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2015年6月16日 第7回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会議事録

政策統括官付労政担当参事官室

○日時

平成27年 6月16日(火)10:00~12:00


○場所

厚生労働省 専用第23会議室(6階)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)


○出席者

荒木座長、神吉委員、金久保委員、高橋委員、富永委員、橋本委員、細川研究員

○議題

(1)諸外国の組織再編に伴う労働法制について
(2)その他

○議事

荒木座長 それでは皆様おそろいですので、ただいまから「第7回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会」を開催いたします。大変お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。議事に入る前に事務局から委員の出欠状況について報告をお願いいたします。

○労政担当参事官室室長補佐 本日は神林先生が欠席となっております。よろしくお願いいたします。以上です。

○荒木座長 それでは早速議事に入ります。本日の議題は「諸外国の組織再編に伴う労働法制について」です。今回は、フランスにおける企業再編時の労働法制について、JILPTの労使関係部門の細川研究員にオブザーバーとして御参加いただいております。どうもお忙しいところ、ありがとうございます。

○細川研究員 よろしくお願いします。

○荒木座長 それでは、各委員、細川研究員及び事務局から、諸外国の組織再編に伴う労働法制について御報告をお願いしたいと思います。順番は資料のとおりです。まず、EU及びドイツについて橋本委員。イギリスについて神吉委員。フランスについて細川研究員。アメリカについては事務局からお願いいたします。それぞれ報告が終わった後に5分程度質疑応答を行って、次の国に行き、最後に全体の質疑をしたいと思っております。それでは最初に橋本委員から御報告をよろしくお願いいたします。

○橋本委員 EUとドイツの事業移転の法規制については、荒木先生と金久保先生の御研究がありまして、また他にも多くの研究業績の蓄積がありますので、今日、私にこのテーマで報告の機会をいただいて大変恐縮に思います。

 今日の報告では、EUの事業移転に関する指令の内容を簡単に説明させていただいた後で、最近の欧州司法裁判所の判例では、労働協約で定める労働条件の承継に関する判断が注目されていることもあり、特に労働条件の承継の問題について御紹介したいと思います。

 また、その後、日本の承継法に関しては、主として従事する労働者にも承継に対する異議申立権を認めるべきではないかという議論もあります。この問題についてはEUの中でも特に異議申立後に譲渡人と労働関係が存続することになるドイツ法の検討が不可欠だと思いますので、この点について御説明したいと思います。

 最後に、現在、ドイツで経営再建時に活用されている再就職支援制度との関係と、事業移転法制との関係について御紹介したいと思います。

 ドイツでは、EU(当時はEC)の事業移転指令に先立ちまして、1972年に民法典613a条が制定され、事業移転時の労働関係の自動承継ルールが定められました。レジュメの9ページ以下に資料として関連する規定の日本語訳を挙げていますが、民法典613a条は12ページの後ろから13ページに取りあえずの訳を付けてあります。自動承継の原則については、民法典613a11文と2文に定められています。事業移転時の労働関係の承継に関しては、ワイマール時代から議論があり、承継後に譲渡人の下での勤続年数を譲受人との勤続年数に算入するといったことを命じた判例などがあったようですが、労働関係自体が自動承継されるというルールは、1972年の立法で初めて認められたものです。ただ、その立法理由は必ずしもはっきりしておらず、立法理由としては、新しいルールは「判例に従ったものである」と述べているようです。それまで自動承継を命じた判例はなかったので、この立法理由は奇妙だという評価を、ドイツの文献で読んだことがあります。民法典613a条の目的については、その後の判例によって解雇制限法の欠缺を埋めるためであると説明されています。

EU、当時はECですが、1977214日の欧州理事会指令におきまして、事業移転における労働関係の自動承継ルールが定められ、この指令は1998年と2001年に改正されています。本質的な内容は1977年の指令から変わっていません。この指令の訳は、レジュメの9ページ以下に挙げております。簡単に概要をここで説明したいと思います。労働関係の自動承継に関するルールは3条に規定されています。労働関係が自動承継されるということが認められる事業移転の定義は1条に置かれ、そして、4条は、事業移転を理由とする解雇を禁止する規定です。清算手続き中の事業移転に関する規制については、基本的に各国に委ねるという旨の5条、労働者代表制度の承継に関する6条、そして労働者代表への情報提供ないし通知義務を定めた7条となっています。

 この指令の目的については、欧州司法裁判所の判例で、「移転のみを理由に承継された労働者の地位が不利益になることを防止するため」と繰り返し述べられています。社会政策的な規制であるという点で理解は一致していると思います。

 次にレジュメの1で、簡単に、労働関係の権利義務が譲受人に自動承継される事業移転とはどういう場合に認められるのかについて見ていきたいと思います。この問題については、多くの欧州司法裁判所の判例が出ていますが、最近ではやや議論が落ち着いている印象もあります。簡単に概要だけ説明いたします。

 判例の傾向は一貫して、事業移転の概念を広げてきたといえます。まず、「事業移転」とは、指令11項におきまして、移転の法形式を問わず、「同一性を保持した経済的組織体の移転」であれば認められます。この点に関連して、ドイツでは企業の組織再編時に関する合併分割などの手続について規制する「組織変更法」という法律があります。この法律の324条において合併分割又は財産移転において、民法典613a1項の労働関係の自動承継ルールが適用されることも定められております。移転の法形式を問わないわけですが、その後、欧州司法裁判所では2者間の関係のみならず、レジュメの図に示したように、旧使用者と新使用者との間に法的関係がないような「委託先の変更」事案にも「事業移転」に含まれ得るということは繰り返し確認されています。

 事業移転の判断基準については、それを示した先例であるSpijker事件とS ü zen事件の先決裁定をレジュメに引用しておきました。物的人的資産の承継の有無や、譲渡人と譲受人の活動の同一性などから総合的に事業移転と言えるかどうか判断されます。単独で決め手となる判断要素はないとされて、ケース・バイ・ケースで予測、可能性に非常に乏しい概念となっています。S ü zen事件では、人間の労働力が決め手である労働集約部門では、労働者の質や数といった点での承継の程度が事業移転の決め手になるという基準が示されています。S ü zen事件は、清掃業の委託先変更の事案でしたが、特に物的資産の承継がなくても、事業移転が認められるという基準を示した先例であると位置付けられています。

 事業移転の判断基準について、ドイツ法との関係で注目される点としては、連邦労働裁判所は、欧州司法裁判所の判断に合致しながらも、より論理的・客観的な基準を設けて、概念の明確化を図るという試みをしてきたといえます。そのような基準として用いられていた「事業手段の自己の経済的利用」や、「組織的独立性」といった独自の判断基準は、その後G ü ney-G ö rres事件とKlarenberg事件で欧州司法裁判所によって否定されたと言えると思います。欧州司法裁判所の判断の具体的な内容は省略しますが、レジュメの1ページと2ページに挙げましたので見ていただければ幸いです。ドイツ法の体系的な思考とEU法のカズイスティックな思考方法との違いが出ているのではないかと思います。

 続きまして、労働関係の自動承継という事業移転の法律効果の内容です。事業移転の対象となった事業で雇用されていた労働者の雇用が譲受人に承継されることになります。労働条件についても、譲渡時の労働条件がそのまま譲受人に承継され、1年間は変更できないというのがEU指令及びドイツ法の原則と言えると思います。しかし、詳しく見ていくと、労働条件の承継については、かなり複雑なルールが妥当しているようです。レジュメの2番に入りたいと思います。

  ドイツ法の特徴は、集団的労働条件と個別的労働条件を区別している点です。まず(1)集団的協定による労働条件の変更の場合です。ドイツでは、労働協約とは通常産別の労働協約です。事業所協定とは、企業内で従業員の選挙によって選出される事業所委員会と使用者が締結する協定のことです。事業所協定で規制できる事項は、事業所組織法において共同決定事項とされている事項が中心となります。協約で規制すべき事項は、事業所協定で規制されてはならないということになっていて、協約と事業所協定の役割が法律で区別されている点が、ドイツの集団的労働法の大きな特徴かと思います。

 民法典613a13文は、譲受人に他の労働協約又は事業所協定が適用されている場合には、譲渡人の下で適用されていた労働協約又は事業所協定に基づく労働条件は承継されないと定めています。

 これについてはレジュメの2(i)譲受人の労働協約があれば労働条件を変更できるということだと理解できますが、この場合、判例において双方の協約拘束性が必要だと解されています。協約拘束性とは、譲受人が使用者団体に加盟し、かつ労働者も組合に加入していることを意味しますが、一般的拘束力でもいいということで、労働者にとって不利益な労働条件でもいいと解されています。この場合は、後法が先法に優先するという「変更原則」という原則が適用され、有利原則は適用されないと解されています。ただ、この場合、労働者が事業移転の前に譲受人に適用される新しい使用者が加盟する団体の組合の使用者団体の労働協約の締結の相手方である組合に入っていなければいけないので、通常は加入組合を変えることになります。

