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2015年10月30日 第11回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会議事録

○日時

平成27年10月30日(金)15:00~17:00


○場所

厚生労働省 専用第21会議室(17階)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)


○議題

(1)組織の変動に伴う労働関係に関する研究会報告書(案)について
(2)その他

○議事

○荒木座長 皆様、お揃いですので、第11回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会を初めます。大変お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。

 事務局から委員の出欠状況についてお願いいたします。

○労政担当参事官室企画調整専門官 本日は、全員御出席となっております。よろしくお願いいたします。

○荒木座長 早速、議事に入ります。本日の議題は「組織の変動に伴う労働関係に関する研究会報告書()について」です。まずは事務局から資料1について御報告をお願いします。

○労政担当参事官 御説明いたします。資料1を御覧ください。本研究会における前回までの御議論を踏まえ、事務局で報告書()を作成いたしましたので御説明いたします。これに基づき、本日は忌憚のない御議論を頂ければと思っております。先に資料について御紹介しますと、資料1が報告書()の本文です。24ページからは参考資料です。次に、参考資料1は、前回提出した論点に関する資料。参考資料2は、これまでの研究会報告・通知です。参考資料3は、労働契約承継法をはじめとする法令関係の資料です。

 まず資料1の1「はじめに」です。文章が多いですので、一部をかい摘んで説明させていただきます。初めの2つのパラが導入部分です。1パラにありますとおり、会社分割、事業譲渡、合併を始めとする組織の変動は、労働関係に多くの影響を及ぼすことから議論がなされ、一定の措置が講じられてきたと思います。2パラにおきまして、会社分割については、労働契約の承継等を含めた労働者の保護に関する立法措置として、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下「承継法」と称します)が制定、施行されております。事業譲渡及び合併につきましては、平成14年8月の研究会において「法的措置を講ずることは適当ではない」とされ、平成15年4月に、労働関係上の問題についての基本的な考え方を示した通知が発出されているところです。

 以降は研究会の問題意識ですが、承継法の施行や研究会報告から10年余りが経過し、会社法その他の法整備も進められ、裁判例も蓄積されてきております。また、近年では、農業協同組合等の法人類型についても分割法制の導入を検討されたことがあります。このような状況を踏まえ、本研究会では、平成2612月から組織の変動に伴う労働関係の諸課題について、主に会社分割と事業譲渡に焦点を当てて検討を行ってきたということです。法制度や裁判例の動向等々を把握するとともに、今後の方向性について議論を重ねた結果、取りまとまったため、報告するということになりました。なお書きは、農協等の検討を先行して検討を行ったことを書いていますので省略いたします。

 次に、2「現状の整理」です。これは現行の法制度の動向などを説明している部分です。1「法制度の動向」の()概観です。○1会社分割における労働契約の承継です。会社分割制度では、分割契約等の定めに従って、権利義務が包括的に承継されるが、労働契約について労働者の意思と無関係に承継されると、労働者に与える影響が大きい。そこで、承継法では、会社法の特例として、異議申出権や、労働者及び組合への通知、協議手続等を定めるほか、承継法第8条に基づいて指針が定められております。会社分割の場合に労働契約が承継されるかについては、1つ目として、承継される事業に労働者が主として従事しているか。2つ目として、分割契約等にその労働契約を承継する旨の定めがあるかによって、4つのケースに分かれるとして、下に図があります。

 この4つのケースのうち、上から2つ目の「ケース2」(承継される事業に主として従事する労働者で分割契約等に承継の定めのない者)、「ケース3」(承継される事業に主として従事していない者で分割契約等に承継の定めのある者)には、これまで従事した職務から切り離されるおそれがあるため、異議申出権が与えられています。

 更に、平成12年商法等改正法附則5条及び承継法指針では、分割会社は通知期限日までに、事業に従事している労働者と、労働契約と承継に関して協議するとされています。また、承継法7条において、分割会社は、労働者の過半数で組織する労働組合又は過半数を代表する者との協議その他の方法によって、労働者の理解と協力を得るよう努めるものとされているところです。これが会社分割の法制度です。

 ○2事業譲渡における労働契約の承継です。事業譲渡の法的性格は、会社分割や合併と異なり「個別承継」ということで、債権債務を個別に特定して合意するとともに、債務の移転については債権者の同意が必要となります。労働契約の承継についても同様に、譲渡会社と譲受会社の間の労働契約の承継に関する合意のほかに、労働者本人の同意も必要となっています。

()会社法の制定です。全体として組織の変動を促す法整備がなされてきており、4ページにあるような独占禁止法改正による純粋持株会社の解禁(平成9年)以降は類似の様々な法整備がなされてきています。承継法との関係では、会社分割に関して平成17年の会社法制定、これは商法を一部改正して会社法としたわけですけれども、その際の会社分割に関する改正事項の2点の影響が大きいことから検討を要するとして、以下を検証しております。以下の説明をさせていただきます。

 ○1事業に関して有する権利義務です。改正前商法では、会社分割の対象が有機的一体性のある組織的財産である「営業」であると規定されていたため、承継される営業に全く従事しない労働者(以下「不従事労働者」という)の労働契約については分割契約書等に記載して承継できず、転籍する場合には、別途の同意が必要とされていたところです。

 しかし、会社法制定による分割制度の改正によって分割の対象は「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」に改正され、不従事労働者の労働契約も分割契約等に承継の定めを置くことが可能となりました。このため、その際の承継法指針の改正により、不従事労働者について、承継される事業に従として従事している労働者、つまり主ではないが従として従事している労働者(以下「従従事労働者」という)と合わせて「非主従事労働者」と整理し直し、承継の定めがあれば通知及び異議申出権の対象とすることとしたところです。下に図を書きましたように、右の2つの欄は非主従事労働者ですが、今の不従事労働者はこのように従従事労働者と同じ扱いです。

 ただし、不従事労働者という固まりで見ると、5条協議という一番上の欄の協議の対象となってはいないのが指針上の扱いです。なお、この改正をきっかけとして後ほど議論します転籍合意方式(分割契約等に労働契約を記載することなく、個別に労働者の同意を得ることによって承継会社等に転籍させることという)は、会社分割をしながらそういう合意をするという方式ですけれども、それが多くなったという指摘があります。

 会社法制定による大きな影響の2点目は、○2債務の履行の見込みに関する事項です。改正前商法では、債務の履行の見込みのあること及びその理由が、事前開示事項とされていたところですが、会社法の制定による改正を契機に、「債務の履行の見込みに関する事項」と改められました。これによって債務の履行の見込みがない場合であっても会社分割の効力は否定されないと説明されております。学説上は反対説もあると言われています。これに併せて、承継法における通知事項も表現の改正などをしております。

 なお書きですが、平成26年の会社法改正において、詐害的会社分割(会社が残存債権者を害することを知って行った会社分割)の場合には、残存債権者(元の分割会社の債権者)は、承継会社と行った先の会社に対しても一定の範囲で債務の履行を請求することができることとなっております。そういう改正がなされております。

 次に、法整備の動向として、()労働契約法の制定等を書いています。労働契約法は平成1912月に制定されましたが、ここでは従前からの判例法理を踏まえて、解雇、労働条件の不利益変更の規定が設けられています。ただ、解雇については平成15年の労基法改正で既にその法律の18条の2に規定されており、解雇権濫用法理の制定法上の根拠として与えられて、その規定が労働契約法に移されたもので、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と規定されています。

 労働条件の変更につきましては、労使の合意により行うことができることとし、また、就業規則の変更による労働条件の不利益変更については、労働者との合意なしには行えないという原則の上で、就業規則を周知させ、かつ就業規則の変更が一定の事情に照らして合理的なものであるときは、契約内容である労働条件は変更後の就業規則に定めるところによるものとすると規定されたところです。この労働条件の不利益変更法理も法定化されております。

()倒産法制の改正です。民事再生法等の倒産法制において、再生手続等における事業譲渡に当たって労働組合等の関与に係る仕組みが整備されており、裁判所は、手続開始後の事業譲渡について許可をする場合には、労働組合等の意見を聴かなければならないとされたところです。以上が、法整備の状況です。

