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2015年3月3日 第4回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会 議事録

政策統括官付労政担当参事官室

○日時

平成27年3月3日(火)10:00~12:00


○場所

厚生労働省 専用第23会議室(6階)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)






○出席者

荒木座長、金久保委員、神吉委員、神林委員、高橋委員、富永委員、橋本委員

○議題

(1)医療法人・農業協同組合の分割に伴う労働関係について
(2)その他

○議事

○荒木座長 第4回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会を開催いたします。大変お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。議事に入る前に事務局より委員の出欠状況等について報告をお願いします。

○労政担当参事官室室長補佐 本日は全員出席となっておりますので、よろしくお願いします。以上です。

○荒木座長 議事に入ります。本日の議題は、医療法人・農業協同組合の分割に伴う労働関係についてです。事務局から資料の説明をお願いします。

○労政担当参事官室室長補佐 資料1は、農業協同組合及び医療法人の関係労使ヒアリング概要です。1農業協同組合及び医療法人の特徴、実態です。農業協同組合は、農業協同組合法に基づく法人です。組合員の自主的な相互扶助組織であり、剰余金の配分は利用高配当を基本とし、出資配当は一定率以内に制限されていると農林水産省から発表がありました。

 事業機能の強化と事業経営の合理化・効率化の観点から合併が進められてきている。合併においては、合併前の農協の労働条件をそのまま引き継ぐことが多いが、労働条件の統一が行われる際には不利益変更の問題が生じる場合もある。農協の店舗や燃料などの現業部門では、子会社設立に伴う事業譲渡も行われており、職員が転籍する際には本人の同意が前提であること、労働条件・権利に関しても包括承継することが当該農協と労働組合の間で確認されているという実態を確認いたしました。

 次に医療法人です。医療法に基づく法人です。剰余金の配当は禁止されており、剰余金は基本的に法人が営む事業に充てられる。医療法人は多くの職種にわたって国家資格を有する専門性の高い職種の集団で構成されているとともに、医療法等により人員基準が定められている。医療法人の現場は、医師や看護師も含めて人手不足であり、また、人命がかかっている中で長時間労働になる傾向があるという実態を確認いたしました。

2農業協同組合及び医療法人の分割に伴う労働関係に関する主な意見等です。まず、農業協同組合です。単位農協が新たな農協を設立して分割される場合は、雇用・労働条件は承継されるよう制度化することは当然だと考える。その上で、母体となった農協からの在籍出向が望ましいという御意見が労働組合からありました。また、組織の変動等いかなる事態の下でも、労働者の権利は守られるべきであり、そうしたことが担保される法制の整備・確立は必要と考えるという御意見が労働組合からありました。

 医療法人です。組織の変動により労働条件や労使関係が悪化すると、職員の離職につながり、医療の質や安全性にも影響を及ぼす可能性があることから、患者や住民にとって良いかどうかという観点からの議論が必要であるという御意見が労働組合からありました。医療法人の労働組合の組織率は労働者全体と比べ必ずしも高くなく、労働者も分割の仕組みを熟知しているわけではないという現状を踏まえて、労働者保護の対策を取る必要があるという御意見が労働組合からありました。分割に当たっては、労働組合との事前のコミュニケーションと労働者本人の納得が重要。また、新たな使用者との交渉ができる権利の確保が望ましいという御意見が労働組合からありました。

医療法人の経営は、公的病院と異なり独立採算であることや、昨年の診療報酬改定の状況を見ても厳しい状況にある中で、地域医療における医療法人の役割を念頭において、分割や合併が行われていく必要があるという御意見が使用者団体からありました。

 医療法人の分割による事業再編の利用可能性として、マル1病床機能分化を推進する方策として、スムーズな医療機関の再編を図り、各地域に合った安定的な地域医療供給体制を構築できること、マル2後継者不足などを契機とした民間病院の再編を図り、地域医療体制の維持・発展を図ることができることが挙げられる。医療法人は非営利性・公益性が非常に高く、患者の命を最優先に考えることが必要。分割についても法定の人員配置基準を守るとともに、運営を適正に行うことをまず考えなければならないという御意見が使用者団体からありました。資料1は以上です。

