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2015年4月27日 第5回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会 議事録

政策統括官付労政担当参事官室

○日時

平成27年4月27日(月)13:00~15:00


○場所

厚生労働省 労働基準局第1・2会議室(16階)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)






○出席者

荒木座長、金久保委員、神吉委員、神林委員、高橋委員、富永委員

○議題

(1)組織の変動に伴う労働関係について
(2)その他

○議事

 

○荒木座長 皆様お揃いということですので、始めたいと思います。今日は暑い中、どうもありがとうございます。第5回の組織の変動に伴う労働関係に関する研究会です。まず、事務局から委員の出欠状況について御報告をお願いします。

○田口労政担当参事官室室長補佐 本日は橋本委員が欠席となっておりますので、よろしくお願いします。また、本日の資料ですが、配布資料は資料15、参考資料13となっております。不足があるようでしたら、事務局のほうまでお知らせください。

○荒木座長 早速議事に入ります。本日の議題は、組織の変動に関する労働関係についてですが、その前に、先日取りまとまりました、農協・医療法人等について、事務局から簡単に報告をお願いします。

○田口労政担当参事官室室長補佐 それでは資料1を御覧ください。資料1が、前回取りまとめた、農業協同組合及び医療法人の分割に伴う労働関係の対応についての取りまとめです。前回から変更点について、御報告いたします。2ページの3.を御覧ください。最初の○ですが、農協分割について、前回座長一任となっておりましたが、今回追加いたしました。「一方」以下です。「会社分割と異なり、農業協同組合の分割については単独の組合における新設分割に限られ、分割できる事業の対象から、信用事業・共済事業は除外される見込みである。また、設立や合併と同様に、都道府県知事の認可を効力発生要件とする方向で検討がなされており、事業を行うために必要な経営的基礎を欠くことその他事業の目的を達成することが著しく困難であると認められるとき等は認可されない見込みであることから、濫用的な分割は起こりにくいと考えられる。」を追記しております。

 それから4.対応の方向性です。上から3行目ですが、委員の御指摘により「労働契約承継法」の後ですが、「平成12年商法等改正法附則第5条」を追記しております。以上です。

 条文については参考資料1に付けております。参考資料の16ページは、国民年金法についてですが、こちらについて御報告させていただきたいと思います。国民年金基金については、農協や医療法人と異なり、研究会の中では議論していなかった内容ですが、今般、国民年金基金において分割法制を導入することになりました。国民年金基金は自営業者を対象として、国民年金の上乗せとして老後の所得保障を支える制度です。厚生労働大臣の認可により設立される公的な法人であり、合計72基金あります。

 国民年金基金において働く職員は300人程度と少ないのですが、国民年金基金の分割についても農協・医療法人と同様、分割に当たっては厚生労働大臣の認可が必要であり、労働者が従事している職務から切り離される可能性があること、労使協議の重要性は変わらないことから、労働契約承継法等と同様の労働者保護の仕組みが必要だとして、国民年金法の中で承継法を準用することとされました。国民年金基金については農協・医療法人と異なり、分割法制を導入するという閣議決定もなかったこと、全体の規模も小さい中、分割に当たり農協や医療法人と同様に、大臣の認可を受けることなどから、御報告のみとし、本研究会での議論や取りまとめの対象は農協・医療法人のみとしておりますので、よろしくお願いいたします。

○荒木座長 ただいまの御報告について、何か御意見、御質問等ございましょうか。よろしいでしょうか。よろしいですね。では、資料の1については以上ということにいたします。

 次に、組織の変動に伴う労働関係について、事務局から御説明をお願いします。

○田口労政担当参事官室室長補佐 それでは資料2「今後の進め方について」を御覧ください。「会社分割に伴う労働関係の在り方については、労働契約承継法の制定時からの状況変化を念頭に置きつつ検討する。一方、事業譲渡及び合併に伴う労働関係の在り方については、平成148月の『企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会報告取りまとめ』からの状況変化を念頭に置きつつ検討する。」とさせていただければと考えております。

 具体的には、本日、裁判例の整理などをし、次回以降、個別企業からのヒアリング、諸外国の法制との比較、労使団体からのヒアリングなどを進めていき、平成27年秋頃の取りまとめを目指したいと考えております。先ほどの上にあります、平成148月の研究会報告取りまとめですが、本日の参考資料221ページに付けております。

 続きまして資料3を御覧ください。1ページ目、組織の変動に係る法制度の主な動きです。これは第1回でお示しした資料と同じものです。その中で、平成185月に施行された会社法の制定、平成275月に施行される予定の会社法改正に、今回は着目していきたいと考えております。具体的な内容については次ページからになります。

2ページを御覧ください。最初は、「事業に関して有する権利義務」についてです。平成17年改正前商法では、会社分割の対象は営業の全部又は一部であり、承継される事業に全く従事していない労働者については分割の対象外とされていました。この場合、移転させる場合は労働者の個別の同意が必要とされています。会社法の制定により、会社分割の対象は事業に関して有する権利義務の全部又は一部とされ、不従事労働者についても分割の対象となっています。これに伴い、労働契約承継法では不従事労働者のうち、分割契約等で承継対象と定められた労働者についても、通知や異議申出の対象としているところです。

 個別の労働者の協議、通知の手続については、一番下の表を御覧ください。ここで青の点線で囲んだ所が、事業に全く従事していない労働者、不従事労働者についての現在の状況です。分割契約に承継の定めがある場合については5条協議の適用がないけれども、通知、異議申出の手続については適用されます。承継の定めがない場合については、いずれの手続も適用がないという状況で、全く従事していない労働者と、従従事労働者については手続の定めに違いがあるというのが、現在の状況です。

3ページ、「債務の履行の見込みに関する事項」を御覧ください。平成17年改正前商法では、「各会社ノ負担スベキ債務ノ履行ノ見込アルコト及其ノ理由」が、債権者及び株主に対する事前開示事項とされており「債務の履行の見込みのないこと」は、会社分割の無効事由であると解釈されていました。一方、会社法及び同施行規則においては、事前開示事項は「債務の履行の見込みに関する事項」と改められ、「債務の履行の見込みがないこと」は、会社分割の無効事由とは解釈されなくなってきております。この場合について、以下の2ケースについて検討が必要ではないかと考えております。

 ケース1は不採算事業を切り離すというパターンです。こちらの場合ですが承継対象となる不採算事業に主従事として従事していた労働者、こちらについては異議申出権は認められないことになっておりますけれども、こちらについてどう考えるかという問題がございます。

 ケース2は採算事業を切り離して設立するというパターンです。こちらの場合ですが、存続会社に残留する非主従事労働者について、通知、異議申出などは認められていませんけれども、それについてどう考えるかという問題がございます。

 続きまして4ページ、詐害的会社分割における残存債権者の保護規定です。平成26年会社法改正では、詐害的会社分割の場合、残存債権者は承継会社に対しても承継した財産の価額を限度として、債務の履行を請求することができることとなっております。こちらについてですが、第1回のときにも議論がありましたように、未払賃金があれば、労働者も債権者保護の対象となるというような話がございました。

5ページ、労働契約法の制定についてです。平成19年には労働契約法が制定され、就業規則や解雇に関する規定等が盛り込まれております。具体的には下のほうに条文がありますので、御覧ください。

6ページ、倒産法制における労働組合等からの意見聴取です。民事再生法、会社更生法、破産法等の倒産法制においては、再生、更生、破算手続に当たって労働組合等の関与に係る仕組みが整備されています。裁判所は手続開始後の事業譲渡に当たって労働組合等から意見を聴取した場合に限り、許可することができるとされています。民事再生法、会社更生法、破産法の条文については下に参考として掲載しております。

7ページ、事業譲渡に伴う労働関係上の対応についてを御覧ください。「営業譲渡等に伴う労働関係上の問題への対応について」(平成15410日大臣官房地方課長・政策統括官通知)において、営業譲渡により労働契約を承継させる場合には労働者から個別の同意が必要であること、個別の同意を得る際は労働者本人に営業譲渡に関する全体の状況や譲受会社の状況について、情報提供を行うことが望ましいことを示しています。参考に、その通知の抜粋がございますが、全体については、後ろの参考資料2を適宜御参照ください。資料2の説明については以上です。裁判例については、続きまして藤井のほうから説明させていただきます。