 2「裁判例等の動向」です。()会社分割に伴う労働関係に関する裁判例です。そのうち○1個別労働関係に関する裁判例の1つ目として、「日本アイ・ビー・エム事件」があります。7ページの日本アイ・ビー・エム事件では、承継される事業に主として従事している労働者との関係において、「5条協議が全く行われなかったとき」また「5条協議が行われた場合であっても、その際の説明や協議の内容が著しく不十分であるため、法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合」には、労働契約承継の効力を争うことができると判示したものです。またその同じ判決では、7条措置については、「これに違反したこと自体は労働契約承継の効力を左右する事由にはならない」として、5条協議義務違反の有無を判断する一事情として7条措置のいかんが問題となるに留まるものということなどの判示も、併せてされています。

 2つ目の項目のイ「阪神バス(勤務配慮・本訴)事件」です。これは分割会社が主従事労働者に対して、承継法に基づく通知等の手続を行わずに、先ほど説明しました転籍合意方式によって転籍させて、その際、労働条件の不利益変更を行った事案です。判決では、まず「転籍同意が得られたからといって通知等の手続の省略が当然に許されるものとは解されない」とした上で、その手続は労働契約がそのまま承継され得ることについて一切説明せず、そのような承継の利益を意識させないまま、形式的に転籍の合意を得て、通知の手続を省略して、承継法において保障されているはずの労働契約がそのまま承継されるという労働者の利益を一方的に奪うものというべきとし、「同法(承継法)の趣旨を潜脱するもの」であって、「公序良俗に反し無効と解するのが相当」と判示したものです。さらに「承継法所定の通知がなされず、その結果、適法な異議申出の機会が失われた場合には、適法な異議申出が行われた場合と同様の効果を主張できる」としております。

 次に、会社分割のうち、○2集団的労働関係に関した裁判例です。アは、モリタ・モリタエコノス・中央労働委員会事件ですが、簡潔に申しますと、新設会社が労働組合員の労働契約関係を承継したことに伴い、支配介入に関する不当労働行為責任を承継したと判示したとともに、使用者性については、過去の時点における労働契約関係の存在もまた、基礎づける要素となるという考えを示した上で、分割会社(元の会社)が使用者の地位を失うことはないとした事例です。イは、国・中労委(阪急交通社)事件です。派遣就業関係の承継に伴い、使用者としての地位も承継会社に承継されると判示したものです。

()事業譲渡に伴う労働関係に関する裁判例・命令です。主に、平成14年研究会報告以降の事案に焦点を当てて分析したものです。○1個別的労働関係に関する裁判例です。中でも、アは事業譲渡における雇用関係の承継に関する事案です。1パラ目をかい摘んで説明します。4行目以降に、研究会で取り上げた平成14年以降の裁判例では、事業譲渡後に譲渡会社が解散し、承継されず残された労働者が譲受会社への地位の確認等を求めた事案が多く見られたとあります。その承継されなかった労働者について、裁判例では、黙示の承継合意の認定や法人格否認の法理等を活用して、個別の事案に即して、雇用関係の有無を判断する傾向にあるということです。具体的には、承継合意に関するものとして、労働条件改定に異議のある従業員を個別に排除する目的であるとして不承継特約の合意等を民法第90条の公序良俗違反として無効とした裁判例等があります。

 一方、法人格否認の法理に関するものとしては、未払い賃金等の債務の逸脱を目的とした会社制度の濫用であるとして法人格否認の法理により雇用関係の承継を認めたもの等があります。イは、事業譲渡における労働条件の変更に関する事案です。事件が一部重複していますが、労働条件を相当程度下回る水準に改訂されることに異議のある労働者を排除する合意を公序良俗(民法第90)違反として無効としたもの等があります。

 ○2集団的労働関係に関する裁判例・命令です。労働契約の不承継が不当労働行為事件として争われたもので、労働組合員を採用しなかった事案で、不利益取扱いであると認定したものです。

 3「組織の変動の実態」です。これは研究会でMA調査業者等から報告を受けた内容を記載しています。()MAの動向です。平成9~10年頃から金融危機・経済危機を背景に、「選択と集中」が進み、企業にMAが定着しましたが、平成1718年以降は、むしろ戦略的なMAが増加し、リーマンショックの影響によりMAの件数は一旦減少しましたけれども、再び増加しているという状況が報告されました。

10ページの○1各制度の特徴と利用ですが、これは先ほど説明したものと重なりますけれども、会社分割は包括承継であるため、個別の同意が不要である。ただし債権者保護手続が必要です。一方、事業譲渡は個別承継のため、個別の合意が必要であるという特徴があります。2パラにありますとおり、会社分割は、包括承継であるが、手続が必要であるため一定の期間を要し、比較的大きな単位で分割することが多いとの指摘もあるということでした。また会社分割は、主に新設分割については買収前の前段階として事業の一部を別会社に切り出す場合とか、吸収分割を行う際に、既存会社に事業譲渡をすることを目的とされる傾向がある。事業譲渡は、主に非中核事業の売却、事業譲渡方式の事業再生等の目的で利用される傾向があるという報告もありました。

 ○2の労働契約の取扱いです。会社分割では、労働契約を包括的に承継されますので、労働条件は変更されませんけれども、実務上、転籍合意方式が行われているということで、特にその背景と実態についての報告がありましたので記載しています。労働条件は、承継会社側の労働条件を調整して統一する必要があるということで、最初から承継会社の労働条件の下で雇うことができれば、承継会社側のニーズがあること。その中で、分割対象として「事業」であることが要求されなくなったことが一つのきっかけにもなったと考えられるということです。転籍合意の仕方は様々ですけれども、個別に労働者との間の協議は行われている場合が多いし、紛争の種を残したまま転籍させるのは承継会社等にとっても全くメリットがないので、そのような状況を作らないという意識に立って相談や協議が行われているのが通常であると考えられるとのことです。

 ○3労働者との個別協議の実態です。会社分割では、法令に従って5条協議等が行われている。一方で、事業譲渡でも合意を得る過程で、説明・協議が行われる場合が多いという報告がありました。なお、事務局が出した統計について説明していますけれども、都道府県労働局の個別労働紛争相談件数のうち、「労働契約の承継」に関する相談件数は、おおむね700900件程度で推移しています。また、各種実態調査によると、企業組織の再編等が実施された際に、労働組合が関与した割合は66.5%等です。また、労使の話し合いについては、企業が大きいほど十分に行われていることが分かると書いてあります。

 4「諸外国の法制」です。本研究会において、EU諸国及びアメリカの法制について委員の先生方などから報告を頂きました。()EU諸国では、「EU既得権指令」に従って各国で法的整備がなされているということで、事業移転時の労働契約については、EU指令で自動承継される旨の規定がされており、各国でもそういう仕組になっています。事業移転に伴う解雇については、事業移転はそれ自体では解雇事由とならない旨がEU指令に規定されており、各国もそれに従っているということです。

 労働者による承継拒否です。EU既得権指令では規定されていませんが、各国はそれぞれですが、ドイツでは1か月以内に異議を申し立てることができるという規定があります。その場合には承継されずに譲渡人との労働契約関係が存続することとなります。ただし、譲渡人における雇用の維持が保障されるわけではなく、異議申立後の経営上の理由による解雇を有効とした裁判例もあります。フランスやイギリスでは、承継拒否という規定はないのですが、雇用契約が終了するとか辞職するという形になっているという報告もありました。労働条件の変更については、EU指令では個別的労働条件は承継され、集団的労働条件は、集団的協定の解約もしくは期間満了、新しい集団的協定の発効もしくは適用まで変更できない。また労働条件を遵守する期間を限定する場合、1年を下回らないというEU指令(3条)があり、それに従って各国にも制度があるということです。

 次の労働者代表等との協議・通知についても、EU指令では、労働者代表への情報提供義務が規定されており、各国にも各種規定があります。次の労働協約等集団的協定の承継・取扱いについては先ほどの労働条件の変更と重なりますので省略いたします。

 次が()アメリカです。随意雇用原則により承継する義務が原則的にはなく、変更も可能であり、新使用者が同意しない限り、排他的交渉代表としての地位とか団交義務、及び従前の労働協約は承継されないとされています。ただし、新旧両会社に実質的継続性がある場合等は、排他的交渉代表の地位の承継と団交議務が承継され(承継者法理)、また後者については、新使用者が旧使用者の分身と判断される場合は従前の労働協約に拘束される(分身法理)ことが判例法上あります。

