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2016年3月17日 第4回「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会 議事概要

政策統括官付労働政策担当参事官室

○日時

2016年3月17日 14:00~16:00


○場所

厚生労働省共用第7会議室(5階)


○出席者

青野氏、磯山事務局次長、浦野氏、金丸座長、小林(庸)氏、小林(り)氏、中野氏、松尾氏、御手洗氏、柳川事務局長、山内氏、山川氏

○議事

○金丸座長 

それでは、定刻となりましたので、ただ今から第4回「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会を開催させていただきます。

 皆様大変お忙しい中、お集まりいただきまして、ありがとうございます。

 本日、大内さん、冨山さんは、御都合が合わず、欠席されております。

 また、小林りんさんは、所用のため会の途中にて御退席される予定です。松尾さんは会の途中から御出席される予定でございます。

 それでは、議事に入ります。よろしくお願いします。

 それでは、1つ目の議題ですが、2035年の働き方を考えていくに当たりまして、参考情報として、厚生労働省から、資料1に基づき「一億総活躍社会の実現に向けた取組について」御説明をいただきたいと思います。

鈴木参事官、よろしくお願いします。

 

〇鈴木労働政策担当参事官 

それでは、資料1に従いまして、現在取り組まれております一億対策の概略について御報告申し上げます。

 まず2ページをお開きいただきますと、今回の一億対策は「アベノミクスの第二ステージ」でございまして、「アベノミクスの第一ステージ」で景気が回復に向かいまして、デフレについては脱却の一歩手前まで来たことを契機といたしまして、新しい三本の矢を放つことによって50年後も1億を維持することを目的に取り組むものでございまして、おおむね10年ぐらいのスパンの対策を考えるというものでございます。

 第一の矢から第三の矢まで新しい矢がございまして、『希望を生み出す強い経済』、『夢をつむぐ子育て支援』、『安心につながる社会保障』、この3つについて検討をしておりますが、パートが2つに分かれておりまして、1つ目の緊急対策については、一番下にございますが、1126日に、特に補正予算などを伴いまして緊急に実施するものについては、一億の国民会議におきまして取りまとめて、実施の体制に入っておるというものでございます。

 現在検討をしておりますのが2つ目でございまして、今年の春ごろを目途に、「ニッポン一億総活躍プラン」が、大体10年ぐらいのスパンのロードマップをつくるというものでございまして、こういう作業を今進めておるというものでございます。

 概略については3ページを御覧ください。この図が一億対策の全体像を表しているものでございますけれども、一番下のところ、「50年後に一億人を維持」が最終目標でございます。そのために、的を3つ。「GDP600兆円」、それから、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」の3つの的を設けまして、それに向けて3本の矢を放つと、こういう中身でございます。

50 年後に1億人を維持するためには、まず、左側の「希望を生み出す強い経済」が必要で、色々な対策を講じましてこの強い経済を生み出していくということでございますが、これまでの旧「三本の矢」が一番左の「新・第一の矢」に吸収されると、こういう整理でございます。

その際の課題といいますか、一番の不安要素については、左から上に向かって青い点線矢印がぐっと右に曲がっておりますけれども、そこの先にある「労働供給の減」でございます。少子高齢化で労働人口が減ってまいりますので、これが経済の成長の阻害要因になるのではないか。これを何とかしようというのが、その下にございます「第二の矢」、「第三の矢」でございます。

少子化が一番の問題であれば、まずは少子化を何とかしようということでございます。これが「第二の矢」でございます「希望出生率1.8」でございます。この1.8というのは、大体若い方9割ぐらいは結婚をされたいと考えておって、そのうち子どもがどれぐらい欲しいかというと、2人ぐらいいるということで掛け算をしまして1.8と。希望が叶えば、この1.8は実現できるというものでございまして、現在の1.42からまずは1.8を目指そうというもので子育て支援対策をやっていこうというものでございます。

ただ、子育て支援対策が上手くいっても、今生まれました子どもは20年後ぐらいからしか働けませんので、その間をどうするかということについては「第三の矢 安心につながる社会保障」で、特に「介護離職ゼロ」を掲げてございます。これは御両親の介護等によりまして、仕事を続けたいにもかかわらず仕事を辞めざるを得ないという方がいらっしゃる。統計上は、この方が年間10万人出ておりますが、ただ、このうちの4割の方は御自身が望んで、自分の親でありますから介護をしたいと御希望をされている方でありますので、大体6万人ぐらいが不本意で介護離職をしているということでございます。高齢化社会に入っておりますので、こういった方がどんどん増えていくであろうと。これを何とかしないと、壮年期で働き盛りの方がどんどんリタイアしてしまう。これを止めようということで「介護離職ゼロ」という目標を掲げまして、具体的に、安心につながる社会保障、介護サービスの確保等々をやっていこうというものでございます。

こういう第二・第三の矢を踏まえまして、また、矢印が右下から左に向かって進んでおりますが、この労働力人口をある程度確保することによって、「希望を生み出す強い経済」につなげていこうと。ただ、これで頑張ったといたしましても、それだけでは600兆は達成できない。そこでもう一つ、左下にございます生産性革命でございます。GDPは労働投入量×労働生産性でございますので、労働投入量をある程度確保しても、さらに増やすためには労働生産性を上げていかなければいけないということで、現在、内部留保で溜まっておりますものについて、IT投資とか人的投資の拡大によりまして生産性を上げていただいて、もう一度強い経済にぐるっと回していこうと。その際に、さらに左の方にございますように、そこで生み出されましたGDPについては、賃上げによる労働分配率の向上で国民に還元することによって消費に回り、それが企業収益に回り、さらに、もう一度投資に回って、ぐるっと回ってくる。これがアベノミクス第二ステージの一億対策の概略でございます。

以下、4ページ以降ですけれども、11月段階で示されました緊急対策について、その矢ごとにまとめたものでございまして、要点だけ申し上げますと、4ページが第一の矢についての内容ですが、ここでは2つ目の■の最低賃金・賃金引上げ。先ほど申し上げたように、経済の成長について国民に分配されないと消費に回っていかないということで、まずは最低賃金を年率3%を目途として、全国加重平均が1,000円になることを目指す。現在800円ぐらいでありますので、それを200円ぐらい上げていこうというものでございます。

それから、過去最大の企業収益を踏まえた賃上げをやっていこうということで、現在春闘、昨日が集中回答日でしたが、賃上げについて働きかけておると。

それから、3つ目の■の1つ目。103万、130万の壁ということで、例えばパートの方の賃金を上げたとしても、この103万、130万の壁がありますと、上がった分だけ労働時間を減らすと、こういう行動に出ることもありますので、この壁を何とかしないと、そこで労働参加が生まれていかないのではないかということで、こういったものを何とかしようというものでございます。これについて厚労省関係で予算を記述してございますのが5ページ目でございまして、今申し上げたところについての補正予算、28年度当初予算で要求しておるものについてのまとめでございます。

続きまして、6ページが「新・第二の矢」の1番目でございます。「希望出生率1.8」でございます。ここについては、まず結婚できるような環境をつくっていこうということで、若い方の円滑な就職支援、なかんずく、非正規雇用の労働者の正社員転換・待遇改善を推進していくことがまず出てまいりまして、それから、■の2つ目で不妊治療への助成の拡大等々でございます。

それから、7ページにまいりまして、続きます対策ですけれども、例えば1「・」目の「待機児童解消加速化プログラム」に基づく認可保育所等の整備の前倒し。これはもともと29年度末までに40万人分確保することを50万人に拡大いたしまして、緊急対策でやっていく等々でこの1.8につなげていこうという緊急対策がなされてございます。

これについての予算については、8ページに、上半分が働き方改革・両立支援、それと、下半分の総合的子育て支援、この両輪で対策を講じていこうという中身が記述してございます。

それから、「新・第三の矢」でございます。「介護離職ゼロ」ですけれども、9ページにまいりますが、まずは、介護施設、在宅サービス、サービス付き高齢者向け住宅の整備量を12万人前倒し。これについては2020年に向けて38万人分建設することをこれまで計画しておったのを、プラス12万人を上乗せいたしまして50万人の整備を行うというものでございます。

併せまして、■の2つ目ですが、施設を作っても、そこで働く方がいらっしゃらないとなかなかそのサービスが提供できないということで、この人材の育成が一つの柱になってございまして。まずは、学生に対する貸付の拡大とか、介護ロボットの導入により負担の軽減、それから、ICTの活用などにより事務負担も軽減して介護の実務に専念いただく。こんな対策を盛り込んでおるものでございます。

それから、10ページへまいりますと、介護等の両立対策も含めて、1「・」目ですけれども、介護休業とか介護休暇、それから、介護休業給付等の拡充によりまして、介護に取り組む家族が休みやすい等の環境整備を図るということと。3つ目の■ですけれども、雇用保険の適用年齢の見直し。これは65歳以降も雇用保険を適用するという改正でございます。それから、シルバー人材センター。これは高齢期におきます「臨時的」・「短期的」の就労を提供する場ですけれども、こういったものを見直すことによりまして、この対策を推進していこうということで、今申し上げました5つ、介護休業等、雇用保険等については、現在、雇用保険法の一括改正法という形で国会に提出しておりまして、ちょうど衆議院を通過したところでございます。これに関しての予算が11ページと12ページに記されてございます。

13 ページ以降が、第二のブロックでございまして、緊急対策の後に、1月から国民会議が再開されてございまして、ここで緊急対策ではロケットスタートを切ったけれども、今春策定予定の『ニッポン一億総活躍プラン』に向けて、より構造的な問題を検討していこうということで、次の3つの骨格を総理から提示されてございます。

1つ目は働き方改革でございまして。具体的な内容としては、同一労働同一賃金の実現よる非正規の待遇改善、2つ目が定年延長企業の奨励等の高齢者雇用促進、それから、3つ目が総時間労働時間抑制等の長時間労働是正ということで、非正規の方の処遇改善とか、高齢者、特に日本の高齢者の方は非常に働き者でございますので、こういった方たちができる限り働き続けられるようにという対策。それから、特に女性について、男性がばりばり長時間働いていると、それと一緒になって働くことはなかなかできないということもあるので、とにかく総労働時間を抑制していこうということで、長時間労働の是正が取り上げられてございます。

それから、2つ目が子育て・介護の環境整備です。特に保育・介護の人材確保がこのプランの中で取り上げるというものでございます。

それから、3番目としては、成長と分配の好循環のメカニズムを示していくということで、これについては前の三本の矢から継続をしていくというものでございます。

そこの下から3行目にございますとおり、一億総活躍プランにおいては、10年間のロードマップを策定することが示されてございます。

その次の14ページが、その際に、厚生労働省からお示しした、この対策に向けてどういうことを厚労省はやっていくかということで、右側の「厚生労働省の検討」の1番目「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会を挙げさせていただいておるところでございます。

それから、15ページが、その後、第5回目以降は、各論についての国民会議が開催されていまして、この会については、同一労働同一賃金の話と高齢者の就業促進について議論がなされておりまして。総理から、同一労働同一賃金については、躊躇なく法改正を進めていくということが宣言されたというものでございます。

