではなされているということを、補足しておきたいと思います。

○松浦氏 質問に近いのですが、 21 ページの派遣に関する記述で、 EU 派遣労働指令によると、「派遣労働者の労働雇用条件は、・・・同一職務に利用者企業によって直接採用されていれば適用されたものを下回らないものとする」とあります。直接採用した社員と、派遣社員の賃金が同じだとすると、当然のことながら派遣会社の費用が賃金に上乗せされますから、派遣社員のほうがコスト高になります。そうすると、派遣社員はかなり専門的な業務など、コスト高になっても獲得したい人材に絞られるはずですが、前の5ページのデータを見ると、欧州諸国と日本の派遣社員比率はそれほど変わらないので、何となく違和感がありました。違和感があると言っても、どなたに質問していいのか分からないのですが、 EU 指令が厳格に守られていれば、派遣社員比率はもっと低いのではないかという疑問を持ちました。

○水町氏  EU 指令はそもそもそれぞれの国の国内法となって、国内法が各国で適用されるという形になるので、 EU 指令に沿った形での国内法が、先ほど見たように各国でできています。

 ドイツみたいに労働協約を締結して安く派遣の料金を設定するという例を除くと、むしろ派遣のほうが高いことが多い。それは基本的に賃金を同じに払わなければいけないし、そこに派遣会社が取るマージンが上乗せされるので、使っている会社としては直接雇用より派遣の方が高いのですが、基本的には自分の企業の中では育てたりすることができないような専門的な人を派遣で使っていたり、あとは出産・育児や病気などで休業するときに、向こうはジョブ・ディスクリプションが明確になっているので、このジョブの人が 1 年半休みますと言った場合には、それと類似するジョブ・ディスクリプションの派遣の人をスポットで入れて、 1 年半したら、前の人が戻ってくるので、こういう短期的な需要のために派遣を使う。その 2 つが主要な派遣の利用方法となっています。各国で派遣労働者が多いか少ないかというのは、労働市場の構造次第だと思いますが、基本的にはコスト削減をするために派遣を利用しているということは、ドイツ等の例を除くと、多くはないし、法がそのような派遣の利用を基本的に禁止しているというのが、現在の日本と大きく違う点だと思います。

○神吉氏 今の点は、私も去年イギリスに調査に行ったときに、実態を聞きました。するとやはり、派遣で働く人が単純労働に就く割安な労働者だという前提ではないようです。イギリスの派遣業者協会の調査では、派遣労働者の 3 分の 1 は専門職あるいは上級の管理職ということで、そういった人たちを派遣で採るというニーズに着目すれば、割高であっても問題ないことなります。

 もう一つの説明は、資料 26 ページの一番下の※の適用除外が用いられているというものです。派遣元と期間の定めのない雇用契約を締結して、中断期間中に契約時の半額以上、かつ最低賃金の賃金率を払って、最低週 1 時間の労働を保障すれば、賃金に関する均等条件の権利は効力を生じません。この適用除外が、派遣が割高になる法規制を潜脱するために使われている可能性があります。派遣元との雇用契約関係があれば安定的でいいだろうという意図で導入はされたものの、実際には週 1 時間の労働で良いということなので、濫用的に使われていることがイギリスで問題となっているようです。以上、補足させていただきます。

○柳川座長 その他はいかがでしょうか。今のように、皆さん御専門のところから補足でも結構です。

○神吉氏 水町先生に質問です。 25 ページで Ponsolle 判決に関して、これを男女差別だけではなくて、一般的に広げたとあります。この※の所で、非正規雇用と無期雇用との間の紛争自体は多くないと説明されていますが、その理由は何なのでしょうか。そもそも非正規雇用と無期雇用との格差が問題となっていないのか、それとも前提が違いすぎて比較できないということなのか、その辺りを教えてください。