 5「労使団体の意見」です。日本労働組合総連合会、及び日本経済団体連合会からヒアリングを行い、その概要です。()日本労働組合総連合会の意見です。○1企業組織再編における基本的な考え方です。まず、労働者の労働契約は、移転先事業主に承継させるべきである。また、労働者が異議を申立てた場合には契約は承継されないとすべきであり、移転後1年間、労働条件の不利益変更を禁止すべきとの提言があります。また、労働者代表との協議手続については、移転先等に対して団交の誠実応諾義務を課すべきとし、労働者代表等への情報提供を義務化するべきとの提言がありました。○2現行法制における実現すべき課題については、事業譲渡について労働者が圧倒的に弱い立場に置かれているということで、労働者保護の法整備(承継法の適用)等が必要という提言です。そういうことを前提に、イの承継法についてで、事業譲渡においても承継法を適用すべきであるとか、解雇を制限する規定の組み込み等の提言がありました。

 ○3承継法を見直すにあたって留意すべき点です。承継の定めのある主従事労働者という、今は異議申出権のない労働者にも異議申出の機会を付与すべき。不利益な取扱いの禁止についての法定化。不採算事業の切り離しの際に承継される場合や、逆に切り離し事業に残る場合の主従事労働者、非主従事労働者の異議申出権の問題、検討についての提言もされています。また、転籍合意方式は労働者保護に欠けるとして、承継法と同様の規定を会社法に整備することを検討するべき。親会社や持ち株会社の団交応諾義務を明確にすべきという提言です。

 次が()日本経済団体連合会の意見です。○1分割対象の会社法制定に伴う変化ということで、承継法の手続は事業単位の分割に限定して行うべきで、株式等のみの分割の場合には手続は不要ということを示すべきである。会社分割の要件の変化の1つである「債務の履行の見込みがあること」の話について、債権者保護手続の対象であり、請求権があることもあり、労働者保護に欠けるという指摘は当たらないということです。エの裁判例については、転籍合意方式の阪神バス事件について、承継法の原則を説明しないまま転籍したことが問題であって、転籍合意方式そのものが否定されたわけではないと考えるという説明がありました。

 ○2事業譲渡については多種多様の形態があり、これに一律の規制をかけ、画一的な労働者保護を図ることには無理がある。労使協議の活用が望ましいものの、法律による一律義務付けは適当ではない。事業譲渡と会社分割が実際に使用される場面では、有意な差があるということ。最後に、労働条件が不利益に変更されるような場合は配慮を行っているので、労働者保護に欠ける事態は生じていないという意見がありました。以上が現状の整理です。

 3「今後の方向性」ということです。この研究会においては、労働者保護の観点に加え、円滑な組織再編の必要性、更に労使紛争の未然防止という観点も踏まえつつ検討を行いました。1「会社分割」です。()会社法の制定への対応についてです。○1事業に関して有する権利義務の論点です。まずアとして、主従事労働者の判断基準についてです。会社法の制定により「事業」に該当しない(有機的一体性のない)権利義務を会社分割の対象とすることが可能となりました。一方、承継法では、引き続き「事業」に主として従事する労働者かどうかによって、異議申出権等の有無を判断しているところですが、「事業」に当たらない権利義務の分割を行った場合の主従事労働者の考え方が明確ではないことから、改めて検討したということです。考え方として、○1従来どおり承継される「事業」に主従事か否かにより判断する場合、「事業」たり得ない権利義務のみの場合には、非主従事となるという考えです。○2権利義務に主従事か否かにより判断する。この2つの立場が想定できるとなっています。

16ページです。検討の前提としては、承継法と会社法の考え方を確認する必要があるとしています。承継法制定時は「営業」単位で有機的一体性を保ったまま分割されて、労働者の雇用や職場を「営業」単位で確保できる。したがって営業に主として従事しているにもかかわらず承継されない場合には、主として従事する業務と切り離される不利益が生じること等から、「営業に主として従事するか否か」で判断することとされたという経緯です。会社法の制定により「権利義務」単位での分割を可能としたという趣旨ですが、これは「営業」に該当するかどうかは一義的に明らかではないので、会社分割の効力の不安定さを回避する必要があったこと。また、この分割制度では、事前・事後開示制度、債権者保護手続などがあり、必ずしも債権者を害するおそれが高いとは限らないので、営業としての実質を備えなければ許されないとする理由が見出し難かったこと等と言われております。実務においても、重い手続きが要件となっていることも背景に、一定のまとまりの単位で承継される傾向があるとされております。

 次がそれを踏まえた検証ですが、仮に○2承継される権利義務に主従事か否かによる判断で考えるとすると、権利義務レベルの分割承継に伴って、その権利義務に従事していた労働者を承継対象とした場合に、従来所属していた事業とは切り離されて承継を強制されることになりますが、これは妥当とは解されない。また、権利義務に従事したが、承継対象とされなかった場合には、不承継に異議を申し出られます。そうすると、承継効果が発生するが、妥当な処理とは解されないということです。他方、○1の考えを取った場合ですが、事業により主従事判断を行った場合には、権利義務に従事する労働者は、主として従事する労働者が該当しないので非主従事となります。異議申出により承継を拒否できるということで、意思に反して切り離されないという労働者の保護に資するものとして妥当な処理と解されます。これらを踏まえると、労働者保護の観点からは、主従事労働者の判断基準としては現行の「事業」概念を維持することが妥当と書いております。この場合、承継法における「事業」であるか否か、どのようなものが「事業」と認められるのかというのは重要な判断要素になりますので、最終的には司法が判断をしますが、実務でも判断しやすいよう、より明確にすることの検討も必要ということです。

 イの不従事労働者に解する5条協議についてです。5条協議の対象は現在、従事している労働者ですので、不従事労働者は対象となっていません。しかし他方で、承継される不従事労働者は通知、及び異議申出権の対象でもありますので、平成12年商法等改正法附則の文言にも照らすと、通知が行われた後、異議申出権の行使の判断のためにも承継される不従事労働者についても5条協議の対象とすることが適当であると書いています。

 次にそのほか、5条協議をどの範囲で行うこととするかについては、まず権利義務の変動に全く関係がない者にまで個別に協議する必要はないと考えられます。例えば事業に該当しない権利義務のみが分割されて、その権利義務には関係する者にどうすべきか等が問題となります。これに関連して、従来、承継法指針において承継対象とされなくても、従として従事する労働者(従従事労働者)は、通知及び異議申出権の対象ではなくても、5条協議の対象としてきたところですので、これをどう考えるかという論点があります。これについては、この趣旨を仕事に変更が生ずることにあるとすると、権利義務のみの分割の場合にも、仕事の変更が生じ得るとして、5条協議を行うべきとする立場も考えられます。しかしながら、5条協議の趣旨に立ち返りますと、これは会社に承継させるかどうか等について、事前に労働者と協議するという趣旨ですので、それに鑑みますと、従従事労働者については、労働契約承継の帰趨が、主従事か従従事かの微妙な判断により決せられるということで、その主従事か従従事かの判断について労使と十分に協議を行うために5条協議を行う意議から考えると整理できると思われます。

 こう考えると、これに対して事業に該当しない権利義務の分割に際して、承継対象とされない不従事労働者については、主従事に該当しないことは明らかですので、従従事労働者のこのような主従事か否かについての疑義は生じず、5条協議の対象とする必要はないと解されると整理しています。

 更に、不従事労働者で、転籍合意で転籍させる労働者についてもどうするかですが、これは通知・異議申出権の対象にならないが、それをどうするかです。個別合意を得る必要があるケースですので、そちらの過程で協議でされるということで、5条協議の対象とする必要まではないと考えております。以上のことを整理しますと、5条協議の対象となる労働者は、「通知の対象となる労働者及び承継される事業に主として又は従として従事している労働者」とすることが適当です。ただし、5条協議の対象とならない者のうち権利義務の分割が職務に影響し得る者につきましては、その職務等の変更の説明などの情報提供がなされることが望ましいと考えられますので、そこには留意すべきと思われます。