簡単でございますが、こちらからの御説明は以上とさせていただきます。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 それでは、ただいまの鈴木さんの御説明に関して、皆様から御質問や御意見など、御自由にお話しいただきたいと思います。どなたかいらっしゃいませんか。

 それでは、小林(り)さんお願いします。

 

〇小林(り)氏 

御説明ありがとうございました。大変興味深く拝聴いたしました。すごく沢山精力的に色々な政策課題を初めて勉強させていただいたのですけれども、2つ御質問させていただければと思いまして。

 まず9ページ目で、介護サービスの充実はものすごく喫緊の課題だと思うのですが、外国人の介護士の方々に対してもう少し門戸を広げるとか、ハードルを下げるといったようなことが検討されているのかということを1点お聞き申し上げたい。

 それから、前々回、青野さんのテーマは、副業を禁止することを禁止した方が良いという、すごく面白い提案だなと思ったのですが、たまたま先週でしたか、経済財政諮問会議でも、副業を少し推進した方が良いのではないかというような御提言もあったということで、それはただ面白い発想だねというレベルの話なのか、あるいは、かなり現実的な政策となり得るかどうか、その2点をお聞かせいただければと思いまして、よろしくお願いいたします。

 

〇鈴木労働政策担当参事官 

まず1つ目の外国人については、政府の中では、外国人の介護については、今、技能実習法という、外国に対して技能移転のために日本に労働者の方を受け入れまして、数年間の技能実習を経て国に帰っていただいて、そこでその技能を生かして、また、そちらの国の建設に当たっていただくという制度について、その介護等についての受入枠の拡大も含めた法案を出してございます。これは前通常国会に出したのですが、継続審議という段階でございます。

それ以外の外国人については、EPAという二国間の経済連携協定において、フィリピンとかインドネシアの方から二国間協定に基づいて、外国人の介護人材の受け入れをやっているということでございまして、これは以前からやっておるものでございます。手に職がある方の問題でございますから、そういったものについての受け入れは、この法律の改正も含めて検討はしているところでございます。

それから、副業については、実は、これまで労働分野のところであまり正面から取り上げられることはなく、ある意味企業の自主性にお任せしていたというのがこれまでの実情でございます。前回の経済諮問会議で副業のことも取り上げられて、今後、議論が進んでいくのではないかなと私どもも期待しているところでございます。

 

〇小林(り)氏 

追加で1点目についての再度質問ですが、もちろんEPA等で人材の受け入れをされているのは存じ上げている一方で、例えば日本語検定試験などが足かせになって、枠があるにもかかわらず、それをかなり大幅に下回る人数しか入っていないと聞いたことがあるのですが、実際にどのぐらいの人数を受け入れられる体制があって、現在、どれぐらいしか来てないかということがデータとしてあれば教えていただけますか。よろしくお願いします。

 

〇岡崎厚生労働審議官 

EPA は私が前に担当していたので。EPAによる介護福祉士の受け入れは3か国とやっていますが、例えば介護については、毎年、各国300人という枠は一応設けていますが、こちらの需要も必ずしもなかったりとか色々なことがあって、正直言ってそこまで入っていないと。これについては、介護福祉士の資格を取っていただければ、そのまま日本に居られるということになっておりますが、なかなか資格が取れないということもあります。試験にルビを振るとか色々なことはやって、あるいは日本語教育も国費をかけてやっているのですが、想定したほどは入ってないというのが現状です。

 先ほど鈴木から言いましたけれども、1つは技能実習を適正化する中で、介護についても技能実習制度を新たに始めたいということで準備はしているというのが1つと。

 それから、別途、入国管理法という法律の改正案ができて、これはEPAとかに関係なく、日本の学校を出て介護福祉士の資格を取った方については、将来的にずっと在留資格を与えようという。これは介護について、もちろん日本人の確保も重要ですが、今後増える需要の中で外国人の方々にもある程度活躍していただくというのは重要なポイントだろうと思っております。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 中野さん、お願いします。

 

〇中野氏 

参事官にお伺いしても仕方がない部分もあるというのは理解した上であえて聞くのですけれども、子育て支援のところを見たときに、私、実は、三世代同居の話が非常に引っかかりまして、ヤフーニュースで記事を書いたりしています。これはどちらかというと国交省の予算だと思うのですけれども、働き方改革はもちろん必要で、多くの働いている現役世代が普通の時間に帰って来ることができて、子育てとか介護を担えるのは必要だと思います。

でも、働き方改革はもちろんするのだけれども、現役世代が外で働いている間、ケアを誰が担うかということを考える上で、家族がどこまでやり、社会でどこからを引き受けていくのかというのは欠かせない議論だと思います。この子育て支援の中で三世代同居の話が入ってきた背景として、どういう考えのもとでこういうことになったのかというのをお伺いできればと思います。待機児童が解消できない期間の次善の策として入れられているのか、割と長期的な見通しとしてこういう三世代の支え合いを重点とした社会を目指しているのか、その辺お伺いできますでしょうか。

 

〇安藤政策統括官 

三世代同居の支援策については、仰るように厚生労働省としての施策ではないのですけれども、基本的に出生率との関係を見たときに、三世代同居は出生率との間で一定正の相関があるというデータを見た覚えがございます。そういう観点からそういうことを進めていくというデータ的な根拠があるというところまでは承知しておりますけれども、仰るように、家族がケアを担う方向にその舵を切っているということではなくて、色々な形で、家族によって支えるというところを全く無くすわけにもいかないし、その家族を支えていく社会のシステムも含めて様々な方策をやっていく中で、そういう施策もあるという位置づけではないかと考えております。

 

〇中野氏 

その相関のデータにはかなり色々突っ込みなどもあったと思うので、個人的には、厚労省にもケアの社会化の方を頑張ってほしいなと思いますので、それも前提としてこの議論に参加していけたらと思います。ありがとうございました。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 それでは、どなたかございますか。

 では、青野さんお願いします。

 

〇青野氏

 支援の社会化というところに関してですけれども、ベビーシッター代を払うと、それは税金の控除をされないというような話があって、それは今回入っているのですか。税控除対象にしようというのは。

 

〇安藤政策統括官 

厚生労働省といたしましては、要望をいたしましたけれども、残念ながら、長期的な検討ということで、今回は入っていません。税制につきましては、各省がそれぞれ要望をして、最後は主税局が政府全体として取りまとめるという、そういう仕組みになっております。

 

〇中野氏 

今のベビーシッターの話は、明らかに働くうえでの経費なので、是非何とかしてください。私も確定申告をして、すごく違和感があったので、是非主税局に。

 

〇金丸座長 

ちょっと関連というか、そもそも論で質問をしたいのですけれども、13ページに総理の発言がありますね。最後の3行で、第一の矢は石原経済再生担当大臣を中心にということでわかるのですが、第二、第三の矢が両方一億総活躍担当大臣を中心にと書かれていて、厚生労働省はこの関係大臣の方に入るということですか。

 

〇岡崎厚生労働審議官 

これは内閣府としてまとめる話なので、内閣府大臣の中の担当を言われたのだろうと。担当大臣で経済の部分とそれ以外の部分で、当時は甘利大臣でしたけれども、お二人の分担です。それぞれの矢ごとに経産省、厚労省、文科省の担当部分がありますので、内閣府の分担の話と考えていただいた方がいいかなと思います。

 

〇金丸座長 

是非、そうあってほしいと思います。

 それでは、他にどなたか御意見・御質問ございますか。

 御手洗さん、お願いします。

 

〇御手洗氏 

労働政策の対象についてです。家で子育てや介護をする必要がある、という方は、特に女性には少なくないかと思います。そうした方にとっては、必ずしも外に出るフルタイムの仕事ばかりが望ましいわけではなく、家でフレキシブルに自分のペースで仕事ができる方がありがたいということも多くあります。例えば弊社、気仙沼ニッティングの例で言いますと、編み手さんたちは基本的に家で作業ができ、納期もなく、自分のペースで仕事ができます。山川先生から「それはもはや労働者ではない」という御指摘をいただきましたが、実際そのとおりです。これほどフレキシブルな働き方を実現するためには、編み手さんたちに個人事業主になってもらうしかなく、作業を発注する形態をとらざるを得ません。労働政策は、いわゆる企業に雇用されている「労働者」のみを対象としていますから、そうすると、労働政策の中からこうした個人事業主的な働き方をしている人たちがごっそり抜けていることになります。これは、問題なのではないかと思いました。

 気仙沼を例に取りますと、結構多くの人が「労働者」ではありません。例えば漁師さんや、食堂を経営しているご家族など「労働者」にはあてはまりません。労働政策の対象を労働者だけにしてしまうと、実際のところ、かなりの人が対象から漏れてしまうのではないでしょうか。また、一億総活躍とか、働きたい人が働ける社会を実現することを念頭に置くのであれば、誰が労働政策の対象から抜けているのか明確に把握し、そこに対する対策も打っていくことが重要かと思います。この点については、どのようにお考えになられますでしょうか。

 

〇鈴木労働政策担当参事官 

参考資料を付けてございますけれども、これで御説明いたします。

 2ページをお開きいただきますと、「従業上の地位別就業者数の推移」とありまして、一番右の2015年を見ますと、6345万人がいわゆる働いていらっしゃる方、実際に就業をされている就業者の数でございます。その中で、雇用者が雇用労働者と言われているもので5640万人、自営業主が青の543万人、家族従業者が162万人で、多分、今の編み手さんのお話ですと、543万人の自営業主に入られるということでございます。

 これについては、1955年と比べていくと明白でありますけれども、雇用者がぐっと伸びまして、家族従業者がかなり減っていて、自営業主も半減しているという状況でございます。

 これを3ページで、それぞれ自営業主・家族従業者・雇用者別に見ますと、特に農林・漁業分野で自営業主・家族従業者ともにぐっと減っておりまして、サービス業は自営業主は若干伸びている。雇用者については、サービスが増えておりますけれども、製造は若干減少、卸売・小売が同数ぐらい。

さらに、これを産業別の就業者で見ますと、農林漁業が50年からぐっと下がってまいりまして、それ以降は、一番トップだった黄緑色の製造業が90年代半ばにサービス業と逆転しまして、サービス経済化が進んだというものでございます。

それを職業別で見たのが5ページでございまして。近年一番多かった製造・製作・機械運転及び建設作業者が、60年代半ばからぐっと下がって、今、事務従事者と同じぐらい。さらに、一番増えておりますのが、青字の専門的・技術的職業従事者、サービス業従事者が増えておるという状況でございます。

6ページへまいりますと、左側のグラフは人手不足を表すグラフでありまして、上に行くほど人手不足だと見ていただけばいいと思います。一番上の緑色が看護師、准看護師、ぐっと伸びている赤が建設従事者、オレンジ色が介護労働者という形で、この辺りが最近減っているという部分でございます。

右側は、各分野ごとに将来予測したものでありまして。これは予測の主体が様々でありますけれども、介護・看護・保育・建設・運輸・農業で、例えば2020年代とか2030年代でどのぐらい不足するのかという予測を立てています。かなりの数が不足だという推計になっておるところでございます。