 資料2は、先ほどのヒアリングを基に農業協同組合、医療法人の分割に伴う労働関係の対応について整理したものです。1.検討の視点です。「日本再興戦略」改訂2014及び規制改革実施計画を受けて、農業協同組合及び医療法人において、会社分割と同様の組織の分割の仕組みを導入することが検討されており、各々の分割の規定を含めた関連法案が今通常国会への提出が目指されている。

会社法上の会社分割については、労働者保護の観点から、労働契約の承継等について、会社法の特例等を定めた労働契約承継法が制定されている。両法人の分割に伴う労働関係の対応については、会社分割との共通点・相違点を念頭に置きつつ検討することが必要、としております。

2.会社分割との共通点を念頭に置いた検討です。会社分割と同様に、両法人の分割においては、分割する法人の権利義務が分割契約又は分割計画の記載に従い、承継又は設立する法人に包括的に承継することが想定される。当該権利義務として労働契約が記載された場合には、労働者としての地位及び労働契約の内容が承継されることとなる。

一方、両法人の分割契約又は分割計画中の労働契約の記載の有無は、会社分割と同様に、分割契約の場合には、分割する法人と承継する法人との合意により、分割計画の場合には分割する法人により決められることが想定される。

 この場合、労働者の意思と無関係に労働契約の承継又は不承継が決まるため、承継される事業を主たる職務とするが、分割する法人に留まることとされる者、承継される事業を主たる職務としないが、承継・設立する法人に移ることとされる者は、これまで従事していた職務と切り離されることとなる。このため、このような労働者に異議申立権を付与する等、労働契約承継法と同様の労働者保護の仕組みが必要。

 また、関係労使からのヒアリングにおいても、両法人の分割に当たっての労使コミュニケーションの重要性が確認されたところ。労働者の理解と協力や、労働契約の承継に関する労働者との協議といった措置についても、その必要性は会社分割と変わりがない、としております。

3.会社分割との相違点を念頭に置いた検討です。一方、会社分割と異なり医療法人の分割に当たっては、設立や合併と同様に都道府県知事の認可を効力発生要件とする方向で検討がなされており、認可の際には、都道府県医療審議会からの意見聴取が必要とされ、事業の継続性の観点のみならず、例えば人員配置基準が考慮されるなど、医療法の目的に沿って判断される見込みであり、濫用的な分割は起こりにくいと考えられる。

 なお、株式会社や合同会社と異なり、医療法人については、国家資格を有する専門性の高い職種の労働者が多い傾向にあることも指摘されているが、医療法人の分割によって、事業に従事している様々な職種の労働者が、これまでの職務から切り離されることもあり得ることから、会社分割における「承継される事業に主として従事する」労働者か否かという労働契約承継法における判断基準と同様の基準によって、承継の帰趨を判断する必要性はあると解される。

※です。農業協同組合の分割については、会社分割や同組合の合併の仕組みを参考に検討中です。なお、農業協同組合の合併については、都道府県知事の認可が効力発生要件とされております。

4.対応の方向性です。以上に鑑みると両法人の分割における労働関係に関しては、会社分割における労働関係と同様の問題が生ずる一方、会社に比して両法人の分割において特段に配慮すべき点は見受けられず、両法人の分割に当たって労働契約承継法と同様の労働者保護の仕組みを導入することが適当であると考えられる、としております。資料2は以上です。

 参考資料は、現行の株式会社の分割と合同会社の分割、現在検討中の農協の分割と医療法人の分割における主な手続を比較したものです。第2回、第3回のときにもお示ししてあるものです。御参考までに付けております。以上です。

○荒木座長 ただいま説明いただいた資料について、御意見などを伺いたいと思います。どうぞ御自由にお願いいたします。

○金久保委員 1点、形式的な所からで恐縮なのですが、資料2の最後の結論の所です。もし、この結論でいいとすればということなのですが、労働契約承継法と同様のという記載がありますが、商法等改正法、附則5条のいわゆる5条協議は、もちろん重要な手続規定ですので、この結論でいくのであれば、それも入れないとおかしいと思います。

○荒木座長 ありがとうございます。事務局から何かありますか。

○労政担当参事官 確かに労働者承継法の仕組みと商法の5条協議は、併せて運用しておりますので、おっしゃるとおりかと思います。商法等改正法の所ですので法務省との関係もありますので書いておりませんでしたが、そちらともまた相談した上で入れる方向で調整したいと思います。

○荒木座長 資料21ページの最後の所で、正に御指摘のとおり5条協議については必要があると書いておりますので、結論にもそれを反映させるという方向で検討したいと思います。ほかにはいかがでしょうか。