 ただ、この労働協約による労働条件の不利益変更については、(ii)欧州司法裁判所のScattolon事件というイタリアの事件ですが、この判例によりまして、今後どうなるか、維持できるのかという点が現在議論になっています。レジュメの(ii)に挙げておきましたが、この事件におきまして欧州司法裁判所は、新しい協約の適用によって労働条件が不利益になる場合は、指令3条の目的に反すると判断しています。この先決裁定に対して、ドイツでは、欧州司法裁判所は個別法上の権利と集団法上の権利を区別していないという批判もありますが、現在はこの判断を踏まえて、協約による変更の場合も変更原則ではなく、有利原則の問題が考えられるのかどうかが議論されています。現在、Scattolon事件以降、議論が動いている状態ですが、実際のところ、双方の協約拘束性という要件はかなり厳しいですので、この協約による不利益変更がどのぐらい使われているのか、実際にはあまりないのではないかと推測されます。

 これに対して、次の(iii)で挙げた事業所協定による不利益変更が行われる場合はありうるのではないかと考えられます。そのような事案として、連邦労働裁判所の2012313日の判決を挙げておきましたので、御参照いただければ幸いです。

 労働協約又は事業所協定があれば、譲渡後直ちに譲受人の労働条件を適用できるというルールですが、譲渡人の下で、協約で規制されていた労働条件は、譲受人の事業協定で変更できないということになっています。この事例として、レジュメの3ページの(iv)2012421日判決を挙げておきました。労働協約と事業所協定の規制する内容が重なってはいけないというドイツ労働法の原則から、このような判断が導かれているのではないかと推測されます。

 ここまで労働協約や事業所協定といった集団的な協定があれば、必ずしも労働条件が自動承継されない場合もあり得るらしいということを説明しましたが、既に述べたとおり、組合の組織率も減少していますし、協約拘束性が認められる場合は少ないと言えまして、実際に現在、ドイツでは、産別の労働協約を個別労働契約で援用することが一般的な慣行となっており、個別労働協約における援用によって、産別の協約が労働条件を定める基準として機能しています。この労働協約の個別契約における援用については、民法典613a11文の原則が適用になります。

 レジュメの(2)個別契約による労働条件の変更に移ります。この場合、やはり包括承継が原則ですので、事業移転後1年間は変更できないということになります。例外として、レジュメに挙げた2つの場合があると言われています。

 第1が、労働協約又は事業所協定が1年経過前に強行的効力を失う場合です。第2が、事業移転から1年が経過する前に、譲受人及び労働者が他の協約の適用について合意する場合です。民法典613a14文で規定されている内容ですが、この規定の目的は、労働条件の統一性の確保であるという説明が文献にあります。この場合、協約拘束性は必要ではなく、個別契約上の合意で足りますが、協約の適正さの保障を確保するために、協約全体の援用でなければならないと言われています。第2の場合が実務上かなり使われているのではないかと推測されます。

次に、欧州司法裁判所では、(ii)動態的援用条項の問題が争われておりますので、簡単に紹介したいと思います。動態的援用条項とは、レジュメに掲げましたが、個別契約において、当該契約にはその都度妥当する労働協約が適用されるといった条項です。協約が新しく締結されれば自動的に新協約が労働契約の内容になるという条項です。この条項について、Werhof事件において、欧州司法裁判所が、消極的団結の自由の侵害になり得ると述べて以降、ドイツでは、「その都度妥当する労働協約が適用される」といった労働契約の援用条項は、動態的援用条項、すなわち、自動的に新しい協約が適用されるとは理解せずに、事業移転の場合には静態的援用条項として、事業移転時の段階での労働条件が移転すると理解されるようになっています。

 最近注目されたAlemo-Herron事件では、欧州司法裁判所の先決裁定は、基本的にこの結論を変えるものではないのですが、動態的援用条項について、「構成国は、譲受人が当該労働協約に関する交渉に関与する可能性がない場合には、事業移転後に締結された労働協約を動態的に援用する労働契約の条項を譲受人に実施させるよう定めてはならない」と述べました。指令の目的は、労働者の利益と譲受人との「公正な利益調整」であると述べています。この点について、基本権憲章16条の企業家の自由、特に契約自由といったものを挙げておりまして、譲受人の利益を強調しています。この点については、同指令の目的は労働者の保護ではないのかといった批判もあるようです。

 次に、レジュメの3「使用者の情報提供義務と労働者の異議申立権」の問題に移りたいと思います。労働者の異議申立権が規定されたのは2002年、民法典613a6項に規定されたのは2002年ですが、既に古くから憲法上の権利として異議申立権が認められていました。これに関する連邦労働裁判所の先例と、最近の連邦裁判所の決定を挙げておきましたので御覧いただければ幸いです。

 情報提供義務、あるいは通知義務という訳語のほうがいいかもしれませんが、通知後1か月以内に書面で異議を申し立てれば、譲渡人との労働関係を維持することができます。情報提供が不適切な場合には、1か月の期間が延長されて異議申立権を行使できると判例で認められています。ただ、いつまでも援用できるかというと、ドイツの一般的な法原則として認められている失権効ないし権利失効の原則に服すことになります。これに関する判例を期間徒過後の異議申立権行使が認められた例として(1)で挙げておきました。譲受企業が新設企業であることを十分通知していなかったことが、情報提供の瑕疵であると述べて、譲渡後約3年後の異議申立てが認められたのが(1)の例です。

 今度は、(2)異議申立権の失効が認められた事例を45ページにかけて挙げておきました。使用者の通知の瑕疵は認めたのですが、異議申立権は失効したとされた事案です。最初の事案では、6年半も経過してから行われていること、一貫して、譲受人に対して権利を主張していたことから見て、異議申立権の行使を否定しています。5ページの中ほどに挙げた2009年の事例では、7か月しか経過していなかったわけですが、譲受人を既に退職(合意解約)していたという事情から、異議申立権は失効したと認めています。

 続きまして、(3)です。異議申立権というのは強力な権利ではないかと思われますが、異議申立権の濫用もあり得るということを連邦労働裁判所は言っています。事業移転を阻止するためで、集団的に行使するような場合濫用になり得るといって、それが問題となった事案を5ページの下から6ページの上に、挙げておきました。ただ、結論としては、どちらも異議申立権の濫用には当たらないとされています。譲受人の下で有利な労働条件を獲得したいという目的で異議申立権を行使することは不当ではないとされています。

 続きまして(4)におきまして、異議申立権を行使した場合、ドイツ法の下では譲渡人の下で労働契約関係は維持できるわけですが、譲渡人の下でポストがなければ解雇されるというリスクがあります。この問題について「異議申立後の経営上の理由による解雇」が争われた事例を2点、解雇を有効とした事例が見つかりましたので紹介しています。このような解雇は相当あるのではないかと思うのですが、あまり事案は探せませんでした。最初の事案では、解雇前の事業所委員会に対する意見聴取義務が主な論点になっており、経営上の理由による解雇の社会的相当性についてはあまり触れていないのですが、(ii)では、もう少し具体的な判断がされています。経営上の理由による解雇の有効性の判断は、日本の整理解雇法理に相当するような判断基準が、ドイツでは法定されていますが、やはり譲渡人の下で、もはや就労可能性はないこと。そして、社会的選択と呼ばれる解雇者の選定基準については、原告が被解雇者に選定されたことも不当ではないという判断になっています。

 以上のように、日本から見ると企業にとってかなり厳格な法理が、EU、ドイツでは適用されていると言えると思いますが、経営再建時に、現在活用されている再就職支援措置との関係と、事業移転指令の関係が問題になった事例を最後のレジュメ4で紹介したいと思います。

 ドイツでは倒産法の規定では、倒産手続中であっても民法典613a条は適用されるという前提になっています。しかし、再就職支援措置についてはいろいろ興味深い制度ではないかと考えています。この点については、昨年度、日本労働研究雑誌に紹介させていただいたこともあるのですが、その内容を簡単に繰り返させていただきます。