さらに、7ページにまいりますと、真ん中の点線が現在でありますけれども、過去から将来にわたりまして、就業者がどのぐらい増えていくか、もしくは減っていくかというものでありますが、一番上の製造業がぐっと下がって、ここからは余り減らない。ただし、医療・福祉がぐっと伸びてくると、こういう予測になっておりまして。職業別・雇用形態別等で見ますと、こういう状況が今の手元の資料から出てきております。

 

〇岡崎厚生労働審議官 

かつては、自営業主・家族従業者は、個人商店あるいは農家、飲食店みたいな、さっき言われたような形態は余り多くなかった中で、とにかく雇用されているかどうかで特に労働行政の対象を決めてきている。ただ、色々な形態が増えている中で、伝統的な労働法とか労働行政はそれでやってきたのですが、それで良いかどうかというのは、また、今後に向けての話ですので、色々御指摘いただければありがたいと思っております。今まではそうだったということでございます。

 

〇山川氏 

確かに自営業主と呼ばれる方の中でも色々なパターンがあるので、例えば一定範囲の方について労働者に準ずるような形の施策はあり得るかなと思います。例えばドイツでは、「労働者に類する者」という概念を立てて、全部ではないのですが、ある範囲での保護というか施策をとっている。そういうやり方があります。そこは、先ほど岡崎厚生労働審議官も仰いましたけれども、政策の中では色々なパターンがあるので、例えば罰則を科することは、非常に線引きが困難なものについてフレキシブルに取り扱うのは難しいかもしれませんけれども、現実にあるのは労災保険で、中小企業主とか個人の例えば運送の事業主とかそういう方については、労災保険は自分で特別加入できるという形になっていますので、例えば保険システムの利用とか、あとは職業情報ですね。職業紹介的なもので雇用機会の情報を提供するとか、そういうソフトなやり方でしたら、行政処分をするといったものではないので、広げるということはあり得るかなと思います。2035年ということで考えますと、そういう発想を政策の内容とやり方によって考えることはあり得るかなと思います。

 

〇御手洗氏 

どうもありがとうございました。大変勉強になりました。

すごく面白いデータで、今まで見たことがないものでした。ただ、例えば2ページで言うと、そもそも雇用者・家族従業者・自営業主というふうに綺麗に割り切れないということの方が課題であろうと思っています。

 例えば青野さんの仰っているように副業の禁止を禁止するとなると、サラリーマンでありながら起業するようなことがでてきます。すると、個人事業主かつ雇用者、となるケースも出てくるでしょう。おそらく、現状でも結構混ざっていると思いますけれども、それをこういうふうにぱっきり切ってしまうと、そもそも世の中のとらえ方としてちょっとずれてきてしまうように思います。例えば、自営業主の内訳で、農業が95万人と書いてありますが、農林水産省のページを見たら、農林水産省では200万人とか書かれていました。やはり、区分けに無理があることでカウントの仕方も正確ではなく、こうしたずれがでるのではないでしょうか。例えば松尾先生のお話などを伺っても、小林さんのお話を伺っても、個人事業主的な働き方が増えていくように思われます。こうした中で、雇用者だけを対象にした労働政策ではなく、働き方の形態を超え広く仕事を捉えることが課題になるのではないかなと思いました。

 

〇金丸座長 

多分、農業の方が兼業が進んでいて副業型になっているので、黄緑の部分と農業のダブルワークの人もいれば、そうではない人もいるのではないかなと思います。

 

〇岡崎厚生労働審議官 

労働力調査は主観ですから、副業の分は入ってないのですね。

 

〇金丸座長 

だから、我々の懇談会の議論の対象は、黄緑とか赤とかブルーで分けるのではなくて、この全体でやるということでいいのではないかなと思いますけれども、それでよろしいですね。

 

〇岡崎厚生労働審議官 

はい。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 それでは、どなたかございますか。

 

〇山内氏 

包括的なお話をありがとうございました。

 色々あるのですが、一億総活躍ということから言っても、働きたい人が働ける環境をいかに整えていくかということが重要だと思うのですね。特に、私どものことで申し上げますと、主婦の方に働いていただくのに、先ほど103万円の壁という話がありましたけれども、あれは大きな壁になっています。私どもで、1月から働いていただいて、10月、11月になってくると、一生懸命働いた方、働きたくて色々な仕事をされた方ほど働けなくなるように追い込まれていって、「済みません。私働きたいんですけど、働けないんです」本当に苦しみながらおっしゃる方がいらっしゃる。企業側としても、その方に働いてもらうのが一番生産性を高めることになりありがたいのですが、それが難しい。そうすると慣れてない方を雇ったり、新たに労働をしていただく方を採用したりしなければいけないとか、社会的無駄が発生しています。ですから103万円の壁は非常に大きな、早く取り除くべき壁だろうと実は考えております。

 そういったことを踏まえて、先ほどの同一労働同一賃金とも絡むのですけれども、より非正規の方に高い処遇という形にしていけばしていくほど、今の問題がさらに逼迫してくるという、こういう矛盾関係になっています。

 従って、これをどういうタイムスケジュールでどういうような形で持っていこうとされているのか。税の関係などもあるということで言われていらっしゃるのですけれども、どういうところに一番大きな問題があって、タイムスケジュール的には大体どんなような年数の中でこういったものを解決していきたいのだという、もし、今の中でのプランがありましたら、ちょっとお話しいただけるとありがたいかなと思ったのですけれども、いかがでしょうか。


〇岡崎厚生労働審議官 

問題意識としては、特に最近強く政府でも考えています。結局、ポイントは3つあって、税制、それから、もう一つは社会保障、それから、民間企業の扶養手当。この3つをそれぞれにどうやって見直していくか。3つ見直さなければいけないのではないか。税の改定が一番に今はなっているのですが、社会保障はどこで適用するか。むしろ、非正規の方も全員対象にしていくという、要するに、501人以上の事業所の社会保険の適用要件について、正社員の労働時間の4分の3以上必要という基準を下げる方向であり、それが一つの方法だというふうには思っているものの、逆に言うと負担が増える部分もあるのですが、そういうことも含めて、社会保障制度が正直言ってなかなか難しい部分がある。

 もう一方は民間企業。非正規の方はそう言われるけれども、正社員はどうされているかわかりませんが、自社の正社員には扶養手当を出しておられると、その方の奥様がどこか他のところで就業調整をしているかもしれない。要するに、何を言いたいかというと、民間企業でも、103万とか130万で区切って、配偶者手当を出すのを少し見直していただきたい。これは近く呼びかけるべく、今検討会をやってルールを、山川先生が座長でやっているのですが、その3つの分野をやっていく。問題意識はありますし、民間企業の働きかけも、山川先生のところでまとめていただければ、できるだけ速やかに。今年の春闘はもう間に合っていませんけれども、来年の春闘のときは御議論いただけるようにしたいと思っております。

 

〇小林(庸)氏 

今の関連と別の1点ですけれども、今、岡崎厚生労働審議官がおっしゃったとおり、103万は多分壁じゃなくて、本当は坂なんだろうと思っているのですけれども、多分、民間の方の手当とセットになったら壁になっている場合があるということですが、そこをどれぐらい壁になっているのかを何か分析が進んでいるのであれば教えていただきたいなというのが1点です。

 あと、14ページ目で、これはちょっと細かいところなので、もし分からなければ結構ですが、○3で、民間資金の話でソーシャル・インパクト・ボンドの話が出てきていて、恐らく厚労省さんでも横須賀の取組などを支援されているのかなと思っているのですが、これは仕組みとして非常に面白くて、民間のお金を入れながら、ある種公共サービスのトライアルをしていくという仕組みは面白いなと思っているのですが、では、政策的に何か支援できるのかというところで、もし御検討しているところがあれば、是非教えていただきたいなと思います。

 

〇岡崎厚生労働審議官 

実は山川先生が参加されている検討会で色々な分析をして、近く報告書が出ますので、出た段階で、また、御覧いただければと思います。

 

〇鈴木労働政策担当参事官 

ソーシャル・インパクト・ボンドについても、14ページは、今後、厚労省でこういうのを検討してまいりますというペーパーでありますので、まだちょっと具体策は出ておりません。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 それでは、次の小林(庸)さんの御説明を聞いた後で、また、併せて、議論をさせていただければと思います。

 それでは、小林庸平さんから御説明をお願いできますでしょうか。

 

〇小林(庸)氏 

改めまして、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林庸平でございます。今日は、皆さん非常に出席率も高い中で貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。

 私は、普段経済分析をしていて、たしか前回だったと思いますが、御手洗さんが、データドリブンでいくと細かいところが見えなくなるというのを言われていておりましたが、今日のお話はデータドリブンな感じになりますので、ちょっとどきどきしているのですけれども、マクロから迫っていくのも一つの意義があるのではないかなということで、どきどきしながらも頑張って御説明したいなと思っております。

 今日お話ししたいのは3つありまして、1つは、少し大くくりに捉えたときに、産業構造と就業構造をある種セットで捉えてどんなことが言えるのかということをお話ししたい。2つ目は、それを踏まえてどんな働き方があり得るのか。最後3つ目、若干毛色が変わってしまうのですが、最近私がエビデンスを活用した政策形成を調べていまして、これが労働政策のイノベーションになるのではないかという気がしておりまして、2035年を見据えてそういう政策イノベーションのきっかけを働き方の分野でつくれないかと考えております。

(資料2-P1

 初めに、改めて自己紹介ですけれども、私がこの3月で社会人10年が経ったところですけれども、大学院を出てからこのシンクタンクに就職しましたが、4年ぐらい働いた後にいったん退職をして、経済産業省で成長戦略や社会保障改革の業務に携わりました。その後短い期間ですが経済産業研究所に在職したあとに復職をして現在に至っています。ずっと政策の調査とか政策の立案とかというところで仕事をしてきました。

これだけ見ると、何か銀行の子会社で働いていて、役所で働いていて、何か堅い感じの経歴ですけれども、柳川先生には全く敵わないのですが、2つ目の■で、私は単位制・定時制の高校を卒業しています。なぜこんな学校に行っていたかと、私は実は小学校4年から中3まで学校に行ってなくて不登校だったので、なかなか普通に行ける学校がなくて、定時制高校に行って、その後大学に行って、こんなキャリアということで、同じ業界でこういうキャリアの人に会ったこともないので、こんなような人間が一人ぐらいいてもいいのかなと思っています。

自己紹介は以上でございます。

(資料2-P2

 はじめの1点目が「産業構造・就業構造の概観」で、少し大くくりに見ていきたいなと思います。色々議論したいものはいっぱいあるのですが、私が特にというものを幾つかセレクトして持ってきました。

(資料2-P3

 はじめにお示ししているのが一人当たりのGDPと労働時間当たりのGDP、一人当たりの労働時間を先進諸国で見ています。アメリカを100にしたときの数値になっていますが、一番左の濃いブルーは一人当たりGDPの国際比較の数字です。日本は67.3なので、アメリカより3割ちょっとGDPが少ないです。フランスも7割ぐらいなので、そんなに変わらないかなという感じですが、これを労働時間一人当たりにすると61.5となって、これは他の国々よりかなり低い水準です。一番右側を見ると、緑は労働時間ですね。これは109.5なので、アメリカより多いということで、一人当たりで見たら、ちょっと先進国の下位の方で、労働時間当たりで見ると断トツ最下位で、一人当たり労働時間で見ると断トツトップという、こういうのが国際的な比較から少し見えてくるところでございまして、これは何か働き方がおかしいのではないかというのが見えてくる。いっぱい働いている割にはあんまり稼げてないというような構造が見えるのかなと思います。