○水町氏  Ponsolle 判決は、 1996 年の判決なのですが、短時間労働者、有期契約労働者、派遣労働者については、この前から立法規定があるので、その立法規定を使えば、あえてこれを引用する必要もないということがあるのかもしれないです。他方で、 Ponsolle 判決以降、有期契約労働者等の事案で、この一般的な同一労働同一賃金原則を援用して裁判上争われたということもあります。要は、原告である弁護士が、どれを法的根拠に使って争っているかということです。同一労働同一賃金原則でいこうと思えばそれは否定されるものではないですし、その射程は一般的には非正規も含めて及んでいると理解してよいと思います。

 賃金制度の所で、例えばドイツだと 15 ページ、フランスだと 16 ページにあります。ドイツ、フランス、ヨーロッパでは職務給で、日本では年功的な職能給だと一般的に捉えられることが多いです。ドイツとかフランスで言う職務給であったとしても、最初入職のときに、どこに格付けされるかというと、教育であったり、学歴であったり、経験であったりで、どこに格付けされるかが決まります。格付けの上がり方というのも、自動的に上がっていくわけではなくて、そこでいろいろな経験やキャリアの形成が入ってきます。それなので大括りの職務の中でどこに位置付けられ、上がっていくかという格付けの運用の中で、キャリアの形成とか経験的なものがヨーロッパでも入ってきています。

 キャリア構想を広げるという最近の動きの中で、 1 つの職務ではなくて、 2 つの職務を射程に入れたり、複数の職務を射程に入れるという話が、さらに新しいヨーロッパの賃金制度として出てくると、さらに日本の職能給に近くなります。これはその背景にある、技術の変化が非常に早くて、世界的な競争をしているときに、賃金制度がそれぞれバラバラでやっていけるかというと、どこかにある程度収斂していくわけです。その収斂の動きがヨーロッパでも、狭い意味での職務給ではなくて、経験とか教育を重視した職業訓練、賃金制度にしていこうという動きとして見られるようになっているんだと思います。

 日本では、もう少し職業能力とか、職務の専門性を考慮した賃金制度にしていこうという状況が見られる中で、ヨーロッパの判決の中でも、単純な職務給を前提としたような法的判断がなされているわけではないということをきちんとフォローして、恐らく次回以降の裁判例を見ていく中で、日本の今後の動きに対して参考になるようなものがたくさん見付かるのではないかと思います。その前提として、各国の賃金制度はこのようになっていて、このような動きをみせていますよ、という理解をきちんとしていくことが大切かと思います。

○川口氏 今の御意見は私も賛成です。もちろんヨーロッパの国々でも、勤続年数が上がれば、賃金が上がっていく形になっています。その裏には技能の蓄積とか、日本とアメリカも含めて、ヨーロッパと共通するようなメカニズムがあって、それを補足するような制度として、こういう賃金表があると考えるのは正しいと思います。ただ、あえて異議を申し立てるとすると、こういう賃金表というのが、産業あるいは職業のレベルであるかないかという違いは大きいと思うのです。

 私は国立大学を転職しても全く同じ賃金で転職しましたけれども、それはかえって特異な例なのかという気がしています。日本だと、本当に同じラインで働いている組立工でも、もらっている賃金が違うと。ヨーロッパでも最近は違うのかもしれませんけれども、伝統的には皆さん同じ賃金をもらっているというスタート地点の違いというのがあります。同じ原理はあるし、年功給というのは日本に特有なように見えるけれども、ヨーロッパにもあるのだというのは全くそのとおりなのですけれども、程度が違うというのがあります。 0-1 だけではなくて、その間のグレーな部分の濃淡が相当日本と比較対象としている国々では違うということも、同時に念頭に置いておく必要はあるのかなと。 1 1 で対応する問題はないと思うのです。それなので個別の事例はすごく大切で、そこから 1 回抽象化して、何を学べて、それを日本にどのように持ってきたらいいのかを考える道筋も大事なのかと思いました。

