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2015年10月2日 第10回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会議事録

○日時

平成27年10月2日(金)15:00~17:00


○場所

厚生労働省 共用第8会議室(19階)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)


○議題

(1)これまでの議論を踏まえた論点の検討
(2)その他

○議事

 

○荒木座長 皆様おそろいですので第10回「組織の変動に伴う労働関係に関する研究会」を開催したいと思います。本日は大変お忙しい中を、ありがとうございます。議事に入る前に、事務局から委員の出欠状況等について御報告をお願いします。

○労働政策担当参事官室企画調整専門官 本日は神吉委員が欠席となっております。よろしくお願いいたします。

 議事に入る前に、事務局に人事異動がありましたので御紹介いたします。

○政策統括官 石井の後任として、10月1日付けで政策統括官を拝命いたしました安藤と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。

○労政担当参事官室企画調整専門官 田口の後任として、企画調整専門官を拝命いたしました新堀と申します。よろしくお願いいたします。

○荒木座長 どうぞよろしくお願いいたします。それでは早速議事に入ります。本日の議題は、「これまでの議論を踏まえた論点の検討」ということになっております。これに入る前に、橋本委員からドイツの法制について少し補足の説明をしたいというお申し出がありましたので、お願いしたいと思います。よろしくお願いします。

○橋本委員 前回欠席いたしましたので、ちょっと遅れてしまいましたが、6月に報告させていただきましたEUとドイツ法に関する事業移転の法理について訂正資料を配らせていただき、簡単に説明させていただければと思います。今日の参考資料4に配布させていただきました。内容を説明するととても長くなってしまいますので、割愛いたしますが、御関心のある先生には後でお目通しいただければ幸いです。

 どこを修正したのかについてのみ申し上げます。1点目、EU法とドイツ法では個別的労働条件と集団的労働条件で承継のルールが異なるのですが、その内容をちょっと混同しておりまして、集団的労働条件の承継ルールの規定である民法典613a条1項2文と4文を、以前の報告では個別的労働条件の変更ルールとしてレジュメにも挙げてしまい公表されてしまっています。その部分を二重線で削除し、この規定を集団的労働条件の承継ルールの方で整理し、また集団的労働条件の承継ルールが条文にない集団法の前提部分を、正確に理解していないと分からなかったということが判明しましたので、その部分に線を引いて、前回のレジュメを足す形で、労働条件の承継の部分のところだけ訂正したレジュメを配布させていただきました。補足の部分は下線で引いてある部分です。何も引いていない部分は元のレジュメを生かしてそのままにしてあります。

 2点目の変更点が、1年間の労働条件の変更禁止のルールは個別的労働条件ではなく、事業移転によって規範的効力を失うことになる集団的労働条件についてのみ適用されるということを理解していませんでしたので、その点を修正しました。

 3点目、個別労働契約における労働協約の援用条項は、個別的労働条件なのですが、日本にはあまり参考にはならないかと思いますが、今一番ドイツで問題になっている論点ですので、この点に関する情報を補足させていただいております。

 お恥ずかしい話で恐縮ですが、訂正させていただければと思います。よろしくお願いいたします。

○荒木座長 貴重な情報、どうもありがとうございました。次に事務局から御説明をお願いいたします。

○労政担当参事官 御説明いたします。本日は「これまでの議論を踏まえた論点の検討」ということで、主に資料1に基づき御説明したいと思います。

 先に資料全体の構成について御説明いたします。資料1が今回新たに提示する資料でして、各論点ごとにこれまでなされた議論と、それを踏まえて今後検討すべき点を提示するものです。

 参考資料1以下なのですが、参考資料1-1と1-2が前回の資料、前回(第9回)ではこれまでの研究会における議論ということで、研究会でやっていただいた議論や研究の内容を箇条書きにまとめたり、それに関する情報は参考資料1-2に付けたりという形で提示しました。今回の議論の参考に付けております。

 参考資料2はこれまで毎回付けておりましたが、過去2回やりました関係の研究会の報告書等と通知です。

 参考資料3が、労働契約承継法の法律の条文や商法一部改正法の条文、施行規則、指針といったものですので、適宜御参照いただければと思います。私も時々差し示しながら御説明したいと思っております。

 資料1に戻って御説明いたします。論点ごとに御説明いたします。1つ目は会社分割に関する論点ですけれども、その中の1つ目、「会社法制定への対応」になります。論点は3つに分かれています。1つ目が「事業に関して有する権利義務」。論点1の内容は、会社法制定による条文の変更により事業に該当しない有機的一体性のない権利義務を分割の対象とすることは可能となりました。一方、承継法では主従事労働者の判断基準として事業単位を維持していますが、これをどう考えるかという論点でした。

 これまでの議論ですけれども、関連しますので参考資料1-2の5ページ、横置きの「事業に関して有する権利義務」を御覧いただきながらお聞きいただくと有り難いかと思います。特に、一番下に表がありますので、その辺を見ながらお話をさせていただければと思います。

 これまでの議論、「事業概念について」、初めのポツは会社法の考え方です。会社法制定時に事業単位だったものを権利義務単位での分割を可能としたと改めたのは、営業概念が不明確であることによる不安定さを回避することが主目的であった。他方、会社分割は債権者保護手続など慎重な手続を要するため、分割の対象を権利義務としても、債権者の利益の侵害には一定の制約がかかる。また、個別の財産の分割というものは非現実的であって、事業でないにしても、ある程度権利義務の一定のまとまりで承継させる傾向があるという御紹介をいただいたと思います。

 次のポツは、それまでも会社分割制度等で取っていた事業という概念についての一般的な考え方についての御示唆です。事業概念においては有機的一体性が必要とされているということですが、その一体性の有無はケースバイケースで判断されることとなる。ただ、単なる財産の積み重ねでは足りず、ほかの要素が必要。ほかの要素が加わって初めて一体性となる、と御説明を頂いたかと思います。

 最後のポツは承継法でどう考えるかという視点ですが、承継法の対象である事業は承継法を適用したときの効果も考慮し、労働者保護の観点から解釈することで対処することも考えられるのではないかという御意見を頂いたかと思います。

 次は「主従事労働者の判断基準について」です。初めは問題提起ということで、会社法制定に合わせ、会社法制定で権利義務レベルになったことに合わせ、承継法の主従事か否かの判断基準のほうも権利義務レベルとするという考え方の当否の検証という趣旨だったと思います。

 次のポツは、承継法制定当初の考え方です。制定当初は承継対象を営業単位とし、承継される営業事業に主として従事してきた労働者が、その職務から切り離されることなく承継されることで労働者保護を図ることができますので、その観点から営業に主従事か否かを基準とする立場を採用したという説明を頂きました。

 次のポツは、今、承継法における主従事判断について、事業を基にした概念を維持している。それを維持した場合、権利義務のみの分割の場合には事業に主として従事することが観念できない。その結果、自動承継の対象にならないとなります。仮に、それでも承継対象とされた場合には非主従事という扱いになりますので、それゆえに異議申出権の行使ができ、それにより承継を拒否できるようになるという仕組みの御説明があったかと思います。

 最後のポツがどう考えるかという点です。主従事の判断対象を権利義務レベルとした場合に、1つの権利義務の分割承継に伴い強制的に労働契約が承継されることになるが、それは労働者保護の観点から不適当ではないか。主従事か否かの判断対象を事業に変えて権利義務とはせず、現行の事業概念による処理を維持するほうが適当という考えが議論として出てきたと思います。

 次のページを御覧ください。そういうことを踏まえて検討事項を挙げております。初めの矢印は、改めて問題提起です。承継ルールの判断基準として、1つ目の考えとしては、従来どおり承継される事業に主従事か否かで判断するという考えです。その考えによると、事業たりえない権利義務の場合には、その権利義務レベルで従事したとしても、事業に主従事とは観念できないので、非主従事と整理されることになります。2つ目、承継される権利義務のレベルでそれに主従事か否かを判断するという2通りがありますということで、まず考え方の2つの選択肢を示しています。

 2つ目の矢印が、この場合以下の点に留意する必要があるのではないかということで留意点を挙げております。1つ目が承継法制定時の考え方との関係です。先ほどの意見にもありましたとおり、制定時は営業単位で有機的一体性を保ったまま分割され、それによって労働者の雇用や職場を営業単位で確保できること。結果、営業に主として従事するのに承継されないと職務と切り離される不利益が生ずることなどから、「営業に主として従事するか否か」で判断されたという考えです。

 2つ目のポツは、会社法の制定による変更の考え方です。先ほどの御示唆にもありましたとおり、権利義務単位での分割を可能としたのは、権利義務単位での分割を推進するという目的ではなく、営業概念が不明確であることによる不安定さを回避することに主眼があったと言われている。実務においては重い手続が要件となっているという分割制度の趣旨も背景に、一定のまとまりの単位で承継される傾向がなおもある。事業単位での分割がなおも現実的にあるという御示唆も頂いた、が留意点の2つ目です。

 最後の矢印で検討を書いております。まず基本的な考え方として、主従事労働者の判断基準は、引き続き労働者保護の観点から承継法の効果を踏まえて考えるべきではないか。そうしますと、会社法制定により権利義務単位での分割が可能となったからといって、一番初めの矢印で示したうちの○2の考えのように、主従事労働者の判断基準を権利義務ごととすると、労働者が事業から切り離されて細切れ分割された財産等とともに強制的に承継される恐れがある。

 また、もう1つの点として、当該権利義務に従事していたが承継対象とされなかった労働者が、不承継に異議を申し出た場合、権利義務ごとに主従事か否かを考えるとその人は主従事労働者となり、そうすると、そのように権利義務が一定のまとまりになっていない場合にも承継効果が発生することをどう考えるかという点を書かせていただいております。