(資料2-P4

 これは「経済財政白書」の中の統計ですけれども、細かいところは割愛するのですけれども、右側に、雇用調整速度という、どれぐらい労働市場が柔軟に調整されるのかというのが横軸にとっていて、縦軸に、生産性がどれぐらい上がるのかというのをとっている。これは内閣府の分析ですけれども、これを見ると、全体的に右上がりになっていて、日本は真ん中辺で、もしかしたら雇用の働き方の硬直性みたいなものが生産性の改善をちょっと妨げてしまっているのではないか。それがさっき言った労働時間当たりに換算すると、GDPを生み出していないという現象を生んでいるのではないか。これは仮説の域をまだ出ませんけれども、そんなようなことはあるのかなと思っています。

(資料2-P5

 これがどれぐらい労働が柔軟に再配分されるかというので、ちょっと古い研究ではあるのですけれども、色々な国で、労働がより効率的なセクターに移っていくことができれば、それだけで生産性が上がっていくという効果があるわけですけれども、日本は、その再配分によって労働がセクターを越えて移動することによって生み出される生産性の上昇が非常に少ないというようなことが出てきています。フィンランドは異常値みたいな感じだと思いますけれども、そういうようなことが全体的な他の国との比較からも言えて、もしかしたらこういうところから言えるのは、雇用の柔軟性の欠如が労働時間を長くしてしまい、生産性の上昇を阻害してしまっているのではないかなというようなことが見えてくるのかなと思っています。

(資料2-P6

 もう一つが、これは若干見づらい表で恐縮ですけれども、見ていただきたいのは一番左側を見ていただきたいなと思います。左側が全産業となっています。これは日本全体の全産業ですが、これは経済学の用語ですけれども、経済学では、生産性を全要素生産性と、略称でTotal Factor ProductivityTFP)と言いますが、細かいことは置いておいて、生産性の指標だと思っていただければよいです。これもちょっと古いデータで恐縮ですが、2000年代の前半は90年代の後半に比べると、黒い線が全体の生産性の上昇ですけれども、生産性は確かに2000年代に上がってはいたのですけれども、誰が生産性を上げていたのかというのを見ると、実は緑のこれが昔から日本は非常に大きいシェアを占めている。誰が生産性を上げるかというと、雇用を縮小した企業が生産性を上げているという結果になっています。

 生産性の上げ方は色々あるわけですね。分子を大きくして、より沢山付加価値を生んでいくという生産性の上げ方もあれば、より効率化して、投入を減らしていくという生産性の上げ方もあるわけですが、日本の生産性の上げ方は、全体としては効率化の方の生産性の上昇であって、要するに、それはもしかしたら人を減らすということかもしれませんし、海外に投資して空洞化するということかもしれない。ここら辺の中は分からないわけですけれども、要するに、新しいサービスを生んで生産性を獲得していくというよりは、どちらかというと、語弊があるかもしれませんが、今までと同じものをなるべく少ない人数でつくって生産性を上げていこうというようなリストラ型だったということを言わざるを得ないのかなと思っています。

(資料2-P7

 よく統計で見る指標の1つとして交易条件があります。交易条件は輸出価格と輸入価格の比です。日本が物やサービスを作って、外に対して売っていく価格と、日本が例えば原材料を輸入する価格の比率をとったのが交易条件というものです。これが上がるのはどういう意味かと言えば、日本は安く仕入れたものをより高く売れている、海外に対して高く売れているという状態ということも言えますし、もしくは、今は状況が違うと思いますけれども、輸入物価ですね。エネルギーの価格が上がったときに、ある程度価格転嫁できていれば、同じように輸出価格を上げれば、日本経済としてはそんなに損はしないわけですけれども、そういう意味である種どれだけ付加価値を外に対して日本企業が付けているかというような指標が交易条件だと思ってもらえればいいと思います。

 ここで挙げているドイツと韓国は日本と産業構造が比較的似た国だと思います。あとはアメリカを挙げているのですけれども、ドイツとか韓国とかアメリカを見ると、輸出物価と輸入物価。この茶色が輸入物価で、赤が輸出物価ですが、大体連動していて、交易条件は緑ですけれども、これは横ばいになっています。つまり、輸入物価が上がったら、その分きちんと価格を転嫁できているというのがドイツとか、韓国も大体似たような形でして、輸入物価が大きく上がると輸出物価をそれだけ上げて、交易条件は結果として変わらないですよと。アメリカもそんな形です。

 日本はどうなっているかと見ると、輸入物価が上がっているのに、輸出物価は全く上がってこないということなので、交易条件が、緑のグラフが下の方にどんどん移動してきてしまっているということですので、これも、さっきはまさにリストラ型の生産性を上げているというお話をしましたけれども、これはマクロで見てしまっているので、個別の企業がどうかというところまではもちろん言えないのですけれども、もしかしたら付加価値を生み出せていないのではないか。新しいものを作って、より価格競争力のあるもので価値を作れていないのではないか。そんなようなことがこの国際的な統計の比較からも言えるのではないかなと思っています。

(資料2-P8

 この辺りは松尾先生の最初のお話と関連してくるところで、表が見づらくて恐縮ですけれども、しかも、日本で良いデータがなかなかなくて、アメリカの研究を引っ張ってきています。こうした研究を日本でも誰かがやってくれないかなと私は思っているのですけれども、左側は何を見ているかというとルーティン業務ですね。縦が比率で、横が年です。ルーティン業務の割合は、緑が動きですが、リーマンショックの後、ルーティン業務ががくんと減っています。一つ一つのジョブを、これはルーティン業務、これはノールーティン業務という形で全て分けて見ています。ルーティン業務がリーマンショックの後に大きく減ってきている。

 これが何で減っているか。ここにグラフを載せてないのですけれども、若い人がそもそもルーティン業務にあまり入らなくなってきているとか、ルーティン業務で仕事を辞めざるを得なかった人が同じ業務に戻れなくなっている。そういう経過がございまして、本当にここの足元で定型的な業務に対する需要が大きく減っているということです。

 では、定型的業務を辞めなければいけなくなってしまった人がどんな職に就いているのかというのを見ているのですけれども、このグラフも若干見づらくて恐縮ですけれども、この論文では一応職を4つに分けていまして、定型的かつマニュアル的な業務をブルーカラー的な業務と呼んでいまして、定型的かつ認知的業務を事務とか管理的業務と呼んでいまして、こっちの2つが非定型的ですが、非定型的な認知的業務をブレインジョブと言っていまして、多分、経営者とかこういうのがブレインジョブ、一番下がブラウンジョブ。これが非定型的なマニュアル業務で、掃除とか多分そういうものが入ってくると思うのですけれども、これを見ると何が分かるかというと、圧倒的に定型的業務に戻ってくる人たちが少なくなっていて、これはリーマンショックの後なので、全体的に下に行ってしまっているのがちょっと見づらいのですけれども、徐々にブレインジョブに入ってくる人が増えてきているということで、働き方の転換が、少なくともアメリカのデータを見る限りだと進んできているのだということですね。

 前回も同様の議論があったと思いますが、定型的業務から非定型業務に移れている人の割合は男性よりも女性の方が高い。つまり、こっち(非定型的業務)に戻れている人ですね。定型的業務の仕事がなくなってしまって、非定型的業務にある程度戻れている人は女性の方が多いということで、先日たしかAI/IoTは男性の危機ではないかという議論もありましたが、アメリカではまさに男性の危機が生じていると言えそうです。逆に言えば、女性にとってはキャリアラダーが開かれるようになってきている。こんなような分析が出ています。こうした傾向は、おそらく日本でも起きているのではないかなと思っています。

(資料2-P9

 日本のデータはなかなかないのですけれども、私が以前経済産業省にいたときに実施したアンケート調査の結果をご紹介したいと思います。これは、左から右に生産工程を上流から下流まで並べています。左側が企画とかマーケティング、研究開発という上流部門で、生産とか加工があって、販売をして、最後アフターサービスをしていくというような、こういう形になっていまして。生産工程のなかで重要性が増している部分はどこなのかを、企業に対するアンケートで尋ねたのがこのデータになっています。

 見ていただくとわかるのですが、両端が高いですね。企画立案とか研究開発が高くなっていて、サービスのところがまた高くなっていて、真ん中が低くなっている。さっきの例で言うと、ここ(真ん中)がまさにルーティン業務に近いところで、ルーティン業務の付加価値の貢献度が下がる一方で、より企画立案とか研究開発、もしくは、サービス的な業務ですね、人と接するような業務、こういうところの貢献度が高くなってきていて、これはまだ企業の経営者の方の実感でしかないのですけれども、日本でもおそらくこういうような傾向が出てきているのではないかなと思っています。

(資料2-P11

 これからの働き方の方向性は、今後皆さんと議論しますので、たたき台でしかないのですけれども、一番言いたいのは、4つ申し上げたいことが最初のところでありました。1個目が、長く働いているのにあんまり稼げてないのではないか、生産性が低いのではないか。労働市場が硬直的なのではないか。生産性の上げ方がリストラ型なのではないか。さらに、産業構造が変化しており、それによって仕事がかなり変わってきているのではないか。これは全て働き方と密接に関連しているのではないか。もちろん働き方だけが変わればこの問題は全部解決するほど簡単ではないとは思うのですが、密接に関連していることは間違いないのではないかと思っていまして、そういう意味でこの懇談会の意義はとても大きいのかなと思っています。

 これからの働き方の方向性を考えるということで、実は、これは磯山さんと去年1年ぐらいかけてPHP総研で研究をさせていただいた「新しい勤勉宣言」という働き方の政策提言をしています。その際に示した改革の方向性を書いております。「勤勉」と言うと、どうしても夜遅くまで会社にいるのが勤勉な感じがするのですが、新しい勤勉ということで提案しているのは、先ほど私が申し上げたとおり、時間当たりの生産性で勤勉さを測っていこうではないかというような、その価値観を大きく打ち出したという提言になっていまして。そのために幾つか原則ということで、生涯にわたって多様かつ柔軟に働けることが大事ではないか。また生産性だけではなくて、ワーク・ライフ・バランスもしくはワーク・ライフ・イン・ソサエティということで、幸福感と生産性を両立していくことが大事ではないか。あとは、そういう社会では、恐らく自律力が求められるようになってくるので、マネジメント力と自律力の向上で調和を図っていくのが大事ではないか、と指摘しております。

