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2015年9月10日 第5回 医師臨床研修制度の到達目標・評価の在り方に関するワーキンググループ議事録

○日時

平成27年9月10日(木)10:00~12:00


○場所

厚生労働省共用第8会議室(19階)
    東京都千代田区霞が関1-2-2 



○議題

・関係団体等からのヒアリング
・その他 等

○議事

○吉本医師臨床研修専門官 定刻になりましたので、第5回「医師臨床研修制度の到達目標・評価の在り方に関するワーキンググループ」を開催いたします。

 本日は、先生方には御多忙のところ御出席を賜り、まことにありがとうございます。

 ここでカメラは退室をお願いいたします。

 本日の御出席について御連絡させていただきます。

 伊野構成員、大滝構成員、神野構成員から、本日は御欠席との御連絡をいただいております。また、交通事情で前野構成員がおくれていらっしゃる御予定です。また、古谷構成員も本日は御出席の予定となっております。

 今回ヒアリングを行う関係団体等からの御参考人として、御発表順に、日本小児科学会生涯教育・専門医育成委員会委員長の鈴木康之先生、よろしくお願いいたします。日本産科婦人科学会理事長の藤井知行先生、よろしくお願いいたします。精神科七者懇談会卒後研修問題委員会委員長でいらっしゃる小島卓也先生、同委員会の委員でいらっしゃる米田博先生にお越しいただいております。

 なお、前回同様、厚生労働科学研究医師臨床研修の到達目標とその評価の在り方に関する研究班より、分担研究「医師のプロフェッショナリズムを踏まえた到達目標の在り方に関する研究」御担当の野村英樹先生、そして、分担研究「人口動態や疾病構造、医療提供体制の変化等を踏まえた到達目標の在り方に関する研究」御担当の聖ルカ・ライフサイエンス研究所臨床疫学センターの高橋理先生、同じく大出幸子先生にもお越しいただいております。どうぞよろしくお願いいたします。

 また、文部科学省医学教育課からは、平子企画官にお越しいただいております。

 以降の議事運営につきましては、座長にお願いいたします。福井先生、どうぞよろしくお願いいたします。

○福井座長 それでは、本日はヒアリングでお越しいただきました鈴木先生、藤井先生、小島先生、米田先生、足元の本当に悪い日に当たってしまいまして恐縮ですけれども、どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、最初に事務局より資料の確認をお願いいたします。

○吉本医師臨床研修専門官 それでは、資料の確認をお願いいたします。

 まず、議事次第と座席表がございまして、それに続きまして、ヒアリング資料1として、日本小児科学会の見解、ヒアリング資料2といたしまして、産婦人科学会から御提出いただきました資料、ヒアリング資料3といたしまして、精神科七者懇談会から御提出いただきました資料。

 参考資料1、開催要綱、参考資料2、今回の御参考人の名簿、参考資料3、これまでの検討状況について、参考資料4としまして、研修の到達目標、参考資料5で、以前使用しました論点について、参考資料6として、卒前教育医師国家試験臨床研修専門医に関するスケジュールをおつけしております。

 また、委員の先生方の机の上には、机上配付資料といたしまして、関連する通知ですとか、以前、検討会で使用した資料などをまとめております。

 落丁などございましたら、事務局に御連絡をお願いいたします。

○福井座長 資料につきましてはよろしいでしょうか。

 それでは、本日は、前回に続きまして関係団体からのヒアリングということになります。先生方には恐縮ですけれども、15分程度のプレゼンテーションをお願いいたしまして、その後、15分程度の質疑応答の時間をとらせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 最初に、日本小児科学会の鈴木康之先生からプレゼンテーションをお願いいたします。

○鈴木参考人 日本小児科学会から参りました鈴木康之です。

 お手元の資料とスライドを用意させていただきました。日本小児科学会の意見を全て集約し切れているわけではありませんが、この数カ月でいろいろな意見を集約してまいりましたので、小児科学会としての考えを御紹介したいと思います。

PP

 まず、初期研修の小児科関連の到達目標の記載をずっと一通り見直してみました。このお手元の資料ですと1ページ目の下のところですけれども、初期臨床研修の小児科関連の到達目標部分と、モデルコアカリキュラムで書かれている小児科関係の臨床実習部分の到達目標を比較して挙げてみました。

 小児科は、現在、選択必修の中で、小児科としての子供を診るための能力がどの程度必要なのかという観点から見直してみますと、ちょっと具体性に乏しくて、子供を診るために何が必要なのかがやや見えにくいのではないかなと思います。

 例えば「小児の診察ができ、記載できる」というシンプルな表現になっているわけですけれども、初期研修2年が修了した時点で具体的にどのような診察能力が必要なのかという目標設定が必要なのではないかと思います。

 それから、経験目標として小児疾患5つほど挙げてございますが、現場を考えたときに無理のない目標ということでこういったものが挙げられているとは思うのですけれども、子供の疾患はこういったいわゆる急性のものだけではありませんし、子供を診るという基本を考えますと、例えば成長・発達をしっかり評価できるかとか、さらには新生児も含めて診る必要がないのかというようなことで、もう少し、疾患数ですとか症候についての充実が必要なのではないか。

 一方、先天性心疾患はもちろん重要な疾患ではありますけれども、これを現場で経験できるか病院によっては難しい部分もあるのではないかなということを考えました。「周産・小児・成育医療の現場を経験すること」という記載がありますけれども、この中にも成長・発達ですとか、予防医療的なワクチンですとか、昨今話題になっている虐待、そういった社会的な問題は医療だけではなくて、子供の立場に立った、代弁できる姿勢を養うというようなことをもう少し盛り込んでいただけるとありがたいなと感じました。

PP

 アウトカムですとかマイルストーンですとか、そういった設定がある程度必要になってくるのではないかということで考えますと、小児科学会では、ここに挙げたような小児科専門医の医師像というものを数年前から設定して、学会として取り組んでおります。こういったものをブレークダウンしていって、初期研修ではどういった能力、あるいは資質が必要か、あるいはもっと下がって、卒前ではどこまで必要なのかというそれぞれのレベルでのマイルストーンの整備を小児科学会としてはしていきたいと思っておりますので、こういったことを盛り込んでいただけるとありがたいなと思っています。

PP

 次のスライドはまだ完成版ではありませんが、小児科専門医のマイルストーンを、今、作成中です。これは一つの例として、子供を総合的に診療できるという一つの医師像なのですけれども、それをLEVELAからLEVELDまでそれぞれのレベルで今検討を始めているところです。

LEVELAは完成された専門医ですから、これは初期研修とはかけ離れていると思いますが、例えばLEVELCは、専門研修に入ってきた1年目ぐらいのマイルストーンということで今検討しておりますが、これを初期研修に適合できる形にはしていけると考えています。

PP

 小児科学会としては初期研修が始まった時から3カ月程度の研修が必要ではないかということをずっと申し上げてまいりまして、それに合わせた3カ月の目標設定を、これは2010年に改定したものですけれども、ずっと使ってきております。

PP

 では、初期研修に入る前の段階の学生がどういう準備状況であるのかということですけれども、実は卒前の小児科の実習というのは、諸外国と比べた場合に、かなり少ないということが以前からわかっております。2008年に小児科学会で調査したときには平均2.3週。今回、この夏にもう一度改めて調査いたしましたところ、全部の施設ではありませんが、平均して2.7週と少し上がってきておりますけれども、グラフで見ていただいてわかるように、2週間の卒前実習というところが圧倒的でございます。それに対して海外では6~8週、一部の国では最長14週というようなところもありまして、このあたりは歴然たる差が存在するということになります。

PP

 一例ですけれども、これはカナダの小児科学会が設定した卒前の臨床実習の目標です。カナダでは8週間の小児科臨床実習を行っておりますけれども、この中で26の小児の症候、それから189疾患については経験してほしいという目標です。日本とはかなりかけ離れておりますから、これがそのまま使えるとは思いませんけれども、こういった状況を考えますと、日本では卒前の教育だけでは全く不十分であって、初期研修をあわせて何とかこれに近づきたいと、そういう考えがあります。

PP

 これはこの夏に80の医科大学の小児科の主任教授にアンケートをとった結果でございます。現在の小児科研修と今後についてどう考えるかということです。必修化すべきである、必修に戻すべきであるという考えの方が60%、選択必修でよいという方が40%でした。これはやはり小児科学会の中でもいろいろな意見があるということは正直にお認めしたいと思いますが、選択必修で、なおかつ1カ月でよいと考えている方は全体の8%にすぎませんでした。

 必修化にちゅうちょする要因としては、やはり指導現場の負担、それからモチベーションの低い研修医がローテーションしてきたときどう対応したらよいかという戸惑いですね。そういったものがあるために、まだちょっと必修化にはちゅうちょしているという方が多いようでした。

 選択で希望する小児科研修医であれば、やはり2カ月ぐらいしていただくと小児のいろんな研修ができるのではないかということで、現実にそうやっておられる大学もかなりあるようです。一方、必修化すべきという意見の中では、「2カ月」が一番多いわけですけれども、「1カ月」がそれに次ぐ数値となっておりました。

PP

 今後の小児科の初期研修につきまして、全体としてはやはり必修科目に戻していただきたいというのが小児科としての希望です。理由としては、ローテーションせずに小児科の目標を達成しようとすれば、どうしても外来、救急、そういった現場での経験だけになってしまいます。そうしますと、やはりその場その場で一過性に患者さん、あるいは疾患を経験するだけに終わってしまいますので、大人とは違う子供の特性といったものをやはり感じて身につけてもらうためには、一定期間、小児科に在籍してもらったほうがはるかに有効であると。病棟もそうですし、同じ外来にしても、定期的にフォローできる、そのような利点もありますし、長く受け持つことで、子供の特性ですとか小児疾患の経過、特性、あるいは成長・発達の評価、子供や家族の背景をじっくり考えるといったようなことが深められるのではないか。これが最も重要な理由になります。

 理由2としては、卒前だけでは不十分である部分を補うためには、卒後研修で必修にして、それとあわせて、少しでも海外のレベルに近づく必要があるということでございます。

PP

 次は、いただいたデータを拝見しますと、小児科関連の目標の達成率が、ほかのものに比べてちょっと低下していたり伸び悩んでいたりということがございます。

PP

 小児科の研修期間につきましては、学会としてもいろんな考えがあるわけですけれども、必修期間としては最低1カ月。ただし、やはり有効な研修をしていただくためには2カ月以上の研修が必要ではないかということでございます。