 最後のパラグラフ、会社法上の分割単位が権利義務に変更されたとしても、雇用や職場の確保といった労働者保護の観点から、営業レベルで捉えた承継法制定時の考え方があります。それによれば、権利義務レベルでそれとともに承継対象とされたとしても、労働者が主として従事してきた事業というレベルのほうが分割移転せず、元の会社で存続するという場合には異議申出権を行使して、それによって意思に反して切り離されなくなるという効果があります。それを踏まえると、承継法制定時の考え方を維持することが労働者保護に資するものとして妥当ではないか。そのように検討点として書かせていただいています。ここは御議論いただきたいと思います。

 論点2は、承継が予定されている不従事労働者について、異議申出権の行使の前提として5条協議の対象とするか。これは参考資料1-2の5ページの下の表に6つの労働者の類型に分けましたが、右から2番目の類型です。通知、異議申出権があるけれども、5条協議は×となっている人たちです。これについてはこれまでの議論の1行目、通知等の対象となるので5条協議の対象とすべきという意見がありました。

 次のポツ以降はそれから更に発展しまして、そもそも5条協議の対象をどこまで広げるのかという論点についても検討すべきである。それに関連して次のポツ、承継されない非主従事労働者、承継の定めがない非主従事労働者ですから、この表でいうと一番右や右から3番目となるかと思いますけれども、それら全員と個別に話し合うのは数が多過ぎるケースも想定されて現実的ではないのではないか。

 検討点ですが、まずこれまでの議論で出された1つ目ポツの論点にも書かれている論点は、承継される不従事労働者、この表でいうと右から2番目の人は通知の対象であり、平成12年商法等改正附則5条に照らしても、また実質的に考えても、異議申出権を有しており、その権利の行使の判断に必要なものとして5条協議の対象とすべきではないかと書いております。商法等改正附則5条は、通知すべき日までに協議するものとするという条文に平成17年改正でなっております。そこからしてもという趣旨で書かせていただいております。

 この場合、従来、指針において5条協議の対象は「承継される事業に従事している労働者」としてきました。表で見ると左4つの欄、主か従か問わず従事しているというこれらの欄の者が対象となってきましたが、今後は通知の対象となる労働者と承継される事業に従事している労働者とすべきかと提示しております。それと、次の論点とも関連しますのでそちらのほうで御説明いたします。

 次の矢印にあるとおり、5条協議をどの範囲の労働者まで対象として行うこととするかを改めて考えたいというものです。この場合、まずは会社分割による権利義務の変動に全く関係がない者(従としても事業に従事せず、かつ承継対象とされない者)にまで個別協議をする必要はないのではないかとあります。これに対して、検証すべき点があるかと思い、従来、指針においては5条協議の対象というのは「承継される事業に従事している労働者」である。つまり、承継対象とされなくても従として従事する者は5条協議の対象としてきました。この表でいいますと、左は4つとも○となっています。従従事の労働者というものは承継の定めがない場合は通知も異議申出権もない、承継されないことがスタンダードと考えられる労働者も5条協議の対象にはしていた。○となっています。これをどう捉えるかを検証しています。

 文章に戻りますと、これを踏まえ、その趣旨が従としてとはいえ、従事してきた仕事に変更が生ずるというように趣旨と捉えると、承継されない不従事労働者という一番右の欄、承継もされず従事もしていない労働者のうち、権利義務のみの分割の場合、その権利義務に関連している労働者というレベルの労働者にも仕事の変更が生じるという点では同じ考えなので、5条協議を行うべきとする立場はあり得るかということも提示しております。

 あるいは、また、趣旨を別に捉えるという意味なのですが、従従事の人であればどういう場合でも協議している趣旨として、そもそも労働契約承継の帰趨というものは、主従事か従従事かの微妙な判断により決せられている。その辺りの判断について労使で十分な協議を行い、紛争を未然に防ぐためというように考えて、主従事か否かの判断について、先ほどの論点にありましたとおり事業を基準とする立場を維持するのであれば、事業に該当しない権利義務の分割に関しては、承継対象されない不従事労働者については主従事労働者に該当しないことは明らかである。分かりにくいので言い直しますと、権利義務レベルのみの分割の場合には承継されない不従事労働者というのは一番右の欄ですので、右の欄のように承継されない不従事労働者という位置付けになりますので、主従事労働者に該当しないことは初めから明らかなので、従従事のときのような、従従事か主従事かという疑義が生じないので、従従事の場合とは異なって5条協議の対象とする必要まではないと解せないかと提示しております。どういう考え方を取るかによって、5条協議の要否も違ってくるということを御説明しております。

 次の矢印は不従事労働者で、かつ会社分割における承継対象としない労働者、表でいうと一番右になります。この場合、後ほど出てくる論点に関わる転籍合意、つまり分割契約には乗せないけれども別途の合意で転籍させる労働者についてはどうなのか。こういう労働者は承継法上の通知・異議申出権の対象とはなりません。しかし、転籍合意で個別合意を得る必要がありますので、個別の協議はなされることとなりますが、これらを踏まえるとこういう場合について5条協議の対象とすべきかについてどう考えるかという論点も提示しております。

 4ページをお開きください。以上が5条協議をどこまで広げるかという論点です。仮に5条協議まで義務付けない類型についても、権利義務の分割レベルで職務に影響し得る場合、職務等の変更があればその説明が必要であることその他一定の情報提供がなされることが望ましいのではないかということも併せて書いております。この論点は以上です。

 5ページ、会社法の制定に関わる論点の3つ目ですが、「債務の履行の見込みに関する事項」に関する論点です。論点3とありますけれども、これについては参考資料1-2のポンチ絵集、6ページに不採算事業の承継などの場合のケースを書いていますので御参照いただければと思います。会社法制定により分割により不採算会社が生じるとした場合、不採算事業とともに承継される。これは図でいうとケース1になります。あるいは不採算となる事業に残存する労働者、これはケース2になるかと思います。情報提供など、保護の在り方についてどう考えるかという議論でした。

 これまでの議論におきましては、債務超過分割を行おうとすると一定の債権者から異議が出され得るので、それほど容易になし得るものではないという御示唆も頂きました。

 もう1つ、右のケース2かと思いますけれども、会社の一方的選別により不採算事業に残留することとされた者に不服がある場合には、公序良俗違反や法人格否認等の法理の活用により事後的に個別に対応できる可能性があるのではないかという御意見も頂きました。

 3つ目のポツですが、不採算のほうに残留させられる労働者は雇用が不安定であり、事前に協議するべきかという提起もなされました。

 次は、事実として現在、債務の履行に関する事項は承継法上の通知と7条措置という集団的な協議の努力義務の対象となっていることも紹介されました。

 検討ですが、まず1つ目の矢印は図でいうとケース1、不採算事業とともに承継される主従事労働者があるとした場合どうすべきか。こういう主従事労働者ですので、まず5条協議の対象にはなります。ですので、例えば5条協議において「債務の履行の見込みに関する事項」も含めて説明して協議することを明記してはどうかと提示させていただいております。

 2つ目の矢印はケース2の場合です。不採算事業に残留する非主従事労働者があるとした場合、この人たちは現行法上、承継法の趣旨からは通知、5条協議や異議申出の対象としていない。先ほどの5ページの図でいうと一番右の類型になります。また、これまでの議論にありましたとおり、債務超過分割や濫用的分割は債権者異議手続などにより一定程度抑制される実態も踏まえると、そういう人たちについて異議申出等の対象に新たにするのではなく、労働組合等からの意見聴取が導入された倒産法制の例も参考に、分割会社の労働者全体の理解と協力を得るためということで、債務の履行に関する事項も7条措置の対象であることを明確にするなど、7条という集団的協議の措置をより徹底してはどうかと書かせていただいております。

 3つ目は、未払賃金等の弁済期の到来した債権を有する場合に限れば、労働者も詐害的会社分割における残存債権者による請求権を行使できることを紹介してはどうか。参考資料1-2のポンチ絵集ですと、これは7ページで紹介していた制度でした。債権の弁済期が到来したものに限るので場合が限られますけれども、そういう場合に限ってみれば、その請求権を行使し得るという事実の紹介ということを提起しております。

 最後の矢印は、これまでの議論の2つ目で書いたことも踏まえ、不採算事業への承継や残留における労働者の選別について、その目的等によっては公序良俗違反や法人格否認などの法理の活用で事後的に争えることを周知してはどうかと書いております。この論点は以上です。

 6ページをお開きください。「裁判例等を踏まえた対応」ということで、会社分割における裁判例等を踏まえた対応です。論点4は最高裁判決、アイ・ビー・エム事件の判決が言及した5条協議・7条措置の法的効果についてどう考えるか。これまでの意見として、5条協議が全く行われていない場合及びその協議が著しく不十分な場合に、個別に承継の効力を争えるとした判旨の考え方は会社法制定後も妥当するという御意見がありました。

 検討はそういうことも踏まえ、5条協議が全く行われなかった場合又は著しく不十分で法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には、主従事で承継された労働者は契約の承継の効力を個別に争えるとの判決の考え方を、7条措置が一判断要素となる点も含めて周知してはどうかと書いております。

 2つ目の矢印は、最高裁判決の今の考えを、実定法に反映する場合の可否について検討してはどうかとあります。その場合、5条協議が著しく不十分である場合の効果として、例えば契約の承継を無効とする、あるいは異議申出権を与えるなどの方法が考えられるがどうかという論点を提示しております。

 論点5です。実務上行われている、いわゆる転籍合意方式がありましたが、分割契約等に労働契約を掲載せず、別途の合意で労働契約を移転というか転籍させる方式です。それについて承継法の趣旨、労働条件統一の要請等の関係を踏まえてどう考えるか。これは阪神バス事件で扱われた論点です。これまでの御意見では、労働条件を維持して承継させる労働者、つまり承継法に乗せて承継させる労働者と、このように転籍合意によって労働条件を不利益変更して承継させる労働者とを、使用者が自由に選別できるのは問題ではないか。