○富永委員 私自身は基本的に賛成なのですが、最後の部分、対応の方向性の所で「会社分割における労働関係は同様の問題が生ずる。一方、会社に比して両法人の分割には特段に配慮すべき点は見受けられず」ということになっております。しかし前回のヒアリングを見ますと、医療法人の労働組合の方から、医療法人については組織再編が医療の質や安全性へ影響を及ぼす可能性があると指摘されております。1ページの一番下です。けれども、この懸念については、都道府県知事の認可等を効力発生要件とする仕組みにすることで、認可の意見聴取等の中で考慮されるということでよろしいのでしょうか。

○荒木座長 いかがでしょうか。

○労政担当参事官 おっしゃるとおりです。例えば、医療法人については同じ2ページの3の○にありますとおり、認可かつ都道府県の医療審議会からの意見聴取ということで、その場合に事業の継続性並びに人員配置基準が考慮される等医療法の目的に沿って判断されるという所で、ヒアリングで出された疑問は併せて判断されるのではないかと整理しております。

○富永委員 ありがとうございます。会社と違って、こういう規制の観点から何か問題があるとしても、そこできちんと対応できるという話だと伺いました。

○労政担当参事官 はい。

○富永委員 承知いたしました。ありがとうございます。

○橋本委員 私も医療法人と協同組合については、一般の会社と比べると規制が強いという特殊性はあると思います。今、富永委員がおっしゃったように、それは分割の認可の際に考慮されるということで、その他、働く人の労働関係については、医療法人と協同組合においても、私法上の労働関係ということで、通常の労働法が従来も適用されていますので、承継法と同じ会社分割に伴う労働者保護の規制が適用されるということで問題ないのではないかと思っています。

 その上で理解の確認という程度なのですが、2ページの3の○、なお以下です。医療法人のヒアリングの際に医療法人については国家資格を有する専門性の高い職種の労働者が多いという点を、ヒアリングで医療法人の方が指摘されていましたが、結論としては承継法の規制を適用するのに影響はないと思っていいと思うのですが、専門性が高い人が多いということは、離職ができるということでしょうか。ヒアリングの確認になってしまうのですが、私が理解した限りでは転職できてしまうので、再編という事態になると辞めてしまうという恐れがあるのではないかと思ったのです。仮にそう理解しましたが、それは分割に限らず従来の事業譲渡等でも起こりうる事態だったので、結論としては、独自の承継のルールを作ることは必要ないという結論に賛成したいと思います。以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。この専門性の点については、事務局からどういう趣旨かということの説明をお願いできますか。

○労政担当参事官 確かにヒアリング等で専門性が高い労働者で占められているというところは強調されたので、それは一般の会社よりも顕著な傾向として書いております。ただ、確かに離職が多いという意見もあったと思います。これは離職が多いからどうだということよりは、現在の労働者承継法は、その時点で承継される事業に主として従事するか否かで判断するときの切り分け方として妥当かという判断するときに専門性が多い、ただ、専門性が多いけれどもそれぞれの専門性をもって、各職についているということからすると、結局「承継される事業に主として従事する」をその時点で見て、承継の帰趨を判断するというところは変わらないというところで、確認的に労働者構成について特徴があるけれども承継法の主として従事するという部分の考え方は妥当だということを書いている部分です。そういう意味で承継法と同じ仕組みという結論は変わりません。特徴がありましたので、書いております。

○神吉委員 今の点に関連して、事実関係の確認です。医療法人の場合、人員配置基準などを考慮をして分割の認可が下りると思います。その際に人員配置基準を満たしているかどうかというのは、承継法を適用すると事業で承継されるという人数を先に計画として出すわけです。そのときに異議の申出があって実際は来ないとか、そういうことは先には考慮されないということですか。

 分割計画で人員配置基準を承継法の枠組みで主として従事される人はこれだけいるので、見込めるだろうということで先に認可が下りて、その後で承継法のルートに乗っていったら足りなくなってしまうということがあり得るかどうかということです。