 再就職支援措置というのは、企業の合理化等の結果、失業のおそれがある労働者について、レジュメに書いた要件の下で使用者に認められる助成金の措置です。レジュメの6ページ、再就職支援措置に参加している間、労働者には再就職支援操短手当と呼ばれる給付が12か月を上限として給付されます。この制度を規制している社会法典第3編というのは、日本の雇用保険法に相当する法律となっています。現在、これを基に、この要件に合うような制度としてレジュメの7ページの中ほどに図1を示しましたが、企業が再就職の支援の対象となった「永続的で不可否な労働喪失」が認められる労働者たちを、再就職支援会社に転籍させます。そして、転籍した会社と労働者は労働契約を締結します。そして再就職支援を受けるというものです。事業移転法理との関係で問題となったのは、その下のレジュメの図2に示しましたが、再就職会社に転籍した後で、元の会社の企業Aが、図2の企業Bに譲渡されるという事業移転が行われたときに、一旦、再就職支援会社に転籍した労働者の一部が新しい譲受企業であるbに採用されるといったケースがあります。そして、採用されなかった労働者が、一旦、再就職支援をはさまなければ、民法典613a条に基づいて、企業AからBに雇用が承継されるところ、再就職支援会社に転籍してしまったので、自動承継ルールが適用されなくなることが、民法典613a条の潜脱ではないか、企業Aを退職する旨の合意は無効ではないかと争われた事例があります。これについて、連邦裁判所の19981210日の判決は、合意解約が無効となる場合もあるけれども、本件においては、これらの措置に参加することによって社会法上のメリットもあることから、単に労働関係の継続性を失わせるために一旦退職させたということではないという判断を行いました。この措置では、通常、労働者と元の企業aと再就職支援会社との3者間契約が締結されますが、この契約関係は有効であると判断しています。以上、EUとドイツの事業移転法理について、短時間でしたが説明させていただきました。

 労働条件の承継について、集団的な労働条件について必ずしも移転によって当然に承継されるわけではないこと。そして、社会法典第3編という厳格な雇用政策立法の枠内で、事業移転のときに雇用が必ずしも包括承継されないこともあり得ることといった点から、ドイツでは労働者の保護を前提とした上で企業経営の柔軟性を図るための緻密な制度が構築されていると言えるのではないかと思います。以上で報告を終わります。ありがとうございました。

○荒木座長 どうもありがとうございました。御質問等をお願いいたします。

1点確認ですが、レジュメの12ページに、民法典第613a条があります。第613a条の1項の3文は、13ページの訳によると、第2文は「新所有者における権利及び義務が、他の労働協約の法規範、又は他の事業所協定によって規制されている場合には適用されない」ということです。これは第2文の例外だとすると、承継自体は第1文の効果ですよね。ですので第3文が言っているのは、第2文によって事業譲渡となると1年間はフリーに変更できないというところの例外にすぎないようにも読めるのですが。集団的合意がある場合に、承継自体の例外があるのではなくて、承継はそのままされるけれども、承継後に1年間不利益変更はできないという部分の例外のことかなという気もしたのですが、その点はいかがでしょうか。

○橋本委員 先生の御質問の御趣旨はよく分かります。私もそうではないかと思い、譲渡時に直ちに新しい労働条件になるのかどうか確認する必要を感じています。今のところ明確には申し上げられません。ただ、事業譲渡の前に組合を変えればいいというような議論もあるので、予め協約締結組合に労働者が入っていれば、移転と同時に譲受人の労働協約の適用を受ける場合があるのではないかと、今は理解しています。

○荒木座長 事業譲渡前に組合を変えれば、ドイツの場合は使用者と労働者双方が協約に拘束されていることが前提なので、組合を変わった時点で事業譲渡前に適用される協約が変わってしまうわけですよね。それはそれとしてあり得るかなという気はするのですが。結局、承継自体の例外ではなくて、承継した後の1年間は変更できないというところについての例外だとすると、レジュメの2ページの所の、2(1)の労働条件は承継されないという、この承継の例外と捉えてしまって大丈夫かなというのがあり、ちょっとそこを確認いただければという気がいたしました。

○橋本委員 ありがとうございます。ここは、私も気になっている点で、きちんと確認したいと思います。

○金久保委員 すみません、今のところを念のため確認ですが、恐らく先ほどの第613a条の第3項は第2項を受けて書いてあるわけですけれども、このもともとの第2項は労働協約自体が移転するとか移転しないとかそういうことを言っているわけではなくて、個別法に転換されてということですよね。

○橋本委員 はい、そうです。

○金久保委員 ですから第613a条は、労働協約とか事業所協定が移転するとか移転しないとかいう集団法のことに関しては言っていないということが、まず大前提にあるのではないかと思ったのですが、そうですよね。

○橋本委員 そうです、おっしゃるとおりです。

 金久保先生のおっしゃったとおり、労働協約や事業所協定そのものが、譲受人に移転するということはありえないので、労働協約や事業所協定に定める労働条件が個別契約の内容となって、その労働条件が新しい譲受人の下で1年間は維持されると理解していたのですが、どうも必ずしも、一旦は承継されるにしても、少なくとも荒木先生がおっしゃったように、また個別契約による労働条件の変更のところで申し上げたように、一旦承継したものを不利益変更することは妨げられていないらしいのではないかと理解しています。その場合は、その労働条件がもともとは集団的な規範であるから、1年以内でも変更してもよいという説明がされているようなのです。労働協約や事業所協定といった集団的な規範であるというところに、例外を認める根拠が正当化の理由があるようなのです。

○荒木座長 それからレジュメの6ページで、異議申立をすることによって、労働関係は移転せずに元の企業に残って、そのときの解雇が問題となるのですが、まず、事例は余り多くないということでしょうか。

○橋本委員 うまく探せてないだけかもしれません。経営上の理由による解雇の事案で、背景に事業譲渡があるようなケースを探さないといけないと思っていますが、そこまでできませんでした。

○荒木座長 見つけられた事例だと、いずれも譲渡会社においてはポストがなくなっているので、もう解雇は有効とされている、そういうことですね。分かりました。

 それでは、EUの最新の貴重な情報も提供をいただきましたので、また全体の質疑のときに戻ってくることもできますので、よろしければ、次にいきたいと思います。イギリスについて、神吉委員、よろしくお願いします。

○神吉委員 イギリスにおける、企業再編時の労働者保護としまして、今、橋本先生にお話いただいたEUのレジュメを下敷きにイギリスの分の特徴ということでお話したいと思います。まず「イギリスにおける企業再編時の労働者保護」は、根拠法を事業譲渡(雇用保護)規則というもので定められています。この規則自体は1981年に最初に制定されたものですが、指令の改正などに応じ、現在は2001年統合指令を受けて2006年に大きな改正を受けたものが現行法となっています。この規則は略してTUPEと言うのですが、2006年のTUPEを基にお話したいと思います。

 まずは特徴として、イギリスも合併や分割等の制度はありますが、会社法上のそれらの対応には作用されず、枠組みとしては、1ページの適用要件として枠囲みした部分の規則の対象となる譲渡に該当し、2ページの枠囲みに示したような効果が生じるというシンプルな規制枠組みとなっています。ということで、どのような場合がこの規則の対象となる譲渡になるかについて、もう一度1ページに戻ってお話したいと思います。

 この適用要件ですが、簡単に言いますと、これは2種類の譲渡があります。まず1つは、2の経済的実体の同一性を維持した「事業譲渡」というものです。これが原則となっていました。これは事業譲渡規則の制定当初からある概念で、指令の譲渡と同じ概念だとお考えください。これが橋本先生から御説明いただきましたEEC指令での判断で、2つあります。Spijkers事件とS ü zen事件の2つの事件、この解釈がイギリスでは問題となり、その解釈上の問題をクリアするために2006年の改正で、1、サービス提供主体の変更(SPC)という概念が加えられて、実際には広げられたという関係にあります。ですので、条文の順番を出しているのですが、説明の順番としては1(2)事業譲渡該当性の判断要素の所を先に御説明したいと思います。

 まずはこの事業譲渡というものに当たるかどうかです。これに関しては、経済的実体としましたが、橋本先生のレジュメでは経済的組織体と訳されているeconemic entityの概念を中核としています。「経済的実体」とは、経済活動を遂行する目的を有する組織化された資源の集合というように定義しています。営利、非営利を問わず、経済活動に従事する公的・民間の事業ということも定義されています。そしてそれが「譲渡」された場合ですが、この譲渡に関しては、安定的な経済実体の承継があるか否かを労働力や施設の承継などから実質的に判断するということになっています。この際に労働集約型の事業に関しては、労働力の過半数が引き継がなければ譲渡性を認めるのが困難だと考えてきたのがイギリスの裁判例でした。この場合、労働集約型の事業に関して労働力が引き継がれなければどうなるかですが、イギリスでは紛争として頻発し、その問題をクリアするために、(1)service provision changeという、SPCとここでは略していますが、サービス提供主体が変更された場合にも、この規則の適用を認めるべきではないかということで、2006年に新しく設けられた概念となります。1、2を合わせた上位概念として、relevant transfer、これを本邦では規制対象譲渡としていますが、これを上位概念として括っているということになります。