 例えば2年間のうちに1カ月だけ、たまたま研修した期間が夏であったり冬であったりということで経験値が大分変わってきますので、1カ月×2回の研修をやっていて非常に効果的であるというような意見もありました。それから、初期研修が終わって、その後、専門研修に進んでいく方を考えたときに、小児科専門医、あるいは総合診療専門医となっていく方にはやはりより多くの研修をしていただきたいという希望が存在します。

PP

 それが次のスライドですけれども、例えば小児科専門医の志望者に対しては3カ月以上研修してほしい。6カ月以上と合わせますと、9割以上の方が、このぐらいの研修が必要で、そうすることでスムーズな専門研修への移行が可能であると考えています。

 また、総合診療専門医については、専門研修の中で小児科をどれだけ研修するかという議論が行われておりますけれども、やはり専門研修に入る前の段階である程度小児科の研修をしてもらいたいという希望が非常に潜在的にあるということがわかりました。

PP

 研修評価につきましては、小児科特有の何か特別なものがあるわけではありませんけれども、全体としてはやはり診療現場での能力評価といったものがより取り入れられる必要がありますし、現在、ちょうど専門医制度の中でそういったものを取り入れていくという動きですので、それに歩調を合わせるということで導入もある程度スムーズにいくのではないかなという期待を持っております。

 それから、EPOCにつきましては、使用しているところ、していないところ、いろいろございますけれども、今後はプログラム評価を主目的としたものである程度簡素化していただくと現場の負担は少し減るのではないかなと考えております。

 以上、小児科からの考えをお伝えいたしました。

○福井座長 ありがとうございました。

 ただいまの御説明につきまして、構成員の先生方から何か質問や御意見等をお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。

 ありませんようでしたら、私から口火を切ります。幅広く研修を受けていただくという意見に対して、しばしば、早い時期から専門に特化すべきだという御意見の先生方もたくさんおられます。小児科の先生方からごらんになって、初期研修で小児科のローテーションをして、最終的には、ほかの診療科に行った先生方が、小児科の研修を初期研修の時点で受けなかった医師に比べて、何か違ったところがあるというか、そういうことについての何かディスカッションなり御意見はございますでしょうか。

○鈴木参考人 具体的な根拠があるわけではありませんけれども、子供がどういう特徴のある存在であって、子供に対してどういう配慮なり態度なりを医師として示していく必要があるのかといった、単に何かの疾患を診断できる、治療できるということではなくて、子供を診られるというような観点からすると、やはり経験した人と、経験せずに行った人では多少違いがあるのではないかなという感触はあります。

○福井座長 ほかにはいかがでしょうか。

 田中先生、どうぞ。

○田中構成員 2点お伺いしたいのですけれども、まず1点目は、小児科は必修だった時代とそうでない時代があるわけですけれども、小児科が必修だった時代は必ずしも、小児科を回りたいとか小児科を経験したいと思わない人もいたと思うのですね。研修医で非常にモチベーションが上がらなくて現場で困ったというような意見が小児科学会の中であったのかどうかということはまず1つお伺いしたいのですね。

 それから2番目は、小児科の研修そのもの、研修の場ですけれども、非常に広範な場に及ぶかと思うのですけれども、例えば子供がふだん来るのはクリニックとかそういうところだと思うのですね。そういうところのほうが研修の場としてふさわしいとお考えなのでしょうか。それとも病棟を持っている病院のほうがいいというお考えなのでしょうか。

 2点教えていただけますか。

○鈴木参考人 まず、モチベーションについては先生の御指摘のとおりで、このデータにも先ほどちょっと御説明しましたけれども、選択必修でよいと考えておられる先生方の、全てとは言いませんが、ある程度多くの方はやはりモチベーションの低い研修医が来て困ったというような経験をお持ちのようですね。そうであれば、むしろ例えば全体の半数でもいいので、より小児科に興味のある人たちをじっくりと研修してもらいたいという気持ちもあるようです。

 ただ一方で、先ほど言いましたように、卒前での小児の臨床経験というのは余りにも貧弱だと思うので、そういう中で1カ月間しっかり小児科に在籍する。毎日毎日子供を診て、毎日の変化を診るということがやはり重要なのではないかなと。

 2つ目の御質問の研修の現場ということにも関係してくるわけですけれども、確かに一部の大学ではかなり高度先進医療に特化しているものですから、患者さんがかなり偏っている大学も、小児科でもやはりあります。例えば悪性疾患がほとんどであるというような大学もありますが、必ずしもクリニックがいいのかというところについてはきょうの段階ではどちらがいいとはなかなか言い切れない部分があると思うのですけれども、例えば大学でも市中病院とたすきがけをやって、小児については市中病院で研修している方も結構いると思います。また地方の大学ですと大学病院といえどもかなりの領域をカバーしていろんな患者さんが来る大学もあるので、大学だからといって一律に比較もできないと思います。毎日子供さんを診ると、きのうときょうと違うと。1週間たったら全然違う、あるいはその間に子供とじっくり話をしたり家族と話をすることで子供や家族のいろんな背景を理解するということに重点を置いたほうがいいのではないかなと。私の個人的な考えもありますが、そういう意味で、必修化してもらって、研修先としてはどちらがどちらということではなく、こだわらずにどこででも受けていただくといいのではないかなと思います。

○福井座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょう。

 小森先生、どうぞ。

○小森構成員 どうもありがとうございました。

 既に御承知だと思いますけれども、平成22年から26年にかけて臨床研修を終えようとする方々に対するアンケートで、研修前に希望する、研修後に希望するかというのが、例えば今日お見えの中では精神科はふえていますし、産婦人科が1%ぐらい低下して、小児科が研修後に希望される方が2%ぐらい減っているというデータが安定してといいますか、ずうっと5年間出ているのですが、その理由について小児科学会の中で議論されておられたら教えていただきたいなと思います。

○鈴木参考人 小児科の希望者が減少しているということについての議論は特に私は知っておりません。ただ、一時期に比べて少し持ち直してきているのではないかなという認識があり、専門医の受験者も年々ふえていますので、アンケートのデータとちょっと食い違いがあるかもしれませんけれども、余りその点は議論しておりません。一時期はかなり危機感を持っていたのは事実です。初期研修が始まったころ、小児医療の偏在といったこと等話題になりましたので。そういう議論は最近ではありません。

○福井座長 金丸先生、どうぞ。

○金丸構成員 ちょっと感想になってしまうのですが、必修化を希望する理由の1のところがちょっと目にとまりました。まさに子供は大人のミニチュアでないということが一番の肝ではないのかなと思ったところです。つまり、このことは、小児科に限らず、あらゆる科の普遍的なベースとなる部分ではないのかなと思います。つまり、ここを経験することが、いろんな科においても一番の入り口にもなるのかなと考えます。私たちは山間僻地の地域医療の現場にいます。1カ月の必修のローテーションの現場の一つですが、研修でこの地域に暮らして、そこで診療することで医療の原風景を深めていくということにも通じると考えております。まさに小児科研修の意義とも共通する部分を持っているのではないかと思っております。繰り返しになりますが、子供は大人のミニチュアではないということが大事なポイントかなと思ったところでした。

 以上です。

○福井座長 ほかにはいかがでしょうか。

 どうぞ。

○伴構成員 今の金丸先生の御意見にちょっと関係するところがあると思うのですが、小児科に限らず、地域医療という必修のローテーションがあるのですけれども、そこでは多くの場合、内科、小児科という診療をされているところに研修に行かれる、あるいは研修を計画する場合が多いと思うのですけれども、そういうところで、今、1カ月やっているところが結構多くて、そこをもっと3カ月とか4カ月とか延ばすと、外科的なことも経験できるし、小児科的なことも最初の初期段階で経験できるしということも考えられると思うのですけれども、そのようなオルタナティブに関して先生はどのような御意見をお持ちでしょうか。

○鈴木参考人 これも私の個人的な考えになるかもしれませんけれども、初期研修の一つの問題点として、1カ月単位で細切れのローテーションに実質なっている部分がありますね。これですと、せっかく慣れたころにまた次へ行く、それがまた研修医のストレスにもなっていると思いますので、3カ月間ぐらいじっくりと研修をするという方向性は、私は非常にいいアイデアだと思います。その中で、ただ、小児科の立場としては、その3カ月で常に小児科専門医と小児科指導医と触れ合えるような環境が保証されると、場所としては診療所かもしれませんけれども、子供の特性をいろいろ学んでいくという指導体制ができれば、それはそれで非常にいいかなとは思います。

○福井座長 ほかにはいかがでしょう。

 清水先生、どうぞ。

○清水構成員 御丁寧な説明、ありがとうございます。御説明いただいた必修化にちゅうちょする要因の中のモチベーションの低い研修医という点についてお聞きしたいのですけれども、研修する側にジェネラルな研修をしたいという要望があって、研修させる小児科の先生方の中に小児科について勉強してほしいというニーズがあるのに、そのモチベーションが低いというのはどの点にあるとお考えでしょうか。研修医のほうが小児科の研修に対して余り乗り気でないのか、それは小児科に限っていることなのか、自分の希望する専門科でないからそう思っていらっしゃるのか、その辺のことをもう少し詳しくおわかりでしたらお教えいただきたいと思いますが。

○鈴木参考人 それは双方にも問題があるのかもしれませんけれども、私の耳に入ってくるいろんな先生方の御意見としては、初期研修の中である程度自分がやりたいものが決まっていたりすると、小児科は別にいいとか、特定の科を中心に研修したいという方がいるので、そういった方はモチベーションが一般的に低い。同じ小児科に研修に来た人の中にもいろんな考えの研修医がいる中で、なかなか一律に扱いにくいとか、そういった意見があります。一方で、小児科も忙しい現場なので、しっかり指導できてないことに研修医が何かを思っているのかもしれません。どちらだけの原因というわけではないのではないかと思います。

○福井座長 ありがとうございます。

 それでは、古谷先生、どうぞ。

○古谷構成員 今お話を聞いていると、小児の特殊性について学んでほしいということと、バックグラウンドとしての家庭環境であるとか地域環境をうまく学んでほしいということが主体のように聞こえているのですけれども、その場合、例えばどのようにしてそれを評価していくのか、研修医がそれを達成できたと評価していくのかということに関して何か御議論ありましたでしょうか。