○労政担当参事官 おそらく人員配置基準を満たさないものは認可されないので、そこで最低限の人数を満たした承継計画しか立てられないのではないかと思います。

○神吉委員 足りなければもちろん駄目だと思うのですが、足りているとしても分割先に行きたくないという、今離職が事実上多い、専門性が高いのでというのがあったと思うのですが、分割される所に行くぐらいなら辞めてしまうという人も恐らくいると思います。分割計画を立てた時点で、これぐらい見込めるだろうということで、基準を満たしている人数を出したとしても、実際に進んでいくと異議申立てや離職で減ってしまうということも、後に起こってくるということですね。

○労政担当参事官 基本的に承継法は、その事業に主として従事する労働者は、そのまま承継されますので、主として従事しているが分割計画に承継されないと書かれていたときに異議を申立てられるだけです。ですから、会社が事業を承継させる。その事業に主として従事している人がこの人だから承継されると言ったら、その人は異議を申立てる権利はありません。おっしゃるとおり事業に含まれていて、会社も承継すると言っているのに嫌だということは、逆に承継法では認められない。

○神吉委員 それは承知の上です。その前提として、非常に流動性が高いので、どれを主としてやっているのかが判断しにくいのではないかということが、ヒアリングに出ていたと思います。誰に異議申立権があるのかも難しいと思います。それとは別に分割計画で承継が見込まれるという人数で認可が下りて、その後に実際に承継の話が進んでいくという時間的な関係ですねという事実関係の確認です。

○労政担当参事官 そのようになるかと思っております。

○神吉委員 それで足りなくなれば、使用者が人員をどこかから持ってこなければいけない、そういう話になるということですか。

○労政担当参事官 はい、仮にそうなればですね。

○神吉委員 ありがとうございます。

○富永委員 今の話は、今までもやっている合併でもあり得る話ですか。A法人とB法人があって、合併されるぐらいだったら全員辞めてやるとそれぞれの労働者が言っていた、という場合は、一応、同じ問題があります。なので、分割を認めた場合も、それと同じになるだけかと思いました。

○政策統括官(労働担当) 若干、補足いたします。配置基準は、医療法人や福祉の世界に多く適用されているものです。また、これについては最低の基準に加えて報酬単価で優遇するという形でグレードがあるとヒアリングの場でも紹介がされていたと思います。これを医療審議会にかけますので、ギリギリのところですと、これは危ないという形でなかなか認可が下りないということになるのが通常の運用の姿ではないかと思います。医療法人の経営が回るという観点で、最低限ぎりぎりのものよりは上乗せしたところで、皆さん認可を得ていますので、そこの辺りも見越しながらの判断ということになる。現実問題としては、ぎりぎりのところで医者がやめてしまっては大変ですので、通常の場合は慌ててリクルートして何とか基準をクリアーするというような事態は、それほど想定はされない。大体ゆとりをもって認可に至っているのが実態ではないかと思います。

○神吉委員 ありがとうございます。

○神林委員 その点なのですが、専門性が高い職種でかつ人員配置基準があるということは、労働者が交渉力が強いということです。ぎりぎりな人員配置のときに言うことを聞かなければ辞めてやるというのが、いわば拒否権を持つ格好になるわけです。そう考えると、承継法を考えるときに考えなければいけない労働者の保護の面からすると、一般の会社と比べると、既に交渉力が強い人たちのことを話していると理解することができると思います。そういうときに、なおかつ承継法の格好で手続をもう一度重ねて、より強く保護する必要があるかどうかと理解するべきなのではないかと考えていますが、その点はどのようにお考えでしょうか。

○荒木座長 いかがでしょうか。

○労政担当参事官 事務局の立場から、確かにヒアリングなどを聞いていてそういう方もいらっしゃるのですが、ヒアリングでは組合の方などからは自ら離職していく人も多いと言われた一方で、労働条件も良くない部分もあるなど、やはり労働条件の安定、雇用の安定を求めるという部分は、労働者である以上共通と事務局も感じました。中にはそういう人もいらっしゃると思いますが、医療職種は医師、看護師、療法士等いろいろな職種があり、必ずしも自ら労働市場で独立してやっていくという方だけではないということを考えると、医療法人とくくった場合には最低限同様の保護は、あってしかるべきと思い書いております。先生方の御示唆を頂ければと思います。

○政策統括官(労働担当) 更に補足です。ヒアリングの中でも労働組合は組織率が必ずしも高くないという指摘がありました。まず、全般的にそういう状況です。もう1つ青山参事官からもお話いたしましたが、医師の交渉力は高いかもしれません。ただ、看護師が不足と言いながらも、やはり家庭責任を負った方が多くて、地域でないとなかなか勤めにくいという事情を抱えた方が多々おられるわけです。