 他方、2つ目にありますように、承継法の解釈として、当然に転籍合意方式そのものを排除することはできないのではないか。

 3つ目、もう1つの御意見として、承継法上の異議申出権を行使すれば労働条件が維持されたまま承継される等、承継法上の権利が転籍合意によってもなくならないとすれば、転籍合意方式を一律無効とする必要はないのではないかという御意見もありました。

 最後、転籍合意をする場合にも承継法のこうした権利と効果を説明し、適法な通知を行い、異議申出権の行使の可能性を確保した上で、合意の必要があることを周知すべきではないかという御意見もありました。

 7ページを御覧ください。検討ですが、1つ目の矢印は承継法の規定の強行性についてどう考えるかという論点提示になっております。2パラグラフ目から説明しますけれども、まず、主従事労働者は分割に伴って労働条件を維持したまま承継されるという法的効果について、承継法は強行的に規定したと言えるか。また、承継法による異議申出権、主従労働者で分割契約の定めがない等の自動承継から違う扱いをされたような人については、異議申出権を付与し、その権利を行使したら分割契約の内容にかかわらず不承継・承継が覆るという法律に書いてある効果についてはどうか。特に異議申出権とその効果が、会社分割制度の特例として特別に立法されたことを踏まえ、その強行性、この権利が事前に放棄できない点をどう考えるかとしております。

 次の矢印は実態面のお話です。転籍合意を行う背景として、労働条件統一の必要性があること、労働者の中にも転籍条件(退職金の上積み等)によっては転籍合意によるほうを望む者を想定されることなどの事情から、実務において多く行われているようであるということで、労働者保護の必要性との関係についてどう考えるかというものです。

 最後の矢印は考える選択肢を示しています。強行性の整理なども踏まえ、まず転籍合意を一律無効とする方法があります。そのほかに一律無効とはしないけれども、異議申出権とその効果を重視する方法にして、以下挙げるような事項の周知などが考えられないかという提起です。

 周知する1つ目としては、転籍合意するとしても5条協議や通知といった承継法上の手続は省略できない。

 2つ目に、転籍合意するとしても、分割契約等の定めのない主従事労働者は異議申出権の行使ができ、それを行使すれば労働条件を維持したまま承継されるという承継法上の効果があります。そちらのほうに効果が発揮されると転籍合意は無効ということです。

 また、会社は転籍合意をしようとする場合には、労働者に対し、会社分割による労働契約の承継であれば、労働条件を維持したまま承継されることや、主従事労働者はその異議申出権を行使できることを含め説明すべきことを周知するということを言っております。

 最後に矢印として転籍合意の例を言っていました。ヒアリングでも出向の場合もあるというお話もちょっとあったかと思いますが、そういう形式の場合はどう考えるかとも書いております。

 次は論点6です。これは承継法というよりは、労働組合法上の使用者性や不当労働行為責任の問題です。検討ですが、下級審裁判例ですけれども、新設会社が労働契約関係を承継したことに伴い、不当労働行為責任を承継する。また、分割会社は分割を理由として使用者の地位を失うことはないとモリタ・モリタエコノス事件でされました。派遣の例では、派遣就業関係の承継に伴って、使用者としての地位も、労働組合員との間の派遣就業関係に付随して承継されるとした阪急交通社事件もありました。これを、分割に関連する労働組合法上の参考事例として紹介してはどうかという提起です。

 その他、論点7として、異議申出権の対象範囲や、異議申出を行おうとしていること又は行ったことを理由とした解雇その他不利益な扱いの禁止に係る指摘をどう考えるか。論点7に書いた前段部分、異議申出権の対象の範囲については、承継される非主従事労働者、承継されない非主従事労働者というのは、自動的に承継する。あるいは承継されないということで異議申出権はないのですが、そういう者にも異議申出権を付与するかについては、労働者が職務から切り離されるといった不利益から保護するという承継法の制定当初の考え方に留意しつつどう考えるか。また、円滑な組織再編の促進という観点からどう考えるかと提起しております。

 後段の不利益取扱いについては、異議申出権の行使をより保護するため、現在、不利益取扱いの禁止は指針に定められていますが、それをより徹底する方策を検討したらどうかと書いております。会社分割は以上です。

 9ページ以降は「事業譲渡」です。論点8は事業譲渡に伴う労働契約の承継ルール、つまり労働契約が労働条件を維持したまま自動的に承継されるといったルールが法律で定められていないのですが、それについてどう考えるか。こういう御議論をされる場合には、承継ルールを法定化すべきということが主張される場合、ここに労働契約の承継の話が書いてありますけれども、併せて労働協約も承継法のように承継なり、みなすということも合わせて主張されている。そういう集団的な労使関係の部分について併せて主張されていることも、補足したいと思います。いずれにしても、そこのところも含めてどう考えるか。

 これまでの議論、1ポツ目は、会社分割と事業譲渡の関係です。法制度としては、包括承継である会社分割と特定承継である事業譲渡とは大きく異なる。分割は組織法的に権利義務のブロックをそのまま移転するものであり、それゆえに承継法が制定されている。一方、事業譲渡は個別の承諾を得て特定の権利を承継させるもの。MAの情報でもグループ内再編は会社分割が、グループ外の再編には事業譲渡が多くというように、それぞれのスキームが使われているという実態が紹介されました。

 次のポツが労働者の立場の違いです。会社分割は分割後に労働条件を変更する交渉を集団的にもでき得るが、事業譲渡は労働条件の引下げを前提に個別に合意せざるを得ない点で、分割よりも交渉力が弱くなるのではないかという指摘もありました。

 次のポツで、ただ承継を強制すると事業の譲受先がなくなってしまわないか。それにより事業継続に支障を来して、雇用も維持できないという副作用がEUでも議論されています。

 次のポツで、濫用されるようなケースでは黙示の合意の認定、不当労働行為の法理、法人格否認の法理等により救済が図られているとされています。

 最後のポツですが、事業譲渡は民法第625条により個別合意が必要ですので、一定の労働者保護を図ることができているのではないかとあります。

 検討ですが、承継されない不利益が労働者に生じるとして自動承継を強制すべきという御意見がありますが、そうした場合に譲受コストの大きさから譲受先が少なくなって、保障できたはずの雇用がかえって保障されなくなるという事態が生じるという議論がEUや、平成14年には我が国でも企業再編の研究会でありましたが、どう考えるかと提示しております。

 2つ目に、事業譲渡とする場合、定義を画することについての問題です。一般的には、法律上の定義には事業譲渡はありません。このため営業用の財産や商号のみの譲渡もあり得、実際には様々なケースがある中で、仮に自動承継ルールとする場合には、対象となる事業譲渡の範囲・定義を画する必要がありますが、どのように明確にできるのか。確定困難であると法定安定性を害することとなる、との指摘にどう考えるかということを書かせていただいております。

 3つ目、更に承継を望まない労働者の存在を意識して、自動承継ルールとした上で全ての労働者に異議申出権を付与するという指摘もあります。ただ、こうなると、労働者の意見によって労働契約の承継が決まるということになりますが、それについてどう考えるか。

 異議申出権を与えることについて「なお」書きで書いています。EU諸国では分割譲渡を理由とする解雇を規制しておりますけれども、例えばイギリス・フランスでは異議申出権というのは法的に保障されていない。仮に承継を拒否すれば雇用は終了、退職という扱いになります。ドイツは承継拒否、異議申出権の権利がありますが、承継拒否して元の会社に残った場合、そこでの雇用が保障されているのかと言いますと必ずしも保障されていないという報告もありました。そのように、異議申出権を行使して承継とした場合、その後の解雇等の処理がなされていますが、我が国についてはこれをどう考えるかということを提示しています。

 最後が、会社分割と譲渡と2つのルールがある点を書いております。少し省略しますが、先ほど言いましたように会社分割と事業譲渡というのはそれぞれ法的な性格等の違いがありますので、それぞれの性格に応じて選択して活用されているという指摘があります。会社分割、事業譲渡と2つのルールがあることを現在どう考えるかを書いております。

 論点9、最後です。労働契約の譲渡には個別の合意が必要であること、倒産法制における事業譲渡に関する意見聴取規定の整備等を踏まえ、適切なルールの在り方、事業譲渡についての適切なルールについてどう考えるか。

 検討ですが、事業譲渡でも実際には個別の同意を得る過程で労働者や組合に対して説明・協議が行われ、労働条件について説明が行われているのが通例であり、EU諸国でも労働者代表に対する情報提供等が義務付けられています。

 我が国の裁判例でもケースごとに柔軟・妥当な解決を図っていることと、契約の承継には民法に基づく個別同意が必要であることなどを踏まえ、そうした個別同意の実質性を担保し、真意による合意を得るために、例えば手続面でのルールの整備などが考えられるのではないかと書いております。

 また、倒産法制の動き等の中で、先ほど論点に挙げましたとおりそのような動きがありますので、集団的な手続のルールのほうも整備することも考えられるのではないかと書いております。この場合、承継の有無ということに加え労働条件の変動等、労働者が不利益を被りやすい事項に関する紛争の防止の視点など、どのような内容、方法での手続が必要と考えられるかと提示しております。論点9は以上です。

 その他、事業譲渡について議論すべき論点はあるかということで、これはあるのかどうかも含めて議論をいただければと思います。長くなってすみません、以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。今、詳細に御説明いただいた、今後の論点の検討について、御質問あるいは御意見等があればお願いいたします。どこからでもよろしいのですが、もしなければ、論点1では、分割の単位が事業・営業単位から事業に関して有する権利義務に変わった経緯についての説明がありましたが、商法の先生から見て、この説明でよろしいのでしょうか。いかがでしょうか。