○柳川座長 今のお話は、今後のところを考えるためにはすごく重要なところです。まず 1 つは職務か職能かというのは余り本質的なポイントではないかもしれないというのが水町先生の御指摘です。それは川口先生も同じです。結局ヨーロッパでも、そこはいろいろなものを取り込む形でできている。程度の問題はあるのでいろいろ考慮しなければいけないポイントはあるのですけれども、そこはもしかすると本質的ではないかもしれないということ。もっと本質的なのは、そういうランクが付くという客観的なカテゴリー分けができているところが 1 つのポイントです。

 そのことによって、同一かどうかという評価がやりやすくなっているということです。正に国立大学の俸給表が決まっているので、どこの大学へ移ってもそこは同じだから同じと。これは同じランクに入っていれば同一労働だから、同一労働同一賃金が実現できていると言えばできている。そのランクの分け方が相当粗いので、この大学でこのランクでやっていた仕事と、東京大学に来てこのランクでやる仕事は、もしかすると全然違うかもしれないということが起きる。そうすると、そのカテゴリー分け、ランキングをどこまで細かくできるかというところが、正規、非正規のところの枠を超えて本質的な問題なのかもしれないということです。

 その意味では、水町先生が最初のほうにおっしゃっていた、ジョブ・ディスクリプションみたいな話がもう 1 つ裏側にあって、何をやっているのかというところが、きちっとディスクリプトできていれば、あとは能力も含めてかなりカテゴリー分けは細かくできます。日本の場合はジョブ・ディスクリプションがきっちりしていないというもう 1 つの問題があるので、やっていることと能力をどのようにランクを付けていくのか、グルーピングをするのかというのは相当難しいという問題があるのだろうと思うのです。それは、何らかの形で、余り無理のない形で同じグルーピングをしてできないか、というところが多分これからの課題なのだろうと思います。

 そう考えたときに、本当は非正規だけの話ではなくて、正規のほうの今の評価の仕方、ジョブ・ディスクリプションの仕方という辺りが、本当は大きな課題になってくるのだろうなということを、今のお話を伺っていて感じた次第です。だから、ここでどうできるかというのは、また別問題ですけれども、多分そういう話なのだろうと思います。

○松浦氏 先ほどのお話で、欧州でも職務の範囲はそれほど狭くなくて、むしろ広がってきているというのはおっしゃるとおりだと思います。ジョブ・ディスクリプションがある社員の中でも、職務の幅は広がってきていて、幹部候補生や幹部については、実態としてジョブ・ディスクリプションそのものがほとんどないともいわれています。

 日本のホワイトカラーをどこに位置付けるか、つまり彼ら、彼女たちは幹部候補生なのか、あるいは幹部候補生と思っているけれども実は違うのかというあたりは難しいところです。日本のホワイトカラーと欧州の幹部候補生はやや位置付けが違うというところも、考慮に入れていく必要があるかと思います。

日本の大企業の人事管理についていうと、恐らく一人前になった後については、かなり役割給、職務給になりつつあります。一方で、一人前になるまでの期間は職能資格制度がメインだと思います。つまり、育成期間については職能資格制度で、育成が終わったところで職務給に移行していくというパターンが、大企業に広がりつつあります。

 欧州との比較で特に難しいのは、先ほどから何回か出ている、雇用管理区分、社員区分の問題です。日本の場合、新卒一括採用をして長期で育成していくという、長期的なキャリアを念頭に置いて期待する役割が設定され、それに基づいて社員区分が分けられるというように、最初の期待役割が正規社員と非正規社員で大きく異なるというところが、欧州との一番大きな相違なのではないかと思っています。

○水町氏 今の議論の中で大きく 2 つあって、 1 つは企業を横断するような制度の議論と、企業の中での個別の処遇の議論というのがありました。前者については、例えば企業横断的な統一的な基盤であったり、普遍的な制度であったり、これは産業別労働協約で形成されている場合もあるかもしれないし、労働市場で全部ビビッドに反応していれば、労働市場によって共通基盤がある。そういう共通の普遍的な基盤があれば、企業間の移動はしやすい。それによる社会的な公正な処遇を確保しやすいという話はあって、それはそれで大切なところだと思います。