 ○2債務の履行の見込みに関する事項に関する検討です。1パラを飛ばします。債務の履行の見込みがない場合であっても会社分割が可能ということを前提としますと、2パラ目で、不採算会社が生じ得ることになった場合、不採算事業に承継される労働者には何らかの保護を必要とするかが問題となります。ただし、債務超過分割と言いましても、債権者保護手続等があることから、それほど容易になし得るものではないという指摘があることにも留意が必要です。また、不採算事業に残留する労働者にも保護は必要とするかということも問題となります。「また」の所ですが、承継法指針では、7条措置として、分割の背景・理由等について、過半数組合等との協議に努めることとされていますけれども、この中で「債務の履行」も扱うべきものとしています。そう考えますと、債務超過分割もそのうちの1つのケースであり、会社分割に関する情報の一部である債務の履行に関する事項として承継される者、残留する者を問わず、7条措置において理解を求めることとなります。ということで、7条措置の対象であることをより明確に周知する等、その措置の徹底が適当と考えます。

 加えて、不採算事業とともに承継される労働者については、5条協議の対象となりますけれども、その「債務の履行の見込みに関する事項」も、5条協議の説明事項に含めることが適当としています。

なお書きですが、不採算事業に承継される主従事労働者、及び不採算事業に残留する非主従事労働者は、異議申出の対象としないところですが、異議申出権の付与を検討すべきとの意見もあります。しかしながら、異議申出権の付与の趣旨というのは、主として従事してきた業務から切り離されるといった不利益からの保護にありますので、今回問題としている2類型の労働者はそうした趣旨に当てはまるものではない。7条措置等の対象となること、実態上も債務超過分割はそれほど容易になし得るものではないという指摘もあります。こうした中、仮に不採算事業の承継あるいは残留させた一部の労働者を解雇する目的で会社分割制度を濫用した場合等々のケースとなれば、それらの行為の当否の問題ともなり得ますので、場合によっては法人格否認の法理とか、公序良俗違反等の法理の活用で、事後的に争えると考えられ、その旨の周知が必要と考えられます。なお書きは省略いたします。

()裁判例等を踏まえた対応についてです。○1 5条協議等の法的意義です。19ページの後段は既に説明しましたので省略いたします。20ページにいきまして、「このため」のパラですが、ここでは先ほどのアイ・ビー・エム事件の最高裁判決の趣旨である5条協議が全く行われなかった場合、又は著しく不十分であるため、法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には、主従事労働者については承継の効力を個別に争えるとの考え方について、その旨を周知することが適当であるとしています。

 ○2転籍合意です。転籍合意の効力をどうするかという問題については、会社分割制度においては、労働者の意思と無関係に分割契約等の定めにより承継が決まるところ、業務から切り離されるといった不利益から保護する目的として、異議申出権を付与しているのが承継法です。その異議申出権を行使すれば、労働契約の不承継・承継は覆る。その覆った結果、承継された場合には労働条件が維持されるという効果があります。こういう労働者保護という承継法の立法趣旨に裏打ちされた異議申出権については事前に放棄はできないと解されていますので、転籍合意を行ったとしても異議申出権が失われるものではありません。そして転籍合意は異議申出権が行使されない限りは有効であるものの、行使された場合には強行的に包括承継等の効果が発生し、それと矛盾する転籍合意の効力は否定されると解されます。

 また実態面を見ましても、労働条件の統一の必要があること。また転籍条件によっては、転籍合意による移転を望む労働者も有り得るということですので、労働者が任意に転籍合意を選択するまで一律に排除する必要はないと考えられます。これを踏まえると、転籍合意を一律に無効とするのではなくて、異議申出権を行使した場合には、承継法(第4条第4項)の効果により労働条件を維持したまま労働契約が承継されるという効力を生ずると整理することが適当と考えられます。この整理を踏まえ、転籍をするとしても、5条協議や通知といった手続は省略できないこと、また会社は転籍合意をしようとする場合には分割による承継であれば労働条件維持のままの承継や異議申出権を行使できることを含め説明すべきこと、通知事項にもそのことを含めることなどが考えられます。次のなお書きは省きます。

○3の労働組合法上の使用者性等です。これは先ほど説明いたしましたので省略いたしますが、集団的労使関係に関する労働組合法の使用者性の承継等の事例については、下級審裁判例ですが、会社分割に関連する労働組合法上の参考事例として紹介するということを書いています。

()異議申出権の対象範囲及び異議申出権に係る不利益取扱いです。承継される主従事労働者、承継されない非主従事労働者の異議申出権の付与については指摘がありますが、債務超過分割の所で議論したと同様に、承継法の制定当初からの考えや円滑な組織再編の促進という趣旨からすれば、なお慎重に考えるべきである。また、異議の申出を行ったことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いの禁止については、更なる周知を図ることが適当と書いております。

 2「事業譲渡」です。()労働契約の承継ルールの適用についてです。裁判例が見られるほか、事業譲渡と会社分割が類似してきたという指摘があります。そうした中、事業譲渡について、EU諸国と同様に、あるいは承継法と同様に、承継ルールを導入すべきとの指摘があります。それについての検証が次のパラからですが、仮に承継ルールを導入し、強制した場合には、譲渡契約の成立が困難となって、保障できたはずの雇用がかえって保障されないという事態があるという議論がEU諸国等でもあったことに留意すべきである。また事業譲渡は定義がなく、様々なケースが想定されるということで、範囲・定義の確定が困難ですので、予測可能性が担保できず、法的安定性を害する。更に、承継を望まない労働者もいるとして、異議申出権を付与すべきとの指摘について、労働者の選択によって承継が決まる仕組みについては、譲渡契約の成立が困難となる等の同様の懸念があるということ。EU諸国では異議申出権については承継拒否をした場合には、雇用契約を終了するとか、ドイツでも承継拒否によって必ずしも譲渡会社での雇用がつなげない等のことに留意することがあるとしています。繰り返しになりますけれども、会社分割と事業譲渡というのは、法的性格が違うということで、それぞれの性格に応じて使われているということを書いています。

 そうした会社分割、事業譲渡それぞれの意義等がある中で、事業譲渡にも承継法と同様の規制を及ぼすというスキームにすることは、将来の雇用の確保にもつながるような有用な組織再編への影響や労働条件の維持の観点からも慎重な検討を要すると考えられます。こうした論点は中長期的課題として引き続き議論するに値するものの、今般の検討からすると、未だ慎重に考えるべきであると結んでおります。

()手続上のルールについてです。一方で、個人との関係においては同意の必要性と実質性を担保するための手続面のルールを整備することが考えられる。また、集団的手続についても団体交渉事項との問題もありますけれども、ルールの整備ということも考えられる。こうしたことについては、指針(又はガイドライン)の形で、例えば取組を促していくことが考えられるとしています。

 最後の4「おわりに」です。こうした検討を行ったということで、引き続き実態把握にも努めながら、今後の対応策について、労使を含めた関係者において更なる検討が行われて、指針の改正をはじめとする必要な措置を講じることを期待する。また、こうした変動は今後も活発に行われていきますので、政策的対応の実施段階においても、政策の効果、状況の変化等について周知するとともに、引き続き組織の変動に伴う労働関係に関する諸課題について検証することが重要と考えます。政策当局においては、こうした政策効果の検証に向けたデータの整備等のフォローアップについても適切な対処を望みたいということも、注文する形で結ばせていただいております。すみません、時間を超過しましたが、以上です。

○荒木座長 ただいま説明のありました報告書()について、御意見、御質問をお願いいたします。

○金久保委員 19ページの下の所で、日本アイ・ビー・エム事件の最高裁の判旨が、「5条協議等の法的意義」の所で、鉤括弧付きで紹介されていると思うのですが、内容がちょっと違っているのではないかと思います。これは、確認したほうがよいかと思います。

○労政担当参事官 分かりました。もう一度原典に当たって確認させていただきます。

○金久保委員 もう一点、これは質問なのですけれども、23ページの()「手続上のルールについて」の4行目で、「また裁判例においてはケースごとに柔軟・妥当な解決が図られている」とありますけれども、これは黙示の合意の推認とか、法人格否認の法理とかで、ケースごとに柔軟な解決が図られているという趣旨でしょうか。