 サービス提供主体の変更とは、どういった判断要素かというと、一言でまとめますと、営業の同一性のほうに着目するということです。事業譲渡に関しては、経済的な実体というところに着目してきたのですが、そうではなくて、営業の同一性に着目するということで、具体的には業務委託を規制対象とすることをはっきりさせた改正です。具体的には、アウトソーシング、それから再委託、それからアウトソーシングをやめてから、また事後で事業を継続するインソーシング、この3つの場面が想定されています。その判断基準としてはレジュメに挙げたとおり、まずは、変更前後の営業が基本的に同一であること、これが要件となります。ただし、これは事実と程度の問題ですので、余り些細な違いは否定要素とはなりません。2つ目は、発注者の意図がサービス提供主体の変更以後、特定の単一のイベント又は短期間の業務に関するもの以外の営業が譲受人に行われることにあることが要件となっています。3つ目の要件としては、サービス提供主体の変更が専ら、あるいは主として物品供給ではないということで、働く人の何らかの移転を必要とするということが言われています。ただし、過半数である必要はありません。

 これら「事業譲渡」あるいは「サービス提供主体の変更」のどちらかに当たり、即ち規制対象譲渡となる場合には、2ページ以下の効果が発生するということになっています。ちなみに、サービス提供主体の変更と事業譲渡は、相互に排他的な概念ではなく重なる部分もあります。

 効果は、大きく分けて3つです。まずは自動的な承継です。これには労働契約事体の承継だけでなく、労働条件の承継、協約の承継、そして承認組合の承継が含まれます。2つ目の類型としては、情報提供・協議の義務がかかってくるということで、譲渡人が承認組合又は労働者代表に対して情報提供をするということ、及び協議をすることが要求されます。3つ目の効果としては、解雇からの保護です。労働者の解雇の理由が事業譲渡それ自体であった場合、それが「労働力に変更をもたらす経済的、技術的又は組織的な理由」に基づく解雇に該当しない限り、自動的に不公正解雇として扱われるという帰結になります。これらを順番に説明します。

1つ目は労働契約・労働条件の自動承継です。まず、大前提として、労働者が「新たな使用者と雇用関係を継続しない自由」は保障されなければならないと考えられています。そのため、労働者が異議を申し述べた場合に雇用契約は終了することになります。これはあくまでも自主退職のため、解雇ではなく、剰員整理手当の対象となる解雇ともなりません。この異議については、単に譲渡に反対するといった意思の表明では、これには当たらないというような裁判例はあって、その異議の判定は慎重になされます。しかし、その効果に関しては、割とあっさりした自主退職という扱いになってしまうということです。次に、譲渡された又は、これから譲渡される雇用契約の意図的な変更は、その主たる又は唯一の理由が、当該譲渡自体である場合は無効となります。2006年に大きな改正が設けられ、以下の2つの場合には無効とならないことになりました。1つ目は、変更の唯一または主たる理由が労働力の変更を伴うような経済的、技術的又は組織的な理由、これをETO事由と言いますが、これに該当していて、その変更を使用者と労働者が合意している場合、あるいは契約上、使用者に変更が許されている場合は、変更も認められることになってきます。この場合の労働力の変更を伴うということの意味合いについては、勤務地が変わること。これは明文上の例示ですが、その他裁判例上は労働者数あるいは職務がこれから減るであろうというような場合が解釈として認められてきました。原則として、労働協約から読み込まれた契約条件の変更は、1年以内の不利益変更は許されないことがはっきりしています。逆に言いますと、それ以外の個別契約などによって設定された労働条件については、そのような時間的な条件がなく、譲渡からどれくらいの時間が経過すれば譲渡とは無関係な契約変更と言えるかどうかは、全てケースバイケースで判断していくということです。

 また個別契約による変更の場合は、特に不利益変更かそうでないかは問題としません。ただし、規制対象譲渡によって、譲渡対象労働者に実質的な不利益となるような重大な変更があった場合、これは雇用契約の終了の申入れと扱いますので、労働者は、みなし解雇の訴えを起こすことができることになります。以上が自動承継に関する原則です。

 次に情報提供・協議です。まずは譲渡企業から譲受企業には、労働者に対して負っている義務と責任を通知する義務があります。義務や責任は自働承継されますので、譲受企業に承継対象をはっきりさせるということです。その義務違反に関しては、1500ポンド以上の補償金を支払うという金銭解決になります。それから譲渡人、譲受人から労働者に対する情報提供ですが、法的譲渡の前に、適切な労働者代表と協議する十分な時間を取った上で、規制対象譲渡によって影響を受ける全ての労働者の代表に対して、譲渡の事実や日時、理由、法的・経済的・社会的帰結などを情報提供しなければならないことになっています。その上で、影響を受ける労働者の各使用者は、譲渡企業と譲受企業の両方ですが、適切な労働者代表と対策について協議しなければなりません。この場合の適切な労働者代表というのは、承認組合が存在する場合はその承認組合、そうでない場合は通常、原則として選挙された労働者代表となります。ただし、これらの義務違反の救済は、金銭解決が原則となりますので、譲渡の成否には影響を及ぼしません。

 最後に、解雇からの保護です。「規制対象譲渡の前後を問わず、譲渡人又は譲受人の労働者が解雇された場合、当該解雇の唯一又は主たる理由が当該譲渡自体であった場合」は当該労働者は不公正に解雇されたものとして扱われます。これは自動的不公正解雇になります。ただし、その理由が規制対象譲渡の前後を問わず、前述のETO事由である場合には適応されないので、自動的に不公正解雇と見なされなくなるという帰結になります。ということで、不公正解雇と見なされる場合か、そうではない場合に分かれます。

 まず、不公正解雇と見なされる場合の帰結ですが、解雇が無効となるかについては、争いがありました。当時の最高裁である貴族院と下級審でも意見が分かれたところですが、貴族院の最終的な判断としては、解雇は無効とならないと述べています。解雇を無効とするような国内法がイギリスには存在しませんので、もともとのイギリスの国内法である不公正解雇の手続に乗せるべきということです。

 不公正解雇となる場合の帰結は、復職・再雇用命令を出す、又は補償金裁定で救済をするということになっています。条文上の原則は、復職あるいは再雇用命令を出すことになっているのですが、現実には復職・再雇用命令を希望する労働者は1%未満で、そのほとんどは補償金で救済されています。補償金に関しては、法律上の上限はわりと高いのですが、実際の平均は約5,000ポンドぐらいになっています。不公正解雇と見なされなかった場合は、剰員整理解雇に該当するかどうかで、また帰結が異なってきます。剰員整理解雇に該当する場合は、法的剰員整理手当を請求できますが、これは被用者、エンプロイー(employee)であって、かつ2年以上継続雇用をしている労働者のみが対象ですので、請求できる労働者が限られてきます。もし、剰員整理解雇に該当しないとなると、通常解雇としての公正性が焦点になります。自動的に不公正解雇とはみなされないので、あくまでもその解雇が通常解雇であるとして、普通の不公正解雇としてどう判断されるのかが問題となります。これらの保護に関しては、倒産時の清算型か債権型かで一部適用除外になったり緩和されたりすることがありますが、基本的な枠組みとしては、以上の説明としたいと思います。

○荒木座長 ありがとうございました。御質問等お願いいたします。

○金久保委員 規制対象譲渡の中で、サービス提供主体の変更と事業譲渡があると。その2つについては、判断基準も、ここに書いてあるように違っているということですよね。

○神吉委員 はい。

○金久保委員 橋本先生のところで御紹介されていたようなEUの指令に当たるかどうかという裁判例ですと、特に形態によっては分けてないではないですか。

○神吉委員 それはどちらかに分けなければいけないということではなくて、恐らく概念としてはコアとして事業譲渡というものがあるのですが、イギリスの場合はアウトソーシングが非常に問題となっていまして、それが指令上の事業譲渡に当たるかどうかの判断がかなり分かれていたのです。特に労働力が引き継がれない場合のアウトソーシングが指令の対象となる事業譲渡に含まれるかどうかが非常に争われてきたのですが、イギリスでは割りとそれを認めるような裁判例が多かったのですね。ただ、ECJの判断としては、労働集約型の事業に関しては労働力の過半数の譲渡がない場合は余り事業譲渡と言わないので、その辺の判断をクリアにするためにも事業譲渡の周辺にサービス提供主体の変更というものを位置付けて、仮に指令の事業譲渡ではなくても、このTUPEの適用範囲に関してはちょっと広げようと、そういう改正だと考えられると思います。