 他方、今回の議論の中で中心になるのは後者の議論で、企業の中でどういう処遇が取られているかという点です。その企業の中の処遇で、例えば正規と非正規を分けているとか、短時間とフルタイムが違うとか、有期と無期で分かれているという処遇の中で違いを設けることが、客観的に正当化できるのか、合理的だと判断できるのか。

 その点で言うと、海外でも本日お話があったように、それぞれの企業の中で上乗賃金部分をどうするかということがあります。その他産業レベルでは基本中の基本だけしか決まっていないので、個別の手当なり、個別の給付・処遇というのは企業の中で決められていることが多い。その中で、例えば勤続期間の短い人を排除するとか、短時間労働者にある制度を適用しないという場合に、これが正当かどうかというのが、外国ではたくさん議論されてきています。前者の問題は確かに重要なのですが、企業の中での処遇の問題で、これが客観的に正当化できるか。個別の取扱い・処遇・手当の中で正当化できるかという議論は、ヨーロッパのなかにもたくさんあります。

 それが日本でも参照基準として重要な役割を果たすのではないかということが、これまで研究した成果として言えると思います。次回以降、それが具体的に出てくるかと思います。

○柳川座長 正にポイントは企業内にあるのでそのとおりだと思うのです。難しいのは、企業内の処遇の正当化の正当化を判断する際には、当然企業間の話だとか、外の労働市場だとか、もしかするとマクロ的な環境とか、そういうものがかなり違うと、企業内の正当化の評価が変わってくるというところが多分難しいところなのだろうと思います。

○川口氏 市場と企業内の話を分けるという話で、それは 1 つの整理の仕方としてすごく明確だと思うのです。アメリカのように労働市場が流動的な国だと、そこは余り区別がないと思うのです。アメリカの労働者の賃金を見ても右上がりになっていきます。勤続年数が伸びれば賃金も伸びます。経験年数が伸びると賃金が伸びる。そういう関係はあるのですけれども、その裏にあるメカニズムは、企業の中で賃金制度がうまく設計されていてという部分もないとは言わないですけれども、やはり高い技能を持っている人が、賃金が低いままにとどまっていると、外からオファーがやってきて、それに対してカウンターオファーを出さないといけないから、賃金が上がっていくという、何か市場メカニズムと、企業内の賃金決定のメカニズムがかなり渾然一体となっているところがあると思うのです。

 日本は、そこまで労働市場が流動的ではないので、そんな中でどうしても人的資本というか、スキルを労働者に身に付けてもらおうと思うと、賃金制度を工夫して、一生懸命頑張った人は将来賃金が上がりますよということを、労働者に納得してもらえるような制度を作ってこなければいけなくて、その中で流動性が低いので労働市場とある程度分断しているわけです。そんな中で自由に企業が、自分たちの事情に応じて賃金制度を開発してきたというか、職能資格給も、それは人為的にコンサルタントが努力して開発してきたものなので、自然に成立しているというよりも、作られた制度なわけです。

 そういう意味で言うと、すみません何が言いたいのかがはっきりしなくて申し訳ないのですけれども、日本の市場の話をすると、どうしても企業内の賃金制度の話が非常に重要なのです。そこの長期的な人材育成ということの対象になる人とならない人で、正社員と非正規社員の問題が出てきてしまっているということが大事だというのは、松浦委員がおっしゃられたことはそのとおりだと思いました。

○中村氏 正に川口先生がおっしゃった点は、多分裏表の話だと思うのです。日本は外部労働市場で、職種横断的な賃金相場が形成されていません。企業個別的に決まっています。結果として企業間を移るときの賃金の決定の仕方として、前回御指摘したように、 1 つ雇用慣行があります。もう 1 つ前職考慮という、前職に見合った賃金でそのままスライドしてくるということがあります。それは、その人が担っている役割だったり、その人が蓄積した技能とは全く違うロジックで入っている。