○鈴木参考人 正直、まだそこまでの深い議論はしておりませんが、評価を本当に総括的にするのか、形成的にするのかということによってもやり方が変わってくるとは思うのですが、やはり指導医なり医療チームの方から観察評価をしてもらうという現場での評価ということですね。360度評価のような。

○古谷構成員 多分、それなりの期間が必要と考えられている背景として、そういったことを獲得するのにそれなりの期間がかかるというようなことが念頭にあるのかと思うのですけれども、そうした場合に、どのように教えるかということもそうですけれども、最終的にどう評価していくのかということが見えてくると少し目標としても明確化できるのではないかなと思います。

○鈴木参考人 そのあたりはまだこちらも十分議論ができておりませんので、参考にさせていただきたいと思います。

○福井座長 中島先生、どうぞ。

○中島構成員 ごく簡単なことなのですけれども、地域医療を支えるときに、救急と小児科と周産期医療は絶対なかったら困る科ですね。教授の先生方がお集まりになった場で、そういうことも念頭に置きながら、学生教育、卒後の教育をやっていっているのかどうかというようなディスカッションはあるのでしょうか。

○鈴木参考人 私、今、小児科に所属しているわけではないのですが、小児科学会の中でのチェアマン会議などの議論では、やはり地域で診ていくときに子供を診るということが必須であるという考えは本当に強いものがあります。それで、初期研修についても恐らく小児科のチェアマンの方の多くは必修化すべきというお考えが強い方が多いのだろうと思います。回答した方が必ずしもチェアマンではないかもしれませんけれども、そうはいっても、やはり現場のことを考えて非常に悩んでおられるというか、板挟みになって、選択必修もやむなしと現実的な選択をされている方もいらっしゃるのかもしれないなと思いました。

○福井座長 よろしいでしょうか。

 それでは、最後に1点だけ。私は、金丸先生がおっしゃったことがほかの診療科に行く医師にとっては最も重要だと思います。大人と小児は違うのだということの違いを身をもって経験しておくということが必要だと思うのですけれども、その場合に、1カ月ぐらいのローテーションであれば、最低限必要な小児科の基本的な考え方を身につけるのに十分でしょうか。

○鈴木参考人 それは必修派も選択必修派も2カ月が一番多数派なのですね。ということはやはり2カ月ぐらい欲しいと思っている方が実は多いのではないかなと。私の感触としても、1カ月だと表面的なことを何とかやるので精いっぱいかなという感じはいたします。そこでやはりジレンマになって、必修化して、では2カ月、小児科で全部ということが受け入れられるかなと。受け入れたはいいが指導ができなかったではやはりまずいなと考えていらっしゃる人もいるのではないかなと思いまして、1カ月はあくまでミニマムであって、望ましいのは2カ月ぐらいというのが何となくコンセンサスとしては見えてくるような気がいたします。

○福井座長 最後にお願いしたいのは、将来、小児科になる医師にとって、初期研修でどういう研修が必要なのかという話と、ほかの診療科に将来行く医師にとって小児科をローテーションして必要な事柄を学ぶにはこうなのだという、2つの側面でぜひ御検討いただければと。

○鈴木参考人 そうですね。それは両方に対しての指導が必要かなと思っております。

○福井座長 どうもありがとうございます。

 それでは、次に移りたいと思います。日本産科婦人科学会の藤井知行先生から御説明をお願いいたします。

○藤井参考人 きょうは貴重なお時間をいただきましてありがとうございます。日本産科婦人科学会の藤井でございます。

 私、立ってしゃべるほうがいつもの感じがしていいので、立ってしゃべらせていただきます。

 まず、産婦人科という学問といいますか、領域なのですけれども、産婦人科というと、古典的な産婦人科学というのは、お産であるとか、不妊症であるとか、あるいは子宮がん、卵巣がんという女性の生殖にまつわる機能とか臓器の生理、病理というものを扱う学問であったかと思います。しかし、近年の産婦人科学、現代の産婦人科学はそうではなく、思春期から生殖器、妊娠中、更年期、そして老年期に当たる女性のライフステージに合わせて、女性の健康を包括的に捉え、その健康管理に責任を負うという学問に変化してきております。

 先ほど小児科の先生から、小児は大人のミニチュアではないというお言葉がありましたが、女性は男性と全く違います。産婦人科の固有の生殖の臓器に関することだけではなくて、こういうことがそもそもの原因にはなりますが、全身、全ての疾病、健康に影響を及ぼしている、そういうことを理解する、女性と男性は全く違うのだということを理解するのに産婦人科の研修は必要であると考えております。

PP

 まず、そういったことの背景でございますが、我が国の女性の社会進出は非常に増加しております。これは年齢階層別の労働力の推移でございますが、青の昭和50年に比べまして、黄色の平成24年を見ますと、全ての年齢におきまして女性が社会進出をしております。

PP

 それから、少子化という問題が現在ございまして、この出生率の推移ですが、第1次ベビーブーム、第2次ベビーブーム、この辺が第3次ベビーブームではないかと言われているのですが、その辺ははっきりしなくて、合計特殊出生率も、2005年は1.262011年は若干回復して1.39でございます。まだまだ人口がふえていく境目である2.03には程遠いという状況であります。このままでいくと我が国の人口はどんどん減っていってしまうであろうという状況にあります。

PP

 また、結婚が遅くなっておりまして、図3というところでございますが、年齢階層別、男もそうですが、初婚年齢がどんどん上がってきております。それから、それに伴いまして子供を産む年齢もどんどん上がってきている。それから、未婚率というのもそれに合わせてふえてきております。女性の初婚年齢は28.8歳、女性2529歳の未婚率は60%、第1子出生年齢は現在29.9歳になっております。

PP

 また、健康に重大な影響を及ぼす喫煙でございますが、男性の喫煙はこのように順調に下がっております。女性の喫煙も多少は低下傾向なのですが、それほど低下していない。特に2029とか3039、労働だとか、あるいは出産をするような年齢におきまして余り下がっていないという感じがあります。

PP

 つまり、女性のライフスタイルというものは劇的に変化しまして、1990年代から女性の社会進出とキャリア形成志向が顕著となり、世界経済のグローバリゼーションの中で、多くの家庭で女性も働かざるを得なくなっております。こうしたことが、我が国の女性の晩婚化、晩産化、少子化の主要要因になっております。働く女性の晩婚・晩産化と社会環境、こういうことが女性の健康に大きな悪影響を与えております。若い女性、特に2030歳代女性の健康が障害されまして、妊孕能、これは妊娠する能力ということでございますが、の低下を招く結果となっております。こうしたことが我が国の少子化に拍車をかけております。

PP

 こういう晩婚化・晩産化によりまして女性固有の疾患が増加しております。Common diseaseとしては子宮内膜症。子宮内膜症なんて、多分ほかの科の先生は、そんなの産婦人科の病気だよと考えてしまうと思うのですが、若い20歳代から30歳代の女性の10%、月経痛を訴える女性の25%、不妊女性の50%、そんなに珍しくなく、日常的に遭遇する、あるいはかかってしまう病気であります。先ほどから言っております晩婚化・晩産化というのがこの大きな原因になっていると言われております。

 また、子宮筋腫も増加しておりまして、若い2030歳代女性の20%。この病気は、御存じのとおり、過多月経、月経痛、不妊の原因になります。

PP

 それから、ワクチンの問題でいろいろありますけれども、子宮頸がんの発症も著しく若年化しております。これが1985年のグラフで、赤が2005年でございますが、現在、一番子宮頸がんが多い年齢というのは2544歳であります。私どもの病棟でも、子宮頸がんの患者だけは非常に若い、30歳代の患者さんが入院しているという状況になっています。

PP

 子宮頸がんというのは、若い、20歳から30歳代の女性のがんで最も多くて、罹患率、そして死亡率ともに増加傾向にあります。

PP

 子宮体がんも増加しておりまして、頸がんも今増加しているのですが、体がんの増加は非常に著しくて、とうとう、浸潤がんでの比較では子宮体がんの罹患率は頸がんを超えております。また、45歳未満というのは、子宮体がんは少ないのですけれども、徐々に増加しております。

PP

 つまり、若い20歳代から30歳代、労働をし、子供を産み育てる、こういう世代の女性の健康が非常に心配な状況になっております。晩婚・晩産化から子宮内膜症がふえ、子宮筋腫がふえて、月経困難症、性交痛、過多月経、貧血、これはとりもなおさずQOLの低下を招き、妊娠する能力の低下を招き、不妊症がふえ、あるいはそういうことから卵巣がんがふえるということにもつながります。初交年齢の若年化、喫煙が減らないということでも子宮頸がんや前がん病変が増加して、若年化して、頚部円錐切除ということがふえますと、流産、早産がふえる。それから、子宮が摘出されてしまうということがふえると、妊娠能がなくなってしまう。過剰なストレスやダイエットから、月経不順、無月経で妊孕能の低下、子宮内膜症増や子宮体がんの増加ということにつながります。

PP

 つまり、若い20歳から30歳代女性のヘルスケアは喫緊の課題でございまして、プライマリケア研修で習得すべき必須項目でございます。非常に多くて、どの科に行ってもこういう悩みを訴える女性は来ると思います。

 今度、就労についてですけれども、年齢別の月経痛の頻度を見ますと、20歳代では85%、30歳でも8割、81%に月経痛があります。「就労状況別月経痛への対応」を見ると、就労者の37%、3分の1は月経痛への加療が必要な状況になっております。

PP

 これはアンケートですけれども、自分の月経痛がどのように自分に影響しているかということを見ますと、就労者の9割が、月経痛が何らかのQOLの低下を呈すと回答しております。

PP

 それから、就労とホルモン。女性は、男性と違いまして、変化するホルモンに健康状況が左右されております。これは20歳から40歳までの規則的な月経周期を有する看護師、これは夜勤がある方々ですけれども、こういう方で調べた調査の結果でございます。就労によって各ホルモン値に影響を与えて、特にプロラクチンという排卵障害や月経不順の原因になるようなホルモンも影響しております。

PP

 更年期症状ということで、若い人でも更年期症状がふえていて、月経前症候群が多く含まれていると考えられております。

PP

 月経困難症、月経前症候群、更年期症候群はcommon diseaseでありまして、非常に多い病気です。女性のほとんどが月経やホルモン状態に起因する諸症状に悩まされていて、特に就労女性への影響は大きく、その一方で社会の理解は不十分と言わざるを得ません。医療者というのは女性の苦しみを十分に把握して、女性診療に当たる必要があります。産婦人科の専門になった産婦人科医だけでなくて、全ての医療者にこの認識がなければ女性の診療はできない、男と同じように対応していてはいけないということになります。