○金久保委員 ありがとうございます。

○荒木座長 2ページの労働条件の変更の所は非常に興味深かったのですが、2006年改正で、このETO事由がある場合、それから契約上、変更が許されている場合には、労働条件を変更してもよろしいということですね。ETO事由もそうですけれど、(b)の所ですが、契約で使用者に変更権を認めている場合に、労働条件を不利に変更してよろしいということになると、EU指令の労働条件をそのまま承継するという規範が強行的な規範だとすると、契約でそれを合意すれば、引き下げてよろしいというのは強行規範に違反しているようにも思うのですが、それは何か議論があるのでしょうか。

○神吉委員 実際にはこれが非常に大きいと思うのですが、労働条件を変更してはいけないという所は余り強行的に解してないのではないかと思います。きっと、この指令には基本的に契約変更に関する明文規定がないので、国内法で判断されるというように解釈されていて、広く認めているのではないかと思うのですが。

○金久保委員 多分、推測ですけれども、今の所で、移転の際に労働条件を変更してはいけないと、EUの指令では、そこは強行的に考えられているのですが、イギリスもそうだと思いますけれども、ドイツもそうですが、新しく使用者になった人が、元の使用者より有利に扱われるわけではないというのはよく言われることです。だから、旧使用者の立場に成り代わるわけですから、旧使用者が持っていた権利はそのまま新しい使用者も行使できるということになるので、恐らくこの2ページの(b)はそういう文脈ではないのかなと推測しました。

○神吉委員 契約上、変更が許されるという内容の契約であれば、それが引き継がれれば変更できるという解釈なのかもしれません。

○荒木座長 ほかにはよろしいでしょうか。何かあれば、後で戻ってくることにしまして、次はフランスについて、細川研究員、どうぞよろしくお願いします。

○細川研究員 労働政策研究・研修機構(JILPT)で研究員をしております細川と申します。本日は報告の機会をいただきまして、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。既に橋本先生、神吉先生からも御紹介があったのと同様に、フランスにおける企業組織再編と労働契約の変動についても、当然ながらEU法の影響を受けています。それを前提にして、重なる部分は、適宜省略しながらお話をさせていただきたいと思います。

 まず、1ページの「はじめに」からいきます。フランスは労働法に限らず、細かく法律で規定することが多いのですが、企業組織変動一般に関しては基本的に、労働法典のL.1224-11本で統一的に規制するという方法を採っております。フランスにおける事業譲渡時の労働契約の取扱いについては、自動承継、オートマチックという言葉をフランスでは使いますが、自動的に承継することが、原則になっているという点が強調されるべきところだと思います。

 この基本となる労働法典L.1224-1条について、私が翻訳したものを記しておきました。ここで「使用者の法的地位において変動が生じた後、とりわけ、それが相続、売買、これは事業譲渡のことと御理解いただければと思いますが、合併、営業財産の変動、会社の設立によるとき」ということで、条文で適用対象が具体的に列挙されており、この列挙されているものが法定の労働契約の自動承継とされております。このほか、判例によって、下請化あるいは外注化についても、L.1224-1条の対象となるとされております。最近では、新しく組織を再編して新しく企業グループを形成するという類型においても、このL.1224-1条が適用されるという判断がされているようです。

 それでは、2の具体的な内容に入っていきます。(1)の沿革については、特に強調することはありませんが、当初はフランス民法典の一般原則ということで、契約の変更・移転については、当事者の同意をもってのみ実現するとされていました。これに対し、1928年の立法ですから、かなり早い時期に労働契約の自動承継が法律によって制定されました。判例においては、当初は制限的な解釈が見られたものの、1934年のいわゆるGoupy判決以降かなり幅広く労働契約の自動承継が認められるようになっています。先ほど神吉先生からイギリスについてのお話がありましたが、事業譲渡のみならず、外注化のようなケースについても幅広く認められるということが、フランスにおいてはずっと認められてきたという状況です。

 次の2ページに行ってください。そういった事情で、L.1224-1条の適用範囲というのは条文に列挙されているものに加えて、判例により形成されてきた側面もございます。どのような類型に適用があるかについては、その大枠は先ほど申し上げたとおりですが、より具体的にどのようなケースが適用対象となるかについては、判例によって形成されます。そして、先ほど橋本先生からもお話がありましたとおり、判例により形成される基準というのは、やや抽象的なものですから、ケース・バイ・ケースという部分があって、なかなか難しい部分がございます。フランスにおいては資料に記載したような経緯を経て、労働契約が承継される要件として、資料に示しました4つの要素が考慮されることとされています。先ほど来、橋本先生、神吉先生からも御説明がありましたが、橋本先生の表現を借りれば、経済的組織体、私は「経済的一体」という訳語を用いておりますが、これが同一性を維持しながら移転し、かつ、それが新使用者によって継続・再開されている場合について、労働契約の承継が認められるといった解釈が採られているところです。

 そこに挙げた4つの要素について、若干補足をしておきます。1つには、独立しているということが問題となるわけです。非常に分かりやすい類型としては、例えば1企業の中の1つの部門として一定の独立性があるというケースが想定されます。問題は、その1つの部門なのか、部門の中のまた一部なのかという境界が非常に曖昧で、これについて判例を読んでも、かなりケース・バイ・ケースという状況になっています。例えば、従業員が一体的であるとか、その部門の中で特定の設備を使っているといった要素を用いて評価をするようですが、所属している従業員が1人しかいないというケースについても、独立した一体性のあるものだと判断した事例もあるぐらいで、ケース・バイ・ケースというのが実情のようです。

 このL.1224-1条の範囲が、なかなか曖昧だというお話をしましたけれども、いずれにせよ、この範囲に入ることになりますと、先ほど来、繰り返し申し上げたとおり、組織変動時の労働契約の取扱いは自動承継になります。したがって、労働契約の承継は当事者の意思に関わりなく行われることになり、使用者の承継拒否はもちろんですが、労働者が「行きたくない」という状況であっても排除することはできない。とにかくオートマチックに労働契約が移転するというのが基本原則です。

 なお、旧使用者から労働契約が移転する場合には、旧使用者との労働契約がそのまま維持された形で承継されることになっており、この契約の移転に際して新使用者が労働契約の変更をすることはできません。これを実施しようとした場合には、承継拒否としての解雇と見なされ、労働者としては解雇に関する様々な法的保障を得られるほか、不当解雇と判断されればこれについての補償が得られるといった結論になると思われます。この際、勤続年数等もそのまま継続されますし、資料には書いておりませんが、逆に労働者側が旧使用者に対して負っていた様々な義務についても、そのまま承継されます。例えば、競業避止義務なども継続されると考えられています。

 組織変動に際しての解雇から労働者をどう保護するかというのは、よく問題となるところです。まず一般論として、組織変動を理由とする解雇は、禁止されております。この禁止というのは、フランスにおいて重要な意味を持つところです。御承知の先生方も多いかと思いますが、フランスの場合、解雇というのは不当な解雇と、禁止される違法な解雇の2つに分かれます。不当な解雇については、原則として「不当解雇補償金」などと翻訳される、補償金の支払いによって救済することになっている一方、禁止される解雇、違法な解雇については解雇が無効となり、労働者側が労働契約の継続を選択できます。

 そして、ここで言う組織変動を理由とする解雇については、禁止される解雇ということで無効という扱いになります。したがって新使用者に対し、労働契約の継続を求めることが可能となります。もちろん組織変動以前に新使用者に買ってもらうため、ある種の整理解雇のようなことを行うことが一切禁止されるわけではありません。労働省などのWebサイト等での説明でも、事業譲渡時において存在するあらゆる労働契約は承継される。ただし、その時点で解雇されていた労働者は除くという書き方がされているとおり、事前の解雇が一切できないわけではありません。とは言え、当然ながら、その際にはフランスの解雇法制で規定されている、いわゆる解雇の「現実的かつ重大な事由」が必要とされております。その際に単に事業の譲受人が人数を減らしてほしいといったことを要求したとか、そういった事情だけでは正当性は認められません。客観的に見て、譲渡前にたとえば経済的に苦しい状況にあり、人員整理の必要があるといった事情が必要です。かつ、経済的解雇に係る所定の手続を実施していることが条件となります。

 なお、ここではL.1224-1条の適用を受ける場合についてのみ記しておりますが、これ以外の場合、つまりL.1224-1条の対象には入らない、例えば事業の独立したL.1224-1条の対象よりも、もう少し狭いものを譲渡等するというケースについても、若干補足をしておきます。これらについて私は、よく「集団協定」と訳しますが、いわゆる労働協約によって、それを定める方法が1つです。もう1つの方法としては、L.1224-1条の適用外の労働者について、個別の同意で承継することも認められております。ただし、この場合は必ず本人の同意が必要で、労働者自身が望まずに新使用者に移るのは、あくまでもL.1224-1条の対象となる自動承継の場合のみと、御理解いただければと思います。