○藤井労働法規研究官 引き続きまして、私のほうから裁判例資料の説明、一気に全部ということで非常に恐縮ではございますが、裁判例について御説明させていただきたいと思います。資料4と資料5です。今般、会社分割に関します裁判例については6事案ほど、それから、営業譲渡、事業譲渡については、前回平成14年に研究会でそれまで議論したことも踏まえ、平成14年以降の主な事案について、合計で14事案ほど資料を作りました。なるべく短かく説明したいと思っておりますので、いくつかポイント等がずれることもあろうかと思いますが、その辺はまた補っていただければと思います。

 最初に、会社分割についての裁判例です。一番最初が、最高裁の日本アイ・ビー・エム事件です。これは新設分割に関しまして承継されます主従事者が、その承継手続、すなわち、7条措置、5条協議というものに瑕疵があるとして、承継されないという主張の下、地位確認等を求めた事案です。ちなみに1審、2審とも、請求棄却、控訴棄却という形でなされています。

 判決の要旨です。まず1点目の○ですが、5条協議についてです。5条協議が全く行われなかったとき、あるいは説明や協議の内容が著しく不十分で、5条協議に求めた趣旨に反することが明らかな場合、これは承継法3条に定める労働契約承継の効力を争うことができると言うべきであるという判断です。2つ目の○については、7条措置についての言及です。7条措置に反したこと自体は、労働契約承継の効力を左右する事由になるものではない。7条措置において、十分な情報提供等がなされなかったがために、5条協議がその実質を欠くことになったといった特段の事情がある場合に、5条協議義務違反の有無を判断する一事情として7条措置のいかんが問題になるにとどまるものと言うべきであるということです。

3つ目の○は、7条措置、5条協議について定めている指針についてです。この指針については、基本的に合理性を有するものであり、個別の事案において行われた7条措置や5条協議が法に求める趣旨を満たすか否かを判断するに当たって、それが指針に沿って行われたものであるか否かも十分に考慮されるべきであるといったことです。本件の結論については7条措置、5条協議いずれも不十分であったとは言えないということから、原告側の上告を棄却、退けた事案です。

2つ目、グリーンエキスプレス事件です。これは地裁の事案です。ここに書いてあるのは会社分割により、貨物自動車運送事業部門というのが新設会社に承継されたということに関しまして、承継されなかった労働組合員が、新設会社に地位確認を求めた事案です。

 結論的には承継されるということですが、なかなかこの文章だけでは分かりにくい面もあろうかと思います。分割計画書の中で、その営業譲渡をする、分割するという貨物自動車運送事業部門というのは営業の社員が承継されるとなっているわけです。会社側の主張が、今般訴えた組合員というのは出向部門に属するという整理の下、営業部門には属さないという主張の中でなされたわけです。裁判所の判断では、一部と申しましょうか、配車係の雇用契約も出向でなされたわけで、こういった出向の社員もしっかり承継されているという状況の下、出向部門と言われております組合員も、同じ運送業務に携わる者だという判断の下に承継されるという判断がなされた事案です。

3点目、EMIミュージック・ジャパン事件です。これも地裁です。事案の概要ですが、会社分割に伴います転籍に際しまして、分割会社X社が、まもなくY社からの賃金の引下げの提案があることが確実であるということを説明しなかったと。これが、労働契約に基づく説明義務違反であるとして、損害賠償をX社に対して求めた事案です。なお、この分割会社と分割先との間では、事前に分割会社のほうが、賃金引き下げ等を従業員に説明するといった合意がなされていた事案のものです。

 これについては判決のところ、4ページになります。1点目の○で、事業譲渡目的の会社分割については労働条件の変更のための交渉は設立会社の労働組合と設立会社、すなわち分割先の労働組合と分割先との間で行われるべきものであり、原則として附則5条の協議の対象にならないことはもとより、分割後に勤務することとなる会社の概要の一内容としても説明をする必要はないものと解されると。

2点目の○ですが、仮に労働条件の変更の交渉を行うことを具体的に予定し、あるいは周知させるよう希望があり、また、そういったことが会社間で合意しているような場合は、そういった意向が客観的で、明白であり、むしろ要請されているというような状況の下では、そういったような例外的な場合にまで説明の必要がないと言うことはできないと解されているというものです。

 そして説明をなすべき負担、2つ目の○の2パラ目になります。附則5条に基づいて課された協議義務を十分なものとするために一定の説明をしておくことが要請されるとの文脈で分割会社が行うこととなるものであるから、労働契約に基づく法的義務として、会社分割は説明をする義務を負ったものと解されるという判断の下、3つ目のパラで、本件については説明合意があったので、説明する義務はあったという判断がなされているわけです。その説明する義務についても、一番最後のところですが、結論的には十分果たしたとは言えないということから、説明義務違反があったという判断がなされた事案です。

4つ目の阪神バス事件です。事件の概要ですが、X社のバス運転手であって、排便・排尿が困難となる障害のある従業員Aは、X社から勤務シフト上の配慮を受けていたわけですが、会社分割により、主従事者として転籍した後、従前受けていた勤務配慮を受けられなくなったというものです。これが公序良俗に反するという主張で、提訴された事案です。

 この事案では、主従事者に対して同意書を提出されることによって、X社から退職させ、転籍先との間で新たな労働契約を締結させて転籍させるといった手続が問題となったわけです。これについては、2つ目のパラグラフの一番最後のところで、以上によれば、本件同意書を提出させることによってX社との間で本件労働契約1、これは従前の労働契約ですが、合意解約させて、X社から退職させ、Y社との間で、転籍先で新たに結んだ労働契約ですが、これを締結させてY社に転籍させるという手続は、承継法によって保障された労働契約、従前の労働契約がそのままY社に承継されるというAの利益を一方的に奪うものであり、同法の趣旨を潜脱するものと言わざるを得ない。したがって、本件、従前の契約の合意解約、それから新たな労働契約というのはいずれも公序良俗に反し無効と解するのが相当である。そして承継法21項所定の通知がなされず、その結果、適法な異議申立て、申出を行う機会が失われた場合には、当該労働者は適法な異議申出が行われた場合と同様の効果を主張することができるということで、所定の通知がなされていない今回の手続においては、このように判断がなされているわけです。

5つ目、モリタ・モリタエコノス事件です。これは会社分割により、組合分会の分会員の人が全員、分割先Y社に移転したものです。分割前にX社がその組合員に、事務所等を貸していなかったこと、また団体交渉にも誠実に対応していなかったといったことが不当労働行為であるとして申立て、そして提訴された事案です。

 判決の要旨ですが、事務所等の貸与についてはY社がその組合員をそのまま承継していることから、不当労働行為責任をY社のほうが承継するといったことです。また、 X'社、もともと事実上X社と同一の会社になろうかと思います。労働組合法上の使用者というのは、一般的には労働契約上の使用者に必ずしも限定されるものではなくて、広く解されているという前提ではございます。X'社も、近接する過去の時点における労働契約関係の存在も、また労働組合法上の使用者性を基礎づける要素となるとして、使用者たる地位を失うことはないとして、X'社のほうにも引き続いて責任があるということを判示しているものです。ちなみに、救済命令のほうでは、今後将来的に繰り返さないといったような命令もございますので、事務所貸与そのものはY社ですが、そういった将来的な債務等についてもX'社も責任を負うという内容のものです。

6点目、阪急交通社の事案です。これはいろいろな意味で議論があるわけですが、会社分割に関連いたしましては、会社分割の前に、派遣労働者に係る労働時間管理等について団交の申入れを拒否したといったことが不当労働行為になるとして、その責任はY社が承継したとして申し立てられた事案です。

 これについてはX社の派遣に係ります労働時間管理についての団交事項というのは、使用者性が認められている前提で、Y社のほうが派遣就業関係も承継したという状況の下で、それに伴い労組法上の使用者としての地位も、その派遣就業関係に付随するものとして承継されたと解するとなされた事案です。会社分割については以上です。

 引き続き、事業譲渡について御説明させていただきたいと思います。1点目が青山会事件です。実は、第2回の研究会でも御紹介したわけですが、事案の概要については、病院閉鎖に伴いまして、新たに病院を引き継いで開設した際に労働組合員が採用されなかった。これが不当労働行為であるとして、その取消しを求めて提訴されたものです。当事者間では、事業譲渡にあたって労働者を承継しない旨の合意がなされていたというものです。これについては、一番最後の○ですが、XYとの契約において、Xの職員の労働契約上の地位を承継せず、雇用するかどうかはYの専権事項とする旨が合意されているが、採用の実態に鑑みれば、この合意は労働組合及び組合員を嫌悪した結果、これを排除することを主たる目的としたものと推認され、かかる目的を持ってなされた合意は、労働組合法上の規定の適用を免れるための潜脱の手法としてされたものとしてみるのが相当であると。したがって、本件不採用は組合活動を嫌悪して解雇したに等しく、不利益取扱いとして不当労働行為に当たると判断されたものです。