 それから、OTPTといういろいろな技術士がおられます。そして、医療事務を扱っている方、医療事務も資格が必要なわけですが、その辺になってきますといささか状況も違ってくる。ですから、ひとくくりに交渉力が高いから、ほかに比べて特別の保護は必要としないということを言い切るのは、少し危険と思っております。

○金久保委員 承継法と同じ保護を与えるということは、従前の職場環境をそのまま事業の移転に伴って、労働関係も今までと同じ保護を与えるという趣旨だと思いますので、今、神林先生がおっしゃったより強い保護を与える、ほかの株式会社の従業員以上の保護を与えるという趣旨が私には少し飲み込めなかったです。

○神林委員 条件が強くなるということです。つまり満たされなければいけない条件が、医療法人の場合には人員配置という条件が別に加わりますから、通常の会社の場合には、その人が辞めたところで事業が回らないということはもちろんあるかもしれませんが、ほかの人に変えればいい、あるいは、ある程度穴が空いても構わないという意思決定はできると思いますが、医療法人の場合には認可そのものが下りないことになりかねないということになるわけです。

 ですので、分割に伴ってその分割を認めるかどうかということに関して、労働者がある意味、意思決定の権力を持つことになるわけです。拒否権を持つというのは、そういう理由です。なのでそういう格好で、いわば普通の会社の分割に比べると権限が1個増えている。客観的に見た場合、1つの条件が増えている、実質的に交渉力が増しているかどうかということは別の話です。形式的にその人たちの持っている権限は1個増えている。それに対して、承継法を作ったときに権限が1個増えている人たちに対しても、同じように保護の度合をロジカルに増やすべきかどうかという話はしておいたほうがいいのではないかというのが私の感想です。

 なのでお答えとしては、おそらく形式的にはそうかもしれないけれども、実質的な交渉力という意味では強くなっているわけではないので、その実質的に労働者を保護しなければいけないという目的からすると、きちんと承継法の建て増しの部分も、そのまま移動させなければいけないという理由になるのではないかというのが今の私の感想です。この点については、多分、きちんとどこかで書いておいたほうがいいと思っています。今の説明では駄目ですか。条件が1個増えれば、その分だけどこかで減らすということをしなければいけないという考え方はあると思います。

○富永委員 今の話は、配置基準があることによって、労働者側が拒否権を持つから保護があるという話です。しかし分割のときに拒否権があるかということですが、医療法人は、その労働者でないといけないかというと、必ずしもそうではないのではないかと思います。つまり、人員配置基準があるので一定数の労働者がいないといけないのですが、別にその分割で移る人でなくても構わないので、そういう意味では普通の会社と同じではないかと。普通の会社もその人でないといけないわけではないので。そういう意味では、医療法人等では配置基準の規制による保護が増えてはいますが、法人の分割で移る労働者個人にとっては、実態としては拒否権という確立したものがあるわけではないのではないかと、これはただの感想なのですが、そう思いました。

○荒木座長 非常に重要な問題提起だと思って受け止めましたけれども、恐らく分かっておっしゃっているようにですね、普通の会社分割の場合と違う条件として認可というものがあります。それが労働者の交渉力にプラスに作用する。形式上そう見えるけれども、本当にそうだろうかという問題があって、それについては既に何人かの方がお答えになったとおりで、少し人数的に余裕を持って計画しておけば、個人にとっては、実は拒否権にはならないという点があります。

 それから働くときに、事業組織としてチームで今まで動いていて、その中でそのまま労働実態は変わらずに、いわば契約上の使用者が変わるという中で、自分がそこで辞めるということを労働者がどれだけ言い出すか。転職をすることは可能なのですが、それにはトランザクションコストがかかる。そうすると、辞めるという選択肢を、つまりイグジットという効果を主張することが本人にとって非常に有利になるかどうかというと、必ずしもそうとは限らないという状況がある。