○労政担当参事官 はい、そういう趣旨です。そういうことですので、十分事前に意思疎通を図ることが重要かということもあり、書かせていただいております。

○金久保委員 何となくこの文章をここに置くことなのかなと思ったのです。裁判例において、柔軟・妥当な解決が図られていると、手続面のルールを整備することが考えられるというのが、ちょっとその流れとしてどうなのかと思いました。

○荒木座長 趣旨をもう少し説明していただくといいかと思います。

○労政担当参事官 おっしゃっていただいたように、裁判例においては個々に黙示の合意の認定などがされています。結局、その紛争に至る前に事前の様々なコミュニケーションや、情報提供、意見を聴くことによって、紛争が防げたかもしれない場合があると思ったので、裁判例のような状態に至らないようにという趣旨で、手続面の整備をしておくことが、労使にとって望ましいという趣旨で書いています。

○金久保委員 趣旨はよく分かりましたが、むしろ()の理由でもあるのかと思っていました。

○荒木座長 もう少し補足すると、恐らく裁判例において、事案に応じて承継の黙示の合意が認定される場合もあるわけです。大多数の労働者は承継しているけれども、特定の労働者は承継から排除している。そういう場合においては、裁判例においても労働者を排除した趣旨が差別禁止規定に反したり、公序良俗に反したりという場合には、そういう排除する部分の効力を否定し、全員について黙示的に承継するという合意があったという認定がなされ得ると。そういうことも含めて、どういうことで承継をするのか、しないのかといったことを協議の中でも説明する。そのような裁判例の実情に照らすと、こういう理由で自分が排除されているのはおかしいのではないかということについても意見の交換がなされる。それによって紛争が事前に防止される。したがって、原則的に個別承継、特定承継のルールがあるのですが、それを補完的に裁判例が修正する場合があることも踏まえてよく協議をしなさいということで、この手続の所に書いてあるのかと思ったのですが、そういうことでしょうか。

○労政担当参事官 そのとおりです。金久保先生がおっしゃったのは、むしろ個々に柔軟に対処できているので、という趣旨で()の議論にもつながるのではないかという御指摘かとも理解しましたので検討します。

○荒木座長 他の点で何かありますか。

○神林委員 読んでいて、素人が読んだときに分かりにくいかなと思った点が幾つかありました。主には「今後の方向性」の所が重要だと思うのです。ずうっと見ていくと、事業の概念の話について、16ページで、まずは「承継法の考え方」というのが出てきて、その後に、会社法の制定によって、特定の権利義務の集合体が「営業」に該当するかどうかは必ずしも一義的に明らかではなく、その判断は容易ではないと書いてしまっています。それであるにもかかわらず、17ページで、この場合、承継法における「事業」であるか否か、どのようなものが「事業」と認められるのかという点が重要な判断要素となり、うんぬんと書いてあります。そもそも判断するのが難しいと言われていたから改正したのですと。けれども、それを何とかしましょうというふうに読めてしまうのです。

17ページの第1段落の「事業」概念については、会社法のほうでは判断が難しいのかもしれないけれども、労働法のほうではそうでもないみたいな話があると、そうかと読めます。このままだと、会社法のほうで分からないと言っているのに、労働法のほうで分かるというのはどういうことなのでしょうかと言われてしまうのかなと思います。

○労政担当参事官 確かにここは難しいところで、これまでも会社法での営業(事業)概念を承継法で先生方によく御議論いただいて、事務局も難しさを痛感しているところです。確かに会社法では一義的に明らかでないし、もし違っていたら高橋先生に訂正していただきたいのですけれども、明らかでないのは普遍的にそうで、しかも会社法のほうでは明らかにする必要はないだろうという判断もあって、特に法律上こだわらなくなった。

 でも、もともと、まとまりということで、労働者の職場、雇用の前提としての「事業」で保護しようという趣旨はまだ承継法に生きている中で、会社法の要請では必要ないけれども、承継法ではきちんと「事業」と概念を守って、労働法なりに一定のイメージを持って労働者保護を図るための「事業」概念を維持しようという御議論をいただいたかと思いました。確かに概念が分かりにくいのに、引き続き採用するというように、一見矛盾して見えますので、表現は工夫する必要があるかもしれませんけれども、思いとしてはそういう思いで書いています。補足があればよろしくお願いいたします。

○荒木座長 この点はいかがでしょうか。

○金久保委員 神林先生がおっしゃったような点は確かにあるのですけれども、17ページの4行目からの所だと思うのです。労働者保護の観点から、「事業」の概念等をより明確にすることの検討も併せて必要だという点は、恐らく労働者保護の観点から、会社法とはまた別の観点から判断すればよいのではないかと。ある意味、この事業の概念を確定できればという前提で多分あるのではないか、そういうことができるのではないかという理解で私はおります。

○神林委員 それなので、説明しないと分からないような状況だと、多分困ると思うのです。読んだときに、そういうことまで織り込まれていることが分かるように文章を書いたほうがよいのではないかという趣旨です。

○荒木座長 おっしゃるとおりで、会社分割制度のほうでは、分割の対象とし得るかどうかというところで事業概念を取るかどうかという話をしていて、事業概念を取らないことに決まってしまっています。その下で、労働契約承継法という労働関係に関する特別法では現行法上、「事業」に主として従事するかどうかで判断するという仕組みを持っている。これを、事業を基準にせずに、権利義務にするかという話をしていて、それはやはりおかしいですよねと。したがって、やはり事業を基準に考えることにしましょうとしています。

 そこで言う事業とは何なのかというのが、神林先生がおっしゃるとおり、最初の会社法の事業の話とは違う文脈で、この事業は労働者保護の観点も踏まえて、なるべく予測可能性の高いような形で考えるようにしたいというので、ちょっと事業を議論する文脈が違っているということは御指摘のとおりですので、分かるような形で少し補って修文したほうがいいかもしれません。

○労政担当参事官 分かりました。

○荒木座長 引き続きありましたらお願いいたします。

○神林委員 もう1点は、多分私が議論を忘れているのだと思うのです。転籍合意の話で20ページです。転籍合意自体は、承継法のほうが上位にあるので、異議申出権を行使すればとか、異議申出権の行使が確保されている以上というような格好になっていて、「また適切とも解されない」と書いてあります。これは確かにそのとおりなのですが、この全体の流れからすると、その1つの論点というのが、事業全体として分割するというよりも、権利義務だけで分割するような状況が生まれてきているということが、もう1つのポイントにあったわけです。

 そう考えると、権利義務だけを分割しますというような状況の下で、この転籍合意を使うというようなことが起こったとすると、今までのフレームワークだと、非従事労働者になるので、異議申出権はないという状況になるわけです。今まで私がやっていた仕事だけが移ってしまいました。けれども、それは権利義務であって事業ではないから、私は非従事労働者なので、異議申出権はありませんと。今回の場合には5条協議がそこに付け加わることになるので、全くかやの外に置かれた状況で、それでは転籍合意をしましょうかという交渉になるわけではないですけれども、すべからく異議申出権が認められるような形にはなっていないような気がするのです。私の理解が間違っているのかもしれないのですけれども、私の理解は正しいですか。

○荒木座長 今の設例だと、事業に当たらない権利義務を分割対象とした。そして、その仕事に従事していた労働者は、転籍で。

○神林委員 承継しない。

○荒木座長 転籍でも承継しない。

○神林委員 権利義務と一緒に行くわけではないのだけれども、別に転籍しませんか、という交渉はするということです。

○荒木座長 使用者がですか。

○神林委員 使用者がです。

○荒木座長 会社分割としては承継しないけれども、転籍で移したいという場合。

○神林委員 そういうことです。

○荒木座長 その場合には何が問題となるのかです。会社分割で、分割計画書に、あるいは契約に承継対象者として書けば、主従事労働者ではありませんから異議申立てはできます。でも、対象としなかった場合に、労働者と交渉する場合は、労働者が行きたくなければ、転籍合意に合意しなければ済む。行きたければ、承諾すれば済む。ですから、それ以上紛争は生じないように思います。

○神林委員 その時の労働条件が、次に問題になるわけです。その事業全体が分割されているときに、自分がそこの事業に主に従事していました。承継されませんと。承継リストには載っていないのだけれども、別に転籍しませんかというときに、こういう事件が発生するわけです。その時は、ここの書き方だと、主従事労働者なので異議申出権がありますと。それなので、仮に転籍合意をして、低い労働条件で合意したとしても、その後に異議申出権を行使すればリストに載ることになるので、包括承継されるから、従前の労働条件が認められますというように書いてあるわけですよね。