2点目、勝英自動車学校についてです。事案の概要ですが、営業譲渡契約において、当事者間で労働者は不承継、承継しないという合意があったわけです。これとはまた別の合意という形で、1点目としてX社と従業員との労働契約を、Y社との関係で移行させる。2点目として賃金等の労働条件は、従前いたX社を相当程度下回る水準に改定されることに異議のある従業員については個別に排除する。3点目としてこの目的を達成する手段として、Xの従業員全員に退職届出を提出させ、退職届出を提出した者をY社が再雇用するという形式を取り、退職届出を提出しない従業員に対してはX社において、会社解散を理由とする解雇にするといったような合意がなされたものです。

 これについて判決の要旨です。まず、この解雇については一番上の○のところで、個別に排除する目的に行われたものであり、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することはできないとして、解雇権の濫用として無効。もう1つの合意のほうの、異議のある職員を個別に排除する、そして退職届出を提出させ、その上で再雇用し、提出しない者は解雇するといった部分については、公序良俗違反として無効であると。その結果、原則となる移行させるというところが残るという判断の下、地位の承継が認められるといった判断がなされた事案です。

 言い忘れましたが、この事業譲渡事例の掲載については、整理として最初のほうで承継が認められたもの、その次に承継が認められなかったものという順番で整理しておりますので、よろしくお願いします。

3つ目がAラーメン事件です。ラーメン店経営のX社が解散し、それ以降そこの社長をしておりました人が、個人で同じ名前で経営してきた。その後、双方で働いていた従業員が退職に当たり、元いたX社のときに発生した時間外手当、残業手当の支払いをYに求めた事案です。1審では、X社とYとの間で、明示的な譲渡契約はないが、従業員の雇用関係を含めたAラーメンの営業を、X社から譲り受けたものとして、その請求を認容したわけです。そしてYはこれを不服として控訴したものです。

2審のほうの判決です。1つ目の○にありますが、XYとの間に実質的同一性が認められ、事実上包括的に承継したものと判断されております。そして2つ目の○ですが、XYとの間で、上記事実上の営業の包括的承継に伴い、X社と従業員との間の労働契約も承継することが黙示に合意されていたと認められ、Aも特段異議を認めていないことから、営業、雇用労働契約の承継に暗黙の承諾を与えていたといった判断の下、承継を認めたものです。

4つ目、日本言語研究所ほか事件です。旧会社が倒産して、以前に地位確認、未払賃金の支払いの確定判決があったわけですが、倒産に伴って、それが実現が不可能になったことに関連して、旧会社というのがこういった債務を免ずる目的で事実上倒産させ、経営実態がほとんど同じY1Y2に営業等の大半を譲渡するなどして、法人格を濫用したものとして、法人格否認の法理に基づいて地位確認等を求めた事案です。

 これについてはY1Y2X社の一営業部門たる性格を有しており、意のままに管理支配できる地位にあったといったこと。もう一方では、 X1社・、X2社が実質的に同一の事業を承継しているのであって、多額の債務を免れる目的で自らを倒産させたと認定され、これは債務の逸脱を目的とした会社制度の濫用ということで、法人格否認の法理により、事業を引き継いだY社のほうは、別の法人格であることを主張できないということで、承継が認められた事案です。

5つ目、これは中労委の命令です。X社のほうが解散しその組合員を解雇した。その事業を引き継いだY社が、組合員以外の者を雇い入れる一方で、組合員のみを雇い入れなかったといったことが不当労働行為であるとして、申立てが行われた事案です。これについては、XY両者が実質的には1つの経営体として運営されてきた。そして、この1つの経営体としての両者が、組合嫌悪の念に基づいて、組合及び組合員の排除を行ったといった認定の下、不当労働行為が認められた事案です。

 続きまして、承継が否定された事案です。1点目が東京日新学園事件です。これは高裁です。旧学校法人が経営破綻をして解散した。そして新学校法人がこれを引き継いで、新たに認可を受けたわけです。その際に、教職員を全員退職させ、新法人が必要な教職員を採用するといったことが、双方の間で合意されていたものです。1審のほうでは、労働力と一体として行われたと認められる事業全部の譲渡において、引き続き雇用を希望する労働者を排除しようとする場合、解雇権濫用法理に準じ、客観的に合理的な理由がない場合には解雇を無効であるとした上で、本件不採用は実質的に整理解雇であり、客観的合理性を欠き無効であり、組合弱体化を図る目的でなされた不当労働行為であると判断されたわけです。

 これが2審のほうではひっくり返ったものです。1つ目の○ですが、実質的同一性について、解雇された従業員、Aらの主張が、新旧法人により解雇、新規採用の別の法律行為となされたわけですが、実質的同一性であるから、これを別固の法律で考えるべきではないという主張に対する判断です。ここのところは、実質的な同一性があるものとは評価できないといった判断がなされているわけです。

2つ目については、法人格否認の法理です。旧法人の解散と新法人の設立が、労働組合の壊滅その他一定の労働者を排除するためにされるなど、法人格が濫用されていると認められる場合には、法人格否認の法理の適用により新旧法人の同一性を認め、旧法人のした解雇を無効とし、新法人に雇用契約関係の承継を認めることがあると考えられる。ただし、今回はそういった濫用に当たるべき事由はないといったものです。

 また、下の3つ目、4つ目ですが、今般、AYの間では労働関係、雇用関係は承継しない旨の合意はあったことに関連して、営業譲渡契約において雇用契約関係を引き継がないとする合意をすることは自由であるとしても、その合意が労働組合を壊滅させる目的であったり、一定の労働者につき、その組合活動を嫌悪して、これを排除する目的でなされたものと認められる場合には、公序良俗違反に当たり、無効であるとした上で、本件については無効事由は認められないと判断されたものです。

 続きまして、静岡フジカラー事件です。これは、経営不振の子会社が解散されまして、別の他の子会社に事業が譲渡された事案です。解雇された旧会社の従業員が、不当労働行為、解雇権濫用により解雇は無効という形で地位確認を求めたものです。これにつきましては、判決の要旨の所にあるように、そもそもX社の経営が危機的状況にあった中での解散であったことから縷々あるわけでして、組合員を差別するものではない、あるいは、親会社のほうも日常業務について指導することなく、それぞれが独自営業活動をやっていたわけで、営業・経営主体が同一であったとも言えないという形で、Aらの主張を全て退けて、危機的状況にある解散であり、やむを得ないものであるという判断がなされ、否定された事案です。

3つ目、パナホーム事件です。これにつきましては、営業譲渡に伴い、従業員としての地位も承継された場合におきまして、退職に当たり、旧会社の勤続年数も通算されるとして退職金を請求した事案です。これについては転籍に関する承諾書の内容が1つの判断になっているわけですが、1審のほうでは、営業譲渡が包括承継で、明示的に退職した事実がない限り労働契約も承継される上で、退職届も提出していない、あるいは、却って勤続年数を通算する旨の記載がある承諾書に同意しているといったことから、退職した事実がないとして、勤続期間は通算されると認められたものです。

2審ではこれが引っくり返りました。1点目の○の所です。一般的に営業譲渡については、雇用契約、営業譲渡に伴なって当然に承継されるものではなく、譲渡人、譲受人が営業譲渡契約の譲渡しに合意し、かかる労働者が同意して初めて承継されるもので、この労働者の同意は黙示の承諾でも足りるということで一般論があるわけですが、本件においては、転籍に当たりましては、雇用契約を合意解除し、新たにY社で締結するといったことがなされており、また、従業員のAもこれに対する承諾書を提出している状況の下で、包括承継が否定された事案です。

4点目、板山運送事件です。これは、X社の代表者Bが新会社Y社を設立し、その際、3つの部門のうちの2つの部門と、従業員の多くを転籍させ、その後、X社を解散し残っていた労働組合員を解雇したものです。これにつきまして、Aのほうで、法人格否認の法理によりY社のほうに労働契約関係が成立しているとして地位確認を求めたものです。判決では、法人格否認の法理にある最初の支配の要件の所で、まずもって、X社、Y社、それぞれ別個の法人としての実態を有していた点、それから、目的の面で、組合との関係で不可解な点があるといったことが認定され、それが考慮されているわけです。が、全体的に考慮してもなお不当労働行為であると認めることはできないことから、法人格否認の法理が否定された事案です。