(資料2-P12

 このスライドでは企業の取り組み例をご紹介しております。こんな簡単なまとめをしたら、青野さんに怒られそうで怖いのですけれども、幾つか企業のヒアリングをさせていただく中で、実際に先進的な企業さんはこういった今我々が作った原則というか、むしろ、企業さんの活動を見て我々が原則を作ったところもあるかもしれませんけれども、青野さんに怒られることを承知で言うと、多様な働き方を入れているとか、あとは、「いつでもどこでも」マイクロソフトさんなんかは行ってすごい面白かったのですけれども、ITツールを使ってオフィスという場所にとらわれない働き方を進めています。打合せだって別にWEB会議でやれば良いよねというような発想でやっていらっしゃったりとか、あと、一番下は株式会社高齢社さんという高齢者の「者」が「社」なのですけれども、平均年齢がそもそも69歳で、入社資格が60歳以上ということで、週3日勤務ぐらいが平均ということですが、なるべく働けるうちは働いていこうではないかと。そうすると、定年後のおじいちゃんが家にいないと奥さんも喜ぶということで家庭も幸せになるというようなお話があるのですね。働けるうちは働いていけるような社会、それが多様で柔軟な社会ということなのかなと思っていまして。こういった新しい取組が進んでいるので、こういったところが参考になるのかなと思っています。

(資料2-P13

 これはちょっと御参考だけですけれども、前回、私口頭で申し上げた記憶があるのですが、高齢化率の定義をちょっとずつ上げていくと、実は余り高齢化が進みません。これは数字遊びですけれども、赤が高齢化率ですね。65歳人口比率はどうやっても日本は上がっていってしまうわけです。だけれども、仮に、1年に0.25歳ずつ高齢化率を上げていくと、実は、今26.8%の高齢化率が、2050年に26.9%と、たまたまですけれども、ほとんど高齢化しないというような絵ですが、平均余命もかなり延びていますし、昔の65歳と今の65歳は元気さも全然違うわけなので、同じように年齢で区切るということが本当に良いのかなと。むしろ、働ける人は長く働いてもらえるような社会を作っていかなければいけないのではないか。これはあくまで数字のお遊びですけれども、そんなことを考えております。

(資料2-P1415

 これは飛ばしましょう。

(資料2-P16

 最後申し上げたいのは、今こういうようなデータから見た働き方のこれからを少し見てきたのですが、たしか柳川先生からも前回あったように、とは言え、今からどういうふうに2035年に向かってロードマップを描くかという時は、足元からどう変えていくかという議論も大事なのかなと思っていまして。そういう意味で、最近私が調査している「エビデンスを活用した労働政策イノベーション」を考えられないかなと思っており、少し御紹介したいと思います。

(資料2-P17

  去年だと思うのですが、慶應大学の中室牧子先生が『「学力」の経済学』という本を書かれており、学力が上がるのかのエビデンスを紹介している本ですが、結局、何が効いて、何が効かないのかということをきちんと検証していくというプロセスを1つ政策立案の形成の中に入れていけないかというのが、私が最近持っている問題意識です。

右側を見ていただくと、「エビデンスの分類と分析手法」と図表で示しております。政策を行う場合、何らかインプットをします。例えばお金なのか人なのか分からないですが、それによって実際活動が行われて、就業できたり、賃金が得られたり、社会に還元されたり、こうした一連の流れが政策です。例えば、たしか御手洗さんは前回仰ったと思うのですが、編み手さんの訓練をやった時に、どれぐらいその編み手さんが本当にその訓練プログラムとして良いプログラムなのかというのが、まさにこのプログラムをやった結果、編み手さんの能力がどれぐらい上がるか、こういうある種インプットとアウトプット、もしくはインプットとアウトカムみたいなものが本当にどれぐらい厳密に効果測定できるのかということを検証していく必要があるのではないかというのが私が思っているところです。

最近、海外でよく使われている手法がランダム化比較試験と呼ばれるものですが、何をやっているかというと、これの要は実験しているのですね。例えば失業されている方がいて、失業者の方が次に働けるためにより良いプログラムは何かというのをランダムに分けて、プログラムAを受ける人とプログラムBを受ける人をランダムに分けて効果を測定するという、これはちょっと社会実験っぽいので、日本でどこまでできるかわかりませんが、こういうことをきちんとやれると、何が効いたか効かなかったかわかるので、やらなくていいことはやらないですし、やるべきことをより強く推し進められることになります。海外ではこうした取り組みが広がってきていて、私が去年シカゴやロンドンに行って調査をしてきましたが、こうした取り組みを日本も何とか入れられないかなと思っています。労働は実はとてもやりやすい分野なので、考えていけないかなと思っています。

(資料2-P18

 これは図だけですけれども、カリフォルニア大学バークレー校のデビッド・カードという労働経済学者が出しているグラフですが、労働政策の効果を測定した研究を年次別に整理したものです。青はExperimental Designと書いてあるのですが、要は、さっき申し上げたようなランダム化実験みたいな、こういう実験的な手法で効果を測定する研究がすごい増えてきている。これが労働政策研究のトレンドとして増えてきているということでして。しかし、日本では全く行われていないというのが右下の「0」ということでして。全くというのはちょっと大げさかもしれないのですけれども、少なくともここの研究のサーベイには入ってきてないということので、こういった働き方を変えていく時に何か支援策をしなければいけないわけですが、そこでエビデンスを使って政策の効果を測定し、そして、PDCAを回していくという、そんなようなことが働き方改革と両輪の形で入れられないかなというのが私の考えていることでございます。

(資料2-P1920

 最後、この辺は若干飛ばします。

(資料2-P21

 まとめといたしまして、最初のデータで見たところですが、日本では、労働時間は長いけれども、なかなか生産性は低いということですとか、労働市場は硬直的になっているとか、生産性の上げ方が、どうしてもインプットを減らすような生産性の上げ方になっている。さらに、技術変化によってルーティンジョブが減ってきている中で、これが働き方と非常に密接に関係していて、ある種この働き方を多様な働き方とか労働時間、良く言われることかもしれませんが、時間当たりの生産性といったところで、いつでもどこでも働ける働き方とか、体力に応じて生涯にわたって働ける働き方とか、こういうものが1つの方向性になるのかなと。

 これを進めるときに多分色々な支援策が必要になってくるのですが、なかなかどれが効くかというのが分からないわけなので、そういう意味でひとつ世界の流れに追いつくためにも、エビデンスを上手く使いながら政策のイノベーションを起こしていくのが重要なのではないかなと思っております。

 ちょっと駆け足になってしまいましたけれども、私からは以上です。

 

〇金丸座長 

ありがとうございました。

 それでは、ただ今の小林庸平さんの御説明を踏まえまして、皆様から自由な議論を進めさせていただきたいと思います。どなたか。

 

〇浦野氏 

プレゼンに対しての基本的な質問をさせていただくことでもよろしいですか。

 

〇金丸座長 

はい。どうぞ。

 

〇浦野氏 

非常に興味深いデータをありがとうございます。こういうのを知るチャンスはなかなかないので、本当にありがたいと思っております。基本的な質問をさせていただきます。

 6ページは日本のデータかと思いますが、例えば国際比較みたいなものをしているものがもしあれば、是非見たいと思います。といいますのは、インプット側を少なくすることについては、労働市場の流動性は、逆に言えば、海外の方が高いところもあると思いますので、その辺りが分かれば嬉しいと思います。

 それから、もう一つは8ページのルーティンジョブの減少ですが、こちらは、定型的業務が年次を追って経年的に減ってきているというのは左のグラフで非常に分かるのですが、この4つの分類で、昔と今とで何か経年比較があるものがあれば、是非、見たいと思います。

 

〇小林(庸)氏 

ありがとうございます。

(資料2-P6

 これはもしかしたら探せばあるのかもしれないのですが、私が今知る限りだと、こういう形で分けている海外の研究はないかなと思っています。

(資料2-P7

 ただ、これはそのまま浦野さんの御質問にお答えしないのかもしれないのですが、ある種これがそれを表しているのかなという気がしていまして。交易条件はどれぐらい価格転嫁力があるかということの指標だとすれば、同じように原材料を輸入して製造業的な貿易財を生産している韓国とかに比べても、なかなか価格を上げられてないというのがあるとすれば、新しい価値を作っているというよりは、それほど新しくないけれども、何か効率的に作って競争をしているようなところがおそらく見えてくるのではないかなとは思っております。

(資料2-P8

 2つ目が、これはちょっと見づらいのですけれども、実は、これはどこと比べているかというと、右側の図ですけれども、少し古いのですけが、1983年から1990年の景気拡張期と比べてどうなっているかというグラフになっていまして。なので、定型的マニュアル業務にどれぐらい戻っているかというのは、全然戻れなくなってきていて、それが足下で特に顕著になってきているということが言えると思っていまして。この元論文でも実は同じことが指摘されていて、定型的業務への入職率はリーマンショック後、顕著に下がってきているということを言っていまして。このグラフでも同じことを言っているのですけれども、そういう傾向があるのだろうということで、ここ10年弱ぐらいの急速な就業構造・産業構造の転換が少なくともアメリカでは起きてきているということだろうと思っています。

 ありがとうございます。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 それでは、中野さんお願いします。

 

〇中野氏 

御質問ですけれども、生産性のところで、私も、非効率な長時間労働が日本全体の生産性を下げているというのを言いたくてデータを探していたことがあるのですけれども、RIETIなどの調査結果で、実は日本の生産性を下げているのは大半サービス業という結果が出ていたと思います。例えば、あまり有休消化をしないで、みんな国民の祝日と土日にしか休んでないから、観光業などサービス産業の生産性が低いという調査結果を読んだことがあります。

 6ページで製造業と非製造業と分かれてはいるのですけれども、産業別の状況とか、あとは、4ページで書かれている硬直的な働き方・就業構造が生産性を下げていると言うためのもう少し詳細な結果があれば教えてください。

 

〇小林(庸)氏 

ありがとうございます。

私も全部お答えできるか分からないのですけれども、サービス業の生産性をどう測定するかというのは、また、難しい問題があって、つまり、サービス業は生産と消費が同時に行われます。僕がこっちでおもてなしをして、中野さんがこっちにいても何の意味もないわけですね。中野さんと僕が同時にいて、僕が例えばホテルでおもてなししなければ意味ない。これは生産と消費の同時性とよく言われますけれども、サービスはそもそも生産と消費が同時に起きるというような性質があって、そもそもどうやって付加価値を測るのかというのは結構難しい問題ですので、なかなか一概に言えないかなと思うのですが、ただ、色々な統計を見ると、少なくともサービス業の生産性が特に他の国と比べて日本で低いと言えるのは間違いないと思います。ここでデータが出ているわけではないのですが、そう思います。ただ、それが何に起因しているのかというところまでは、すみません、今ここでお答えができないかなと思います。

 

〇中野氏 

ありがとうございます。

 休みという意味では、今年、三越伊勢丹さんが元旦休むなど、消費のあり方によって働き方の方に影響してくる面もあるかなと思いますし、山内社長がいらっしゃるので、ヤマトの宅急便さんも、こちら側がAmazonでクリックしたら、もう自動的に次の日に届けてくれる。もうちょっと遅くてもいいのだけれども、翌日にちゃんと来てくれるというような、私たちの生活の仕方がどんどんある意味ハイレベルなものを要求していて、それに対してちゃんとした付加価値の費用を払えてないという構造があるのかなというふうにちょっと思っているのですけれども、何か御意見はありますか。

 