 それから契約理論からいくと、単に解約する、イクジットすればよいということなのですが、今ここで考えている会社分割というのはその契約法のルールとは違うルール、すなわち本人が同意せずとも労働関係が承継されるという新しい契約法の外のルールで動いている。その結果、契約ルールと違う雇用関係の承継ですから、日本よりはジョブによって仕事が決まっているヨーロッパにおいても、一般に仕事が移るのに伴って、移転するときにはその雇用関係の解消ということは認めずに、労働関係を引き継ぐというルールが確立しているわけですね。そのジョブにその人をあてがっているわけですから、ジョブが移ったときにその人は来ないでいると困ることにもなるのですが、そこには特別のルールを設けているということです。その資格の人が移らなければいけないときに、移らなかったら困るというのはここで議論している医療法人と同じなのですが、EUでも契約法とは違う独特のルールで対処しているという限りでは、やはり同じではないかということも考えられます。

 そうすると、そういう形式上は通常の株式会社とは異なる拒否権のようなものを行使でき得る状況があったとしても、特段別の承継ルールを用いるべき必要性があるかというと、むしろ同じように対応するほうが実態には適合しているのではないかというのが、恐らく原案の考え方ではないかというふうに思います。

○神林委員 ありがとうございます。多分その整理が一番適切かなと思うのですけれども、1点、同意なしに承継されるという契約ルールとは異なる場面なので、特別な手当は必要だというのは分かります。ただ、医療法人、あるいは農協については認可という、また別の手続も入っていますので、それはその認可で変えられるというような考え方もあるのではないか。つまり、契約ルールとは外れているのだけれども、それは政府といいますか、公共団体が認可するという手続が入っているから、特別なそのほかの立法は必要ないのではないかというようなこともあり得ると思いますので、その点についても言及は必要かなと思います。

○荒木座長 理論上はそちらで対応するということもあり得ると思いますけれども、恐らく認可のほうは医療法人が医療提供機関として適切な人員を揃えているかということですから、足りなくなったら募集するということもあり得ないではないことではありますけれども、そちらのほうを触わるということになりますと大変なことになりますので、現在の承継ルールで対応できないという場合にはそういう選択肢を検討すべきかと思います。承継法のルールを適用して、問題点について対応はできるということであれば、認可自体を動かすよりは恐らくコストが少なくて、適切な対応になるということではないかと思われます。大変重要な御指摘でしたけれど、ほかにどうぞ。

○神吉委員 医療法人についてなのですが、私は基本的にはその承継法を適用するという結論自体には全く異存ないのです。ヒアリングの中で、例えば医療法人に関しては医師が本人の意思だけではなくて、例えば医局の意向でいろいろ配置などにも反映されることがあるというふうなこと言われたと思うのです。もし、そういう問題があるのであれば、承継法をそのまま適用するというのであれば、それは主として従事していることが明らかな医師に関しても、医局が承継は困るというふうに思っている場合もあると思うのですね。そういった場合は、主として従事しているということが明らかであれば、異議申立権もありませんので、そういった場合というのはその前の段階で協議ですね。その中で、その問題を調整していくということが必要になると思いますので、承継法を適用するということであれば、より一層その協議、事前の協議の話が必要になってくるのかなというふうに思います。それは本体の話だと思うのですが、それを念頭に置いておく必要があるのかなと思うところです。以上です。

○荒木座長 今のは承継されて、その人がいなくなったら困るという話ですか。

○神吉委員 医局とすれば、大学病院とかから配置を考えるときにそちらに行かれては困るというのが、多分あると思うのです。何年後とかにローテーションしていきたいというのがあるという話もヒアリングで出てきたのだと思うのですけれど、仕事が一緒だから行ってしまうというのではなくて、そちらの法人に行ってしまうと医師を回すときに困るというようなことも恐らくあるのではないかと思います。

○荒木座長 会社分割契約にしても、計画にしても、それを作成する主体は、今雇っている医療法人ですので、恐らくその辺でそういう移ってしまわれることが問題ということであれば、どういう対象者を承継の対象にするか。そこで恐らく考慮するということになるかもしれませんね。

○高橋委員 大したコメントにはならないのですけれども、普通の企業の分割の場合でも、キーパーソンがいるというケースはどんな企業にもございます。病院の場合で言えば、とても看板になるようなお医者さんがいらっしゃるケースですね。事業会社の場合にも、とても敏腕の営業マンがいたりしますが、そういう方にはやはり分割をするという交渉段階から、この人を抜かれると困るということになりますので、主として従事しているかどうかという括りで自動的に移るというよりも、当初の分割計画や分割の契約の大きな枠組みの一環としてカウントされています。私はお医者様の問題に関しては非常に専門性の高い方ですので、このキーパーソンの場合と同じく、どのように動く、人員配置をどうするということはそれほど大きくは問題にはならないと思っております。