 引き続き5点目、更生会社フットワーク物流事件です。これは会社更生手続における事業譲渡の事案ですが、更生会社が再建の手法として行った営業譲渡に際して、全従業員を一斉に解雇した上で、再雇用を希望し、再雇用に伴なう退職金に関する合意書を提出した者を再雇用する枠組みを取ったものです。これについて地位確認を求めたものです。一番上の○ですが、そもそも経済的に瀕死の状態にあるX社におきまして、雇用を可及的に確保し、そして、更生担保権や退職金債権をはじめとする関係者の複雑困難な調整のための合理的手段として行われたものである。したがいまして、権利の濫用、公序良俗に反する事情もないことから、解雇が有効であるから承継されることはないというのが結論です。その中で、2つ目の○ですが、営業の譲受当事者は採用の自由を有しており、どの従業員と労働関係を持つかについて選択できる立場にある以上、Aらの労働契約を承継しない旨の合意が無効であると解することもできないという判断がされています。

 それから、認められなかった事案の最後ですが、南海大阪ゴルフクラブ事件です。これは、ゴルフ事業の事業譲渡に関しまして、全員を解雇した。これに関連しまして、当事者が実質的に同一体であったといったようなことを理由に、解雇権の濫用であるとして無効であるということで、地位の確認を求めた事案です。この事案では、譲渡当事者間では労働者を承継しない旨が合意されていたわけですが、判決の要旨の所、1つ目の○にもあるように、雇用関係は承継しない旨が明示的に記載されている。2つ目の○の所にあるように、形骸化、濫用のいずれの側面から見ても法的に一体のものと捉えることはできない。3つ目として、雇用を承継しないといった合意部分が、組合ないし組合を嫌悪する不当労働行為に基づいて行われたとして、無効であるという主張については理由がないということです。この合意部分が組合の意思に基づいて無効であると仮定した場合も、少なくとも承継しないという合意部分が存在しなくなるだけであって、当然にX社とその従業員の関係がY社に承継される旨擬制されることはないということで、青山会事件との違いについても述べられているわけです。

 続きまして、あと3つほどです。エーシーニールセン・コーポレーション事件です。これは、承継、それから、労働条件の変更に関する事案ですが、営業譲渡に際して、その後、営業譲渡をして、d日、具体的には3か月後に、譲渡先のY社に従業員として雇用された。その際はY社の新人事制度により、給与も新しい給与制度で施行された。結果的に、Aらの給与が減ったことから、同一の労働条件をY社に求めた事案です。これにつきましては、1審では、営業譲渡による地位の承継ではない。新たな契約として新人事制度に従うといったような判断がされたわけですが、控訴審では、判決の最初の○にありますように、「労働契約上の地位は、営業譲渡当事者間において特段の定めをしない限り譲受会社に承継され、その場合の労働条件については、譲受会社の就業規則の定めその他の労働条件が転籍した被用者に当然に適用されるものではない。適用されるためには労働者の同意が必要である」といったことが述べられているわけです。

 本件については、営業譲渡契約については、Y社は如何なる責任も権限も引き受けないことが認められているわけですが、しかしながら、一方で、3か月後のd日付けで、営業譲渡の対象とされた業務に従事する従業員との間で、労働契約上の地位を承継する旨の合意をしていたと認めるのが相当で、3か月後の地位の承継の合意があったと。そして、従業員については、誓約書を提出することによって、新人事制度の給与、新人事制度を遵守する、そして、それに従うといったような個別の同意があったことから、新給与規定によって規律されるということで、労働条件の変更が認められた事案です。

 続きまして、その他です。これは営業譲渡の際に、譲渡先ではなくて親会社に承継が認められた事案です。これは、タクシー事業を営むX社の解散・解雇に関連しまして、まず1つ目の○、親会社のほうに対して、組合の壊滅目的で行った不当労働行為であるとして、法人格否認の法理に基づいて地位確認を求めるとともに、実際に事業を受け継いだ別の子会社に対して、親会社の指示の下で事業を承継したとして、同じく法人格否認の法理に基づいてその地位の確認を求めた事案です。1審では、親会社は組合排斥の目的でX社の法人格を違法に濫用し、解散し、別の子会社が同一の事業を承継していることから、偽装解散に当たるとした上で、法人格が形骸していない別の子会社に対して雇用契約上の責任を認め、親会社の責任を追及することをできないとして、譲受企業のほうに責任を認めたわけですが、2審では逆に親会社のほうの責任を認めました。

 判決の要旨ですが、1つ目の○、これは親会社に対する言及で、親会社であるZ社による子会社であるX社の実質的・現実的支配がなされている状況下において、組合を壊滅させる違法・不当な目的で子会社を解散決議させ、かつ、真実解散されたものではなく偽装解散と認められる場合に該当するとして、法人格濫用の程度が顕著かつ明白であるとして、親会社に対して継続的、包括的な雇用契約上の責任の追及を認めたものです。

 一方、2つ目の○、これが実際に事業を受け継いだ別の子会社です。これにつきましては、一般的には、偽装解散した子会社と概ね同一の事業を承継する別の子会社との間に、高度の実質的同一性が認められるなど、別の子会社との関係でも支配と目的の要件を充足して、法人格濫用の法理が認められる場合には責任を追及することがあり得ないわけではないですが、本件については高度の実質的同一性があるとは認められない。また、親会社に対して法人格否認の法理が適用される本件においては、X社との関係がより希薄なY社にまで法人格濫用の法理を適用する必要性はないと、別の子会社に対する責任は否定されました。

 最後でございます。団交応諾義務についてです。これは中労委の命令です。盛岡観山荘病院事件です。個人病院の開設者の死亡に伴い、その相続人から裁判所の競売手続を通して病院経営を引き継いだものですが、これが旧病院時代に申し入れた団体交渉について、雇用関係にないことを理由に応じなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てをなされたわけです。1点目の○ですが、本件団交の申入れです。これは、新しい病院ができる前の段階の団交申入れですが、これについては、15日後には新病院の労働契約上の使用者になることが予定され、組合員を含む旧病院の従業員は引き続き雇用される蓋然性が大きかったと言えると。そうすると、Yは近接した時期に、組合員らを引き続き雇用する可能性が現実的、具体的に存する者ということができるとして、契約上の使用者と同視できるとして、組合法上の使用者性を認めたものです。

2つ目ですが、下から5行目の所です。これは、病院開設時の段階での団交申入れについての判断ですが、これにつきましては、その前にあるように、実質的にはこの不採用行為が解雇であるといったことから、解雇と同視すべき採用事項を争って団交を求めるものであることから、これは労働契約上の使用者と同視すべきものであるとして、労組法上の使用者性を認めた事案です。

 以上でございます。私の説明は以上とさせていただきます。よろしくお願いします。

○荒木座長 ありがとうございました。説明の内容について、御質問、御意見等がありましたら、どうぞお願いします。

○金久保委員 1点だけ。資料32番目の所ですけれども。5条協議の対象となる労働者の範囲で、不従事労働者の所、承継の定めありという所で、×と付いている所です。平成17年、改正前商法の下ではこういうふうに解されていたことは分かるのですが、これは今でも×という趣旨で書いてあるのでしょうか。

○労政担当参事官 はい、そうです。指針は承継される事業に従事する労働者を対象と書いているのみでので、現行でも、指針でも、ここは5条協議の対象となっていない形です。

○金久保委員 指針ではそういうふうに書いてあることが根拠になっているわけでしょうか。

○労政担当参事官 はい、そうです。

○金久保委員 附則の5条を見てみたら、前からなのでしょうが、特に労働者の範囲について明確に書いていないのですね。むしろ承継法2条の通知と一緒に労働者の範囲を合わせるほうが素直に読めるような状態になっているので、これも×なのかと、疑問に思ったのですけれども。私の意見です。

○荒木座長 そうですね。ほかの委員、その点はいかがでしょうか。指針や5条協議の条文とかがここにあったほうが議論しやすいかと思います。どこかにありますか。

○労政担当参事官 参考資料3、一番後ろの束にあります。法律は13ページです。13ページが商法の一部改正法の附則です。附則5条には、労働者と協議するとありますが、これを国会審議する過程で、修正案提出者のほうから、対象となる労働者の考え方は答弁され、示されております。指針は25ページです。25ページの4(1)が附則5条協議についての説明ですが、イの労働者との事前協議の所の2行目、「承継される事業に従事する労働者」、「協議するものとされていること」と書いております。