PP

 それから、閉経いたしますといろいろな器質的疾患が惹起されまして、それは閉経年齢が早いほどリスクは高まってまいります。そして、下のほうはほかの方も大きく関係しますけれども、各年齢ともに閉経女性のほうが心血管イベントのリスクが高いということでございます。

PP

 それから、ホルモン補充療法というのが行われておりますが、WHIというところのスタディで、HRTは、血栓塞栓症とか脳血管イベント、心血管イベント、乳がんを増加するとされました。これについてはいろいろな意見があって、このHRTの投与方法を経皮投与にすれば心血管イベントは低下するということにもなっております。

PP

 そして、大事なことは妊娠でございます。妊娠は妊娠のときだけで終わらない。妊娠合併症が将来の内科疾患のリスクとなる。例えば妊娠糖尿病、妊娠中に糖尿病になった方というのは、将来、糖尿病になりやすいということがわかっておりますし、

PP

妊娠高血圧症候群というのになった方は、やはり将来、高血圧症になったり、脳卒中になったり、心疾患の発症リスクが高いということがわかっております。

 つまり、女性に発症する疾患は産婦人科的の病態と綿密な関連性がございまして、女性の心血管、脳血管イベント、骨粗鬆症などのQOLを左右する重大疾患は閉経や妊娠合併症に関連するものが多い。疾患の発症リスクを理解することで、早目の介入が可能となります。医療経済上、安価なHRTの使い方次第で発症リスクを低下させることも可能でありまして、女性の場合には生活習慣病と考えられる疾患も、産婦人科領域の疾患の理解が不可欠ということになります。

PP

 そこで、これから臨床研修の到達目標、産婦人科にかかわる項目でございます。現代の到達目標を見させていただきますと、まず、最初の項目、経験目標の経験すべき診察法・検査・手技ということにつきましては、産婦人科疾患に対応する診察の習得の必要性が十分に記載されていると考えます。

PP

 その次の経験すべき症状・病態・疾患というところに、まず妊娠分娩と生殖器疾患というところで妊娠分娩のことが書いてあります。これについては正常妊娠・正常分娩以外にも、予防医学の観点から学ぶべき疾患があります。それは妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群のような、将来の内科疾患のリスクになり得る妊娠合併症の理解は、女性を診る全ての医師に必要です。妊娠中だから、自分の領域のcommon diseaseの治療ができない医師が多いのは困ります。

 極端な例でございますが、以前、頭を打って意識不明の交通事故の妊婦さんが担ぎ込まれてきたとき、脳外の先生が、妊娠中だから産婦人科で診てくださいと、そういうこともありました。また、最近は風邪を引いて内科の病院に妊娠中に行くと、いやあ、妊娠中だからわからないから産婦人科に行けと。これでは困るのですね。全ての方がやはりそういうことも理解していただかないと困ります。

PP

 それから、その次の女性生殖器及びその関連疾患というところで、女性医学のcommon diseaseが明確に書かれておりませんので、月経困難症や月経前症候群、過多月経、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮頸がん、不妊等の女性のライフスタイルの障壁となる疾患を前面に出した経験目標の認定が必要と考えます。

PP

 これが最後ですけれども、「女性のヘルスケア」は臨床研修の必須項目で、医師が専門分野にかかわらず「一般的な診療において頻繁に関わる疾病に適切に対応できる」という観点から、研修医が臨床研修で、女性固有の生理的、肉体的、精神的変化を理解して、一定の診療能力を身につけることが極めて重要です。

 先ほど小児科の先生も必修化が必要だと考えるということでしたが、産婦人科もそう考えておりまして、臨床研修のできれば1年次に、産婦人科研修を必ず1カ月行って、以下の目標に到達しなければならないということを述べたいと思います。

 行動目標としては、女性のヘルスケアを身体・心理・社会的側面から把握できる。女性固有の問題点を把握し、対応できる。経験目標としては、経験すべき診察法・検査・手技としては、内診、ホルモン検査、経膣超音波検査、腹腔鏡。経験すべき症状・病態・疾患としては、無月経、月経困難症、過多月経、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮頸がん。特定医療現場としては、子宮頸がんを初めとするがん検診について説明できる、禁煙の必要性を説明できるということでございます。

 それから、周産期医療はもう本当に人がいなくて、今後、集約化とかいろいろ学会としても考えておりますけれども、本当にいなくてどうしようもなかったら総合診療医などという話も伝え聞いております。それについては私ども必ずしも是とはしていないのですが、それでも、そうせざるを得なくなったときにお産を一度も診なかった医者が、内科の検診ばかりやった総合診療医がお産ということをやるなどということは本当に可能なのかということがございますので、やはり全ての研修医が産婦人科の初期研修をやるべきと考えております。

 以上でございます。ありがとうございました。

○福井座長 ありがとうございます。ちょうど15分でプレゼンテーションしていただきました。

 それでは、ただいまの御説明につきまして、質問、御意見等お願いいたします。

 古谷先生、どうぞ。

○古谷構成員 お話をお聞きしまして、非常にプライマリケアの部分のcommon disease、女性のヘルスケアに関することを前面に言っておられ、それは非常に重要な部分であると、私も総合診療医なので認識しております。ただ、研修の場としては、現在はどうしても病棟中心になっていくのですけれども、今度は外来での診療とか外来での経験ということがかなり重要視されるべきとも受けとめられるのですが、いかがでしょうか。

○藤井参考人 先生のおっしゃるとおりで、研修医というと病棟にいるイメージがあるのですけれども、産婦人科においては、例えば今まででも、不妊治療とか、それから最近は女性ヘルスケア外来なんてやっている病院も多いのですけれども、そういうところでは研修医が外来に出て一緒に外来をやっているという病院が出てきている状況ですので、病棟に限らず、外来というのもその研修には必要だと、特に産婦人科は考えます。

○福井座長 田中先生、どうぞ。

○田中構成員 東京医科歯科大学では学生はハーバードのクラークシップに出しているのですけれども、アメリカでさえなかなかウィメンズクリニックには学生は回れない、あるいは診察を拒否される場面が多いと聞いているのですね。アメリカは非常に患者さんの協力が得られやすい環境だと思うのですけれども、日本で、今の時点でもいいのですけれども、そういう協力は得られるのでしょうか。

○藤井参考人 先生の本当におっしゃるとおりで、学生実習につきましては、患者さんは総論賛成、でも、自分には嫌だよという方が非常に多くて、内診とか、実際見学すら嫌がる方がいらっしゃいます。だからこそ研修で回るのが大事でございまして、医師だと言うと、研修でも、医師であるとすると、そもそも研修医だから診ていいですかということは余り言わないわけです。医師なので、そういうことがちゃんとできる。

 でも、学生だと、参加型実習を取り入れようとはしていますし、大学病院ですと、こういう病院ですよと言っていますけれども、やはり嫌だという患者さんもいらっしゃいます。そういう意味でも、全員が産婦人科診療を学ぶためには研修の場が必要であると思います。

○福井座長 ありがとうございます。ほかには。

 金丸先生、どうぞ。

○金丸構成員 先ほどと同じことなのですけれども、小児科と同じように、これは精神科もそうだと思ってはいるのですが、まさに先生のコメントにありますように、医療者は女性の苦しみを十分に理解する、つまり女性の特性ですね、男と女は違うのだといういろんな説明を通して、ここに記載してあるとおりなので、やはりそこを経験するということは、先ほどの小児科と同じように、大事な一番のところではないのかなと改めて思ったところでした。

 ありがとうございました。

○福井座長 何か加えること、先生、ございますか。

○藤井参考人 本当にそのとおりでございまして、産婦人科は女性の味方というのがモットーでございまして、そういうことで、今、法律のほうでも与党のほうから女性の健康支援法案が出る、国会状況でどうなるかわかりませんけれども、ということで、社会でもやはり女性の健康を包括的に支援しようという方向に動いています。しかし、肝心の医者が産婦人科医でないというだけでそういう理解がないのではやはりなかなかうまくいかないと思いますので、全ての医師が女性の健康の特性ということを知るために、またそのもとになっているホルモンとかそういうことを理解するということが大事だと思っています。

 以上です。

○福井座長 中島先生、どうぞ。

○中島構成員 本当にありがとうございました。小児科、産婦人科、精神科がともに共通していることについては今まで委員の方々がおっしゃったとおりなのですけれども、あえて突っ込ませていただくと、ずっとおっしゃっていること全てよくわかるのですけれども、これらは卒前教育で徹底してたたき込むべきことではないかなと思うのですね。あえて初期臨床研修の中でやらなければいけないということの理由が1つ。

 それからもう一つ、その中で、総合診療医が将来産科を担っていく、お産を担っていくとしたら、総合診療医が、それにはちょっと問題があるとおっしゃったように、やはり産科、お産するというところにもっと力点を置いてもいいのではないかなとちょっと思ったのですけれども、その2点、いかがでしょうか。

○藤井参考人 まず、卒前教育でできないかということで、本当にそのとおりでございまして、先ほど言った実習がやりにくいとかいうこともあるし、大学ですので、2週間ぐらいしか回ってこれなくてということでどうしても十分な時間がとれないということがございます。ただ、残念ながら、実は医学部で産婦人科を学ぶ前の学生に、何科になるかということ、あるいは何科になりたくないというアンケートをとると、3分の1くらいの学生が、まだ学んでもいないのに、産婦人科だけはならないと。

 それはどういうことかというと、やはり産婦人科はきついとか、ある意味ではちょっと誤った、正しくないようなイメージがついて回っている。それをなかなか学生の間で払拭するのは難しいということがございまして、研修で、短くても1カ月は回ってくれますので、それから、先ほど言いましたように、学生と違って医師ですから、いろいろなことがそんなに制約なくできる。もちろん初期研修でできないこともあるわけですけれども、そういうことで、学生のときに十分にできればいいのですけれども、初期研修を全員させることによって学ばせることができるようになると考えています。