 そうではなくて割と代替可能性が高くて、ジョブローテーションで回っているという職種の方については交渉力もないですし、この方々については一般的なこの承継法の仕組みを用いて保護するというイメージなのではないか。むしろこういった方々はもっと保護したほうがいいのではないかぐらいの感覚を持っております。

 というのも、ヒアリングの中で、できたら新しい分割先の人と交渉できる機会があったらいいのになというお話を伺ったような気がいたしました。どうしてもヒアリングを伺っていて、今回の分割が、いわゆる会社分割とちょっと違うかなと感じていたところがあります。会社分割のような組織法的な形で全て労働承継します、という、そういう分割が本当に行われるのか。むしろ営業譲渡的な、新しい労働契約を結び直すというようなイメージになるのではないのかというほうが、むしろ心配だったのです。そうすると、もうちょっときちんと協議してあげたほうがいいのかしらと感じたところではあります。もっともこれは実態の問題ですので、法制度の点からも手当てするというのはちょっと難しいかなと思います。結論的には事務局の出していただいた案で、私はよろしいのではないかと存じております。

○荒木座長 ありがとうございます。労働組合があれば、将来合併する相手方、それから事業譲渡の相手方に対しても、近い将来に使用者となるべき相手方とは団体交渉する権利があるというような理解が、一般的になってきているように思います。実際そういう労働委員会の命令もありまして、半年後に合併するという相手方の法人が、まだあなたたちは雇用してないから団交しなくてもよいはずだと拒んだところ、いや、それはもう合併計画が出来ているのだから、団体交渉に応じなさいという、そういう救済命令もあります。労働組合がある場合には、承継法のルールに、更に実は労働組合法上の団体交渉義務というものが課せられてきて、その部分でカバーされる部分は現在でもあるかなと思います。

○神林委員 よろしいでしょうか。論点が多分移ってきたと思うのです。医療法人というよりは、農業協同組合のほうで顕著になるだろうと思われるのは、一般の会社と比べては分かりませんけれども、彼らが非常に強調していたのは、分割されるような場合には、その労働条件のばらつきが非常に大きくなるだろうというようなことが予想されるというのを非常に気にしていたと、僕は認識しています。

 なので、これは可能性の問題、ロジックの問題ではなくて数量といいますか、程度の問題なので、法律上書くというわけにはいかないと思います。農業協同組合の場合にはかなり労働条件が分割によって変動するだろうというようなことを予想できる。それに対して何か事前に手当てをする必要はあるのかというような話は、しておいたほうがいいのかなと思います。

○荒木座長 いかがでしょうか。

○金久保委員 今のところなのですが、労働条件は移転するときは同じで、ただ、将来的には査定とかで親会社とか、子会社と比べると違ってきたりすると。だから長い年月を見れば賃金の総額は下がってくる可能性があるということはあり得ることで、実際に聞いたこともあります。ただ、それを法的に手当てする術というのはなかなか難しいのかなという印象はありました。

○荒木座長 ヒアリングをお聞きしていたときの印象なのですけれども、まだ分割制度というのがないので、事業再編にどういう問題があるかという点についてお答えになったのは、1つは合併。合併すると、例えば農協の地区団体があって、それが県単位で合併すると、それぞれの歴史的な経緯から、労働時間制度の違いがそのまま維持される。それを統一するというので、いろいろと紛争になったと。これは、いわば違う労働条件が合併した結果どう調整、統一するかという問題で、ちょっと今回の問題とは違う。

 もう1つ念頭に議論されていたのは、事業譲渡です。事業譲渡は事業譲渡後の労働条件は個別契約で、いわば引き下げて事業譲渡することも可能ですので、それについての懸念がたくさん出されたというふうに思います。

 今回議論しているのは、労働契約承継、会社分割ですので、これはそのままの労働条件が移行するということになります。そして合併ではありません。恐らくヒアリングで念頭に置いて懸念を呈された問題は、少し今回の議論とは違う場面ではないか。問題となるとすると、今、金久保委員が言われたように、分割した後に、その前はもう少し大きな組織だったかもしれませんけれども、分割後独立の法人となった、法人格を持った団体としての労働条件が、将来的にその団体にふさわしい労働条件に調整されていく。その中での労働条件の変動が、新しい問題となるということはあり得るかというふうに思います。