○高橋委員 事業概念ではなく権利義務単位になったという説明でしたが、事業概念があまり一義的ではないからというところが出てきているかと思います。それゆえに、わざわざ事業概念を維持しなくても、権利義務としていろいろな契約書や計画書に書けば、それを包括的に移転するということで改正したことになっております。

 検討の矢印の2つ目のポツに、会社法の制定の文言の、改定の趣旨のようなことを書いてあると思います。この点は改正の趣旨の一つではあるのですが、これだけが理由かと申しますと、別にそれだけではなく、開示や債権者保護手続があれば、必ずしも営業事業という概念を維持しなくても債権者の保護を図ることができるので、営業に該当するか否かという判断にこだわる必要がないという側面があります。どちらが主かといわれると難しいところですが、手続上、それほどほかの債権者等を害することはないだろうという点が、むしろ先に来ると思います。2ページの矢印の2本目の2つ目のポツのように、そのように書いてあるといわれればその通りですが、主眼があったかどうかについては若干、引っ掛かります。おおよそこのような説明をしております。

○荒木座長 ありがとうございます。時々指摘があるのですが、分割登記の手続の観点から、もう少し議論があるのでしょうか。

○高橋委員 分割登記に関する話では、どちらかというと履行の見込みの話であり、結局、見込みを効力要件にしてしまうと、登記のときに登記官が見込みまで含めて判断しなければならないという話になってしまいますので、そのような実務は決して望ましいことではないことから、履行の見込みがあることは単なる開示事項とし、分割の効力要件から外したというような事情があります。

○荒木座長 ありがとうございます。今の話ですと、事業単位、営業単位を権利義務単位に変えた主眼として、この営業・事業概念が不明確であることにあったというのは少し書き過ぎだということですね。

○高橋委員 それだけではないという。

○荒木座長 ということですね。

○高橋委員 もちろんそれは非常に大きいところですが、併せてほかの手続があります。そちらがむしろメインの理由であり、分割をすることは組織法的ないろいろな手続、つまり、事細かに契約書や計画書に書き、それを開示し、債権者に「いいですか」という手続を取り、そして株主総会に掛けるという一連の組織法的な手続があります。このような非常に面倒な手続を通っているからこそ、個別に同意を取ることなく、包括的に譲渡することが許されるという説明をしております。ですから、事業というブロックが移るかどうかということにポイントを置くのではなく、このような手続を取ることに主眼があるといえます。もちろんそれと併せて論じる点として、事業概念は一応決まってはいるけれども、決して具体的には明らかではないということを併せて説明をする形になっています。この点を主眼と申しますとそれが理由で変えたというような印象を受けるのではないかという懸念が少しあります。

○荒木座長 ありがとうございます。

○橋本委員 高橋先生に関連して質問させていただきます。今のご説明は会社分割についてでしたが、事業譲渡という手続はまだありますよね。そこでいう事業の概念について、やはり有機的一体性はまだ意義があるといえるのでしょうか。

○高橋委員 事業譲渡の場合はそのように維持されているのですが、事業概念と事業譲渡概念では一応分けて考えています。事業概念として有機的一体性がどうなのかという話をずっとされてきたかと思うのですが、厳密に申しますと、会社法上あるいは商法上問題ないのは事業譲渡かどうか、事業譲渡という手続を取る必要があるものかどうかなので、それがある程度のブロックになっていて、かつ、それが移動するということです。その移動の際に株主総会決議が必要なほど、株主にインパクトのある譲渡かどうかということが、実はポイントになっております。

 これが事業だから株主に承認を取る必要があるというよりは、全体的にもう少しもやっとしたもので、株主にインパクトがあるほどの事業譲渡といわれる取引行為になっているか。そこまでではないのであれば、別の決議機関、取締役会などの機関で決議する手続を取ればいいではないかという発想でできています。非常に一義的に明確な、こういうブロックを事業として移転するという構造ではないのです。ですから、昭和40年の有名な最高裁判決では、事業譲渡とは何ですかという定義の仕方になっていて、その有機的一体性だけではなく、必ず承継しなさいという点と、競業避止を原則としてかかってくるような場面だという話になっていく。これはどのような形で承継されているかを示す要件ではあるのですが、それらの点を含め株主総会の必要な事業譲渡と説明しております。ですから、事業譲渡の論点はあまり参考にはならないかもしれません。

○橋本委員 私もよく理解できないところもあり、日本で事業譲渡という商法の手続上の用語と、承継法で事業というのが同じ用語が使われており、分かりにくいと思いましたので、質問させていただきました。

○荒木座長 ほかにはいかがですか。

○富永委員 単なる確認というか感想ですが、事業と事業譲渡の概念についてです。商法、会社法の世界では事業譲渡というのが重要で、事業というのはそれと独立した文脈では、あまり大した意味では使っていないということですよね。労働法の世界では多分、労働基準法第9条などで「事業」という概念を独立して使っていて、その事業譲渡以外の文脈でも事業という概念があるように使われているということなのでしょうか。

○高橋委員 実際上、問題になるというのだと、富永先生がおっしゃったような考え方なのではないかと思います。商法上あるいは会社法上、事業そのもので問題にすることはそれほどなくて、手続は何かということですね。会社内部の手続が何なのかということが分かればいいというくくりですね。

○荒木座長 商法上は株主総会の特別決議が必要かどうかと、競業避止義務が課されるかと。その効果を認める必要性のある事業譲渡にあたるかを議論しているという趣旨ですね。

○高橋委員 おっしゃるとおりです。

○荒木座長 今の御説明をお聞きすると、事業譲渡の場合だと債権者の個別の合意が必要なところが、会社分割でいくと組織的な行為として個別の債権者の同意が必要ないと。それで問題がないようなものとして、2000年に会社分割制度を導入したときは、営業単位でいくことし、採算の見込みがあることということもあって、分割したとしても債権者を特段害することはないし、あとは債権者異議でいくということで考えていた。2005年の会社法制定時に、事業単位ではなくて権利義務単位に変えるときも、きちんとした債権者異議手続や開示手続が担保されているのだから、営業事業の概念で担保しなくても債権者を特段害する事態にはならないだろう、というのが立法者の考えたことだった、という理解でよろしいでしょうか。

○高橋委員 そうですね、おっしゃるとおりかと思います。

○荒木座長 分かりました。それではほかの点はいかがでしょうか。今の議論の延長線上で委員の皆さんの御意見も伺いたいのは、会社法は分割の単位を変えたのですが、労働契約承継法は2000年当時と同じように、営業ないし事業単位で物事を考えて、当該事業に主として従事するか否かを基準に判断する立場を取っているのですが、それでよいのか、それとも会社分割の単位が変わったのであれば、主従事か否かの判断も権利義務単位にすることは考えられないか、ということが1つの論点として挙がってきたわけです。それについて、検討では権利義務単位として考えるのはやはりいろいろと問題があるのではないか、従来の事業単位の判断を維持するべきではないかといったトーンのことが書かれていますが、この点はいかがでしょうか。

○金久保委員 2ページの「検討」の所なのですが、前回の議論では大きく分けると2つの議論があったと私は思っております。1つは、この検討の最初の矢印の所の○1の考えを取るのか、○2の考えを取るのかというところで、細切れの分割のときに労働者も強制的に承継されるのは少しおかしいということで、○1の意見でよいのではないかという意見があり、私もそのように思っております。

 ただ、そのときに会社法でいう事業に厳密に当たるかどうかよく分からないと。しかし、労働者が移ったほうがいい場面もあると。例えば工場のような、工場全体を分割するという例が出されておりましたが、そのような場面で事業概念を維持することで不都合が出てこないかという議論が2番目にあったと思います。しかし、そのような場合でも、承継法の趣旨に遡って、効果も考えて事業概念を捉えていけば問題ないのではないか。会社法と承継法は別な法律なのですから、会社法でいっている事業と全く同一でなくてもいいのではないかという議論ができて、そのように考えていけば不都合がないのではないかという2番目の問題を整理できていたのではないかなという印象を持っております。

○荒木座長 それは、1ページの事業概念についての3ポツで議論された問題ですね。

○金久保委員 はい、そうです。

○荒木座長 これを、検討の中にもある意味では反映してはどうかという御指摘でしょうか。

○金久保委員 はい。検討の所では、3つ目の矢印の所で、その議論が○1、○2のどちらを取るかという話の中で少し触れられてはいるのですが。

○荒木座長 これも難しい問題ですが、いかがでしょうか。御意見を伺います。

○橋本委員 承継法が、会社分割の手続が取られた場合の労働者保護法という会社分割手続を念頭に置いた制度であることと、検討にある○2の権利義務で会社法が変わったのだから、それに応じて承継法の考えも変わるべきだという論点が出てくるかとは思うのですが、金久保先生が分かりやすく説明してくださいましたとおりだと思います。

 それから、1ページの3ポツ目の意見で、権利義務の分割で「主として従事する」ということがどういう場合なのかが分かりませんので、雇用関係はやはり事業を単位に考えるというのが明解な考え方だと思いますし、労働者保護の観点からこの事業概念をどう考えるべきかは、また議論になるかと思います。私が言いたいのは素朴で分かりやすさという点になってしまうのですが、事業単位を維持するのが妥当だと思います。

○荒木座長 ほかにはいかがですか。

○神林委員 素人なので、発言の端々によく分からないことが出てきています。今、橋本さんがおっしゃった雇用関係というのは、事業をベースにしているという表現は正しいのですか。

○橋本委員 そこもうまく言葉にできておりませんが、ここをうまくきちんと説明できれば、もっと説得的にこの論点について議論できると思うのですが。少なくともヒアリングで出てきた例なのですが、子会社を管理する部門が親会社にあり、その管理している子会社が幾つもある中で1社だけ売却されてしまった場合に、その子会社を担当していた人はどうなるのかという問題が提示されました。その子会社の管理は権利義務の移転ということで会社分割で移転の手続が取られたけれども、その子会社の管理をしていた人の労働関係がどうなるのかについて、承継法の手続をいちいち踏む必要があるのかどうかが経営側からは問題提起されました。そのときに、私の認識では子会社管理部門という親会社にある部門は全く影響を受けていないわけで、その担当業務が少し変わったぐらいで、承継法の話になるのかなというところがまず理解できなかったのです。このヒアリングで聞いた例を思い出しながら、親会社における1つの部門が労働法でいうその人の属している部門ということで、労働法の保護の単位として基準となる事業ではないかということを言いたかったのです。