 恐らく日本が企業個別的に賃金体系を整備している中で、労働市場との整合性を、この議論の中でどのように整理するのか。それは全く分断していて、その市場による差異は今回のミクロの検討を要素に入れないという判断も 1 つある。いやいや、横断的に何かを決定していく方向でそこを決めていくのだという、そこはこれからの進め方を決めていく上で、大きい分岐点なのかと思いました。

○新原一億総活躍推進室次長 この議論は与党でも政府内でもなされてきて、それでこの会議を開くことになりました。その議論の中でいくつか出てきたことがあります。 1 つは川口先生が言われたように、個別企業における処遇のあり方については、もちろん全体の市場を無視して、各社が設定できるわけはないわけです。それはリンクしているのだと思います。ただ、アプローチの仕方として、水町先生が言った話というのは、どのように個別企業における処遇の差の合理性が争われるかというとそれは裁判で争われるわけです。

 そこはミクロで争われます。つまり、ある人とある人の処遇の差がどうなっているか、それは合理的かどうかということが争われるわけです。そのときに企業側は、それではやっていけないからだとか、ある人のほうは育成する価値があるけれども、ある人育成する価値がない、なぜならばということを説明していくわけです。訴える側は、いやある人とある人はほとんど同じではないですか、何年の違いもないではないですか。これまでも同じように仕事をしてきているではないですかと説明し、ミクロで争うものだと思うのです。

 そのときに、政府がこれは問題だというのは、市場の問題があるからなのです。全体のルールメイクを法律でどうするのかを決めておかないと、 1 社だけ私が自発的にやったのですと言うのでは、採用の際に別の企業に人を引き抜かれたり、あるいはその企業ところだけ人が来たりすることが起きるから、したがってこれは国がやることであって、法律で決めなければいけない。だけど、その法律を使ってどう争うかと言ったらミクロなのです。つまり、ミクロで争って、その結果として制度ができて、それによって市場は変わっていくのだと思います。ルールが変わるわけだから、マーケットの構造が変わると思います。ミクロの話はマクロの話に影響がない、とは全然言っていなくて、むしろ個々のものから議論していかないと、なかなか全体の議論ができないと、思ってきています。マクロでない議論の仕方をしても全然問題はないです。

○柳川座長 前回からずっと出ている話なのですけれども、考える視点はいっぱいいろいろなことが必要で、マクロの視点も考えなければいけないし、マーケットの視点も考えなければいけない。考えて議論する視点と、実際我々が何かフォーカスをして、制度設計に何か提言をするときの押さえる範囲の視点とはちょっとずれないと、この話は、全部の日本の労働市場を再設計しましょうみたいな提言はなかなかできない。でも、こういう話は日本の労働市場の全体の再設計を、あるいは全体を見渡さないと、当然ここの部分の議論はとてもできないという悩ましいところだと思うのです。

 先ほど来おっしゃっているように、そのときに労働市場の流動性がアメリカに比べて圧倒的にないのですけれども、全くないかというとないわけではない。そこは、どの程度の流動性がどこにあるのですか、あるいはこれからどう出てきますかというところは、もう少し具体例になったときに皆さんで御議論いただかなければいけないのです。その意味ではヨーロッパの事例は、アメリカの事例とはまた違った形での流動性のある、流動性の程度の世界なので、すごく参考になるのだと思うのです。ただ、日本と全く同じではないので、中村委員がおっしゃったように、日本ならではのポイントをどこに置くのか、どの程度の流動性を考えるのかというのは、多分最後まで議論になるところなのだろうと思うのです。

 もう 1 つのポイントは、流動性がないからこそ、ここは新原次長の話だったり、川口さんの話ですけれども、流動性がないからこそ、実は水町さんが最初にっしゃった、正当化されているかどうかは法律でちゃんとチェックしなければいけないという側と、流動性がないからこそ、ある意味で企業がかなり工夫をしてきて、ある意味で様々の工夫の結果がここに現れてきているというポジティブな面と両方あるで、この辺りも個別に見ていかないと、大雑把な議論はできない話なのだろうと思います。その辺りがこれからのポイントかと思います。