○荒木座長 そうです。

○神林委員 そのアナロジーで、分割されるのが事業ではなくて、自分が主に担っていた仕事である、仕事だけが行きます、自分は残されますという状況を考えると、その場合には非主従事労働者になるので異議申出権はないわけですよね。

○荒木座長 はい。

○神林委員 それなので、その仕事をずうっとやりたかったら、転籍合意に合意するしかないという状況に置かれるわけなので、そういう可能性を全く考えずに、ここの箇所を書いていくということは、ちょっと不思議に思えます。

○荒木座長 私は余り不思議に思わないです。つまり、前段の先ほど議論したところで、当該事業に主として従事していた人は、その主従事業務からの切り離しについては異議申出権を与えようという話なのです。今の設例だとその仕事だけですから、主従事の業務、あるいは「事業」というものは移らないわけです。ですから、その場合は全く利益状況が違って、それで使用者のほうから個別的に打診されて、あなたの特定の業務が移りますから、あなたも転籍しませんかと言われたときには、労働者は同じ条件を維持するのだったら転籍に合意しますということが言えるわけです。それでなかったら、転籍しませんということです。ここで言う、主として事業に従事していた人の異議申出権の話とは違った場面なので、この並びで議論しなくてもおかしくはないかと思っています。

○労政担当参事官 今のお話は、該当する議論としては報告書()18ページの5条協議をどこまでやるかという議論の所で、座長のおっしゃったとおりの話なのです。それを違う言い方で書いていると思います。18ページの上の「さらに」のパラグラフです。不従事労働者で、かつ、承継対象としないけれども転籍させる労働者についてです。おっしゃっているとおり、通知義務の対象にならないけれどもどうするか。これは座長がおっしゃったとおり、個別の転籍合意での合意の問題ということで、5条協議としないのではないか。

 ただ、その次の次の「ただし書き」のパラグラフで、仕事に影響し得る者については、5条協議の対象にならないとしても、「必要な情報提供が望ましい」ということも併せて書くことで、影響については、きちんと本人と事前の情報提供がされる。その上での転籍合意に向ける協議・合意かと思われます。

○荒木座長 阪神バス事件は、正に当該事業に主として従事していた人のケースなものですから、それに限って議論したほうが、むしろ混乱が生じないのではないか。それに従事していなかった人の話で問題となるのは、今事務局から言っていただいたとおり、5条協議の所で、今までやっていた仕事が変わってしまうというときまでを5条協議の対象とするかどうかというところで、むしろより関連して出てくるので、それで18ページに書いていただいたということではないかと思います。

○神林委員 分かりました。もう1つこれは細かい話なのですけれども、16ページの最後の段落の「他方」の所の4行目に、当該権利義務が「事業」に該当しない以上、「事業」に主として従事する労働者には該当しない。つまり、非主従事労働者と位置付けられて、仮に承継対象とされた場合には異議申出により承継を拒否できることになると書いてあります。このときに、「非主従事労働者」というのは、従の従事労働者と、非従事労働者の2つが入っているわけですよね。この点は、はっきり書いたほうがよいのではないかと私は思うのです。つまり、主として従事していない人だということは定義できるけれども、どれぐらい従事していたかということは、この以下の議論には影響はありませんということになるわけです。

 先ほどの座長の説明を聞いていたときに、多分私のような人間にはちょっと違和感があるのは、確かに自分の仕事は自分の主として属している事業の全体ではないけれども、例えば直近で自分がやっていた仕事は、自分のキャリアの中ではやはり重要なわけです。それがどこかで分割されてしまうとなったときに、事業全体は分割されているわけではないのだから、あなたのキャリアには余り大きな影響は及ぼしませんねと言われているように聞こえるわけです。それなので、その辺は少し配慮して、どこかで説明を加えていただいたほうがいいかと思います。ちょっとまとまっていないかもしれません。

○労政担当参事官 確かにこれは少し形式的というか、承継法の異議申出権があるか、ないかは主従事か、それ以外かだけでしか分かれていないので、それ以外の、もともとの非従事と書けば異議申出権、承継拒否と話がつなげられるので書いただけなのです。確かに厳密に言うと、非主従事の中の不従事労働者になると思うのです。そこを明確に、事業に該当しない権利義務の場合には不従事になるという趣旨を書き入れることは検討します。

○荒木座長 5ページに「非主従事労働者」の定義が上から5行目にあります。非主従事労働者というのは、不従事労働者と、従として従事する労働者(従従事労働者)の2つを言うというように定義がしてあります。それで、下のほうの表になっています。ですからその前提でずっと書いてあるということではありますけれども、ここでも、この文脈を読むときに読者が分かりやすいようにしていただきたいというご指摘です。

○労政担当参事官 分かりました。

○荒木座長 他にはいかがですか。

○橋本委員 私の理解を深めるために教えていただければと思います。20ページの転籍合意のところで、この報告書の内容がどうというのではないのですが、承継法では異議申出権を行使したならば雇用と労働条件が維持されたまま移ることになるので、異議申出権を保障しておけば、転籍合意を排除するものではないという内容が書かれています。阪神バス事件の判決からもこのような解釈が導かれるのだろうと理解しています。

 私が確認したいのは、グリーンエキスプレス事件という判決の理解についてです。どういう事件かといいますと、5条協議もなく、通知もなく、労働者に対する承継法の手続が行われないままに、いつの間にか分割されていたような場合です。しばらくその人たちは新しい会社に行かなかったのですけれども、元の会社に雇用があったので紛争にならなかったのですが、でも数年後に自分たちが残された会社が解散になりました。その時になって、あの時の会社分割で、自分は主として従事する労働者だったのだから移れたはずだということが問題になりました。移っていれば、雇用は継続したということを分割からだいぶ時間がたってから主張した事件があります。

 そこで裁判所は、承継された事業に主として従事する労働者かどうかだけを判断して、主として従事する労働者と言えるので新しい会社との雇用関係が認められました。

 この事件は、私の理解では、承継法を実体的な規範というか、主として従事する労働者であれば雇用と労働条件も新しい使用者の下で維持されるという規範を認めている法律だと理解し、かかる規範を適用したといえるのではないかと理解しています。この事件と、阪神バス事件から導かれる転籍合意の有効性という解釈がどういう関係に立つのか確認できれば幸いです。矛盾するかどうかもよく分からないのですけれども。グリーンエキスプレス事件は手続を何も取っていなかったので、20ページのルールには、異議申出権の行使を確保していれば転籍合意は有効だという解釈と矛盾はしないのだと思いますけれども、全然違う事件だから別の話なのか、それとも承継法の性格をどう考えるかというところで異なっているといえるのか、どう考えたらいいのかについて整理できていません。この報告書から離れるかと思うのですけれども、もし先生方から御教授いただければと思います。

○荒木座長 今の件に関して、事務局からいかがですか。

○労政担当参事官 まず、グリーンエキスプレス事件については、第5回研究会の資料4の3ページに書かれていました。これをもう一回なぞると、先生がおっしゃられたように、これは会社分割で事業部門が分割されたのですけれども主として従事していたと思われる労働者は移転していない。それで、承継されたということを訴えた事案と思われます。裁判所の決定としては、会社分割時に、「営業」に含まれて労働契約も承継されたはずだと解されるので地位を認めた事例だったかと思います。そういう意味では、承継法をどこまで、これが細かく認識したかという事例はこちらも定かではないのですけれども、むしろ会社分割制度の営業の中で労働契約もセットで分割されることを前提とした判断だったのかと当方では思うところなのです。

 それに対して阪神バスは、主従事であったけれども、あえて分割契約に定めがないというのは一緒ですけれども、別途の転籍だったという点で、また別の扱いをしているので、事務局のほうでは余りピンとは来なかったのですが、先生方の御示唆を頂ければと思います。

○荒木座長 いかがでしょうか。

○金久保委員 これは平成18年の事件、でも決定なので分からないのですけれども、平成17年改正前商法のときの事件の可能性もあるのかと思います。恐らくは、新設分割の分割計画書等の中で、労働契約は除外していないという前提の事件ではないかと思います。