○富永委員 日本アイ・ビー・エム事件で5条協議が全く行われなかったとき、そしてまた、それが不十分であったときは承継を争うことはできるとあるので、この資料の上では不従事労働者については×として協議不要になっていても、事実上は争えるので、実際には、実務では5条協議をやっているのでしょうか。実態はよく分からないのですけれども。

○金久保委員 多分、日本アイ・ビー・エムは旧法ですよね。

○富永委員 そうですね。

○金久保委員 だから、アイ・ビー・エムの最高裁判決は旧法を前提に判示していると思いますけれども。

○荒木座長 いずれにしても、指針の改正のときは営業という言葉が会社法で事業になったので、そこを置き換えただけですよね。ほかは触ってなかったと記憶している。ほかにも変わっていますか。

○労政担当参事官 そうですね、この5条協議の所ですか。

○荒木座長 指針全体です。

○労政担当参事官 基本的には規定の整備的なものです。特に、5条協議も、ちょっと細かい、こちらも新旧とかを持っているわけではないのですが、基本的に実質的に何か変わったということはないかと思います。

 先ほど、先生がおっしゃったように、事件は旧法のときの話でしたので、確かに当初は、不従事労働者というのは想定されていなかったので、5条協議の対象ではない人に対して不十分かどうかというのは、当時は余り考えられなかったと思います。

○荒木座長 したがって、恐らくここまで、指針の25ページの所ですが、ここも本当は、検討して修正が必要だったところが、修正漏れとなっている。現状ではこのように書いてありますが、「承継される事業に従事している労働者と」と書いていますので、不従事労働者との協議については、指針は触れていないのですが、不従事労働者でも承継対象とすることが可能となった以上は、やはりここは、それも踏まえて指針の表現を検討すべき1つの課題ではないかという気はいたします。

○富永委員 ここは、「承継される事業に従事している労働者」とありますが、「承継される予定の労働者」とか、そのような文言に変えたほうが本当はよかったのではないかということでしょうか。

○荒木座長 そういったどういう文言にするか、これから検討すべきですが、少なくともこのままだと、あなたは承継する対象になっていますという通知はするけれども、5条協議の対象になりませんというのは、明らかに適切でないと思います。ここは要検討事項ではないでしょうか。ほかにはいかがですか。

○富永委員 先ほどの話、アイ・ビー・エム事件は旧法下の事件なので、従事している労働者しか対象として想定していないから、その判決の直接の射程は不従事労働者には及ばないということだと思います。ただ、その判決の趣旨とするところは、5条協議とは、承継される人に対して、情報提供をきちんとして協議させるというのが目的ですので、その趣旨から考えると、不従事労働者のケースでも、5条協議がなくて、そのままいきなり通知だけで承継をやってしまった場合には、異議を申し立てることができるのではないかと、一応、言えなくはなさそうな気がしますけれども。ただ、それは、判決の直接の射程ではないというのは、そのとおりかなと思います。

○荒木座長 5条協議の対象者が誰かという、その前提が変わってくると、違うのかもしれませんが、趣旨としては、承継対象者等にきちんと5条協議をして、例えば異議を申し立てるかどうかということもその協議が前提となるので、本人との間で協議しなさいということですから、趣旨からすると、当然やるべきだということにはなるでしょうね。ほかはいかがでしょうか。

 裁判例についても、詳細に御報告いただきましたが、整理の仕方も含めて、何かお気付きの点があれば御指摘いただきたいと思います。いかがでしょうか。

○金久保委員 分かりやすい整理の仕方としては、個別法の問題と集団法上の問題、つまり、労組法第7条の使用者性の問題と大きく分けて区別することができると思います。

 個別法の問題としては、会社分割で挙げていただいた資料4の裁判例を見ていて思いますのは、個別法に関しても、実体的規制の問題と手続的な規制の問題と分けることができると思いますが、資料4に挙がっているものに関しては、手続の規制の問題が結構出てきているというように感じております。

 例えば、日本アイ・ビー・エムで言えば、5条協議違反の効果とか、もっと言えば、程度とか、そういう問題ですし、3番目のEMIミュージック・ジャパンも5条協議に絡む問題ですし、それから、阪神バスについても、実体法上の問題もあると思いますが、通知義務違反の効果について、判示している部分もあります。私の整理なのですが、手続の問題と実体問題と分けて考えるというのもいいのではないかと思っています。以上です。

○荒木座長 ありがとうございます。富永委員、よろしいですか。

○富永委員 ほとんど言われてしまったので、感想ですが、アイ・ビー・エム事件が平成22年に出ていますが、グリーンエキスプレスとEMIミュージック・ジャパンの事件はその前の事件だと思います。アイ・ビー・エム事件が出た後でこの2つを見ると、グリーンエキスプレス事件も、実は5条協議もなく、2条通知もしていなかったという話なので、本当は承継法で判断すれば、普通に、この判決の判断のやり方ではなくても結論が出てくる事案ではないかと思います。

EMIミュージック・ジャパン事件も、それとパラレルかなと思います。5条協議がなかったらアウトだとして、その5条協議の中身として、説明すべき内容がどこまで含まれるかという話なので、アイ・ビー・エム事件の後で見直すと、実は5条協議と2条通知の話で処理できた話なのではないかという感想を、ちょっと申し上げたかっただけです。

○荒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。

 金久保委員が言われた個別契約の承継の問題と不当労働行為の問題を分けるべきだということは、私もそのような感じを抱きました。その後、実体と手続ということで、相当今回、手続が出ていますが、実体いうのはどういうのが実体問題となるのでしょうか。

○金久保委員 会社分割で1つ考えられますのは、本日上がっている資料で言うと、資料3の債務の履行の見込みに関する事項に関わる部分です。裁判例として、今、問題となっているというわけではありませんが、これが債務の履行の見込みがなくても、会社分割ができるとなったときに、主従事労働者などが、そのまま同意なく承継会社に労働契約が承継されたというときに、果たしてそれでいいのかという問題が1つあると思います。

 それと、これはちょっと細かいかもしれませんが、事業に関して有する権利義務が会社法になって変わりましたが、ただ、承継法自体は営業から事業に、字句修正したにとどまるという段階です。例えば、承継法の第21号で、承継会社等に承継される事業に主として従事する者として厚生労働省令で定める者という、現在のところはそういう定まり方になっておりますが、この事業というのを会社法上の会社分割と同様に、事業に関して有する権利義務と読み替えなくてもいいのかという問題もあるとは思っております。

○荒木座長 ありがとうございました。本日、挙がっている資料4の中の阪神バスの事案自体は、事業の設備は全部会社分割で移転しておきながら、労働者についてだけは、会社分割承継ではなくて、転籍合意、すなわち、個別に合意をして労働者を引き継ぐ。言うなれば、事業施設は全部会社分割でやって、労働者自体には事業譲渡的な手法を使う。その結果、労働条件も引き下げて引き継ぐことが可能となる。そういう手法を使った事案なのです。そういう事案について、本日の配布資料の5ページの2番目の○の一番最後の、「以上によれば」、以降ですけれども、X社との間で本件労働契約1を合意を解約させ、退職させて、労働条件を引き下げた労働契約2を締結して、Y社に転職させる手続は、承継法によって保障された、労働条件をそのままの状態で承継されるという、Aの利益を一方的に奪うもので、承継法の趣旨を潜脱するものと言わざるを得ない。したがって、このような合意は公序良俗に反して無効とする、という判示を行っております。これは、会社分割という、事業組織再編の手法ができた結果、個別の債権者の同意を得ることなく、簡易に事業施設は移転し、労働関係については、事業譲渡的な個別合意で移転するという組合せによる組織再編。これは、会社分割がなかったときにはできなかった手法です。会社分割と事業譲渡が併存しているという中で起きてきた事案です。そういう意味では、実体規範として承継法の潜脱となるので、公序良俗に反し、無効という判断を行ったといえ、非常に注目される事案だと思います。

 これをどう位置付けるかというのは、かなりこれは議論をしないといけない問題です。承継法は、労働条件の不利益変更を個別合意で行うことを本当に禁止しているのかどうか。もし、禁止しているとすると、公序良俗という言葉を使わずに、例えば承継法第4条の承継の規範の違反だという議論になるのではないのかとか、いろいろ検証すべき点はあるように思います。いずれにしても、金久保さんがおっしゃった実体の問題が、1つ提起されているような気もいたします。