○水町氏 長期的な人材育成の話が先ほど出ていましたが、長期的な人材育成はとても大切です。これは日本だけではなくて、外国でも長期的な人材育成のためにどういう賃金制度を作ろうかということを腐心して一生懸命やっています。長期的な人材育成と、そういうキャリアの展開とリンクした給付は、果たしてどこの給付にリンクしているのか。日本の企業というのは、いろいろな手当とか給付をしています。その中で長期的な人材育成と関連のないようなものはたくさんあります。そこの切り分けと、例えば安全管理というのであれば、同じようなリスクに置かれている人については、同じように安全のための給付をしなさいという話になる。

 長期的な人材育成と関係している、関係していないというところを分けつつ、その他のものについてはなぜ支給されているか。その性質とか目的から同じに支給しなさいと。差を付けるとすれば、程度としてどれぐらい差を付けてもいいですよという話が恐らく出てくる。あと、長期的な人材育成と一番リンクしているのは基本給と教育訓練です。これは長期的に育成する人材と、短期で雇用して長期的には育成しない人材というように分けたとすれば、それはそれで 1 つの理由になります。そういう理由になったときに、それでは基本給が 100 40 でいいかというと、 100 40 は長期的な人材育成でも説明できないだろう。説明できるのはどのぐらいかという程度の問題も併せて出てくるので、その辺を含めて、何がリーズナブルなのかという議論を今後積み重ねていくことになるかと思います。

○松浦氏 内部労働市場における長期の人材育成を前提に、賃金制度や社員区分制度を作っているという前提で、 A さんは長期的育成の社員区分に入っている、 B さんは入っていないというときに、悩ましいのは、 1 時点の賃金水準だけで A さんと B さんを比較していいのかどうかということです。例えば長期的育成の社員区分の賃金カーブは、 S 字型のカーブに設定されることがあります。 S 字型のカーブは、同じ企業に長期に勤め続けるインセンティブになります。つまり、賃金カーブそのものが、その社員区分に対して適用される賃金制度なのです。

A さんと B さんを比べるときに、こうした長期的な賃金制度というものを、どこまで加味して考えるかというところが、まだ頭の中でうまく整理できていません。欧州の判例の中で、そのような悩みに対する示唆があるのであれば、是非勉強、議論したいです。

○中村氏 今の点に補足します。限定正社員制度に関して、企業にヒアリングをしていると、通常の正社員と違う体系として、ジョブが同じなので、勤続が重なっていっても賃金を上げていかない。雇用契約は無期だけれども、年功であがっていくようなカーブではなくて、平らな賃金体系を入れることが、企業の総額人件費を管理する観点からは合理的だと判断しています、というお話を聞いたことは何社もあります。

 そういう意味でいくと、長期雇用を前提にしたとしても、現状で言うと賃金パターンが違うタイプというのは企業の中に内在しますので、正にそこもどう考えていくか、本当に大きな分岐点なのかと思います。

○柳川座長 ここは難しいですね。賃金パターンは違うのだけれども、トータルで見ると同じだという話を、どこでどうチェックするのかは難しいです。

○川口氏 私も一点一点で必ずしも生産性と賃金が一致していないという点は気になって考えていました。あり得るとすると、反論しているわけでも全くないのですけれども、賃金を後払いにして、若いうちは、例えば正社員は長期雇用を前提としているので、生産性よりも低い賃金を支払うということがあり得るのだと思うのです。でも、その低く支払われている賃金と比べてすら、非正規社員の賃金が低いという現状なのです。大事なポイントだとは思うのですけれども、今の問題を考えるときは、取りあえず脇に置いておいてもいいのかとも思いました。それが 1 つです。

 次長からお話があった点は、私も賛成というか、全く意見に違いがあるわけではないと思っています。要は社内のミクロとマクロの話なのですけれども、今はミクロのレベルで、正社員に関しては賃金表で決めていますと。非正規社員に関しては一気に市場に行っているわけです。 1,200 円で雇えるのだから、 1,200 円で雇えますという説明原理で、それを禁ずるものはないという状況だったと思うのです。例えば、自分が人事の担当者で、何か説明責任を求められたときに、 1,500 円支払いますと自分が思ったとしても、なんで 1,200 円で雇えるのに、 1,500 円出しているのだということに対して説明をしなければいけない状況はあり得ると思うのです。そういうときに、こういうガイドラインなり何なりが入ってくると、現状を変える力があるというのは十分にあり得ることだと思うので、非常に重要なポイントだと思います。