○橋本委員 ありがとうございます。事案が違うというか、今回想定しているケースとは全く違うということですね。

○金久保委員 ちょっと形式的なところですが、諸外国の説明の12ページの4段落目のドイツの説明のところです。民法典613a条1項3文を引いているのですが、この3文というのは2文は適用されない例外の規定です。2文というのは「集団的な合意が労働契約の内容になって、かつ、1年間は切り下げられない」という規定です。ここはむしろ2文を引いたほうが、他の文脈に合うのではないかなと思いましたので、橋本先生に御意見を伺いたいと思いました。

○橋本委員 余りきちんと確認していませんでしたが、ここの流れは集団的な労働条件の話なので。そうですね、ここの内容であれば、3文でいいのかなと思っています。すみません、もうちょっと考えます。

○荒木座長 ここは私もちょっと、ドイツ民法の条文を思い出せませんが、ここに書いてある趣旨は、従来の集団的な協定の内容が解約もしくは期間満了で終了するまでは維持される。ドイツでは、他の協約や事業所協定が適用される場合、そういう新しい規範が出てきた場合には、従来の労働条件は承継されないとか、そういうことを書いているということですね。これの根拠としてどの条文を引くのがいいのか、ちょっとそれは確認することにいたしましょうか。

○労政担当参事官 はい、先生にお聞きしながら確認します。

○神林委員 最後に不満を1つだけいいですか。9、10ページに書いてある組織変動の実態というところなのですけれども、やはり自分としては、実態というのはよく分かっていないことを強い調子で書いていただきたかったと思います。

 そのMA調査業者等から報告を受けた概要は以下のとおりであると書いてあって、あたかもこれが日本全国から非常に多くのデータを蓄積した後の結果だというような格好で解釈できるように書かれているのですけれども、そのごく一部だけを取っていて、なおかつその一部が全体の中でどういう位置を占めているのかすら分からないような状況で、仕方がないからというか、そこしかデータがないので、これを当てにするしかないわけなのですが、そういう状況だということは明確にしておくべきことなのではないかなと思いました。これはただの不満ですけれども。

 だからこそ、最後のほうで次の機会があるのであれば、そのときに検討の対象になるように、きちんとデータを整備しなければいけないという話を持ってきたかったわけなのです。そこは、この辺はちょっとコンサバティブにというか、保守的に何かよく分かっていないのだけれども、分かるとしたらこの程度だというような書き方をしていただければいいかなと思います。私から見ると、かなり断定的に書いていて、これはさすがに書きすぎだろうと、断定しすぎだろうと、私は感じます。

○荒木座長 報告を受けた内容はこうであったということですけれども、実態はこうだというメッセージに取られかねないという点の御指摘ですので、必ずしも全体が分かるようなことではないけれども、とりあえずavailableな情報としてはこういうことであったというように誤解がない形で書いて頂き、最後に今後の課題との関係で、使えるデータをきちんと収集すべきではないかと指摘していますので、そこにつなげる趣旨でちょっと補充していただいたほうがいいと思います。

○労政担当参事官 はい、分かりました。

○神林委員 ありがとうございます。

○荒木座長 他はいかがでしょうか。これは高橋先生にお聞きしたいのですが、18ページの「債務の履行の見込みに関する事項」で、「債務超過分割」という言葉と、「詐害的会社分割」という言葉の使い分けがされているのですが、18ページの○2の2段落目の下から2行目に「詐害的会社分割の場合に不採算事業に残留する労働者に何らかの保護を必要とするかが問題となる」とあります。不採算事業ができてしまうような会社分割は、すべからく詐害的会社分割と読んでよろしいのか。そうでもないとすると、「詐害的会社分割の場合に」としてしまうと、少し狭く限定しすぎではないかという気がしたのですけれども、ここはどうでしょうか。

○高橋委員 そもそも分割した後の会社が不採算になるかどうかの認定自体が非常に難しいと思うのです。原則としては、その債務の履行の見込は分割された後の、出ていったほうの会社について議論するのは、何を切り出すかという問題は割と恣意的に操作できるからというのはあるのです。一方で残された会社には原則として必ず対価が入っているので、出ていった資産との見合いで、資産とは形は変わっているのですけれども同じ価値の財産が入ってきていると理解されています。分割された元の会社が、分割によって不採算に陥るということはまずないというのが原則なのです。財産の価値自体は同じはずなのです。ところが実質的に見ると、もしかすると分割会社の方が不採算に陥ってしまう場合が出てくるかもしれない。そこにはいろいろな要素が入っていて、詐害性という観点の話が出てくると、どうしてもその分割した会社の人の主観的な害というものが入った上で、更に残された財産をいろいろな見方で判断すると確かに不採算かもしれないということなのです。したがって、簡単に分割会社の不採算を指摘することは危ないといえば危ないところではあります。

 分割会社が赤字であるという認定がはっきりできる場合は、ほとんどの場合は詐害的かと思いますけれども、まずは、原則としてはそうならないでしょうとなっているのが前提です。ですので、ここの書き振りは、確かにいろいろと難しいところがあるところです。詐害的な場合というのは分割会社が赤字になっているから詐害的というのとは、ちょっとニュアンスが異なるのですよね。それがちょっと表現が難しいなと思っているところです。

○荒木座長 そもそもが不採算かどうかの判定をいつ、どの時点でするかということにも関係しているので難しいようですが。もし更に、いい表現があればちょっとお考えいただくと。

○高橋委員 むしろ債務超過分割と言われている、つまりその出ていった会社が赤字である、少なくとも現時点では余り採算がとれるかどうかよく分からないというケースを全面に押し出されて書かれるほうがよろしいのではないかと。その詐害的な元の会社がちょっと危ないというようなものは、かなり例外的なものとして考えているので、両方とも同じレベルで目配りしますよという書き方は、ちょっとミスリードするのではないかという危惧を私は持っています。

○荒木座長 今の話をお聞きしますと、優良な部分あるいは将来有望な部分を全部切り出して、その対価として残る会社にもちゃんと資金が入っているのであるから、その時点においては特にプラスマイナスはない。ただ将来の成長部門が切り出されることによって、残った部門が今後もずっと良好な状態になるかどうかは分からない。そういう問題であって、いきなり分割の時点で不採算だというようなことではないと、そういう趣旨ですか。

○高橋委員 そうですね、詐害性があると認定されるのは、優良部門が切り出されたことだけではなくて、優良部門が切り出されても結局、間接的に支配していることには変わりはないわけですから、株式の形に変わっただけというのが一般的な形になります。

 そうしますと、それでも直接支配から外れるという状態が、分割会社からの財産の流出につながる、たとえば分割会社の株式が無価値になるという、よりワンランク、何らかの事情が欲しいところではあるのですね。いろいろなケースがあり得るので何とも言えないのですけれども、単に優良部門が出て行ったことのみをとらえているわけではないので、そこはちょっと気を付けて書かれたほうがよろしいかと思います。

○荒木座長 分かりました。そうすると、むしろ詐害的会社分割の場合という限定を付けたほうがよろしいということですね。了解しました。他はいかがでしょうか。

○神吉委員 若干戻って、17ページの神林先生が御指摘になったイの上のところ、承継法における「事業」の取扱いの部分です。どのようなものが「事業」と認められるかが重要な判断となり、この判断は「最終的には司法が下すものではあるが」と留保されている点はそのとおりだとは思いつつ、最終的に司法が判断を下すまで待たなければならないという問題点が指摘されてもいいのではないかと思います。事前に明確にするメリットをより明確にしてもいいのではないでしょうか。

 神林先生が出された例なのですが、「事業」のレベルに至らないような権利義務を会社分割する場合に、労働者のほうは仕事が移ったので自分は主従事者だと思っていても、「事業」という段階に至っていなければ、それは従事ということはあり得ないので当然、不従事、少なくとも非主従事ということになってしまいます。

 そうすると結局、主従事者労働者に認められている、事業であれば認められるはずの5条協議とか通知や異議申出権が全部認められなくなってしまうというのは、権利義務なのか「事業」なのか分からないでいる段階には、本当はそこの事前の段階で保証されている権利であるにも関わらず、最終的に裁判で争わないと分からない点で、労働者としては転籍合意の申出が使用者からあったときに受けたほうがいいのか、そうでないのかということの判断に非常に困ると思うのです。