 それからもう一つ、総合診療医の問題ですけれども、お産って、何事もなく、いわゆる正常産は助産師がやればいい。本当にそのとおりですけれども、正常産って終わってみて正常産なのですね。いきなりとんでもないことが起こるのがこのお産の特徴ですので、終わってみないとわからないという意味で、何かあったら対処できるということができないと、多分、お産の管理は怖くてできないのではないかと思います。そのときに、総合診療医が将来お産をもしもやるのであれば、何か起こっても対処できるぐらいの産科の能力をつけてないと難しいのではないかと思います。

 だから、なるべく総合診療の先生方のお手を煩わせないように産科の中でできるような体制を組みたいと思うのですけれども、何ぶんにも数が少ないとか、地域それぞれの問題があってなかなか難しい。それについてはまた学会のほうでも全力を挙げて取り組んでおります。

 以上です。

○福井座長 ほかにはいかがでしょうか。

 片岡先生。

○片岡構成員 産婦人科の重要性ということは本当に御発表のとおりだと思います。人口の半分が女性ということで、女性をきちんとトータルに診られるということがいかに大事かということは全くそのとおりだと思います。先ほど古谷先生もおっしゃったのですけれども、それでは1カ月病院で学ぶのがベストなのかというのは、課題があるところだと思います。御提案したいこととしては、到達目標として必要なことは十分盛り込まれているのかもしれませんが、1カ月の内容としてはやや広いのではないかと思われますので、女性のトータルヘルスケアという意味で全ての人が学ぶ内容のミニマムは何かということを打ち出していただいたらわかりやすいのではないか、ということです。人口の半分の健康を守るために全ての研修医が学ぶ必要があるのだというメッセージがより伝わりやすいのではないかと思いました。

○福井座長 ありがとうございます。

 小森先生、どうぞ。

○小森構成員 ありがとうございました。

 その前に、総合診療専門医に関する議論で、機構で担当理事もしておりますので、少なくとも当面は総合診療専門医がお産を担うという議論はあり得ない話ですので、その議論はあくまで地域によって産婦人科の専門医の方につなぐまでの間にある程度のことは診られるようにしたいねと、そういう議論です。今、片岡先生がおっしゃられたことに全く同感しておりまして、私、先生の御指摘は本当にそのとおりだと思うのですが、であれば、この到達目標のところに、小児科の先生と同じように、女性をトータルに診られるという視点を盛り込んではどうかなとちょっと思ったのですね。きょうの先生の御指摘の中には、こうしてほしいという中には盛り込まれていないのに私から言うのは変なのですが、そういうことを産婦人科学会としても御検討いただいて、またこの部会等々に御意見をお寄せいただければありがたいかなと思って拝聴いたしました。

○福井座長 ほかにはいかがですか。

 前野先生。

○前野構成員 大変貴重なお話、ありがとうございました。確かにおっしゃるとおりだと思うのですが、1カ月であるということ、それから、全国8,000人から9,000人の全員が研修しなければいけないということを考えた場合に、さっき片岡先生が言われたように、「望ましい」と「必ず」というところの仕分けはすごく大事だなと思うのですけれども、その中で、実際の経験目標はどれぐらいがミニマムとお考えなのかお聞かせください。

 例えば経膣超音波は将来産婦人科に行かない人も全員が手技としてやるべきなのか、あるいは典型的な画像が読めればいいのか。特に内診は、専門に行かない人がやる機会は将来的にほとんどないと思うのですけれども、先生がさっきおっしゃったような女性のヘルスケアを全部の医者に理解してほしいという観点から、どれぐらいこの手技的なところをミニマムとお考えか教えていただきたい。

○藤井参考人 具体的に言いますと、内診と経膣超音波はやはり全ての人ができないと具合が悪いと思います。といいますのは、おなかが痛いと若い女性が来たときに絶対忘れてはいけない病気に異所性妊娠がございますが、これは婦人科的な診察をしないとわからない。もちろん、産婦人科を呼べばいいのかもしれませんけれども、産婦人科がいない、内科の開業の先生のところに来たときに、妊娠反応をやって、おなかが痛いと。そうすれば何とかなるかもしれないのだけれども、内診が少なくともできれば、そこで子宮のところに圧痛がある。経膣超音波ですが、実は超音波というのは聴診器なのですね。

 今、産婦人科診療におきまして、超音波なしの診療はもうない。あり得ない。若い先生は内診能力が実はちょっと落ちてきていて、超音波に頼り切っているところがあるぐらいなので、内診と経膣超音波はやはり全ての医師ができるべき能力だと考えます。ですので、今まで産婦人科固有のもので、ほかの科の先生はやらなくてもいいじゃないかというものも実はやはりかなり必要ではないかと思っています。ちょっと具体的なことで難しいのですが。

○福井座長 伴先生。

○伴構成員 私も、アメリカで分娩をやって日本に帰ってきて、でも、日本の患者さんの受けとめから見て、日本では直腸診と腹部超音波の組み合わせが限界なのかなあということを思って、総合診療の研修医にはそのように教えているというのが今の藤井参考人の御意見に関連するコメントなのです。私の直接質問したいことはちょっとそれと違うのですが、先生には教育システムについていろいろな内容を非常にクリアーにプレゼンテーションしていただいたと思うのですが、どういうことを、どれぐらいの時間をかけて教えるかということのほかに、誰が指導医として教えるかということと、どういう場で教えるかということが大事だと思います。先ほどの小児科の鈴木先生に御質問したのと同じことになるのですけれども、1つは、今のような形ですと、地域で中小病院で、ブロックの産婦人科でなくて、そこで産婦人科的な、あるいは腹痛の人が来たときに、産婦人科の先生とも容易にコンサルテーションできるような環境で、地域医療を長目にやったほうがいいのではないかと。卒前教育でもできるだけ、ブロック研修は学生、研修医にとってもストレスになるし、実習の期間を長目にやろうという提案が少しずつ主流になりつつあると思うのですけれども、それが1点。

 それからもう一つ、指導医養成講習会なんかでいろいろな科から出てこられる先生方の中に、産婦人科の先生はやはり、分母も少ないというのもあると思うのですが、少ないのですね。そうしますと、今の指導医の先生方がどれぐらい産婦人科学会として、いわゆる臨床研修指導医としての資格をとることを推奨されているのでしょうか。そういうことも含めて、先ほどの小児科学会の資料で出ていましたスライド7の、選択必修ならいいけれども必修はちょっと無理だと思われている方のそれぞれのパーセンテージはどうでしょうか。

○藤井参考人 それは学生のほうですか、医者のほうですか。

○伴構成員 指導医のほうです。

○藤井参考人 指導医のほうは、今はみんな必修がいいと思っています。少なくとも学会を構成しているような人たちは大体そうです。確かに私たちも反省しなければいけないのは、とにかく人がいないから忙しい。忙しいので、なかなか指導に手が回らないということが今まであったわけですけれども、そういうことが、例えば研修を実際に回ってきたけれどもよくなかったなんていうアンケート結果になったかと思いますので、今、そういうことはいけないということで、そういうことがないようにしているということでございます。

 臨床研修指導医は、例えば私も持っておりますが、産婦人科医もそれなりにとっていると思うのですね。多分、それぞれの研修病院が臨床研修指導医が何人かいないととれないから、とることを推奨しているので。

○伴構成員 データとしてはお持ちですか。

○藤井参考人 データとしては、残念ながら、全国のではないです。それはちょっと調査いたします。

○伴構成員 特に、今先生おっしゃったみたいに、産婦人科のトレーニングというのは実践も大事ですけれども、なかなか実践ができなくてシミュレーションで補わないといけないとかいうところとの組み合わせなど、より工夫が要る科だと思うのですね。

○藤井参考人 シミュレーターも、産婦人科につきましては非常にいいものが開発されてきておりまして、超音波もそのシミュレーターに当てると中の胎児が見えるとか、胎児の心拍数が出てくるとか。残念ながら、1,500万とか、とんでもない値段する機械なのですけれども、大きな病院でお金があるところではそういうのをちゃんと導入してやっているところもあります。

○福井座長 ありがとうございます。

 高橋先生、どうぞ。

○高橋構成員 詳細な、アップデートの発表、ありがとうございました。非常に勉強になりました。先ほどの質問にもあったのですが、学生さんだとなかなか、婦人科的な、産科的な診察が難しいとおっしゃっていたのですけれども、うちの施設ですと、研修医でも患者さんから診察を嫌がられることがあります。産婦人科学会では、研修医に対する教育として、例えば内診であるとか、先ほど出ました経膣超音波であるとか、学会としては研修できると考えていらっしゃると理解してよろしいのですか。

○藤井参考人 学会というか、みんなそういう方向でやっています。ただ、本当に研修医はやらせてはいけないというのをやっている病院はないと思うのですね。患者さんが研修医と知って嫌だと言う人はいるかもしれませんけれども、それはやはり学生に比べればずっと少なくて、研修医は医者ですという形で、そもそも一々研修医だからと余り断らないでやっていると思います。若い先生に聞かれたら研修医ですと言うと思いますけれども、だからといって、余り嫌だというのは、学生とは違うと思います。学生だと、本当に嫌だと、診られるのも嫌だという人もいるというのは大学病院ですらありますけれども。

○高橋構成員 実際に8,000人ぐらいの卒業生がいて、その全員が内診や経膣超音波といった診察法や検査経験を必修にしたとすると、それなりの御理解というか、いわゆる専門研修とか専門医ではなくて、医師免許は持っていても勉強途中の研修医という医師がそういう検査をするということについて、何か患者さんに同意とかは要らないものなのでしょうか。

○藤井参考人 研修医は、僕はあえて要らないのではないかと思います。だって、医師ですから。

○高橋構成員 ありがとうございます。

○福井座長 ほかにはいかがでしょうか。

 よろしいですか。

 私も、高橋先生おっしゃったこととオーバーラップしますけれども、ほかの診療科に行く医師にとっても、産婦人科の研修が必要なのだということをうまく説得できれば、研修医だから嫌だとかそういうことには恐らくなりにくいし説明もしやすいと思います。。先生のお話になった中で十分それは組み込まれているとは思いますが、そのようなデータなり説得力のあるお話を伺えればありがたく存じます。ありがとうございます。

 それでは、続きまして、精神科七者懇談会の小島卓也先生、米田博先生より御説明をお願いいたします。

○小島参考人 私もこちらで説明させていただきます。

 精神科七者懇談会の卒後研修問題委員会の委員長として、私と委員の米田の2人で御説明いたします。

PP

 きょうのお話はこういう形でお話しさせていただきます。到達目標の習得に精神科研修がどのように貢献するのか。そして、どのような精神疾患の研修が役立つか。それから、これはWGでお示しになった研修医のアンケート、それから、精神疾患の疫学について少し考察して、結論を話させていただきます。こういう順序で話します。