3ページに行ってください。労働者による承継の拒否があり得るのかということが、本日の報告について御依頼いただいた際にもポイントとして挙げられておりましたので、この点にも若干触れます。先ほど来申し上げておりますとおり、L.1224-1条というのは、組織変動時の労働契約の取扱いが、この条文の対象に入る限り自動承継だと言っておりますので、使用者のみならず、労働者による承継拒否も不可能ということになります。したがって新使用者の下で就労を望まない場合の労働者の取り得る方法としては、労働契約が承継された後に辞職する、あるいは就労拒否をして、使用者から解雇されるのを待つという方法を採る。若しくはL.1224-1条で言う経済的一体性がないということを主張して、自分はL.1224-1条の対象外だということを裁判所に対して申し立て、旧使用者の下に契約があることを主張するしか方法がないというのが、フランスにおける制度の大原則

です。

 以上がL.1224-1条に関する基本的な内容ですが、関連して、組織変動に関する手続についても補足しておきます。先ほど来、L.1224-1条の適用になった場合、労働契約は法律上当然に、すなわち自動的に承継されることになっている関係上、個別の労働者に対して移動するという旨の通知をする、告知をするという義務は法律上は存在していないようです。組織変動と労働契約の承継に関する議論が以前なされたときに、関係する労働者の代表に対して通知しなければいけないという記述があったようで、気になって私も調べたのですが、フランス労働省のWebサイトでも明確に、「通知は必要とされない」と書いています。したがって、個別の労働者に対する通知は原則として必要ないという理解でよろしいのではないかと思います。

 ただしフランスの場合、いわゆる従業員代表機関として企業委員会という制度があり、これに対して経営上の様々な事項についての情報提供が義務付けられております。その一環として、資料ではL.2323-19条という条文を挙げました。同条により、企業の組織変動についても企業委員会は情報提供を受け、諮問を受けるとされておりますので、実際には企業委員会への情報提供を通じて、更に企業委員会から労働組合に情報がもたらされ、労働組合から労働者に情報が行くという形で、実務上は労働者に対して情報が提供されているのではないかと思われます。

 最後に、組織変動時における労働協約の取扱いについてです。労働協約との関係のお話が先ほど橋本先生や神吉先生からもありましたので、この前提についても補足しておきます。前提として、フランスの場合は産業別労働協約が、中心となっております。また、拡張適用という制度がある関係で、同一の産業であればすべての労働者および使用者に同一の産業別労働協約が適用されるのが原則です。ですから、企業組織の変動時において労働契約が移転するときに産別協約との関係が問題になることは少ないものと御理解いただいて構わないかと思います。

 問題となるのは、恐らく「企業別協約の取扱」かと思います。4ページで、労働法典のL.2261-14条を挙げております。合併、会社分割、事業譲渡の場合は、従業員に対して従前に適用されていた労働協約は、改めて団体交渉を行った上で新しい協約によって置き換えられるか、若しくは、フランスには協約の期間の満了に伴う予告期間という制度がありますので、その満了時から1年間ということで、実際には1年半ということになりますが、その期間については以前の協約が効力を維持することが労働法典によって定められております。

 なお、これについては条文に挙がっている合併、会社分割、事業譲渡の場合に限らず経済的一体性がある場合、すなわちL.1224-1条の適用対象になる場合には常に及ぶと、判例では考えられています。期間が満了した際に通常は、この期間中に団体交渉をして新たな協約を結ぶということを法は要請していますが、期間の満了までに新たな協約が締結されなかった場合には、従前の協約の効力は失われることになります。なお、フランスの場合はいわゆる化体説の立場は判例によって否定されており、外部規律的な処理をしております。ただし旧協約の下で、各労働者が労働契約の内容として、現に獲得した利益については維持されると解釈しており、一定の範囲で旧協約が定めた労働条件が維持されることもあろうかと思います。私からは以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。それでは質問等がありましたら、どうぞお願いします。

○富永委員 1つ教えてください。レジュメの2ページの一番下に、「組織変動を理由とする解雇は禁止」というのがあります。イギリス法などを見ると、労働力の変更等を伴うものについては例外となる場合があるとありました。組織変動の前と後とで組織規模等が全く変わらなかったら別ですが、組織変動を機として労働力変更というか組織規模が小さくなった場合に、それを理由とする解雇は組織変動を理由とする解雇と思われるのか、それとも組織変動に伴うほかの事情で労働力の変更を理由とする解雇と思われるのか、どちらになるのでしょうか。どちらというか、それも駄目なのでしょうか。

○細川研究員 こういう説明の仕方がお答えになるかどうかは分かりませんが、フランスだと大体段階に分けて説明するので、段階ごとに分けて説明いたします。まず、譲渡が行われる前については先ほど申し上げたとおり、譲渡それ自体を理由とする解雇は違法とされる可能性が高いと考えますが、それ以外の理由により、フランスの解雇法制に照らして適法性のある解雇であれば可能です。

 ただし、これは私の全くの推測ですが、このような解雇が行われる場合というのは通常は経済的解雇、いわゆる整理解雇という趣旨で行われると思います。そして、フランスの場合、経済的解雇の手続を実施するのに非常に時間が掛かると言われております。いろいろと複雑な手続を踏まなければなりませんし、労働組合が抵抗する場合が多いということがございまして、非常に時間が掛かるケースが多いと言われています。企業間で事業譲渡契約が成立した後にそうした手続を履行するのは現実的ではないと思いますから、恐らく通常は、事業譲渡の交渉以前に経済的解雇を実施してしまうか、あるいは譲渡をした後に譲受人が経済的解雇を実施するのが現実的だろうと推測します。

 また、譲渡と同時に実施する場合、通常は譲渡を理由とする解雇と評価されると考えられるので、これが正当と認められるのはかなり難しいだろうと思われます。では、譲渡した後はどうか。一般的な説明の仕方によれば、通常の解雇のルールにのっとって解雇することは可能であるとされています。したがって結論から申し上げますと、富永先生から御指摘いただいたことについては、譲渡の前後で事業の形が変わって、結果として事業規模が縮小して人員削減をすることが必要になった場合は、譲渡後の使用者が経済的解雇の手続にのっとって、いわゆる整理解雇を実施し、それにきちんとした理由があるものと認められれば、セーフとなるのではないかと推測しています。

○荒木座長 レジュメの2ページで、変動を理由とする解雇は禁止、すなわち効果として解雇は無効となるというのがありました。その3行上の所では、「契約の移転に際しての労働契約の変更はできない。(解雇したものと見なされる)」とあります。こちらの解雇の効果はどういうことになるのでしょうか。

○細川研究員 労働契約の変更が実質的に解雇と見なされるということについては、禁止される解雇には該当しないようです。したがいまして、不当解雇に対する補償金の支払いということで処理されると考えられます。

○荒木座長 分かりました。それからお聞きしたところ、フランスだと承継拒否の権利は認められていないようですが、認めるべきだというような議論はあるのでしょうか。もし御存じであれば。

○細川研究員 その点につきましては議論がないわけではないようです。実際問題として、労働者側が一体性を否定して、旧使用者との労働契約関係があることを主張する訴訟が起こされていることからすれば、労働者側が旧使用者の下に戻りたいと思うケースがあるという1つの証左かと思います。ただ現状でそれを立法化しようというレベルの議論は、明確には存在しないようです。1つの説明としてありうるのは、巷間よく言われているとおり、ヨーロッパ、そしてフランスもいわゆるジョブ型雇用なので、どこの企業に勤めているかよりも、基本的にはどの仕事をしているかで賃金や労働条件が決まり、したがって前の企業に残ることに対して、それほど強い要請がないというはありうるかもしれません。これは推測です。

○荒木座長 ほかにはよろしいでしょうか。

○細川研究員 すみません。先ほど富永先生から御質問いただいたことについて、説明が間違っていたので若干修正させていただきます。承継をする前に旧使用者が譲渡を理由として解雇を行うのは、禁止で無効ということになっているのですが、譲渡に伴って解雇を行うのは禁止される解雇ではなく、不当解雇として処理されるようです。ですから新使用者に対して、労働契約の継続を求めることができるわけではないようです。ただし、この場合は旧使用者と新使用者の双方に対して、不当解雇の補償金を請求できるという扱いになっているようです。ただし、新使用者が解雇予告期間の満了前に労働契約の承継を受け入れた場合、旧使用者に対して損害賠償の請求ができなくなるようです。