〇小林(庸)氏 

若干話が逸れてしまうのかもしれないのですけれども、一橋大学の阿部修人先生が面白い研究をしているのですけれども、小売店レベルの商品価格の売上とか数量をまとめているPOSデータを見ていて、それと海外と比較しているのですけれども、日本の特徴は何かというと、特売が多いということだと。つまり、スーパーで何か商品を売るときに、特売が非常に多いということを言っていまして。特売は誰にメリットがあるかというと、比較的時間の余裕のある人というか、例えば水曜日に特売をやられても、普通に昼間働いている人は行けないとかそういうことがあるわけですが、日本の商慣行として、ある種特売のときにどかんと売るというような傾向があるのだということを阿部先生が言っています。

 それと働き方が何で関係するかという話ですけれども、今ちょっと固有名詞を出さないのですが、ある大手スーパーにヒアリングに行ったときに面白かったのが、「うちはそういう特売とかは止めます。基本的に価格は単一で、ずっといつ来ても同じ価格で売る」と。そうすると、何が良いかというと、業務が非常に効率化する。特売は、チラシをつくって「今日はひき肉何百円」みたいなのをわざわざ作って、そのために棚を作って、「ここは今日特売の棚です」とかというのを作って、めちゃめちゃすり合わせをしているというか、手を回し過ぎているということがあって、そんなことをやっても、結局、そんなに売上は変わらないのではないかということで、うちはずっとこういう価格ですというふうにするとどうなるかというと、常に同じ棚ですね。もちろん季節で変わったりはするわけですが、セール期間の3日間だけ棚を変えるみたいな作業のためにわざわざ残業して、土日出てきて変えるみたいなことがなくなって、圧倒的に労働時間が短くなったという話をしていて、中野さんの御質問にちょっと答えてないのかもしれないのですが、ある種サービスがもしかしたら過剰に消費者に対応し過ぎてしまっていて、僕もよくAmazonで買って届けてもらうので、人のことは言えないのですけれども、それがもしかしたら価値につながってないというようなことがあるのだろうなという気はしております。

 ありがとうございます。

 

〇金丸座長 

では、御手洗さんお願いします。

 

〇御手洗氏 

どうもありがとうございました。大変勉強になりました。

11ページの上半分のところで、左側に、「長時間労働と低い時間当たり生産性」「硬直的な労働市場」「付加価値創出力の低迷」「産業構造の変化によるルーティンジョブの減少」と書かれており、右側に「すべての課題が働き方と密接な関係性を有している」となっています。しかしこの左側の4つのトレンドは、働き方というだけではなく、もっと深刻な事態の話をしているかなと思いました。これは働き方というよりも、そもそも私たち日本人は、というか、人間は、今後もきちんと付加価値を創出して働いていくことが今後もできるのかというチャレンジなのだと思います。だから、働く時間を短くしたらいいよねとかそういう問題ではないのではないかと思います。そもそもこれは、付加価値のある仕事ができていないから、長時働くことでカバーしようとしてしまっている結果でしょう。それでいてなお、さっきの輸出・輸入で見ても、交易条件が悪化しています。

これまでも産業構造の変化は常にあったかと思います。産業革命時も、高度経済成長期もそうだったと思います。ただ、そのときと今直面している産業構造の変化が質的に違うのではないかと思います。これまでは、変化するといっても経済が右肩上がりだったり、人口も増えていたので、これから働く若い人たちだけが新しい仕事に順応していけばよかったのではないでしょうか。それが今の場合ですと、人口も増えるわけではなく経済も右肩上がりとは限らないので、すでに今働いている40代、50代の人たちも働き方を変えていく必要が出るのではないでしょうか。一から付加価値のつけ方を考え直してくださいというチャレンジに当たるのではないかと思っています。

そもそも何の付加価値を生み、生業にしてお金を稼いでいくのかというのがあって初めて、次のステップとして「働き方」を考えられるのではないでしょうか。そういう本質的な議論を併せてすべきことかなと思いました。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 柳川事務局長、お願いします。

 

〇柳川事務局長 

今の御手洗さんの御指摘はまさにそのとおりだと思うので、これは働き方改革の検討会ですけれども、ここに至ると付加価値創出力というのが訴えられているところですね。稼ぐ力ということで。稼ぐ力の話は少なくとも2つあって、1つは働く場所とか働く環境を変えれば付加価値をつけられたりとか、あるいは、持っているアイデアを実現できたりという、こういうことがあるかもしれないので、この後に書かれているような多様な働き方とかいうことが多少なりとも影響するところはあるだろうと。

 ただ、もう一つのポイントは、能力を高めることが圧倒的に必要で、これを見ると、結局、日本国内で働いている人たちの能力が圧倒的に全体で見ると不足をしていて、十分に稼ぎ出すだけの能力がないということだろうと思います。そうすると、これは広い意味での教育の話であって、学校教育も問題だと思いますが、学校教育だけではなくて、昔で言う社内教育とかOJTとかこういうものが生み出してきたであろうそういう付加価値創出能力みたいなことを、どこかで何らかの形で高めていくような仕掛けをビルトインしないと、単純に働く場所とか働く時間とかを変えるだけではなくて、その能力開発をどこかできっちりビルトインしていくような仕掛けをつくっていかないといけないということなのだろうと思います。

 これもよく知られている話ですけれども、いわゆる社内訓練とか社内教育にかけられる時間やお金は、バブル崩壊以降圧倒的に少なくなってしまって、僕がよく引用する経済学者のデータは、バブル期と比べると10分の1になった。バブル期なので若干不必要に高く沢山使っていたという面はあるのですけれども、10分の1というのは圧倒的に大きな金額であって。これは少し前のデータですけれども、景気が良くなってもそこの部分は増やせてないのですね。そこにはお金をかけられなくて、コスト削減とかそういうところにどうしてもお金を使ってしまっている。結局、社内でどれだけ社内教育ができるかという問題もあり、もっと全体の話を含めて考えると、どういうような能力開発を働き方とセットでビルトインしていくかということを考えないと、まさに松尾先生がお話しになったようなロボットが出てきてと。アメリカでいくと、中間層がごそっと仕事を奪われていく中で、能力開発の話はやっておかなければいけないだろうなというのは、改めて今日のデータを見せていただいて感じたところです。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 磯山さんお願いします。

 

〇磯山事務局次長 

参事官の御説明と併せて質問ですけれども、アベノミクスで生産性を上げる、生産性革命というのが一つ言われているわけですが、働き方とか労働政策の中で、生産性を高めるための政策は、過去にはどういうものをとってきて、あるいは、これから働き方で生産性を高めるための僕らがこれから考えていく施策としては、例えばどういうものの延長線とか具体的な方策の延長線が考えられるのか。今までやったことと、あるいは生産性はこれまであんまり考えないで労働政策は決められてきたのか、あるいはそうではなくて、むしろ、教育とか何かのそっちの方にウエイトがかかっていたのか。その辺は生産性と働き方と労働政策の関係をちょっと教えていただければと思います。

 

〇鈴木労働政策担当参事官 

これまでやってきた政策は多分2つありまして、1つはちょっと昔になりますけれども、88年からの労働時間短縮政策をやってまいりまして、これが先ほど小林(庸)先生が仰られた、同じ生産でも時間を短くして、それで効率良く働いて、結果として生産性を上げようというのを、これはゆとりの豊かさという観点からやったものでありますけれども、それが同時に生産性を上げて、少ない労働投入量でも高い付加価値を生み出して、結果としてロスなしで時短を進めようと、これが1つありました。この対策は、多分、今はもうある程度効果は終わっていまして、今はやっているわけではございません。

 もう一つの流れは職業能力開発で、個人の技能を磨くことによって、一人一人の労働生産を上げていこうと。これについては、例えば高付加価値の仕事に移る際の転換訓練とか、それから、同じ中でも、例えばそれを処遇に生かす技能検定の話とか、それに組み合わせた技能講習とかこういったもので、これは旧労働省が出来たときからずっと今までやってきておりまして、今後は、IT分野とか、看護・介護とか、こういった必要とされる分野に転換していく。これが今継続しているものでございます。

 それから、今後やっていかなければならないのは、そういったものを全部ひっくるめて、企業に対して効率的な働き方を提唱するとともに、例えばIT投資と組み合わせて、そこに生産性が高い労働者を入れて、企業全体の生産性を上げていく。これは現在、塩崎大臣のもとで、塩崎大臣はもともと金融の御出身でありますから、そういったような金融機関で連携して、労働政策のツールと金融機関が持っている色々なツールを組み合わせることによって、企業の中まで入って色々生産性が上げられるのではないか。これを今後やっていこうというのが第三の道として今やっております。

 ざっと挙げると、そのぐらいをやっております。

 

〇磯山事務局次長 

さっきの2番目の話で言うと、職業訓練は再就職の支援だったりとか、失業対策だったりとかということがむしろメインだったのではないかなという気もするのですが、生産性を上げるということに特化したプログラムとか政策は過去にあったのでしょうか。

 

〇鈴木労働政策担当参事官 

技能検定とかそういった仕組みで、要は、技能を高めて、それを検定でその資格を認めることによって、それを職場内での最終的には賃金に変えていこうと。それは広く言うと、それが認められれば、より広い範囲で労働移動が可能になっていくし、それをもってやれば、移動したときに賃金が下がらずに済むということで、そういったものを全部組み合わせて自分の付加価値を上げていく。それは失業したときではなくて、自律的に転職する際、それから、企業内での価値を高める際という施策を、これも並行してやってまいりましたので、そういった面では今仰られたことはそういうものでやっておるというものでございます。

 

〇中野氏 

生産性を高めることと労働政策の関係で1つ観点をつけ加えたいのですけれども、コストを下げる方の時間を減らすという効率化の方法と付加価値を上げる方法があって、付加価値の方の個人の能力を上げるのも大事だとは思うのですけれども、チームとしてイノベーションを起こす、新しいアイデアを出すというのには多様性が大事であると考えます。色々な能力とか色々な経験、色々な価値観を持った人が集まって初めてその付加価値は出るというような研究結果が出ていると思うのですね。

 今の日本企業の働き方だと、そういう多様な経験、価値観、能力を持った人は集まりにくくて、大体同じような属性の40代以上で言うと、専業主婦の妻がいる男性だけでやっているというような状態だと思うのですね。そこが、働き方が多様化することで、よりイノベーションが起きやすくなる、付加価値が上がりやすくなる、生産性が高まるというロジックもあるかなと思います。

 

〇小林(庸)氏 

先ほどの柳川先生と磯山さんの御質問とちょっと関連するのですけれども、私のプレゼンの後半部分に質問が来なくて、私のプレゼンが悪かったなと反省しているのですけれども、実は私はこれが面白いと思っているのですけれども、これ(資料2-P18)はもともとちょっと小さい字で恐縮ですが、この論文のタイトルは「What Works?」というタイトルです。何が機能するかみんなでちゃんと考えようと。失業給付は分かりやすい政策だと思いますし、この論文自体は、下の方に書いてありますけれども、Active Labor Market Policy、つまり、積極的な労働市場政策の効果をどう考えるかという論文ですけれども、磯山さんが仰っていたのは、多分今までの労働政策はパッシブなものが中心で、失業給付とか、職から転落してしまった人をどうやってセーフティネットするかというところとは別に、アクティブなポリシーをどう考えるかということだと思うのですが、アクティブなポリシーというのは多分難しいのだと思うのです。そんなに簡単に、これをやったら急に生産性が上がるとかいうのがあったら、そういう魔法の杖はなかなかないので、色々な研究をちょっと眺めてみて、What Works? を考えようというのがこの論文の言っていることです。