 会社分割の裁判例もありましたが、事業譲渡の裁判例の整理等についても、何か御意見があれば伺いたいと思います。

○神吉委員 結論で分けるのもそれなりに分かりやすいところではありますが、できれば、改正前後が知りたいので、改正前の事案が問題になっているのか、そうではないかというのが分かると、時系列で並んでいるほうが分かりやすいかと思いますが、いかがでしょうか。

○藤井労働法規研究官 会社分割ではなくて、事業譲渡ですか。

○神吉委員 事業譲渡、営業譲渡であった時代と、もし変わっているのか、そうではないかといった。

○藤井労働法規研究官 基本的には、今回の事業譲渡というのは、ほぼ全部譲渡、一部譲渡もありますが、事実上、全部譲渡の事案ばかりですので。

○神吉委員 事案上、余り関係ないですかね。

○藤井労働法規研究官 全部譲渡ということから、そういった面では大きな差はないかと。

○神吉委員 一部譲渡は事案自体がないということですか。

○藤井労働法規研究官 そうですね。

○神吉委員 今回、取り上げた中には。

○藤井労働法規研究官 いくつか探してみましたが、一部譲渡という事案が、この中でも形式上は一部譲渡といっているのもありますが、もうすぐ解散というような形で、事実上は全部譲渡のような感じです。完全な意味での一部譲渡はちょっと見当たらなかったです。

○荒木座長 事業譲渡の関係も不当労働行為とそれ以外は、やはり分けたほうがいいのかという気がします。青山会にしても、吾妻自動車ですか、完全に不当労働行為の事件で、雇用関係の承継を認めたという争点では恐らくなくて、不当労働行為法上の使用者、直接雇用関係があるかないかということを越えて、不当労働行為法上の使用者に当たるかというのが争点だと思います。したがって、不当労働行為は丸ごと分けて、不当労働行為の中で、使用者と認められたか否かという議論として整理するほうが混乱が少ないという気がしました。

 更に分けると、承継を認める場合にも、黙示の承継合意を擬制し、あるいは解釈により黙示の承継合意を認定して引き受けたという事案と、法人格否認によって同じ結論を導いた場合とに分けられそうです。今回は、黙示の合意は何かありましたか。

○藤井労働法規研究官 Aラーメン、3つ目ですかね。

○荒木座長 Aラーメンはそうですね。承継の黙示の同意があった。これは平成14年以降、事業譲渡が問題となった事案は、かなり網羅的に拾ってあるということでよろしいですか。

○藤井労働法規研究官 はい。どこまで全部きれいにという面はあろうかと思いますが、検索ツール、それから、各委員の方の論文等々もいろいろ拝借し、漏れのないような形ではやらせていただいているつもりです。

○荒木座長 そうですか。分かりました。では、大体、平成14年以降は、こういう事案だということですね。

○藤井労働法規研究官 はい。

○荒木座長 この資料についての御意見はほかになければ、そのほか、一般的に、資料3の法制度の変化、そして、会社分割、事業譲渡、裁判例の御説明をいただきましたので、これら全体を見て、今後の議論をこれから深めていきますが、ヒアリング等も予定されていますので、こういった点については、ヒアリングでも聞きたいというような論点等の指摘でも結構ですので、何かお気付きの点があれば、お願いいたします。

○富永委員 感想というか、かねてから疑問の1つなのですが、営業譲渡ないし事業譲渡が行われたとき、使用者たる地位の譲渡がありますので、従業員の同意は必ず必要になると思います。そのときに、譲り渡す側と譲り受ける側の会社は、普通、その労働者は排除するといっているので、労働者のほうで合意しますといっても、合意自体が存在しないということにならないか。南海大阪ゴルフクラブほか事件のような事件では、理論的には正しいと思いますが、資料9ページの下から2段落目の「仮に」の所ですが、例えその労働者をみんな移したけれど、その労働組合員たちとかだけ外すといったことがあった場合に、「その労働組合員だけを外す」という会社間の合意がなくなったとしても、「労働者の合意が存在することになるわけではない」と切って捨てられています。しかしそうすると、もうそこで話が終わってしまうわけで、そこはどう解するべきなのであろうと、かねてより謎だなと思っておりました。

 ただ、パナホーム事件とかを見ると、黙示の承諾でも足りるとあります。しかし、そもそも譲受側も譲渡側も何というか、合意の前提となる申込みも何もないのに、承諾がそこで成立すると考えるのが、ちょっと何か、不思議な感じがしております。そういった疑問があります。

○荒木座長 ありがとうございます。何か御意見はありますか。

○藤井労働法規研究官 1点、いろいろな意味で混乱させてしまった面もあろうかと思いますが、例えば9ページのゴルフクラブの話にしても、合意があるなしが問題になっているというのは、これ、基本的に労働者の合意の話ではなくて、事業主、譲渡しと譲受人との間の合意があったかどうかといった点です。また、それとは別に労働者の合意というのはあろうかと思いますけれども、例えば南海大阪ゴルフクラブ事件について言えば、ここでの合意の話というのは、会社同士の間の合意の話です。

○富永委員 そうなのです、会社同士の合意はあるのですが、会社同士の合意の中で、従業員の一部は外すという合意があるということです。その「一部は外す」という合意がなくなったとしても、労働者側で地位の移転についての承諾ないし合意がないといけないのです。しかし、その点は、地位の移転を認めた事件では、黙殺されていると言うか、無視されているような感じがあるなと思います。別に労働者は異議がないから、それでいいのだと思いますけれども、法律的には難しいような気がすると常々思っておりまして、私としては疑問があります。すみません、ちょっと分かりにくいですけれども。

○荒木座長 確認ですが、誰と誰の合意の話ですか。

○富永委員 会社同士の合意で、従業員は基本、全部移すけれども、「この人だけ外す」という不当な合意があるということです。その不当な合意の部分が不当だからなくなったとしても、労働者が新しい会社に承継されるためには、普通、会社を1回辞めて、そして、新しく採用されるか、あるいは使用者たる地位の譲渡で移るかだと思いますが、いずれにしても、労働者のほうでの合意が何かないといけないと思います。その合意自体がないのに、あったと擬制して、地位の承継を認めるというのはどういう理屈なのであろうかというのが、かねてより疑問になっていたところです。

○荒木座長 金久保委員、いかがでしょうか。

○金久保委員 今のお話の前提として、除外された労働者は譲渡会社に対して、雇用関係の地位の確認等を求めているわけですよね。そうすると、それは当然、同意があるというように考えて物事を進めて、特に問題はないかというようには思っております。

○富永委員 なるほど、と思いました。

○荒木座長 両方を合わせると、まず譲渡会社と譲受会社の間で、この労働者は引き受けるという合意があるかないかということで、排除する合意が無効となると、両社の間では全員引き受けるという合意があったということになるのですね。例えばAという労働者が排除されていた。Aという労働者は、自分は承継されているべきだといって、地位確認を求めますから、当然、自分は移ることには合意している。そして、会社間では、労働者全員、Aも含めて承継するということを表明していると解するわけですので、したがってAについてもAが譲渡の対象となるということに同意していると言えば、当然譲渡会社もそれに同意をしているということになって、その結果、会社同士でも合意があり、当該労働者との間でも労働者が自分は移っているはずだと地位確認を求めている以上は、譲渡会社もそれを承諾していると認定ができるという、そういうことなのかと思いますけどね。

○富永委員 一応、そうであろうという納得は得られますが、たとえば、派遣関係での事件を見ると、結局は派遣先から派遣労働者への「直接雇用の申入れ」がない以上は、直接雇用の合意が成立しないとされています。つまり、法律上は派遣先が派遣労働者に直接雇用を申し込まないといけない場合でも、実際には派遣先が申し込んでいなかったら、結局は直接雇用の合意は成立しないのだとして、労働契約は成立しないと判断するのが主流のような気がしまして、そこと比べると、事業譲渡の場合は割と優しい感じかなと思います。