 ですから譲渡前に譲渡を理由に解雇するのは無効、譲渡のときに解雇するのは不当解雇になり、損害賠償を新使用者と旧使用者の双方に対して請求しうることになります。譲渡後については譲り受けた譲渡後の使用者に、専ら解雇についての責任が生じるという整理になると思います。

○荒木座長 よろしいですね。ありがとうございました。最後にアメリカについてです。これは事務局から御説明をお願いいたします。

○労働法規研究官 アメリカについて簡単に説明いたします。まず、1点目の法的規制です。アメリカの会社法制については、株主の利益を重視し、労働者保護の考え方が非常に希薄であると言われております。EU指令のような組織変動に係る労働者に対する法的規制は、ほとんど存在していないということです。

 したがいまして、組織変動の際の雇用の承継については、人種、性別、年齢という各種の差別禁止法、あるいは労働協約、労働契約による合意等による例外的な制約はありますが、合併の場合も含めて、アメリカ法の基本的特徴と言われている解雇の自由、すなわち一般原則である随意雇用原則が当てはまり、承継する義務は生じないというものです。なお、随意雇用原則とは、「期間の定めのある契約ではない労働者は、いかなる理由によっても、あるいは何らの理由なくして解雇され得る」というものです。

 なお、随意雇用原則については、裁判所においてこれまでパブリックポリシー、恐らく、これは日本でいう公序良俗に該当するものではないかと思いますが、これに反する不当解雇を認めるということなどで、いろいろ修正がなされてきているわけですが、組織変動を理由とする解雇については、パブリックポリシーに反する不当解雇や黙示の合意であるという解釈はしないと考えられております。そして、労働条件の変更や雇用を承継する場合の労動条件についても、この随意雇用原則により使用者は一方的に変更することができるということになっております。

 また、集団的労使関係の承継についてです。労働協約の承継についても、原則として新使用者は同意しない限り旧使用者の締結した労働協約に拘束されることはないとされております。この場合、新使用者は最初に労働組合と交渉することなしに、旧使用者の労働者の労働条件を設定することができることになります。ただし、集団的労使関係については、判例法理によっていろいろな制約が試みられております。

(2)は、いわゆる承継者法理と呼ばれているものです。事業会社の同一性の実質的継続性等の一定の要件が認められる場合、承継者法理といっても必ずしも一様なものではないと言われておりますが、一定の要件が認められている場合については、新使用者は多数労働組合の排他的交渉代表としての承認、あるいは団体交渉義務の承継等の制約を受けることがあります。

 また、その他という形で分類しておりますが、分身法理と言われているものです。これは、我が国の法人格否認の法理のようなものだと考えられます。新使用者が旧使用者の分身と判断される場合は、旧使用者が締結した協約の実体的条件に拘束されることがあります。この場合、新使用者は旧使用者の労働者の労働条件の変更について制約を受けることとなります。

 ただ、現在、組合の組織率が低下しており、2014年において民間部門の組織率が6.6%とかなり低い数値になっております。また、排他的交渉代表として認証を受けた組合であっても、必ずしも労働協約を締結していない所もあると言われており、多数労働組合による排他的交渉代表による労働条件設定ではなく、大多数の労働者は個別交渉による労働条件設定の仕組みに服していると言われております。こうした点についても、今、言ったような制約はかなり限定的なものになっていると考えられております。

EUなどに比べますと、集団的労使関係について一定の制約を受けることはあったとしても、その適用範囲は限定されており、企業に大きな柔軟性があると考えられております。簡単ですが、私の説明は以上です。

○荒木座長 それでは、御質問等をお願いいたします。金久保委員、何か補足等があればお願いしたいのですが、いかがですか。

○金久保委員 個別法のところは規制がないと、基本的には組織変動に際する特別な規定はないということでよろしいと思うのですが、集団的労使関係は、前提としてアメリカは排他的代表制度を取っているという大きな違いがあります。その点をここでは割愛しているので、その点を押さえないとなかなか理解し難い部分もあると思っております。

 基本的にはNLRBの代表選挙などで、労働者の過半数を取った組合のみが使用者と団体交渉ができるという制度になっていて、そうしますと事業譲渡などがあったときに新しい使用者が、今までの組合を知らないとか認めないとか言っていいのかという問題があります。そのときに一定の要件の下で承継者と判断されれば、新しい使用者は従前、交渉代表となった組合について、それを承認して交渉しないといけないということが言われているわけです。ただ、承継者と認められる場合でも、原則として労働協約はそのまま承継しないと言われていると思います。

 先ほど説明があった分身法理については、御指摘があったように日本の法人格否認の法理と同じような考えかと思います。旧使用者の分身だと認められれば実質的に同じ使用者と見て、もともとの旧使用者が負っていた義務については、そのまま新しい使用者も負担するということが、かなり古いときからNLRBの判断としても言われていて、それを裁判所も認めているということかと思います。

○荒木座長 ありがとうございます。どうぞ、橋本委員。

○橋本委員 今、補足で御説明いただいた点は、1ページの3(2)(3)の部分だと思いますが、この承認の義務を課す一定の要件という同一性の実質的継続性ですが、これはかなり難しい、例外的な場合にしか認められないのでしょうか。

○金久保委員 これは、そんなに単純ではなくて、一口に承継者といっても、今いわれているのは3つのタイプが含まれていて、組合の承認や交渉義務を承継する承継者、不当労働行為責任を承継する承継者、仲裁付託義務を承継する承継者の3つが言われております。その3つによって、要件も微妙に違ってきております。先生の御質問は、かなり例外的かということかと思いますが、そうでもないです。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。補足説明された確認ですが、3(2)で承継者法理によって新使用者が従来の排他的交渉代表を承認しなければいけないという場合でも、労働協約自体が承継されるということはなく、ないものとして新規に排他的代表は、またゼロから交渉をする権利もあるが交渉しないといけないということでよろしいですか。

○金久保委員 その従前の組合を承認して交渉する義務があるので、普通に団体交渉はしないといけないわけですよね。

○荒木座長 でも、旧労働協約を承継するということにはならないと。それはそういうことですよね。

○金久保委員 それはそうです。

○荒木座長 ありがとうございます。

○神吉委員 今の点に関して、団体交渉義務の承継を争えるのは組合ですか、それとも適用を受けていた労働者もできるのでしょうか。

○金久保委員 普通は組合だと思うのですが、もし、承継者と認められれば従前の組合を承認しなければいけないわけで、排他的交渉代表の組合があれば、その組合しか使用者と交渉できないのです。ということからして、個別に使用者に言っていくということは多分、想定していないのではないかと推測します。

○荒木座長 それでは、各国について御報告いただきましたので、4つの報告をまとめてここはどうかとか、何かコメント等があれば御提起いただきたいと思います。

○労政担当参事官 今日は、先生方、本当にありがとうございました。素朴な疑問なので、イギリスのところで質問をすればよかったのかもしれませんが、イギリスについて書かれた資料22ページの労働者の異議申立ての関係です。労働者が異議を唱えた場合に、雇用契約は終了すると。解雇ではなく自主退職のあるなしなのですが、日本の承継法の感覚だと、異議申立てをすると元の企業の雇用が維持されると思ってしまっていて、実際、ドイツなどもそのようにお聴きしたのですが、あえてここで元の雇用関係の維持ではなく、雇用が終了という整理をしている、何か考え方、もしかしたら、もともと雇用保障に関する法的な考え方が違うのかもしれませんが、お恥ずかしい質問ですが教えていただければと思います。

○神吉委員 それは、どうして元の所に戻らないかということでしょうか。

○労政担当参事官 はい。

○神吉委員 基本的には、客観的に仕事が移れば契約関係も移るのが原則となります。とすれば、労働者の意思を尊重する場面は、承継された先での雇用を望まないという、そこに限定されてきます。仕事が移ってしまっている以上、自動承継の効果は否定できても、元の所に対する雇用契約は切れている説明になります。

 そこをつなぐためには、もう1つ論理が必要だと思うのですが、戻ることについてはイギリスでは何ら法規制を設けていないので、原則どおり承継はされて、元の所との関係は切れて、その先でどうするかというところに関してしか自由が認められていないという制度設計なのだと思います。

○労政担当参事官 ありがとうございました。

○橋本委員 今の点で疑問があります。もし、そうなら辞めるのはいつでも自由だと思うので、なぜ、わざわざ規定しているのかというのも逆に分からないのです。日本でも、一旦、承継された後に嫌なら辞めることはできますよねと思ったので。

○神吉委員 そうですね。やめることは自由なのですが、多分、この主眼は、その退職を解雇とは取り扱わないというところかと思います。辞めるのは自由ですし、もとの雇用関係が終了するのは原則どおりなのですが、その関係解消が解雇となるかです。解雇と扱われれば不公正解雇に関する一応の保護が掛ってきたり、もしみなし解雇に該当すれば労働者は立証しなくても退職が解雇として有利に扱われるのですが、そういうことにもならないという注意規定だと思います。