 イノベーションを生んでいくとか、人的資本をつけていくとか、より良い職に就いていくというのは、多分より手探りな政策であるがゆえに、きちんとどれが効いたか効かなかったかを見ていかなければいけないというのが私は大事なポイントなのかなと思っていて、実際に、デビッド・カードは800ぐらいの研究を全部サーベイをして効果を見ているのですけれども、一応彼は4点まとめています。

能力開発は短期ではあまり効かない。だけど、2、3年後にインパクトが出てくる。これが1点目です。2点目は、人的資本を蓄積するようなプログラムは効果が高い。だから、マッチングとかとりあえず仕事に就かせるとかというよりは一人一人の能力を高めていく、これはさっき柳川先生が仰っていたこととまさに重なるのですけれども、それが効果が高いというのが2点目ですね。3つ目が、効果は人によって全然違って、女性や長期失業者に対するプログラムはは効果が高い、これが3点目ですね。4点目として言っているのは、不況期にはより効果が高い。つまり、好況なときに人的資本投資をするぐらいだったら働いてもらった方が多分いいわけですけれども、不況期だったら職がないんだから、今は自分の力を蓄える時期だということで、そういうような政策をやると効果が高い。

こんなようなことがかなりできてきていて、こういうのを指針として政策を見ていくというのが大事なのかなと。ただ、もちろん厚労省さんは多分やっていらっしゃると思いますし、JILPTなどではきっと熱心に研究されていると思うのですが、少なくともここに出てくる研究で日本は取り上げられてなくて、効果測定のところでちょっとおざなりになってしまっているのではないか。難しいことだからこそ、ちゃんと測りながらPDCAを回していこうではないかというのが私が言いたいことでして。それは働き方の政策ととても相性がいいというか、というようなものなのではないかなと思っています。

補足でございます。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 厚労省に質問があるのですけれども、労働時間がありますね。この労働時間は、厚労省が推進していると思うのですが、それはどんなデータというか、どんなやり方なのかということと、これの国際比較が出ていると思いますが、各国何かスタンダードなルールがあるのでしょうか。

 

〇小川統計情報部長 

厚労省がとっている賃金、労働時間のデータは、毎月勤労統計です。5人以上の企業に毎月調査票をお送りして、そこから回収して、集計をしております。それについては、パートと一般労働者を合計した数字で出ています。だから、全労働者でみると労働時間は下がっているけれども、一般労働者で見るとあまり変わってないという結果が出ている。

外国については、各国の統計でやっていると思うのですけれども、1つ可能性があるのは、アメリカでは、ホワイトカラーの中でエグゼクティブワーカーで、労働時間管理をそもそもしない人がいるわけで、そういう人が働いている可能性もあるかもしれない。ただ、本当はそこのところは各国統計の定義を見ないとよく分からないということはあります。日本は全部入っています。

 

〇金丸座長 

そうすると、日本の方は割と真面目に集まっている可能性があるということですか。

 

〇小川統計情報部長 

真面目に集めています。

 

〇金丸座長 

今は、ホワイトカラーエグゼンプションはない社会だから、例えばアメリカだと、そんな人は労働時間をインプットされてない可能性もあるということですか。

 

〇小川統計情報部長 

そもそも測っていない可能性があるということですね。

 

〇金丸座長 

ありがとうございましす。

 そうすると、5人以上のデータであると、5人というのは各国同じですか。それも違うのですか。

 

〇小川統計情報部長 

おそらくそれも違うと思います。

 

〇金丸座長 

そういうことなのですね。分りました。

 松尾先生、1回目のプレゼンテーションをしていただいた以降、また、「アルファ碁」とかビッグイベントがあったので、何か最近のアップデートというか、今日の皆さんの議論を聞いた感想でもいいですが、お願いします。

 

〇松尾氏 

遅れて来て申し訳ありません。

 今の政策のPDCAは僕も非常に同意でして、多分これは厚労省に限ったことではないと思いますけれども、本当にちゃんとやらないとと思っています。僕はよくシンガポール国立大学に行っているのですけれども、シンガポールの人と話をする機会が多くて、そうすると、東大卒の人で向こうの官僚をやっているような人とかも友達でいたりして、そうすると、やはり若い国なので、何かアクションをするとすぐ結果になって返ってくるのですね。それがすごい短いサイクルで起こるので、役所の方がこうやったらこう動くのだというのを肌感覚で感じているところがあって、そうすると、日本も高度成長期は多分そうだったのではないかと思いますけれども、だんだんこういう政策を打ったらいいのではないかというのも分ります、当然データも取りますしということで、PDCAがすごく回っているなという感じがします。そこをできるだけこういうデータに基づいてやっていく、PDCAに基づいてやっていくというのは非常に重要なことかなと思います。

 それから、もう一つは付加価値のお話があって、僕もまさにそのとおりで、何のためにやっているのかというのがはっきりすれば、それをさっさと終わらせるというのがすごくできるようになりますけれども、そこが定義されない限りは、何となくサボっているみたいな感じになって、僕も大学内で研究の付加価値をどうやったら上げられるのかというのを、ここ数年来ずっとトライしてきて、特にマッキンゼーとか大手のコンサルティングファームは非常に高いお金を取っている=価値を創出しているというのに比べて、大学の研究費は何でこんなに低いのだろうということで、色々工夫を重ねてきて少しずつ上げる努力をしてきたのです。

そのときに一緒にやったのがコンサルティングファームの方で、一緒に案件を取るということをやって、そうすると、金額が一人でやるときよりも多くなるのですね。やっているうちにだんだん自分もその付加価値の出し方とか、どういうふうにクライアントの企業とやりとりしていけばいいのかというのがわかってくるのです。それを支えているのは、僕は今の研究が国からお金をもらうというタイプのものはだんだんしぼんでいってしまうと思うので、早いところスタンフォード型、企業の資金をベースにした研究室運営をやっていかないといけないと思って、そういうことをやっています。

そうすると、そういう工夫が生まれるわけですが、思っているのは、ギャップがあるときには、必ずアービトラージをとるプレーヤーが出てきていいはずだと思うのですよ。何で日本はそれが出ないのかなというのは結構不思議で。一方でこれだけ困って、労働環境が悪いですよと言っている人がいて、一方で企業の業績を上げたいという人がいるのだったら、アービトラージの余地は結構あるはずで、それは多分色々なところであるのだけれども、何で起こらないのかなというのが漠然と思っていることで、その背景に何となく儲けなくてもいいのではないかとか、経済的なインセンティブが全体に効かなくなっているということが背景にあるのではないのかなと思っているのですね。何となくそう思っているということです。

 

〇金丸座長 

「アルファ碁」はいいですか。

 

〇松尾氏 

「アルファ碁」の話をしますと、アルファ碁が4勝1敗で勝ちました。かなり驚くべきことでして、囲碁は将棋に比べて10年遅れと言われていましたから、2025年ぐらいだろうとみんなは思っていたのですけれども、それがこんなに早く来たと。1つはディープラーニングを使ったということで、盤面の認識ができるようになって、囲碁は絵として見るのですね。囲碁の場合はここら辺が厚いとか薄いとかそういうのを何となく目で見て判断しているという部分が大きく、そこができるようになったので、それと、従来からやっている強化学習とか探索とかそういうコンベンショナルな方法を組み合わせると一気に強くなったということです。

 僕が思うには、このディープラーニングを使ったということで、今回アルファ碁はディープマインドという会社が開発しましたが、おそらくそこがやらなかったとしても、3、4年後には多分勝っていただろうと。それが今年起こったのは、このディープマインドという会社がすごく研究開発能力が図抜けているということだと思います。

本来は、ディープマインドみたいな会社は研究機関にいてもいいはずだと思うのですけれども、それが今はGoogleの傘下で資金的には何の心配もないという状況でやっている。それはちょっと面白い変化だなとは思っています。そのCEOのハサビス氏のインタビューが出ていましたけれども、もともとベンチャーを作って、自分でやられていたのですけれども、急に買収されたと。400億円で買収されたのですけれども、何で受けたかといったときに、Googleの創業者の方に「僕はGoogleをつくるのに15年かかった。おまえはその苦労をもう一回するつもりなのか。それだったら、その15年をやりたいことに使った方がいいんじゃないか」と言われて、会社を売ることを決めたと言うのですけれども、確かに、そう言われると何か響いてしまうなと思いました。そういう研究開発も、そういうふうに少しずつやり方が変わっているのだと思いますし、国がサポートしてというのだけではなかなか難しい領域に来ているのかなと思います。

 もう一つ面白いのは、人々のアルファ碁に対する反応のところで、みんな最初はなめていて、イ・セドルさんが勝つのではないかと言っていましたけれども、前々回初日にアルファ碁が勝って、みんなびっくりして、2日目にイ・セドルさんが本気を出して、それでも負けてというので、だんだん本当に強いとなってきて、3戦目も圧倒的にアルファ碁が勝ってしまって、これはもう破滅だみたいになって、4戦目にイ・セドルさんが勝つと、今度みんな大喜びして、人類勝ったみたいな感じになって、こういう変化はすごく面白いなと思いました。多分色々な領域でこういうことが起こると思うのですけれども、今回の例は1つ人々の反応としてはすごく分りやすくてて参考になるのかなと思いました。

 

〇金丸座長 

そうですね。人間同士のオリンピックから今度変わっていってしまうのではないかとみんなが言っていました。ありがとうございます。

 

〇柳川事務局長 

2点ほど。1つは、今、松尾先生が仰った非効率性があったら、どこかで誰かに裁定されているという機会を狙って何かやってくるはずではないかという話は確かにそうだと思うのですね。日本でも既にゆっくりとした形では裁定がある程度働きつつあって、それは結局、シンガポール国立大学にみんな教員が逃げられたりとか、松尾先生はGoogleに買われてしまうのではないかとか、そういうような話になって現れていると思うのですね。

一番のポイントは、日本は裁定の起こっているスピードが遅いということだと思います。アメリカはすごい早いですね。それは先ほどのGoogleの話と実は同じ構造で、Googleのあのスピード感が日本の企業に比べて圧倒的に早かった。結局、この動きのスピードの差がかなり国の優劣を決めるというのは今起きている一番の特徴ではないかと思うのですね。色々なものが変わって少しずつやれていますということは日本では言えるのだけれども、やれているかやれてないかの問題ではなくて、どれだけクイックにスピード感を持ってやれるかというところが一番のポイントで、そこで負け続けてしまうのではないかというのが1つの大きなポイントかと思います。