○神林委員 それは、主として従事するという言葉と、従として従事するという言葉の話ではないのですか。

○橋本委員 そうですね。ですので、事業に主として従事するか、従として従事するかということで、基準となる単位が親会社の管理部門がどう組織変更されたのかとか、そういうところを労働法では考えていけばいいのではないか。その担当する子会社がどうなったかはあまり関係ないのではないかと思ったものですから。

○神林委員 分かりました。私の感想は、そのように表現するのであれば、主として事業に従事するか、従として事業に従事するかという日本語はあまり正しくないと思います。主としてある仕事に従事するのか、従としてある仕事に従事するのかというのは区別できますが、ある事業に関して従としてその事業に従事するということは、現実には非常に観念しづらいのではないかと思います。事業の中にいろいろな仕事があり、それをいろいろローテーションを組んでキャリアを構成することを考えれば、ある仕事に関しては主と従という概念はできると思いますが、それを大きくまとめる事業に関して、主と従という概念を設定するというのは、あまりにも広すぎる概念になるのではないかと思います。ただの感想です。

○荒木座長 主としてか従としてかが何について言っているか、という問題を提起されたわけですよね。従事している仕事あるいは職務について、主か従かという議論が1つあり得るところです。それに対してここで議論しているのは、主とか従とかを判断する、何との関わりで見ているのかというので、1つは正にやっている仕事というか、権利義務との主か従か、これが○2の考え方。それに対して、承継法はそうではなく、事業単位で考えると。

 分かりやすい例を主、従と一緒に言いますと、ある会社にバス部門と自動車教習所部門があり、会計担当者は両方やっている場合には、例えば自動車教習部門を売却する、これは事業と考えられる。それにも関与はしている。しかし、その会計担当者は主としてバス部門の会計をやっている場合には、その会計担当者は売却される、分割される自動車教習所部門については従として当該事業に従事しているということを想定して、主か従かと言っていたと。この事業単位を考えれば、例えば自動車教習所の車を売却する場合については、これは教習所部門という事業単位ではないから、それには主従事も従従事ということも観念できないのではないかというので、その場合にはもはや当該事業に主として従事していたと言えないことは確かだから、主従事ではないということで、処理をすることでよいのではないかというのが、多分、今までの議論だったと思います。

○神林委員 そうなると、誰が事業というのを定義するのですか。

○荒木座長 最終的には紛争が起こった場合に裁判所が判断することになりますが、そういう紛争は起こらないように主従事かどうかが問題となるような場合について、5条協議をしなさいというような議論が出てくる状況はあります。

○神林委員 5条協議をしろというのはよく分かるのですが、つまり自分が属している仕事が入っているセクションは、一体となっている事業であるということを労働者が主張するということを考えていらっしゃるわけですか。

○荒木座長 まずプロセスとしては、分割しようとする会社が、相手がいれば相手との契約とかで、分割計画と契約の中でこれは1つの事業だろうと思って、それに主として従事するかどうかを会社で判断して、承継の対象とするか否かという第一次的な判断を会社がします。

○神林委員 それは、旧会社法のときですよね。改正する前のときの場合には、会社分割をするときの前提として事業体があるわけなので、それは会社が最初に定義をするわけですよね。これが、今回分割する事業ですと。しかし、現在はそれをする必要はないですよね。ですので、分割計画書には、ここからここまでの範囲が事業ですという定義は多分書かれなくてもいいわけですよね。それが出てきたときに、いや、ちょっと待てと。自分が属している、あるいは自分の仕事はそこに書いてあるいろいろな権利義務の束から推測される事業の中に入っている、と主張しないといけないということですよね。

○荒木座長 はい。会社法上は事業単位の縛りをなくしましたが、現行法である労働契約承継法は、そのときに承継対象となる、あるいはならない労働者に対して、あなたは事業に主として従事するか否かを説明しろということになっていますから、承継法上、事業に主として従事するか否かは、会社は判断した上で分割をせざるを得ない状況は変わっていないということです。

○神林委員 分かりました。つまり、会社法上は、会社分割計画書にはそういうことを書かなくてもいいけれども、それを労働者に説明するときには、今回はこういう会社分割をしてその範囲がこういう事業の範囲のこの部分を分割するのです、ということを明確に定義をしてあげると、それを説明しなければいけないということになるわけですね。

○荒木座長 はい。

○神林委員 しかし、会社側にとって、あなたが就いていた仕事は別に事業の中に入っていませんでした。しかも、例えばあなたは承継するつもりはありませんというときには、そもそも協議自体をしなくていいので、そもそもその事業をはっきりさせる必要はないわけですよね。

○荒木座長 不従事労働者についてはそうですが、全員が不従事労働者かどうかは分かりませんから、主従事労働者も含むような全体としてのスキームであれば、あなたは主従事労働者だということを考えて処理しなければいけないですよね。

○神林委員 つまり、自分が主従事労働者なのかどうかは、会社側が事業の範囲を示してくれないと分からないのだけれども、会社側があなたは不従事労働者だと考えれば、会社側は事業の範囲を示さなくてもいいわけですよね。

○荒木座長 示すべきかどうかは別にして、もしその判断が誤まっていたら、主従事労働者であるにもかかわらず、この人は不従事労働者と思って、通知も何もせずに処理していた場合には、事後的にその措置は無効になるという主張ができるということですね。

○神林委員 そのときに、主張をするときに、この会社分割というのは、この範囲の事業を分割することになるのだということを、労働者が立証しなければいけないということになるわけですか。

○荒木座長 労働者は、自分が主従事労働者であるにもかかわらず、そう扱われなかったということを主張する場合には、その手続が違法であったということは主張する必要はありますね。

 ということで、今の話は実はもう既に3ページの論点2とも重なってきておりますので、この議論を更に続けたいと思います。ここでは、5条協議というものの対象をどうするかという論点について提示されているところです。4ページを見ても分かるのですが、基本的に会社分割に当たって労働者に対する通知が○になっている人の所は、5条協議もするべきではないかというようなことが、1つの基本的な考え方として出されております。そうすると、現在は不従事労働者については、会社法が制定された後も5条協議の対象とするということになっていなかったのですが、これはやはりおかしいのではないかということで、これは5条協議の対象とするべきではないかというのが第1点です。

 もう1点は、従従事労働者で承継の定めがない者は、通知の対象となっていないのですが、これは5条協議の対象とするという行政の考え方が既に示されております。その趣旨の取り方によって3ページにあるような2つの考えがあり、やってきた仕事が変わるのだから協議の対象とすべきだというのでしたら、不従事労働者もやっている仕事が変わり得るのだったら協議しなさいということになりそうだと。それに対して、従従事労働者のについて承継の定めがないにもかかわらず5条協議をするのは、そもそも主従事か従従事かという微妙な問題について疑義があるところを、十分本人のやっている仕事なども会社との間で話をして、主従事か否かの判断の誤りを正した上で処理をさせようという趣旨だと言う理解がある。このような趣旨だとすると、不従事労働者についてはそんな話は出てこない。そうだとすれば、ここは×のままでもよいことになる。このように二通りの考え方があるということが提示されているところです。この点について、いかがでしょうか。

○橋本委員 理解の確認をまずお願いできればと思います。承継法だと第2条第1項第1号2号で、主として事業に主として従事する者とそれ以外の者という2つの区分だけあり、今議論になっているのはこの3分割、主従事労働者と従従事労働者と全くその事業と関係のない人ということで。確かにこの表に事務局が整理していただいたとおり、指針などを読むとこのような違いが確かに現行法はあるという整理になっています。特に、5条協議の対象が指針で「承継される事業に従事している労働者」と書かれておりますので、全く従事しない労働者が外れてしまっているというのが、ここでの大きな問題かと理解しております。

 この3分割はもう定着しているのかを確認したいのと、私の問題意識は承継法では主として従事する労働者か、それ以外の労働者かという区別だけなので、その2つの区別が当然、承継なのかそうでないのかというところで効果と関係してきます。そこで、従として従事する労働者と、全くその事業に従事しない労働者という2つ目と3つ目の区分が、何か決定的なのかどうかを先生方の御意見を確認できればと思います。私としては、あまり承継法本体の効果と、主として従事する労働者かそれ以外かだけが重要だと理解しておりますので、そうであれば、なるべくこの従従事労働者と不従事労働者は同じ手続が妥当ではないかと理解しており、概念としても一緒に整理できるところはできたほうが明解さ、実務上の混乱さの回避の点でいいのではないかと思っております。

 まず、3分割の議論が出てきたのは、これまでの議論を私が理解したところは、やはり3つ目の論点で、全く関係ない労働者にまで協議義務をかけてしまうと数が多すぎて必要ないのではないかという点が残るかとは思うのですが、この点はまた次にしまして、この3区分が必要なのかどうかを確認させていただければと思います。

○荒木座長 金久保先生、いかがですか。

○金久保委員 この2条だけを見ますと、特に従従事労働者というのは書かれていないわけですが、多分、この3つに分けた経緯は、平成17年改正前商法でしたら、この左側の主と従でやっているだけで足りた、でも、会社法になって事業の外にいる人でも分割の対象とできたので付け加えてきたということで、3つの整理を始めたということだけではないのかと思いましたが、いかがでしょうか。