PP

 今、医学教育の世界的な動向といたしましては、医学部教育の改革が行われているところであります。日本の80大学でこれに取り組んでいると思いますが、グローバル化、標準化、臨床へのシフト、この3つがキーワードとなって改革が行われています。そして、その中でアウトカム基盤型の教育ということが重視されておりますし、ポートフォリオによる評価の導入なども重視されております。

PP

WGが御提案になった到達目標と経験目標の関係について述べさせていただきますと、到達目標とは、研修修了時に到達すべき能力・資質であって、その到達目標の能力・資質を構造化して、上位目標としての数項目、それから、下位目標を挙げて、そして経験目標というように構造化していく。そして、最終的な到達目標を、医師としてこれだけは絶対必要だというような目標を達成できるには、どのような経験目標、すなわち、疾患が必要なのかという視点からお話をさせていただきます。

PP

 上位目標としては、WGはこの8つをお示しになりました。これについて、全部ではないのですが、精神科的な視点からお話しさせていただきます。

PP

 このような視点から話させていただきます。

PP

 まず第1にコミュニケーションです。これは患者・家族とのコミュニケーションで、インフォームド・コンセントなどを含みますが、コミュニケーションがとれることが重要であります。患者・家族と話ができなければ話にならないわけです。それから、患者・家族の心理を把握するとともに、治療者と患者・家族の間に起こる心理的な相互関係を理解し、適切な対応をする。医者のほうで嫌だなとか、不安だなとか、そのような感じが起こってくるわけですが、それをこちら側できちんと意識し対応できないとまずいので、そういうことをできるようにするということです。それから、種々の精神疾患患者とのコミュニケーションをとることがコミュニケーション能力の向上に役立つということであります。

PP

 具体的に、精神疾患患者とのコミュニケーション、どのような状態の患者さんがいるのかということを示しますと、うつ状態の患者さんでは、不安・焦燥が強い、あるいは自殺念慮の強い患者、億劫・疲労感が強い患者、話をせず反応も示さない患者、妄想のある患者、このような患者さんがあります。かなりいろいろ大変で、コミュニケーションとるのが難しい場合もあります。

 それから、認知症の患者さんでは、物忘れがひどくて、同じことを繰り返し、そして徘徊するような患者さん、あるいは被害妄想・物忘れ妄想とか、夜になると落ちつかなくなる、夜間不穏とかせん妄の患者さん、指示がわからなくて危険な行動をするような患者さんがおられます。

 それから、統合失調症の患者さんでは、幻覚妄想を持つ患者で、まとまらない行動を呈する患者、あるいは強い不安とかにおののいているような患者さん、意欲の低下や感情が鈍麻している患者さんがおります。特に統合失調症の患者さんは、自分が病気であるという認識、病識がない患者さんが多い。それから、疎通性が非常に難しい患者さんもいるということがございます。

PP

 こういう精神疾患患者さんとのコミュニケーションができるということは何をもたらすのかということですが、患者を全人的に理解して、患者・家族と良好な人間関係を確立する。そして、病歴を聴取して精神症状を把握し、どういう病態なのかということを理解するとともに、先ほどお話ししましたような自らの心理的な問題を処理する、こういうことが必要になってくるわけです。

 コミュニケーションがとりにくい病態に対しても、引っ込んでしまわないで、臆することなく立ち向かって、理解し共感しようとする姿勢を堅持する。こういうことが非常に重要です。そして、何よりも、なぜそのような病態が起きているのかということを学問的に考えることが大事です。これが普通の人の立場と違って、医者の立場としては重要なことであります。

PP

 コミュニケーション能力を高めて患者をさまざまな医療的環境に導入し、そして治療に導いていくということが非常に重要です。これらの目的には最もコミュニケーションのとりくにい統合失調症を経験目標とすることが非常に重要です。先ほどお話ししましたように、病識がない、自分で病気だという感じがないとか、疎通性がなかなかとりにくいという特徴がありますから、こういう統合失調症の患者さんとコミュニケーションをとれることが非常に大切です。

PP

 チーム医療。精神疾患の病態には、家庭、職場、学校内の環境とか対人関係が影響します。それぞれの専門の職種の間、看護師や精神保健福祉士とか薬剤師とかいろいろな職種の人との間でミーティングをしたり、カンファレンスをして情報収集し、多面的に把握する。そして、解決に向かって協力します。医師としてチーム医療のリーダーシップを養っていくということが非常に重要です。

PP

 精神科の日々の診療がまさにこういうことをやっているわけで、チーム医療を実践しておりますので、生きたチーム医療を学ぶことができるということであります。

PP

 医学知識と問題対応能力。頻度の高い症状としては、不眠とか食欲不振とかいろいろありますが、緊急を要する症状とか病態としては、意識障害があります。これも深い意識障害でなくて、軽い意識障害、それを見極めることが大事です。非常に落ちつかなくなったり、情動不安定になったり、まとまらなくなったりすることがあります。その背景に意識障害があるということを見抜くことが大事です。

 それから、幻覚妄想状態、興奮状態、抑うつ不安状態(自殺の危険)、こういう緊急を要する病態に対して精神科的な対応ができ、あわてることなく精神科医と連絡をとれることが大事です。そのためにはこういう経験を一度しておくということがどうしても必要です。経験なくてうまくやれといっても非常に難しいということであります。

PP

 安全管理の面では、自殺の危険の高い患者を把握して、訪問看護・診療、外来とか入院などで対応します。プライバシーを考慮しつつ、自殺を予防して危険な時期を何とか乗り越えていくということが大事であります。それから、一方で暴力に走りやすい患者さんもいます。これは一般科では経験することは少ないかと思いますが、こういう患者さんもいますので、早期にチーム医療で対応していくことが大事です。

 そして、ここでちょっと強調しておきたいことは、自殺が迫っている患者とかせん妄患者、興奮患者等の安全を図るために、有資格者、これは指定医と言いますが、法律に基づいて、人権を配慮しながら、隔離とか拘束とか、そういうことをして治療する。そういう医療行為を精神科ではやっています。

 こういう患者さんには、人権への配慮と安全を図りながら治療することが必要なわけです。法律に則ってきちんとやるということですね。他の科では、行動制限したり拘束したりすることは法律で出来ませんので、精神科でこういう場合はこういうことがあるのだということを知ってもらうことが非常に重要です。

PP

 患者のケアと診療技術ですが、これは患者や家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握できるようにしていくことが大切です。

PP

 精神保健・医療、精神症状の捉え方の基本を身につける。デイケアなどの社会復帰や地域支援体制を理解する。緩和ケア、終末期医療では心理社会的側面への配慮ができる、あるいは死生観・宗教観などへの配慮ができる。こういうことも重要です。

PP

 プロフェッショナリズム、これは非常に重要でございます。医のプロフェッショナリズムとは、これはWGで書かれたものですが、患者中心の医療の実践を初めとする社会的使命を果たすため、常に社会からの信頼に値する行動をとり、日々省察を重ねて、さらなる高みを目指す姿勢である。医師としての活動の基盤をなす概念であり、医師に求められる全ての能力の源泉となる価値観であると記されておりますが、このためには、このような医の倫理、生命倫理について理解し、適切に行動できるとか、患者中心の医療を行う。社会的使命に貢献する意思を持つ。あるいは誠実さと公正性を発揮し行動する。こういう小項目にまとめられるかと思います。

PP

 統合失調症患者さんを診察する、体験するということが極めて重要になってきます。幻覚とか妄想がある。奇妙な態度・行動をし、まとまりが悪いなどから、診察を回避することがないように体験しておく。しばしばこのような経験、診察を回避するような事態というのが日常の中にあるわけですね。そういうことがないように、そのためには一度体験することによって病態を医学的に理解して、患者の苦悩を共感し、そうすると、医師の恐怖感が軽減します。こういうことが非常に重要で、統合失調症の経験は医師のプロフェッショナリズム、先ほど申しました医師の誠実性、公平性、患者中心の医療、こういうことをできるようにするためにはこういう経験をすることがどうしても必要だと思います。

PP

 研修医のアンケートについて触れさせていただきます。

PP

 到達目標が求められる疾患・病態に関してこの疾患が適当かどうか、あるいはどちらかといえば適当かという2段階合わせたものの割合を資料から抜き出したものですが、認知症は、大学病院では74.6%が適当だろう。研修病院では73%、気分障害では75%、70%で、統合失調症は、大学病院では69.3%、研修病院では66.5%でした。

PP

 A疾患についてですが、精神科の3疾患と内科系の7疾患がございます。内科系を見ますと、いずれも80%を超えています。一方、精神科では認知症が70%を超えており、気分障害が約70%、統合失調症が6769%でした。

 この違いがどうしてなのかと考えますと、大きな影響を与えているのは、内科系は必修であるということ。それから、9.4カ月もずうっとこういう患者さんを診ているということです。それに対して精神科の場合は選択であり、研修期間が1カ月弱、2週間ぐらいが多いのですね。これらを勘案すれば、精神科3疾患の評価はかなり高いと考えてもいいのではないかと思います。

PP

 もう一つは、精神科が研修診療科に含まれてない場合の学生さんたちがどういうところで研修したかということを見ますと、他の科、内科等の合併症などで入院している患者さんとか、この場合は精神科医が往診したりして指導することも多いのですけれども、それが3540%、救急外来では3840%で、合わせると7381%ありました。このように、精神科リエゾンや救急の場で精神科指導医が積極的に指導しているということがございます。本来は精神科が必修化されて、精神科において研修すべきであると私たちは思っておりますけれども、現状はこのようなことでございます。

PP

 精神疾患の疫学について触れさせていただきます。

 精神疾患の総患者数は、気分障害が958,000人、統合失調症が713,000人、認知症が512,000人、その中でアルツハイマー病が366,000人ということであります。増加率が気分障害とアルツハイマー病がかなり高いということが言えます。

 入院患者数は統合失調症が多いということですね。外来の患者数は、気分障害が5万9,000、統合失調が4万8,000、認知症が3万6,000、このようになっております。

PP

 結論をお話しします。

 研修修了時のコンピテンシーの達成度を上げるために経験目標を設定する。WGが示した上位目標について精神科的に検討しました。種々の精神疾患患者とのコミュニケーションを持つことがコミュニケーション能力の向上に役立つ。最もコミュニケーションをとりにくい統合失調症を経験することが役立つということです。