 この問題は、分割法制とまた別に、労働条件を労働者の同意なく変更できるかという問題がありまして、これは就業規則の合理的な変更であれば、変更ができるが、合理性のない労働条件変更は拘束力を持たない、というルールでもってチェックをするというのが、現在の労働法のシステムなのですね。そういう制度があるので、組織再編の問題としてそこでケリをつけなくとも、別途対応できる制度があるという整理になるのかなと思います。

○神林委員 間違っていたらすみません。僕が思い出すのは、では分割という場面があったらどうなるかという質問をしたときに、例えばその地域、ある地域だけ、今は例えば全県1区のJAになっていると。そういうときに、ある地域だけを切り出して分割をするということはあるのではないかみたいな話があったと。そのときに、その地域というのはその地域の自然条件によって農協の生産性って決まってきますので、それが、もし仮に非常に貧しいような地域だったとすると、かなりの確率で長期的に労働条件が低下していくというのは分かると、その時点でですね。というようなことが、通常の会社に比べると、かなり明確にというのでしょうか、事前に予想できる。農業というのは、やはり自然条件にかなり依存しますので。では切り離した後、それはそちらで頑張ってやってくださいというふうに、ロジックとしては別な話だというのは分かるのですけれども、事前にどこまで予想できるかという蓋然性が通常の企業の場合と、恐らく農協の場合は違うと思うのです。その蓋然性が違うときに、事前の手当てをする必要があるかないかと言うと、取りあえずはないというふうに、この場では結論しておくということでしょうか。確認ですけれども。

○荒木座長 恐らく、今のように全体としてやっていくのが合理的でない場合には、分割法制を取らなかったら、事業譲渡でやると思うのですね。事業譲渡でやるとした場合には、正に最初から労働条件を引き下げた上で、事業譲渡をやるということになります。では、そのときにもう切り出された事業ですから、その事業は残っていませんから、自分は事業譲渡が嫌だと言って残ったら、結局最終的には整理解雇という問題になりかねない。ということですから、何と比較するかの問題であって、現行法でも、事業の切り出しは事業譲渡という法的ツールを使えばできると。その場合と比較して、分割法制でやることがより問題かというと、むしろそれは労働関係は承継されて、労働条件も維持されると。あとはその労働条件の合理的な変更ルールで対応するというルールのほうが、むしろ現状の改善となっても、現状よりも悪い状況がもたらされるということはないのではないか。恐らくそういう判断で、こういう議論がされているのではないかと思います。

 ほかにはいかがでしょうか。特段ほかに御意見がないとしますと、今回資料2でお示ししたような大筋の方向について、大きな異論はなく、重要な確認的な御指摘をいただいて、その趣旨についても恐らく理解を共有していただいたという気がいたします。

1点、現在この※で農業協同組合の分割について、なお農水省のほうでの議論が少し時間がかかっているようです。現在は※ということにしておりますが、恐らく知事の認可とか、その他の状況を見ておりますと、大筋では医療法人とほぼ似たような制度となるのではないかということが想定をされるところです。

 そこで、そうした想定から大きく外れるということがないようであれば、事務局と座長に修文のほうは任せいただいて、後ほど委員の皆様の御確認をいただくということで処理させていただければと思いますけれども、よろしいでしょうか。

(異議なし)

○荒木座長 それでは大筋、今回の資料2にお示しした方向で報告書をまとめるということで、御賛同いただいたと了解をいたしました。特段ほかに御意見がないようであれば、そういうことで進めさせていただきます。

 本日の議論の議事録公開の件ですけれども、本日も特段非公開とすべき事由はなかったかと思われますので、公開ということで扱いたいと思いますが、よろしゅうございましょうか。

(異議なし)

○荒木座長 議事録も公開という形にしたいと思います。それでは、次回の研究会について事務局からお願いします。

○労政担当参事官室長補佐 次回以降の研究会ですが、日時、場所について調整中ですので、追って正式に御連絡いたします。よろしくお願いします。

○荒木座長 少し早いですが議事が尽きましたので、本日はこれまでとしたいと思います。どうもありがとうございました。


(了)
<照会先>

政策統括官付労政担当参事官室
法規第3係 内線(7753)
代表: 03-5253-1111

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 第4回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会 議事録(2015年3月3日)

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