○荒木座長 派遣法の場合は、昔は申込み見なしがありませんでしたから、実際に申込みという法律行為を行っていないのに、承継されることはないのではないかと、そういう議論ですよね。しかし、この事業譲渡の場合は、譲受会社は、譲渡会社との間で従業員は、これらの者を除いては引き受けるという合意はしているわけですよね。ですから、これらの者を除いてというところが、無効となりますから、要するに従業員は、全員引き受ける合意をしているということは、労働者に対しても、全員を引き受けるという意思表示しているという解することが許されて、それに労働者が引き受けられて良いですという意思を表示したら、労働者と譲受会社の間では、契約が成立すると。つまり、派遣の場合は、派遣先は何の意思表示もしていないのに擬制はできない。だけれども事業譲渡の場合は、譲受会社自身が、労働者全員を引き受けてよいという意思表示していると、そこが派遣とは違うと思いますね。

○富永委員 それは譲受会社と譲渡会社の間での合意なのですが、譲渡会社との合意が労働者への意思表示になるというところが微妙です。譲渡会社への意思表示だけれども、労働者も会社の一員だから、労働者への意思表示でもあるとみていいのでしょうか。そこはちょっとだけ心配に思います。

○荒木座長 そこは、少し意思表示の合理的な解釈している部分があると思います。あくまでも譲渡会社への意思表示かもしれませんけれども、しかしそれは、労働者へ向けた意思表示と解してよいであろうと。そこはそのように解釈するのだと思います。

○神林委員 すみません、確認ですけれども、これは全員行きますけれど、この人は除きますと書いてあったのですか。それとも、名簿みたいにドワーッと名前が書いてあって、その中にたまたまAさんが入ってないということですか。

○藤井労働法規研究官 ゴルフ場の事案ですか。

○神林委員 ゴルフ場ですね。

○藤井労働法規研究官 この事案は一切、基本的には承継しないと。例外なく承継しないという合意があった事案です。その中で事実上、新採用として何人かは雇ったという。

○神林委員 話が違ってきませんか、そうなると。そんなことはないんですかね。

○荒木座長 これは否定事案なんですけれどね、承継を肯定した、これまでの事案、ひょっとして、ここに載っていないかもしれない。これまでの事案は、基本的に大部分の人は承継すると。ただし、これこれの人は除くと。例えば、組合員はとは言いませんけれども、労働条件を不利益に変更して承継すると。それに同意した者は承継するけれども、そうではない者は除くというアレンジが時々あるんですね。

 そして組合のほうは 前々から労働条件を不利益変更した上で承継、事業譲渡には反対だということを言っておりますと、そういう形を取ることで事実上、組合員を排除することも可能となってしまうと。そういったときに裁判所などが事実上、労働組合を排除するアレンジだと見た場合には、その部分、つまり条件を付して、その条件に同意しない者は除くという部分が無効となって、そうすると条件のないままの譲渡契約、要するに今まで当該事業で働いていた人は、全員承継するという合意というふうに、裁判所のほうで、ある意味では合理的に読み替えていると。そういう操作をして救っているという状況です。

○神林委員 それは架空の事例で恐縮ですけれども、名簿みたいな格好で、この人は移りますということが、会社同士で約束されていたというような場合でも通用する理屈なのですか。

○荒木座長 それは事案によるでしょうね。個々の人を見て、この人は新しい事業に必要だ。そうではない。そういうときには、そもそも全員を承継するという合意がなかったという場合には、結論としては承継しない。承継は否定されるという例は、たくさんあります。

○神吉委員 今、荒木先生が言われた事例で、例えば労働条件の変更に同意しない者というのが、それが結果的には組合差別になるような、不当労働行為になるような場合ではなくて、本当に同意するかどうかというところで選別するとしたら、それは許されることなのでしょうか。この自動車学校の事件ですか、何と呼ぶのですか、勝英でしたっけ。勝英自動車学校の自営みたいな所では、異議のある従業員を個別に排除する目的なので、解雇権濫用で無効という構成をとっています。

 一方では否定事例ですけれども、更生会社フットワーク物流ほか事件であると、それはもう経済的に瀕死の状態にあるので、調整のための合理的手法なので、ということで、多分、この辺で結論が変わってきているかなとは思うのですけれども。

○藤井労働法規研究官 今回、いろいろ資料を作らせていただいた際ですが、先ほど、勝英事例もありまして、更生会社等の話もありますけれども、私が調べた範囲では、いくつか、例えば、労働条件を下げるということに同意しなかった場合は解雇にしますといったようなのも事実上組合員の話で、更生会社も同じような理屈もあろうかと思いますけれども、私の調べた範囲ですと、露骨に組合員とやってしまうと、どうかという問題があって、いろいろな意味で組合員だけを必ずしも排除している場合でないのも含めて、ただ結果的に組合排除といったようなときは、実質的な認定の中で、いろいろな解釈があるのかなと。それは法人格否認のところでも、いろいろ出てくるのですけれども、得てして裁判でできているのは、やはり、結果的に組合員が解雇されているという事案ではないかと思っております。

○神吉委員 その場合だと、おそらく裁判で争われるというのは、そういう事例だとは思うのですが、ただ、規範として出てくるときに、個別に排除する目的なので、駄目なんだと言ってしまった場合に、そもそも、阪神バスの事例などでは、承継されるということが法的な規範としてあるわけで、その利益を奪うので駄目だという理屈だったんですよね。

 ただ、その事業譲渡の場合は、基本的には個別承継のはずなので、個別に排除する目的なので駄目なんだということを言うと、一般的な規範としてしまって、組合差別になるから駄目だというのを噛ませないと、そこで、それが妥当なのかなという疑問が生じるところなのですけれども。

○荒木座長 いかがでしょうか。

○神林委員 組合差別の話は、話がややこしくなるので、ちょっと忘れたほうがいいと思うのですけれども、結果として組合差別に使われる格好になる可能性はもちろんありますけれども、それはそれでちょっと置いといて、組合差別が問題でないときというのは、今、神吉さんがおっしゃったように、おそらく労働条件を切り下げたいので、こういう会社分割あるいは譲渡というのを使って、解雇をスレットにして、労働条件を切り下げるということを、実質的にやっているのではないかと推察されます。

 ですので、先ほどの、全員デフォルトで移るか移らないかという話と、多分、関係していると思うのですけれども、結局、その行った先の仕事がどういう条件だったらペイするのか。どういう格好で仕事が、事業が行われるのか。それに、その個別の労働者がふさわしい人なのかどうかということを、個別の労働者に当てはめて審査していって、この人はふさわしくない、この人はふさわしい、で、それがもし、客観的に証明できたり、あるいはそれが望ましい格好で組合せが決まるのであれば、個別の人を、この労働条件に承諾しないから解雇しますというようなこともできるといいますか、当然できてしまって構わないのではないかという気がします。

 例えば、今、500人でやっている事業がありますと。今の給与水準でいくのだったら300人に減らすしかありませんと。では、400人でこの事業をやっていくためには、給料を8掛けにしますというようなときに、では400人分だけ切り離して新しい事業を作って、それを事業譲渡という格好で新しくします。でも、そのときに、移りたい人だったら給料は8掛けですよというような交渉をして、そのときに、いや、自分は8掛けでは嫌だと残った人にはもう仕事がないという状況になるので、結果として解雇になるということになると思います。こういうプロセスに事業譲渡というのが、かなり関わっていて、そこが最も重要なところなのかなという気がします。

 先ほどの全員がデフォルトだというのは、事業という側面から見ると、人数を変える必要も労働条件も変える必要もないじゃないかと。そのまま右から左に動いているだけだから。そういうことがデフォルトなのであれば、全員そのまま移行するというのがデフォルトであって、労働条件を変えるだとか、一部の人だけを乗せるというのは、ある意味、外れる行為になるわけですけれども、事業を再編するという意味からすると、そのままの条件で全員が動くというのはデフォルトでは、もはやないわけです。その区別が付かないと何が起こっているか分からなくなるのかなと思いました。

○荒木座長 重要な指摘ですけれども、この辺は金久保さんが非常に、よく研究されたところだと思いますが、いかがですか。

○金久保委員 御指摘頂いたところは非常に重要で、結局、多分、この勝英自動車学校事件で言えば、そんなに経営状況の悪化の事実は指摘されていないで、個別に労働者を排除するというところ、そういう目的がクローズアップされているような事案だと思います。更生会社フットワーク物流ほか事件というのは更生会社ですから、会社更生でしょうかね。経営状態が悪化しているということが前面にあるのではないかと思いますので、そこでの合意の内容というのは、そんなに簡単に公序良俗に反するとは、すぐにはいかないという価値判断があろうかとは思っております。