 長期的に見たときに、やはり人材育成が大切だという話は、多分根っこにある問題はそこで、それをどこまで認めるのか。結局、長期的な人材育成をして、それが生産性にどれぐらいはね返ってくるのかをどうやって見るのか。経済学者は、違う賃金であるからには、違う労働をしているはずだというように、どちらかというと考える。この前、安藤さんが日経新聞に記事を書いていましたが、一物一価の法則というのがあって、 1 つの物には 1 つ値段が付く、というような考え方をしてしまうので、どうしても生産性というのは、ある程度賃金に反映されているはずだと考える。ここでの議論は生産性と賃金がかい離しているのではないかという問題意識が前提になっていると思うので、そうすると、生産性というのを一体どのように測るのかということに関して、何か客観的な基準を持ってこないと難しいと思うのです。これだけ生産性が上がっています。その生産性の上昇を、賃金以外のもので何らかの形で測らないと、これが合理的な差なのか、非合理的な差なのかを区別することができないので、それがかなり大きな課題なのかという気がしています。

○水町氏  1 つは、賃金制度としてどういう制度をとるかというので、今は同じ仕事なので同じにするけれども、将来については賃金後払いで、生産性が上がった分だけ後で払うという賃金制度もあるかもしれない。効率賃金仮説で、将来に向けて期待しているので、最初から賃金カーブを別にしますよという賃金制度もあるかもしれない。どの賃金制度をとりなさいということは、どの国の同一労働同一賃金原則であっても、合理的理由のない不利益取扱いの禁止原則であっても特に求めていません。要は、どういう賃金制度を採用し、それが客観的に合理的なものだということをきちんと説明できるか。労使関係の中では、こういうような違いがあるけれども、それはこういう理由によりますよと話し合いができるか。それが最終的に裁判になったときに立証責任の問題になって、裁判官が納得すれば、これは合理的であり適法と。裁判官が合理的なものとして納得できないとすれば、それは違法となります。裁判官は、その中で経済的な理由とか、企業内の処遇の社会的公正さとか、いろいろなことを考えた上で、最終的に判断することになります。これが 1 つです。

 もう 1 つは、生産性の把握です。それを法的な制度としてやろうという提言があるのが、同一価値労働同一賃金という、労働の価値を客観的に把握して、それに沿った賃金制度にしていこうという取組みが、例えば ILO 方式であったり、日本版の修正方式であったり、いろいろな価値の測り方がなされています。

 これをどこまで取り入れるか、取り入れないかという点ですが、正規労働者と非正規労働者間の格差問題について、一般的な制度として、どの会社もどの賃金制度についても、同一価値を客観的に評価した上で制度を作りなさいということを法的に強制することは難しい。ヨーロッパでも、正規・非正規の格差問題について、同一価値労働同一賃金原則を法律上定めている国はない状況のなかで、今回の法律の中に同一価値労働の場合には同一賃金を支払いなさいと、法的に一般的に書くことはなかなか難しいのではないか。もしそのように法律上書くと裁判になったときに、裁判官は常に同一価値の評価をした上でないと判決を書けなくなってしまいます。

 ただ、具体的に企業の中で労使で話合いをして、何か賃金を違うものにする理由があるときに、どういう賃金カーブとか、どういう賃金の違いにしようかというときに、我々の中で生産性なり価値なりというものを個別に評価しながら、それに見合った形で賃金カーブを描いたり、賃金の差を価値に見合ったものにしようとすると、それぞれにとって納得性の高いものになるし、相手にも説明しやすくなる。そういうのをちゃんとやっていないと、例えば裁判になったときに、確かに前提条件に違いがあるけれども、 100 50 ほどの違いはないのではないかとなって、原告である労働者が、こういう方法で職務評価をしたら、職務評価としては 100 80 ぐらいなのに、賃金が 100 50 になっているから、これは開きすぎではないかと言って、裁判官がこの事案では開きすぎですよねと判断して、賃金格差を是正する判決を書く。