 せっかくランダム化実験の話をしていただいたので、私は一応研究者として、実はこれはものすごく重要な話で、これは社会科学における革命の1つなのですね。何年後かは分りませんけれども、これをやった研究者は確実にノーベル賞を取るだろうと言われているぐらい実は革命的な話です。何が凄いかというと、技術的な専門的なことはちょっと置くと、社会科学においての政策効果とか何かの影響を見るのはすごく難しくて、1つは長い歴史を経ないと結局、その効果は見られないというのと、世の中は色々なことが起きてしまうので、例えば、今回でも、色々な政策をやりました、去年何か政策をやりましたというふうに、でも、去年は色々なことが起きているよねと。海外でも色々な景気の変動もあるし、他の政策もあるし。そうすると、「この政策の効果は?」というのはなかなか見られないということがある。そうすると、「この政策の効果は?」を明確に見られる。それから、長い歴史を経なくても、今ある程度こういうふうなことをやれば、割とクイックにそれこそ政策の効果は出てくるというので、相当の注目をされていて、もともとは開発経済学とかそういうところで援助をしたりするときの援助の効果はどういうふうに測ったらいいのか。

例えば、マラリアの蚊が蔓延している。何とかその病気を減らしたいのだけれども、援助をしますと。でも、どういう形で援助をするのが一番マラリアを予防できるのかというのは実は人によって意見が分かれる。では、それを実験してみましょうとこうやってやったのですね。なかなか難しいとは思うのですけれども、やはりこういうことを政策の場で導入してくることの重要性はものすごく高くて、海外ではもう相当これだけやっているというところを見ると、日本でもこういうのは御紹介いただいたので、できるだけこういう方向で政策の効果を見ていくというのは今後是非やっていただきたいなと思います。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 

〇御手洗氏 

先ほど、付加価値を生めるかどうかがチャレンジではないかというお話をしました。その後の議論の中で少し気になっていたのが、生産性の話と付加価値の話が混ぜてされているということです。この2つは大いに違うものだと思います。だから、付加価値の質問に対して、生産性について答えるとかはそもそも議論がかみ合ってないと思うのです。

例えば、時短を進めていますみたいな話は、生産性の話です。ルーティンな作業でも急いでやるようになれば生産性は上がりますから、そこはオペレーション改善が得意な日本人は何とかできるかと思います。それより、今の本質的なチャレンジは、そもそも人間の仕事が何になっていくか、日本に住んでいる人たちがどんな付加価値を生み、仕事としていくことができるのか、といったことです。これは生産性の話ではありません。ここは話を混ぜないように、気をつけるべきでしょう。付加価値について話しているときは、付加価値にフォーカスして話した方がいいかと思いました。

 先ほど、人工知能の話を聞いて、ますます大変だなと思いました。私は気仙沼のおばちゃんたちのことをイメージして、みんなちゃんと食べていけるだろうかといつもひやひやしているのですけれども。少し気仙沼の現場のお話をさせていただくと、何が難しいと感じるかというと、できる限り自分の頭で考えたくないという性質の人も少なくないことです。なるべく自分で判断したくない、考えたくない、言われたとおりのことだけやっていたい、と。それは例えば生産加工会社の工場のラインで働いていたりすると、何十年もかけてその訓練をされているわけですから、仕方のないことかもしれません。ただ、そういう単純作業を自分の頭で考えずにやるというのは、ロボティクスや人工知能に一番代替されてしまうところですね。そこからの転換は非常に難しいことで、そこがチャレンジになるかと思っています。

 先ほどもちょっと申し上げましたように、これからは若い人だけ変わればいいということではなくて、現状働いている40代、50代の人まで含めて行動パターンを変えないと、多分その人たちの仕事がなくなっていってしまうのだと思います。どうやって行動パターンを変えるのか、どうすれば付加価値を上げるよう自分で考え判断をすることができるのか、といったことが課題ではないでしょうか。それは単純に一律に教えられる技術とも、また、違う話ではないかなと思っております。

 私がここで山内さんのお話をすごく伺いたいなと思っているのは、ヤマトさんのセールスドライバーさんたちは、ずば抜けてサービスレベルが高く、御自身の判断領域も大きいように思います。10万単位の人がそうなっているというのも凄まじいことだと思いますので、ヤマトさんがどういうふうにされているかみたいなことは、今後、全体的にすごく参考になる話ではないかなと思ってお伺いしたいなと思っております。

 

〇金丸座長 

次回予定しておりますが、ちょっとさわりだけでもお話をお願いします。

 

〇山内氏 

次回お話をさせていただく形になるので、また、お話をしたいと思いますが、まず働き方と言ったときに、生産性を高めることだけが目的ではないわけで、価値を高めるためにどういう働き方をするか。そこが1つある。

 最初の方の議論にもあったと思うのですけれども、働くときに、効率を上げるという部分と、働く人の満足度・充足感みたいなものをどれだけあげるかということがセットになって初めて働くときの価値というのも上がるような気がします。私どもの場合は、効率を上げるという面も追求しながら、自分の充足感、達成感、いわゆるやりがいみたいなものがセットになって幸せな働き方になっている。どういう形で充足感とか満足感が持てるのかというと色々あるのですが仕事の中でお客様と接するときに自分で判断するといったことが絡んできます。

 したがって、今、働き方をどうするかというお話をしている中でも、生産性を高めていくという部分と、同時に自分の心の充足感をどう高めていくかというのを併せながら議論していく必要があるのではないかと思います。

 それから、先ほど生産性を高めるというよりは、今日の小林さんのお話にもありましたけれども、一人当たりの付加価値をどれだけ高めるかというのが今後の社会の中では必要になってくるだろうと思います。その付加価値は何だろうかという辺りが、先ほどのサービス業の特徴のように、生産と消費が同時に行われるような中ではそれは何なのだろうか。今日、資料で出していただいた、両サイドに高い山があるという、ああいうところに何か1つヒントがあるのかなと思いながら実はお聞きしていました。我々が働き方を考えるとともに付加価値を高めていけるような働き方をみんなでしていくためには、どういう働き方をしていったらいいのだろうかという観点をこれから議論できたらいいと思います。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。次回、楽しみにしております。

 

〇山内氏 

ハードルが上がってしまいましたね。

 

〇青野氏 

1つだけ。先ほどの効果測定のところですけれども、「0」となっていて、すごく残念な思いなのですが、あれは何で「0」なのですか。

 

〇小川統計情報部長 

多分、英文の論文で政策効果だけで見ていると思うのですね。日本語であれば、そういう政策効果を測定している論文とかは幾つかございます。

 実験的な手法については、正直言って行政マンとしては、例えば失業者に対してトリートメントグループとそうでないグループをつくって実験するというのは、なかなかちょっと苦しいなというところもあります。基本的に問題意識は一緒ですけれども、手法としては、できれば、個票データとかそういうものを使った上で、内生性の処理とかそういうところをやった上でその政策を見ていければなというふうには考えています。

 

〇小林(庸)氏

 小川さんの言っていることは私も本当にもっともだと思いつつ、ただ、できるところもあるのかなという気はしていて、先ほど柳川先生がスピード感のお話をしましたけれども、実はこれは何でこういう手法がいいかというと、小さく試して、良かったら全体というのができるので、スピード感が伴って改善できてくる。いきなり全体をやって、全部失敗しました、さようならというのだと厳しいので、やはりスピード感というところが大事なのかなと。

 あと、これはあんまり御紹介できなかったのですけれども、実はこういうのをイギリスで担っているのは、官民の中間的な財団がこれを担っているのですね。政府が直接的に実験をやるのは多分ハードルが高いので、政府から少し距離を置いて、しかし、政府と連携しているところが小さい規模で効果測定をしていくということを実際イギリスが取り組み始めているので、もしかしたらこの辺が参考になるのではないかなとは個人的には思っています。ありがとうございます。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 

〇浦野氏 

少し違った観点となりますが、多分、この先も国際比較はしていくかと思うのですが、将来のことは、今のこの実験をやりながらというのは1つ非常に面白い試みだと思います。一方、過去の労働統計は、特に前提条件や数値のとり方は国が異なると非常にばらつきがありまして、比較する時には必ず問題になると思います。色々な各国を一遍に比較するのは、結構危険なところもあるかと思います。特にアメリカは、子供の育児のことなども全然違う、自分でやるのが当たり前になっていると思いますので、私もどこがいいか分からないのですが、中身も分って、どういうデータが出ているのか分かるような国と比較していった方が、正確な議論に結びつきやすいと思います。是非、それをお願いしたいと思います。是非、それをお願いしたいと思います。

 

〇金丸座長 

それは、どの国が良いとかありますか。ドイツとか、アメリカも無視できないと思います。イノベーションが出てくるのはほとんどアメリカの企業ですね。

 

〇浦野氏 

アメリカは事例としてはとても面白いと思います。こういう良い事例があると。ただ、全体統計になってしまうと、収入だって、ばか高い収入をもらっているCEOとそうでない層があります。平均的な比較をするには注意が必要と思います。

 

〇山川氏 

先ほどの御手洗さんの問題意識に関わることですが、生産性ということは、ある意味で一つのステップで、先ほどの厚労省さんの資料1を見ると、生産性革命は、第一の矢の的のルートの1つで、確かに時間当たりの生産性が、労働時間が短くなることによって高まったとしても、そのことだけでは生産高自体はむしろ変わらないので、GDPを増やすという観点からは生産性革命、まさに付加価値を考えることが必要です。

 今の労働市場の構造からいうと、非正規について前半でお話ししていた点が何か抜けてしまうので、それは多分右側に書いてある労働参加率の向上というところに、非正規の方とか独立自営業者の方が入ってきて、それらも合わさってGDPを高めていくという、そういう議論になるのかなと思います。

 

〇金丸座長

 ありがとうございます。

 

〇青野氏 

生産性と付加価値のところは、私的にはすごく腹に落ちました。というのは、私も、柔軟な働き方をしていますよ、面白いですよみたいなお話をよくするのですけれども、「生産性をどうやって上げるのですか」と言われるのですね。「働き方を柔軟にして、生産性がなぜ落ちないのですか」と聞かれるのですけれども、答えられない。というのは、生産性を測ったことがないので、正直意識したことがないと思っていて、非効率なことは止るけれども、生産性を上げようなんていうことを号令でかけたこともなくて、だから、この「生産性革命」は結構危ないキーワードかなと思いました。考えないといけないのは、もっと何か面白い価値を出そうぜみたいなところに意識を集中させないと、何か生産性生産性と本当に労働集約的な方に流れていきそうで怖いなと思った次第です。

 

〇金丸座長 

ありがとうございます。

 私は、生産性本部にも属していたりしたのですけれども、そういう意味では何となく工場のイメージが色濃くあって、工場で使われているような用語がそのままスタンダードになっているという違和感はあるのだと思います。そういうことを是非この会議では払拭をして、刷新をして、新しい概念を打ち出したいなと思います。

 それでは、本日の議題は終わらせていただきます。次回の懇談会では、後半、注目をされた山内さんと山川さんから御説明いただく予定でございます。

 最後に、厚生労働省から御連絡をお願いいたします。

 

〇鈴木労働政策担当参事官 

次回につきましては、4月1日(金)14時から16時まで、場所につきましては、当省の18階の会議室で開催を予定しております。詳細につきましては、別途、御案内させていただきますので、よろしくお願いいたします。

 以上でございます。

 

〇金丸座長 

それでは、どうもありがとうございました。


(了)
<照会先>

政策統括官付労働政策担当参事官室

03-5253-1111(内線:7992)

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