○富永委員 ちょっと話が変わっても構いませんか。先ほどの所の蒸し返しなのですが、同じイギリスの2ページの一番下のところです。契約上、使用者に変更権が留保されている場合、労働条件の変更権も労働条件の1つだから、それが移ったら譲渡後の譲受人も変更できるという話だと思います。ただ、原則の44項を見ると、「その変更の唯一又は主たる理由が、当該譲渡自体である場合、無効である」なので、変更前の使用者が譲渡のときに変更権を持つという労働条件を合意することは考えにくいというのが1つです。もし、日本的な感覚だと、例え(b)のように、契約上、変更権が留保されているとしても、変更の唯一又は主たる理由が、当該譲渡自体である場合は射程外だと解釈してしまいそうな気がするのですが。

 もしこのような変更権の留保が例外として認められるとしたら、変更権だけでなく、例えば解雇権とかも同じように例外と認められることになってしまわないか、自動退職と見なすみたいな形で規制を抜けたりできることになるので、何かちょっと危険だという気がいたします。多分、これは細かすぎる話なので、感想までです。

○神吉委員 ありがとうございます。実際にここが争いとなったところを、補足して調べてみたいと思います。確かに、これはすごく大きな例外なので、事前に許されているということだと思うのです。事前に変更を契約内容として含んでいる場合にはできるということだと思うので、あえて、そこで使用者はきっと、これは譲渡だからと言わないですよね。

○富永委員 うまく言えないのですが、「変更を理由として」という解釈が要るのだと思います。変更の前後で会社分割みたいというか、変更の前後で全然、事業規模等が変わらないのだったら、にもかかわらず変えたら、それは「譲渡を理由として」と言えると思うのですが、多くの国の事業譲渡概念を見ると、「全く同じ」ということまでは言っていなくて、「実質的に同一」であればいい、とかという形で言っているので、譲渡前後で組織が多少変わったりして実質的に同一と認めていますよね。

○神吉委員 はい。

○富永委員 多少、組織が変わったりしていることを理由とする解雇は、変更を理由とする解雇といえるのか、それとも、先ほどのフランスの話と同じなのですが、規制が掛かっていないのかというのが気になっています。フランスの話を見ると、事業前にやれば事業譲渡のためにやっているのだから、それは事業譲渡を理由とするので駄目だと。ただ、後にやってしまえば、それはちゃんとやれば別に差支えないのだという形なので、若干アンバランスな気がいたしました。

○神吉委員 それは、むしろ(a)のほうかと思うのです。先ほどフランスでお話がありましたが、「段階」のお話を聴いて、イギリスの制度はこう説明できるかなと思ったのです。多分、譲渡時点での変更というのは、基本的には譲渡をきっかけとすると推定されるので、フランスの場合は、それが禁止されている。

 ただ、イギリスの場合は、譲渡時点のときの変更であっても労働力の変更というか、必要とされる職務数が減ってしまうとか、そういうことを例外として置いているというところに特徴があると思いました。譲渡自体ではないのだけれども、譲渡のときに職務が減るとか労働力が必要でなくなるということを理由として挙げられるとしている(a)の存在自体が、特徴的なのかなと。

○富永委員 ありがとうございます。

○荒木座長 今の2ページの(a)ETO事由があって、かつ、変更に使用者と労働者が合意している場合、この労働者が合意している場合が大きいのでしょうか。

○神吉委員 そうですね。実際、合意とした後、争い得るときは合意していないということなので、合意の部分が争点となろうかと思います。

○荒木座長 これは、EU法が動いていて、労働条件の変更については、結局、今どういう状況にあるのですかですが、確かキャスリン・バーナードの「EU Employment Law」とかを読んで、どこまでEU指令の自動承継ルールが強行的規範なのかというと、以前は強行的な規範と解したと思うのですが、EU裁判所も大分柔軟な解釈を示すような判決が出てきているのかなという印象を持ったことがありますが、橋本委員はどのような印象を持っておられますか。

○橋本委員 最近になって、労働条件の変更については、協約の労働条件が問題となっていた事案が欧州司法裁判所の判断が出てきていて、柔軟という印象は個人的にはあまり持ってないのですが、指令自体は、3条は、制定当時のままで特に新しい変更はなく、基本的に77年当時だと思います。指令3条の31段の規定は、日本語の訳の適切さはともかくとして、今、原文も確認しましたが、レジュメの10ページの「集団的協定において合意された労働条件を、集団的協定の解約、又は期間満了、又は他の集団的協定が発効又は適用されるまでは遵守する」という規定です。今まで331段の関係と332段の関係を余りきちんと考えていなかったのですが、この解釈としては、それぞれの国で、2段のほうに労働条件の遵守される期間を限定できるのが1年以下であってはいけないという規定なのですが、この関係がいろいろな国で解釈されて、それぞれの規制になっているのかと、今、思いました。

 ドイツだと、その労働条件が、集団的規範のなか個別契約上の労働条件なのかで区分しているようで、個別契約上の労働条件は、1年は遵守というところを維持しているようです。ただ大体、重要な労働条件は協約で決まっていて、それが個別契約で援用された場合でも1年以内の変更を認めるようですので、ドイツの印象では、この指令の解釈としては、集団的な規範か個別規範かというところで集団規範のほうを柔軟化しているのかなと、今のところ思っています。

○荒木座長 ありがとうございました。ほかに何か御意見等ありますか。事務局から何かありますか。

○労政担当参事官 今の橋本先生のお話で、多少なるほどと思ったのですが、ドイツでは個別契約での労働条件は、現行は1年間は変更できず、集団的決定のほうで柔軟化していると。逆に今回御説明いただいたイギリスの資料223ページにわたるところでは、先ほどから先生方が御議論されているように2006年で変更できる場合の例外は設けられたとある一方で、資料23ページの1行目に「労働協約から読み込まれた契約条件の変更は、1年以内の不利益変更は許されない」と。これを見ると、集団的に決定された労働条件は、前のページの理由があってもなくても変更できないという御趣旨でしょうか。こちらは集団的なものはガチガチに1年以内で固めているように読めてしまったので、2ページの終わりと3ページの1行目の関係を、すみませんが、ちょっと確認させていただきたいです。

○神吉委員 集団的な労働条件に関しては、正に指令の3条の3項をそのまま使っているものなので、集団的なものか個別的な変更かでは分かれていると思います。集団的に制定された条件については、1年以内に不利益変更を許されないということは固まっていて、それ以外の個別変更が最初のページの所だとお考えいただければと思います。

○労政担当参事官 ありがとうございました。ところで、フランスの場合は、EU指令でいう1年以内ということを取り入れたりという議論はないのでしょうか。

○細川研究員 ありがとうございます。私は、その点でさっきから気になっていたのです。橋本先生にお伺いしたいのですが、3条の3項は、労働協約に関する規定という理解でよろしいのですか。

○橋本委員 33項の1文か1段と読むのかがよく分からないのですが、1段は明らかに集団的な労働条件で、2段は、ただ労働条件だけ書いてあるのです。ただ、1段を受けて2段があるので、2段の「労働条件」は、1段の「集団的協定で合意された労働条件」と解釈すべきであるような気がするのですが、確認しなければと思います。

○細川研究員 2段のほうの労働条件が必ずしも労働協約が定める労働条件かどうかは解釈が分かれる余地があるということですね。分かりました、ありがとうございます。

 今、御質問いただいた件なのですが、フランスの労働法典では、労働協約についての規定はあるのですが、労働契約の変更について特別な、少なくとも条文上の規制はないと思われます。

 これは、推測になりますが、フランスの場合、企業別協約も含めれば労働条件が全く協約に根拠なく、それを離れて労働契約で決まっているという部分は、それほど多くないものと思います。いわゆる上級管理職層については例外かと思いますが、そうした事情から、協約の部分が変更できないというルールにしておけば、労働契約の不利益な変更は、日本の感覚と比べると起こりにくいということなのかもしれません。

○労政担当参事官 分かりました。すみませんでした。

○荒木座長 よろしいでしょうか。大変、貴重な御報告をいただきまして、どうもありがとうございました。更に検討を進めたいと思います。本日は以上ということになりますが、今後の予定について事務局からお願いします。

○労政担当参事官室室長補佐 次回以降の研究会ですが、日時、場所について調整中です。追って正式に連絡いたします。よろしくお願いいたします。

○荒木座長 それでは、本日の第7回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会を終了いたします。どうもありがとうございました。


(了)

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