PP

 そしてもう一つ、プロフェッショナリズムの観点からも、統合失調症を経験することが必要であるということを申しました。アンケートの結果からも、気分障害、認知症だけでなく、統合失調症も研修に必要な疾患として評価されていました。総患者数は、統合失調症が71万、気分障害が96万、認知症が51万でありました。

PP

 コンピテンシーであるコミュニケーション能力の育成、プロフェッショナリズムの醸成のためには、統合失調症の経験が必須であると私たちは考えております。

 それから、精神科卒後研修は、先ほどお話ししましたように、コミュニケーション能力、プロフェッショナリズム、その他の基本的な、極めて重要な項目と密接に関係しておりますので、研修の基盤をなしていると考えられます。諸外国においては例外なく必修化されているというのが現状でございます。

 どうもありがとうございました。

○福井座長 ありがとうございました。

 それでは、ただいまの御説明につきまして、質問や御意見等をお願いいたします。

 古谷先生。

○古谷構成員 どうもありがとうございました。統計の中にも入ってなかったのですけれども、例えばアルコール依存症やたばこの問題など、心理的な依存を起こしていくものに関しては、精神疾患としてはちょっと入れにくいのかもしれないのですけれども、ほかの科よりは、精神科で診る例が多いと思われますが、何か御意見はありましたでしょうか。

○小島参考人 依存性の疾患は、アルコール依存、ギャンブル依存とか買い物依存とかさまざまなものがあります。それらは精神科で対応しています。ただ、研修必要度といいますか、それからすると、この3つの疾患から比べるとちょっと低くなってくるということでございます。

○古谷構成員 プライマリケアをやっていると比較的アルコール依存の方の経験が多いのと、いろんな診療医から回避される傾向があるというのもありましてちょっと気になっていたのです。

○米田参考人 依存性疾患は、今、入院患者は大体2万人ぐらいです。非常にたくさんの外来の患者さんがいらっしゃいまして、依存そのものも、アルコールばかりではなくて、いわゆる危険ドラッグと言われているものとか、おっしゃったようなたばことか、そういったさまざまな形で対象が広がっているということが大きな問題になっていますので、精神科としても非常に重要ですし、プライマリのところでもそのような依存に対しての対応というのはどうしても必要な分野だろうと思っています。

 アルコール依存そのものは、疾病構造のかなりの変化があって、高齢者のアルコール依存というのが非常に大きな問題になっています。若年者のアルコール依存とはかなり病態が違いますし、そのような社会的な変化に伴った依存疾患に対する医療の必要性は非常に大きいと思っていますし、それぞれに対しての対応というのをプライマリの段階で行っていかなくてはいけないと認識しています。

○福井座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。

 小森先生。

○小森構成員 ちょっと教えていただきたいのですけれども、きょうの御講演で、WGの班会議の提示されたものに従ってよく整理されてお話しいただいて、本当に勉強になりました。ありがとうございました。

 特に認知症等については社会的な要請もありますので、まさに他科と精神科の先生がこれほどともに働くということは過去になかったというのが地域医療の現場で、医療だけでなくて、地域の現場で本当にたくさんになりましたので、重要な視点だと思います。

 1点、プロフェッショナリズムのことでお聞きしたいのですが、私も、障がいの子供さんに関係した仕事を18年ほどして、自分が変わったなという経験があるのですけれども、統合失調症の患者さんの診察、ちょっとまた違うのであれですけれども、例えば重度の自閉症の子供さんというのも、ある意味、何か似たようなことができると感じているのですが、そういった理解でよろしいでしょうか。

○小島参考人 自閉症の場合もそうです。ですから、統合失調症に限っているわけではないので、コミュニケーションがとりにくい患者さんとかそういう患者さんに対しても積極的に対応してコミュニケーションをとっていくという努力が非常に重要だなと思っています。

○米田参考人 自閉症の件ですが、自閉症は子供の病気という感覚があるかもしれませんが、キャリーオーバーで、20歳を過ぎるとどこで診ていくのか、とても大きな問題でそれを精神科で受け入れて対応していかなくてはいけないと考えています。今後、十分な理解力のない人に対してどのような形で説明、あるいは十分な納得をしていただきながら、さらにインフォームド・コンセントがとれるのかどうかわからない状態でどう対応していくのかというのは、やはり精神科での研修が非常に重要になってくるのではないかと思っています。

○福井座長 田中先生。

○田中構成員 総論として精神科の研修は重要であるということは理解できるのですけれども、実際問題として、非常に患者さんがふえていて、忙しい外来で研修医の指導ができるのかどうかということですね。特にコミュニケーション上の問題、ハードルが高い精神科の患者さんに対して、研修医の一言とか二言が逆に患者さんを傷つける場合って結構あると思うのですけれども、そういうことを考えると、研修医が予診をとって、それを後で精神科医がチェックして、精神科医が診察するところを研修医に見学させるというプロセスは、精神科の場合、難しいのではないかと思うのですけれども、そこの点はいかがでしょう。

○小島参考人 かなり時間をかけて十分指導する必要があると思うのですね。ですから、外来でもある程度できますけれども、難しい患者は、やはり入院の患者さんを中心にして指導していくことがいいかなと思います。実際、指導医がかなり力を入れて指導していると思いますし、研修医が回ってきて、研修が終わってから精神科をやりたいという研修医はかなりふえているのですね。初めの段階よりも。そのようなことも、指導をちゃんとやればわかってくれるのでないかと思います。

 また、精神科の場合に、臨床研修指導医を七者懇談会で毎年、今でも講習会をやって、養成しています。そういうこともかなり力になっているのではないかと思っています。実際、いろいろ工夫してやればできると思います。

○福井座長 ありがとうございます。

 金丸先生。

○金丸構成員 金丸です。

 御丁寧に説明ありがとうございました。先ほどの小児科と産婦人科ともこれも共通かと思うのですが、心と体というのは一体なわけですね。心が変わることで体も変わっていく、体が変わることで心も揺さぶられていく。その心を捉えて、しっかりと学べる場という意味では、精神科の領域がその場にふさわしいのかなと思っている一人です。今回の御説明では学んで欲しい代表的な疾患として統合失調症ということを切り口に挙げていただいていますが、そもそも今話題にありましたコミュニケーションが大変重要です。その一言で大変な流れにもつながってしまう可能性があります。したがって医学部の卒前教育から、コミュニケーション能力をしっかりと鍛えられ、そしてシームレスに、卒後研修の流れの中でこの精神科領域でそこをもっと深めて、心をしっかり捉えて診療ができるようになるのではないかなと思っています。

 まさにそのことが今回の結論の中で丁寧に説明いただいたのですが、願わくば、結論のところには、統合失調症がコミュニケーション、プロフェッショナリズムの醸成のためにはと強調していただいているのですが、むしろさらに心と体が一体としてかかわっていく、その中で心を捉えて診療する最もふさわしい場所の一つではないかという表現が盛り込まれてある方がよいのかなとちょっと思ったものですから。済みません。

○福井座長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。

 古谷先生。

○古谷構成員 もう一つの重要な問題として、これは精神科だけというわけではなくて、小児科であったり皮膚科でもそうですけれども、DVなんかを中心としたアビュースの問題があります。こういうのはむしろ研修医がファーストタッチをして見つけていくケースや機会が多分多くなっていくと思うので、研修中の例えば研修目標としても重要になってくるのではないかなとも最近感じているのですが、いかがでしょうか。

○米田参考人 アビュースは大きな問題で、どれだけそれが表になって出てくるのかというところを、研修中に見つけ出していくプロセスを研修させなくてはいけないと思います。最初にそういったアビュースがあるのだということを頭に置いておかないと絶対見えてこないものなので、恐らく救急場面での小児科、あるいは精神科がベストな研修の場なのだろうと思います。またそれを一つの到達目標として挙げていくのかどうか考慮すべき問題だろうと思います。

○福井座長 いかがでしょうか。

 よろしいですか。

 私から1つだけ。精神科診療の場ではなくて、一般の病歴聴取のところでのコミュニケーションの取り方に精神科の先生方がかかわって教育されることはかなりあるのでしょうか。

○米田参考人 行動科学が卒前教育では非常に大きな一つの分野として求められています。日本ではそういう考え方は余りなかっただろうと思うのですけれども、行動科学のカリキュラムの半分は精神科の疾患です。コミュニケーション教育も含まれます。コミュニケーション教育は行動科学的な、科学的バックグラウンドを持ちながらやっていくべきものなので、そういった心理的な動きを配慮しながらどのようにコミュニケーションをとっていくのかというのは、やはり精神科が担うべきものだろうと思っています。

 まだ十分にそのあたりの経験が、精神科そのものも豊富ではないというところはあるので、難しいとは思いますが、例えば卒前教育では、精神科の教室には心理系の方もかなりたくさんいらっしゃいますし、そのような人材を活用しながら、臨床心理、あるいは行動科学的な科学性に基づいたコモンなコミュニケーションの取り方と、それに基づいた医療面接というのを目指していく必要があると思います。

○福井座長 よろしいですか。

 中島先生、どうぞ。

○中島構成員 精神科のことなので黙っておこうかと思ったのですけれども、ほかの委員の方々に言われる前にやはり言っておかないといけないのは、精神科の研修をして非常にがっかりしたという研修医の方によく会うのですね。この方々はやはり慢性期の病棟に入れられている。もう5時になるのを待っていると、こういう初期研修医がいらっしゃいます。この疾患について、それから病棟構造も、小島先生や米田先生のところはいいのですけれども、そうではなくて、基幹病院の協力病院になっているところ見ますと、ほとんどが療養病床だと。療養病床しかないような病院さえあると。それが協力病院になっているということ自体が僕はおかしいと思います。

 そうではなく、やはり統合失調症の患者さんを体験するのであれば、救急病棟で診るとか外来で診るということを条件に入れないと僕はだめだと思いますね。そうしないと皆さんが漫然と、言葉にできずに持っていらっしゃるこの不満というか、不安というか、そういうものが解消されないのではないかな。一言だけ申し上げておきます。