○橋本委員 ありがとうございます。その視点で、権利義務も分割の対象になったという会社法の整理は、労働関係の問題とは直結しないのではという問題意識があったので、質問させていただきました。やはり、その辺りの経緯が大きかったのかどうか。指針を見ると、確かに、全く従事していない労働者という用語と、事業に従事している労働者という用語の両方が使われているので、区別されているようです。

○荒木座長 2000年に作ったときの指針も、そこは書き分けがありました。2000年に承継法を作ったときは、事業に全く従事していない者は分割の対象となし得ないということをはっきりと書いていました(旧承継指針第2の2(3)ニ(ロ))。ですから、当初から3分割の考え方はあったのです。主従事と従従事と全く従事していない者の3つがあったのですが、承継法は分割の対象となり得る主従事と従従事についてしか想定せずに、規定していなかった。ところが、2005年の会社法制定によって、全く従事していない人も分割の対象となし得るから、そういう人も承継法の議論の対象に乗せる必要はできてきたという経緯だと思います。

○橋本委員 ありがとうございました。

○荒木座長 もう1点御質問がありましたが、確かに承継法上は2条1項1号と2号は、主従事かそれ以外かという2分割なのですが、主従事でない人に、従として事業には従事しているという人と、全く事業に関与していない人と、これを必ず同じに扱うべきかというと、そこはやはり区別して扱うことも十分ありうる。もともと3分類で取扱いが違う人ということは意識して承継法も作っていたので、そこは必ず一緒にしなければいけないということはなく、利益状況に応じて違う扱いもあるのではないか。その利益状況の違いとして、全く従事していない人というのは無限にいるわけです。当該企業の全員になってしまう。そういう分割の対象とすることなど、全く想定もしていない人についてまで全部5条協議をしなさいということにはならないのではないか、という指摘が書いてあるということではないかと思います。

○富永委員 今の話とちょっと違うところに行くのですが、3ページの2番目の矢印の下のほうに書いてある2つの考え方があって、1つ目が、仕事の変更が生じるのであったら、それは広く対象にしなさいというもの、2つ目のほうは、そうではないというものです。2つ目の考えは、主か従かが微妙だから、そこをちゃんと判断するために対象とする、ということだと思います。2つ目の考え方だと、事業に該当しない権利義務の分割に関しては、事業に該当しない権利義務の分割なのかどうかが微妙な場合はどうなるのかなというのが1点気になったところです。

 ただ、そのような場合については、7条措置などで説明するときに、これは事業に該当しない権利義務の分割ですと、その理由はこういうことですということを先に集団的に説明させておけばいいのかなという気がしまして、後の2つ目のほうの考え方で一応はいいのではないかという気がしました。

○神林委員 これもただの感想になるのですが、結局、主として従事するか、従として従事するかということを決めなければいけないということを、これまで考えていたわけですが、今回は、それが事業に属するかどうかということも考えなければいけないという話になって、2個考えなければいけない条件が付け合わさっているわけです。ですので、かなり複雑な話になるのではないかと私は予想します。まず最初に、それが事業かどうかということを言い争って、その後、事業だとして、主として従事していたのか、従として従事していたのかということを言い争うということをやらなければいけないので、かなり複雑な構造になるのではないかというのが1つです。

 もう1つは、基本的にこの流れというのは、集団的な労使交渉から個別の労働条件の変更、あるいは個別で労働関係というのを律していこうという流れの中にあると思うのです。その中で、どこまでが範囲だか分からないから全員やらなければいけないのかというコメントが荒木さんのほうからありましたが、それは、その個別の労働関係という方向に引っ張っていくのであれば、仕方がない話なのではないかと思います。それを縮約するための集団的労使関係だったはずで、その集団的労使関係から舵を切っていくということであれば、面倒臭いかもしれないけれども、個々の労働者ときちんと話してくださいというふうに言うことは、必ずしもおかしい話ではないと思います。

○荒木座長 2点御指摘がありましたが、前半のほうは、実は今回出てきた問題ではないのです。もともと事業単位でなければ会社分割はできない。だから、場合によっては、会社としてはこれは事業単位の分割だと思ってやっているけれども、労働者から見ると、これは事業を構成していないではないかと。だから、会社分割で人を移せないはずではないかという争いは、潜在的にはずっとあったのです。

○神林委員 そうなのですか。でも、会社法のほうで、それは事業だと言われてしまったら。それは法律が違うから全然違うのだという理屈はあるかもしれませんが。

○荒木座長 会社法でも、事業だから会社分割制度を使えると思っているのですが、「いやいや、それは事業に当たらない」という争いはあり得たはずです。それが今、ここで改めて会社法のほうでは事業単位でなくなったからもう議論しなくなったけれども、承継法では依然として事業単位で考えるから、事業かどうかというのを従前どおり議論するということで、新たに生じた問題ではなく、従来からある問題が、我々のところではまだ残っているという問題ではないかというのが1つです。

 それから、7条措置のような集団的なところでこの問題を受け止める、富永委員からもそういうお話が出ました。それは重要な点だと思います。それに対して、個別で対応するのであれば、その交渉コストは仕方がないのではないかというのですが。先ほどの例では、バス部門と自動車教習所部門があって、バス部門の人は誰も動かそうと思っていないです。だけど、自動車教習所部門を何か分割でやるときに、バス部門の従業員全員に5条協議をしなければいけないですか。それは何のために。誰もそんなこと思っていなくてもやるのか。だから、あり得るとしたら、ちょっと次の問題になるのですが、会社分割で動かすつもりはないけれども、転籍合意なので動かすことを考えている。そういう人たちについて、この5条協議をしなくてよいのかというのは議論としてあり得るのですが、そういうことを何も考えていない、何も変わらないことはみんな分かっているのに、5条協議の手続があるからやりなさいというのは、なかなか納得が得られないのではないかという気はします。

 そこでちょっと、もう1つ難しい問題がここへ出てきているのですが、阪神バスのように、会社分割としては事業施設、バスなどは移転すると。だけど、労働者については会社分割制度を使って移転するのではなくて、転籍合意で移転するという場合は、先ほどの表でいうと、しかもこれが事業を構成していれば、もちろん主従事労働者として承継の定めがあろうが、なかろうが、5条協議はやります。そうではなくて、当該分割が事業を構成していないとすると、当該労働者の帰趨を考える場合、その人たちは不従事労働者ということになります。それでも、会社分割に乗せてしまえば、承継の定めがありますから5条協議はやりますが、会社分割では承継しないとなると、承継の定めがない人となります。しかし、会社分割に乗せずに転籍合意で移すという人は、この承継の定めがない、今のところ×の人なのですが、この人に5条協議をすべきかという論点があるのではないか。これが3ページの「検討」の一番下の2ポツです。この点についてはいかがでしょうか。

○金久保委員 今、荒木先生は、阪神バスのような事件を引き合いに出しておっしゃったので難しくなるのですが。

○荒木座長 すみません、阪神バスは主従事労働者なので例が良くなかったですね。全く当該分割される事業に従事していない人の話として論ずべきで、阪神バスの例は主従事労働者ですので、この表でいうと左の2つの所です。失礼しました。

○金久保委員 事業に当たらなくて、権利義務、例えばヒアリングで会社側、使用者側の団体が言っていた株式を移すだけだというようなとき、その仕事に少しは従事していたというときには影響があり得るので、協議したほうがいいのではないかという問題が出てくるのではないかと思います。基本的には、事業に当たらない、そういう権利義務だけの移転の場合には、労働者自身も、そもそも自分も移るということは考えていないような状況なのではないかと思います。であれば、影響はあるにしても、義務として5条協議を課すまでは要らないのではないかという印象は持ちました。

○富永委員 今のお話に関連するかどうかわかりませんが、素朴な印象としては、権利義務だけの移転の場合、つまり、バスとか、ミシンとかの個別財産を会社分割で移転場合を考えてみると、なぜかバスやミシンのオペレーターさんも一緒にくっ付いてきたということになりそうで、何かかなりまずいことになるのではないかと思います。会社分割という手続を取るにしても、個別の財産を、例えば会社分割で受けて、本当は鉄くずでスクラップするつもりだったのに、なぜかオペレーターさんがくっ付いてきたというのは、元の会社にとっても、受け入れ先の会社にとっても、オペレーターさんにとっても不幸ではないかと思います。

 そのような場合を考えると、事業概念については維持したほうがいいのではないかと思われます。事業を譲渡してそれに労働者がくっついていくのが妥当なのは、事業が仕事を含んでいて、その仕事が移転するからそれにあわせて労働者も移したほうがいいからです。これに対し、個別の財産には、仕事がくっついていると言えないことが多いのではないかと思います。そうだとしたら、個別の財産が移る場合の処理を想定すると、やはり労働契約承継法では事業概念を維持していたほうがましなのではないかと思い、1の方はその結論でいいのではないかという気がしました。

 先ほどの話に少しだけ戻りますと、5条協議でするのかどうかという話があって、「事業」に該当するか、しないかというのは、全体の性格付けに関する話だと思うのですが、5条協議とは個別の労働者とやるものですよね。ですから、自分が主従事か従従事かなどというのは個別の協議で、つまり5条協議でやるということにし、全体の性格として、会社分割で移す対象が事業に当たるのか、そうではないのかというのは、7条の全体的な説明のときにはちゃんと説明させる、というのがいいのではないかと、そういう印象を持ちました。

○荒木座長 今おっしゃったことは非常にもっともだと思います。多分ここで問題となるのは、使用者としても移すつもりはある。でもそれで会社分割としては移さずに、転籍合意という別のルートで移すというときに、それを5条協議に乗せるべきかという点が一番問題となると思うのです。使用者としてただ移したいということであれば、個別に労働者の合意を得なければ民法625条によって移すことを命ずることはできないのです。したがって、個別の労働者と、言うなれば5条協議よりももっと濃密に、本人が同意するまで協議しないことには移せないわけです。ですから、移したいけれども会社分割法を使わないという人については、使用者としては個別に協議をせざるを得ないし、合意を取り付けるところまで本人の納得を得ざるを得ないというところで担保されているので、この会社分割の5条協議に乗せるということまでは必要ないのではないかという気が私はしております。