 そういう個別の当てはめの問題の中で、そういう生産性とか価値の評価というのが、事案によっては出てくるかもしれない。その点を視野に入れながら、個別の議論をしていくことになると思います。

○新原一億総活躍推進室次長 ちょっと補足させてください。先ほど長期育成の正社員と有期雇用の非正規の人がいる場合に、非正規の方はリスクがあるので、非正規の人のほうが瞬間的には給与は高いはずだと。これについては、正規の人が自分は安いと文句を言っているのに対し、その正当性としてあなたは将来的に高くなるのだから、という議論なら分かります。

 日本の場合に問題になるのは、非正規の人のほうが安いと言っていることです。水町先生が詳しいのですが、ヨーロッパの場合は、その逆で訴えているケースがあります。結婚式の会場の何かの運営会社で、ある人が産休に入ったので、やむを得ず一時的に雇ったところ、雇うためにノウハウのある人を採ったので、給与が高くなったのです。それはおかしいと言って、産休に入っている人が訴えたケースがあります。その議論だとあなたはずうっと職場が確保されているのだから、正職員なのだから、あなたは将来的に賃金も確保されているのだし、それはいいだろうという議論はあると思うのです。ずうっと非正規の人のほうが低いということ、日本ではその争いしか起きないということは説明できないです。それは川口先生が言われたとおりです。

 もう 1 つマクロとミクロのところで言うと、マクロで見ると日本の場合、正社員については将来のことを考えているため、同一労働同一賃金は難しいという議論があります。そして、そのためにミクロでも難しいと。恐らく、日本の企業は今まで、差の理由が合理的かどうかについて説明する必要はなかったのです。多分、それが一番問題なのです。個別企業の制度は、日本全体の共通な慣行と違っていたとしてもいいのです、企業戦略なのだから。でも、あなたは本当にそれを戦略に基づいて判断していて、その理由も公に説明できますよね、ということが問われる機会がないのです。そのままではいけないというのが、今回の検討が必要である理由のひとつなのです。

○松浦氏 ご指摘ありがとうございます。私が賃金カーブの話をしたのは、長期的な観点で社員区分が設定されているということを申し上げるためです。正社員と非正規社員という社員区分については、企業の中で求められる役割が違うので、最初の水準設定も異なってきます。両者が全く同じ役割を期待されている場合に賃金カーブがどうなるというお話であれば、おっしゃったように、短い雇用期間のほうがリスクプレミアムとしてむしろ水準が高くなるというロジックになるのでしょうけれども、実際は企業の中で、正社員と非正規社員に期待されている役割が異なるので、賃金水準のカーブも非正規社員のほうが全般に低くなっているのが実態だと思います。正社員の賃金カーブの話をしたのは、あくまでもその一時点での賃金水準の比較が適切なのかどうかという論点の提示のために申し上げただけですので、その点、補足させて頂きます。

○新原一億総活躍推進室次長 分かりました。先ほどの私の理解は、将来に高くなっていくということがあるから、一時点での賃金で切るというのは難しいと言われたことによるものです。ただ、今のように言われたとしても、役割が違うということについて、やはり企業はきちんと説明しなければいけないのだろうなと。その個別ケースについては、マクロで慣行が違っているという説明ではいけないのだろうなという気はします。

○柳川座長 いろいろ御議論はあると思いますけれども、本日はここまでにさせていただきます。次回以降の進め方について説明をお願いします。

○河村民間人材サービス推進室長 次回の日程は改めて御連絡させていただきます。これまでの議論を整理させていただいた案を出させていただきます。

○柳川座長 これをもって、本日の検討会は終了いたします。お忙しい中をありがとうございました。


(了)

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