○福井座長 先生方、いかがでしょうか。

○米田参考人 精神科の研修の場というのは非常に大きな問題だと思います。1つは、私、大学病院にいますので、かなり特殊な治療もやっていますし、特殊な患者さんも扱いますが、それと一緒に、今挙げていらっしゃいました統合失調症、気分障害、認知症についての医療もやっています。そのほかにも、外来もやっていますし、リエゾン精神医療もやっているというような非常に幅広いところで研修するのであれば、実のある研修ができるのではないかと思います。今、中島先生がおっしゃいましたけれども、精神科病院も、地域医療の中でどういった役割を精神科の医療というのは果たしているのかという、地域で完結するような形で精神科の病院というのはさまざまな施設、あるいは診療の場というのを持っている場合が多いので、全ての精神科の病院というわけではないですけれども、そのような活発な活動をしているところで、地域医療の中での精神科医療、あるいは全体の地域医療でどのように動いているのか理解するためには非常にいいフィールドではないかと思います。そのあたり、研修の場は厳選していかないといけないというのは確かだと思います。

○福井座長 ありがとうございます。私の個人的意見ですけれども、伴先生と同じころに私もアメリカでトレーニング受けまして、そのときに驚いたことの一つは、診療している場面をビデオテープにとって、その後、精神科の先生がテープをプレーバックしながら、一つ一つ、言葉の使い方とか患者さんの表情から、何を考えて、どうしてこうしたのかということをかなりきめ細かく、教えてくれたことがあります。そういうタイプの先生が、日本の大学病院、研修病院ではほとんどいないように思っています。そこまで入り込むと精神科の先生の役割は今まで以上に大きくなるのではないかと思います。

○小島参考人 学会では精神科専門医制度の中に、お話のような詳細な精神療法の指導を組み込むべく検討しているところです。卒後研修において、精神科病棟での詳しい研修の他に、実際に、先ほどもちょっとお示ししましたように、ほかの科に身体疾患で入院している精神疾患の患者さんを精神科医が診察する場合とか、救急の現場で常駐している精神科医から指導を受けることもふえてきております。いろいろな場面で、一般科に行く医師に、精神科的な見方を身につけてもらえるように指導していくことが必要であると考えています。

○福井座長 ありがとうございます。

 それでは、本日予定したヒアリングは終了となりますが、あと5分程度フリーディスカッションの時間をとれるようです。先生方から何か御意見なりがございましたら伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。

 どうぞ。

○前野構成員 今、それぞれの先生方から非常に興味深い議論をいただいたのですが、現場で研修プログラムの管理をしていると、最終的に落とし込んだ研修目標をどうクリアーするかという形にある意味すりかわるわけですね。一例を申し上げますと、例えば精神科でしたら、うつ病と認知症と統合失調症のレポートを出せばいいと。さっき中島先生がおっしゃったようなものであったとしても、それを通さざるを得ないという状況になると思うので、臨床研修を望ましい方向に変えていくためには、今まさに議論している到達目標について、どこまでやればそれをクリアーしたという扱いになるかというところでやはりコントロールするしかないと思うのですね。

 形成的評価は、もちろん標準として示すことはできますけれども、制度というのはどうしても、総括的評価としてある程度客観的な基準が求められるので、その心を研修に反映する工夫といいますか、要するに、日本の臨床研修全体がそこに向かわざるを得ないようにする仕掛けといいますか、そういうことについて何かアイデアや御意見があればお聞きしたいなと思いますが、いかがでしょうか。

○米田参考人 研修の成果というのは評価の方法によってかなり決まってしまいます。どういった到達目標を持つのかではなくて、どう評価するかです。国家試験があのような形式なので、学生はその形式にあわせて勉強します。臨床研修も同じことで、どのような病棟でのパフォーマンスをどう評価していくのかというのが非常に大事で、先生も御存じだと思いますけれども、パフォーマンスの評価というのは、360度評価、あるいはシグニフィカントイベントの評価とか、そういったものをどんどん積み上げていって、どれだけ一人の研修医に対して指導医が評価に対して時間をかけられるか、その余裕があるのかが重要なポイントだと思っています。それによってどれだけ有効な研修ができたのかということを評価することになります。

 ただ症例報告を出しましたということでは十分ではないというのは多分みんなわかっていると思うのですけれども、皆さん方のマンパワーが不足した状態というのを解消していかないとなかなか次のステップに踏み込めないというところはあると思います。確かにさまざまな大学でコンピュータベースのウェブを使ったような評価というのを導入して、我々のところでもやっていますけれども、それは情報の伝達には便利ですけれども、その前の評価の段階での時間の取り方について保証してくれているわけではないので、そのあたりをどうしていくのか、本当に真剣になって考えないと、先生のおっしゃった問題点というのはなかなかクリアーできないというところです。

 ただ、評価には客観性は持たせないといけないので、世界的によく使われているようなパフォーマンスの評価表というのは共通して使うような方向性というのは考えたほうがいいと思います。

○福井座長 ほかにはいかがでしょうか。

 片岡先生。

○片岡構成員 私もちょっと前野先生の御意見と似ているのですけれども、精神科の研修において重要なのは、人を診る、あるいは体と心を切り離せないものとしてトータルを診るという点であることはすごく大事だと思います。例えば内科で私が診ている患者さんを精神科の研修医の先生が病歴をとると、ふだんの診療ではちょっと見えない部分まで非常に深く診ておられるということも経験します。トータルに人を診る、ということが大切であることは異論のないところですが、その目標が「統合失調などの病気を診る」ということになり、そこが評価になってしまうと、何が大切かがかえってわかりにくくなるのではないかと思います。どういうコミュニケーションがとれるようになるとか、どのように人を診られるようになるとか、評価が難しいと思うのですが、そのあたりを目標として設定していただいたら、精神科の本質がもっと研修医にも伝わりやすいのではないかと思いました。

○福井座長 ほかにはいかがでしょうか。何か思いついたことを今言っておいていただければ議事録に残りますので。

 高橋先生、どうぞ。

○高橋構成員 ありがとうございました。全ての領域、全ての学会の分野は重要だと思うのですね。その中で、基本理念であります将来専門とする分野にかかわらず身につけなければいけないというところを見た場合に、どういった領域がぜひとも必要で、このあたりは軽くてもいいかなという軽重をつけないと、恐らく2年間の初期研修では、とても経験できない。それこそ初期研修を5年とか10年やらないといけないという状況になってしまうおそれもあると私は思っていて、とりあえず2年間の間という枠をはめた場合に、その専門の領域で、これは絶対幅広く、ほかの診療科に進んだとしても必要だというパフォーマンスがわかると非常にいいと感じました。

 感想です。

○福井座長 清水先生。

○清水構成員 ありがとうございます。私も全く同意見で、きょうの3学会の皆様方の御意見もそうですし、ほかの学会の先生方の御意見もそうですが、その全ての学会の先生方の到達、もしくは経験してほしいものを全部差し込んだら、とても2年間では終わらないと思うのですね。ですから、先ほどから御意見として挙がっている、例えば小児科における、大人のミニチュアではないとか、女性特有の疾病構造とか、精神科において心と体は一体であるというような個々の疾患ではなく、どういう概念というか、を私たちは医師として最低限、最初の2年間に身につけなければいけないかという観点で到達目標ができればいいのかなとちょっと思っております。なので、個々の症例だけでとか個々の診察技術だけではないのではないのかなという気がしていましたので、私もコメントです。

○福井座長 ほかにはいかがでしょうか。

 小森先生、どうぞ。

○小森構成員 コメントですが、いろんな機会にまた学会の先生方に御発言をいただきたいなと思うのですね。今、清水先生がおっしゃったのと同じ意味で、それぞれの学会の先生が、きょうもお話をお聞きすると、本当にごもっともであります。ただ、全部、全て経験目標、到達目標に入れ込むと2年間で済むのかなと。一方で、1年でいいというお話もありますね。それは、卒前教育、診療参加型臨床実習と医師国家試験、それから臨床研修、専門医研修と、これを一連に考えて、無駄を省いて、シームレスなものとして一人の医師を育てていくということが必要だと思うのですね。

 ですので、少なくとも初期臨床研修の2年間で押さえるということが一体何かという、結局それを抽出していくという作業が必要だと思うのですね。このワーキングはやはりそのことの問題点を整理して、臨床研修部会にも上げるという仕事があるのですが、これが極めて困難で、恐らくどの科にとっても、このことは省いてもいいという話はなかなか出ないですね。ですので、コメントであると同時に、今後も引き続きまして先生方にはいろんなそういうことでも御指導賜りたいなと思って拝聴いたしました。ありがとうございます。

○福井座長 ありがとうございます。

 ほかにはいかがでしょうか。

 中島先生、どうぞ。

○中島構成員 前回にヒアリングした各科の、必要度は全然別にして、圧倒的な勢いでおっしゃったのと、本日のヒアリングでお聞きしたお三方のお話は全然違っていました。それだけが私の感想でございます。とてもよかったと思います。

○福井座長 ありがとうございます。

 最後に私からも、文字にしておいていただければと思いますが、最終生産物の医師がどういう分野の知識と技量を必要としているのかについてのデータがない限りは、提供する側の話ばかりになってしまいます。できましたら、無医村のようなところ、都市部の開業されている先生と中小の病院、それから、自分が診たい病気だけ診ていい医師の集団の大病院、大学病院それぞれで、必要とする知識や技術が違うはずですので、データが必要だと思います。

 何%ぐらいの医師がどういうところで働くのかというデータとともに、それぞれの働く場所で、例えば小児科のどういうレベルまでの知識や技術が必要とか、産婦人科のどういうレベルまで必要とか、そのような必要な能力についてのデータがあるとディスカッションは随分楽になると思います。それがない限り、みんな自分の信念で話をしていて、結局、誰も回答が見えないという状況になるのではないかと思います。

 十数年前に必修化するときの議論がまさにそれでして、それぞれがみんな思っていることが違っていて、最終プロダクトのところのデータがほとんどなくてディスカッションしたというのが、私の今頭に残っている印象です。もし可能でしたら、そういうデータが出ればいいなと個人的には思っています。

 座長が最後にしゃべり過ぎで申しわけありません。これで本日の会議は終わりたいと思います。事務局から今後の予定等について御連絡をお願いします。

○吉本医師臨床研修専門官 本日は2回目のヒアリングでございましたけれども、次回ワーキンググループの日程等につきましては追って事務局から委員の先生方に御連絡させていただきます。よろしくお願いいたします。

○福井座長 ありがとうございます。

 それでは、電気も消えましたので、本日の会議はこれで終了といたします。ありがとうございました。


(了)

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