 そこで、結構さらっと書いてあるのですが、この「事業」概念がもたらすインパクトというのは、もう少し強調されても良いかと思います。 

○荒木座長 どう表現するかが、なかなか難しいところではあるのですけれども、もう1つは労働契約承継法は労働契約法のカテゴリーに入るもので、行政がどこまで解釈を示すか。普通の労働基準法とか労働保護法は解釈を行政が示して運用するというものなのですが、これは純然たる民事関係ですので、それで司法が判断を下すべきというのは、裁判所の判断の指針を行政が書くということに1つ問題があるというのが、まず第1点だと思います。

 それにしても現実に承継法の指針は出していて、なるべく実務の混乱がないように、ガイドライン的なものは示しています。その中で恐らく神吉先生が言われたことにも、先ほどの神林先生の御指摘にも関連してきて、ここで言っている「事業」というのは、あくまで承継法における事業、つまり主従事かどうかを判断する上での事業であるということをまず明らかにしていただいて、その場合には労働者保護の観点から実務でも判断しやすいように、ここで言う承継法における事業の概念について、明確化を図りたいという趣旨です。

 ですので、なかなか、これはこうだと具体的にどこに書けるかという問題は確かにありますけれども、おっしゃる趣旨も、それによって主従事かどうかの判断に関わる重要な問題であるということを、もう少し分かるようにしたほうが良いという趣旨だと思いますので、先ほどの神林先生の御指摘と合わせて、少し修文をなるべく分かりやすいようにしたらどうかと思います。

○労政担当参事官 はい、承継法の趣旨に照らして、判断できるか否かにかかわるものという趣旨で検討します。

○神吉委員 せっかくなので、最後一言だけなのですけれど、この承継法の趣旨のところで繰り返し何度も出てくる雇用や職場の確保という趣旨と、かつ会社法と別に労働法として「事業」という概念を持ってくるというスタンスを考え合わせていくと、包括承継か個別承継かという違いはありますけれども、事業譲渡であろうと分割であろうと、同様にその趣旨が妥当するので、その事業承継に広げていけるのではないかと、私は論理的にはそっちのほうが筋が通っているのではないかと思っています。

 現実には、組織法上の行為かどうかということとは別に、職場そのものが失われるというリスク回避の趣旨があると思うのです。むしろ、会社の組織再編がうまくいかなければ広い意味で「雇用」がなくなってしまうというリスクを回避するという趣旨,これを前面に出すとか明言するのは望ましくないのでしょうか。

○荒木座長 そういうトータルとしての雇用の確保の観点から、事業譲渡についてEUでもいろいろな規制をかけることが、かえってトータルの雇用は阻害されかねないという懸念について書いてあるので、同じ趣旨ではないかとお聞きしました。

 会社分割と事業譲渡が同じようなことになってきていると、前半部分にあったように聞いたのですけれども。やはりツールとして株主総会の決議によって組織的行為として個別の合意を得ることなく、分割制度というのはできたわけです。それに対して、事業譲渡というのは個別に債権者の同意を得つつ承継していくという、これは合意をベースにして、組織的な行為ではなく、合意という法律行為に基づいて移転していくということです。だから法的な権利義務移転の方式としては全く異なる2つのルートがある。そこから出発してどうするかということではないかというトーンで、これまで議論してきたと思います。

 付言されたように組織的行為だとありましたけれど、私はこれはこの問題を考える上では相当基本的かなという気がしています。

○橋本委員 私も今の報告書の段階では、大きな議論になってしまうので、荒木先生のお考えでよいのかと思います。前回の勉強会で、私もまさに神吉さんと同じことを申し上げて、将来的には労働法独自の事業概念ということで、それを基礎にして労働者の雇用を確保するという法制が考えられるのではないかと申し上げました。そのとき非常に勉強になったのは、高橋先生が今の承継法では、どうしても会社法の組織再編の概念を使っているので特定承継、包括承継という概念に労働法上の効果が結びつけられているので、特定承継である事業譲渡に承継法と同じ規制を及ぼすのは難しいのではないかとおっしゃったことです。

 ドイツ法のコンメンタールを見直すと、会社分割に相当する用語として、組織変更法では、AufspaltungAbspaltung等の概念がありますけれども、それは包括承継だと書いてあります。しかし、事業移転の民法613a条の事業の概念では、包括承継である組織変更法上の分割が行われた場合、事業移転が行われたとはみなしやすいけれども、必ずしも分割であれば事業移転であるというようなイコールの関係ではないと書いてあるのです。ドイツは会社法の組織再編上の概念と労働法上の事業概念は分けたということを明確にした上で議論していることが分かったので、日本では、そこは今後の大きな課題かと思いました。

○神林委員 最後と言って口出すのは申し訳ないのですけれど、何となく日本語の語感として、「事業」という言葉と「労働者保護」という言葉が何となく合わないのです。労働者保護の観点から事業を見直す。事業と言うのはあくまでもビジネスサイドからの言葉ですので、労働者保護の観点からという枕言葉が付くと、職場であるとか雇用であるとかキャリアであるとかというのが付くのです。

 ですので、根本的な間違いは「事業」という言葉を使っていることにあるのではないかと思います。なので、もう少し会社法とは別であるとして、「事業」という言葉すら使わない。それで包括承継なのか合意承継なのか特定承継なのかという枠組みで全部、会社法とは別に話を作るほうが分かりやすいと思います。それはそれ、これはこれということで。

○荒木座長 はい、傾聴すべき御意見をいただきましたけれども、労働契約承継法には「事業」という言葉が使ってあるものですから、法改正をするときには検討するかもしれませんが、ここはあくまで承継法における条文で使われているこの「事業」の意味を、労働者保護の観点から解釈で対応することもありうるというのは、この検討会でも議論していたところです。ですから、会社法で言う「事業」に当たらなければ分割できないかどうかという文脈とは別に、承継法の中での「事業」の概念について労働者保護の観点から、これは「事業」として見て、それだとすると、主従事とも言えるだろうという形で承継排除からの異議を申し立てる。そういう解釈の余地があり得るのだというのは、この研究会でも議論していて出てきた新しい方向ではないかと思います。そういうことが伝わるような形で書いていったらどうかと思っています。

○労政担当参事官 はい、「事業」の辺りは工夫してみます。

○神林委員 しつこいようですけど、「事業」を設計する人は誰かと考えると、それはやはり使用者というか、ビジネスサイドですよね。主たる経済の中で動いている主体の種類を労働者と使用者とに分けたら「事業」を組み立てるのは使用者であって、「事業」概念というのは使用者の観点から使用者が何らかの最適化を行った結果出てくるものだと、恐らく理解されると思うのです。

 そこで「労働者保護の観点から」ということがガッと出てくると、誰がそれを設計しているのかということになります。労働者保護の観点からという見方をするときには、労働経済学もそうですけれども、大抵の場合は労働者の視点に立って、自分にとって一番望ましいキャリアとかビジネスはどうかというのを考えるということです。労働者保護の観点から何らかの形でビジネスというのは定義できるとは思いますけれども、通常それはいわゆるビジネスというのとはちょっと違う気がします。

 なので矛盾を感じてしまうような言葉を使わないでいただきたいと、文句だけですけれど言っておきます。

○荒木座長 他にはいかがでしょうか。大体御意見は承ったということでよろしいでしょうか。いろいろ表現について貴重な御指摘をいただきました。いずれも大変有益な、この文書をよりよいものにするための御指摘をいただいたと思いますので、事務局で今回の御指摘を踏まえて、更に修文を考えていただいて、次回御確認いただくということにできればと思っておりますが、よろしいでしょうか。

○労政担当参事官 はい、分かりました。修正案を作成して、また御議論いただきたいと思います。ありがとうございました。

○荒木座長 それでは今のようなことで、本日いただいた御意見を踏まえて、次回に更に報告書案を提示いただいて検討したいと考えています。それでは次回の日程について事務局からお願いします。

○労政担当参事官室企画調整専門官 次回の研究会ですけれども、日時、場所につきまして調整中ですので、後日、正式に御連絡させていただきます。

○荒木座長 はい、それでは本日は以上といたします。どうもありがとうございました。

 

 


(了)

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