農業協同組合及び医療法人の分割に伴う労働関係の対応について
組織の変動に伴う労働関係に関する研究会
平成 27 年 3 月
1.検討の視点
○ 「日本再興戦略」改訂 2014 (平成 26 年 6 月 24 日閣議決定)及び規制改革実施計画(同日閣議決定)を受けて、農業協同組合及び医療法人(以下「両法人」という。)において、会社分割と同様の組織の分割の仕組みを導入することが検討されており、各々の分割の規定を含めた関連法案の今通常国会への提出が目指されている。
○ 会社法上の会社分割(株式会社及び合同会社の分割)については、労働者保護の観点から、労働契約の承継等について会社法の特例等を定めた労働契約承継法が制定されている。 両法人 の分割に伴う労働関係の対応については、会社分割との共通点・相違点を念頭に置きつつ検討することが必要。
2.会社分割との共通点を念頭に置いた検討
○ 会社分割と同様に、両法人の分割においては、分割する法人の権利義務が、分割契約又は分割計画の記載に従い、承継又は設立する法人に包括的に承継されることが想定される。当該権利義務として労働契約が記載された場合には、労働者としての地位及び労働契約の内容(労働条件を含む。)が承継されることとなる。
○ 一方、両法人の分割契約又は分割計画中の労働契約の記載の有無は、会社分割と同様に、分割契約の場合には分割する法人と承継する法人との間の合意により、分割計画の場合には分割する法人により、決められることが想定される。
この場合、労働者の意思と無関係に、労働契約の承継又は不承継が決まるため、
・承継される事業を主たる職務とするが、分割する法人に留まることとされる者、
・承継される事業を主たる職務としないが、承継・設立する法人に移ることとされる者
はこれまで従事していた職務と切り離されることとなる。このため、このような労働者に異議申立権を付与する等、労働契約承継法と同様の労働者保護の仕組みが必要。
○ また、関係労使からのヒアリングにおいても、両法人の分割に当たっての労使コミュニケーションの重要性が確認されたところ。労働者の理解と協力(労働契約承継法第 7 条)や、労働契約の承継に関する労働者との協議(平成 12 年商法等改正法附則第 5 条)といった措置についても、その必要性は会社分割と変わりがない。
3.会社分割との相違点を念頭に置いた検討
○ 一方、会社分割と異なり、農業協同組合の分割については単独の組合における新設分割に限られ、分割できる事業の対象から信用事業・共済事業は除外される見込みである。また、設立や合併と同様に、都道府県知事の認可を効力発生要件とする方向で検討がなされており、事業を行うために必要な経営的基礎を欠くことその他事業の目的を達成することが著しく困難であると認められるとき等は認可されない見込みであることから、濫用的な分割は起こりにくいと考えられる。
○ また、医療法人の分割においても、設立や合併と同様に、都道府県知事の認可を効力発生要件とする方向で検討がなされており、認可の際には、都道府県医療審議会からの意見聴取が必要とされ、事業の継続性の観点のみならず、例えば人員配置基準が考慮される等、医療法の目的に沿って判断される見込みであり、濫用的な分割は起こりにくいと考えられる。
なお、株式会社や合同会社と異なり、医療法人については、国家資格を有する専門性の高い職種の労働者が多い傾向にあることも指摘されているが、医療法人の分割によって、事業に従事している様々な職種の労働者が、これまでの職務から切り離されることもあり得ることから、会社分割における「承継される事業に主として従事する」労働者か否かという労働契約承継法における判断基準と同様の基準によって、承継の帰趨を判断する必要性はあると解される。
4.対応の方向性
○ 以上に鑑みると、両法人の分割における労働関係に関しては、会社分割における労働関係と同様の問題が生ずる一方、会社に比して両法人の分割において特段に配慮すべき点は見受けられず、両法人の分割に当たって労働契約承継法及び平成12年商法等改正法附則第5条と同様の労働者保護の仕組みを導入することが適当であると考えられる。