 それでは、ほかの論点もありますので、またお気付きの点があれば戻ってくることにいたしまして、論点3はいかがでしょうか。これは「債務の実行の見込みに関する事項」ということに関連するところで、不採算分割ということに関する論点です。

○富永委員 素朴な印象として、日本アイ・ビー・エム事件で、7条措置はともかくとして、5条協議はちゃんとしないと労働契約承継の効果に関わりますよという話があったと思いますが、債務の履行の見込みに関する事項も、もしちゃんとした情報提供をしなければ、5条協議の内容が著しく不十分に当たるという場合に含めていいのではないかという気がいたしました。つまり、ちゃんとやっていなかったら、効果が左右され得るということになるのではないかという気がしました。

○荒木座長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。

○神林委員 債務の見込みに関する事項というのは、本当に何も言及しなくてもいいのですか。

○高橋委員 いいえ、開示事項なので言及は必ずします。

○神林委員 ということは、どれぐらい見込みがあるかという情報はそこで作られているわけですよね。

○高橋委員 そうです。

○神林委員 そうしたら楽といえば楽ですね。それを明らかにするだけで。

○高橋委員 そうですね。

○金久保委員 「検討」の所の最初の矢印だと思うのですが、できるだけ説明したほうが、それは私もよいと思いますので、債務の履行の見込みに関する事項も説明したほうがいいのではないかと思います。確か、会社法上、債務の履行の見込みに関する事項を書いた書面を本店に備え置いて開示するという手続がありますが、それが見られるのは株主と債権者で、労働者も賃金の未払いがあれば別ですが、そこの債権者に当たらないとすれば見られない人も出てくると思いますので、これを説明するということを含めていいのではないかと考えました。

○荒木座長 労働契約承継法の施行規則の1条の6号では、通知すべき事項として、債務の履行の見込みに関する事項が入っておりますので、これで個別の労働者には通知をするということにはなっているのですか。

○労政担当参事官 そうなっております。通知の対象となる労働者は全部ではないので、例えば、非主従事労働者で承継の定めのない人、また、そういう意味では異議申出権もない人ですが、そういう人にはなかったりとか、そういう意味で、全ての労働者ではないという点はあるかと思います。

○神林委員 そうすると、債務だけ残して、優良債券だけ別会社に移してしまうというときは、残された人はそれを知る術がないということですか。

○高橋委員 履行の見込みは、どちらの会社にも開示義務があるので、分割する会社も、承継する会社の両方についての履行の見込みなので。

○神林委員 債権者であれば分かるけれども被用者は見られないのですよね、その情報は。ここで書いてくれないと被用者は見られないけれども、ここで書いてある通知する人というのは、移る人には通知をするけれども、移らない人には通知をしなくても構わない。典型的には不従事労働者の承継の定めがない人ですが。

○労政担当参事官 対象にならないですね。

○神林委員 そういうことですよね。なので、ずっと今まで不採算部門でキャリアを積んできて、採算部門だけ売り飛ばされてしまったというときには、その人は、自分の会社というか、自分がいる場所が将来どういうふうになるかということには全く情報がなく、そのままいるだけという状況になるということですか。

○労政担当参事官 そうですね。今、承継法の通知というのは、主従事と主従事以外で承継の定めのある人だけが承継なので、今言ったケースだとそれ以外に当たると思います。だから、5条協議の対象にすれば、従従事の人は全て開示はされるということになるかと思います。

○荒木座長 ただ、5条協議ではそうですが、7条措置というものがありまして、これは集団的に全従業員、この分割の対象とするか否かにかかわらず雇用されている全労働者との関係で、つまり、過半数組合や従業員の代表に対して、確かこれは債務の履行の見込みも対象となっていましたよね。

○労政担当参事官 なっています。

○荒木座長 ということで、従業員が完全につんぼ桟敷に置かれるということではないですね。集団的な理解と協力の手続きにおいて、正にそういうことであったら残る部門は問題だという状況が示されたら、組合があれば、それは困るということになりますし、一般債権者としても、不採算で残される部門があるというところの債権者は、そういう分割はけしからんという話になります。この「見込みあること」というのが分割の要件とされていたのを、外してもそう問題でないのではないかと言われているのは、そういうことで、双方に、残るほうにも、先のほうも、債権者がいてチェックがあるという御説明があったかと思います。

○神林委員 なので、多分、前の議論とのつながりもあると思うのですが、7条の集団的な労使関係でどういう情報を開示して、どういう協議をするかということと、5条で個別にどういう人と、どういう協議をするかということを、多分きちんと整理したほうがよいのではないかというのが感想です。

 その債務の履行等々、そういう情報であるとか、あるいは分割するときの事業の定義等々ということは、多分、集団的な労使関係の中で明らかにすればよいという話になるでしょうし、そのほかの事項は個別に話し合ってくださいという話になると思うのです。そこをもう少し明確にしておくと、分かりやすいのではないかと思います。

○荒木座長 ありがとうございました。よろしいですか。

 それでは、6ページの論点4ですが、ここは判例、裁判例を踏まえた対応というので、アイ・ビー・エム事件最高裁判決が出ましたので、それを踏まえた論点が提示されております。ここはいかがでしょうか。

 恐らく、前回の議論を聞いておりましても、アイ・ビー・エム事件自体は会社法制定前の事件でしたが、会社法が制定され会社分割法の制度が若干変わりましたが、アイ・ビー・エム判決の論理枠組みからして、それは特に影響なく会社法制定後も妥当するのではないかという御意見があったところです。大体そういう了解でよろしいでしょうか。

○富永委員 そのとおりだと思います。アイ・ビー・エム事件は主従事労働者が5条協議を受けなかったり、非常に不十分だったら争えるという話だと思うのです。つまり、異議申出権が本当はない人についても争えるという話だと思いますが、従従事労働者についてはどうなのでしょうか。それは、むしろ異議申出権がある場合があるので、むしろ、もっと妥当するということになるのではないかと思うのですが。

○荒木座長 5条協議の対象者であれば、今おっしゃったようなことになるのでしょうね。従従事も、これは承継の有無にかかわらず5条協議の対象としておりますから、おっしゃるとおりアイ・ビー・エム事件と同じように、全くやらなかったとか著しく不十分だった場合には、やはりその効果を争えると。恐らくそうなるのでしょうね。

○富永委員 だとすると、不従事労働者で承継の定めありとされている人が、今回もし新たに5条協議の対象になるとしたら、その人もちゃんと5条協議をやらなかったら、同様の処理になるということになるのでしょうか。

○荒木座長 多分そうなるのでしょうね。どうですかね。多分そうだと思います。

○富永委員 ありがとうございました。

○荒木座長 5条協議をさせるというのは、そういう趣旨だと思います。

○橋本委員 特に従従事労働者で残る人について、承継の定めがない人についても5条協議が対象となっているわけですが、具体的にはどのような協議が行われるのでしょうか。主従事の判断に影響するので協議するという説明がこの協議の趣旨として書かれていますが、具体的には残るわけですから、移る人と同じような内容を基本的には説明して、あなたは残りますよという説明になるのでしょうか。

○荒木座長 本人としては主従事のつもりの人がいるわけです。それにもかかわらず、承継の対象としないというのが会社の方針で、そういう通知になる。この5条協議は通知の前にやりますから、あなたは従従事だから承継の対象とはしませんよという話を聞いたら、いやいや、自分としては今回分割対象となっている事業に主として従事していると思っていますよと、だから一緒に移るべきだと思っていますと。そういう協議をさせるということではないでしょうか。

○労政担当参事官 実際に指針で「も5条協議で説明すべきこととして、主従事労働者に該当するか否かの考え方を十分に説明しなさいと指導していますので、荒木座長がおっしゃるとおりかと思います。

○神林委員 ただの興味なのですが、そうすると、労働契約の承継を無効とするなどというのは分かるのですが、移った人が帰ってくると。そのまま残された人は、一緒に行かせてくれと思うわけなので、労働契約の承継を強制するみたいな感じになるのですか。

○荒木座長 会社に対してということですか。

○神林委員 そうです。

○荒木座長 ですから、それはできないです。従従事労働者の場合に、従従事なのに無理矢理移れというときにはノーと言えるのですが、そうでなければ、自分が行きたいと言っても、会社のほうで分割の対象にしなければ、それを強制することはできないです。

○神林委員 5条協議をしなかったときです。

○荒木座長 しなかったときですか。

○神林委員 しないと駄目じゃないかと言われたら。確かにしていませんと。

○富永委員 主従事の場合は、移す手続に瑕疵があったのでそれを無効とできるのですが、不作為を無効とすることはできないので、移せとは言えないのではないかと直感的に思ったのですが。

○神林委員 そうだろうなとは思うのですが。

○富永委員 ちょっと何かバランスを取れていないような気はいたしますが、理論上はそうなってしまうのかなと。

○神林委員 そうしたら、この従従事労働者に5条協議を課すというのは、底抜けというか、別に無視しまくっても、雇用者としてはコストは全く掛からないということになるのですよね。

○荒木座長 法的な効果として、今、富永先生がおっしゃったように、承継されるべき人を除いていて、その協議をしなかった場合には、その効果を持ってこようというのですが、ここのところは、従従事労働者の場合には、ちゃんと協議をしたところで、会社が移すということで契約書、計画書に書かない限りはその効果は発生しませんから、協議をやったとすれば発生する効果自体がそうなっていないから、それはそれとして、結果としておかしいことではないのではないでしょうか。