○冨永委員 ちょっとだけ、よろしいでしょうか。私、ちょっと不勉強なものですけれども、今のやりとりを伺っていまして、勝英自動車学校の件では労働契約の承継は認められたのですけれども、その承継後の労働条件というのはどうなるのか疑問です。ほかの承継された人たちは、賃金切り下げに別に異議はありませんということだったのですけれども、この排除された人たちは異議があるという話だったかと思います。そのときは、新しく譲受会社との間に結ばれる労働契約で、会社のほうはやはり安い賃金で雇うとしか言っていないのに、高い賃金での労働契約が成り立つものなのかなというのが、ちょっと疑問としてあります。すみません、下らない感想でありますけれども。

○荒木座長 これは、どういう条件で承継されたかというのは分かりますか。

○藤井労働法規研究官 最終的に労働条件がどうなったかというところまでは、ちょっと言及がなかったので分かりません。ここで書いてあるのは、あくまで承継するといった内容で、その後、労働条件が具体的どうなったかというのは、ちょっと言及はなかったですね。

○荒木座長 恐らく引き下げられた労働条件でということに合意してないにも関わらず、地位確認をしているので、従前の労働契約のままということではないかと推測しますが、勝英事件は非常に、ある意味でユニークな判断なんですね。と言うのは、何が公序良俗に反するかというと、解雇したことがと捉えたかもしれませんが、私の見るところ、労働条件の引き下げのためには、就業規則の合理的変更法理というのがあって、使用者はそういう労働条件引き下げの手段を変更が合理的であることという条件の下に持っているわけです。

 ところが、この勝英事件はその手段を使わずに、事業譲渡の際に引き下げられた労働条件に合意するもののみを承継するということで、その事業 譲渡の際に提示する労働条件が合理的か否かという裁判所のチェックを、いわばかいくぐって労働条件の引き下げを事業譲渡を契機に実施しようとしたという事案なのです。そうすると、就業規則の合理的変更法理という裁判所の審査のルートを塞いだ形で労働条件を引き下げるという事業譲渡の利用方法、これが公序良俗に反するということなのかなという気もしております。

 ということで、かなり特殊な事案ではあるのですけれども、そういう背景がこの事案にはある。それから、御指摘があった点、事業譲渡というのは大体において企業が余り経営が良くないというときに、なされることが多いわけで、そのときには労働条件を引き下げれば、うまく経営が成り立つけれども、今のままでは成り立たないということで、事業譲渡を利用して、再編を図ることは、しばしばあるわけですね。

 そういうときにEUは、その場合も必ず労働条件は維持し、しかも全員、自動承継をすべしというルールを作っていたところ、それはかえって組織再編を阻害して、全体としての雇用確保の点では、むしろマイナスに作用するのではないかという批判があって、EUでは大議論となったところです。なので、その辺についても考えておくことは必要な点だと思いますね。

○神林委員 という視点から見ると、日本の場合は、就業規則の不利益変更法理があるので、労働条件の下の方向への調整というのは各国に比べると、かなり容易です。これは経済学の世界では、よく知られていることなのですけれども、ですので、そういうことが一方であるということを所与にして、こういう会社譲渡というようなツールというのが、どういう役割を持つのかということを、会社法とは全く別個に考える必要があると思います。

○荒木座長 重要な御指摘でしたね。ほかに何かございましょうか。高橋先生、労働法の判例とかを御覧になって、何かございますか。

○高橋委員 本当に、漠然と感想だけなんですけれども、1点だけ、10番目の更生会社のケースですけれども、これは更生決定がなされた後の事業譲渡になると、裁判所が関与するものだと思うのですけれども、これはあった上でのケースですか。

○藤井労働法規研究官 そうですね。

○高橋委員 そうすると一応、労働組合の意見なども聴されているのではないかと思うのですけれども、それでもこういうことがあるのだなという感覚で拝見しました。

 確かに会社法の世界でも、債権者に対して何らかの債務逃れをする目的で、事業の形を変えたり、法人格を変えたりということが、営業譲渡を通じて行われることがありますが、そういう意図が明らかだと大抵、営業譲渡を否定する方向で判例が出ていることが多くて、否定する方向は、もちろん法人格否認、かなり今回は法人格否認を使っているのだなと拝見したわけですけれども、ほかに商法上のいろいろなやり方を使って、なるべく同じ所からお金が取れるような仕組みを考えています。裁判所の判断としては余り私的整理に分割や事業譲渡を使ってほしくないという傾向があり、それが分かる運用になっております。

 ですので、どうなんでしょう。やはり法人格否認を使うということからすると、不当労働行為まではいかないのかもしれませんけれども、労働者の労働条件を変える目的が、どうも見え隠れするような事業譲渡に関しては、同じように余り望ましいものではないという取り上げ方になっているのかなと拝見しておりました。

○荒木座長 商法の授業を取ると、法人格の否認の法理になんていうのは、軽々に使ってはいかんのだ、特に形骸化の場合は、ちゃんと合理的に意思解釈すれば、法人格否認なんて使わなくて良いのだと学生の頃に習ったのですけれども、御覧になって分かるとおり、問題になっているのは濫用型なんですね。労働関係だと形骸化ではなくて濫用型の法人格否認の法理が、正に不当労働行為の所などでは登場するわけですね。

 あと、今日の資料の3で、詐害的会社分割における残存債権者の保護規定というのは、会社法のほうでは対応なされているのですが、お金で済む問題であれば、こういう形でもすむ。なぜ法人格否認なんて大仰なものを使うかというと、将来に向けて労働契約関係を承継させるという効果が望まれる、必要だというときに、使えるツールがほかにないということで、濫用型の法人格否認などの法理も使うということではないかと思います。

 今日、議論になった中では、やはり労働条件をどう調整するかという1つの問題と、そもそも雇用を承継しない、雇用を承継から排除するというときに、排除せずに承継しなさいということを言うために、どういうツールが使えるのかと。そういう2つの問題が話題になったような気がします。これはかなり労働法的な特殊な場面なので、それなりに特殊な判例も数多く出されているのかなという印象を持った次第です。

○労政担当参事官 事務局です。逆に先生方に今後のこうした何らかの知見を。実は平成14年の研究会のときにも、事業譲渡に伴う労働者の選別の問題や労働条件の変更の問題で、こういう法理でいろいろ解決されているという分析はされていたのですけれども、それを受けて厚生労働省で出した通知、参考資料の2の最後の4142ページぐらいなのですけれども、営業譲渡に伴う労働関係上の問題に関する相談等への留意すべき事項と。例えば、(1)のマル2、3、4において、承継拒否だけを理由に解雇をあってはならないとか、営業譲渡だけでは正当な理由にならないとあり、承継させる労働者の選定についても特定の労働者の労働契約を承継しないことは、解雇権濫用法理、具体的には整理解雇かもしれませんけれども、それが適用され得るよというメッセージを発していますが、裁判例でも、今回示した、勝英自動車学校事件でも解雇権の濫用になるとあるのですけれども、このように、どういう枠組みで妥当性が判断されるかというのも、先生方に、今後、御議論、御示唆頂きたいと思っております。

○荒木座長 ありがとうございます。以前に、この通知という形で出ているようですけれども、この内容も今後、議論する上で、少し頭に置きながら検討していったらいかがかという気もいたしております。

○神林委員 すみません、これって全部譲渡する場合も、こういう話になるのですか。マル2ですけれども、全部譲渡しますと。でもこの人は合意をしなかったので、元いた会社にそのままいますというときも、それは当然、解雇にはならないですけれども、残った会社がなくなってしまうわけですから、それも想定してこういう文章になっているということですか。

○労政担当参事官 はい、確かに全部譲渡では譲渡部門以外の他部門への配置転換は、できなくなってしまうのですけれども、そういう場合も排除せず言っているのだと思います。

○神林委員 そうですか。分かりました。

○荒木座長 よろしいでしょうか。それでは、時間も来ましたので、ほかにも何かあるかもしれませんが、引き続き検討するということにしていきたいと思います。

 それでは本日の議事の公開、非公開についてですが、特に今回も非公開とすべき事由はないかと思いますが、公開するということでよろしいでしょうか。

(異議なし)

○荒木座長 それでは、そういうことにしたいと思います。では最後に次回についてお願いします。

○田口労政担当参事官室室長補佐 次回以降の研究会ですが、日時場所について調整中です。追って正式に御連絡いたします。よろしくお願いいたします。

○荒木座長 それでは本日は以上とします。どうもありがとうございました。

 


(了)
<照会先>

政策統括官付労政担当参事官室
法規第3係 内線(7753)
代表: 03-5253-1111

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