○神林委員 会社側に協議するインセンティブがないではないかという。

○荒木座長 インセンティブはいろいろあるのですが、そうやって事後的に紛争が発生することをなるべく回避させようというのが、この、あえて通知の対承ではない人を協議の対象としたという趣旨ではないかと思うのです。ですから、それで会社としての、ちゃんとこういう仕事全体はこういうことなのだから、あなたはやはり従たる従事者であって、主従事ではありませんよということの説明を聞けば、なるほどそうかと納得したり、そういうことで事前に紛争を回避しようということではないでしょうか。

○神林委員 それは会社によるのではないでしょうか。事前にいろいろ話すと、いろいろ面倒臭いことになるので、取りあえず全部無視しておいて、事後的に文句を言う人がいたら言ってきてくださいという会社もあると思いますし。もしそれが起こったときに、では事後的に、5条協議をやらなかったではないかと言ったときに、会社側に何らかのサンクションがあるのであれば、それはあらかじめ回避しようと考えますが、この場合はサンクションがないわけですよね。としたら、取りあえずデフォルトで、最初は全部やらないと。それで、何かのときにやるというふうに。何かというか、文句を言われたらやるという行動を取る会社は、あるとは断言しませんが、そういうふうに考えたらできるという格好になっているという理解は正しいでしょうか。

○荒木座長 ここの協議をさせるというのが、デフォルトで具体的な権利が発生するというのは主従労働者の場合なのです。そうではないところでやらせているわけですから、それを履行しないケースがある場合について、具体的なサンクションを要求しないと、制度設計としておかしいということには必ずしも直結しない、そういう場面の議論ではないかと思っております。

 時間が押してきましたが、それでは、その先の論点5は、先ほどの阪神バスを前提とした問題で、労働条件を変更した上での承継ということについて、労働契約承継法がどの程度強行的な規制をしているかという論点に関する部分です。いかがでしょうか。

○橋本委員 私は阪神バス事件の判旨を支持したい立場なのですが、やはり、承継法の適用対象である人に個別に転籍合意を取るという方法を、特に労働条件引下げに使うということは、やはり承継法の趣旨に合わないと思っております。ただ、実際に実務上の必要性についてもヒアリング等で勉強させていただきまして、「検討」にあるようなきめ細かい解釈というか、検討が必要だということも理解しつつ、まだ結論は出ておりませんけれども。やはり、何というか、「検討」の所で矢印の3点目ですか、ちゃんと承継法の手続を踏まえて、異議申出権の行使等々の権利を保持した上で、転籍行為を有効とするという理解だといたしましたが、それが理論的にどう構成されるのか、やや分かりにくかったのです。

 そこで質問なのですが、「検討」の1点目の3点目で、「異議申出権とその効果が、会社分割制度の特例として特別に立法されたことを踏まえてその強行性、事前に放棄できない点をどう考えるか」という所がありますが、やはり承継法の強行法規としての性格は、私は維持するべきだと思いますので、権利放棄というほうが、転籍合意を一部有効とするよりは理論的にあり得ると思っています。事前に放棄できないというところは、もう動かないのでしょうか。そういうところを確認させていただければと思います。

○荒木座長 いかがでしょうか。少し趣旨の確認ですが、事前に放棄できない、つまり強行性があるがゆえに事前の放棄はできないという趣旨かなと思っているのですが。

○橋本委員 個別合意の転籍合意を有効と認めてしまうと、何か強行法規である承継法を個別に逸脱することを認めるという解釈になると理解しています。それよりは、権利放棄というほうが正当ではないかと。権利放棄はあり得ると思っています。

○荒木座長 趣旨は分かりました。そうすると、そもそも承継法がどこまでを強行的規範として設定しているかと。橋本委員の御主張は、労働条件を維持したままでの承継を承継法は強行的に要求しているという趣旨ですね。

○橋本委員 そうです。

○荒木座長 それに対してここで取られている考え方は、労働条件の維持という部分についてまで承継法が強行的に設定しているわけではなくて、別のルートの移転もあり得るところ、それが良くないと思う人には異議申出権が強行的に保障されているから、それを使えば労働条件を維持した包括承継として移転できるということで、妥当な処理ができるのではないかという2つの考え方が議論されていると思います。その点はいかがでしょうか。

○金久保委員 その強行性なのですが、「検討」の最初の矢印の所で書いてあります「会社分割制度の特例として特別に立法された」ということだけで、強行性というのは導かれるのかという疑問があります。会社法は一般法で、承継法は特別法であるということは誰も争わないと思いますが、その点だけを言っても、その強行性というのは出てこないと思います。しかも、もしそこで強行性を言ってしまうと、それに反する合意は一切駄目なのではないかという議論が出てくると思いますが、もしそうなのであれば、もう少しその強行性を導く理由が必要なのではないかと思いました。

○橋本委員 やはり、労働契約承継法は労働立法だと思います。特に、初の労働契約法に先駆けて制定された初の民事的ルールということで、意義の高い法律だと理解していますし、そこは労働者保護のために、会社分割に限定されていますが、事業が移転する場合に、雇用と労働条件を保障するという契約法の強行的な規範であるということが当然の原則なのではないかと理解していました。

○荒木座長 承継法のどの部分が、どういう強行的規範を定めているかということだと思うのですが、承継法は、例えば4条で、主従事労働者が排除された場合には異議申し出ることができると書いていますよね。ですから、この権利を放棄させることはできませんよね。この異議を申し出たときにどうなるかというと、4条の4項で、分割から排除していてもこの承継法の効力によって承継される、労働契約が移転するということになっています。

 移転の効果については、これは一般の考え方なのですが、承継というのは包括承継ですから、その契約がそのままの状態で移転すると考えており、そのことを、このお配りいただいた指針だと19ページの()のイ「維持される労働条件」というので、「包括承継されるために、その内容である労働条件は、そのまま維持されるものである」と。ここまでは強行的に承継法が予定している効果ではないかという考え方があるということです。

 すなわち、承継から排除されたようなときに異議を申し立てたら、異議申立による承継法の効力によって包括承継として移転する。包括承継の効果としては、労働条件がそのまま移転する。そこまで承継法は強行的に保障している。

 ただこれは、異議を申し出た人に与えられる効果なので、異議申出権は奪えないけれども、異議申出権を与えられていて行使しない人については、すなわち転籍合意で移るので構いませんよと納得している人まで、転籍合意はけしからんと言って無効とする必要はないのではないかというのが、ここで示されているもう1つの考え方ではないかと思います。

 それでは、時間もありますので、また次回もお考えいただくことにして、その後の論点6です。これは、労働組合法上の使用者性の問題について裁判例を紹介してはどうか。これは有意義なことではないかと思っています。それから、不利益な取扱い禁止、これについても趣旨を徹底させてはどうかということがあります。

 9ページ以降では、事業譲渡について論点8、9があります。これは大きな問題ですが、会社分割には一定の承継ルールがあるところ、事業譲渡については個別承継ということで、今、処理されていますが、これについてどう考えるかという点です。ここはいかがでしょうか。

○橋本委員 今すぐは、いろいろ検討すべきことはたくさんあると思うのですが、最初の論点とも関係しますが、事業というのが承継法で維持されていきますと、やはり会社法との関連性というのも薄くなり、経済的に価値のあるまとまった一体が移転したときに、雇用と労働条件を保護するという法制に発展していく可能性があると思いますので、将来的には会社法の事業譲渡と会社分割の区別というのが、労働法で維持すべき必要はないのではないかと理解しています。

 そういう意味で、ヨーロッパ型の法制のほうが理論的には妥当なのではないかと思っていますが、いろいろ検討事項に書かれているように、検討すべき課題も多いですので、私の理解では、この会社分割法制を超えた形でドイツなどでは柔軟性を担保するためのスキームを事業移転法制とは別に作っていると理解していますので、少し大きな話になってしまうのですが、将来的には、本来は会社法の組織再編の手続によらない枠組みと、労働者保護の法制というものを目指すべきではないかと思います。承継法を発展させるという意味で、そういうほうが妥当ではないかと理解しています。

○高橋委員 この点は非常に難しい問題ですので建設的な意見になるか分かりませんが、この「検討」の2番目の点にある点です。労働者の方に大きな影響が及ぶのは、事業譲渡の場合には限らないとは思っております。事業譲渡が特定承継であるということについては、商法上はそのように整理しておりますので、包括承継だから労働契約承継法が適用される。しかし、事業譲渡だと特定承継だからこの承継法は適用されないという枠組みは非常に分かりやすくて、これを変えようとするのであれば、包括承継だから労働契約承継法が適用されるということ自体を、まず変えないといけないのではないか。つまり、労働者の保護の観点から、別の枠組みとして承継法というものが出てくるのではないかと思います。

 こうなってきますと、事業譲渡かどうか以上に、事業譲渡に近いような、今、橋本さんがおっしゃったような、何か労働者に対して大変インパクトのあるような事業、事業単位かどうかもよく分かりませんが、移転があったときに、労働条件をそのまま承継するという必要性が出てくるのかもしれないとは思いますが、現行、これを事業譲渡にも適用するというのを簡単に説明することは難しいのではないかと感じているところです。

○荒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがですか。最後は時間がなくなって、私の不手際で申し訳ありません。時間になりましたので、引き続き次回も検討するということですので、次回、また検討を続けたいと思っております。主要な論点については大分、意見を言っていただきましたので、本日頂いた御意見を基にして、次回は事務局のほうで、より具体的に報告書の案といったようなことにして提示していただいて、更に議論を深めてはいかがかと思っておりますが、よろしいでしょうか。

( 各委員了承)

○荒木座長 それでは、次回はそういうことで準備をしたいと思います。事務局のほうで、次回の連絡をお願いいたします。

○労政担当参事官室企画調整専門官 次回以降の研究会ですが、日時、場所につきまして調整中ですので、追って正式に御連絡いたします。よろしくお願いします。

○荒木座長 それでは、本日は以上といたします。どうもありがとうございました。

 


(了)

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